ダーク・ファンタジー小説
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- 悠久のカナタ(SF)
- 日時: 2012/07/11 00:31
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/
・あらすじ
悠久の時が流れる世界「エミリア」に住まう人々は、みんな不思議な力を宿した宝石を所有していた。一つは「テレパス」と呼ばれる通信能力。残りは……。
・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)
※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m
・終焉へ向かうプレリュード篇
序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の一 >>01
序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 >>02 >>03
序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 >>04 >>05 >>06
序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
第一章 〜再会と旅出〜 其の一 >>09 >>10
第一章 〜再会と旅出〜 其の二 >>11 >>12 >>13
第一章 〜再会と旅出〜 其の三 >>14 >>15
第一章 〜再会と旅出〜 其の四 >>16 >>17
第一章 〜再会と旅出〜 其の五 >>18
第一章 〜再会と旅出〜 其の六 >>19
第一章 〜再会と旅出〜 其の七 >>20 >>21
第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 >>22 >>23
第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 >>24 >>25
第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 >>26 >>27
第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 >>28 >>29
第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 >>30 >>31
- (1)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 ( No.7 )
- 日時: 2012/06/11 00:18
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/4/
——施設深層部。
足を踏み入れた二人の眼前には、ユウと先ほどの声の主たる人物が対峙しており。
後方にはガラス張りの大きな筒状のモノが存在感を示し。その中に胎児が「すやすや」と、眠っていた……。
「クラウス! てめぇがどうしてこんな所にいやがる!」
「ユウは相変わらず、口が悪いな〜。ダ メ だ ぞ。それを直さない限り、可愛い妹はや れ な い ぞ」
「黙れ!」
怒号を上げるユウと相対している人物はクラリスと見間違えてもおかしくないほどに姿形が一緒だった。
同一人物と言っても遜色ないほどに一緒だが、彼はクラリスの実の兄である。
「……兄さん、どうしてこんな所に居るの?」
動揺の色を隠せないとばかりにクラリスの口調はどこか心もとないモノだった。
普段の彼女ならどんな状況だろうと無表情で淡々とした、少し自動人形染みた振る舞いをするのだが、今はその面影は一切なかった。
クラリスの投げかけに「クラウス」は表情を緩めて、緊張感のない笑みを浮かべる。
