ダーク・ファンタジー小説

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疾風の神威
日時: 2022/07/27 11:39
名前: 野良 (ID: 7TMSmz7W)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13281

虚無きょむ”。
突如として現れた、人を襲い、食らう、謎の生物。時として他の生物にも化ける。なぜ、どこから現れたのか、誰にもわからない。
神威団かむいだん”は、そんな“虚無”たちを殲滅するために結成された。神威団は全団員が、“虚無”を倒すための武器を所持している、政府公認の組織である。

これは彼らが命を懸けて戦った、歴史の1ページである。


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こんにちは、野良です。初めての作品となります。
あらすじの通り、主人公たちが“虚無”を倒し、その謎を解き明かしていく、という物語です。
慣れない投稿で荒削りなところもありますが、よろしくお願いします。

主人公のプロフィールです↓


夜明刹那よあけせつな(17)
水瀬みなせ高校の2年生。皐月さつき隊の隊員。武器は黒い大鎌“黒咲くろさき”。虚無を抹殺するために神威団に入団。誰に対しても敬語。にこにことほほえみを浮かべていることが多い。基本穏やかな性格だが、敵対者には容赦しない。任務では、常に大鎌を運んだり、振り回したりしているため、意外と筋力がある。常に青いマフラーを巻いている。


【目次】

プロローグ >>1->>3
第一章 神威団 >>4->>12
第二章 記憶 >>13->>26
第三章 休暇 >>27->>33
第四章 急襲 >>34-



*オリキャラを募集してくださった方々*

氷水飴様
roze様
綾音ニコラ様
くれみと様
アリサ様
カーシャ様


Re: 疾風の神威 ( No.20 )
日時: 2022/05/15 13:47
名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)

「邪魔すルなアぁぁあっ!!」

「うおっ!?」

黒い手が、俺たちに向かって飛び出す。危うく触れるところだったが、ギリギリのところで避けた。

「あっぶねー…」

「チッ…!男虎、二手に別れろ。そうすれば、まとめて攻撃を食らうなんて無くなるはずだ!」

「了解!」

俺が指示を出すと、男虎はすぐに俺から離れる。あいつは成績こそ良くないが、要領は良い。戦闘の時でさえ、いつも冷静だ。
二手に別れ、攻撃を仕掛ける。

「っ、おらあっ!」

勇ましい音をたて、男虎が銃を撃つ。ヘッドショットを狙ったようだが、弾は黒い手に弾かれてしまった。
こんな状況じゃ、俺も、あいつらも危険だ。何か作戦を考えなければ難しいか。

