二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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オリバト2
日時: 2010/07/13 03:47
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

オリバト2を書きたいと思います。
前作と同じで残酷な描写がありますので注意してください。

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Re: オリバト2 ( No.5 )
日時: 2010/07/15 18:28
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

画面が切り替わり、何かの建物が映し出された。

「今、みんなは、この、桃花女子大学の跡地に向かってま〜す。
桃花女子大は、去年廃校になったんだけど、そのときに、政府が丸ごとプログラム会場用に買い上げました〜!
だから校舎内はそっくりそのまま残っていま〜す!
遠慮なく暴れちゃってかまいませ〜ん!
電気や水道も通ってるから、好きなように使いましょ〜!!」

次に、建物を真上から見た映像が映された。
一番南の建物にはA棟と書かれている。
そのA棟と並行に建っているのがD棟である。
D棟の東の端には渡り廊下があり、C棟の西の端とつながっている。
そしてそのC棟から南側に渡り廊下が延びてB棟とつながっている。
B棟はやや横に長く、その西の端は丁度A棟とD棟の間に挟まっていた。

相沢が付け加えた。

「桃花女子大は山の斜面に立ってま〜す!だから、A棟、D棟の東の端と、B棟の西の端の階段は、よおく考えて上らないと駄目ですヨ。A棟の三階は、B棟の二階、D棟の一階に相当するの。D棟とC棟は同じ高さだから問題ないけど、C棟よりB棟は一階高いから注意してネ! 例えばA棟の四階から北に向かって進み続けるとB棟の三階に着いて、そのまま突き進むとD棟の二階に着くの。そこを東に向かってC棟に行ってもそのまま二階だけど、そのC棟の渡り廊下を南に行くと、B棟の三階に着くわけ。A棟からD棟どれもが4階建てなのも覚えておいてネ!詳しくは、図面を配るからそれ見てちょうだい」

つまり、並行して建つA棟、B棟(B棟は西の端がA、D棟に挟まれているだけだが)、D棟は順にフロアは一階ずつ高くなっていて、D棟とC棟は同じ高さというわけだ。

「禁止エリアについてですが、一時間に一教室づつ増えていきま〜す。三分の一の確率で廊下と階段が禁止エリアになります。時間がきても禁止エリアに残っている人は、首輪が爆発しますので、注意しましょう!」

一人一人の首に、硬い金属製の首輪が巻かれていた。
ここに連れてこられたときに、つけられたのだろう。
この奇妙な首輪から発する特殊な電波で、全員の行動を相沢ら本部の人間が把握するらしい。

「それから、このあと出席番号順に、荷物を持ってバスから出て行ってもらいますが〜、最後の人…えっと、井本さんね、井本さんがバスを出てから五分たったら、校舎のABCD棟以外は全面禁止エリアになりま〜す! 校舎内で戦ってくださ〜い! それから、午前と午後の零時と六時に、これからの禁止エリアと死んだ人の名前を放送で読み上げま〜す。よく聞いてメモしてくださいネ。午後六時の放送と同時に廊下の電気が自動で点灯され、午前六時の放送で消灯されま〜す。教室の電気は各自で判断して、手動で点灯消灯してくださいネ!」

バスの動きが止まった。
カーテンの隙間から、木々に囲まれた白い建物が四つ見える。
桃花女子大学の校舎、A棟、B棟、C棟、D棟だろう。
人の気配の無い校舎は、夕日を浴びて不気味にそびえていた。

「はい!では、始めましょう! 出席番号順に名前を呼ぶから、呼ばれた人はバスから降りてください! バスを降りたところで、武器と、食料と、校舎の図面や筆記具の入ったデイパックを貰っていってくださいね〜! あ、私物も持っていって構いませんよ〜! いいですか?」

ざわついていた車内は、いつの間にか、水を打ったように静まり返っていた。

「相沢先生!」

その静けさを破るように、大きな声をあげて、飯田愛美(12番)が立ち上がった。
まるで授業中に意見を述べるときのように、右手を挙げている。

「なに?」
「私達、武器の使い方なんてわかりません。戦うことなんてできません!」

顔色は少し青ざめてはいたが、口調は普段の愛美と変わらず落ち着いていた。
確かに、武器の扱いなど、授業で習ったことがあるわけない。
相沢は少し笑うとホルスターに納めていた拳銃を手にとった。

