二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- オリバト2
- 日時: 2010/07/13 03:47
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
オリバト2を書きたいと思います。
前作と同じで残酷な描写がありますので注意してください。
- Re: オリバト2 ( No.20 )
- 日時: 2010/07/19 08:24
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
冷静に、S&W(スミス&ウエスン)に弾丸を補充する秋元蘭(8番)の横で、逢坂雫(2番)は、何事もなかったかのように、むくりと起き上がった。
いやはや、自分でも、本気で一瞬死んだかと思った。
弾丸は、首から下げたお守り(家内安全)に、ものの見事に突き刺さっていたが、貫通してはいなかった。
どうやらそれは、防弾布か何かでできているらしかったが、どっちにしたって幸運な不幸だったと言えるだろう。
いや、お守り(家内安全)に弾丸が当たったこと自体は、神業的幸運には違いない。
しかし、本当に幸運であれば、そもそも照準のずれた弾丸に当たってなどいないはずである。
「雫、わかったでしょ?やたらに人を信用したら危険だって」
「わざとじゃないよ、きっと。私が立ち上がるなんて思ってなかったんだよ、だから偶然で。殺してやろうなんて思ってないよ、絶対」
蘭は深く長い溜息をついて、肩をすくめた。
撃たれてもなお、ここまで他人を信じることの出来るのは一体どういう原理なのだろう?
(もしかしたら、この子は私が拳銃を向けてもなお、撃たれる事なんかないと、信じきった笑顔を向けるのではないだろうか?)
知りたいとは思うが、訊ねたところで具体的に明確な返事の出来る類の質問ではないことなので、聞くのはやめておいた。
何にせよ、それは、雫の最も良いところであり、最も悪いところでもあった。
雫のような、純粋に人を信じる心を持った子をこんな酷いゲームに放り込んだこの国のお偉方に蘭は無性に腹が立ってきた。
雫は死ぬまで(嫌な言い方だ)この純粋な心を持ちつづけることができるだろうか。
いつか、猜疑心に苛まれ、自分と対立する時がくるのではないだろうか。
自分に疑念を持たれることより、雫の純真さが失われることの方が、残念でならない。
蘭がそんな感傷めいた思いを抱えていることを、露ほども知らず、雫はさらに続けた。
「次、会ったときに、ちゃんと話し合えば、きっと大丈夫だよ」
冗談じゃない!
一瞬口をついて出そうになったその言葉を、かなり苦労して飲み込んでから、蘭は次の言葉を吐き出した。
なるたけ冷静な、いつもの口調で。
それを意識することが、蘭に自己嫌悪の念を多少なりとも抱かせることになった。
「それはともかく、時間がないわ。早くこの教室を出ましょう。廊下が禁止エリアに入るまであと五分もない」
禁止エリアに入るのは、教室後方の扉から出た所にあるB棟の西側に向かう廊下だったが、教室前方の扉、C棟エレベーターホールに向かう廊下はついさっき、赤石渚(5番)、赤本涼子(6番)が逃げ去ったばかりだ。
いずれの方向も、危険には変わりなかったが、B棟西側に向かう通路の方が、禁止エリアに入る時間前にさえ通り抜ければ、何ら問題はないはずであった。
雫は頷くと、先ほどの銃撃戦で机の下に転がり落ちた、自分の荷物を拾い上げた。
「絶対みんなで脱出しようね!」
みんなで、は無理かもしれないけれど、可能な限り脱出作戦には手を尽くすつもりだ。
蘭は、ぐっと親指を立てて見せると、教室後方のドアへと走り出した。
すぐ後を雫が追った。
【残り 13人】
- Re: オリバト2 ( No.21 )
- 日時: 2010/07/19 08:29
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