「男虎、足だ!足を狙え!!」

「足…!?り、了解っス!」

地面を滑り、黒い手を避け、男虎は虚無の足元を狙う。黒い手は攻撃を防ごうとうごめいているが、どうやらあまり下の方には移動できないようだ。

「…ここだ!」

「…ゥう…!?」

標準が合い、銃が撃たれる。足を撃たれた虚無は、血を流してその場に膝をついた。ただでさえ夜明に傷を与えられていたから、ダウンするのが早い。

「センパイ!やるなら今っスよ!!」

「ああ。でかした、男虎!!」

とどめをさすならば、やつが怯んでいる今しかない。次々と飛び出す黒い手を弾き、虚無の頭に薙刀を振り下ろす。

__赤い鮮血が吹き出る。

「ぅ…ギゃあァぁアぁっ…!!」

虚無が耳障りな声で絶叫し、黒い煙をあげて消える。存在の消滅をもの付けるかのように、黒い手も消えていった。

まるで何事もなかったように、その場に静寂が訪れる。

「…よっしゃ!やりましたね、センパイ!」

「ああ。一度はどうなることかと思ったけどな…」

息を吐き、夜明の傷の具合を確認しようと、碓氷の方を振り返ろうとする。

その時だった。

「…おい、刹那!?」

碓氷の焦ったような声が聞こえた。

「どうした__…っ!?」

「刹那!」

夜明が、意識を無くしていた。恐らく、あの虚無に負わされた重傷が祟ったのだろう。



『お前のせいだ』と、体の内側で声がする。



__そうだ。俺のせいだ。俺が夜明を一人で行かせなければ。虚無の存在に早く気づいていたら。早くあいつを倒していたら。

あの時と一緒だ。あの時も、俺のせいで__



「__先輩!!」

「っ!!」

碓氷に呼ばれ、ハッとする。

「先輩、早く本拠地に…!」

「あ、あぁ…!」

今は、考えている場合じゃない。

俺たちは、夜明を担いで、急いで本拠地へと戻っていった。

Re: 疾風の神威 ( No.21 )
日時: 2022/04/12 18:07
名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)

__ここは、どこだろう。
私は、どうなったのだろう。

「__…。__!」

聞き覚えのある声がして、ここが私の知っている場所だと思い知る。
そう。よく知っている場所だ。そして、今も。

「__だ。…ないで__」

目の前に、黒髪の少女がいた。こちらに背中を向けているので、顔はよく見えない。ただ、彼女のことも知っている気がする。
少女は、誰かを抱き抱えて、何か叫んでいた。泣きたくなるような、悲痛な叫びだ。

ふと我に返り、思い出す。

「…そうだ。戻らないと…」

『__このまま戻るんですか?仲間のもとに』

踵を返そうとすると、また違う声がした。目の前にいた少女はいなくなっていて、代わりに、セーラー服を着た少女が立っていた。

「…誰、ですか?」

『…あなた、自分のこともわからないんですか?』

「…?」

皮肉っぽく少女は言う。そして、恨みがましそうに私を睨む。

『…私がこうなったのは、全て“あなた”のせいなんですよ?』

「…何を言ってるんですか?」

『“あなた”ならわかるでしょう?』

怪訝そうな顔をする私に、彼女はニヤッと笑う。そして、私にグッと顔を近づけて言った。

『“あなた”があの子を差し置いて幸せになるなんて、あってはいけない未来なんですよ?』

「…ぇ…?」

『あの子が死んだのは、全て“あなた”の責任なのに

あなた”が選択肢を間違えなければ、あの子は死ななかったのに

全て、全て、“あなた”のせいで__』

「__…!」

くらり、と視界がくらむ。

そのまま、意識が深い場所へと堕ちていく。



少女わたしが笑う。


あなたに幸せになる資格なんて、ないんですよ__』


――――――――――――――――

「__…ぅ、う…?」

目を開く。体中が痛い。団服の学ランとマフラーが外され、上はワイシャツ一枚になっている。

「目が覚めたかな?」

すぐそばで声がした。起き上がって見ると、金髪に緑眼の女性がいた。

「あなたは…」

いずみナナ。神威団の医者だよ。Dr.ナナって呼んでくれ」

Dr.ナナは、にかっと笑って言った。この人の話は人伝ひとづてで聞いたことがある。たしか、ハーフだという話だ。

「ぁ…夜明刹那といいます」

「うんうん。礼儀正しくてよろしい。…さて、と。君、自分がどうなったのか覚えてるかな?」

「…虚無と戦っていて、急に苦しくなったことは覚えています」

「そうか。あ、皐月君たちは無事だよ。安心してくれ」

「そうですか…」

ほっとした。彼女の話によれば、重傷者は私だけらしい。情けないことだ。

「どうして君ほどの実力を持つ団員が、虚無の戦闘で意識を無くしたのかな」

「…彼女…いえ、虚無が私に向けて言ったんです。『お姉ちゃん』と。それで、あの子のことを…妹のことを、思い出したんです。…そうしたら、あの日のことが頭に流れ込んできて、苦しくなったんです」

「…PTSD、かもな」

「…PTSD…?」

Dr.ナナの言葉に私が訊き返すと、彼女は説明してくれた。

「私たちが個人の力ではどうにもならないような圧倒されるほどの衝撃的な出来事を経験した場合、それが大きな傷となって、その後様々な精神的、身体的問題を残すことがあるんだ。
PTSDは、傷を受けた後、その傷が癒えないまま後遺症として残る病気の一つだよ。もちろん、君がそうと決まったわけじゃないがな」

