ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

宵と白黒
日時: 2022/04/02 15:05
名前: ライター (ID: cl9811yw)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=20128

 名前も記憶も、すべてに平等なものなんて有り得ない。

───────────────────


こんにちは、ライターと申します。心と同一人物です。
内容に外伝が関わってくるので、そちらも覗いて見て下さいね。上のリンクから飛べます。(複ファです)よろしくお願いします。

#目次

最新話    >>61
まとめ読み  >>1-
頂きものとか   >>40>>46

◐プロローグ(>>1)
《Twilight-Evening》 

◐第一章 名(>>2-6)
《Phenomenon-Selves》
 一話:殺し屋(>>2-4)
    >>2 >>3 >>4
 二話:双子の少女たち(>>5-6)
    >>5 >>6

◐第二章 あくまでも(>>7-15)
《Contracted-Journey》
 一話:依頼(>>7-9)
    >>7 >>8 >>9
 二話:始まり(>>10-15)
    >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15

◐第三章 本当に(>>17-23)
《Switch-Intention》
 一話:はすの花は、まだまだ蕾のようで(>>17-18)
    >>17 >>18
 二話:時の流れは、速い上に激しい(>>19-23)
    >>19 >>20 >>21 >>22 >>23

◐第四章 だからこそ(>>24-56)
《Promised-You》
 一話:花開く時は唐突に(>>24-26)
    >>24 >>25 >>26
 二話:想い、思惑、重なり合い(>>27-32)
    >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
 三話:信ずるもの(>>33-41)
    >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41
 四話:自由と命令(>>42-45)
    >>42 >>43 >>44 >>45
 五話:終幕(>>47-56)
    >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55 >>56

◐エピローグ(>>57-)
《Essential-Self》
 1話:追憶、あなたを(>>57-61)
    >>57 >>58 >>59 >>60 >>61
 2話:現下、あなたに(>>62-)

 3話:


【以下、読み飛ばして頂いても構わないゾーン】
#世界観
▽現代と同じレベルの文明が発達している。
▽真名
 本名とイコールではない。
 本名はいわば認識番号であるが、真名は己を構成するものだからである。これにより、力を使うことができる。(身体能力の強化であったり、発火であったりといったもの)
 真名を奪う力をもつ者も存在する。真名は奪われると記憶を喪失し、当然力も使えなくなる。真名は付けられるものではなく魂に刻まれるものであるため、この世の誰もが所有している。本名を知らぬ者も、真名は知っている。



◆8月30日
大幅に加筆修正。
◆9月13日
2020年夏大会、銅賞いただきました! 読んで下さってる方、応援して下さってる方ありがとうございました!
◆2021年1月24日
2021年冬大会、金賞いただきました! 二回もいただけるとは思っておらず……ありがとうございました!

Re: 宵と白黒 ( No.14 )
日時: 2020/08/30 01:13
名前: ライター(心) (ID: cl9811yw)

 ゆっくりと速度を落とす電車はやがて止まった。そしてトワイたちを襲った男が警察に追いたてられて行く。終点の駅がある薄暮街が見える頃には、太陽はほとんど真上へと登っていた。
 さらに薄暮街の特徴とも言える、壁面にガラスを多用したビル群が光を反射して街全体が煌めいているかの様である。
 その光の眩しさに目を細めつつ、トワイもまたぼんやりと視線を街へと投げかけた。

□  △  □

 やがて電車がゆっくりと速度を落とし、車輪の軋む音をたてながら停車する。アナウンスの声を後ろに、三人はホームへと降り立った。

「着いたね、トワイさん……何か、聞かれるのかな?」

 先程の事を思い出し、シュゼがそう尋ねる。彼女が垣間見せた真っ直ぐな強さを羨みつつも、トワイは言った。

「オレが知るわけないだろ。ほら、車掌、だっけか? あいつが話しかけて来るのを待とう」
「私もそれが良い、と思います」

 少し震えたような声でリュゼがそう言った時、ちょうどそこへ声が掛かる。

「先程のお客様方でいらっしゃいますね?」
「あ、はい、そうです!」

 トワイは人と話せるスキルなどないと言わんばかりに口を閉ざし、元々そう言うことが向いていないリュゼはじっと己を見つめてくる。それにちらりと目を向けて、呆れた様な空気をまとったシュゼが返答した。

