二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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オリバト2
日時: 2010/07/13 03:47
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

オリバト2を書きたいと思います。
前作と同じで残酷な描写がありますので注意してください。

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Re: オリバト2 ( No.25 )
日時: 2010/07/19 09:15
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

廊下の照明を受けて、鈍く光る黒い矢を背の中央から生やして、犬飼絵美(21番は)ゆっくりと矢の飛んできた方向に向き直った。
矢の生え際に、じわりと赤いしみがにじみ始めている。
しばらく視線をめぐらせて、ようやくB棟三階廊下の真ん中あたりに、弓を構えた石井佳織(15番)が立っているのを確認した。
次の矢が、絵美を狙って、今にも放たれようとしている。

ああ、石井の言うとおり、馬鹿は自分だった。

自分が背後から不意打ちで他人を陥れたのなら、自分も同じ目にあわないよう、背後に神経を使っておくべきだったのだ!

それが、絵美の最後の思考となった。
続けざまに、二本、三本と矢が体を貫き、床に倒れこんで、そのまま動かなくなった。

佳織は、ゆっくり絵美の死体に歩み寄ると、まず、そのそばに落ちていたデイパック二つの中身をあらためた。
両方ともの中身に武器は入っておらず(稲川も犬飼も武器を手にしていなかったのにどういうことなのだろう?佳織には想像がつかなかった)、
食料と図面、筆記用具が入っているのみだった。
いや、一方には、お得用サイズの箱に入った輪ゴムが入っていたが。
これが、二人のうちのどちらかの武器だったのだろうか?(まあ、輪ゴム鉄砲にくらいはなるかもしれない。)

いぶかしげに輪ゴムの箱を眺めた後、二人の荷物は放置することに決め、絵美に刺さった矢を回収しようとして、背後に嫌な気配を感じた。
かがんだまま、振り向くと、さっき佳織が矢を放った廊下のあたりに位置する教室のドアが、音を立てぬよう意識して、そうっと開けられるのが見えた。
誰かが、いる。
声と、物音とを聞きつけて、佳織に気付かれないように、攻撃しようとしているのだ。
先ほどの、佳織自身と同じように。

素早く佳織は立ち上がり、弓を手に、臨戦体勢をとった。同時に教室から、市川真弓(17番)がその姿を現した。
美しい顔は天使のような笑みをたたえ、華奢な指は、マシンガンの引き金にかかっていた。

マシンガンに、弓(もしくは佳織のサブウェポン・包丁)で勝てるだろうか?

——僕が包丁で利き腕を使えなくする。相手は慣れない手で片手撃ちしかできなくなる。あとは弓で狙い撃ち、十秒で三射はいける!

ただ、市川と佳織の距離は、20メートルはゆうに開いていた。
包丁で切りつけるには、離れすぎている。
切りつける以前に蜂の巣にされるのが関の山だろう。
勝算は、もはやなかった。勝てないならば逃走するしかない…。

佳織が地面を蹴って走り出すのと、真弓のマシンガンが鉛弾を吐き出すのが、これまたほぼ同時だった。
何発かが確実に佳織の体を抉ったが、気にせずD棟西端方向に走り、階段を駆け下りた。
階段を降りきると、一旦まっすぐ進み、T字に交差する廊下を左側に曲がって、幾つ目かの教室に滑り込んだ。
真弓が追ってくる気配はしなかったが、廊下に点々と落ちた血痕を辿って、他の誰かが佳織の存在に気付く恐れはおおいにあった。
しかし、佳織は教卓の影に倒れるように座り込んだ。

制服の腹側に五つ、背中側に八つの穴が開き、そこから血がとめどなく溢れていた。
五発の弾丸は体を貫通し、残りの三発は未だ体内にとどまって、佳織に痛みをあたえつづけている。
佳織の意識は、ゆっくりと少しずつ、だが確実に薄らぎつつあった。


【残り 9人】
死亡者:犬飼絵美(21番)

Re: オリバト2 ( No.26 )
日時: 2010/07/19 09:12
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

石川亜美(16番)は、D301教室で、綺麗に並べられた机の影に息を殺して身を潜めていた。
かれこれ半日近く、そうしていたので、すっかり体のあちこちが痛くなってきたが、そんなことよりも頭を悩ます要素に今、彼女は直面していた。