「…傷…」

私は考えた末に、彼女に言った。

「私の話を…聞いてくれますか?…妹のことです」

「いいのかい?途中でまた__」

「いいんです。私が望んでいるんですから」

そう言って、思い出そうとするが、心臓が強く鳴った。私は深呼吸をして、あの日のことをつらつらと語り始めた。

「__私の妹は__」

Re: 疾風の神威 ( No.22 )
日時: 2022/06/06 23:24
名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)

私の妹は、なぎという名前だった。青いマフラーに茶髪がよく似合う、明るくて優しい自慢の妹だった。
両親は、三年前に死んでしまった。出掛けた先で知らない男と揉めて、殺されてしまったのだ。男は国の偉い人の息子で、どう手を回したのか、重い罪には問われなかった。もちろん、再審を何度も訴えた。だが、私の声が届くことはなかった。
__それ以来、私は妹と二人で生きてきた。両親が遺したお金と保険金を使って、なんとか暮らしていた。


あれは、二年前__私が中学三年生の時だった。当時、凪は小学五年生。11歳だった。

「凪、買い物に行ってきますね」

「あ、もうそんな時間?わかった、行ってらっしゃい!」

「ええ。一人で大丈夫ですか?」

「もう、心配性だなぁ…。大丈夫!だって私、もう五年生だよ?」

「ふふっ…。それもそうですね。じゃ、行ってきます」

「うん!行ってらっしゃい!」

私は、あの子の太陽のような笑顔が、何よりも大好きだった。
その日は特売の日だったので、行きつけの店は混んでいて、帰るのが二十分近く遅くなってしまった。
歩いていると、スマホが鳴った。見ると、通知が来ていた。

《水守街道付近に黒い化け物が出現。付近の方はお気をつけください。》

当時は、まだ奴らに“虚無”という名前は無かった。というのも、見られる姿も少数で、被害もごく稀だったからだ。__だから、私は気にとめず、急ぐことをしなかった。

「ただい__…ま…」

何気ない気持ちで家に帰ると、中から嫌な空気が押し寄せてきた。両親の知らせを聞いたときと、同じ空気だ。家の奥から、わずかに黒い靄が溢れ出す。胸騒ぎがして、いつも凪がいるリビングへと向かった。



「…おね…ちゃ…」

「…ぇ…」



私は、絶望した。

凪が、血塗れになって床に倒れていたから。

「凪…!!」

まだ意識はある。だが、呼吸が弱々しい。私に心配をかけたくないのか、凪は衰弱しきった笑みを私に向けていた。

「…おねぇ…ちゃ…だい、じょ…ぶだか、ら…」

「凪、喋ってはいけません…!」

凪を抱き上げ、鞄からタオルを出し、血を止めようと傷口に押し付ける。なのに、血は止まらない。私はすごく焦っていた。大切なものを、なくしたくなかったから。

「どうして…!!」

私たちが、何をしたのだろう。
なぜ、こんなひどい仕打ちばかり受けるのだろう。
私は必死で手を動かした。もう、何も失いたくなかったから。凪は、私に残されたすべてだったから。