「武器の取扱説明書はちゃんとデイパックに武器と一緒に入ってま〜す。でも、ちょっとだけ教えてあげましょうか! 大出血サービスよ! よおく見ててネ!」

右手に持った拳銃を、皆に見えるように高く掲げた。

「拳銃の場合。まあ、銃の種類によっても微妙に違うけど。こうやって〜、撃鉄を起こして〜、ええと、オートマチック式の拳銃は撃鉄を起こす必要はありませ〜ん! で、こう、構えて〜」

すっ、と腰を落し、両手で銃を構えた。

「あ、構え方は、片手でも両手でもいいんだけど、女の子だから両手で構える方が安定していいかもね。で、こう。引き金を引きま〜す!」

ぱん! という音がして、同時に飯田愛美の右のこめかみに赤い穴が開いた。
目を見開き、ぐらりと大きく右に傾き、床へ倒れた。
倒れるとき、通路を挟んで右側の座席の井内光子(13番)のジャージの左腿にこめかみから吹き上げる血がかかり、
下手くそな桜吹雪の模様ができた。
光子に悲鳴をあげさせる暇も与えず相沢は続けた。

「ね?落ち着いて、しっかり狙えば、ちゃんと当たりま〜す! 皆、頑張りましょう!他の武器の使い方を知りたい人はいませんか〜?」

ぷるぷると首を横に振る者は何人かいるものの、もう誰も挙手する者はいなかった。
笑顔のまま、相沢は全員に視線を巡らせる。
薄暗い車内でも、前方の席の人間には、まだ銃口から細く硝煙があがっているのが見えた。

「飯田さんは〜、戦うことなんかできないって言ってたけど〜、それは違うよねぇ。だって皆、実際、毎日戦ってるじゃない。外部の有名高校に進学するために、誰よりいい成績を取ろうって頑張ってるんでしょう? 一つの推薦枠を奪い合うことだっていつものこと。どうやって相手を蹴落として、生き残るか。それってまるきりプログラムと同じことよ?」

相沢は愛らしい顔を一層ほころばせ、天使のような笑みを向けた。

「だから、今回のプログラムでも、皆、精一杯力尽きるまで頑張るって、先生期待してる」

全員に愛美が銃殺された時とはまた違った緊張が走った。
そうだ。
皆、敵なのだ。
いつだって。
そもそも十数倍の倍率のT組に受かった時点で、自分以外の十数名を、蹴落としたのではなかったか。

今この場では学友であっても、高校の受験会場では、……そう、皆、敵なのだ。

例えプログラムに選ばれなくとも。
例えプログラムがこの世に存在しなくとも。
相沢が言うとおりだ、——皆、敵であることに、間違いはない。

「じゃあ、今度こそ、本当にスタートしましょうネ。
1番。阿会裕菜さん!」

軽快に名前を呼ばれて、最前列に座っていた阿会裕菜が立ち上がった。
臨席の逢坂雫(2番)は、比較的親しかった愛美の死体に未だ視線が釘付けだったし、後方の席の者からは裕菜の後姿しか見ることができなかったので、その表情は誰にも伺い知れなかった。
裕菜は、そのまま、車内を振り返ることもなく、慌てたように下車していった。


【残り 21人】
 死亡者:飯田愛美(12番)

Re: オリバト2 ( No.6 )
日時: 2010/07/15 18:24
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

バスを降りると、そこには軍服姿の男性が何人も物々しく立っていた。
何人いるのか数える暇も与えず、軍服の一人がデイパックを投げて寄越した。
相沢が言っていた「武器と、食料と、校舎の図面や筆記具、それから武器の取り扱い説明書、など」の入った物だろう。
停車したバスの横には、同じようなデイパックがいくつも(多分22個だ)、山積みにされてある。
空中を、綺麗に放物線を描いて飛んできたデイパックを掴むと、阿会裕菜(1番)は一旦立ち止まり、周囲の様子を確認し始めた。
裕菜のトレードマークである、左右に分けてそれぞれ耳の上で束ねた髪が、きょろきょろするたび、ぴょこんと撥ねる。

