ダーク・ファンタジー小説

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悠久のカナタ(SF)
日時: 2012/07/11 00:31
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/

・あらすじ

悠久の時が流れる世界「エミリア」に住まう人々は、みんな不思議な力を宿した宝石を所有していた。一つは「テレパス」と呼ばれる通信能力。残りは……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・終焉へ向かうプレリュード篇

 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 >>02 >>03
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 >>04 >>05 >>06
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜再会と旅出〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜再会と旅出〜 其の二 >>11 >>12 >>13
 第一章 〜再会と旅出〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜再会と旅出〜 其の四 >>16 >>17
 第一章 〜再会と旅出〜 其の五 >>18
 第一章 〜再会と旅出〜 其の六 >>19
 第一章 〜再会と旅出〜 其の七 >>20 >>21
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 >>22 >>23
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 >>24 >>25
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 >>26 >>27
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 >>28 >>29
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 >>30 >>31

(1)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 ( No.2 )
日時: 2012/06/11 00:02
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/2/

 ——クラトリア山脈、某所。
 森林の中にトラックが一台停車していた。
 それに颯爽と乗り乗り込もうとする二つの人影。
 一人は無造作に伸びた黒髪黒眼の女々しい顔立ちの少年。
 もう一人は綺麗にセットされた茶髪紺眼の凛々しい顔立ちの少年。

 その二人は汚らしい作業衣を身に纏い。黒髪の少年はその作業衣と同セットである薄汚れた帽子をしっかりと被り。茶髪の少年は折角セットした髪が乱れるのを嫌い、帽子を被らず車内に放り捨てる。
 そして、運転席に座った茶髪の少年がトラックのエンジンを掛け。それに呼応するように排気口から汚らしい黒いガスが噴出された。

 「——よし、ミッションスタート」

 茶髪の少年がそう口ずさみながらアクセルを躊躇う事無く、思いっきり踏み込む。

 【ギュルルル!】

 と、雪に足を取られながらも難なくトラックが発進した。
 この貨物トラックは現在とある建物に向かっていた。
 それは先ほど。クラリスが邪魔立てしたトラックが向かおうとしていた、あの施設である。
 その施設では武装集団に密売するための銃火器などを秘密裏に生産されているようで、情報を聞きつけた彼らはそれを潰しにトラックの運転手に偽装して、施設に侵入しようとしているのだ。

 「——アリス。変化はないか?」

 トラックを運転しながら茶髪の少年は唐突に独り言のように誰かに投げかける。

 〈——ええ、ないわ〉

 突飛な投げかけに応じた「アリス」と、呼ばれた少女の声は少し高圧的なモノだった。
 この声も通信機器などを介して聞こえるモノではなく、茶髪の少年と助手席に座っている黒髪の少年の頭の中に直接流れ込んでいた。
 アリスは現在、彼らが向かう施設周辺を見張っており。妙な動きがあれば、逐一彼らに報告する伝言然り見張り役を担っている。
 しかし、見張り伝言役と言っても施設周辺から状況を見つめている訳ではなかった。

 その施設から数十キロほど離れた「クラン」と呼ばれる小さな農村にある宿舎から特殊なメガネを介して、眺めているのだ。
 そのメガネを使用すると。脳内に想い描くだけでどこにいようがこの世界「エミリア」の様々な地形データや国際情勢などの情報を瞬時にレンズに映し出しくれ。その上、天高く舞う監視衛星から得られるリアルタイムの情報まで把握する事が出来る。

 ——ただ、監視衛星からの情報収集はアリスならではの方法で、ほとんど犯罪そのモノであり裏技のようなものだった。
 そのため、彼女が仕入れる情報は独自に持つデータバンクに接続して得るモノが多く。裏取りなどの地道な作業で蓄えた情報もほぼ正確である。