「大丈夫、必ず助け__」

彼女が、私の頬に触れた。私は何も言えなかった。その手が、どんどん体温を失っていく。

「…おねぇちゃん…最…後の、わがまま…聞いて、くれる…?」

「…な、凪…駄目ですよ…」

今にも消えそうな声で、凪が私に言う。

「…幸せに、なって…。私、の…分まで…」

私の腕の中で、彼女は冷たくなっていく。その顔は、幸福に満ち溢れた、幸せそうな笑みだった。

最後の力を振り絞るように、凪は言った。

「ありがとう…。ごめんね…」

彼女は息を吐き出して、目を閉じた。

「…凪…?凪!!」

凪は、その後目を開くことは無かった。私はその体を何度も揺さぶった。無駄だと分かっていたが、そうせずにはいられなかった。

「…は、ははっ…」

自嘲するように、乾いた笑いが出る。

__涙をこぼす。



「…あ、あぁ…




うわあ"あぁぁぁあぁぁッ!!」



たった一人の大切な人さえ、守れない。

そんな自分が、憎かった。


――――――――――――――――――――

「…このマフラーは、あの子の形見なんです。あの時の気持ちを、二度と忘れないように」

マフラーを撫で、遠くを見つめる。そんな私を、Dr.ナナは心配そうに見つめた。

「私が選択肢を間違えなければ、妹は死ななかったかもしれないのに」

「…それで、神威団ここに来たのかい?」

「ええ。あの日から、虚無やつらを根絶やしにすると決めたんです」

Dr.ナナは、それ以上何も言わなかった。早く行かなければ__そう思い、ベッドから出ようとする。彼女が慌てて言う。

「骨にひびが入ってたんだ。無理に動かない方が__」

「いえ、そういうわけにはいきません。…私には、休んでいる暇などないんですから」

「…応急措置はしてあるけど、決して無理はするなよ」

「はい。ありがとうございました」

Dr.ナナに頭を下げ、私は医務室をあとにした。

Re: 疾風の神威 ( No.23 )
日時: 2022/04/23 16:12
名前: 野良 (ID: vGUBlT6.)

「あっ…!」

「おや…」

医務室を出ると、杏がいた。私を見て目を丸くし、その後ほっとしたような顔をした。

「良かった、目が覚めたのか…!」

「ええ。…あ」

言いながら、私はあの時のことを思い出し、「あの時は、助けてくれてありがとうございました」と、頭を下げた。杏は照れくさそうに笑うと、首をふった。

「いやいや。仲間を助けるのは、当然のことだろ?」

「ふふっ…。…そういえば、先輩たちはどこへ?」

「ああ、先輩たちは談話室で休んでるよ。お前が起きるのを待ってたみたいだから、顔を見せたらどうだ?」

「ええ。そうします」

そう聞かされた私は、杏と共に談話室へ向かった。

――――――――――――

「あ、刹那ぁ!」

「夜明!」

談話室に入るや、先輩は立ち上がり、佐助は駆け寄ってきた。「もう動いていいのかよ?」と訊いてきたので、笑ってうなずいてみせる。

「そっか…。べ、別に心配だったわけじゃねーからな?」

「…素直じゃないな…」

「先輩、何か言いました!?」

「あー言ってねえよ。…まあ、お前なら大丈夫じゃないかって、なんとなく思ってたけどさ」

その言葉と裏腹に、まだ不安が顔に残っているように見える。だが、先輩にそう言ってもらえるのは光栄だ。安心させたくて、私はほほえんでみせた。

「そういえば、刹那の様子を見に行く時に見たことない人がいたな」

「見たことない人?」

「ああ。赤髪に緑色の目の人だ。団服を着てたから、多分団員の人じゃないか?」

「…赤髪に緑眼?」

杏の言葉に、先輩が反応した。

「え、あ、はい。誰か探してる感じで__」


ガチャ


杏が言い終わらない内に、突然扉が開いて、男の人が入ってきた。その人は部屋の中を見回して、先輩を見ると嬉しそうな顔をした。

「__なんや、ここにおったんか」

「え?」

その人の口から出た言葉は、のんびりとした京都弁だった。びっくりしている私、杏、佐助にほほえんで、「ああ、僕のことは気にせんでええよ」と言う。目線は先輩の方を向いている。一方で、先輩も驚いているようだった。

