ダーク・ファンタジー小説

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宵と白黒
日時: 2020/10/20 06:57
名前: ライター (ID: cl9811yw)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=20128

 名前も記憶も、誰もに平等なものなんて有り得ない。誰もがきっと、自分の為だけに生きている。

───────────────────


こんにちは、ライターと申します。心と同一人物です。
内容に外伝が関わってくるので、そちらも覗いて見て下さいね。上のリンクから飛べます。(複ファです)
よろしくお願いします。 
コメントとかは自由なのです、貰うと私が跳ねて喜びます。
10日に1回くらい更新できるといいなと思ってます。

【目次】

最新話    >>38
まとめ読み  >>1-

プロローグ
《トワイライト・イブニング》>>1

第一章 名
《フェノメノン・セルフズ》 >>2-6
一話:殺し屋
   >>2>>3>>4 
二話:双子の少女たち
   >>5>>6

第二章 あくまでも
《コントラクテッド・ジャーニー》 >>7-15
一話:依頼
   >>7>>8>>9 
二話:始まり
   >>10>>12>>14>>15

第三章 本当に
《スイッチ・インテンション》 >>17-23
一話:蓮の花は、まだまだ蕾のようで
   >>17>>18
二話:時の流れは、速い上に激しい
   >>19>>21>>23

第四章 だからこそ
《プロミスド・ユー》 >>24-38
一話:花開く時は唐突に
   >>24>>25>>26
二話:想い、思惑、重なり合い
   >>27>>28>>29>>30>>31>>32
三話:信ずるもの
   >>33>>34>>35>>36>>37
四話:大丈夫
   >>38



【以下、読み飛ばして頂いても構わないゾーン】

#世界観
▽現代と同じレベルの文明が発達している。
▽国は無数に存在する。この話で舞台となるのは『タリスク国』という国。
▽真名
 本名とイコールではない。
 本名はいわば認識番号であるが、真名は己を構成するものだからである。これにより、力を使うことができる。(身体能力の強化であったり、発火であったりといったもの)
 真名を奪う力をもつ者も存在する。真名は奪われると記憶を喪失し、当然力も使えなくなる。真名は付けられるものではなく魂に刻まれるものであるため、この世の誰もが所有している。本名を知らぬ者も、真名は知っている。

#登場人物まとめ(ネタバレはあまり含まず)
▽トワイ
本作主人公。殺し屋。
▽シュゼ・キュラス
双子の姉。炎を操る力を持つ。
▽リュゼ・キュラス
双子の妹。
▽レン・イノウエ
秋津国アキツクニの人間。殺し屋。詳しくは外伝(上記リンク)参照してください。
▽ノーシュ・キュラス
記憶喪失。これはルクスに真名を奪われているため。
透思とうしと呼ばれる力を持つ。
▽ルクス・キュラス
パスト・ウィル社社長。真名奪いと呼ばれる力を持つ。
▽シファ・レグランス
トワイの「師匠」。杖を武器とする殺し屋。


#お知らせ
◆8月30日
大幅に加筆修正。
◆9月13日
2020年夏大会、銅賞いただきました! 読んで下さってる方、応援して下さってる方ありがとうございました!

Page:1 2 3 4 5 6 7



Re: 宵と白黒 ( No.5 )
日時: 2020/08/20 00:24
名前: ライター (ID: cl9811yw)

2:双子の少女たち


 しばらく眠っていた青年は、少し太陽が高くなってから目を覚まし、依頼人と約束した酒場へ向かった。

 入口から見て左手側にある色つきのガラスを通る光が、様々な色の影を床に落としている。昨日とは違ってまだまだ昼だからか、客も少なく厨房も静かだ。ぼんやりと床の影に目を向けていると、スツールと床が擦れる音がした。ふっと顔を上げれば、晴れ晴れとした笑みを浮かべた男がスツールに座っていた。

「昨日、お前仕事受けてただろ! どうだったんだよ?」

 明瞭なやや高めの声が耳を刺す。ゆっくり息を吐いて、友達に対するような気さくさでトワイは同業者に答えを返した。

「別に特別でもない殺しだった。シオン、お前の方はどうなんだ?」
「いや、最近は仕事なくて暇だぜ。お、ほら………あれ、お前の依頼人だろ?」

 そう言われて青年が酒場の入り口へと目を向ければ、昨日と同じようにリオンがそこに立っていた。シオンと呼ばれた男が立ち上がり、かすかに笑ってスツールを開ける。その気遣いに微笑して、リオンは一礼してそこへ座った。