 そんなアリスが導く情報通りの道のりを従順に、茶髪の少年はトラックを躊躇う事無くかっ飛ばす。
 森林の中を走るトラックが自ずと大きく揺れる。走行している林道が少し荒れているせいで、車内の彼らも慌ただしく身体が上下左右に揺さぶられた。
 シートベルトをしていなければ、打撲のオンパレードである。

 しかし、そんな絶叫マシンにも似た状態はすぐに収まり、悪路がかった林道から小奇麗に舗装された雪道に飛び出ると。彼らの前方数百メートル辺りに目的地である例の施設が目視出来た。
 山間に作られた物々しい施設から伸びる数本の煙突からは、灰色の煙が「モクモク」と出ずっぱりで、折角の雪山の大自然が台無し。風情が損なわれている。

 しばらくして、施設に到着した彼らは、敷地に入るすんでの所にあった検問所で身分証明やらの手続きを済ませ。侵入に成功した。
 適当に止めたトラックの中で茶髪の少年と黒髪の少年の二人は小さく息を吐く。 

(2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 13:58
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/2/

 「——準備はいいか? ユウ」

 茶髪の少年が助手席に座る黒髪の少年にそう投げかける。
 その投げかけに「ユウ」と、呼ばれた黒髪の少年は小さく頷き返すと、茶髪の少年も同様に頷く。

 「——クラリス、アリス、ミュリア。そっちも準備はいいか?」

 独り言のように茶髪の少年が誰かに投げかけると、

 《……うん、大丈夫》
 〈ええ、こっちもOKよ〉
 [私もいつでも行けますわ]

 クラリス、アリス。そして、最後の「ミュリア」と、呼ばれた丁寧口調の少女もいつでも行けると力強く返答する。と、茶髪の少年と黒髪の少年ユウは意気揚々とトラックから飛び出した。
 敷地内には検問所にいた数名の警備員以外に監視員らしき人物の姿はなく。ほかに目ぼしいモノと言っても倉庫や「自動人形」たちが徘徊している程度で。

 ——ここまではアリスの情報通り……。

 ただ、やっかいなのは「自動人形(じどうにんぎょう)」と呼ばれる者たちである。
 自動人形は機械仕掛けの人型で、見た目は人間と遜色ない造りなのだが。感情など存在しなく。敵と見なした者には容赦なく自らの身体に保有する銃火器などで迎撃する。
 キリリングマシンのような彼らではあるが、本来の役目は人間の補佐的存在で一部の人間たちによって改造された憐れな人形たちでもあった。

 しかし、今は憐れんでいる暇も無く。出来るだけ彼らと交戦しないよう建物の影などに身を潜めながら、一際目立つ大きな施設を目指す二人だったが……少し難航していた。
 その施設周辺には自動人形たちが隊列を組んで、徘徊しており。行く手を阻んでいたのだ。
 「ふぅ〜」と、二人は息を吐く。彼らの吐いた白い息が空気中に虚しく分散する……。

 「——頼んだ。ミュリア……」

 茶髪の少年がミュリアにそう合図を送ると、

 [了解しましたわ。トウヤ]

 「トウヤ」と、呼んだ。茶髪の少年に静かに返答した。
 そして、トウヤとユウは互いに目配せしながら、突然あるモノに手を伸ばす。
 トウヤは両耳に付けた橙色の宝石が煌めくピアスに。ユウは首に付けた金色の宝石が煌めくネックレスに。各々、念じるようにアクセサリーに触れる。

 すると、二人の宝石が輝き出し。光を帯びながら、彼らの手中に何かが収まった。
 それを手に持ちながらトウヤとユウは隊列崩さずに徘徊している自動人形たちの群れに突っ走って行く。
 彼らの存在に気付いた自動人形たちはすぐさま臨戦態勢に入り、ある者は大口を開いて口内に装着された銃口を向け。ある者は腕を切り味鋭い電動カッターに。各々に備え付けられている武器を二人に向ける。

