ダーク・ファンタジー小説
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- このティッシュ水に流せます (後日譚執筆中)
- 日時: 2016/10/03 06:20
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: dFf7cdwn)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17981
○ はじめに
初めまして、猫又と申します。
ここに書き込むのは始めての初心者ですが、なにとぞよろしくお願いしますm(_ _)m
※注意この小説は、色々と精神的にくる可能性がありますので,
シリアスが苦手な方は閲覧をお控え下さいませませ。
そうじゃない方は、どうぞ読んでって下さい(´∀`*)♪
○ 読む上でのお願い。
・誹謗中傷や荒らし等々、迷惑行為は絶対に止めて下さい。
・コメント・アドバイスは大歓迎です。
・文才はありませんが、温かい目でご覧下さい。(・ω・`)
それでは、未熟な文ですが、お楽しみ下さいませ……。
○追記:
参照6800突破!!
ここまで見てくださった皆様。ちょっと見てみた皆様。間違ってクリックした皆様。本当にありがとうございます(>_<;)!!
この頃忙しくて更新遅れますが、見かけたら読んでくださると幸いです。
さて、なんというか修羅場を強引に終わらせて解決タイムに入りました。
(ちょっとトモエをいじめ過ぎて収集がつかなくなったのはナイショ)
ま、元々ホラー風のギャグだし許して下さい……(土下座)
とにもかくにも第8・9章の解決編スタートです。
ちなみに今ちょっと思いついた企画もあって。
いつか本編の『if』、もしも〇〇だったら〜というEnd集を書こうかなと思っています。
ホラーゲームによくあるバッドエンドとかですw
本編最終章がトゥルーエンドだとして、美咲には他にどのような運命があったのか……気になる方はお付き合い下さい。
続編……やっと一話終わりました……。↑のURL参照
こっちとお話がリンクしてるのでよかったらどうぞ。
○本編・登場人物の紹介
*幾田美咲
中学3年生。冷静、というより何事も諦めることで解決してる系女子。母親からかなり深刻な暴行を受ける毎日をおくっているが、これが運命だと諦め、絶望に身を委ねている。
*幾田真澄
美咲の母親。美咲いわく『ブランド至上主義者』。行き過ぎた教育という名の暴力を美咲に振るうが、若くして裕福な暮らしをさせてくれている夫、幾田秀にはべったりである。
*幾田秀(いくたすぐる)
美咲の父親。美咲いわく『楽観視のカタマリ』。
何事も深刻に考えない性格の持ち主だが、目の前で美咲が暴行を受けても気にしないという、異常な面もある。
いわゆるエリートサラリーマンで帰りが遅く、美咲にとっては親戚より遠い存在のようだ。
*ハナ
美咲にポケットティッシュを渡した女性。
格好からしてティッシュ配りのアルバイトをしているらしいが……?
態度を気分次第で変える、つかみ所の無い人物。
どうやら水を操れるらしい。
*佐々原友恵
自称、美咲の大親友。美咲いわく『馬鹿正直なバカ』。
荒っぽい口調で、少々強引な明るさを持っているが、美咲の父親とは違い、彼女なりに美咲を心の底から心配している模様。
*ビニール袋
2円。このごろお金がかかるようになった。
実はけっこう紳士かもしれない。
マイバックを持参する人間が増えて、このごろ寂しいらしい。
*白い傘(タタラギ ジャノメ)
おっさん。生地はレース。口は悪い。
物理的にも精神的にも芯がしっかりしている。
実は傘化け『一本足』の血筋。
長い時代を生きて(?)おり、付喪神達のまとめ役でもある。
昔は人をアタマから食い殺していたらしい。
*桜色のハンカチ
紙代花の友人らしいが詳しいことは不明。
↓後日談の登場人物はこちら(注意:ネタバレ有り)
>>196
○このティッシュ水に流せます 目次
第一章 プロローグ >>1
第二章 家出 >>2-5、>>12
第三章 ティッシュ
>>13-15 >>18-20 >>24 >>30-35
第四章 罪流し
>>36 >>40 >>46 >>49-52 >>55-56 >>60
第五章 憂いを背負うは人の性
>>63 >>69 >>74 >>79 >>83-88 >>96-98
零 幕間 『 』 >>106-107
第六章 明日へ流すは人の才
>>115-116 >>120-121 >>124-127 >>130-133 >>136 >>140 >>142 >>145-146 >>150 >>152-156 >>159-160 >>162-166 >>169-181
最終章 流れ着いた交じり合う海で
>>182-194
◇あとがきのような文章
1 >>195
2 >>226
○後日譚 水を差す話
・キャラ紹介 (本編のネタバレ注意) 3/27 更新