「そうですか、では……お手数お掛けいたしますが、皆様こちらへお願いします」

 そう言われた三人はその後しばらく話を聞かれていたが、その間何故かリュゼはとても不安げにしていた。



「やーっと終わったよー! もう疲れたや! 早くノーシュさんの家に行こう!」
「……姉さん、はしゃぎすぎ、だよ」

 いつも通りシュゼがはしゃぐのをリュゼが諌める。だが、そこはかとなく今のリュゼは歯切れが悪かったようにトワイには思えた。

「そうだ。お前さ、泊まる場所とかは考えてあるのか?」

すぐ近くだと言うノーシュの家へ向かいながら、トワイがシュゼへそう尋ねる。

「うん、大丈夫だよ! ノーシュさんの家の近くにビジネスホテル? があって、そこに泊めてもらうから!」
「姉さん、お金、大丈夫?」

 少し不安げにリュゼがシュゼへ現実的なことを尋ねると、その事が気になっていたと言わんばかりの表情でトワイも振り向き言葉を重ねる。

「まさか、足りないとか言わないよな?」

 二人から尋ねられたシュゼは少し動揺した顔をしてから口を開く。

「だ、大丈夫だよ、三泊はできるし……いざとなったらノーシュさんの家に泊めてもらえば良いから!」

 少し焦り気味になりながら答えたシュゼは、不意に笑って言った。

「みんな、信じてなさそうな顔、してるけどさ。私だってちゃんと計画もあるし考えてもいるんだ。私は、それ位ノーシュさんの記憶を、戻したいんだから」

 そう笑って言ったシュゼの言葉に、リュゼが頷く。

「そうだね……たくさん、遊んでもらったもの。」

 そう言ったシュゼとリュゼは少し歩く速度を上げてノーシュの家への道を歩いていく。ほんの少し逡巡するかのように立ち止まっていたトワイは、ふわりと顔を上げて呼びかけた。

「おい、シュゼとリュゼ。話がある。何かその辺……あそこのベンチ座れ」

 意気揚々と歩き出した二人を呼び止めて、トワイは手近なベンチを指差す。

「え? どうかしたの?」
「……何でしょう?」

 三人で横並びに腰掛けたベンチで───トワイが真ん中だ───かなり言葉選びに苦労しながらトワイが口を開く。トワイにとっては、これから問うことは当たり前の事だった。あくまでそれは彼にとっての日常だった。だからこそトワイは、それを言い表せる言葉を探す。

「シュゼとリュゼは。今日みたいなことがまたあった時、戦えるか?……はっきり言って、足手まといは困るんだよ。お前たちが居ないと依頼が達成出来ないのも事実、お前たちは俺が居ないと目的が叶わないのも本当だ」

 トワイの悩みながら放たれた言葉に、シュゼは笑って即答した。風が吹き抜け、白い髪を揺らす。

「当然。さっきも言ったよね、私はノーシュさんを助けたい。だから、頑張るの」

 シュゼの出した答えを聞いたリュゼがそっと目を伏せる。自分には出来ないと言うかのように、ゆっくり首が横に振られる。

「私は、出来ないんです。戦うのも、怖い。結局私は、足手まといにしかなれない……」

 リュゼの震えた声を聴いたシュゼは、満面の笑みを見せて言う。彼女の両手が、リュゼの両手を包み込んだ。
 
「大丈夫だよ! リュゼは私が守るもの! お姉ちゃんだからね!」

 うんうん、と髪を揺らして自分の言葉に頷くシュゼをその橙の瞳で見つめながら、トワイも言った。何処か羨ましい、と思ったのは秘密だけれど。

「なら、大丈夫だな。……オレの用は終わりだ」

 トワイがそう言うと、リュゼは固かった表情を綻ばせて立ち上がる。

「よし! 早く行こうよ、日が暮れるよ!」

Re: 宵と白黒 ( No.15 )
日時: 2021/01/03 18:37
名前: ライター(心) (ID: cl9811yw)