 『——侵入者ヲ直チニ排除スル』

 口裏合わせたように自動人形たちが同じ言葉を何度も述べ、トウヤとユウを迎え撃たんと陣形を組み始める。
 遠距離攻撃が可能な自動人形たちは後方に、後の自動人形たちは前衛に回って、彼らに攻め入った。
 お手本通りの綺麗な陣形を取った自動人形たちに、トウヤとユウは「ニヤリ」と、不敵な笑みを溢し、そのまま前衛部隊に突っ込む。

 第一陣の前衛部隊の群れにトウヤは両手に持つ、天使と悪魔の翼をモチーフにした神々しい双剣で立ち向かい。ユウは左手に持つ刀と、右手に持つ拳銃を交互に手慣れたように扱い。二人は何かを競い合うように次々と自動人形たちを薙ぎ払って行く。
 トウヤの華麗な双剣さばき、ユウのトリッキーな銃剣さばきに前衛部隊は翻弄される。
 だが、後衛部隊が着々と彼らの動きに焦点を合わせに行き……そして、第一陣の前衛部隊ごと葬り去らんと一斉射撃を実行。

 【バン! バン!】

 と、激しく鳴りつける銃声と共に硝煙弾雨の如し無数の弾幕が交戦する彼らに襲いかかった。
 それに気付いたトウヤとユウはつばぜり合いをし。相対していた自動人形を蹴り飛ばして、距離を取り。第一陣の前衛部隊の後方から迫り来る弾幕を見据えて不敵に微笑んだ。
 傍から見れば、避けようもない無数の弾幕に呆れ果てて笑みを溢したように見受けられる。しかし、それはただの余裕の表れだった……。

 彼らは弾幕を見据えた後に、突然天を仰ぎ見る。
 そこには何もない澄んだ青空があるのみ。だが、その上空から肉眼では視認出来ない何かが、物凄いスピードでトウヤたちがいる周辺に到着しようとしていた。

 [——悠久の五月雨(エターナルアローレイン)]

 トウヤたちの頭の中で囁かれた、ミュリアの美声……。
 その言葉と共に自動人形たちの周辺に突如と降り注いだ光を帯びた無数の矢の雨。
 光を帯びた矢は一種の流星群にも似た様相で自動人形たちの群れに向かって滞りなく降り注ぎ。射貫き、えぐられた自動人形たちは中枢機関たる心臓部をさらけだし。次々と倒れ伏せる。

 が、まだ後衛部隊が放った弾丸が残っていた。
 運良く矢の雨を掻い潜って相殺せずに残ったモノがトウヤたちに向かっており、それに気付いたユウは嘆息を吐く。

 「——おい、エセセレブ。しっかり狙えよ……」

 面倒臭そうに頭を掻きながらユウがミュリアに苦言を呈する。

 [……アナタはホント、口が悪いですわね……]
 「はいはい。言い争いは後々……。ユウ、少し下がってくれ」

 呆れながら仲裁に入ったトウヤはユウを後方に遠ざける。
 ミュリアが放った矢である程度は相殺され減ったとは言え、かなりの量の弾丸が彼らに襲いかからんと迫って来る。それをトウヤは一人で立ち向かう。
 「ふぅ〜」と、小さく息を吐いたトウヤは再びピアスに触れると、

 「——夢幻剣舞(むげんけんぶ)」

 念じるようにそう唱え。ピアスが輝きだすと、トウヤが手に持つ双剣がゆらゆらと蜃気楼のようにモヤがかり。それを唐突に迫り来る弾丸の群れに向けて放り投げた。
 唯一の武器を放り投げ、丸腰になったトウヤは放り投げた双剣の後を追うように突然走り出す。
 わざわざ被弾しに突っ込んでいるようなモノだが、トウヤの表情は至って真剣なモノで、前方を見配せする。