>>196
第七章 1滴目 流れたはずの物語
>>197-198 >>200-202
第八章 2滴目 流れ込んできたお客様の話
>>204-215 >>218-219 >>222-225
第九章 3滴目 流れ込んできたオッサンの話
>>227-228 >>230-238
- Re: このティッシュ、水に流せます ( No.179 )
- 日時: 2015/07/12 14:14
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: Ib5HX0ru)
「過去を明日へと流す。ですか……」
それから長い長い十数秒を経て、美咲は静かに目を開いた。
「……たしかに、そうかも知れませんね」
その際、瞼の裏に溜まっていた涙が零れ落ちるが、美咲はそれを指先でぬぐうと傘にキッパリとこう告げる。
「でも……私にそんな力はありません」
『あぁ……それでいい』
しかし傘は当然だと体を振った。
『こんなまどろっこしい嫌がらせをしておいて「今すぐ考え方を改めろ」なんて、口が裂けても言えるわけねぇ』
ま、俺に口はねぇけどな。と真面目なトーンのまま笑う傘。
『ただ……頭の片隅にでも覚えておいてくれ。お前の人生はまだ終ってない。もがき続ける限りどこまでも広がるってことをな……そして』
「かえって迷惑だろうけど、私達が陰ながら応援してるってこともね」
背後からの声に、美咲は後ろを振り返る。
すると今度は少し距離をおいた場所にハナが立っていた。
『おぉご主人様。もう鼻かみ終わったのか?』
いつの間にか帰ってきていたごハナを馬鹿にしたような態度で迎える傘。
見回してみると、他の付喪神達もなにやら楽しそうにハナを見ている。
「誰かさんが余計な話をしている間にね……ッ」
そんな付喪神の群衆から受ける空気に耐えかねたのかハナは皮肉っぽくそう返すと、地面を蹴り、空中で一回転しながら美咲の前に着地した。
「とにかく。巻き込んじゃった責任もあるし、ある程度は協力して行くつも——」
「ねぇ、何でですか……?」
そうして美咲の目を見据えて語りかけるハナの言葉を、しかし美咲は途中で遮った。
「さっき傘さんが話してたのは、あなたのことなんでしょう?」
「……さぁ、どうだか」
美咲の質問にハナは露骨に目を逸らす。
美咲はそれを肯定と受け取ると、さらに続けた。
「あなたが私と同じような目にあったことまでは理解できました。
でも、あなたの行動理由がさっぱり分からないんです……」
「私を利用したり、助けたり……。怒ったかと思ったら泣いて……」
「あなたは……。一体なにがしたかったんですか?」
- Re: このティッシュ、水に流せます ( No.180 )
- 日時: 2015/07/13 23:42
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: Ib5HX0ru)
「……いらない時に大量に出て、欲しい時に出てこない。そんな気まぐれさがポケットティッシュのアイデンティティなんだけどね」
バツの悪そうな顔をしてそう誤魔化すハナ。
しかしさらに美咲の視線がきつくなったため、ため息混じりに口を開いた。
「……同じ道を、歩んでくれると思ったのよ」
血を吐くように低く、疲れ果てた声。苦々しいハナの表情とあいまって、その声を聞いた美咲は喉まで出かけていた文句を黙って飲み込む。
「もちろん初めは単なる気休めで、そんなつもりはなかったけど。……でも、アナタが私の力を使ってしまったと知って、正直。焦る反面、期待しちゃったの」
期待。その言葉に美咲は一瞬だけ眉をぴくりと動かすが、ハナは申し訳無さそうに「違う」と首を振る。
「これだけの不幸を背負った人間なら、叶わぬ願いを背負った人間なら……もしかして、私と一緒の道を歩んでくれるんじゃないか、って。……そう思っちゃったのよ」
「だから適当に言い訳して放置した。危険だと知っていて、手を下さなかった」
罪悪感。ハナが今まで全く表に出さなかったその感情に押しつぶされてか、ハナの顔が徐々に曇り始める。
「そのかわり、もしあなたが願いのために命を捧げたら。私のトモダチとして全てを尽くしてあげようと思っていたのよ……」
そんな自分を嘲けっているのか、「ふ……ふふ。あはは」と渇いた笑いを口から吐き出すハナ。
「バカバカしいでしょ? そう、全部私のとんだ思い違いだったのよ……。願いのために自分の命を捧げるような馬鹿は……私ぐらいだった、ってわけ」
今まで美咲がそうしてきたように、今度はハナが自分を嘲笑う。それどころか、また目の下に涙をしたためながら「いや、それ以前に」とさらに口角を釣り上げる。
「自分の人生をクソだと決めつけて地獄に落ちるような馬鹿が、人の不幸を嘲笑うこと自体が間違ってたのかも……ね」
「紙代……さん」