「……愛する妹に逢うのに理由はいるのかい?」
「……だったら、何で——」
と、言いかけてクラリスは思わず口ごもった。
それを代弁するかのように静観していたトウヤが徐に口を開き、
「——クラウスさん。だったら、どうして自らの手を血で染めるような道に進んだのですか?」
真剣な眼差しでそう投げかけた。
クラウスはこの世界を改革するために動く「エタミリアファミリー」と呼ばれる世界的犯罪組織に所属しており、リーダーの地位にまで登り詰め。組織を率いている存在だ。
「トウヤくんはさ……。この世界に疑問を抱いた事はない?」
「……いや、特には……」
「そう? お利口さんのトウヤくんがこの世界に対して違和感を覚えない訳がないと思うんだけどな〜。僕はさ、トウヤくんもひょっとするとこちら側の人間なんじゃないかって思ってた訳ですよ」
「……アナタが俺の事をどう評価しているのかは分かりませんが、俺は絶対にそちら側には行かない」
「ふむ、残念だな〜。ヘッドハンティングは失敗っと……」
特に悔しさを滲ませる素振りも無く。涼しげな顔をして、淡々と口走るクラウスの事をユウは睨み。両手に持つ武器を力強く握る。
今にも襲いかからんとしている猛獣のような目付きで見つめるユウにクラウスは緊張感も無く、柔和に微笑み返す。
「さてさて……おっかない少年が一人居るようですが、ここで問題です。どうして、僕がこんな辺境の地の施設にいるでしょうか? 答えは……言わずとも分かるよね?」
軽快な口調でそう語ると、クラウスはガラス張りの大きな筒内に眠る胎児に目をやる。
その存在にはトウヤたちも当然の事ながら気付いている。
しかし「あの胎児は一体何者だろうか?」と、頭を悩ましていた。
「——リリス=エミリア……」
静かにクラウスがそう口走る。
その言葉を聞き逃さなかったトウヤたちはさらに頭を悩ました。
「リリス=エミリア」なる名称は初耳で、アリスの情報網にもそんな名は存在しなかった。
——そんな者の名前をなぜ、クラウスは知っているのだろうか……。
「……ああ、ホント。悩ましい、憎たらしい存在だ。万死に値する。だが、これを潰せば僕たちはこれ以上、罪を負わなくて済む。だから、僕は——」
クラウスは右手の薬指にはめているリングに装飾された黄色の宝石に軽くキスをする。
その動作に呼応して宝石が光を帯び、粒子状となって。彼の右手に少し力を加えただけでも折れそうな細身の剣が収まった。
そして、それを胎児に向ける。
「……クラリス。僕はこれ以上、君にも罪を犯して欲しくないんだ」
「……何を言っているの? 兄さん」
突飛ない発言に堪らず、クラリスは眉をひそめる。
「クラリス、アイツの言葉に一々反応するな。アイツはもう、昔のアイツじゃない。ただの咎人だ……」
と、ユウはクラウスに右手に持つ拳銃の銃口を向ける。
拳銃を向けるユウの表情はどこか悲しげなモノを感じた。それはクラウスの事を実の兄のように慕っていた当時の事を思い浮かべてのモノでもあり。クラリスの実兄をこれから自らの手で討つと言う背徳感に苛まれるモノでもあった……。
- (2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 ( No.8 )
- 日時: 2012/06/11 14:05
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/4/
「——僕はまだ死ねないんだよ。ユウ……」
自分に銃口を向けるユウに静かに語りかけると。クラウスは小さく息を吐きながら右手のリングを優しくさすった。
「——自由無き鎖(カーズドチェイン)」
その声に呼応してクラウスのリングが輝き始める。そして、そこから光を帯びた無数の鎖が飛び出し、四方八方へと展開した。
さながら翼を持つ鳥の自由を阻むかのように展開した鎖の壁にユウは臆する事無く、構えた拳銃の引き金を引く。
「バン!」
と、乾いた銃声と共に放たれた弾丸は交差状に阻む鎖の壁の隙間を縫うように、クラウスの元へと突き進む。
