ダーク・ファンタジー小説

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悠久のカナタ(SF)
日時: 2012/07/11 00:31
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/

・あらすじ

悠久の時が流れる世界「エミリア」に住まう人々は、みんな不思議な力を宿した宝石を所有していた。一つは「テレパス」と呼ばれる通信能力。残りは……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・終焉へ向かうプレリュード篇

 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 >>02 >>03
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 >>04 >>05 >>06
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜再会と旅出〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜再会と旅出〜 其の二 >>11 >>12 >>13
 第一章 〜再会と旅出〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜再会と旅出〜 其の四 >>16 >>17
 第一章 〜再会と旅出〜 其の五 >>18
 第一章 〜再会と旅出〜 其の六 >>19
 第一章 〜再会と旅出〜 其の七 >>20 >>21
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 >>22 >>23
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 >>24 >>25
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 >>26 >>27
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 >>28 >>29
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 >>30 >>31

(2)第一章 〜再会と旅出〜 其の四 ( No.17 )
日時: 2012/06/14 23:15
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/8/

 ——現在。
 トウヤの目の前を横切り。
 そして、壁に刺さった光の矢が粒子状になって消え去った。

 変質者三人組にはさっぱり分からない光景ではあるが、トウヤにはこの光の矢だけで十分、何が起こったのか理解出来た。
 しかし、それは同時に己の死が迫っている事を指しており、自ずと表情を曇らせる。
 すぐさま床に放置したままの貢物を抱き抱え、彼女らが待つ個室に向かおうと足を進めた瞬間。

 ——トウヤの目の前にまたもや光の矢が横切り、壁に突き刺さる。
 その光景にトウヤは少々冷や汗を掻きながらも、

 「……わりい、俺のツレの仕業だわ……。——アンタたちに出遭えて楽しかったよ。じゃ〜また、どこかで」

 と、はにかみながらそんな言葉を言い残して、トウヤはそのまま走り去って行き。
 彼の背中を見つめながら三人組は思わず、手を振って見送っていた。
 ——トウヤが自分たちの敵だと言う事を忘れて……。


 ——とある車両風景。

 「やべえ! やべえ! やべえ! 俺、死ぬ!」

 息を荒らげながら、大声で泣き叫ぶトウヤは現在、彼女らの猛攻を掻い潜りながら個室に全速力で向かっていた。
 スイッチが入ったアリスがストレス発散、面白がってそのままトウヤに向けての射撃を継続させている。
 今。
 この時。
 この瞬間にも彼女の、

 「きゃははは! さぁ〜逃げ惑いなさい! エロヤ!」

 などと言った高笑いが聞こえてきそうなほどの量の矢が、トウヤに向けて上から横からと……。
 ——ほぼ全方位から壁をすり抜けて降り注いでいた。

 ミュリアの矢は、ターゲット以外には命中しない。
 したがって、位置さえ把握していればどこに隠れようが彼女の矢はターゲットに向けて突き進む。
 ただ、現在の彼女はトウヤに当てる気などさらさらない。

 だから、トウヤに命中する——すんでの所で少し外している。
 そして、他の乗客たちに迷惑がかからないように細心の注意を払いながらミュリアは事に勤しむ……。


 【バタン!】

 「——死ぬぞ!」

 「はぁはぁ……」と、肩で息をし。
 顔に尋常ではない量の汗を滲ませたトウヤが彼女らの待つ個室に現れた。
 トウヤのその姿にミュリアは口元を押えながら微笑み。
 アリスはトウヤを指さしながら、腹を抱えての大爆笑。

 他人事のような二人の姿にトウヤは涙を流さずにいられないとばかりに、抱えていた彼女らへの貢物たちを放り投げて、個室の隅っこで身体を丸め。
 ——心の中で泣き叫んだ、とさ……。


 ——トウヤがふてくされてから、数時間後……。
 ちょうど、正午を迎えた頃に列車は終点「ラカルト」に到着した。
 鉱山都市「ラカルト」の駅は、都市の構造上(クレーター型)上層部に——つまり、地上にあるため「ラカルト」に入るには駅から直結している、南口のゴンドラに乗車しなければならない。
 そのため、彼らは現在ゴンドラに乗車して下降中であった。