先ほどまでの自分と同じように自嘲的な笑みを浮かべるハナに同情しているのか、美咲は始めてハナの名を呼ぶ。するとハナは静かに目を閉じたかと思うと、突然深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「本当はもうそれしか言うことがない。……でも、アナタが踏みだそうとしてるこの場所で、そんなこと言うわけにはいかないから……だから」
ひどく弱気で、ひどく消極的なその声に……美咲は今度こそ確信した。
この人は……私と似ている。
でも……紙代さんは、選べなかった。踏み出せなかった。
それが今、こうして微かな違いを生んでいるのかもしれない。と、
「だから……最後まであつかましく、憎たらしく言うね」
しかし美咲の中で芽生えたそんな気付きなど知るはずもなく、ハナはただ泣きそうな顔に力を入れて、どうにか真顔のまま美咲に告げた。
「足掻きなさい。苦しみなさい。そして、踏み出しなさい。……私が歩めなかった自分の人生を歩き続けなさい。……きっと、生き続けるなら。いつか自分の傷を——届かぬ叫びを、いい形で明日に変えれるハズなんだから……!!」
「…………は。…はは」
その姿があまりに健気だったからなのか。
それとも、必死なハナに何か感じ取るものがあったのか。美咲はその瞬間。
「余計なお世話……です」
この一晩で始めて。純粋に微笑むことができた。
- Re: このティッシュ、水に流せます ( No.181 )
- 日時: 2015/07/16 18:32
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: Ib5HX0ru)
数分後。
なんだか場が打ち解けたことを察したらしく、付喪神達が、
『じゃ、手始めに盗聴とか盗撮とかしてみる?』『あ、いいな。録画機能あるやつ〜』
『できればDVDにダビングできるやつ〜』
『とっくの昔に捨てたれた俺達にそんな機能あるかよ……』
『ビデオテープが限界でしょうねぇ』
と何やら不穏な会話をする中。
紙代花は黙って目の前にある水たまりに手をかざす。
すると、水面が揺れたかと思うとネオンが光り輝く商店街が映し出された。
その光景に美咲は見覚えがある。
あの時、ティッシュを受け取った場所だ。
「さぁ、ここに入ればあなたは何事も無く自分の部屋で目覚める……」
「……そう、ですか」
「いまさら引き返すとか言わないでよね……?」
「引き返しませんし、引き返せません」
なんにしろ、これが最後のチャンスなんですから。と言葉を返しながら、美咲は水たまりをのぞき込んでみた。
辺りが真っ暗な、このムカイと鏡合わせに映し出された元の世界。
それを見た瞬間、美咲は一瞬だけホッとしたような顔をした後、
不安でまた表情を曇らせたまま、ハナと目を合わせる。
「それじゃぁ……」
「……いってらっしゃい♪」
するとハナはさっきまでの泣き顔が嘘のように、
曇り1つ無い笑顔を浮かべていた。
それがなんだかとても悲しくて。自分が悲しまないように笑っていると思うとひどく腹立たしくて、美咲は踏み出す前にこう尋ねた。
「また……会えますかね?」
その言葉に。ハナは少し驚いたような仕草をしたものの、また満面の笑みを作る。
「私から会う気は……もう、ないけど。もしかしたらスーパーとかコンビニとかですれ違うことぐらいはあるのかも。私ウインドウショッピングも好きだし……」
「どういうことなんですか……」
あくまで茶化すハナの態度に馬鹿馬鹿しくなったのか、美咲は呆れ顔でそう言い放つと、何歩か進み、水たまりの前までくると再び仕切りなおした。
「それじゃ……本当にさようならですね」
「そうね、または会えないから“さようなら”ね」
——さようなら。
その言葉を最後に美咲は目の前の水たまりに飛び込んだ。
水たまりはあっという間に美咲を飲み込み、元の世界へと——忌々しいあの世界と押し流す。
ハナはそれを数分近く、美咲が見えなくなっても眺め続けていたが、ふと我に返ったのか1人、こう呟いた。
「そう“さようなら”よ。美咲ちゃん。だって私はどうやってもあなたに会うことはできなくなるのだから……」
“届くはずのない言葉”を、“届かないからこそ”投げかけるハナ。
「でも、まぁ……」
その顔は——どこか清々しくも、泣き出しそうだった。
「最高の思い出だった。これで、心置き無く“死ねる”……」
しかしそれさえも、泣くことさえ無駄なことだと諦めたハナは涙を流すこと無く、目の下に溜まっていた邪魔な液体を宙に放り投げ、静かに笑う。
もしかしたら一緒に居てくれたかもしれない友へ、
そして今、自分を心の底から怨みながら元の“道”にもどりつつある裏切り者へ、
最後の言葉を紡ぐ。
「ありがとう。……美咲ちゃん」
- Re: このティッシュ、水に流せます (第六章 完) ( No.182 )
- 日時: 2015/08/21 15:25
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: 6/Iobdvc)
◇ ???