 「残り弾数を確認——ざっと、数十発は堅いな」

 と、トウヤは目測し「ニヤリ」と、不敵な笑みを漏らした瞬間。先ほど放り投げた双剣が一つの弾丸に命中し。
 さらにその双剣が分裂して、四本の剣となって現れた。
 その中から適当にトウヤが手に持つと、残りの弾丸を斬り伏せようと残った剣を足場に跳躍する。
 手近な所から弾丸を斬り伏せ、その度にトウヤが武器として使用した剣が二本、四本と増えて行き。それらを足場にしながらトウヤは次々と弾丸を斬り伏せて行く。

 彼が持つ、天使と悪魔の翼をモチーフにした神々しい双剣のように彼自身にも翼があるように軽やかに宙を舞って魅せ。
 最後の弾丸を斬り伏せた所で、トウヤは「パチン」とキザに指を鳴らした。
 その合図と共に分裂し、そこら中に散乱していた双剣たちが元あった場所へと。彼が身に付けているピアスに光を帯びた粒子状となって綺麗に収束した……。

 「……ふぅ〜、こんなものだろ」

 軽く額を拭いながらユウの元へ歩み寄って行くトウヤの表情は涼しげなモノだった。

 [お見事ですわ]
 「さすが、トウヤ」
 「そんな事無いさ。ミュリア、ナイスアシスト」
 [褒めても何も出ませんわよ]

 本来の作戦では、トウヤたちが自動人形たちを引きつけている間。
 ミュリアが彼らの放った弾丸ごと全てを射貫くはずだったのだが、上手くいかず。
 結局、トウヤが対処する形となった。
 しかし、それでもトウヤはミュリアの事を褒め称えた。
 それはリーダーとしての役目でもあるが、一番の要因はミュリアが矢を放った場所の事を考慮してだ。

 彼女もまたアリス同様に施設から数十キロほど離れた「クラン村」の広場で待機しており、そこから超後方射撃による援護を任されていたのだ。
 座標位置ならびに風向きなども全てアリスが導きだした演算結果通りで、その指示に従ってミュリアは正確に矢を射る事が出来る。後方支援同士の息の合った援護である。

 〈——はいはい。駄弁ってる暇はないわよ〜。今の騒動で検問所の奴らがそっちに向かってるから、さっさと働け〜。馬鹿共〜〉

 なかなかその場から動こうとしないトウヤたちにアリスは淡々とした調子で苦言を呈する。

 「はいはい、アリスたんのお心のままに……」
 「……トウヤ、それ……キモイぞ」
 「ほっとけ!」
 《……トウヤ、臭い……》
 「おいおい、姫っち……。それは幾らなんでも俺……泣くぞ」
 [ふふふ、それでこそトウヤですわ]
 「……俺、皆からどんな目で見られてんの?」
 『我らのリーダー様〜』
 「感情こもってねぇ〜ぞ、お前ら……」

 「はぁ〜」と、トウヤは大きく嘆息を吐きつつ。ユウと共に目的地である施設内部に侵入した……。

(1)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 ( No.4 )
日時: 2012/06/11 14:01
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/3/

 ——施設内部。
 自動ドアが開いた先には、広々とした吹き抜けのエントランスが待ち構えていた。
 白を基調にした内装は掃除が行き届いているのか、シミやらホコリなど一切なく。新築当然の様相で、観葉植物たちも小奇麗に並べられていた。
 ただ、重要施設らしい厳重なセキュリティーなどの施しが一切感じられず。唯一と言えば、外にいた自動人形ぐらいで。内部は、静寂に包まれていた。

 その件についてトウヤは不審に思った。
 ——幾らなんでも手薄過ぎる、と……。
 ——これは好機と取るかそれとも……。

 と、悩むトウヤはアリスに意見を仰ぐ事にした。
 すると、

 〈む〜、アタシのサーチでも分からないわ。言える事はただ一つ……気を付けなさい〉
 「……ダメじゃん」

 ただのアドバイスと言う返答に嘆息交じりにユウはぼやく。

 〈このアタシが自ら気を付けなさいと、言ってあげてるのよ。感謝しなさい〉

 開き直りとも取れるいつもながらの高圧的な態度にトウヤたちは頭を掻きながら、アリスのアドバイス通りに気を付けながら先に進む事にした。
 アリスからの指示通りの進路を進みながら、ふとトウヤたちはある事に気付く。