 「——ああ、そういえば。あの列車で盗賊団が現れたみたいだな」

 ゴンドラから見える「ラカルト」の街並みを眺めながらトウヤが口ずさむ。

 「で、捕まったの?」

 スナック菓子を頬張りながらアリスが詳細を尋ねる。

 「いや、逃げられてしまったようだ」
 「そう……」
 「アリス、口元にお弁当が付いてますわよ」

 と、アリスの隣に座るミュリアがポケットからハンカチを取り出して、彼女の口元を拭ってあげる。
 ミュリアになされるがままのアリスだが、満更でもない表情を浮かべている。
傍から見れば仲の良い姉妹に見えなくもない、和やかなコンビである。

 「——ねぇ、トウヤ。そろそろ本当の事を言いなさいよ。ここに来たのは仕事じゃないんでしょ?」

 唐突にそんな事を口走ったアリスにトウヤは頭を掻いて、小さく息を吐く。

 「まぁ〜、半分正解で半分不正解。——仕事ってのは本当だが、仕事はあくまでついで・……。本命は別にある」
 「……その本命ってのは、今朝アンタが言ってた野暮用ってヤツね」
 「ああ、そうだ。だが——」

 【ブー!】

 と、トウヤが話している途中で下層部に到着したのか、警笛が鳴り響き。
 ゴンドラの扉が開かれた。

 「その話はまた、後でな。——今はまず、仕事仕事〜」

 そうはぐらかしながら先にゴンドラから降りたトウヤは職員である自動人形に見送られながら先に街に繰り出した。

 「む〜」

 トウヤにはぐらかされたアリスは唇を尖らせて「ムッ」となる。
 そんな彼女にミュリアは優しく微笑みながら、

 「アリス、お楽しみは最後までとっておきましょ、ね?」

 と、話し。
 それに渋々ながら頷いたアリスはミュリアと共にゴンドラから降り。
 自動人形に見送られながら「ラカルト」の街に向かった……。

第一章 〜再会と旅出〜 其の五 ( No.18 )
日時: 2012/06/15 21:08
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/9/

 ——ギルド「ラカルト」支部。
 世界各地にあるギルドの一つで本部は首都「エストレア」にある。
 ギルドでは様々な仕事を請け負う事ができ、その仕事内容によって報酬が違う。
 当然の事ながら危険なモノほど報酬が高いが、相当の手練でなければただ命を落とすだけだ。
 ここではラカルト近辺での仕事依頼が主流である。

 「ふむ……。依頼が全然ねぇ〜」

 掲示板に張り出されている紙を眺めながらトウヤがそうぼやく……。

 ——その傍ら。

 椅子に腰を掛けて優雅に何かを飲んでいるミュリアとアリスの姿があった。
 ここギルド「ラカルト」支部は傍から見れば、ただの酒場である。
 しかし、ここはまだ雰囲気があって良い方で、ある街の支部は図書館であったり。
 ある村の支部は民宿だったり、と様々な形があるのだ。

 「ギルドとしての機能が働けば、場所なんてモノはどこでもいいのじゃ!」

 と、総本部たるギルド「エストレア」にいる総括がそう豪語しており。
 その街、その村の特色に合ったギルド支部が世界各地に点々としている。

 ここは鉱山都市「ラカルト」とあって、鉱員たちの憩いの場たる酒場をギルド支部として構えている。
各々のギルド支部では依頼を受諾する形式が異なり。
 ここでは依頼書を掲示板に張り出し、それを支部長に渡せば受諾する事が出来る。