「元気やったか、“兄弟”?」

「「「き、兄弟!?」」」

彼の言葉に、私たち三人の声が重なる。驚いた。先輩に兄弟がいるなんて、聞いたことがなかった。だが、先輩は慌てて訂正した。

「あー違う違う!そういう血縁的な兄弟じゃなくて…」

「パートナー、やろ?」

「あー、んー…まあ、分かりやすく言えばそういうことだ」

赤髪の人は、八重歯を見せてにっと笑った。そして、思い出したように言った。

「ああ、自己紹介がまだやったな。僕は溝呂木みぞろぎ交喙いすか。君らの先輩で、皐月隊の副隊長や。よろしゅうな」

「ふ、副隊長…!?」

「そや。まー色々事情があって、これまで顔は出せへんかったけどな」

「素直に重傷負ってたって言えよ…」

色々不思議なところのある人だ。人当たりは良いのだろうが、どこか飄々としている気がする。好奇心を隠しきれていない佐助が、「武器ってなに使うんスか?」と訊く。

「あー、武器なぁ。僕が使うんは、コンパウンドボウの“荒鷲あらわし”や」

「コンパクト棒?」

「佐助…コンパクト棒じゃなくて、コンパウンドボウですよ」

「そや。見るか?」

そう言うと、溝呂木先輩は武器を出現させ、見せてくれた。ブン、と音がして、黒と鳶色の弓が現れた。よく見てみると、赤いお守りがついている。弓に関しては素人の私が見ても、かなり重そうな弓だ。

「僕の“荒鷲あらわし”には、照準器スコープサイト、レーザー照射器、無線リモコンやら、色んなカスタマイズがされてるんや。最大で、矢を9本添えての発射なんかもできんで」

「すっげー!」

「その弓…何キロあるんですか?」

「んー、何キロやったかなぁ…。“荒鷲”が160ポンドやから…72キロ?」

「ななじゅっ…!?」

度々驚く私たちに、彼は「そないに驚くことかいな」と言う。…驚かない方が不思議だと思うが。

「いいなー!俺もスコープとか欲しい!」

同じ遠距離武器を持つ佐助は、きらきらと目を輝かせている。溝呂木先輩は、八重歯を見せて笑った。

「んじゃ、僕のことはここまで。君らのこと教えてくれへん?」

「えー、と…。一年、夜明刹那です。よろしくお願いします」

「男虎佐助!よろしくおなしゃす!」

「碓氷杏です。よろしくお願いします」

私たちが自己紹介すると、溝呂木先輩は笑って、「よろしゅうな」と言った。

「…ま、色々つかみどころのない奴だけど、言うこと聞いてやってくれよ」

「兄弟から君らのことは聞いとったでー。ま、僕も副隊長として頑張るわ」

緑色の目を細めて、溝呂木先輩は笑って言った。

Re: 疾風の神威 ( No.24 )
日時: 2022/05/05 13:07
名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)

「そんで…君ら、こないな場所で何しとったん?」

溝呂木先輩が不思議そうに訊いてきた。私自身も疑問に思っていた。

「ああ、夜明が起きるまで待ってたんだ。団長にまだ報告してないからな」

皐月先輩が言うと、溝呂木先輩は、ちょうどいい、と言いたげに笑った。

「ちょうど良かったわ。僕も戻ったこと団長に報告してへんかったさかい、一緒に行くわ」

ということで、私たちは団長の元へ向かうのだった。

――――――――――――――――――――――

コンコン

「団長、柚月です。報告が遅れてしまいすみません。入ってもよろしいですか?」

部屋の扉をノックし、先輩がそう呼びかける。数秒の後、「ああ、いいぞ」と声がした。いつもはすぐに返ってくるのに、誰かと話でもしていたのだろうか?