プログラム会場となった四つの校舎から少し離れたところに建つ、かつては学生会館と呼ばれた三階建ての洒落た建物の二階・特別食堂は今大会の本部兼モニタールームとなっていた。
用意された大きなスクリーンには、校舎の図面が投影され、禁止エリアは赤く塗りつぶされていた。
現段階で生存している生徒達の出席番号がそれぞれの居場所の上で点滅している。
何人もの兵士(プログラム実行委員)が、モニターに向かい、せわしなくあれこれと記録をつけていた。
「先生。お洋服、準備出来ました!」
透明なガラスのコップにストローを突き刺してコーラを飲んでいた相沢リカ(担任)は、まだ半分ほど残っているそれをテーブルに置くと、満面の笑みを浮かべて声のする方に顔を向けた。
入り口には、何着かの洋服をこんもりと抱えた、やや長身の、住吉女学院の制服を着た少女が立っていた。
「ご苦労様!」
「いえ、プログラム終了まで私の出番はありませんし、暇でしたから」
「もうっ。せっかくお礼言ってるのに。素直じゃないわねー」
相沢は、少女から洋服を受け取ると、選別を始めた。
嬌声を上げながらあれこれと一通り目を通すと、二着を体に当てて見せた。
「ねえねえ、ドキドキ忍法帖と新・残酷無双2、どっちの衣装がいいと思う?」
どっちもどっちのコスプレ衣装だったのだが、相沢は本気で悩んでいる様子だ。
たしなめようかどうしようか、戸惑い気味の兵士の態度に、ようやく思い出したように腕時計を見た。
「やだ、放送まであと五分切ってるじゃな〜い!私、着替えるから、死亡者リストと禁止エリア予告リスト用意しててね! あ、BGMはガンパレード行進曲でお願い!」
言うが早いか、相沢は、「新・残酷無双2」の衣装を、着ていた服の上に羽織った(まだ「ドキドキ忍法帖」の衣装にも少し未練があるようだったが)。
手渡された死亡者リストと禁止エリア予告リストに目を通しながら、スタンドマイクのある放送席につく。
現在進行中の戦闘がないことを確認する為、耳に、生徒達の首輪に取り付けられた盗聴器からの音声を聞くためのイヤホンを押し込んで、暫らく耳を傾けた。
丁度、B402大教室での、赤本涼子(6番)、赤石渚(5番)、秋元蘭(8番)、逢坂雫(2番)による銃撃戦の決着がついたばかりのようだ。
他の場所では、戦闘が行われている様子は無いし、自殺を考えている者も、今のところいないように見受けられる。
つまり、放送直前に死亡者が増える可能性は、ほぼ無いということだ。
24時、3秒前、2秒前、1秒前、——。
BGMのスイッチが入れられ、「ガンパレード行進曲」が校舎とモニタールームに流れた。相沢は、すうっと息を吸い込むと、一気に喋りだした。 「T組のみんな〜! 楽しんでますか〜? 9月29日になりました、第二回の放送で〜す! よく聞いて、しっかりメモしましょう!」
手にした死亡者リストにちらっと目をやる。
一呼吸置いて、続ける。
「まず、死んだ人の名前を読み上げま〜す! 死んだ順番で〜す!7番、秋葉優子さん! 3番、相葉有香さん! 10番、綾瀬晴美さん! 4番、相本幸恵さん! 11番、安西詩織さん! 以上、5名です! この調子でサクッといきましょう!」
コーラを一口飲もうとして、それはテーブルの上に置いたままであったことを思い出した。
コーラは諦めて、次の、禁止エリアリストを手に取った。
「次に、今後の禁止エリアを発表しま〜す!1時、D棟302教室、2時、B棟3階302教室、3時、A棟2階から3階への階段、4時、C棟3階エレベーターホール、5時、C棟3階日本文学科事務室、6時A棟206教室」
あとは、キメの言葉だけだ。
「以上、放送終わり! 全員突撃! 撤退は許しません!」
BGMや、キメぜりふにガンパレード行進曲を使ったところで、このシャレがわかるのは、多分、石井佳織(15番)くらいだろうな、と、相沢以外の者は思っていたが、相沢自身はどうでもいいと思っているようだった。
