二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
さあおいで。
昔話をしてあげる。
だれも知らないお話だよ。
それは冬の終わりのお話だよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母さんお話して!」
というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
建国したときからどの季節もふゆでした。
なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
真上で太陽と月が喧嘩した。
それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
けれど、このときからばらばらになりました。
そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
うけとると、それは太陽と月の涙でした。
片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
冬は消え去りました。
そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.1 )
- 日時: 2012/08/04 21:04
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
[1]
少し肌寒い気候。
風が吹くと首をすくめてしまう温度だが、今は春だ。
冬が先日終わって、れっきとした春がまたこのヴィンテル王国に舞い戻ってきた。
極東の国のように美しい四季は持たないし、春と言えどあのようにぽかぽかとする日はめったにない。
しかし、冬がメインの国としては、この暖かさが救いだった。
四季あらため、三季のこの国には冬・春・秋がある。
それはこの国に伝わる伝承にも記されている。
この国の国民は熱心な愛国者で、伝承を昔話として語らっている。
忘れられがちな建国者の名までも、根強く知られている。
イリジウム女王。
ヴィンテル王国の建国者であり、奇跡の女王であり、私の先祖である。
◇
クローロスは奇跡の女王の子孫である。
そして、時期女王の座に身を置いている。
イリジウム女王こと奇跡の女王。
彼女の名には「二つ名」がある。
虹色という意味だ。
もちろんクローロスにもある。
黄緑と言う意味である。
時期女王には二つ名が必ず化せられる。
彼女の母も、祖母も、その二つ名を持っている。
「お前の祖先は奇跡の女王なんだよ」
そういわれたときのことを思い出した。
クローロスは目をつぶる。
できるだけその思い出に身をおいていたい。
「どうして奇跡なの?」
幼い頃の彼女が、そう聞き返せばすぐに答えは出る。
「お前の祖先、イリジウム女王は長い冬を終わらせたんだから」
そういったのは誰だったか。
きっと事実を知らない誰か。
「目なんか閉じてる場合?!」
鋭い声にクローロスは目を見開く。
視界に長方形の緑の芝と、うつくしい白い石造りの訓練場が入り込む。
そして目の前に迫る剣も。
ひょいとバックステップしてかわすと、敵は怒りの声を上げる。
「いつも逃げてばかり!かかってきたらどうなの!」
そう叫ぶのは2歳年上の姪。
23歳はなれた長男の娘だ。
14歳のクローロスに、17歳の姪がいるなんておかしな話だった。
そもそもクローロスは4兄妹であり、その末っ子である。
上はみな男で、かなりの年齢差だった。
長男は37歳、17歳の娘がいるし、次男は32歳。結婚はしているが子はいない。三男は21歳であり、未婚だ。
上からジャックル、ルクリス、ブランド。
ジャックルの娘、改めクローロスの姪はアメリアという名をしている。
二つ名はない。
「運動馬鹿に突っかかるほど、妹は馬鹿じゃないのさ」
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.2 )
- 日時: 2012/08/04 21:37
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
そう声をかけたのは、三男のブランド。
アメリアに挑発気味な声をかける。
頭に血が上りやすいアメリアはきっとブランドをにらみつける。
そばかすの多い茶髪の大人びた彼女は、やり場のない怒りを自分のおばにぶつけることにした。
そしてじろりとおばを見る。
華奢な体つきの少女。
流れる金髪の下から、不安げな黄緑の目がこちらを見ている。
自分と違って外で訓練など余りしないので、肌はまだ白い。
それがたまらなく憎らしい。
時期女王の候補をあたしから奪い取りやがって!!
アメリアは思い切りフェンシングの剣をその顔に向かって突き出す。
おばのクローロスはかろうじて身をひねり、それをかわす。
もう汗びっしょりで、後ずさりできるように足を踏ん張っている。
(死んでしまえば候補はあたしのもとに帰ってくる。正統後継者は先に生まれたあたしのものよ!!)