校舎に入ってしばらく、亜美はあてもなくうろうろと歩いていたのだが、第一回の放送の直後に銃声を聞いて怖くなり、近くの教室に駆け込んだ(もちろん、誰も居ないことを確認してから)。
このまま教室にとどまっていようか、それともときどきは移動したほうがいいのか。
亜美はかなり迷った。

配り与えられたデイパックの中身を確認し、支給武器が拳銃であることがわかった後、長い時間をかけて付属の説明書を頭に叩き込んで、
そしてようやく、教室を出ることに心を決めた。
そっと立ち上がり、出入口の方に一歩進みかけて、——行動を中断せざるを得なかった。
今まさに行かんとしていた出入口から、井内光子(13番)が入ってきたので。

すぐさまその場にしゃがみこんだので、間一髪、井内には見つからずにすんだ。
それから半日。
光子は、黒板に近い机に腰掛けたまま、一向に行動を起こす様子を見せなかった。
別に、教室を点々としなければならないことはないが、それは、禁止エリアに指定されていなかった場合である。
A206教室は、第二回放送の最後に、禁止エリアとして予告された場所なのだ。

さっさと出て行けばいいのに。
そうすれば、後からこっそり自分も出て行くのに。

亜美はもう随分前から、じりじりしていた。
早く出て行ってくれないと、首輪が爆発してしまう。
まさか、まさか光子は禁止エリアを利用して、自殺でもしようというのか。
いや、それならもっと早くに禁止エリア指定された、別の教室に移動すればよい話だ。
もちろん、自分に支給された拳銃で、光子を殺害して、逃げるのもアリかもしれない。
けれど、亜美は出来ることなら人殺しは避けたかった。
護身以外で銃を撃つことは、可能な限り避けたいと、そう思っていた。

それにしたってもう時間が迫りすぎている。
亜美の不安は最高潮に達した。

光子の武器が、遠隔攻撃の出来るものとは限らない。
そうだ、自分のように拳銃を持っているかどうかはわからないのだ。
もしかしたら、相当なスカ武器かもしれない。
とにかく、ここでこうしてじっとしていても、死が待っているだけだ。
首から上の無くなった自分の死体を想像して、亜美は身震いしそうになった。

いちか、ばちか。
すくっと亜美は立ち上がった。戸口へ、走る。

ぱん、と小気味いい音を立てて、光子の拳銃が銃弾を吐き出した。
光子の武器も拳銃だったのだ。
予想外の人の存在に引きつった表情の光子は続けて拳銃を乱射した。
亜美もまた、想定していた最悪のパターンに、夢中で応戦した。

互いの銃弾が、互いの頭を撃ち抜き、互いにぐらりと体を傾けて、床に倒れこんだ。
教室の前方と後方に、目を見開き拳銃を握り締めた死体がそれぞれ転がった。


【残り 7人】
死亡者:井内光子(13番)、石川亜美(16番)
中盤戦終了

Re: オリバト2 ( No.27 )
日時: 2010/07/19 09:14
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

中盤戦終了時点でのネタばれ名簿
01番 死亡
02番逢坂雫
03番 死亡
04番 死亡
05番赤石渚
06番赤本涼子
07番 死亡
08番秋元蘭
09番秋山里奈
10番 死亡
11番 死亡
12番 死亡
13番 死亡
14番 死亡
15番石井佳織
16番 死亡
17番市川真弓
18番 死亡
19番 死亡
20番 死亡
21番 死亡
22番 死亡

Re: オリバト2 ( No.28 )
日時: 2010/07/19 09:30
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

秋元蘭(8番)との銃撃戦から撤退し、赤石渚(5番)と赤本涼子(6番)はB棟二階204教室にとりあえず身を潜めていた。
渚は無傷であったが、涼子は左の脇腹を銃弾がかすめ、負傷していた。
腹部も撃たれたのだが、こちらはまた、別の意味で深刻な事態を招いていた。

