二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
さあおいで。
昔話をしてあげる。
だれも知らないお話だよ。
それは冬の終わりのお話だよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母さんお話して!」
というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
建国したときからどの季節もふゆでした。
なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
真上で太陽と月が喧嘩した。
それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
けれど、このときからばらばらになりました。
そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
うけとると、それは太陽と月の涙でした。
片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
冬は消え去りました。
そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.20 )
- 日時: 2012/08/16 22:29
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「どういうことだ」
ジャックルとアメリアはルクリスに詰め寄る。
さずが運動系の父子。
わかりやすく言わないと今度こそぼこすぞ、という圧力が肌に感じる。
ルクリスは慌てずにあいまいに微笑んだ。
「兄さんが母さんを流産させるために手をかけたら、母さんは兄さんを反逆罪でどこかへ飛ばすんだよ。血断ちする気かもしれない」
「血断ち?」
アメリアがベットから聞く。
「王族との血縁関係を事実上抹消すると言うことさ」
まだ複雑そうな顔をするので付け加えた。
「兄さんも君も、一般人になってしまうんだよ」
次の瞬間アメリアが不快気に声を上げた。
ベットから立ち上がり、憤りをあげている。
「そんなのって、ないわ!!どーして高貴な血筋のあたし達が一般庶民に?!ふざけんじゃないわよ!」
わが子をなだめるかと思いきや、ジャックルも頷いている。
だめだこりゃ。
そんな感じにルクリスは頭を振った。
「話を続けるけど—」
まったくこまった、とルクリスは考えていた。
「流産させたって、アメリアが時期女王になれる可能性もないんだよ」
二人の視線が痛い。
「クローロスがいる限り、無駄なのさ」
「やはり、クローロスを殺すしか手はないのだな」
ジャックルの声が響く。
やけにうれしそうな声だ。
「まあ!あたしたちやはり親子ね!同じことを考えていました!」
アメリアも頷く。
「…最終的にはそうなる。でも、どうやって命を狙うんだよ…」
暗殺について盛り上がる親子に、ルクリスの声が響く。
戸惑いや、ためらいの伝わる声音に、親子はそろって顔を上げた。
そして眉を寄せて、ジャックルが言う。
「なんだ、ルクリス。やけにいやそうな声じゃないか?」
そして今度はすごんだ。
「クローロスを殺すのがいやなのか?!」
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.21 )
- 日時: 2012/08/18 18:44
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「そんなこと、ないけど…」
ルクリスは立ち上がって迫るジャックルに、小声で否定した。
「ただ—」
「ただなんだ?!」
ほんとに運動タイプの兄は困る。
今にも俺を殴り倒そうって顔をしてる。
30後半の癖に、よくやるよなぁ。
「人殺しは、な。さすがの俺でも、ためらうよ」
すると、ふんっと兄は鼻を鳴らした。
見上げれば、馬鹿にしたような顔。
アメリアも、まったく同じ表情で、叔父のことを見下している。
「殺しなんて歴史上につき物よ。たとえそれが血のつながる家族だとしてもね」
アメリアはその歳で、暗殺について肯定しているのか?
まだ17の女の子が、14歳の少女を殺すのをいとわないと?
どういう教育してんだ、兄さんは。
「おまえはもう俺に協力している。いまさら逃げられんぞ」
ぐいっと喉元を掴みあげられて、ルクリスの体はジャックルに持ち上げられた。
「ぐ、ふ、ぐふっ」
息が詰まる。
目が充血して、首が真っ赤になり、血が詰まるのがわかる。
ばたばたと足をふってもがいても、兄の手から逃れられない。
本当に、37歳なのか?!