「——って都市伝説なわけよ。どうだ? すごいだろ?」
午後12時。昼休みの暁矢東高校——学生食堂。
券売機の方でガヤガヤしている学生の声を掻き消すような大声で富山和人が向かい側の席に座っている女子学生にそう言い放つ。
しかし女子生徒はうんざりした目で和人を見ると、「へぇ……そぅ」と適当に言葉を返して、きつねうどんをずるずると啜(すす)った。
「なんだよ穂坂(ほさか)、つれねぇなぁ……」
その反応が気に入らなかったのか、和人はテーブルを叩きながら熱弁し始める。
「過去を変えられるティッシュだぞ!? 人間には真似できない神秘的サムシングだぞ!? それを使った奴の噂もあるし! 掻き立てられるだろ!? 好奇心がッ!」
「うるさいッ! うどんがこぼれるでしょ!?」
が、そんなことをすればテーブルは揺れるわけで。和人は穂坂と呼ばれた女子生徒から「いい加減にして!」と一括された。
「……ったく。夢もロマンもねぇやつだなぁ……」
話の腰を折られて拗ねたのか、そうボヤく和人。
しかし以外にもその発言にカチンときたらしい穂坂は「あのねぇ……」と睨み返す。
「もう少し現実味のある都市伝説ならまだしも、ティッシュで過去を変えたとか……そんなあやふやな作り話、信じられるワケ無いでしょ?」
すると和人は馬鹿にしたようにニヤニヤ笑った。
「ほーら。夢も希望もないじゃねぇか」
「……夢と妄想の区別もできないアナタよりはマ・シ! それに、朝から顔を合わせるたびにそんな話されたら、誰だって飽きるって分からないの?」
そうして完膚なきまでに反論を並べ立てた穂坂に対し、和人はしばらく「う……ぐぐ……ぐ、ぐ」と唸っていたが、最後の最後に吹っ切れたのかテーブルに突っ伏し叫ぶ。
「くっそ……ッ! どうせお前のことだから何で俺がこんなことしてるか知ってるんだろ!?」
「あぁ。高校でオカルト研究会を正式に立ち上げるためでしょ? 人数が集まらないと学校から援助が受けられないもの」
でも、私は協力する気は無いわヨー。
と無慈悲に和人を突き放し、ズルズルときつねうどんを啜る穂坂。
その言葉を聞いた和人はガクッと力尽きたモーションを取り、死んだふりをしながら落胆する。が、回復したのか1分もしないうちに再び顔だけ上げ、真面目なトーンでこう切り出した。
「いや……まぁそれもそうなんだが、一応別の理由もある」
「別の理由?」
なんだ、まだ生きてたのかと呆れながら適当に返事をする穂坂。
対して和人は「いや、なんとなくなんだけどさ」とめずらしく前置きをして話し出す。
「お前……無理してないか?」
その瞬間、今まで冷静な態度を貫いてきた穂坂の顔が歪んだ。
「…………別に」
だがそれも一瞬で、穂坂はまたうどんを啜ろうとして——。
「あっ……」
箸をどんぶりの中に落としてしまった。
と同時に自分の手が震えていることに気付き、サッと手を隠すとうつむきながら低く唸る。
「アンタの……。妄想でしょ?」
何かを悟られないように、恥をかかないように、
「無理って……何? そりゃ、学年トップ目指してるから勉強もかなり頑張ってるし、馬鹿なアンタから見たら無茶してるように見えたかもしれないけど、これは——」
ひどく押し殺されたその声を、和人はテーブルの下で拳を握り締めながら穂坂の話を聞いていたが、ついに我慢できなくなったのか、テーブルの下に隠された穂坂の手を指さし言い放つ。
「それじゃぁ説明しろよ……その両手にある傷。それはさすがに勉強でできるような傷じゃねぇよな?」
- Re: このティッシュ、水に流せます (第六章 完) ( No.183 )
- 日時: 2015/07/20 21:48
