二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
さあおいで。
昔話をしてあげる。
だれも知らないお話だよ。
それは冬の終わりのお話だよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母さんお話して!」
というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
建国したときからどの季節もふゆでした。
なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
真上で太陽と月が喧嘩した。
それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
けれど、このときからばらばらになりました。
そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
うけとると、それは太陽と月の涙でした。
片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
冬は消え去りました。
そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.5 )
- 日時: 2012/08/04 22:39
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
[2]
その宝石は人々から、涙の宝石と呼ばれている。
半面はいてつく青の炎を燃やす月の、半面は激しく燃え盛る太陽の物とされている。
そのように語られるのもわかる。
目の前にすれば、その美しさが一目でわかる。
この世のものではない輝き、色。
半面ずつで色がこうも分かれているとは、信じがたい。
ルビーとサファイアをくっつけると、どの方向から見てもにごった紫にみえるけれど、この宝石は片面を見れば真青色。
もう片方から見ると金色とオレンジのまぶしさがはっきりとわかる。
「涙を見たいのですが」
だまってかしずく守護兵たちに、クローロスは言う。
また深く辞儀をして、長槍を持つ兵が案内する。
「ことらへ」と言うように、手で敬うように合図する。
王家に、さらに時期女王に声をかけるのは王族と、かぎられた役職のみだった。
なので兵士は一言もしゃべらない。
クローロスが質問すれば、何か答えただろうが。
厳重な扉の奥、無機質な部屋の中心の台座に輝きを放つ宝石。
クローロスはお礼を言うと、その宝石に歩み寄る。
きらきらと輝くそれはまさに太陽と月の涙。
かたちも涙方で、表面はつるつるではなく、端麗にカットされて輝きを増している。
(ヴィンテルという人がこれをご先祖様に上げた…)
コレがほしかったから盗んだのに、わざわざ上げるなんて何故だろう?
イリジウム女王はたしかに綺麗な人だったが、この宝石のほうが美しい。
それに女王は当時まだ20も行かない少女で、子供っぽかったのに。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.6 )
- 日時: 2012/08/06 15:10
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
以前アメリアに聞かれたことがある。
「涙の宝石はどんななの?」と。
「蒼くて黄色で緑でオレンジで深緑で水色で赤で…」
今ではありえない会話。
それは彼女達がまだ幼い頃の会話であった。
幼い子供にこの表現は難しすぎた。
「なにそれ、おしえてくれないの?」
7歳のアメリアはむっとしていた。
しかし本当だよ、本当にこうなんだもの、と幼き日のクローロスは訴えていた。
ルークからも聞かれたことがあった。
そのとき10歳だったので、まともな答えは出来たのだと思っていた。
「本当に涙方なの。端っこが波状に切られていて片方ずつ色が違うのですよ」
思い返すと言葉足らずだったことがわかる。
ルーク兄さんは形状の話しなど知りたくなくて、すばらしさについて聞きたかったんだと思う。
クローロスは台座に手を突いた。
目の前に磁力の力でくるくるとゆっくり回転する宝石。
時期女王と現女王のみがみることが出来る。
時期女王は4歳から見ることだできるのだ。
なので3歳で王位継承権を剥奪されたアメリアは見ることが出来なかった。
しかし、そんな人々にもこの涙をおがめる機会がある。
それは女王の戴冠式だ。
39年前に母であるイオーデス女王が戴冠式を行い、20で女王となった。
73歳の祖母のロジウム前女王は17で女王になったという。
あと三年か六年したら女王になるのか。
女王になってしまえばアメリアやジャックル兄さんの態度は変わるだろうか?
