ダーク・ファンタジー小説
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- このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中)
- 日時: 2016/10/03 06:20
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: dFf7cdwn)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17981
○ はじめに
初めまして、猫又と申します。
ここに書き込むのは始めての初心者ですが、なにとぞよろしくお願いしますm(_ _)m
※注意この小説は、色々と精神的にくる可能性がありますので,
シリアスが苦手な方は閲覧をお控え下さいませませ。
そうじゃない方は、どうぞ読んでって下さい(´∀`*)♪
○ 読む上でのお願い。
・誹謗中傷や荒らし等々、迷惑行為は絶対に止めて下さい。
・コメント・アドバイスは大歓迎です。
・文才はありませんが、温かい目でご覧下さい。(・ω・`)
それでは、未熟な文ですが、お楽しみ下さいませ……。
○追記:
参照6800突破!!
ここまで見てくださった皆様。ちょっと見てみた皆様。間違ってクリックした皆様。本当にありがとうございます(>_<;)!!
この頃忙しくて更新遅れますが、見かけたら読んでくださると幸いです。
さて、なんというか修羅場を強引に終わらせて解決タイムに入りました。
(ちょっとトモエをいじめ過ぎて収集がつかなくなったのはナイショ)
ま、元々ホラー風のギャグだし許して下さい……(土下座)
とにもかくにも第8・9章の解決編スタートです。
ちなみに今ちょっと思いついた企画もあって。
いつか本編の『if』、もしも〇〇だったら〜というEnd集を書こうかなと思っています。
ホラーゲームによくあるバッドエンドとかですw
本編最終章がトゥルーエンドだとして、美咲には他にどのような運命があったのか……気になる方はお付き合い下さい。
続編……やっと一話終わりました……。↑のURL参照
こっちとお話がリンクしてるのでよかったらどうぞ。
○本編・登場人物の紹介
*幾田美咲
中学3年生。冷静、というより何事も諦めることで解決してる系女子。母親からかなり深刻な暴行を受ける毎日をおくっているが、これが運命だと諦め、絶望に身を委ねている。
*幾田真澄
美咲の母親。美咲いわく『ブランド至上主義者』。行き過ぎた教育という名の暴力を美咲に振るうが、若くして裕福な暮らしをさせてくれている夫、幾田秀にはべったりである。
*幾田秀(いくたすぐる)
美咲の父親。美咲いわく『楽観視のカタマリ』。
何事も深刻に考えない性格の持ち主だが、目の前で美咲が暴行を受けても気にしないという、異常な面もある。
いわゆるエリートサラリーマンで帰りが遅く、美咲にとっては親戚より遠い存在のようだ。
*ハナ
美咲にポケットティッシュを渡した女性。
格好からしてティッシュ配りのアルバイトをしているらしいが……?
態度を気分次第で変える、つかみ所の無い人物。
どうやら水を操れるらしい。
*佐々原友恵
自称、美咲の大親友。美咲いわく『馬鹿正直なバカ』。
荒っぽい口調で、少々強引な明るさを持っているが、美咲の父親とは違い、彼女なりに美咲を心の底から心配している模様。
*ビニール袋
2円。このごろお金がかかるようになった。
実はけっこう紳士かもしれない。
マイバックを持参する人間が増えて、このごろ寂しいらしい。
*白い傘(タタラギ ジャノメ)
おっさん。生地はレース。口は悪い。
物理的にも精神的にも芯がしっかりしている。
実は傘化け『一本足』の血筋。
長い時代を生きて(?)おり、付喪神達のまとめ役でもある。
昔は人をアタマから食い殺していたらしい。
*桜色のハンカチ
紙代花の友人らしいが詳しいことは不明。
↓後日談の登場人物はこちら(注意:ネタバレ有り)
>>196
○このティッシュ水に流せます 目次
第一章 プロローグ >>1
第二章 家出 >>2-5、>>12
第三章 ティッシュ
>>13-15 >>18-20 >>24 >>30-35
第四章 罪流し
>>36 >>40 >>46 >>49-52 >>55-56 >>60
第五章 憂いを背負うは人の性
>>63 >>69 >>74 >>79 >>83-88 >>96-98
零 幕間 『 』 >>106-107
第六章 明日へ流すは人の才
>>115-116 >>120-121 >>124-127 >>130-133 >>136 >>140 >>142 >>145-146 >>150 >>152-156 >>159-160 >>162-166 >>169-181
最終章 流れ着いた交じり合う海で
>>182-194
◇あとがきのような文章
1 >>195
2 >>226
○後日譚 水を差す話
・キャラ紹介 (本編のネタバレ注意) 3/27 更新
>>196
第七章 1滴目 流れたはずの物語
>>197-198 >>200-202
第八章 2滴目 流れ込んできたお客様の話
>>204-215 >>218-219 >>222-225
第九章 3滴目 流れ込んできたオッサンの話
>>227-228 >>230-238
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.234 )
- 日時: 2016/06/12 21:51
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: 11yHdxrc)
「…………」
私の頬を冷たい液がツーっと流れる。
なるほど、これが冷や汗というものか、と。冷静を装ってそんなどうでも良いことを考えてみるがそれでも内心のざわつきは収まらない。
穂坂……?