二人とも、拳銃で撃たれることを想定して、上着の内側腹部に、雑誌を入れていたのだ。
涼子が持ってきていた少年チャンプと少年マンガジン、ぶ厚い雑誌だ。
涼子の腹部に当たった銃弾は、少年チャンプにめり込んでいた。
今週の表紙は、「テニスの大路様」(テニス部部長の大路君がとてもかっこいい、「ナルと」と同じくらい人気のある漫画だ)で、涼子はとても気に入っていたにもかかわらず、そのキャラクターの顔面ド真ん中に、見事に穴を開け、焦げ目すら作っていた。
B204教室に腰を落ち着けて、初めてそれを見たとき、涼子は一瞬顔面蒼白になり、言葉を失ったのだった。

「まさか、会長たちがやる気だったなんて、思わなかったね」

ぽつり、と渚が言った。雰囲気が尚一層重くなる。
渚も涼子も、信頼していた秋元蘭(8番)が、自分達に銃を向け、発砲したことがかなりショックだった。
出会うことさえできたなら、一緒に行動しようと、そう思っていたのに。
秋元蘭と逢坂雫(2番)も、まったく同様に思っていることを、二人は知る由もなかった。
どこかで何かが間違っていた。誰も気付かないところで。
僅かなすれ違いが、現在の敵対状況を生んでいた。

「でもさ、渚のコックリさん。一応は、正しかったことになるよね」

B402大教室に行けば、仲間に会える、と、そうコックリさんは告げていたのだ。
ささいな偶然の積み重なりから、撃ちつ撃たれつの銃撃戦になってしまったものの、そのお告げは確かに正しかった、「かつての仲間」に会えたのだから。

「今度は、佳織を指名して、やってみない?」
「それ、いいね! ——でも」

少し、渚は口篭もった。言うのは憚られた。
もうあと十五分ほどしたら始まる放送で、佳織の名前が呼ばれない保証は無い、ということは。
無言で渚は、デイパック(荷物はすでにデイパック一個にまとめてあった)タロットカードを取り出して、占いだした。
涼子にも、渚の言わんとしていることはわかった。

一枚目、過去。二枚目、現在。三枚目、未来。
三枚目のカードを引きかけて、渚の手が、こわばるように動きを止めた。
それは最も引いてはならないカードであった。
はらり、と渚の手からカードがこぼれ落ちる。

死神の、正位置。それが、佳織の未来。

急がなければ。運命に先回りして、佳織を、助けなければ。
引っ掻き回すようにデイパックの中をあさって、コックリさんシートを取り出す。
財布から十円玉を取り出そうとして、慌てすぎた為に、財布そのものを取り落とし、硬貨を床にばら撒いてしまった。
ちゃりんちゃりん、と音を立てて、硬貨が四方に転がっていった。

「渚! 焦らないで。冷静にならないと、正確なお告げが降りないわ」

不吉な結果を占ってしまった渚よりは幾分冷静な涼子が、自分の財布の中から十円玉をつまみ出して、差し出した。
そして、二人は、鳥居の模様の上に置いた十円玉に、人差し指を置き、すう、と息を吸うと、呼びかけた。

「こっくりさん、こっくりさん。石井佳織は、どこにいますか?」

薄暗い教室の片隅で、二人の人差し指を乗せた十円玉が、す、す、と軽やかに動き始めた。

【残り7人】

Re: オリバト2 ( No.29 )
日時: 2010/07/21 09:36
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

うすぼんやりとした意識を、しかし石井佳織(15番)はまだ手放してはいなかった。
教卓のそば、黒板の下方の壁にだるそうにもたれかかり、両足を投げ出して座っている。
市川真弓(17番)に撃たれた傷から流れ出した血が床に溜り、影のように広がっていた。
息をするたび、ぜいぜいと奇怪な生き物の唸り声のような音が、唇からこぼれるのが自分でもわかった。

不意に佳織の耳に何か木製引き戸の扉を開閉したような、かすかな音が飛び込んできた。
複数の足音がこちらに向かっているように聞こえる。
廊下には、佳織の血痕が点々とついているままだ、ここに自分が身を潜めていることはすぐにも気付かれてしまうだろう。
それは或いは、怪我のなせる幻聴かもしれなかったのだが——。
とにかく、万一の襲撃には備えねばなるまい。