放送の電源を切ると、制服の少女に言った。
「せっかくたくさんあるんだから、あんたも着なさいよ。これなんか、似合うんじゃないかな。で、写真撮ろう、写真!」
【残り 13人】
- Re: オリバト2 ( No.22 )
- 日時: 2010/07/19 08:36
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
一時間ほど前の放送で、最も警戒していた不良グループの全滅を知り、阿会裕菜(1番)は、やや大胆な行動を取り始めていた。
自分の武器は、ダイナマイト(三本)で、それはなかなかの殺傷力を持っている、アタリに近いものだったのだが、如何せん、裕菜は点火する道具を持っておらず、宝の持ち腐れ状態であった。
裕菜としてはあまり戦う気は無く、むしろ、まずは仲のいい体育会系グループの友人達や、おとなし目の会長グループの者達と合流し、ここを脱出する案を練ろうか、などと考えている。
半ば信用、半ば疑うという、ぐらついた気持ちだった。
無条件に皆を信じることはできなかったが、だからと言って全てを疑うこともできなかった。
上手くいけば皆と手を組む。
向こうにその気が無く、攻撃してきたなら、自分も応戦する。せざるを得ない。
そういう、心づもりでいる。
ただ、応戦するもなにも、現段階では武器は無いに等しい。
それで、裕菜は、不良グループの全滅を機に、何か武器になるもの(火種のないダイナマイトよりはましなもの!)を探しに、校舎内をうろうろし始めたのだ。
B棟ニ階の長い廊下を、東から西方向、突き当りまで走り抜け、バレー部エースの敏捷な動きで左手に曲がると、A棟一階廊下にたどり着いた。
図面で見た限りでは、A棟一階には書道教室などがあり、何か変わった物が置いてあるかもしれなかった。
硯なんか、どうだろう、投げて、当たればなかなかのダメージにならないか。
墨汁は、目潰し攻撃に使えそうな予感がしないか。
しかし、裕菜は書道教室には入ることが出来なかった。
ばん、という大きな音と共に、自分の両足に熱い衝撃がして、廊下に突っ伏すように転んでしまったためだ。
立ち上がろうとしたが、もはや両足には感覚がなかった。
両腕で体を支えるようにして上半身を起こし、ようやく背後に居る者の正体を知った。
「よう、裕菜」
学級委員の秋山里奈(9番)が、歪んだ笑みを浮かべて立っていた。
彼女が両手で保持したショットガンが、自分の両足を撃ったのだということが、裕菜にもわかった。
——どうして?
裕菜の認識では、秋山は、会長グループには直接属さないものの、誰とも仲良くしない井内光子(17番)のような孤高の人でもないし、口調はやや乱暴ではあったがそれなりの人付き合いはあったはずだった。
今日の昼休みにも、秋葉優子(7番)と楽しそうに何か話しているのを見かけたばかりで。
そういえば優子はさっきの放送で名前を——。
「アイツなら、死んだよ。この、ショットガンで」
秋山の目は裕菜ではなく、どこか遠くを虚ろに眺めていた。
殺される。逃げなければ。殺される。
感覚のない両足(右足は千切れ、左足もどうにかぎりぎり繋がっている状態だという非現実的現実を、裕菜の頭脳はまだ理解していなかった)は使えない。
だけど少しでも、ほんの僅かでも、狂った殺人鬼から、逃げたかった。
裕菜は両腕で這うように前進したが、一メートルと進めなかった。
もう一度、秋山のショットガンが鉛弾を吐き出し、その結果、右手は手首から先、左手は肘から先が千切れてしまったので。
「逃げる必要は、ないだろ」
秋山は裕菜のデイパックを拾い上げ、中からダイナマイトを掴み出すと、鼻で笑った。
——拳銃ぐらい持っててくれよ、せっかく私が使ってやるのに。だっさい武器だな。
「それとも、死ぬのが嫌なのか?」
どうしてそんなことを聞くのだろう。
嫌だと言えば見逃してくれるつもりなのだろうか?