美咲のことを口にするだけでも怪しいのに、穂坂の姓を知っている……?
それは最近、うちのパパが美咲のお家騒動を取り仕切ることで美咲自身が名乗り始めた母方の姓。クラスメイトですら『幾多』と呼ぶ美咲の名字を穂坂と断言できるということは……。
つまり私達家族のことを嗅ぎまわっていることに他ならない。
心臓の鼓動に押されるようにして臨戦態勢に入った私は、一歩前へ歩み出る。
第一に自分の安全を、第二に大切な誰かの安全を。
多くの事件を見てきたらしいパパの口癖を思い出しながら、自分がここから逃げる一手と美咲を救う一手を少ない頭で考え、目を離さぬようじっと傘を見つめる私。
すると今までピクリとも動かなかった傘が突如動き出した。
『二階か……』「ッ!?」
そこでようやく私は自分がやってしまった失態に気付く。
動揺し“一歩退く”ならまだしも、“一歩前へ出た”なら、つまりその場所に……。
美咲が居るって言ってるようなものじゃんっ!!
不用意に階段の前へ身を乗り出してしまった私へと。
否、その奥にいる美咲(ターゲット)へと猪突猛進。カッ!ガッ!ガッ!と傘の先端、石突きを打ち鳴らしながら階段へ迫るジャノメを受け止めるべく、私は覚悟を決め両手を広げる。
『守らなきゃ……守らなきゃ、守りたい、守りたい……』
はたしてこんなバケモノ、受け止めれるのか。
自分を守るべきじゃないのか。そのもそもなぜ守るのか。
そんなことなど考える間もなく、ただ一心不乱に傘を見つめ二階の腐れ縁を『守りたい』と念じる。
瞬間。祈りで埋め尽くされてゆくココロのうちから、おぼろげな声が響いた。
——マモラナキャ……。
そうだ。守らないと……。
——ハヤク、ニカイ、へ。
二階? 二階に逃げろってこと?
——ハヤクシナイト……コロサレル。
殺される……?
殺されるというのは、目の前の傘に……ということだろうか。そう思い、もう一度迫ってくる傘を見た。歩きにくそうな一本足ではあるものの、徐々に速度を速めてゆく化け傘。
しかし、胸の奥の吹き溜まりから誰かが『チガウ』と叫んだ。
違う……“コレ”じゃない。『ダレカ』が二階で美咲を……コロス。
……ダレカ? いや。それ以前に……。
「私……誰と会話してるの?」
そう呟いだ瞬間。圧倒的重圧が私の体を襲う。
——クスリ。クスリ。フダ、フダ、フダ……。
物理的にではなく、精神的に……耳鳴りとも地鳴りとも区別がつかない言葉という轟音(ごうおん)がすさまじい勢いで私の頭をシメアゲル。
——フダフダフダフダフダフダフダフダフダクスリクスリクスリクスリクスリクスリクスリクスリククスクスクスクスクスクスクスクスクフダクスリクルシィフダクスリオトゥs——。
「止めて‼ 痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ‼」
轟音、轟音。轟音に次ぐ轟音が反響し暴れ回る頭を抱え、私はその場に崩れ落ちる。
「な……っ」
思いもよらぬ展開に前のめりになりがら止まる傘。
それに安堵する暇もなく、次から次へと言葉の濁流が私を襲ってゆく。
『これは……ハナの? ——いや、それだけじゃねぇ。コイツもしや……』
『記憶を……?』
「あぁあああ‼ あ……が、ぁ、あ、ああああああ‼」
喉を、頭を、耳を。
力なく掻き毟(むし)り、ひたすら悲鳴を上げる私の耳に傘の言葉が響く。
「やむなし、ってやつだな。……耐えろよ。小娘ッ!」
次の瞬間。
——ズン! と、地面に叩きつけられるような衝撃が私の体を駆け巡り、私の意識がトんだ。
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.235 )
- 日時: 2016/08/01 00:05
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: 11yHdxrc)
「ん……あ…ぁ?」
『大丈夫かー? 小娘』
しかしそれも一瞬だったようで、私は仰向けになったまま駆け寄ってきた傘の姿を見上げる。
しばらくの間、状況が理解できない妙な感覚に襲われたが、すぐに自分が床に倒れたのだと悟る。