 ちなみにギルド「エストレア」本部では、首都にあるだけあってインフラ整備が他の都市よりも格段に進んでおり、自宅からでも受諾する事が出来るのだ。

 「——旅の者か? 兄ちゃん」

 バーカウンターにいた中年男性が掲示板の前で依頼書を食い入るように見つめるトウヤに声を掛けた。

 「え? まぁ〜そうです」
 「なら、知らなくて当然、か……」

 トウヤの言葉に中年男性は感慨深く頷きながら、

 「ここのギルドはほとんど依頼がないぞ」

 と、続けた。

 「——と、いいますと?」

 この投げかけに中年男性は小さく息を吐くと、トウヤの事を見据え、

 「……黒の死神。——今はそう呼ばれていないが、ソイツが粗方の依頼をこなしてしまって、ほとんどないんだよ。ここは田舎だから早々事件が起こる訳でもない。だから、ギルドの仕事で生計を立ててる奴なんて滅多にいないぜ」

 淡々とそう語った中年男性は最後に、

 「仕事を探してんなら、鉱山での働き口なら一杯あるぞ」

 そう言い残して酒場のマスターとしての業務に戻った。

 「ふむ……」

 と、店主の話を聞いたトウヤが何か考えさせられる事があったのか、顎に手を添えて思案顔になる。
 彼は「黒の死神」と言うワードが気になっていた。が、

 「取り立てて深く考えるまでも無いか」

 と、結論付けて彼女らが待機しているテーブルに向かった。

 「——で、何か良い依頼あったの?」

 テーブルに頬杖をつきながら、戻って来たトウヤにアリスが言葉を掛けた。

 「いや、何も無い。至って平和だ、この街は……」
 「はぁ? じゃ〜無駄足な訳? ——って、仕事はついで、って言ってたわね……」
 「ああ、ついでにもなってないが……。ふむ、ここに来る前に本部経由で確認しとくべきだったか……?」
 「今更過ぎる言い分ね……」

 計画性の無さを露呈したトウヤにアリスは嘆息交じりにそう話し、ストローに口を運び飲み物を口に含んだ。

 「じゃ〜もうお楽しみタイムかしら? トウヤ」

 静観していたミュリアが涼しげにそう話すと、その言葉にトウヤは「ふん」と、鼻で笑い、小さく頷いて見せる。

 「そう。なら、まずは——」

 と、ミュリアは卓上に縦長の紙を広げ始めた。
 彼女が卓上に出したのは、この街の地図などが載ったパンフレットで、そのパンフレットに載っている地図を指でなぞりながら……。

 ——とある施設を一つ一つ指さして行き、最後の一つを指し終えた所で徐にその動作を止めた。

 彼女の突飛の無い行動に自ずとトウヤとアリスは首を傾げ。
 その反応にミュリアは少し表情を強張らせた。

 「——トウヤ、まさかと思うけれど。……予約は取っているわよね?」

 ミュリアのこの言葉に、ようやくトウヤは状況を察したのか、

 「……ああ、そこん所は抜かりない」

 そう力強く頷き返した。

 「そう? じゃ〜行きましょう。——荷物を置いてからじゃないと、おちおち観光も出来ないでしょ?」
 「ふむ、そうだな……。アリス、行くぞ〜」
 「え? ああ、うん……」

 少々慌ただしく席を立ったアリスと他の二名は各自の荷物を手に持って。
 ——ギルド「ラカルト」支部を後にした……。

第一章 〜再会と旅出〜 其の六 ( No.19 )
日時: 2012/06/16 21:40
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/10/

 ——シアクスの森、レアの小屋。

 「——と、言う事なんだよ」

 グラスを片手にこれまでの経緯を語った茶髪の少年……。

 ——トウヤはリビングのソファーに腰を掛けていた。

 トウヤたちはギルド「ラカルト」支部を後にして、トウヤが予約していた宿舎に向かったのだったが……手違いで一室しか取れておらず。

 ——その際に少々一悶着を起こしていた……。



 ——とある宿舎風景。

 「——よし、こうしよう。俺がどっちかのベットに寝るから、アリスとミュリアは俺の隣で寝る権利を取り合ってじゃんけんをしよう」

 実に良い案を述べたとばかりにトウヤは腕を組んで、力強く頷いて見せた。

 『絶対イヤっ!!』

 怒号を上げ、揃って同じ言葉を述べた彼女らはトウヤの事を睨みつける。
 その凄みにトウヤは「ビクっ」と身体を強張らせた。
 手違いで通された部屋にはベットが二つしかなく、それを取り合って彼らは言い争っていた。
 本来なら、男女別々の部屋を希望していた女性陣だったが……。