バスは、ちょっとした坂道に停車している。
左手に、例の校舎が木々の間からそびえるように四つ、立ち並んでいるのが見える。
木々とは言っても、校舎の裏手の山に見えるような鬱蒼とした森と違って、人工的に植えられた木が、一応はそれなりの年月を経て
生長したものであり、とても身を潜めて後続の者を待ち伏せできるような環境ではない。
バスの停まっている道路から左へ、校舎に向かう細い小道があり、その両脇の低木はほどよく茂った植え込みに育ってはいるものの、クラスで一番小柄な秋葉優子(7番)でもない限り、全身を隠しきれはしないだろう。

だいたい、茂みに潜んで後続の者を待つといっても、自分と仲のよい体育会系グループの者は出席番号がかなり後の方に固まっていて、彼女達を待つには、相葉有香(3番)、相本幸恵(4番)、綾瀬晴美(10番)、池田真央(14番)といった不良グループの者達を軒並みやり過ごさねばならないのだ。

裕菜は一旦思考を止め、再び校舎に目を向けた。
校舎に向かう小道の他に正面方向にひたすらまっすぐ向かう広い道もあるがこれは何処へ続いているのか見当がつかず、万一校舎から離れていってしまったら厄介だ。
ここはやはり、まっすぐ校舎に向かうのが無難だろうと亜樹は考えた。

木々の間を縫うようにして校舎に向かってのびる細い小道は、かなり急な傾斜にあって、ここをかつては女子大生が行き来していたと想像するのは少し難しかった。

小道の右手には中庭が広がり、古びた木製のベンチがいくつか置かれている。
小道はその中庭に沿って右に曲がるものと、このまままっすぐ進むものとに分岐していた。
正面方向への道はすぐつき当たりに階段が見えている。
右方向への道はどこに繋がっているのか判別がつかないのでこのまままっすぐ進むことにした。

つき当たりの階段の左手にはレンガ敷きの広場があり、こちらにもベンチが並んでいた。
中庭と違うのは、大きなゴミ箱と、吸殻入れがあることだ。
ここは喫煙可の場所であったのだろう。
広場の西の端に校舎の1階の端が隣接していて、その壁には大きくAと書いてあり、それがA棟であることを主張している。
しかし裕菜は広場の方には行かず、階段をのぼることにした。

15段ほど石の階段をのぼると、また、先程よりは幾分なだらかな坂道が続いていて、その先に校舎の入り口が見えていた。
目の前にそびえる、恐らく位置から考えてB棟であろう建物の入り口に違いない。
C棟、D棟の入り口がどこにあるのかはわからないが、この道を引き返して階段を降り、右に向かう道との分岐点まで戻るのは、いつ誰と鉢合わせするかわからず危険だ。

選択の余地はなかった。

裕菜は網目状に針金を入れて強化されたその外見に似合わず意外と重いガラス製の扉に手をかけ、全体重を預けた。
ぎ、ぎ、ぎ、とやや軋んだ音を立てて、扉は開いた。
転がるように駆け込み校舎内に消えていった裕菜の足音はどんどん遠のき、やがて辺りはまた静寂に包まれた。


【残り 21人】

Re: オリバト2 ( No.7 )
日時: 2010/07/15 18:36
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

赤石渚(5番)は、バスを降りてデイパックを受け取った後、校舎へ向かう小道に向かって歩きかけ、立ち止まった。
耳をすませてみたが、聞こえるのは風に吹かれ触れ合う木の葉の音だけだった。

間違いない。誰もここにはいない。
先に出発した四人とも、すでに校舎に入ってしまったのだろう。

校舎内で、戦いは始まっているのだろうか。
まだ銃声は一発も聞こえてはいないが、そう、武器は銃器とは限らない。
刃物でだって縄でだって人を殺すことなど造作ないことだ。
背後から迫られて、首を締められでもしたら、悲鳴をあげる隙すらないはずだ。
殺しあうクラスメイト達の様子を思い描いて渚は身震いした。