風を切りながら進む弾丸に対してクラウスは、展開させていた鎖を用いて弾丸を容易く絡め取る。そして、そのまま弾丸を押し潰し。余計な行動を取らないように直接ユウに対して複数の鎖を放ち……。
——彼を拘束した。
身体に絡みつくクラウスの鎖が首などを強く締め、ユウは苦悶な表情を浮かべる。顕現させていた武器も強制的に彼が身に付けるネックレスに収まってしまう。
ユウがもがくほど鎖の拘束力が増し、それと伴い彼の抵抗力も低下して行く……。
「もうやめて! 兄さん!」
今にも泣き出しそうなほどに震えた声で叫んだクラリスはクラウスに——実兄に向けて自らが保有する二丁拳銃を構えた。
彼女の行動にクラウスは静かに微笑む。
「……僕は君ともやりあいたくない。だから、僕の所においで、クラリス……」
「私は行かない。ここで兄さんを止める。だから——」
「ふぅ〜」と、クラリスが小さく息を吐くと。徐に左手の薬指にはめたリングに優しくキスを施した。
それに呼応して、宝石が輝き始める。
「はぁ〜。折角、ここへ招いてあげたのに残念だな……」
戦闘モードに入ったクラリスの姿を見て、クラウスは嘆く。
その嘆いた言葉を聞き逃さなかったトウヤが「なるほど……」と感慨深く頷くと、
「——クラリスを呼び出すためのデマ情報だったって訳か……」
小さくそう口ずさんだ。
「ご名答。トウヤくんには簡単なクイズだったかな? でも、まぁ〜それも失敗に終わったみたいだけどね」
手を叩きながら軽い口調で話すクラウスにトウヤは「チッ……」と、舌打ちをする。
最初からこの仕事は成立していなかった。ただ、クラウスの策略にはめられただけである。トウヤが感じた違和感はあながち間違いではなかったと言える。
すると、準備が整ったクラリスがクラウスの事を見据え、
「——無悲慈な(ハートレ)……っ!」
唱えた。
が、言葉を言いきる前にクラウスは鎖を用いて彼女が携えている二丁拳銃を抑え込もうと、腕ごと絡め取り。動きを封じた。
そのまま、ゆっくりとした足取りで彼女に近づいて行く。
そして、クラリスに何か耳打ちをした。
その内容は芳しくないモノであると、クラリスの態度を見れば一目瞭然だった。
耳打ちをされている際、クラリスの身体が震え、涙を流し。その調子で呆然と立ちすくんだのだ……。
もう伝えるべき事は伝え終わったのか、クラウスはクラリスに優しく微笑み掛けながら頭を撫でると。彼女が身に付けるリングに手を翳し、
「——おやすみ、お姫様……」
その言葉と共にクラリスが身に付けるリングに装飾されている銀色の宝石が黒く、くすんだ色に変貌してしまい。それと同時にクラリスが力無く床に倒れ伏せてしまった……。
「……クラ……リス……っ!」
鎖に拘束されながらもクラリスに手を伸ばすユウ。
——だが、彼が必死に手を伸ばそうとしても、その手は彼女に届く事はない……。
トウヤもこの状況をどうにか打破しようと考えを巡らすが、何も良い案が思いつく事はなかった。
動きたくてもクラウスの鎖が邪魔で動けずにいた。
トウヤが持つ双剣で叩き斬ろうと思えば簡単に出来た。
しかし、クラウスの鎖は少しでも触れようものならその者に対して、容赦なく拘束するようになっている。そして、一番の要因は——この空間がもう、彼が展開した鎖に支配されている事である。
だからこそ、この下手に動けない状況下に対して、クラリスやユウなどの遠距離攻撃が可能な人物が得策だった。
——だが、今はもう……。
「——さぁ〜これで邪魔者はいなくなった。革命の時間だ!」
両手を大きく広げて、口元を歪め、凄惨な笑みを浮かべるクラウスは視線をガラス張りの大きな筒の中で眠る胎児に向けた。
四方八方に展開した鎖と彼が持つ細身の剣を用いて、胎児が入った器に攻撃を加える事数回——容易にヒビが入り、そこから液体が飛び出す。
すると、騒がしい外界に触発されてか。突然、胎児の目が開く。
だが、そんな事はお構いなしにクラウスは破壊をし続ける。
——壊して、壊して、壊し続ける。
そして、彼の刃が胎児に触れた瞬間!