 ——とある一人の少年の泣き落としに止む無く納得したのであった……。

 「……釣れないぜ、アリスたんとミュリアたん……」

 親指をくわえて、少し涙を滲ませながらぼやくトウヤに二人はさらに鋭い眼光で睨みそれを牽制する。

 「……そんなにイヤかね、俺の隣に寝るのは……」
 「——ええ、そうですわね。何をされるか分かったモノじゃないですもの……」
 「——同感よ。何で、エロヤと一緒のベットで寝なきゃなんないのよ。罰ゲームかっての……」
 「……信用ねぇなぁ〜。ホント、傷つくぜ……」

 「がっくし」と、肩を落としたトウヤを放置し。
 結局、彼女らは一緒のベットに寝る結論に至ったのであった……。



 ——現在。

 「……まぁ〜元気そうでなりよりだ。ユウ……」

 一年半ぶりに再開した仲間の安否を確認でき、ホッとしたのか、トウヤと……。

 ——その隣に座るミュリアとアリスは安堵の表情を浮かべる。

 彼らがフラフラになりながらここに尋ねて来た際、先方を敵だと思い。
 事に当たっていたユウたちだったが、扉の先にはトウヤたちの姿があって。
 彼らを見た瞬間、

 「……は?」

 と、ユウは呆けながら口走ったまま、少しフリーズしてしまっていた。
 まさか、こういう形で再開するとはユウは微塵も思っていなかった。
 それに最悪の想定も頭の中で思い浮かべていた。
 しかし、元気な姿でこうして仲間たちと再会でき、ユウは堪らず……。

 ——笑みを溢したのだった……。

 「——全く、無事なら連絡ぐらい寄こしなさいよ」

 「ムスっ」と、唇を尖らせながら話すアリスだが、少し目が赤くなっていた。
 何だかんだ言いつつも、再会して嬉しかったようだ。

 「——もう、アリスは素直じゃありませんわね。でも、本当に心配しましたのよ、ユウ……」

 ティーカップに入れられた紅茶を優雅に嗜みながら、ミュリアはそう微笑み掛ける。

 「……すまん」

 彼らを心配させた事を素直に謝るユウに対して、トウヤたちは少し呆気にとられてしまった。
 本来の彼なら、何があっても謝る事はしない。
 捻くれ、冷めた性格の持ち主で口の悪いユウの素直な態度を取る姿は長い付き合いの中で見た者はこの中に誰もいなかった。
 ただ、そんな彼の姿を見ている者がいるとしたらそれは——。


 「——この辺りはテレパスなど通じませんからね」

 淡々とそう呟きながら、お茶菓子を持ってキッチンからレアが現れた。
 彼女が言うようにこの辺り一帯はテレパスなどの通信能力、通信機器は通じない。
 それはシアクスの森、全域に立ち込める——幻想的な雰囲気を漂わせる要因にもなっているあのモヤのせいである。
 微弱な電波すら通さないモヤの作用で、この小屋は外界と遮断されてしまっている。