 しばらく歩いて着いたビルは、とても高いビルだった。等間隔でガラスが張られ、眩しくきらめいている。薄暮街特有の、縦に広く空間を使った区画の一部だ。林立するビルで日差しが遮られ、夏の暑さが程よく緩和されている。

「なんで建物がこんなに高くてこんなに大きいんだよ…!」

 トワイがビルの高さに目を回していたが、それはさておき。

「え? 階段で行かないのか? 階段じゃなかったら何使うんだ?」
「え? 階段なんか使ったら日が沈むよ? トワイさんエレベーター知らないの?」

 中に入って、いざ部屋に向かおうとしたときのことだ。当然の様に階段を使おうとするトワイと、エレベーターを使おうとするシュゼの間で一悶着起きたのだが、それもさておき。
 エントランスでは、もう既に警備担当と顔見知りらしいシュゼとリュゼに着いて行くだけで済んだ。トワイはそのことに一安心していた。が、その後エレベーターを初体験して酔いそうになった彼は気分が一気に落ち込んだ。

「常闇になかったぞ、こんなもの……」

 恨み言を吐きつつ、トワイはどうにかシュゼとリュゼについて行ったのだった。エレベーターを降りた先にある通路を、あちこちの角を曲がりながらしばらく歩く。
 やがて三人が止まったドアの前で、シュゼがインターホンのボタンを押した。

「こんにちはー! シュゼです!」
「こんにちは。リュゼ、です」

 インターホンに向けてそう言ったシュゼとリュゼに振り向かれ、トワイはオレもかよ、と言う顔をする。トワイは困惑しながらも、シュゼとリュゼが名前を言っていたことを真似て口を開いた。

「トワイ、と言います」

 彼がそう言うと、ほんの少し間があいて、インターホンから女性の声が返事が聞こえてきた。

「まあまあ、シュゼ様とリュゼ様ではありませんか。今開けますのでね、お入りください」

 女性がそう言い終わると、パタパタと言う足音がドアの向こうから聞こえてくる。ガチャリと鍵を開ける音がして、ゆっくり軋みながらドアが開いた。

「……シュゼ様」
「ん? なぁにティータ」

 ドアを開けたティータと言うらしき中年の女性は、トワイを見て固まった。ティータはてっきり同年代の友達だろう、と思っていたのだが、そこにいたのは割と大人に見える青年である。

「そちらの……トワイ様は?」

 固い声でそう言われ、トワイの脳内を一瞬男子禁制かな、という思考がかすめた。

「えと……」

 まさか殺し屋だと名乗る訳にも行かず、少しトワイが困惑した顔を浮かべる。ティータにますます怪しい、といった顔をされ、トワイはたじろぐ。狼狽えながらも言葉を探し目を泳がせていると、その空気を察したのであろう。リュゼが慌ててフォローを入れる。

「えっと、友達…なの」
「まあ、そうでございましたか。それは大変失礼いたしました……さ、お入り下さい」

 そう言われて、ティータはようやく警戒を解いたようだった。半身になって奥を示しながら、そっと入るように促す。

「お邪魔しまーす!」
「お邪魔、します」
「お邪魔、します?」

 トワイは人の家に上がる事があまりなく、お邪魔しますと言う言葉をあまり使い慣れていない。どうにか見よう見まねでそれをこなした彼は、どこか普通の青年のようだった。


□  △  □

 通されたリビングらしき部屋の広さにトワイがまたしても目を回していると、隣にいるリュゼがくすりと笑った。

「本当にトワイさんはこういうところ、慣れて無いんですね」
「いや……まあ、そうだな」
「──リュゼさんとシュゼさん、だったよね」

 二人がそんなことを話していると、一人の男の気配がリビングに現れた。それを感じたトワイが、フッとそちらを見る。リビングの入り口の壁に凭れかかって立つ青年は、リュゼと同じ黒髪の青年だった。