『相当錯乱してたな……一時はどうなることかと』
「助けて……くれたの?」
傘がまだ何か言ってたが私は安全を確認するため、傘に手を伸ばす。
敵意がないなら触れさせてくれるはずだと、意図せずそう判断した私の手。
その手を見て、私はぎょっと目を見開いた。
「なにこれ……電気?」
パチ…パチィッ、という物騒な音を奏でながら私の手の上を電撃のようなものが走る。
見るからに危ないその現象を危険と判断したのは私だけでは無いようで、傘もまた『うぉっと、危ねぇ』と私から距離を取る。
『ハナの呪い……か。消えかかってるってこたぁ、こりゃもしや……』
なにやら熟考モードに入ったのかブツブツとつぶやく傘。
「……あのさぁ。何が言いたいの?」
いいかげん知らないうちに話が進んでいることに嫌気がさした私は傘を手と言葉で押しのけつつ起き上がる。すると傘はちらっとこっちを見る(ような仕草をする)と、何か考える素振りを見せながら口を開いた。
『あーまーお前も無関係ってわけじゃねぇだろうが。……よし、この際だ、お互い腹を割ろうじゃねぇか』
傘は『座れ』と自分の家でもないのに私を階段へ座らせると、自分は沿うようにして作られた階段の手すりにフックを引っ掛けて話を続ける。
『まず大前提として俺がこの家を訪れた理由は嬢ちゃん。……つまりはお前がかくまってる幾多美咲の呪いを解くためだ』
振り子のように揺れる傘から気さくな声が飛ぶ。
「呪い?」
『あぁ、おおかたお前は“病気”だとでも説明されてるんだろう? だがな、実際お前の親友を蝕んでんのはそんじゃそこらの病原菌じゃぁねぇよ。……もっと単純かつ恐ろしい“呪い”だ』
呪い。
その言葉に戦慄する暇もなく、傘はさらにとんでもない言葉を付け加えた。
『そしてお前もまた、その呪いに侵されていた』
「!?・・・」
物騒な話題が自分に移ったことに驚き、息を飲む私。
しかし傘はあくまで話を続ける。
『そこらは病気と一緒だ。呪われた者に近づけば、そいつもまた呪いを受ける。お前がここ数日意識を失っていたのもそのせいだ』
「いや、でも結果的に私が回復したのはパ……お父さんが持ってきたクスリを飲んだからで、呪いとかそんな……」
怖い話はやめてよ、と言いたくて。
それでも緊張のあまり言葉に詰まる私を、しかし傘はたしなめるでもなくただ、『あぁ……うぅ』と面倒くさそうにうなったかと思うと、一転。意を決したように宣言した。
『この際だ、はっきり言おう。……お前は妖術師の娘だ』
「………………は?」
『具体的に言えば俺みたいな付喪神を取り扱う陰陽師。オモテの肩書が何かは知らねぇがお前の父親の本職はそういう仕事だよ』
「ちょ。ちょ、ちょっと……待ってよ」
ありえない方向に進む話についていけないと音を上げる。
すぐに口(?)をつぐみ私の言葉を待つ傘を凝視しながら、どうにか絞り出した言葉は疑問詞だった。
「パパが……?」
不思議なことに否定的な気持ちはなく、ただ私はまるで“初めからその事実を知っていた”かのように事実を聞き返す。
「あぁ、ただの人間じゃねぇ……。あくまでも信じられないって言うなら、ほれ」
「後ろを見てみろよ」
そう言われて、急に嫌な汗が背筋を伝う。
何か得体の知れないものでもいるのかと振り返った2階への階段では、想像とは裏腹に幻想的な風景が広がっていた。
「……電……流?」
私の手に巻き付いているのと同じような青い電撃が、階段の壁を走っている。
そして、禍々しくも美しいそれが走るたび細長い紙のようなモノがぽぅっと現れ、思い出したかのようにまた消えてゆく。
『たいした知覚妨害だよなぁ……。効果が出る直前まで見えやしねぇ』
傘が何か言っている。
『お前の呪いに反応してんだよ』
私にその意味までは理解できない。
『さっきの発狂で術が消し飛んだからな』
でも。
『理由は分からねえが、お前のカラダから呪いが放出されてんだ』
でも。さっき頭を駆け巡った“何か”が告げている。
『まったく』
“急げ”と。……ハヤクシナケレバ。
『クスリといい、この階段の仕掛けといい……お前のオヤジ。嬢ちゃんを使って一体何を企んでやがるんだろうな』
「…………ッ!!」
美咲が危ないッ!