 レアはお茶菓子を客人たるトウヤたちに丁寧に配布して行き、トウヤたちが座る向かい側の席——ユウが座るソファーに腰掛けた。

 「どうも、俺はトウヤです」
 「アタシはアリスよ」
 「初めまして、ミュリアですわ」

 レアに対して、改めて自己紹介するトウヤたちに彼女は小さく会釈する。

 「はい、よろしくお願いします。レアと申します」

 レアも改まって自己紹介を済ませたが、なぜか自分の事をまじまじと見つめていたトウヤに、レアは自ずと首を傾げた。
 そのトウヤの視線に気付いたユウは、

 「……レア、奴に見られると妊娠するぞ……」

 と、淡々とアリもしない事を口ずさみ。
 ユウの発言を信用したのか、はたまた乗っかっているか定かではないが……。

 ——レアは徐に恥じらいの表情を浮かべながら、自らの身体を隠すように掻き抱いた。

 「ちょっ! お前、何言ってんだよ!」

 『ジ〜』

 トウヤの隣に座る——ミュリアとアリスがトウヤに冷やかな視線を送る。
 その視線に堪らず、トウヤは自分の顔を見られないよう手で遮断する。
 が、ある重大な事実に気付き、その事柄について話さんとトウヤは立ち上がった。

 「——見られたぐらいで妊娠なんてするか! 行程を踏まなきゃならんだろうが! 行程を!」

 「はぁはぁ」と、荒々しい息遣いになるトウヤだったが、重大な過失を犯していた。
 その事に気付いた頃には——彼に対する女性陣の好感度は、だだ下がりであった……。

 「……これだから、エロヤは……」
 「……ホント、最低ですわ……」

 それを他人事のようにユウとレアは見つめており。
 ユウは口元を隠して必死に笑いを堪え、レアは感慨深く頷きながら、不気味に微笑む。
 どこぞの無愛想少年以外にもう一人。

 ——イジりがいのある玩具を発見、と喜んでいるような含みのある笑みだった……。

 「ああ、もう! 俺の事をどう捉えようがどうでもいいわ! これから俺の事を『トウヤ』じゃなく『エロヤ』と呼べや、コンチクショっ!」

 涙ながら怒号を上げたトウヤに、口元を隠して笑いを堪えていたユウがグッジョブとばかりに親指を立てて、彼を褒め称える。

 「……はぁ〜。——で、ユウ。我らの姫様は、どこにいるんだ?」

 先ほどのお茶らけた態度から一転して……。

 ——真剣な表情を浮かべながらトウヤがそんな事を投げかける。

 その問いにユウならびにレアは表情を強張らせ、揃って視線をリビング奥にある——扉が閉ざされたままの部屋に向けた。
 ユウたちの視線を辿ったトウヤたちはその一室を確認し、真剣な表情を浮かべたまま頷くと——トウヤが徐に立ち上がった。

 「——じゃ〜涙の再会と行きましょうかね」

 と、トウヤがキザな言葉を述べ「姫様」と呼ぶ彼女の元へと——クラリスが眠る部屋に先陣を切って足を進め。
 それを追うようにミュリアとアリスも立ち上がり、

 「——そうですわね。ハンカチの用意を怠らずに、ね……」
 「——何が涙の再会よ、全く……」

 態度の差はあるにしても、気持ちは皆同じと——彼女らもクラリスが眠る部屋へと足を進めた。
 そして、リビングに残されたユウとレアは互いの顔を見合い、しばらく何も語らず、

 「クスクス」

 と、小さく笑みを溢すと、徐に立ち上がって彼らの後を追った……。

(1)第一章 〜再会と旅出〜 其の七 ( No.20 )
日時: 2012/06/17 21:23
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/11/

 ——シアクス湖、夜更け。
 綺麗な月が水面に映し出され、それが波によって揺らめく。
 細波の音しかしない、静かな湖畔で揺らめく月を眺めながら佇む二人の少年。

 ——ユウとトウヤの姿があった。

 「——よく、ここにいるって分かったな。……アリスの情報力、か?」

 淡々とそう尋ねるユウは少し疑問に感じていた。
 トウヤたちがここ(シアクス)を訪ねて来たのは喜ばしい事ではあったが、あまり外界に露出していないユウにとっては不思議で堪らなかった。
 どうやってこの場所、この土地を突き止めたのだろうか、と……。

 「——いや、生憎だが違う。風の噂で、聞いたんだよ。ラカルトに凄腕の若造が現れたってな。まさか、ユウだと思わなかったし……。いや、心のどこかでお前だと思っていたからこそ、こうしてアイツらを引き連れてラカルトくんだりまで来たのかも知れないな」