「あ、ノーシュさん! 今日は元気そうだね、よかった!」
「こんにちは、ノーシュさん」

 ノーシュ、と呼ばれた青年は、その黒の瞳を細め、微かに笑う。けれどその笑みは、何処か無理やりらしい。何だか無気力な奴、とトワイは思った。

「二人とも、来てくれてありがとう。でも、ごめんね。……そこの方は?」

 スタスタと歩いてきたノーシュは、トワイたちの前のソファに座った。その黒い目を向けられたトワイは、今日はやたらと名前を言うな、なんて思いながら名乗る。

「トワイだ」
「トワイさん、か。貴方は何故ここに?」

 そう問われたトワイは、ハッとした。何故オレはここにいるのか。依頼だからだ。それにしては情が移っているような気もする。列車でも、オレはリュゼを庇おうとした。何故、だろうか、と。それでも結局答えを出せなかったトワイは、ありきたりな答えを返した。それで無理やり自分を納得させて。

「……頼み事をされたんだ、シュゼとリュゼに」
「へぇ……そうなんだ」

 そんな、何処か虚無感が漂う会話を交わした二人が黙った後、しばらくリビングには沈黙が降りていた。


次章:第三章 本当に
   《スイッチ・インテンション》
   >>17-23

Re: 宵と白黒 ( No.16 )
日時: 2020/05/24 02:10
名前: 心(ライター) (ID: cl9811yw)


「まあまあ皆さん、ごめんなさいね遅くなって。トワイ様は、紅茶に砂糖入れられますか?」

 紅茶の乗ったトレイをテーブルに置いたティータが、トワイにそう尋ねる。
 尋ねられたトワイは、髪を揺らしてほんの少し微笑むと答えた。

「そのままで頼…みます。」
「分かりました。」

 あまり紅茶を飲まなかったトワイは、多分大丈夫だろう、と思いながら頷く。
 ティータが微笑み、紅茶を四人の前にことり、と置いた。透き通るノアゼット色の液体が微かに揺れる。
 ふとトワイを見たリュゼがニコリと笑って言った。

「あ……トワイさん、笑って、ますか?」
「オレが? 笑ってたか、今?」
「うん、笑ってたよ! へへへ、なんだかラッキーな気がするね!」

 紅茶の水面に映る自分が、ほんの少し笑っていた。それを指摘されたトワイは、少し困ったような顔をする。
 その様子を見ていたノーシュが、首を傾げて尋ねる。

「貴方が笑うことが、皆さんはそんなに意外なんですか?」
「そう、かもしれない。普通に笑いはしている、はず、だが。」

 なんでオレは笑ったんだろう。今まででも普通に笑うことはあった。
 そんなことをトワイが考えていると、リュゼが横から口を挟んだ。

「違いますよ、ノーシュさん。あんな…トワイさんが、優しい感じで笑ったのが、意外だったんです。何と言うか、そうですね…まるで、家族に、向けるものみたいに、です。」

 家族、と言われてトワイの目が微かに開かれる。
 〝家族〟。
 そうだ、オレは何も覚えていないはずなのに。思い出しかけたのかもしれない。居たかどうかすらも分からぬのに。
 ティータと言うらしいこの人に、母親、と形容されるものを見出したのかもしれない。
 そこまで考えたトワイは、けれどもう一度無意識に微笑みながら口を開いた。

「ありがとうございます、ティータさん。」
「まあ、どういたしまして、トワイ様。」

 どうしてだろう。オレは何もしてないのに、この人にどういたしまして、と言われただけで、ほんのりあったかくなる気がする。
 何時も言って言われている、ありがとう、とどういたしまして、が殺しをした後に言われる物より、遥かに暖かい。
 トワイは、それに戸惑っていた。


「シュゼ様とリュゼ様とトワイ様は今日はどんな御用で此処に来られたのですか?」

 しばらく四人が喋っていると───主に喋るのはシュゼ、トワイはほとんど喋っていない───、会話の切れ目を見計らってティータがそう尋ねた。

「あのね………トワイさんに、協力してもらって、ノーシュさんの真名を、取り戻そうと思うんだ。」

 本題を言ったシュゼが、真っ直ぐにノーシュとティータを見据える。
 しばらく黙っていたティータとノーシュが、それぞれ口を開いた。

「それは、ルクス様からスマラグドゥスを奪いに行く、と言うものですか。」
「シュゼさんとリュゼさんと、それにトワイ君まで危ない橋を渡る必要は無いよ…僕なんかの為に。僕はこのままでも生きていけるし、そもそも…僕の記憶が戻ると、それは間違いなくルクスさんの失脚を意味する、らしいから。」