そう口に出さずに叫んだ時には、私は無我夢中で階段を駆け上がっていた。
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.236 )
- 日時: 2016/09/12 23:37
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: Iqcykxw8)
『ちょっと待て!! むやみに駆け上がって罠があったらどう——』
『知らないッ!』
『知らッ!? いや、これだけ札が貼ってある階段を駆け上がるとか、無計画にも程があるぞ! おい! 止まれッ!』
必死で私を制止しようとする傘の声が背後から聞こえる。それでも私は階段を駆け上がり、美咲のいる空き部屋へと急いだ。
幸い、傘の警告とは裏腹に怪しげな罠も呪いも無く、数十分にも思えた一瞬のあと私は空き部屋の前に立っていた。
「ハァ……ッ。ハァ……ッ」
普段はなんてことのない階段。
それでも緊張から息を切らす私の脳裏についさっき投げかけられた言葉が響く。
『もう2階には近づかないようにね?』
「……ごめんねママ。約束は守れそうにないや」
危険かもしれない。……何が?
知りたくない真実を知るかもしれない。……どんな?
恐怖から、自問自答を繰り返す自分を「分からない」と投げやりに押し込め、私はドアノブに手をかける。
階段下からコンッ、コンッと音が響くものの、一本足で階段を上るのは時間がかかるのか、傘はまだ上がって来ない。それでも確実に自分を止めに来る足音に押される形で、私は部屋の中へと突入した。
真っ先に目に飛び込んできたのは記憶通りの風景だった。
特にお札が張り巡らされているとか、怪しい儀式が行われているとかそういうことは無く。ただ単に、雑然と段ボールが置かれている中に布団が敷かれ、その上には当然のように美咲が居た。
「みさき……。美咲っ! 無事なの!?」
安堵と恐怖から声を張り上げ、美咲に駆け寄る私。
仮に誰かから監視されていたり、部屋にトラップでもあれば自殺行為に等しいその行動を、しかし私は嬉しさから何のためらいもなくやってしまった。
そして、馬鹿丸出しで部屋に踏み入った私に反応したのは罠でも、もちろん怪しげな術でも無く——。
「ひ……っ!!」
——美咲本人だった。
「…………え?」
まるでバケモノにでも会ったかのように目を見開き、立ち上がる暇もなく手の力だけで後ずさりするその様子に……いや、もっと言えば——。
「いやだ!! こないで! ……おねぇちゃんだれなのッ!?」
——虚ろに開いた眼ゆがませ、子供のように喚き散らす『ダレカ』を目撃し……私の抱えていたいくつもの決心は、一瞬で崩れ去った。
「ドコなのここ!? なんで? ……おとうさんは? おかあさんどこにかくしたの!?」
「お……落ち着いて美咲。気が動転してるの?」
何をすべきか。一体何が起こっているのかは分からなかった。
それでも条件反射で美咲をなだめるも、美咲は泣き叫びながら距離を取る。
「なんで……? なんでわたしのなまえしってるの……?」
「まずは冷静になろ!? ね?」
「いや。イヤだ……こない……でッ!!」
そう言って立ち上がろうとする美咲。
慌てて追いかけようと身を乗り出した私は、しかし。さらに信じられないものを見た。
「……あれっ? あれ? あし……たてない……っ」
まるで歩き方を知らない生まれたての小鹿のように、地べたで足をバタつかせながら困惑する美咲の姿に。……あくまで、あくまでカン。想像でしかないものの……私はその答えを確信をもって口にした。
「幼児……退行……?」
いや。というより、まるで……。
“成長したことを忘れた”かのように、美咲はその長い手足を不器用に振り回す。
どちらにしろ、今の美咲は壊れているようだ。
……いや。何を甘っちょろいことを言っているんだ佐々原友恵。
壊れた? ……違う、“壊された”んだ。