 「ふぅ〜」と、息を吐いてトウヤは徐に天を仰ぐ。
 彼の言葉にユウは小首を傾げる。
 アリスの情報網、情報力を駆使してなら納得する所ではあったが、

 「……偶然って、事か?」
 「そういうもんじゃね? 人の出会いなんてものは、さ……。だけど、驚いたぞ。——黒の死神って呼称され恐れられていたんだな、お前」

 と、話し。視線だけをユウに向けるトウヤ。
 しかし、思わず首をひねった。
 彼の視線の先に映るユウの表情がどこか陰りのある、暗く重々しい自己嫌悪に苛まれているような苦々しいモノになってからである。

 ユウが「黒の死神」と呼ばれるようになったきっかけは「クラトリアミラージュ」に巻き込まれ、意識を失っていた所をレアに救出された、あの直後……。

 ——荒れていた当時の名残である。

 だが、今はレアのおかげで更生し、素直な態度を示すようになった彼には、もうその呼び名は相応しくない。
 けれど、当時の自分が犯した罪を現在もこうして背負い込んでいる彼は忌々しいあの呼称を耳にする度に表情を曇らせてしまっていた。

 「——もう、過ぎた事を一々くよくよしていても仕方がありません」

 などと言った事をレアは気を遣って、ユウに微笑みかけていたりと……彼女の世話になりっきりである。
 彼のそんな表情を初めて目の当たりにしたトウヤは追及する事無く、そのまま流す事にした。

 「——まっ、人生。生きてりゃ〜色々あるさ……。はぁ〜、何で俺には女っ気がないんだろうな。こんなにも愛しているのにさ」

 気を遣って、変な話題をふっかけるトウヤにユウは「ポカ〜ン」と呆けて見せたが、馬鹿馬鹿しくなって堪らず笑みを溢す。

 「——それはトウヤの下心丸出しなのがバレバレだからじゃね?」
 「おいおい。男は皆、変態紳士だろ? まっ、ムッツリ少年であるお前よりは全然マシだと思うがな。オープンスケベたる俺様は」
 「ムッツリじゃねぇ〜し! 俺はアレだ……奥手って言うか、照れ屋なだけだ」
 「はいはい。そういう事にしておきましょうかね」
 「ったく……」

 変な事を言われてむしゃくしゃしたユウは頭を掻きむしる。
 すっかり綺麗に伸びた彼の黒髪が掻きむしる度に乱れ舞う。
 その光景をトウヤはまじまじと見つめながら小さく頷く。

 「——お前、そっちに目覚めたん?」
 「は? 目覚めたって何に?」
 「いや、分からないならいい。それよりも——あの人の事だが……」

 と、急に堅苦しい態度を取るトウヤにユウは首を傾げる。
 そして「あの人とは誰の事を指しているのか」理解し。小さく頷いた。

 「アイツの事ね……」
 「そう。……レアさんって——自律人形なんだな」
 「ああ、そうだよ」

 ——自律人形(じりつにんぎょう)。

 自動人形(じどうにんぎょう)の上位的存在。
 プログラミングされた行動しか取れない自動人形と違い、自分の意思で行動する事が出来る自律人形は「準人間」と称されている。
 人間の様に喜怒哀楽などの感情があり、違いがあるとすれば生殖機能などが無い事である。

 ただ、自律人形も自動人形同様に人間からしたら道具にすぎなく、欲に走った人間たちが感情のある事を良い事に、様々な嗜好の余興として彼ら、彼女らを「玩具」として扱っていたりと……少々社会問題となっている。

 彼女——レアが昔、首都「エストレア」で使用人として働いていた事は彼女に聞かされてユウは知っていた。
 だが、彼女の右目を覆う眼帯については触れられずにいた。

 「使用人時代に何かされたのだろうか」

 と、ユウは勘ぐっていたが……ある時に淡々と彼女の口から告げられたのだ。

 「心配しなくとも、何もありませんでしたよ」

 と、もう一つ付け加えるように、

 「順風満帆の生活でしたよ」

 と、涼しげに微笑みながら言われた言葉にユウは彼女の過去の経緯についてもう詮索しない事にした。

 ——レアはレアだと、過去にどういった事があろうと……。

 真相は闇の中。知る者は当事者たちしかいない。
 だが、決して疎まれるような事を彼女らはしていない。
 大切な思い出として心に秘めておきたい、ただそれだけである……。