 「バリボリ」と、何か硬いモノを頬張っている音が自分たち頭の中に流れている事を……。
 「もしかして……」と、思いながらトウヤが開口一番に、

 「……アリス。レニーさん家のクッキー美味いかい?」

 緊張感の欠片も無い言葉を淡々と口走った。

 〈ええ、それが何か?〉

 悪怯れる様子も無く、それがあたかも当たり前かのようなアリスの対応にトウヤたちは頭を抱えた。
 自分たちは任務遂行のため、人里離れた辺境の地に赴いていると言うのに。我らが参謀さまはお気楽にお菓子を食べると言う暴挙に出たからだ。

 それにアリスが待機している場所と彼女の性格を考慮してみると……。絶対ベットの上で横になりながら過ごしている事だろうと踏み。トウヤたちは「はぁ〜」と、呆れ果ててしまった。
 ちなみにレニーさん家のクッキーとは「クラン村」の物産店にお土産として売られている。質素な味わいがウリのそこそこ人気商品である。

 「……だから、まな板なんだよ……」

 しれっと、ユウが口ずさんだ言葉にトウヤが表情を歪める。
 それはご法度だと表情から滲み出る程に顔が引きずっていた。

 〈……〉

 案の定、ユウの発言が気に障ったのかアリスからの返答はなかった。
 ただ、何かを感じ取ったユウが唐突に身体を震わせる。

 《……ユウ、それ違うよ》

 ふと、クラリスがアリスの弁護に回ったのか、そんな言葉を呟く。
 そして、続けざまに、

 《ア—たんは、まな板じゃなくて小皿》

 淡々と述べられた言葉にはユウのように悪意は感じられなかった。が、善意も感じられなかった。ただただ、アリスの身体的特徴の吐露、暴露をしたに過ぎなかった。
 彼女の爆弾発言に、

 〈く、く、く、く——クラリスの馬鹿っ!!!!〉

 「プツン」と、アリスとの間に交信が途切れてしまい。リーダーであるトウヤは気苦労絶えないとばかりに大きく嘆息を吐いた。

 「……クラリスがトドメを刺したから、アリスとのテレパスが切れちゃったじゃねぇかよ」

 自分から言い出した事だと言うのに、全ての罪をクラリスに押しつけ始めるユウにクラリスは、

 《……え?》

 と、何事も無かったように淡々とした口調で疑問符を投げかけた。

 「……ミュリア、アリスの事を頼んだ」
 [……ええ、分かりましたわ]

 お馬鹿二人を華麗にスルーしたトウヤはミュリアにアリスのフォローに回ってもらう事にし。お馬鹿コンビの片割れ、ユウを引き連れながら施設内部の探索を再開した。

 進んでも、進んでも。見える景色は同じで、内部の情報を知らなければ容易に迷子になれるほどに構造が同じだった……。
 等間隔に側面および通路に「←B A→」の指示表記があり。進めばBエリア、戻ればAエリアと区間分けの標識だけがある通路で、扉や窓なんてモノは一切なかった。

 ——ただ、一つ言える事はあった。

 奥に進むほど、先ほどまで聞こえていなかった。物音が鮮明に彼らの耳に届いていた。

 ——密造武器の生産ライン支える機械音なのだろうか……。

 そんな考えを抱きながら二人はその音に耳を澄ませ、注意を払って足を進めて行く。
 すると、

 「パン! パン!」

 乾いた銃声が唐突に鳴り響き。トウヤたちは仕舞っていた武器を再び顕現させんと、身に付けるアクセサリーに手を伸ばし、武器を出現させた。
 それを持って、小走りで通路を進み。前方に広場が見えた所で、そこの状況を覗き見ようと二人は息を殺しながら物陰から目をやった。