目がかすみ、視界はぼやけていた。
一本一本の指の感覚は、ゴム手袋をはめているかのように、不正確だった。
もう、弓による正確な射撃は望めそうにない。
佳織は、床に放り出すように置いていた二つの武器のうち、どうにか包丁を拾い上げた。
すらりとした柳刃包丁が、殊のほか、重く、感じられた。

すすっと、佳織のすぐそばの扉が開いた。
人影は、二つだった。向かって右の人物は、拳銃のような、黒く鈍く光る武器を手に持っている。
佳織の姿を認めると、人影は教室に踏み込もうとしてきた。

瞬間、佳織は重傷を負っているとは思えない敏捷さで、立ち上がり、一歩踏み込んで、包丁を振りかざした。
拳銃を撃たれるよりも先に、切りつければ勝機はある。先手必勝!
振りかざした包丁を、まず、右がわの人物の首のあたりを狙って、振り下ろした。
これまでの失血のせいで佳織の視界は随分とおぼろげだったが、包丁は見事に頚動脈を捕らえ、相手は勢いよく血の噴水をあげながら、
崩れ落ちるようにその場に倒れた。

逃げようとするもう一人を、佳織はギリギリのところで髪をつかんでどうにか捕まえ、勢い余って二人して廊下に転がり出た。
髪につけられていた、凝った細工のバレッタが床に落下し、カツンと乾いた音を響かせて、はねた。

先に立ち上がったのは、佳織だった。幸い包丁は取り落としてはいなかった。
包丁を、床に手を突き今にも立ち上がらんとする相手の、背中に突き立てる。
すぶすぶと、その背中は、刃を飲み込んでいった。
何度も何度も包丁を突き刺して、相手に生命の気配がなくなってようやく、佳織は手を止めた。
返り血と自分の出血とで、妙子の制服は真っ赤に染まり、元の桃色と、奇妙なグラデーションを成していた。

それで、精一杯だった。
ぐらり、と妙子自身の体がバランスを失って前のめりになり、廊下に片膝をついて、そして初めて、間近で死体の顔と対面した。
赤石渚(5番)だった。
背中に包丁を突き立て、顔を教室の方に向けてうつ伏せに倒れて、死んでいた。

佳織は、弾かれたように立ち上がり、教室に倒れている死体を確認した。
赤本涼子(6番)だった。
首の傷が、まるで、大きく笑うもう一つの口があるかのように見え、そこから相変わらず血を噴出し続け、死んでいた。
右手に拳銃を握ったまま。

「六時になりましたー! 皆さーん! といってももう五人しか残っていませんがー! サクサク殺しあっていますかー? 目指せ、千人斬りですよー。さてさて、死んだ人の名前を読み上げまーす!」
脳天気な、相沢の声が、教室に設置された古ぼけたスピーカーから響いた。

「1番、阿会裕菜さん。18番、市木早苗さん。20番、稲川直美さん。21番、犬飼絵美さん。13番、井内光子さん。16番、石川亜美さん。5番、赤石渚さん。6番、赤本涼子さん」

なんということだろう。
自分達会長グループ(佳織は秋山里奈も含めて考えていた。何しろ彼女が狂ったように殺戮を繰り返していることを知らなかったから。)と、市川真弓(17番)以外は、皆、死んでいたのだ。
あと数分遅く、この放送の後に渚と涼子が行動を起こしていたなら、こんな結末を迎えずに済んだというのに!

忘れていた痛みを取り戻したような気がした。

佳織は涼子の死骸のそばにしゃがみこむと、拳銃を握ったままの右手を、両手で包み込むようにした。
拳銃を拾い上げると、涼子のだらんと力を失った右腕もついてきた。
構わず佳織は、かがんだまま、涼子の拳銃を自分のこめかみに押し当てた。
引き金にかかったままになっている涼子の人差し指の上に、自分の人差し指を重ねてかすれた声で言った。

「僕は君達に殺されるなら嬉しいんだよ?」

佳織はそっと目をつぶると引き金をひいた。
涼子の指ごと。

【残り 4人】
死亡者:赤石渚(5番)、赤本涼子(6番)、石井佳織(15番)


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