胎児が直視も出来ないほどの強い光を放ち、辺りを包み込むと。
その現象はこの施設を中心に半径数キロに渡って展開し、トウヤたちはその光と共にそのまま姿をくらましてしまった……。
——後にこの現象は施設のあった山岳地帯の名称を用いて「クラトリアミラージュ」と呼ばれるようになった……。
- (1)第一章 〜再会と旅出〜 其の一 ( No.9 )
- 日時: 2012/06/11 15:22
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/5/
——クラトリアミラージュが起こってから早一年半……。
悠久の時が流れる世界「エミリア」の首都「エストレア」から北西に数千キロ行った所にある。鉱山都市「ラカルト」は鉱山で働く男たち、それを支える女、子供たちの活気溢れる賑やかな街で。
クレーター型の土地にある街の頭上にはあちらこちらから伸びる鉄橋が採掘場同士を繋ぎ、そこを悠々と鉱石を積んだトロッコが滑走する。
その下では収穫を祝って鉱員たちが盛り上がる酒場があり、飲んで歌ってのドンチャン騒ぎが繰り広げられている。
それに負けず劣らず。
広場や街の通りには露店や商店などがあり、そこで腹を空かして帰って来る夫のために女たちが目玉商品を取り合う抗争が繰り広げられていた……。
その集団に交じって、ただ一人——場違いな雰囲気、佇まいの人物がいた。
彼女の名前はレア。
綺麗な髪を結み、そこに可愛らしい蝶が描かれたかんざしを刺し。その髪型に見合うように袴を着こなす。
そして、澄んだ左の緑眼と右は眼帯で包み隠す——凛々しい顔立ちである。
「はいは〜い! これが最後の一個だよ! 早い者勝ちだ!」
中年男性の店主が目玉商品を求めて群がる主婦たちを煽る。
その言葉に感化され、主婦たちのボルテージが上がり。殺気を纏いながら心なしか鼻息が荒々しく感じられた。
彼女たちは現在、精肉店のセールに来ていた。
そこではある時刻になると、毎日欠かさず肉をブロックごと低価格で販売される。
それを買い求めて主婦たちは毎日仁義なき戦いを繰り広げているのだ。
働き盛りの夫や育ち盛りの子供の腹を満たすには「肉」が一番と張り切る主婦たちは互いに見合って牽制する。
目には見えないが、彼女たちの間に「メラメラ」と、火花が散っているように見受けられる。
そんな猛獣たちの群れと言っても過言ではない。
そこにレアは果敢に挑もうと小さく息を吐いて、気合を入れる。
「——始め!」
店主がそう号令をかけると、一斉に主婦たちは目玉商品に向かって走り出す。
我先とライバルたちを蹴落とし、取っ組み合い、喧騒が辺りに轟く……。
戦場と化したそこを涼しげな顔をしながらレアは隙間を縫うように突き進み。
目玉商品である豚肉に手を伸ばす。
それを阻止せんと——一人の主婦がレアの腕を掴む。
「……むっ」
後もう少しで入手出来た肉を眼前にして阻まれはしたが、レアは至って冷静で涼しげな表情を浮かべたままだった。
だが、よく見ると彼女は少し唇を尖らしていた。
少々、悔しがっているようである。
そして、徐に自分の腕を浮かんで阻んできた相手に目を向けると。そこには今にも取って食われそうなほどに猛々しい表情を浮かべる主婦がおり、彼女の事を睨みつけていた。
しかし、レアはそんな事をモノともしないで相手を淡々と見つめ返し。
強引に先方の事を背負い投げにも似た形で、今なお争いが繰り広げられている主婦たちの群れ中へいとも簡単に投げ飛ばした。
彼女に投げ飛ばされた主婦やそれに巻き込まれた主婦などを余所に、レアは淡々と目玉商品を掴み取る。と、
「は〜い! そこまで〜!」
そこで店主が威勢の良い声で終わりの号令をかけた。
それと共に抗争を繰り広げていた主婦はその手を止め。何事も無かったようにその場から去って行った……。
「——今回もレアちゃんの一人勝ちだねぇ〜」
お会計がてらそんな事を店主がレアに投げかける。
良くここに通う彼女とは顔見知りで、こうして戦いが終わった後にレアと他愛もない事を話したりしている。
「そうですね。でも、よろしいのでしょうか? レアばかり勝って……」