「今朝。あのひとが死んだと聞きました。さすが、と言うべきですか? 兎にも角にも……ありがとうございました、《宵》。どうやら私はこれで安心して生きて行───」

 どこか憑き物が落ちたような、そんな顔でリオンが言い終わらぬうちに。酒場の中に、高い少女の声が響き渡った。

「ねぇ! 私の依頼、受けてくれる人いない!?」

 そんな少女の声が響いた瞬間、さざめきに満たされて居た店内が静謐な湖面のように静まりかえった。その声を発した白髪の少女の青い瞳がぐるりと店内を見渡し、真っ直ぐにトワイを捉える。

「あ、昨日のお兄さん!」

 スタスタと歩いて来た二人の双子らしき少女たちに目を向け、店じゅうの視線が集まるのに動揺しながら青年は口を開く。

「昨日の、と言われても。オレはお前達を知らない」

Re: 宵と白黒【改題しました】 ( No.6 )
日時: 2020/08/20 00:39
名前: ライター (ID: cl9811yw)

「昨日は、ありがとうございます…おかげで、助かったんです」

 白髪の少女の隣にいた長い黒髪の少女にもそう言われ、青年は困ったような顔で言いかえす。後ろでニヤニヤしているシオンの気配と、やや戸惑っているリオンの気配。それらを感じ取って、彼は疑問の解決よりも、早く後ろの依頼人との会話を終わらせることを決めた。

「だから、オレはお前達を知らないし助けた覚えも無い。話があるのなら少し待て。オレは今話し中だ」

 そういった青年は少女たちから視線を外し、リオンへと向き直る。今度は後ろから二人の少女の視線が突き刺さる。それを完全に意識外に放り出して、彼は真っ直ぐに視線を依頼人へ向けた。完璧な微笑みを湛える依頼人の青年は、その形の良い唇をゆっくりと動かして問いを放った。

「報酬はどの口座に?」

 リオンからの問いかけに、トワイはジャケットの内ポケットからメモ紙を取り出した。二つ折りにされたそれを、差し出された依頼人の手のひらにのせる。

「この口座に頼みます」

 そういい終わった瞬間、青年の腕を少女の白くて細い手が掴み、店の外へ連れ出そうとする。予想外の行動に驚きつつ、トワイは叫んだ。

「だから何処行く気だ? そもそもお前達は誰だ!?」
「お兄さんは何処か安全に話せるところ、知らない?」

 少女が不意に止まった所為で、がくりと彼の体が揺さぶられる。それを制御して振り向いた少女止めを合わせた。その青い目には真剣な色が宿っていて、それに少なからず彼は心を動かされたのだろう。

「安全……ね。うち、来るか?」

 どこが良い人のようなその言葉。それでも冷めた思考は、少女らが害であれば殺せば良い考えていた。




「師匠! 客だぞ!」

 そこそこ雑然とした玄関に立ち、青年はそう叫ぶ。

「なんだトワイ、客………女!? お前、全くその気すら見せなかったくせに! しかも二人だと!?」

 出て来て、いきなり驚愕した口調でそんなことを言う老人にため息をつきながら青年は少女達に向け口を開く。

「悪いな、こういう人なんだ。師匠、こいつらがオレに話があるようなんだ。開けてくれるか」
「む、分かった……一時間だぞ」

 そう言って承諾した師匠と入れ替わりで家の中に入った青年は、少女たちを手招きした。

「お邪魔しまーす!」
「お邪魔、します」

 お邪魔しますとしっかり言える所から育ちがいいことを察した青年は、僅かに微笑んだ。胸中に少し自分でも説明のつかぬような思いが去来していることを悟らぬまま。


 玄関の目の前にあるリビングの椅子を指し示しながら青年は言った。

「茶なんて入れられないけど、取り敢えず座れ、二人とも。」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう、ございます」