亜樹は必死に頷いてみせた。
秋山は、ダイナマイトを一本手に取り、残りの二本を自分のデイパックに仕舞った。
それから、裕菜の頭部付近にしゃがんで、耳の近くに口を持ってきた。
「たとえこのプログラムで優勝したところで、——生きている限り、いずれは必ず死ぬ。結局、遅いか早いかの違いでしかないんだ。違うか?」
ダイナマイトを左手に持ったまま、右手でポケットを探る。
やがて右手が、六時の放送を聞きながら煙草を吸うのに使用したライターを探り当てた。
今朝、兄の鞄からちょろまかしたばかりの、銀製のオイルライターだ。
「私は、殺しても殺されても、お互い様だと思うんだ。与えられたルールの中で、いかに楽しんで、生きて、死ぬか」
カシャン、と微かな金属音を立てて、ライターの蓋が起こされた。
右手親指が、着火装置をこすり、小さな炎がゆらりと立ちのぼる。
「だから、死ね」
数歩後退し、導火線に点火したダイナマイトを無造作に裕菜の背中に向けて投げ捨てた。
裕菜は少しでも遠くに逃げようと、もがくような様子をみせたが(実際は敏捷に逃げることはおろか動くこともままならない怪我を負っていたために、それは本当に、もがくような「様子」でしかなかった)、逃れることは叶わず、数秒の後、派手な音を伴った大爆発が起こった。
【残り 12人】
死亡者:阿会裕菜(1番)
- Re: オリバト2 ( No.23 )
- 日時: 2010/07/19 08:45
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
市木早苗(18番)は、A棟入り口から校舎に入った直後から、近くにあった書道教室に身を潜めていた。
校舎に向かう小道に池田真央(14番)の死体が転がっているのを見て、確実に殺人が行われているのだということが理解できたので、何はともあれ最初に見つけた教室に潜伏しようと決めていた。
万一そこに先客がいて、殺されたなら、それはそれで仕方ない。誰も居なければ万歳三唱だ。
半ば諦め気味に、運を天に任せていた。
自分は陸上部に所属してはいるが、大して足は速くはない。
洋弓部の花形選手、石井佳織(15番)のような、大会連覇など、夢のまた夢、大会自体に出場したことすらない。
成績だって、T組の中では、どうにもぱっとしない。いつも最下位を誰かと争っている。
スポーツ推薦で有名校に進学することも、通常の推薦も、とうてい望めそうになかった。
早苗は生きることに疲れていた。
書道教室に滑り込み、そこが無人であることに安堵した後、ひとまずデイパックの武器を確認することにして、拳銃が出てきたときも相当迷った。
何度も、自分のこめかみに銃口を押し当てては、決心がつかず、引き金を引くことができなかった。
やがて、ある一つの結論に行き着いた。
自分が優勝したら、それは、T組の人間が他に居なくなったということを意味する。
T組の人間が自分ひとりということは、……推薦状も、取り放題だと、そういう事なのではないか?
——やってやろうじゃないか!
それからは、どうすれば優勝できるかの策を練ることに熱中した。
与えられた武器は拳銃だ。これは、アタリと考えて良いだろう。
しかし、スタート時に飯田愛美(12番)も言っていたように、拳銃の撃ち方など習ったことはないし、今、練習するわけにもいかない。
これについては全員同じ条件であると言えるが、それでも、運動神経の良い者は多少拳銃の扱いが上手いかもしれないとも考えられる。
不幸にもT組には体育会系でならしている猛者が多かった。
無論、彼女たち全員に拳銃が当たっているとは思えないが、よほどのハズレ武器が当たっていない限り、同じ事だろう。
結局、積極的な行動は起こさず、禁止エリアに指定されない限り、動かないことに決めた。
考えられる最も効率的な勝ち進み方は、銃声や争いが起こるたび、その現場に駆けつけて、自分も参加するか、皆が潰しあい、生き残りが僅かになってから参戦するかのいずれかだ。
早苗は、迷わず後者を選択した。