いや、そんなことはない。
ますます毛嫌いしてくるのだろうな。
ルクリス兄さんは結構薄情な人だから、女王となった私に媚を売るかもしれない。
ブランド兄さんは変わらないだろうな。
騎士隊長になる、といっていらしたからきっとそうなるのだろう。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.7 )
- 日時: 2012/08/06 12:03
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
クローロスは白い手袋をはめた。
黒いワイシャツ姿の自分が白い手袋をつけると、まるでタキシードを着ているような気がした。
その手で目の前を浮遊する宝石をなでる。
月の面の黄緑が、歓喜するようにきらきらと光る。
これがクローロスの名の由来でもあった。
確かに彼女の目が黄緑と言うのもあったのだが、それだけではなかった。
彼女の祖母、ロジウム女王はコレに触れるとばら色を躍らせるので「ばら色」という二つ名を持つ。
母のイオーデス女王はすみれ色を躍らせるので「すみれ色」という二つ名をえた。
ちなみに先祖であるイリジウム女王は言うまでもなくすべての色を輝かせたので「虹」と呼ばれている。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.8 )
- 日時: 2012/08/06 14:23
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
[3]
現女王のイオーデス女王は来国客との対談を済ませ、ため息をついた。
対談が何時間にもわたって続けられると、彼女の忍耐も磨り減っていく。
「もう歳ね」
水の注がれたワイングラスを下げに来た召使が目を伏せる。
そして礼をして部屋を出て行く。
女王に口を利ける身分は少ない。
これは建国当時から女王に身分不相当な相手が出来るのを避けるためにつくられたしきたりである。
よって、女王には友人と呼べるものが少ない。
話し相手も、限られた人のみだ。
夫のいるイオーデス女王はそのしきたりはもう破られているのだが、畏れ多くて近づくものもいない。
外交官や国家通訳者くらいしか、友人はで来にくい。
(クローロスには姪がいるけれど…ねぇ…)
イオーデスは赤いソファに両腕をかけるようにして大胆に座った。
葉巻でもあれば、その様子はどこかのマフィアにでも見えただろう。
アメリアはよろしくない子だこと。
初孫だと言うのに、イオーデスはそう考えていた。
最初は運動の出来るやんちゃな孫と考えていたのだが、どうも愛娘を嫌う性質があるのが気に入らない。
女王は孫よりも、娘のほうを考えていた。
女王は血の薄まった孫より、血の濃い娘のほうが可愛いと考えている。
なにせ、時期女王は娘のクローロスだし、なんといっても娘だ。
運動が飛びぬけて出来るよりは、勉学が飛びぬけて出来るほうが王家的にはよろしい。
そして人を憎むような子は、第二継承権を与えない方がいい。
もし認めてしまえば、長男一家はクローロスを殺そうとするだろう。
長男にも困ったものだ。
女王は頭を抱えた。
その手の隙間からこぼれる濃い金髪は、照明を受けてきらきらと輝く。
この歳になっても、白髪はない。
それが本人も不思議で、もうすぐ60だと言うのに、若く見える。
「イオ?どうしたんだい」
広く開け放された会合室に夫が入ってくる。
赤い絨毯の上、正装の控えめな衣装を身にまとう男。
普段は日の目を見ない王だが、会合には出席を許可されている。
「それが—…私達の息子のことよ。毎度毎度困ってしまって」
女王とは反対に、銀の白髪の目立つ夫。
年齢は同じくらいだというのに。
イオーデスは愚痴を言いながらも、夫が先立ってしまったらどうしようと考えていた。
確かにこの国の王の役割は少ないけれど、イオーデスには必要だった。
「クローロスは立派な女王になるさ」
「それはわかっているわ。けれど、アメリアやジャックルのこと。あの子達暗殺とか考えなければいいけど…それは考えすぎよね?」
両親ともに、そこが不安だった。
長男一家が時期女王を憎んでいることは、しかく有名なのだ。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.9 )
- 日時: 2012/08/06 14:49
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「さすがにそれはないだろう」
夫にはそういってほしかったのだが、言わなかった。
かわりに、目を伏せて黙るだけ。
「アメリアが王家を継いだら、ジャックルの未来も180度かわるからね…否定は出来ない」
銀髪をかきあげて、王はため息をつく。
「やはり、戴冠式を早めましょうよ」
イオーデスは不安げにいった。
長男は野望に走るタイプだ。
今まで一番長くみてきた息子。
目標達成まで何でもするタイプだと、すでにわかっている。
「しかし、それで余計にジャックルを刺激してしまうんじゃないか」
戴冠式を早めれば、ジャックルだってあせって手を打つはずだ。
「あせって、的確な判断が出来ず、思い立って暗殺など考えられたら…」
「それでは、綿密な計画を練る時間が多くなるわ。クローロスが女王になってしまえば、アメリアは女王になれない。たとえクローロスが死んでしまってもそれは変わらない事実。わたしが王位を認めたものだけが継げるのですから!」
すると王は軽蔑する視線で見てくる。
銀の髪のしたから、クローロスよりもっと濃いい緑の目で。
「それではクローロスが女王に成ってくれさえすればいいというように聞こえる」
怒りをはらんだ低い声が女王を威圧する。
「僕は、クローロスが心配なんだ。娘が殺されるなんて…。女王なんてどうでもいい。兄妹同士が殺しあうなんて考えるのもつらい。願わくば、長男を説得させて、クローロスが無事に生きてくれさえすればいい」
女王はそうではない、と言う。
夫にばら色の目を向けて諭すようにいう。
いつのまにか、力が入ってこぶしを握っていた。
「私もクローロスを大事に思っている。それは同じです!しかし、ジャクルやアメリアに命を狙わせたままでいさせるなど出来ないの」
赤いソファの前で、両親は無言になった。
お互いの意見はわかっている。
いいたいこともすべて感じ取れる。
しかし、双方の意見により、何か間違えば娘が死ぬのだ。
二人はしばらく話し合い、意見をまとめた。
そして、緊急の公開謁見を行うことにした。
国民は仕事をちゅうだんさせて、めったに入ることが出来ない城下町の奥、王家の端くれが住む神殿の近くに集合した。
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