 少女たちとテーブルを挟んで反対側の椅子に座りながら青年は少女達を見て問いかける。

「お前達、何処」

 青年のその言葉を遮り、白髪の少女が言葉を被せる。

「それより先に自己紹介でしょ? お兄さんの名前は?」
「だめだよ……人の話は最後まで聞いて、姉さん。」

 青年から見て左手側に座る黒髪の少女が話を遮った事を咎め、優しげな性格が見て取れる柔らかな目を青年へ向ける。

「お兄さん、あの……話、続けて貰って構わない、です」
「大丈夫だ。オレの話も似たような物だからな。お前ら、名前は?」

 青年がそう言うと、右手側に座る白髪の少女が待ってましたとばかりに口を開いた。

「私はシュゼ・キュラス! 双子なんだ!」
「私はリュゼ・キュラス。双子の、妹です」

 ほんの少し羨ましげな色が青年の瞳に宿る。おそらくそれに彼自身は気付かないまま、青年も名乗り返した。

「白いのがシュゼで、黒いのがリュゼ……か。オレはトワイだ。お前たちは何処でオレを知った?」
「ほら、トワイさん昨日わるいひとに絡まれたじゃん?」
「なんでお前たちがそれを知ってる?」

 ほんの少しだけ警戒を強めたような雰囲気を漂わせつつ、トワイが問い掛ける。

「だってそこにいたからね私。トワイさん気付かなかった? 」
「姉さん……トワイさん困ってる。あんなに夜だったんだよ、姉さんって気付きようがないよ」

 よく状況が分かっていないトワイにリュゼが助け船を出す。

「ああ………もしかして、あの炎の力のヤツが、お前か?」
「そうだよ! 私の力!」

 そう明るく言って嬉しげに笑ったシュゼを見て、トワイが首を傾げる。

「なんでお前はオレに接触してきた? まさか……」

 仇討ちか、と警戒を高めピリッとした空気を纏うトワイを慌てて止める様に、リュゼが口を開いた。

「ち、違うのトワイさん。……私があのひとたちに人質に取られちゃってて……姉さんは、脅されて仕方なくやったの、だから………」
「ああ、なんだ。そうか、警戒して損したぞ」

 先ほどまでの空気が嘘のように弛緩した空気を纏う青年に向け、シュゼも口を開く。

「そうそう、あの男の人がリーダーだったみたいなんだよね。トワイさんが倒してくれたおかげで、隙突いて逃げられたの。だからほんとにありがと、トワイさん」
「うん……私からもありがとう、トワイさん」

 自分でも良い事をした自覚がなかったトワイは礼を言われてほんの少し照れたような顔をした。そして気持ちを切り替えたのだろう、背をのばして双子の少女たちに向けて尋ねた。




次章:第二章 あくまでも
  《コントラクテッド・ジャーニー》 
   一話  依頼
   >>7-9

Re: 宵と白黒【改題しました】 ( No.7 )
日時: 2020/09/04 06:38
名前: ライター (ID: cl9811yw)

第二章 あくまでも
《コントラクテッド・ジャーニー》
1:依頼

「オレに依頼があって来たのか?」

 そう尋ねられた少女たちは、一瞬顔を見合わせた。その一瞬のアイコンタクトでどちらが喋るか決めたらしく、ふっと白髪──シュゼの方がトワイへ顔を向けた。

「あのね……取り戻して欲しいものが、あるの」

 盗んで来て欲しいものがある、と言うシュゼの言葉に、トワイは目を閉じる。

「オレは殺し屋であって泥棒じゃない。だが、お前たちが払う金の額では、考える」

 半ばため息をつくようにそういった彼に対して、あわててリュゼがフォローを入れた。

「あの……私たちは、その欲しいものそのものじゃなくて、中に入ってるものに、用が、あるんです」

 今度はリュゼがオドオドしながら答えた中身に用がある、という言葉にトワイは首を傾げる。きょとんとした彼の表情を見て、リュゼは僅かに微笑んだ。

「中身? 何か入っているのか?」

 その言葉に対しシュゼとリュゼはもう一度顔を見合わせる。今度は逆に話すことが決まったのか、リュゼは膝の上で手を握りしめる。やや緊張気味に、少し逡巡してから少女は口を開いた。

「それの中には、真名が、封じられてるんです」
「お前達、真名奪いと関わってるのか!」

 真名。それは人の魂に根付くその者の本質であり、自己を形成するものだ。
 そして、真名奪いの力、とはいわば抑止力である。力の持ち主は、誰かの真名を何処かへ封じることが出来るのだ。数十年に一人、その力を持った者が生まれることがある。血の繋がりなど何も考慮せず、突発的に。
 この世界のほとんどの宗教の共通項として真っ先に挙げられるのは、〝真名奪いとは神を人が超越させぬための楔である〟と語られている点であると言えよう。それほど昔から真名奪いは存在したのだ。
 つまり、人類にとって真名奪いは脅威となる。ならばそれが多くの人々に語られ、教えられるのは当然だ。