「失礼しま…す…?」

部屋に入った瞬間、皐月先輩は驚いたような顔をした。無論、私たちも驚いた。団長の他に、久しぶりに見る、彼の姿があったからだ。

「ゼロ…!」

そう呼ぶと、彼は振り返った。いつもと変わらない微笑みを浮かべている。

「…久しぶり…」

数秒の沈黙の後、彼はそう言った。皐月先輩と溝呂木先輩が、不思議そうに言う。

「え?君ら、知り合いなん?」

「それ、俺も思った。こいつ誰なんだよ?」

「…」

ゼロは黙ってしまう。彼は昔のことが原因で、ほとんど喋ることができない。それを知っている私は、代わりに説明した。

「彼は…ゼロといいます。私たちの同級生です。本名は“春川れい”といいますが、私たちは“ゼロ”と呼んでいます」

「…え?“彼”って…君、男の子なん?」

「…」

私の説明に、ゼロはこくんと頷いた。佐助が嬉しそうに言う。

「ひっさしぶりだなぁ!今までどうしてたんだよ?」

「…特訓…」

ゼロはそう言った。どうやら長い間、特訓に言っていたらしい。彼は任務に対する意識が強い。おそらくそのためだろう。

「ゼロは別の隊に属してるよ。…それで、柚月。報告に来たんだろう?」

団長にそう言われ、皐月先輩がハッとする。私たちもすっかり忘れていた。

「えっと、隣町の虚無は、全て討伐しました。まだ、大量発生した虚無のことは、わかってません。…それと、途中で予想外のことが…」

「…それは、私の口から話します」

先輩に代わり、私が口を開く。

「…逃げ遅れた避難者の、ゆりという女の子を、あの時安全な場所へ隠そうとしていました。しかし、私が先輩たちのもとへ向かおうとした時、異変が起きたんです」

「異変…?」

「はい。…彼女の体が黒い靄に包まれ、虚無のように変貌を遂げたんです。そして、彼女と戦闘になり、私は傷を負いました。…杏や先輩たちが来てくれなければ、私はとっくに死んでいた」

「…まさか、奴らは…」

私が説明を終えると、団長は何か考え込んだ。私たちは、団長の言葉を待っていた。


その時だった。


「__“他の生物に化ける”__それこそが、奴らの能力ですよ」

「!?」


男性の声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにいたのは、

「お初にお目にかかります、神威団の皆様」

三人の男性だった。一人目は、白髪に右目に包帯を巻いた糸目の人。二人目は、灰色の髪に紫目の男性。三人目は、水色っぽい白髪に灰色目の少年。いずれも、水瀬警察署の制服を着ていて、右胸に金色のバッジをつけている。

「お、お前ら、誰だ…!」

佐助が警戒して牙を向く。白髪の男性はクスッと笑い、「そう警戒なさらないでくださいよ」と言った。

「私、水瀬警察署虚無対策部の風見かざみ氷室ひむろと申します」

「俺はゆずりは恵斗けいと。よろしく」

白髪の人と灰色の髪の人は名乗ったが、少年は黙っている。少年に向けて、白髪の人は言った。

「紗羅、自己紹介を」

彼の言葉に、少年は反応した。

「…命令を承諾。…紗羅さらといいます。僕は対虚無用として創られたアンドロイドです。よろしくお願いいたします」

本当に、彼はアンドロイドなのだろうか。どこからどう見ても、普通の人間にしか見えない。

「虚無対策部って…こないだニュースでやってたやつ…?」

「その通り。主に私が指揮を執っています」

風見さんが笑って言う。いい人そうだが、なぜ警察が神威団へやって来たのだろう。

「団員たちにはまだ話してなかったな。これから、虚無対策部と連携してやっていこうって話になったんだ」

団長の説明に、みんな驚いている。それもそうだろう。神威団と警察、といえば、仲の悪いイメージしかないのだから。

「…急、ですね…」

ゼロが呟いた。確かに、なぜ今までいがみ合っていたのに、急に連携などという話になったのだろう。風見さんが説明した。

「昨今、虚無の数は増えるばかりです。それにともない多くの命が奪われているのに、いつまでもいがみ合っている訳にはいかないでしょう?」

いがみ合っている訳には、なんて理由、今更すぎると思うが。まあでも、何にせよ戦力がアップするのは良いことだ。
ふと思い出したことを、私は訊いてみた。

「虚無が他の生物に化ける、という話…詳しくお聞かせ願えませんか?」

「もちろん。お話ししましょう」

風見さんは微笑んで頷いた。


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