 その広場には銀色の装飾が眩しい二丁拳銃を持って、華麗に宙を舞い。銀髪をなびかせながら自動人形&人間と交戦しているクラリスの姿があった。
 汗一つ掻く事無く。眉一つ動かす事無く。淡々と事に当たっているクラリスだが、口元が少し緩み、微笑んでいるように見受けられた。

 最後の一人を撃ち抜いたクラリスは、何事も無かったように「クルリ」と、トウヤたちが隠れている物陰に振り向き、徐に銃口を向ける。

 「……誰?」

 静かに投げかけたクラリスの言葉にトウヤたちは、息を吐く。
 そして、二人は姿を現した。

 「クラ——っ!!!!」
 トウヤたちが姿を現し、言葉を投げかけようとした瞬間!
 クラリスは躊躇う事無く発砲した。

 「パン! パン!」

 と、二発の銃声と共に放たれた弾丸はそれぞれトウヤの右頬、ユウの左脇をかすめ。弾丸は彼らの後方にあった壁に着弾した。
 撃ってから彼らの存在に気付いたクラリスは口を開き、

 「……手が滑った……」

 淡々とそう口走った。

 「……姫っち、手が滑ったで丸く収まると思ってないかい?」

 少し額に汗を滲ませたトウヤが誤射したクラリスに苦言を呈するが、当の本人は小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
 その反応にトウヤは額の汗を拭うように額を押える。

 「ダメだ、こりゃ……」と、言う嘆きが聞こえて来そうなほどに途方に暮れるトウヤ。

 「……キリリングマシンさながらだな」

 クラリスの姿を見て、率直な感想を述べたユウの言葉にトウヤが、

 「だな〜。——っ!!!!」

 と、頷いていると。クラリスがまた彼らに向かって発砲し。トウヤは冷や汗ダラダラと流して、フリーズしてしまう。
 ただ、彼女が放った二発の弾丸はいずれもトウヤの両頬をかすめながら後方の壁に再び着弾した。

(2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 ( No.5 )
日時: 2012/06/11 14:08
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/3/

 「……チッ」
 「今、舌打ちした!? てか、何で俺だけ?!」
 「今の所、否定するとこ……。だから、撃った……」
 「いやいやいや! だったら、こっちの少年が一番悪いでしょうよ!」

 声を荒上げながら、トウヤはある人物を指さす。その人物は素知らぬ顔をして、今自分たちがいるフロア内を見渡していた。

 「ざっと、数人か……」と、ユウは口ずさむ。

 クラリスが相対していた人物たちの詳細を探っていたユウはその中に自動人形じゃなく人間がどれぐらい混ざっていたのかを数えていたのだ。

 「……どうする? ジェム潰しとくか?」

 淡々とした口調でユウは血を流して倒れ伏せている白衣の人物が身に付けていたブレスレットに銃口を向ける。
 その人物のブレスレットにはトウヤたちが持っているモノとは色違いではあるが、白色の宝石が装飾されていた。

 「……まぁ〜大丈夫だろ。奴さんたちが目覚める頃には全て終わってるだろうからな。てか、クラリス。ここに着くの……早くないか?」
 「二人が遅いだけ。それと何で、わざわざ正面から入って来たの?」
 「正面以外に入り口なんてなかったと思うが?」

 このトウヤの投げかけにクラリスは自分の後方を指さす。その指先を目で追ったトウヤはあるモノに気付き、呆然とした。
 彼女が指さした先にはとある一室があった。
 だが、その部屋は見るも無残に破壊されており。コンクリート破片などが飛び散り、外界との出入りが容易に出来るようにリフォームされていた。

 その風通しが良くなった部屋の光景に堪らずトウヤはクラリスにジェスチャーと目で訴えかける。
 それに気付いたクラリスは小首を傾げながら、

 「……勝手に開いた……」

 涼しげにそう返した。

 「壁は勝手に開くモノじゃありません!」
 「……小姑みたい」
 「クラリス——その言い分はどうかと思うぞ。小姑には小姑の譲れないモノがあってだな……それで姑との抗争が毎日絶えないだけなんだよ。本来ならどっちか大人になって歩み寄りせにゃならんと言うのに……」