「うん……封じられてるのは、私の親戚の男の人の真名。それを、取り戻したい」

 静かな口調でシュゼは言う。張り詰めた気配を纏う少女の顔、それだけでこの依頼をすることがどれほどの決断であったのか測り知れる。
 一旦冷静になれ、と心の中で唱えてからトワイは顔を上げて言った。

「お前たちはそれが何なのか知ってるのか?」

 盗んで来て欲しいのならば外見が重要だ、と言う事を考えたトワイはリュゼとシュゼを見てそう尋ねる。己の気持ちがすでに受ける側へ傾いていることに、気付かぬまま。

「えっとね、懐中時計、なの。スマラグドゥス、って言うヤツだ、って言ってた」
「スマラグドゥス、って……あの何とか会社の社長が持ってる、めっちゃ高いやつか?」

 かつて読んだ新聞にそんなことが書いてあった気がする、そんな曖昧な記憶を目を細めつつ探り出しそう尋ねると、リュゼが答えた。

「そうです……パスト・ウィル株式会社の社長、ルクス・キュラスの所持している……懐中時計、です」

 そこまで聞いたトワイは、わずかになにか引っかかるのを感じた。

「何でお前たちはそこまで知ってるんだ?」

 そう尋ねられたリュゼは躊躇いなく答えを口にする。

「なぜなら……ルクス・キュラスは私たちの一族の長で……ノーシュさんの真名を奪うのを、私たちの目の前で行なったからです。」
「目の前で、って……見せしめ、ってことか?」

 ほんの少し絶句したトワイがそう尋ねた。すると悲しげな顔をしたシュゼが頷き、口を開く。

「そう、だと思う。というか、多分ルクスさんはノーシュさんの力を警戒していたんだと思う」

 それを聞いたトワイは、思い当たることがあるとばかりに顔を上げ、言った。

「もしかして、ノーシュ、ってのはさ、透思の力を持ってるヤツか?」
「そうですが……なぜトワイさん、はそれを知ってるのです?」

 本気で疑問に思ったらしいリュゼがそう尋ねるとトワイは軽く肩をすくめて言った。

「優秀なヤツはチェックしとけ、って言うのがうちの師匠の教えでね。一族のヤツなんだか何なんだか知らないが、そいつ時々此処に来ていただろ?」
「そうみたい、です。そもそもルクスさんはノーシュさんを使って殺し屋さんに何かを依頼することも、あったみたいですから……」

 リュゼが返したその答えに、トワイは成る程、と呟いた。

「あくどいことでもしてたんじゃ無いのか、社長も」

 そうトワイが答えると、今度はシュゼが口を開いた。

「此処まで聞いて、どう? 私たちの依頼、受けてくれる……?」

Re: 宵と白黒【改題しました】 ( No.8 )
日時: 2020/08/21 09:21
名前: ライター (ID: cl9811yw)

 右手側の窓から入ってくるオレンジの光が、トワイの顔に影を落とした。照らし出される板張りの床に、長くローテーブルの影が伸びている。淡い蜜色に染まる部屋を支配した沈黙は、まるで蜂蜜のように少女たちにまとわりつく。長く、長く感じられたその沈黙は、青年の刃のような鋭いテノールで破られた。

「正直言って、オレはまだお前たちを信じてない。だから、まだ受けるかは決めていない」
「なら──」

 そこまでシュゼが言いかけたところを遮ったリュゼは、顔に真剣な表情を浮かべて言った。

「あの、トワイさんは……何か、したいこと……ありますか?」

 それを問われたトワイは、若干驚いた顔をする。そしてリュゼの大人びた顔を見て、それでもシニカルに彼は笑う。

「あるわけないだろ。あったら、こんな仕事してないさ」

 トワイにそう言われて、リュゼはきゅっと俯いた。白い横髪が夕陽を透過して、オレンジに染まる。

「そう……ごめん、なさい」
「じゃあ、それで良いじゃない! 何もしたいことないなら、私たちと一緒に過ごして、決めれば良いじゃない?だから、さ。お願いします、トワイさん……私は、ノーシュさんを助けたいの!」