 「——まぁ〜アレだよな。お互い、無事でなりよりって感じだな」
 「ああ、そうだな。俺とクラリスはレアに助けられたけど、トウヤはあの後——どうなったんだ?」
 「ん? 俺はイチャラブ展開で助かったけど、それがどうかしたか?」
 「……意味が分からん……」

 真剣に質問したユウだったが、トウヤに軽くはぐらかされ思わず額を押える。
 「クラトリアミラージュ」が起こって、ユウたち同様にこちらも三ヶ月後……。

 トウヤは首都「エストレア」にある自宅で目を覚ました。
 ただ、目の前には美味しそうに実った瑞々しい果実が計二つあり、腹を空かせていたトウヤは堪らずその果実に飛び込むと……。

 ——突然、目の前が真っ暗になって、綺麗なお花畑が辺り一面に広がったそうな。

 「もう少しであの果実を堪能できたのに……」

 と、トウヤは悔しさを滲ませながら再び深い眠りに就いてしまい。
 次、目覚めた彼の視界に広がっていた景色にはあの瑞々しい果実たちの姿は無く。
 凄惨な笑みを浮かべて鋭い剣幕で睨む子鬼の姿があり、トウヤが言うように手厚〜いイチャラブ展開が繰り広げられていたのだった……。

 「——ふむ、やはり女性はトータルバランスだな。うん……」
 「……お前、本当に大丈夫か?」

 長い間、会わない内にちょっとアレな感じになってしまったトウヤの事を本気で心配したユウは「一年半と言う歳月は人をここまでおかしくさせるのか」と少し恐怖を抱く。

 「——で、姫っちはずっとあのままなのか?」
 「え? ああ、うん。ずっとあのままだよ。ジェムも黒ずんだまま……」

 ユウは徐に首から下げているネックレスを掴んで見つめる。
 ネックレスに装飾されている金色の宝石が月明かりに照らされて綺麗に煌めく……。

 クラリスと一年半ぶりに再会を果たしたトウヤたちだったが、彼女の変わり果てた姿に思わず絶句した。
 元々透き通るように白い肌のクラリスではあったが、その肌質が皮肉にも現在の彼女の様相を悪化させるモノになってしまい。
 死人のように生気が感じられない状態にトウヤたちは見えたのだ。

 息もして、身体に触れると少し冷たいながらも体温も感じられるのに、それすらも感じさせないほどに真っ白な彼女の姿にトウヤたちはただただ優しく微笑みかける事しか出来なかった……。
 そのような状態になったクラリスの事をユウはずっとこの日、この時まで彼女が回復する事を信じて付き添っていた。

 それと、事情も聞かずにここまでサポートしてくれたレアにも感謝しきれないぐらい恩をユウは感じている……。

 「——やっぱり、あの時だよな。原因があるとすれば、さ……」
 「恐らく、な……」

 「はぁ〜」と、タイミングを見計らったように揃って息を吐く二人の脳裏には同じような事柄が浮かんでいた。
 クラリスの兄——クラウスがあの施設で彼女に妙な事をしてから、おかしくなってしまった。
 そして、愛する妹をあのような状態に陥れてまで、やり遂げたかった目的とは一体何だったのだろうか、と……。

 この一年半の間、クラウスが所属する世界的犯罪組織「エタミリアファミリー」に動きは見られなかった。
 だから、組織のリーダーであるクラウスは自ら引き起こした「クラトリアミラージュ」に巻き込まれ絶命したのだと、二人の頭に過りはしたが……。

 「——どうなんだろうな、実際の所は……」
 「生きてるのなら……今度こそ決着をつける。クラリスのためにも……」
 「だな、クラウスさんにはすこ〜しばかり聞きたい事があるし……」