どのくらい小道の坂の下で立ち止まっていただろうか。
渚より2分遅れて出発した、赤本涼子(6番)がこちらに向かってくるのが見える。
なにか長い時間がたったようにも思えたが、実際はほんの僅かな間のことだったのだ。

「涼子!」

渚は涼子に向かって大きく両手を振った。
涼子は小走りに渚の元に駆け寄ってきた。
移動教室用鞄には未だ、今日発売の漫画雑誌(昼休みに、皆で囲んで見たやつだ! 涼子のお気に入りの、主人公が親友のナルと一緒に忍者の修行をする人気漫画の「ナルと」が連載されているやつ!)が入っているらしく、角張って、重そうだったが、これから始まる殺人ゲームのことで頭が一杯の渚の目には入らなかった。
同じく涼子も鞄のその重さが気にならない、いや気にしていられない風だった。

クラスの中で、逢坂雫(2番)、秋元蘭(8番)、石井佳織(15番)、そして渚と涼子の五人は、小学校は日吉女学院片平校(小学校、幼稚園は各二校ずつあり、中学にあがるには選抜テストを受けなければならなかった)に通学しており、一グループを形成していた。
特に漫画マニアの涼子、ゲームマニアの佳織は、オカルトマニアの渚とマニア仲間として並ならぬ連帯感を持っている。
今この状況で、涼子と出席番号が連続していたおかけで一緒に行動を取れることが渚には自然の理を超越した運命的なもののように
思えてならなかった。

「渚!なにぼうっとしてるの!早くどこか隠れないと。まさか、佳織を待とうって言うんじゃないでしょうね」

どこかのんびりしたところのある渚のことだ、ありえない話ではない。
しかし渚は首を横に振ると一歩、校舎側に踏み出して言った。

「私、涼子とこうして一緒に行動できるだけで、充分」
「——佳織を見捨てるの?」

勿論ここで佳織を待ち続けるのは不可能だったが、そうきっぱり見捨てるような発言をする雅代渚に涼子は違和感を持った。
おっとりしている渚が、——まさか、やる気になっているとか?だったら何故私と行動を?私を利用しようと…?
しかし、涼子の疑念は渚の次の言葉ですっかり晴れることになった。

「違うわよ。見捨てるだなんて、人聞きが悪いこと言わないでよー。ここは一旦二人で校舎に入って、あとで私のコレで」

ぽん、と渚が移動教室用鞄を叩いてみせる。
涼子は小さく、あ、と呟いた。目が笑っている。
目が合うと渚も頷いて笑みを返した。

「佳織やほかの子も探せるから。大丈夫よ」

涼子も、渚の鞄に入っているものは知っている。 ——コックリさんからタロットに至るまで、洋の東西を問わず、オカルト占いグッズが満載なのだ、渚の鞄は。
渚の占いを利用すれば生き残ることができるかもしれない!
何といっても今日自分達は、こんな最悪なゲームに放り込まれた中でも最初から怖い思いをして単独行動を取らずに済むラッキーさんなのだから!
超プラス思考に目覚めた二人は迷うことなく校舎に向かって歩みだした。


【残り 21人】

Re: オリバト2 ( No.8 )
日時: 2010/07/15 18:43
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

校舎に向かう小道の中ほどにさしかかったとき、風も無いのに低木ががさがさと音をたて、やがて葉を散らすかのようにゆさゆさ揺れだした。
右手に曲がる道へ進もうとしていた秋山里奈(9番)は立ち止まって身構えた。

うかつだった。
武器もあらためず無防備に歩いていたなんて。
今、もし攻撃されたら移動教室用鞄にある保健体育の教科書を盾代わりにするしかない。
しかし、刃物ならまだしも果たしてこの薄い教科書で銃弾が防げるだろうか?
せめて歴史か何かの教科書だったなら!