「良いって良いって。弱肉強食ってね、勝者のみが手にする事が出来る極上の品……。燃える展開だろ?」
「……それはレアには分かりかねます。しかし、語弊があるようなので訂正します。——ただの豚肉じゃねぇ〜かよ、糞店主! ——と、あの方が申しておりました」
「……よ〜し、今すぐ——あの糞生意気な小僧を連れて来い。ミンチにしてやる」
淡々と語った毒舌をレアはあたかも誰かが言ったように装い、それを真に受けた店主は肉切り包丁を力一杯に振り落とす。
その際、店主が身に付けるネックレスに装飾された黄色の宝石が「キラリ」と煌めき。
「ドスン!」と、言う音が店内に鳴り響く。
と、まな板に置かれた肉が無残にも真っ二つにされていた。
「——さて、レアはそろそろ……」
「レアちゃん、また来てよ〜」
「はい、また来ます」
店主に別れの挨拶を交わして、レアは精肉店を後にした。
露店などが立ち並び、買い物客たちが往来する通りを進むレアはとある青果店に寄る。
予め購入する物を決めていたように手慣れた手つきで次々と野菜を取っていく。と、
「レアちゃん、今日も肉を勝ち取ったのかい?」
青果店を切り盛りする中年女性の店主がレアに微笑み掛けた。
彼女もレアとは顔見知りで、さっきの精肉屋の店主同様にこうして他愛もない話をよくかわしている。
「……はい、余裕しゃくしゃくで」
淡々と語りながら小さくVサインを見せ、手に取った商品を購入するべくそれを青果店の店主に渡す。
店主はレアからそれを受け取ると丁寧に紙袋に詰め込みながら。
購入金額をレアに告げ。レアはガマグチ型の財布から紙幣を取り出し、渡した。
「はい、お釣りね」
店主は硬貨を丁寧にレアに渡し。
それをレアはしっかりと財布に入れた所で、店主がグットタイミングで野菜が入った紙袋を手渡す。
その際に店主が身に付けるリングに装飾された銀色の宝石が「キラリ」と煌めいた。
「——それでは、レアはこれで……」
「はいよ。またごひいきね、レアちゃん」
「はい、またよろしくお願いします」
「ペコリ」と、店主に軽く会釈をすると。
レアは購入した品を両手一杯に抱えながら、家路に就く。
露店通りを抜けて、酒場などが立ち並ぶ賑やかな通りも抜けて。レアは街の四方に設置してあるゴンドラの一つ、西口のゴンドラに乗り込み。
鉄製で少しサビ付いている古めかしいゴンドラに揺られながら上層部に向かう。
地形上、街の出入り口が上方にある。
したがって、ゴンドラなどの移送装置は必要不可欠だ。
徒歩でも上層部に行けるが、坂道を進むのは少々過酷である。
しかし、ゴンドラが出来るまでは坂道を使用していたようだが、今では使用する者はおらず。年に一度開催される祭りで使用される程度だ。
ゴンドラに揺られながら小さくなって行く「ラカルト」の街並みをレアが涼しげに眺めていると……。
【ブー!】
と、目的地に到着したのか。
警笛が鳴り響き、ゴンドラの扉が開かれた。
「御乗車有難ウ御座イマシタ」
自動人形が丁寧に会釈をしながら、レアを迎え入れる。
と、彼女もそれに対して自動人形に軽く会釈を返す。
そのまま、レアは西門から街を出て街道を進んだ……。
- (2)第一章 〜再会と旅出〜 其の一 ( No.10 )
- 日時: 2012/06/11 15:24
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/5/
——しばらくして、Y字路が前方に見えてきた。
そのY字路の中央に木製の看板があり。
右「聖都マギア・テラ→」
左「←シアクスの森」と表記されている。
その看板を見向きもしないで淡々とレアは左の「シアクスの森」方面に進み、しばらくして周りの景色が荒野から森林に様変わりし、林道になったそこをひたすら歩く。
森林に囲まれた和やかな林道をしばらく歩いていると。
今度は辺りが唐突に薄暗くなり、モヤがかって様相も変わり果ててしまった。
その様変わりした場所にはネジ巻き状の木々やら発光する草花などの一風変わったモノが自生しており、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