 ノーシュの長い言葉を受けて、リュゼが口を開く。

「ルクスさんの失脚、ですか? 」
「そう。きっと僕の記憶が奪われたのは、ルクスさんにとって不都合な事を知ってしまったから、だって父上が言っていた。ルクスさんの失脚は、キュラスの一族の崩壊を意味する、って。今の僕には、よくわからない話だけれど。」

 何処か諦念を滲ませるような雰囲気を纏ったノーシュがそう言った時、黙っていられないと言うようにシュゼが叫ぶ。

「違う!  ルクスさんを失脚させない為に、ノーシュさん自身が戻って来ないなんて間違ってる! そもそも、ルクスさんが知られちゃまずいことをやってることが間違ってるよ! ねぇ違う、トワイさん!」

 いきなり話を振られたトワイは、冷ややかに答えた。

「オレに決める権利は無いんだ。オレはあくまで依頼されただけだから。けれど、強いて言うならば、報酬が貰えないのは困る。襲われてもいるからな、もしスマラグドゥスが手に入らなそうだったらその分の迷惑料くらいは貰っていくぞ。」
「分かりました。トワイ様には私から──」

 どうしても危ないことはして欲しくない、と思うティータがそう言いかける。けれどそこに、だが、とトワイが口を挟んだ。

「別にオレの命はどうなろうと良いんだ。だから、別に構わない。オレなんかよりも遥かに大切なのはリュゼとシュゼだろう?」

「トワイさんの命はどうだって良いわけ無いじゃない!」
「話が、ズレてるよ姉さん。あのねティータさん、私たちはね、ノーシュさんに元に戻って欲しいの。それに、ルクスさんにも悪いことをして欲しくない。どちらにも恩があるから。だから、動こうとしてる。それがダメなこと、かな?」

 シュゼが熱くなっていたところへリュゼが口を開いて止めた。ティータは振られた話を考えていた。
 ダメな事か、と言う問いに対してティータは、しばらく考えた後諦めたように力を抜いた。

「分かりました、お嬢様がた。シュゼ様とリュゼ様にこんな事をさせてしまうのも、ルクス様に怯えてしまう私たちの責任かも、しれませんし、ね。ノーシュ様は、どうされますか?」
「シュゼさんとリュゼさんが、危ない目に遭うのはダメだと思う。だけどそれ以上に、僕は父上達のようにルクスさんを恐れてヘコヘコしてる大人が、嫌いだ! だからきっと、本当の僕はルクスさんを疑った。だから、僕は、君たちがそれで良いならついて行こう、と思うよ。」

 そう言われ、全員の合意を取ったシュゼとリュゼは、とても嬉しそうに笑った。
 それを見たトワイは、何だかとても嬉しくなったのだった。

Re: 宵と白黒 ( No.17 )
日時: 2020/08/30 01:36
名前: 心(ライター) (ID: cl9811yw)

第三章 本当に
《スウィッチ・インテンション》
1:蓮の花は、まだまだ蕾のようで

「それじゃ、そろそろお暇しまーす! ノーシュさん、ティータ、また今度ね!」
「あの、ご馳走様、でした」
「えっと……紅茶、うまかったです」

 何を言うべきかよく分からなかったトワイは、戸惑いつつもそれを口にした。ティータが笑ったのを見て、それが正しかったのだと安堵する。
 玄関でノーシュが薄っすらと笑みを口元に浮かべながら手を振り、ティータが一礼したのを見届けて三人はシュゼを先頭にして歩き出した。ティータとの会話で、とてもほわほわした暖かいような、トワイはそんな気持ちになった。鼻歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌な彼を見て、リュゼも楽しそうに笑う。
 帰りにまたエレベーターに乗ることになって機嫌が下向きになったのだが、それはさておき。