 いつになく、真剣な顔でシュゼは言う。真っ直ぐに、燃える炎のように。明確な、強い意志を持ってそういう彼女にトワイが若干気圧される。今まで俯いていたリュゼも、気持ちを切り替えるように顔を上げてハッキリと言う。

「私からも、お願いします……!」

 再び、沈黙が落ちる。ゆっくりと波が広がるように、波紋が広がるように。部屋の床に落ちる三人と家具たちの影がほんの少し長くなった時、トワイは口を開いた。

「分かった。受けよう。報酬は、スマラグドゥスの本体。目的はノーシュ・キュラスの真名の解放。これで良いか、二人とも?」

 床に落ちる影が少し伸びるほどの長考の末に、トワイが結論を出した。その答えを聞いて、嬉しそうに二人は笑った。

「シュゼ、リュゼ。右手を出せ。」

 不意に立ち上がったトワイが右手を出してそう言うと、それにつられて二人が立ち上がる。シュゼとリュゼが首を傾げながら右手を差し出すと、その手を二人まとめてトワイがそっと握る。ああ、少女の手というのは華奢なものなのだな、と思う。
 
「契約成立。よろしくお願いしますよ、依頼人」

 トワイはそう言ってシュゼとリュゼの手を今一度握りなおす。三人の握手の長く伸びた影が、テーブルの上へ落ちていた。

Re: 宵と白黒 ( No.9 )
日時: 2020/08/30 00:46
名前: ライター (ID: cl9811yw)

 庭の石畳は、昼間照っていた太陽の暑さを吸収したかのごとくほんのりと暖かかった。

「なんだ……何をしてる、トワイ」

 シュゼとリュゼが一旦家に帰る、と言って帰っていってから時間が経っただろうか。かさり、と足元の木の葉の音を立てて、老人が現れた。一人で先日と同じように庭の木の幹に寄り掛かっていた青年に、彼は声を掛ける。

「べつに……ああ、そうだ師匠。オレ、しばらく家開けるからよろしくな?」
「おい……いつからこの家はお前のものになったのだ?」
「稼いでくるのはオレだろ、常に」
「ま、まぁそれは良いではないか。それにしても旅、か……あの子どもたちの依頼か?」

 老人のその問いに青年は頷き、木の葉の間から透けて見える夜空に目を転じた。しばらく二人の間には、何処か緊張した静寂が降りていた。青年がふわりと髪を揺らして、師匠に問い掛ける。

「なぁ、師匠。オレのさ……本名、って何かな?」
「……ワシとお前が最初に会った時、お前はワシの家……ちょうど今お前が寝転がっているここに血塗れで倒れていたぞ。死にかけていて処置が大変だったんだ」

 老人のその天邪鬼とも取れる返答に、苦笑した青年はもう一度空を見上げて言う。

「答えになってないぞ、それ。」
「ちょうど日が沈んだあとの、うっすら明るい時間だったのだ。…………だから、お前をトワイライト、から取ってトワイと呼んでいた。……この名前は、あくまでもワシがお前を識別するだけの為のものに過ぎん。嫌だったら、真名を名乗れば良いだろう」

 幹に背を預けた老人のいつになく真剣で、長い言葉に青年は微かに笑って言った。

「それってさ。つまり──オレは、名前無いってことか? まあ、でも……そもそもオレは《宵》で通ってるからな。問題ない、だろう」

 己に言い聞かせるようにそう言った青年の目が、前髪で隠される。それを見て、老人は唇をつりあげた。さも楽しげに、彼は言う。

「お前の親が、どんな名を付けたかなどワシは知らん。まあ……トワイにしろ宵にしろ、お前と言う青年を指してるのは事実だ」

 そう言って、ニヤリと笑った老人は、カサカサと足音を立てて歩み去る。トワイはそれを聞いて、人を弄ぶのが好きなだけだ、茶化すのが好きなのだろう、と思う。明るく茶化すようなことを思ってみても、やはり気分は晴れない。脳裏に何故だか、白と黒の少女たちの声がちらつく。深く深く、彼は俯いた。

「あの子たちは、オレがトワイだって信じてるんだろうけど。オレは、トワイって言う上っ面の皮かぶってるだけの誰でもでもない、って事かよ」


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