それから随分と時間が経ち、廊下側の壁に背中をつけて座って、書道教室で二回の放送を聞いた。
数時間前から、何度か、銃撃戦のような音も、遠くから聞こえてきた。
夜も更け、さすがに、あまり活動的な者は居なくなったと見えて、ここしばらくはそういった銃声は聞こえてこなくなっていた。
壁に身を預けて、うつらうつらしかかっていた千佳子は、誰かの走る足音で目を覚ました。
そっと、壁に耳を押し当てる。
こちらに向かってきているようだ。
途中から、音を殺すような、——走っている誰かを尾行する、もう一つの足音が増えた。
すぐ近く、この壁の向こうあたりで、ショットガンの発射音と、誰かが派手に転倒する音が聞こえた。
ぼそぼそと、何か喋っている。
もう一度、銃声。囁くような喋り声。そして、激しい爆発音。
拳銃を持ったまま、目をぎゅっと閉ざし咄嗟に頭をかばう姿勢をとった。
校舎自体の破壊目的に使用されるのを避けるため、火薬量はかなり減らされていたものの、猛烈な爆発に変わりはなかった。
廊下側の窓ガラスは軒並み砕け散り、キラキラした光のシャワーのとなって早苗の上に降り注いだ。
それだけではない。
ビシャッという音が幾度もして、気になった早苗は薄目を開けて、見た。
どこの部品だか見当もつかない、血にまみれた肉片が、床に叩きつけられているのを。
自分が悲鳴をあげたことに、早苗は気付きもしなかった。
「いい武器持ってるじゃないか」
頭をかばうように頭上を覆っていた手から、ひょい、と拳銃が奪い取られた。
驚いて振り返ると、ガラスの吹き飛んだ窓枠から身を乗り出して、秋山里奈(9番)が覗き込んでいた。
肩からは、ショットガンが吊り下げられている。
爆風で髪は乱れ、顔は煤だらけになっていたが、満足そうな笑みを浮かべていた。
片手にはつい今しがたまで早苗の武器であった拳銃が握られている。
もう片方の手を窓枠について支えるようにして身を乗り出しており、その掌は、窓枠に残ったガラス片が遠慮なくざくざくと突き刺さって血を流しているのだが、秋山は痛みさえ感じていない様子だった。
秋山は、片手を支えにしたまま、ひょいと身軽に窓枠を飛び越えて着地すると、早苗の方に向き直った。
天井から糸か何かで引っ張られているかのように、すうっと右腕が水平にあげられ、拳銃が早苗に向けられた。
ほどなく、ぱん、という音と共に銃口が火を吹き、早苗の左肩の肉がはぜた。
「なかなかの使い勝手だな」
反動もさほど無く、片手で射撃してもきちんと狙いを外さず撃てる。
もちろん拳銃の性能だけでなく、秋山の技術もあってのことだが…。
早苗は、左肩から血を流しながらただ震えていた。
どうすればいい、どうすれば。
立ち上がって、戸口から逃げ出すのに、何秒かかるだろう。
この至近距離では、立ち上がったとたん蜂の巣にされかねない。
だけどこのまま震えているだけでも、同じ結末が待っていることに変わりは無い。
ならば、いちかばちかで、——逃げるべきだ!
幸い足は撃たれていない、腐っても陸上部だ、大丈夫。
早苗がぐぐっと両足の筋肉に力を込めた瞬間、秋山は意外な行動に出た。
拳銃を手に入れて、早苗の方にはもはや興味が無くなったのか、そのまま、ふらりと教室を出て行ったのだ。
どこか遠くを、ぼんやりと見つめながら。
安堵の溜息を漏らした瞬間、知覚が蘇り、左肩に激痛が走った。
腕を伝い、鮮血がだくだく溢れていたが、命には別状は無さそうだった。
右手で左肩を押さえると、ぬるっと滑った。
指の間から、血が流れ落ちている。
——痛…。ちくしょう!後で、私を殺さなかったことを後悔させてやる!
何かが視界を横切った。
かつん、と音を立てて、地面を転がる。
目でそれを追い、その物体の正体を確認し、早苗は慌てて立ち上がった。
それは、ばちばちと導火線から火花を飛ばす、ダイナマイトだった。
少し前、廊下で派手に誰かが爆殺されたこと、直後に秋山が現れたことから考えれば、それが秋山が投げ込んだ物であると、容易に判断できた。
だから、秋山は教室から出て行ったのだ!