——幻想の森「シアクス」
——別名、幻惑の森「シアクス」
そう呼ばれるここには人が立ち寄る事はほぼない。
それは行ったら、最後……。生きて帰って来れない、と囁かれているからである。
その理由としては、森全体の雰囲気もそうだが。人間を幻惑する厄介な生き物が生息しており、それに魅入ってしまったら最後——もう、常人には戻れない。
そして、そのまま捕食されてしまうのだ。
話を聞く限りじゃ、恐ろしい森ではあるが。
浮世離れしたこの森の美しさに見惚れる者も多い。
そんな場所にレアは足を踏み入れ。
大樹の根がアーチ状に上空を囲う、その下にある「道」と呼ぶには少々憚られる人長け以上もある、大きな花弁たちの上を華麗に跳び渡って行く……。
——一方、先ほどのY字路の右に進んだ先にある「聖都マギア・テラ」と呼ばれる都市は「忘れ去られた聖都」あるいは「忘れ去られた旧首都」など称されており、シアクスの森同様にあまり人が立ち寄る事はない。
——ただ、一定の期間内になると。人がこぞっと増える。
それは聖都に入るには、決められた期間内ではないと立ち入る事が出来ないよう定められており。その期間とは春季、夏季、秋季、冬季の四季始めの一月の間のみである。
そのため、期間限定で人が増えるのだ。
それと聖都とだけあって、詳しい詳細はあまり外界には知れ渡っておらず。
所謂、閉鎖的な都市でもある……。
——閑話休題。
大きな花弁たちの上を跳び渡ったレアはしばし休憩を取っていた。
いくら慣れた道のりとは言え「ラカルト」と「シアクスの森」との距離は相当なモノでこうして買い物に行く際は、決まってお気に入りの場所で休憩をとる様にしている。
お気に入りの場所、それはシアクスの森に流れる他愛もない小川である。
ただ、この小川にはよく森に住む動物たちが水を飲みに顔を出し。彼らの憩いの場となっている。
そこにお邪魔して、レアは小川に足を付けて腰掛けていた。
酷使した彼女の足に小川の冷たく清らかな流水が染み渡る。
白く艶やかな脚線美をさらけ出して佇むレアに心地の良い音を奏でる小川のせせらぎ……。そして、シアクスの森に生息する光を帯びた蝶が辺りを舞って、それがアクセントとなり、さらにこの森の幻想的な雰囲気に厚みが増す。
それらが相まって映える光景に自ずと昇華される……。
「ウトウト」と、よっぽど心地よいのかレアの身体が揺れる。
しかし、レアは首を振って、立ち上がり。
休憩はここまでとばかりに傍らに置いていた荷物を抱えて、再び歩き始めた。
自然豊かな道を進み。
——しばらくして、またY字路が前方に見えてきた。
先ほどのY字路の同様に中央に木製の看板がある。
ただ、左「←シアクス湖」と描かれたモノしかなく。
右方面についての看板などは一切なかった。
ここでもレアは看板を見向きもしないで、淡々と右方面に足を進める。
先に何があるのか分からない道を歩き始めて、数十分辺りが経った頃だろうか……。
少し辺りの雰囲気が変わり、薄暗かった景色に木漏れ日が差し込み。穏やかなモノへと様変わりした。
特に気にした素振りも見せず、レアが淡々と進む先にふと、あるモノが見えてきた。
それは森林を切り開いて造られた空間の中に丸太を重ね合わせて造る。所謂、ログハウスがあり。
それが視界に映ったレアは小さく息を吐くと、そこに向かって少し足早になる。
そして「ドスン!」と、ログハウスの入り口付近にある小奇麗に片づけられたテラスに設置された木製のテーブルにレアは重い荷物を置いた。
【チリンチリン】
と、扉に付けられた鐘が鳴り響く……。
ログハウスの中に入ったレアは、すぐ目の前にある卓上に目をやった。
そこには食器だけが残されており。誰かが食事を済ませた後の様で、片付けずに放置された有様にレアはバツが悪そうな表情を浮かべて、大きく嘆息を吐く。
すぐさま、食器たちを回収して隣のキッチンに向かい。
大きなつぼに入った溜め水を使って、食器たちを洗い流す。
洗い物を済ませたレアは空気の入れ替えとばかりに各部屋の窓を次々と開けて行き、最後の部屋の扉の前で——一旦、立ち止まった。