視界が黒ずんでくると、ジャックルの冷たい声がかろうじて聞こえた。
「このまま殺してやってもいいんだぞ」
びくびくと体が痙攣し始める。
意識がもう、失われつつある。
その光景は恐ろしいものに違いない。
けれどアメリアは薄ら笑いを浮かべてみている。
「協力すれば、生かしといてやる」
(あぁ、俺は卑怯な男だ。やっぱり、風見鶏なんだ)
「わか、わがっあぐぅ」
わかった、と聞いてジャックルは弟を床に放り投げた。
ドタンとその身が激しく床に打ち付けられると、身をかがめた。
茶色の髪をわしづかみ、わかったらいいんだよ、とささやく。
げふげふとよだれまみれの咳をするルクリスに、アメリアも冷たく言う。
「わかったでしょ。やらなきゃ、やられるのよ」
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.22 )
- 日時: 2012/08/18 19:07
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「ルクリス兄さん、それ…どうしたんです」
家族での食事。
といっても、いつもその席にジャックルはいない。
バジルとイオーデスも、来客賓と食事を共にしている。
ほとんど、ルクリスとブランドとクローロスしかいない。
天井の高い大きなホールの中心。
長いテーブルに、やはりまたルクリス、ブランド、クローロスが座っていた。
その席での話しだ。
「あぁ、ちょっとね」
ルクリスは首元を、襟を立てて隠した。
先ほど、ジャックルに締め上げられたので、首にあざが残っている。
そして、気管に異常をきたしてしまったらしく、咳が定期的に出てしまう。
またごほごほと口をナプキンで押さえて咳すると、クローロスが食事の手を止めた。
「ルクリス兄さん、いったい何があったのですか」
ルクリスはため息をついた。
今日だけは妻と食事すりゃよかった。
こんな洞察力のある勤勉系と一緒にいると、何もかもばれそうだ。
(でもまぁ、妻となんかいられるか。自由がない。べたべたしつこくて、金のことしか興味ないやつとなんかいられるか)
妻とはほとんど別居状態。
顔も、ここいくらか見ていない。
「…さきほど、ジャクルお兄様のお部屋で、強い物音がしました」
ぎくっと心の中で身を振るわせるルクリス。
「それと関係があるのですか?」
ソプラノの声が、今日は痛い。
こいつ、何もかも知ってるんじゃないのか?
ブランドも、疑いのような目を向けてくるし…。
白いテーブルクロスを掴みつつ、ナイフを取る。
そして目の前のメイン料理を口に運ぶ。
「…たしかに、ジャックル兄さんの部屋から音はしたな。でも、俺とは関係ないよ」
目の前の蜀台にともされた炎が、彼の心のように激しく揺らぐ。
「それで、来年のオブジェクトコンクールでは何を出品するんだ?」
こんな話し続けていられるか!と会話をするルクリス。
まずは話をそらすのだ。
自分から2メートル離れた妹と弟に、何を怯える必要がある?
メガネをはずせばぼやけるほどの距離じゃないか。
「!!」
クローロスが突然目を見開いた。
ルクリスもびくっとする。
何かまずいこと口走ったか?
「わたくしに…言ったのですか?!」
「…そうだが」
するとうれしそうにブランドに微笑みかけ、出品内容に関して話し出した。
その様子はまだおさない少女。
兄さんは本当にアレを実行するのか…。
しかし、案を出したのは自分だ。
やらなけりゃ、おれが殺される。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.23 )
- 日時: 2012/08/18 19:32
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
[5]
「お父さん、手紙は出来ました?」
机上に向かう父ジャックルに、アメリアは声をかけた。
今は太陽が真上にある。
つまり昼間だ。
けれど、冬の国ヴィンテルの春は寒い。
開け放しの窓は、冷風を運んでくる。
その風に身震い一つすると、アメリアは振り返った父を見る。
「まぁ、出来たのね!」
あぁ、と頷く父から受け取るのは、手紙。
アメリアもジャックルも、手には手袋をしている。
念のためだ。
「では、出してきておくれ?」
アメリアは、王城、神殿を後にした。
そして、町並みに歩いていく。
そして郵便受けに、そっと投函した。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.24 )
- 日時: 2012/08/18 19:50
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
今頃きっと、アメリアが投函したはず。
依頼の手紙。
「ルクリス兄さん!これです!」
はっとして、窓から視線をはずす。
駆け寄ってくるのは、クローロス。
昨夜の夕食の場で、成り行き上、ともに来年のコンクールに向けての研究を手伝う羽目になった。
まぁ、もうすぐいなくなる妹と時を過ごすのもいいだろう。
いつか…自分の良心が痛む日が来ると思うけれど、こうやって、少しでもいいから一緒にいれば、痛みも少ないはずだ。
「ブランド?どうした?」
本棚の影から、ちょっと心配そうにこちらを見る弟。
ルクリスは声をかけてやった。
「ブランド兄さんも、早くこちらへ!これが、探していた本なのです」
大型の本を広げ、あれやこれやというクローロス。
ブランドも、歩み寄ってくるが、その表情はさえない。
まぁ、ジャックルと仲良しの俺が、いきなり妹を相手にし始めたら疑うよな。
「と、こんな感じです。…どうでしょうか…」
「いいんじゃないの?きっと、海から遠く離れたこの国の審査員は、おまえの発表に魅せられるだろうね」
ぱっと笑顔になるかと思いきや、愛想笑いをされた。
「ありがとうございます」
そういうと、大型の本を手に、机に向かっていった。
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