逃げなければ。少しでも遠くへ。
早苗は駆け出した。
しかし、それは、悲しくも、…陸上部、補欠最底辺選手の、貧相なダッシュでしかなかった。
早苗が戸口に辿り着くより僅かに早く、閃光と爆音が教室に満たされた。
【残り 11人】
死亡者:市木早苗(18番)
- Re: オリバト2 ( No.24 )
- 日時: 2010/07/19 08:51
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
「あ、ねえ、今、誰か飛び降りたよ!」
A棟四階とB棟三階の間にある吹き抜けの壁にもたれかかっていた稲川直美(20番)は、犬飼絵美(21番)のその言葉に驚いて、吹き抜けから身を乗り出して下方を見やった。
プログラム開始直後、まだ校舎に向かう小道をうろうろしていた千秋を、すぐ後に出発した直美が呼び止めてから、ずっと二人でいた。
それからまず手始めに、手分けして各棟の鍵を閉めて回った。
もちろんそれは、後続の者を締め出して、禁止エリア指定による首輪の爆発を利用して殺す為だった。
後続の者といっても、井本彩(22番)しかいなかったのだが、もし、自分達がもっと早くに出発できる出席番号だったなら、かなりの人数を片付けることが出来ただろう。
それから後は、殆どの生徒が教室などに潜んだのとは逆に、ときどき場所を替えながら、基本的に見通しが良く、各棟の廊下が交差するような場所を選んで居ることに徹した。
見通しが利く場所なら、敵にも見つかりやすいが、自分達も相手を発見しやすく、奇襲を受ける心配は余り無い。
万一、先制攻撃を仕掛けられても、こちらは二人いるのだ。
二人で別方向に逃げれば、敵が一人なら、自分達二人を同時には追ってこられないし、敵が複数でも、戦力を分散させることが出来る。
下手に反撃はしない。逃げることを最優先する。
自分達の武器が、輪ゴムと毒蜘蛛(これは紙の箱に入ってカサカサと音を立てていたのだが、直美がデイパックから取り出したとたん、絵美が「キャッ」と悲鳴をあげて直美の手から払い落とし、踏み潰してしまった)という、スカもいいところの代物だったためと、もう一つは、争う物音を聞きつけた「他の誰か」が現れて、襲撃者をさらに襲撃してくれることを期待しているためだ。
いかに、自分達以外の者が同士討ちをしてくれるかが、自分達が生き残れるかどうかの鍵なのである。
これらのアイデアは、絵美によるものだ。
絵美は、謀略に長けていた。
テストは常にカンニングだが、それがばれたことは一度も無い。
努力で埋まらない才能は、盗んで埋めるべきだというのが、絵美のポリシーなのである。
「ねえ、誰かいるようには見えないよ」
直美は、絵美を信用しきっていた。
二人ともの武器がハズレで、仲良くしておいて突然背後から撃たれるというような心配がない、という事もあったし、最初の放送で、部活仲間だった伊藤加奈(19番)の死亡を知って、かなり落ち込んだときに、絵美が随分と慰めてくれたからだ。
普段、絵美とはそう親しいわけではなかったが、校舎に向かう小道でうろうろしていたときに声を掛けてもらって以来、随分頼りにしてきた。
銃声がすれば、なるべくそちらから遠ざかるように逃げ、そうすると次には一層激しい銃声や爆音がして、絵美の判断の的確さに一々助けられてきた。
どうして自分に声を掛けて、組んでくれたのか、と聞いてみたことがある。
絵美は笑って、あなたなら大丈夫だと思ったのよ、いい子だから、と答えた。
「ねえ、絵美、誰も」
直美の言葉はそこで途切れた。
絵美が、直美の背を思いっきり突き飛ばし、その体が宙に踊ったために。
その数秒の後には、地面に叩きつけられて、死体と成っていたために。
恐らく直美は何が起こったか、理解できないままだっただろう。
「どうしてあなたと組んだかって? あなたを殺せそうな機会をずっと狙っていたからに決まってるじゃない。馬鹿な子ね」
そう、絵美は待ちつづけていたのだ、直美を殺害する機会を。
そしてまさに今、それが行われたのだ。
「馬鹿は自分じゃないのかな?」
声がしたと同時に、何かがどすっと鈍い音を立てて、背中に突き刺さった。
首を捻り、目線を背中にやると、不思議な物体が生えているのがわかった。
鈍い輝きを放つ、それは、矢、だった。
【残り 11人】
死亡者:稲川直美(20番)
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