 そう会話を交わし、しばらくして二人は思わず笑みを溢してしまった。
 久しぶりに——一年半ぶりに再会を果たし。こうして馬鹿話を交えながらも何ら変わりないお互いの姿を確認でき、張り詰めていたモノが途切れてしまったのだ。

 「ふぅ〜、そろそろ……」
 「ああ」
 「これにて——酒池肉林会は閉幕じゃ〜」
 「……はぁ〜」

 最後の最後に「トウヤはトウヤだな」と、ユウは思い知らされて呆れ果ててしまった……。

(2)第一章 〜再会と旅出〜 其の七 ( No.21 )
日時: 2012/06/17 21:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/11/

 ——翌日。
 夜更かししていた野郎二人は、女性陣に叩き起こされて最悪の目覚めとなった。
 目が半開きで意識がもうろうとしながらも身支度をする。

 「……眠い」
 「言うな。それにお前はまだ眠れた方さ。俺なんか隣の部屋でアイツらが乱れまくった姿で寝てると思って、興奮して眠れなかった……」
 「……エロい」
 「言うな。俺が一番自覚している。——だが、男の性には逆らえんだろ……」

 馬鹿なやり取りを交わしながら、トウヤたちは身支度を済ませてリビングに向かう。
 リビングにはとっくに身支度を済ませて、優雅に紅茶を嗜むミュリアと朝食の食パンにかじりつくアリスの姿があった。

 「遅いお目覚めですわね」

 リビングに姿をあらわした二人に気付いたミュリアがそんな事を微笑み掛ける。

 「まぁ〜な。男には色々と準備する事があるんだよ。——な、ユウ」
 「……そこで俺に振るな……」
 「アンタたちの事だから、どうせ仕様も無い事を企ててたんでしょ?」

 食パンを片手に淡々と呟いたアリスの口周りには食パンのカスが点々と付着している。
 その姿にミュリアはうっとりと微笑む。

 「——おはようございます。ユウ、トウヤ様」

 キッチンからレアが現れ、目覚めた二人に丁寧に会釈をしながら挨拶をした。

 「おはようございます、レアさん。今日もお綺麗ですね」
 「——レア。トウヤの事は全面的にスルーでいいからな」
 「はい、承知しました」

 ユウの言葉を了承したレアは食卓に並べていた二つの朝食セットの内の一つを回収し始め、それを持ってキッチンにはけて行き。
 残った朝食セットの前にユウが着席すると、そのまま朝食に手を付け始めた。

 「え? マジ? 俺、朝飯抜きなの? ちょっ、レアさん! それ、俺食うから捨てないでよっ!」

 慌てながらレアを追ってキッチンに向かったトウヤを後目にユウは淡々と朝食を食べ。
 他の二人も何事もなかったように各々の事に勤しんだ。

 昨日までの——レア小屋にはなかった賑やかな雰囲気にあてられてか、シアクスの森に住む動物たちが何事かと小屋周辺に集い始め。
 特に注目するモノでも無い、馬鹿なやり取りがただ繰り広げられている小屋内部には少年少女たちの笑みが満ち溢れる。

 朝から一年半ぶりの再会を祝っての宴とばかりにはしゃぐ彼らの姿は本当に心の底から楽しんでいるのが、伝わって来るほどに清々しく。

 ある者は、腹を抱えながら笑い。

 ある者は、その光景に優しく微笑みかける……。

 そんな馬鹿騒ぎを起こしているリビングの奥にある一室に眠る少女——クラリスは相変わらず「すやすや」と安らかに眠っている。
 が、心なしか彼らの馬鹿騒ぎに触発されて笑みを溢しているようにも見受けられた。
 このまま、彼女が目覚めればどれだけ喜ばしい事だろうか……。

 しかし、クラリスは目覚める事は無く。
 馬鹿騒ぎをしていた彼らは、レアに彼女の事を任せ。
 眠り姫を目覚めさせる方法を求めて旅立って行った……。


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