険しい表情を浮かべたまま扉の前で立ち止まる事、数秒。
——レアはその部屋を後回しにし、先に放置したままの購入品たちを保存庫に入れる事にした。
荷物を両手一杯に抱えながら、再びキッチンに向かったレアは床下にある保存庫(両開き式)の扉を開け、そこに丁寧に生鮮品から詰めて行く。
こんな辺境の地には当然の事ながら電気や水道などは通っていない。
そのため、ほとんどのモノが自給自足である。
足りない物があれば、長い道のりを歩いて「ラカルト」まで買い出しに行かなければならない。
現在、彼女が使用している保存庫も天然氷の冷気を用いて冷蔵庫代わりに使用しており氷がなくなれば近所にある洞窟までわざわざ足を運び、氷を調達している。
水は水でシアクス湖やシアクスの森に流れる小川などで調達しているモノがほとんどである。
だが、不自由ながらもこの生活をレアは楽しんでいた。
しかし、初めからこのような辺境の地で住んでいた訳ではない。
彼女は元々、首都「エストレア」にある屋敷で使用人として住み込みで働いていた。
けれど、雇い主である主が流行り病で他界してしまい。都会暮らしが長かったレアはそれを期に田舎くんだりここまで足を運び。そのままいづいたのだった……。
食材を保存庫に詰め終えたレアは入るのに躊躇った先ほどの部屋に再び赴き、扉を「コンコン」と、軽くノックをした。
「……入りますよ」
静かにそう投げかけ、そのままゆっくりと扉を開けて中に入ったレアは前方を見つめて徐に優しく微笑みかけた。
彼女の視線の先にはベットがあり。
そこに綺麗な銀髪が映える少女が眠っている。
その傍らにはベットに眠る少女の手を優しく握って見守る——黒髪の人物が椅子に腰を掛けて静かに佇んでいた……。
- (1)第一章 〜再会と旅出〜 其の二 ( No.11 )
- 日時: 2012/06/12 21:46
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/6/
——今から一年三ヶ月前。
クラトリアミラージュが起こって、三ヶ月後……。
突然、起こった謎の現象……。
この世界「エミリア」全土ではその話題で持ち切りだった。
クラトリア山の一部が、一度消滅し。再び、現れたのだ。
だが、その現れた一部分は「亜空間」と化しており、現地に向かった調査隊が皆——生きて帰って来る事はなかった。
——しばらくして、人ならざる者へと変貌を遂げて調査隊が舞い戻り、己の欲のままに人々を捕食して回る事件が発生した……。
外界でそんな事が起きている事も知らず、レアはいつも通り水を汲みにシアクス湖へ赴いていた。
ここシアクス湖はシアクスの森に囲われるように存在しており、森を抜けなければ来る事が出来ない秘境と化している。
そのため、人なんて滅多に来ないこの湖は汚れを知らず。
水質の良いシアクス湖は浅瀬なら底が丸見えで、優雅に泳ぐ魚たちも視認出来た。
そして、何と言っても。
半径数十キロにも及ぶ広大な湖であるここは、世界最大の湖として知られているのだ。
レアは水汲みように持参した桶を持って浅瀬に向かう。
腰を下ろして、桶で水をすくうと。それをじっと眺めた。
太陽の光が相まって桶に入った水が煌めく。
波紋が揺らめく水面にレアの顔が映し出される。
まだ眠いのか目が半開き状態である。
「うん」と、首を縦に振ると、目を覚まそうと桶に顔を突っ込み、洗顔する。
「ブハー」と、顔を上げて、徐に右方に目をやった。
視線の先には桟橋があり、そこでよくレアは釣りをしていた。
しかし、いつも通りの変わらない光景を目の当たりにするはずのレアの表情が、心なしか険しいモノになっていた。
桟橋付近の浅瀬に何かが打ち上げられていたのだ。
それが気になったレアはすぐさま、桟橋に赴き。
そして、気付く。
——その打ち上げられているモノが人間だと……。
急いでその者を引き上げらんと、近づいたレアの視界に飛び込んで来たのは。
——黒髪の少年が銀髪の少女を大事そうに抱きしめたまま。気を失っている光景だった……。