 エントランスをでた三人は、宿への道を歩き出した。歩き出したトワイは、ちらりとリュゼへ視線を向ける。

「どうか、しましたか?」

 視線を向けられたことに気付いたリュゼがこてん、と首を傾げる。

「いや、何でもない」

 元に戻っている様に見えたことに安心したトワイは、ほんの少し笑う。そして、視線を前を歩くシュゼへと向けた、とき──


 ぞわり、とトワイのうなじに悪寒が走った。久しぶりに感じた、それは───殺意だ。誰かに言われたから、命令だから───そんな、虚無の意思。彼自身の殺意も、この類のもののはずなのに。彼は、それに酷く嫌悪感を抱いた。

「シュゼ、リュゼ! 宿まで走れ! 人気が多いところを通れ!」
「え、何!?」
「トワイさん!? どうかしたんですか!」
「良いから走れ! 早く!」

 切迫したトワイの声に何かを感じたのだろう、二人は周りが驚くのも構わず走り出す。だが、それは叶わなかった。
 何故なら、彼らの足は──トワイも含め──意思と相反した、ビルとビルの狭間へと向かって行ったからである。


「な、っ!」
「きゃあっ!」
「え、なんで!?」

 何故か意思に背いて体はビルとビルの狭間に走っていく。トワイの脳裏に断片的な思考が瞬いた。何を……走らされて……痛みは無い……操られる……その時、トワイはある殺し屋の名を思い出した。

「《人形使い》、か!」


 強引に走らされた先は、林立するビルの狭間。暗く人通りも少ない。この街で殺しに向いている所などこれくらいのものか、とトワイは思った。何かの店の裏なのだろうか、換気扇が動いている音がする。
 ぺたん、と足音が響いて、影が揺らいだ。未だ動けずにいる三人の目の前に、黒髪の少年が姿を現す。少年は刃を服の袖口から滑り落とし、口を開いた。

「こんにちは。僕はレン・イノウエ。ああ、《人形使い》の方が有名かな? うーん、アキツじゃ名乗ったら名乗り返スのが常識ダッタンだけど、此処はどうなのカナ?」
「アキツ……あなた、この国の人間じゃ無いのね?」
「ははっ、僕としたコトが……喋リすぎタネ!」

 何だか妙な訛りの様なものがある話し方をする殺し屋は、ペタペタとリュゼとシュゼへ歩み寄った。

「何のつもり? 私たちはこれから大切な用事があるの。早くこの力、解いてくれないかな?」
「その通りだ、《人形使い》。少なくともオレはお前に恨みを買う様なことはしていない」
「はは、マァそう言わナイで。僕の話を聞いてクレよ。飛んで火に入る夏の虫、って言う言葉、知っテル? 自ら災いに首を突っ込む事をイウんだケド……マァつまり──今の、キミ達のことダネ! こっちまで、ワザワザ走って来てクレたんだからサ!」

 そう言って、レンと名乗った少年は動けないリュゼへ刃を振り下ろした。
 しかし、その刃は届かない。何故なら───振り下ろされる寸前で、焼け溶けたからだ。凄まじい熱に炙られて、思わず残っていた柄ごと少年は刃を手から落とす。

「妹に、何してんの!」
「ははっ、お嬢さん凄いネェ! 炎を操る力かい? うん、アクションが無くても力を使えるのは脅威ダナ!」

 また一方、青年も動こうと足掻いて居た。レンと青年の力が拮抗して、脚が軋みをあげている。おそらく三人操るのは限界に近い……シュゼが気を引いたことでおそらくどこかが緩む、はずだ……そこを、一気に突破する! 