誰に……? 心の中でそんな“分かりきった”問いかけをする。
当然……と続ける私の思考、しかしそれよりも早く、“答え”はやってきた。
「……トモぇエッ!」
背後からダンッ! と床を踏みしめる音が響いたかと思うとそこには息を切らし、目を見開く“奴”が居た。
「見た…のか……ッ」
声を荒げ、ひどく焦燥した様子で語るそれを、私はただ見つめる。
反応すら出来ず、ただ立ちすくむ。
「見て、しまったのか……」
怒り、そして失意。
そんな感情を湛えた目を向ける彼の——パパの顔を私は……私は、私は——。
「…………トモエ。まずは落ち着いてパパの話を」
「う……ぅあああああああああああああああああああ゛あ゛あぁああああああ!!」
渾身の力を込めてぶん殴った。
訳もわからず奇声を上げ、ただひたすらに右手を、右腕を振り抜いた。
——ハズだった。
「ほいっと」「……へ?」
しかし一瞬後、宙を舞っていたのはパパではなく、私だった。
振り上げた右手を軸として、器用に体を回されその場に倒される。
それはそう、相手の勢いを曲げるヤワラの技。つまり私は……。
「もー、やんちゃが過ぎるよー? トモエちゃん」
まるで当然のように現れたママに放り投げられていた。
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.237 )
- 日時: 2016/09/12 23:46
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: Iqcykxw8)
「……っぅッ!」
そう思ったのも束の間、私は畳張りの床に打ち付けられる私。
少しだけ体に響いたものの痛みはない。すぐに体制を立て直し、突進する。
本来、抱くはずの疑問や違和感は恐怖と狂気ですでに掻き消えていた。
ただ、目の前の“恐怖”を消す。
生物共通の殺戮衝動とも呼べるそんな理由で、私は声にならない叫びを上げながらママに特攻をかける。
何も考えていない。流されても流されても喰らい付かんばかりの衝動を、しかしママは——。
「……………。……え?」
真っ向から受け止めた。
「大丈夫……大丈夫よ。トモエ」
私の爪が抉ったのか、右頬にできた傷から血が滲み出す。
どこか痛めたのか、私の勢いを殺した左半身から徐々に崩れ落ちる。
技も技術もなく単に踏ん張り私を受け止めたママは、決して無傷ではなかった。
しかし、それでも……。
「怖かったの? ……もう怖くないよ。もう誰も怖いことしないからね……」
それでも彼女は“私を抱いたまま”、離そうとはしなかった。
崩れ落ちても、それでもまるで私を包み込む様に丸まって、抱き続けていた。
「あ………ぁ……」
その温かさで、私の喉から何かが溢れ出す。
押し殺していた何かが、溶け始める。
「あぁ……あぁ……」
恐怖。孤独。不安。絶望。
そんなものが溶けて……ただ、ただ。
誰かに“大丈夫”と言ってほしかっただけの私に、素の私に戻っていくのを感じた。
それからは……書くのも恥ずかしいほど幼稚に私は泣いた。
顔中涙と鼻水でぐしゃぐしゃになるほどみっともなく私は泣いた。
途中、階段下から傘(ジャノメ)が上がって来て、パパと一緒に“一体何が起きたんだ”とばかりに呆然としていたけど、ママが「出て行きなさい」と睨みをきかせた結果、パパと2人(?)でずこずこと1階へ退散していった。
不思議と1人と1匹は友好的だった。
何かヒトコト、フタコト話し合っていたようだが、ママに脅さ……怒られた後は、まるで親友のように談笑しながら階段を下りて行った。
後から思えば、この時すでに、『誤解』は解けていたのだろう。
また寝てしまったのか、それとも私の大声で気絶してしまったのか、気づいた時には美咲は意識を失っていた。
すぅ…すぅ…と寝息を立てる親友の胸に手を置きながら、私は泣き腫らした顔で何度も確認するように頷いたあと、頬をゆるめた。