- 名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: Ib5HX0ru)
「…………」
それでも穂坂は何も答えない。
ただ話題が移り変わるまでじっと身を縮めている。
その態度を見た和人は一瞬、頭に血がのぼったのか奥歯を噛みしめるものの、相手が女子であることを思い出し、逆に冷静な態度を見せる。
「たしかにオレはお前の幼なじみでも無いどころか、中3の頃に何度か会ったぐらいで、今年同じクラスになるまでお前のことなんてほぼ知らなかったけどさ。……でも、何か無理してんな、って。やっぱお前見るとそう思うんだよ……」
「だから心配だった……。そう言いたいの?」
しかし冷静さなら圧倒的に穂坂の方が上だった。
凍てつくような言葉で切り返された和人はその恐ろしさに身を引きながら慌てて取り繕う。
「い、いやまぁ余計なお世話だってのは分かってるんだけどさ? ……いや、でも。お前いつも授業終わった途端に大急ぎで帰るだろ? なんか青春真っ盛りの高2だってんのに全然楽しそうじゃなかったから、その……それなら、ウチの部活に入らねぇかな〜。って……」
最後の最後で自身が無くなったのか言葉が尻すぼみになり、結局小声でぶつぶつ言いながら反応をうかがう和人。そんな和人に対し穂坂はあくまで興味無げな声を上げながらも、どこか楽しそうに言う。
「ふーん。それでわざわざ気を回してくれたわけ……?」
「……あ、あぁ、そうだ。いや、たしかに余計なお世話だとは——」
「ありがと」
「……ぇ?」
投げ捨てるように投げ返されたその言葉に固まる和人。
しかし穂坂はもう一度繰り返す。
「ありがと。……その、まぁ。心配してくれたことに関しては嬉しいから。……ありがと」
「あ……。あぁ。そ、そっか」
どこか不機嫌に、または照れくさそうに「ありがと」と繰り返す穂坂。
なぜだかそんな穂坂を直視できなくなった和人。
2人の間に数秒間。妙な沈黙が訪れる。が、
「ま……まぁ、正直に言うとバイトで怪我したのよ。ちょっと……失敗しちゃって」
なぜだか漂うムードに危機感を覚えた穂坂が、どんぶりの中からダシがよく染みた箸を取り出しながら会話を再開したので、和人もそれに乗っかった。
「そ、そうか。いや、でも……怪我って言うより、手の甲がアザとか傷だらけだったような——」
「そ、それは……見間違えでしょ? ただの怪我だって……。そう言ってるじゃない」
しかしまたもや雲行きが怪しくなってくる。
「いや、オレもバイトしたことあるけど傷とかアザとかあんまできねぇし……」
「きっと体が丈夫なのよアンタは……! ほら、馬鹿は風邪ひかないって言うじゃない!」
「……おい。誰のこと言ってんだ?」
「……それすら分からないほど馬鹿なら言っても無駄でしょ?」
「あぁ?」「はぁ?」
結果、一触即発状態。何のためらいもなく本気で睨み合う2人。テーブルを挟んで「ちょっと一発殴ってやろうか」と加熱していく両人の間で冷めてゆく、きつねうどん。
その場に居る人間には誰も止められない言い争いの火蓋が切られるかと思われたその瞬間。
「おーい。かずと〜。かずと〜。おーい聞こえる〜?」
誰かが食堂の入り口から2人の居る席に向かって大声で呼びかけてきた。
その場の雰囲気などまるで考えていないその脳天気な声に、頭に血が上りかけていた2人はほぼ同時に返答する。
『ち、千里!?』
そう、その場に居たのは2人のクラスメイトである白凪千里(しらなぎ ちさと)だった。
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