◇
アメリアはおばが嫌いである。
それは王族の王位継承争いによるものだった。
それは17年前のこと。
イリジウム女王により、女性しか王位がつげないしきたりが続いているので、三兄弟は王位を認められなかった。
別に彼らは反抗するでもなく、長女の誕生を待っていた。
しかし、長男に娘が生まれてそれは一変した。
王家の戒め。
それに記載されているのはこの言葉。
女王に娘がいなければ、息子の長女に王位を与えることとす。
女王は当時42歳。
子などなせない身体なので、長男はひどく興奮した。
自分の娘アメリアが、次の女王になれる。
長女さえ生まれなければなれるのだ。
それから三年の間、アメリアに王位継承権がみとめられていた。
しかし、女王が45歳のとき、長女誕生。
正統な後継者が生まれてしまったのだ。
もちろんアメリアの王位は剥奪、長男もショックを受けた。
そして長男の一家は実の娘を心底嫌うことになってしまったのだ。
「はあ!」
怒りの攻撃がおばの頬を掠める。
おばが短く声を上げて方目を瞑る。
アメリアがにやっとした。
おばが死ねば私が正統後継者—。
すばやく剣をひき、狙いはおばの心臓。
突き出した。
けれどその刃は空を飛び背後の芝に突き刺さる。
「クローロス怪我は?」
クローロスとアメリアの間に入り、剣を弾き飛ばしたブランド。
「平気・・・かしら」
自分でも良くわからないと言う声で、クローロスが言った。
彼女の頬に赤い線が短く入っている。
そこから薄口がにじんでいるが、アメリアはもっと深く切り付けたかった、と悔しがる。
そして、男3人のなかでブランドに対しての怒りが募っていく。
(いつもいつも邪魔しやがって。どーしてコイツはおばの見方ばかりするの?!ジャックルお父様とルクリスはおばを嫌っているのに)
アメリアの父ジャックルと次男ルクリスはクローロスを嫌っていたが、
三男のブランドのみクローロスに手を焼いていた。
かれは家柄を重んじて、女王となる妹を大事に扱っていた。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.3 )
- 日時: 2012/08/04 22:02
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「妹は君と違って大切に扱うべき存在なんだぞ」
軽蔑のまなざしでブランドがアメリアにいう。
その背後より、怯えたような視線を送るクローロス。
「あたしだって3年前は王位継承権を持ってた!」
叫ぶアメリアに不安が募るクローロス。
「それはもう終わった話だ」
吐き捨てると、ブランドは訓練場からクローロスを連れ出した。
「お前は騎士達がいるから別に戦う必要など—」
そういう会話が遠くなっていく。
アメリアは奥歯をかんで剣の元まで歩く。
そうして突き刺さった剣を引き抜くと怒りに燃える瞳で訓練を再開した。
板の相手をなぎ払い、フェンシングにあるまじき突き刺し方をする。
「私が剣術を習うのはあんたの命をとるためよ!」
◇
クローロスは運動音痴ではない。
アメリアの一家が、運動神経が特別いいのだ。
素人相手ならば、百戦錬磨だろう。
しかし、彼女自身フェンシングが好きではない。
自分を憎むアメリアや、長男と手合わせするのが嫌いだからだ。
毎回命を狙うように攻撃してくる。
先日は長男によって前髪を一房切られたので、前髪の束から一房が妙な跳ねのように頭上にぴょこんと跳ねてしまっている。
クローロスは王家の書館にいた。
彼女は特別勉学が出来た。
それは幼い頃からこの書館に入り浸ったからだろう。
その理由が悲しいものだったが。
長男とアメリアは現況の才に恵まれていないため、この書館に来る事はない。
なのでいじめられるのを嫌った彼女はここに逃げ込んだのだ。
まさに悪魔から逃れるため、教会に逃げ込んだ子羊の様だった。
しかしそのおかげであらゆる知識が増えて、毎年国のオブジェクトコンクールで優勝を飾っている。
クローロスは黒いワイシャツの下に隠していた本の存在を隠しながら、書館の一番奥の隅に移った。
王家といっても、いとこからはとこまで、その数は多い。
直属の彼女から末端のわずかに血のつながりがある人々がこの王城に暮らしている。
メインの王城にはクローロスのような直属しか入れないが、その付近大聖堂あたりには血のつながりがある人が住んでいる。
城、まわりの神殿、それから城下町と、いう配置になっている。
クローロスは辺りを見回してから、その本を取り出した。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.4 )
- 日時: 2012/08/04 22:26
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
その本に題名はない。
ただ、真っ白の美しい本。
赤いしおり糸が本の間から伸びている。
それを掴んで本を開くと、お気に入りの章。
つきと太陽の涙について書かれている。
数ページにわたって、国民のよく知る昔話の伝承が書かれていたが、クローロスはそこを飛ばした。
そして、本当の伝承に目を通す。
国民もアメリアも知らない、直系の時期女王のみが知る伝承。
『長い冬の夜。
イリジウム女王が王城の自室にいたとき、一人の青年が窓からやってきました。
イリジウムは驚きました。
なにせ、城のてっぺんの部屋だったから。
窓から来た青年は、少しだけかくまってほしいといいました。
イリジウムはそれを承知して、退屈しのぎに青年に話をせがみました。
青年は自分が泥棒だと言いました。
しかしイリジウムは青年お話が面白かったのでさらにねだりました。
冬は夜が長く、そしてその冬が長く続いていたのでイリジウムは退屈していたのです。
そして夜更けのとき、青年は不思議な形の帽子から美しいダイヤをはずしました。
「コレをあげる」
「お兄さん、名前なんていうの?」
「僕の名前?」
「なんというの?」
青年は中々教えてくれませんでした。
「お嬢さんはなんというの?」
「イリジウムよ」
女王である自分の名前を改めて名乗るのは変な気がしました。
でも知らないというのならこの国の人ではない。
「変わった名前だね」
「虹という意味なの。皆はイジーというわ」
「そう、イジー…」
「お兄さんの名前は?」
もう一度イリジウムがたずねると、青年は教えてくれました。
「ぼくはヴィンテルというんだ。冬と言う意味がある」
そしてヴィンテルはまた窓から行ってしまいました。
その泥棒がくれたダイヤが、太陽と月の涙だと言う。
ヴィンテルが去った朝は春でした。
そのことから、皮下の人々はこのしずくによって春がもたらされたと信じているのです。
しかし女王はヴィンテルが去ったので冬が去ったと考えていた。』
他にもたくさんの王家にまつわる話が書かれているが、クローロスはコレが一番好きだった。
そして祖先の女王が何故奇跡と呼ばれるのかを知ったのだった。
(先祖様は宝石の力を引き出して春をもたらしたわけじゃないのに)
少し考えればわかることだ。
しかし皆女王をあがめている。
それはその宝石が実在するからだ。
クローロスは書館を出て、その涙の元へ行くことにした。
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