 彼女が何気なく口ずさんだ言葉に反応したユウが意味不明な事を話し出し。

 「だけど、私はメリーさんを推すよ」

 クラリスもそれに応戦する。

 「ふむ、俺はあくまで中立だが……サリーさんを応援する事にする」
 「……何の話してんの? お宅ら……」

 意味不明な会話にどう対処してよいか分からず、呆れながらぼやくトウヤ。

 ユウとクラリスの少しアレな二人は前日「クラン村」で流行っていた「メリーさんVSサリーさん」と言う嫁小姑の熾烈な抗争を描いたドラマを見ていた。
 ちょうど、最終回に向けての一挙放送をやっており、それを暇潰しがてら二人は雁首揃えて視聴していたのだが、今ではすっかり感化されてしまっている。

 ちなみにロケ場所が「クラン村」らしく、村民たちには馴染み深い名所などが出ており地域密着系のドラマである。
 それとレニーさん家のクッキーもこのドラマから生まれた産物で、地方活性化に一躍買っているようだ。

 「……はぁ〜。そろそろ仕事を遂行しよう、二人とも」

 未だにメリーさん推しのクラリスとサリーさん推しのユウが口論しており、それを傍観していたトウヤが痺れを切らし。悩ましげな表情を浮かべながら仕事をするように二人に促す。
 しかし、二人は聞く耳持たず。ジェスチャーを用いりながらお互いに推す人物について熱弁していた。

 「はぁ〜」と、トウヤは額を押えて大きく嘆息を吐く。

 〈——ゴホン! ユウ、クラリス。アンタたちにこれだけは言っておくわよ!〉

 トウヤの命令でアリスのフォローに回っていたミュリアの頑張りが功を奏したのか、復活したアリスが唐突にトウヤたちの頭の中に声を投げかけた。
 少し声を荒上げているアリスの言葉に口論していたユウとクラリスは口を閉じ、馬鹿げた口論を止めた。
 そして、アリスが「すぅ〜」と、息を吸うと、

 〈女は乳じゃない! トータルバランスよ!〉

 そう言い張り。
 しばらく「はぁはぁ」と、荒い息遣いが頭の中に鳴り響く……。
 アリスの突飛な発言にユウとクラリスは揃って首を傾げ、トウヤは顔を俯かせながら額を押えた。

 [——私の不手際でアリスが少し発狂してしまったようですわ……]
 〈誰が発狂したって? てか、アンタのそれ……何?〉

 詰め寄るような低い声色でアリスがフォローに回ってくれたミュリアに噛みつく。

 [ちょ、アリス……。どこ、触って——ひゃっ!]
 〈ただの脂肪の塊じゃない。これのどこが良いってのよっ〉

 アリスが何かを確かめる度にミュリアの艶美な吐息がトウヤたちの頭の中に響き渡る。

 [……アリ、ス……。——強い]
 〈ふむ、案外……。しかし、片手でも持て余すほどとは……〉
 [ん……やめっ……っ!!!!]

 「プツン」と、そこで交信が切れてしまった……。
 彼女らのやり取りをただただ静観するしかなかったトウヤたちだったが、各々違った反応を見せていた。
 
 ユウは自分の手の大きさを確かめるようにまじまじと見つめ、クラリスは自分の胸に両手を置いて何かを確かめ……。トウヤに至っては何かを想像しているのか、目をつむり鼻の下を伸ばしながらその何かを揉むように両手を動かす……。

 「はっ!」

 と、ようやく我に返ったのか。トウヤが開眼し。そして、気付く。
 ——俺たちはここに何をしに来ているのだと……。

(3)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 ( No.6 )
日時: 2012/06/11 00:14
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/3/