まだ不安も恐怖も完全には消えてはいなかった。
それでも自分の親友はここに居て、私の大切な日常は何も変わってないんだと思い込んで。ただ『大丈夫』と自分に言い聞かせる。
すると私をなだめていたママの口から、満を持して謝罪の言葉が飛び出した。
「ごめんねートモエ。……ママもパパも、たぶん美咲ちゃんもだと思うけど……こんなことになるなんて思ってなかったの」
- Re: このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中) ( No.238 )
- 日時: 2016/10/03 06:19
- 名前: 猫又 ◆KePkhUDKPk (ID: dFf7cdwn)
「…………こんなことって?」
「こんなこと、よ」
泣き腫らした喉からたずねると、ママは美咲の顔を見ながらただそう言う。
その顔はあまりに真剣で、私は顔が徐々に強張ってゆくのを感じた。
「大丈夫。美咲ちゃんはすぐ元に戻るから心配しないでいいよー」
が、そんな一抹(いちまつ)の不安も勘違いだったようで、ママはいつもののほーんとした笑顔で続ける。
「さて、何から話したらいいかな〜。うーん……あ。じゃぁ、トモエは神様とか信じてる?」
「え……いきなり何を」「信じてる?」
「いや、まぁ。何かあるとすぐ『神様—!』って頼ったりするけど……」
いきなりの質問に困惑するも、どうやら話を変える気は無いようなので素直に応じる。
その答えに納得がいったのか、それとも元より答えなんてどうでもいいのか話を進める母。
「うん! その神様。願い事を叶えてくれたり、嫌なことを消してくれたりする神様! ……でね? 美咲ちゃんはその神様の力に触れちゃって、反動で呪いを受けちゃったの」
「はぁ?」
神様、呪いと信じられないワードが飛び出す突拍子のない話に思わず声を上げる。
しかしママはそんな私の顔を見て「すごいでしょー?」と笑う。
その反応を見て『ママの話が突拍子もないのは今に始まったことじゃないか』と苦笑いを浮かべつつ、とりあえず今は冗談半分にその話を聞くことにした。
「神様が願いを叶えてくれるかどうかは分からないけど、神様はね? 色んなものを消してくれてるの」
「消す?」
「誰かを憎んだり、恨んだり……そういう“ヨクナイモノ”を神様は掃除してくれているの」
「ふーん」
よく意味は分からなかったが、それでも作り話だと思って適当に返事を返す。
しかし続いた言葉に私はもう一度間を見開いた。
「だからね。そんな途方もない力に触れたら……ましてや人間が利用しようとしたら。とてつもない呪いが来るの。触れた人間が消えてしまうほどのね」
「…………美咲が、そんなことを?」
あの気丈そうな友人が、真面目そうな親友が、なにより努力の天才であるコイツが……神様とか呪いとかそんな怪しい力に手を染めるとは考えられなかった。
それでも…それが本当なら結局美咲の自業自得なのかな?
そう心の中で問う私に、しかし母は「違うよ」と続ける。
「だって仮にトモエが犬のフンを踏んだとして、それが全部トモエのせいじゃないでしょ?」
「どういうことなの……」「そういうことー」
つまりは色々と複雑な理由があったんだ、と言いたかったらしい母は相変わらずの笑顔でまた口を開く。
「でもね。どんな理由でも今の美咲ちゃんはその“とてつもないモノ”に憑りつかれちゃってるの。だからね? 実はこの下。こんな風になってたんだよ?」
そう言いながら、美咲の寝ているかけ布団をめくるママ。
今度は一体何だ? と内心呆れながらその“布団の下”とやらを見る私。
しかし、それを見た瞬間。私は何のリアクションもできなかった。
「ねー? すごいでしょ?」
美咲が寝ていた掛布団の下、そこにはまるで“何かにエグられた”かのような大きな穴が開いていた。
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