Re: 宵と白黒 ( No.18 )
日時: 2021/01/03 18:38
名前: ライター(心) (ID: cl9811yw)

 痛みが全く無く、なにも体が傷ついていないこと、それに喋れること。それらのことから考えられることは、おそらく───

「っつ……! 」

 今まで余裕気だったレンが、ポツリと苦鳴を零した。その黒い瞳が、きつく虚空を睨む。舞い上がる光の量が多くなって、彼が力を振り絞っているのだろうと推察できた。

「く、う………!」

 一方青年の方も、微かに顔を歪めて、力を振り絞る。脚を必死に動かし、前へ進もうとする。
 おそらく、こいつの力は、体に流れる命令を、書き換えるもの、のはずだ。くわしいことは分からない。分からないけど、動こう、とする命令を書き換えているとするならば。
 オレも命令を出せば良い。書き換える速度が追いつかないほど、幾度も。そう思考した青年は、真っ直ぐにレンを睨んだ。

「きゃ、あっ!」
「う、わぁ!」

 悲鳴と共にとすん、と音を立ててシュゼとリュゼが崩れ落ちる。静かに争っていた青年とレンが、ハッとして視線をそちらに向けた。

「しまっ、た!?」

 薄っすらと動揺を滲ませたレンの言葉に、トワイは足を動かそうと試みる。そして同時に、何故シュゼとリュゼが動けたのかを考えておく。
 やはり、力のキャパシティには限界がある筈だ。それが、オレに全て割り振られた。ならば、と青年は思う。今が、好機か───と、小さく呟いた彼の脳内で思考が瞬き、力の出力が一気に高まる。
 それにレンの顔が歪み、明確に力が緩まり始めた、気がした。

「う、あっ!」
「う、ごけ!」

 と、その時、レンの目の前が炎で灼かれた。シュゼか、と青年が思う。それを避けるためにレンが後ろへとびずさった、その一瞬。確かに、力の強制力が、一気に緩んだ。

「フゥッ!」

 限界まで溜められていたそれは、さながら弓矢のようだった。ダンッ、と靴底で地面を蹴り飛ばす音がビルに反響し、大きく響く。
 残りの数メートルの距離を、ほんの瞬きする間に詰め、ようとした───

 詰めようとした瞬間、ブチブチと言う嫌な音が確かに足から聞こえ、青年が明らかに失速する。がくん、と体が揺らぎ、脚の制御がままならなくなる。右手を地面につけて、転倒を避ける。クラウチングスタートのような姿勢をとって、再び加速しようとした。だが、激痛が利き足の右足から脳天へ抜けていく。

「くは、っ………」
「トワイさん!?」
「トワイ、さんっ!」

 シュゼとリュゼの声すら聞こえない程の、痛みが走る。足を動かそうとする度に、青年の体に激痛が駆け抜ける。
 何があったのかは分からない、けど……恐らく好機、ここでこいつを倒しておく……! 瞬間で浮かび上がったその考えを、少年が実行することはできなかった。

 青年の足に誰かの力と思われる光が集まり始める。微かに何かの音が響いて───青年が再び加速し、少年へ刃を振り下ろしたからである。


「はぁ、っ、は」

 光を放ったのは、リュゼの右手。真っ直ぐにトワイを指した人差し指から、光が零れる。

「リュゼ! 無理しちゃダメ!」
「分かってる、姉さん……けど、私も、戦うの!」

 姉からの言葉に、そう答えたリュゼは、目を逸らさずに青年を見つめた。今のトワイさんを助けてあげられるのは私だけなんだから、と思いながら。

 一方、少年は青年が振り下ろした刃を左袖口から滑り落としたナイフで受け止めながら、考えをまとめていた。………もう一度加速してる…その事は分かる、あの黒髪の子が回復なり何なりをした…足が動かなくなっていたのは何故……そこまで考え、思いついた事を少年は口にする。

「貴方ハ、その力に、耐えられるほど、足ハ、強くないんじゃ、ないノカ?」


 また一方青年は、光に包まれた己の足をちらりと見た。この光に包まれた後、何故か足が酷使に耐えるようになった。光を放ったのはリュゼの右手。回復か、と青年は思う。脚が慣れていない状態で出力が高くなれば、そうなっても仕方ない。刃を受け止めた少年が自分の下で発した言葉に、青年は唇をつりあげてみせた。

「そう、かもしれないな!」


二話:時の流れは、速い上に激しい
   >>19-23


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