 「——ゴホン。ユウ、クラリス。仕事再開だ」
 「え? ああ、そうだな……」
 「……うん」

 トウヤの掛け声に我に返った二人は各々行っていた動作をやめ「仕事に集中」と、息を吐いて気持ちを入れ換え……。先を急いだ。

 アリスが示すナビ通りに奥に進むにつれて、徐々にではあったが……辺りの雰囲気が変わって来ていた。
 少々、物々しい雰囲気が辺りに立ち込め。トウヤたちは何か異変に気付く。
 前方に自動人形もしくは人間たちが誰かと交戦したのか、傷を負いながら倒れ伏せていたのだ。
 状態を確かめるべく、トウヤたちは彼らの元に駆け寄る。

 「……死んでる、か……」

 傷を負って倒れ伏せている一人を見つめながらトウヤが呟く。
 トウヤが見つめている人物は身体に切り傷が付けられており。こちらはトウヤのようにイヤリングを身に付けていたが、そこにあるはずの宝石が砕かれていた。

 「こっちもだ」

 ユウも倒れ伏せている人物を見つめながらそう口走る。
 こちらもイヤリングを身に付けているが、宝石が砕かれている。

 「……こっちは——ただの自動人形……」

 倒れ伏せている人物を見つめながらクラリスも静かに口走る。
 「ふむ……」と、トウヤはこの現状を見つめながら考察する。
 そして、考えが纏まったのか。トウヤは徐に口を開き、

 「……俺たち以外にもここに侵入している奴がいるのか……。それも一足先に……」
 「じゃ〜、先に行けばソイツが待ち構えているって事か?」
 「待ち構えているかどうか分からないが、その人物がもし俺たちに襲いかかって来たらその時は——」
 「……ああ」
 「……うん」

 二人は力強き頷き、彼らは先を急ぐ。
 進めば進むほど、通路や部屋などに倒れ伏せている者たちが増えて行き、悲惨な状況を物語っていた。

 ——それも、トウヤたちが目指している方向に向かって……。

 人間の血で赤く染まってしまった白い通路を進み、少し広いスペースに出た。その先に半開きになった人長け二倍以上ある大きな鉄の扉が彼らを待ち構えていた。
 その隙間から白い煙と共に淡い光が漏れ出ている。そこを見つめながらトウヤが。

 「……あそこか」
 「ああ、そうみたいだな。だけど……」
 「……うん、誰かいるよね……」

 気配を消し、静かに扉の傍まで駆け寄るトウヤはユウたちに「こちらへ来るように」と手で合図を送る。
 それに引き寄せられるようして二人も扉に近づく。
 そして、トウヤが扉の隙間から中を覗き込んでみるが、そこから漏れる強い光が邪魔で中の様子を窺う事が出来なかった。

 しかし、トウヤはそんな事よりも。この施設ならびに自分たちが承った仕事に少し疑念を抱いていた。
 そもそもトウヤたちは「武装集団に密売するために銃火器などを秘密裏に生産していると言う工場がある」との情報を聞きつけ、それを潰しにここに赴いていた。

 だが、それらしいモノは一切なく。
 ——ここは何かの研究施設じゃないか、と。トウヤは踏んだ。
 そんな考えが及んでいると、

 「——早く、入ってきなよ。僕の可愛い後輩たち……」

 突然、扉の中から呼びかけられた。

 その声はトウヤたちには聞き覚えがあると同時に、この状況下で最も遇いたくはなかった人物の声で。
 謎の声を聞いた瞬間。ユウとクラリスが顔色を変え。堪らず、ユウが武器を携えながら扉を蹴って中に駆け込んでしまった。

 その行動にトウヤは「チッ……」と、舌打ちをし。少し顔色が優れないクラリスを気遣いながら、ユウを追って中に入って行く。
 扉の中は白い煙に包まれ。前方から発せられる強い光がトウヤたちを照らす。

 その光に向かって一本の目に見えない道があり、それに沿って二人は進み。ようやく辿り着いた一番強い光を放っている場所に、トウヤとクラリスは足を踏み入れた……。


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