「里奈、顔、怖っ!」

茂みから転がり出てきたのは、十年来の腐れ縁、秋葉優子(7番)だった。
一気に緊張が和らいだが、里奈の表情は硬いまま変化しなかった。
やや青ざめた色白の顔と背の中ほどまである長いストレートの黒髪が奇妙なコントラストを成している。

「里奈。何やってんの?」

ぷう、と頬を膨らませて唇を尖らす優子は、しかしその幼稚な態度とは裏腹に大胆なことを言ってのけた。

「何ってひどいなあ。里奈を待ってたんじゃん」
「待ってた?ここに隠れて?」

誰が敵か味方かわからないこのゲームの中で、とにかく優子は自分を待っていてくれたのだ。
赤石渚(5番)赤本涼子(6番)のように出席番号が隣り合っていたわけでもないのに。
他の誰が、どこに潜んで狙っているかもわからないというのに!

「そういえば会長は?私の前に出発したはずじゃ…」

生徒会長を務め、皆の信頼も厚い秋元蘭(8番)を仲間に引き入れることができたなら、相当心強かったろうに。
それとも秋元のある悪い「噂話」を優子は信じていて、秋元をやりすごしたのだろうか。
いや、優子はとかく噂などにふりまわされるような子ではないはずだ。
愛想が悪くてとっつきにくく、クラスでもやや浮いた存在の市川真弓(17番)にも臆することなく気軽に付き合っている。

「会長ねぇ、ここ、通らなかったんだ。どうしたんだろうね?てっきり里奈の事、待ってるんだと思ってたけど違うの?」

里奈は学級委員をやっていた関係で秋元とは授業外でも結構交流があった。
それに優子が漫画やゲーム、占いが好きで、それぞれのマニアである赤本、赤石、石井といった会長グループの一派と話が合うのでなかなか親しくしていたために里奈もまた芋蔓式に友達だったのだ。

「とにかく、会長がどこかに隠れているにせよ、気付かないうちにここを通過したにしろ、もう校舎に入ったほうがいいな」

優子は小柄だから茂みに身を隠せたがどちらかといえば長身の里奈にはそれは無理だ。
何より全員が出発した後、ここは禁止エリアになる。
うかうかしているわけにはいかなかった。

優子は頷くと制服に付着した葉っぱを払い落とした。


【残り 21人】

Re: オリバト2 ( No.9 )
日時: 2010/07/15 18:48
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

デイパックを受け取り、何気なくクラスの半数以上の者がすでに通過した校舎に向かう小道の方へ視線をやって石井佳織(15番)は凍りついた。
急な傾斜の小道の中腹あたりで、つい先ほど出発した池田真央(14番)が右手に彼女の支給武器であろう包丁を手が白くなるほど力を込めて握りしめ、目を血走らせて周囲をうかがっている!

恐らく池田は、先に出発した者がどこかに隠れていないか疑っているのだ。
とはいえ、あの道を通らなければ校舎には行けないし、しかし半狂乱に近い池田と鉢合わせしたら確実に、あの包丁が自分の胸に突き立てられるだろう。

幸い池田とはまだ視線が合ってもおらず、出発したばかりの自分には気付いていない様子だった。
佳織は急いで、けれど池田から目を離さずにデイパックの中を手探った。

受け取った瞬間からその重さと硬さでおおかた予測はつけていたのだ。中身が自分の扱い慣れた洋弓であると。

なぜなら佳織は中学に入学したときから洋弓部員で、遠征時にはいつも、自分の愛弓を持って歩いていたからである。
そして、その弓の腕前は、入部当初から期待の新人と言われ、また、ついこの間の夏休みの引退試合でも当然のごとく有終の美を飾れるほどだった。
仲良しの赤石渚(5番)など、佳織の自宅に招かれた折に、額におさめた表彰状が所狭しと飾ってあるさまに、相当驚いた様子をみせた。
今となっては、懐かしい思い出の一つにすぎないが…。

——ビンゴ! 大当たりですよ佳織サン!…僕の直感も捨てたモンじゃないね!

中身は、予想と違わず、洋弓であった。
口笛の一つもひゅう、と鳴らしたい気分だったが、まだ安心するには早い。
弓と矢を引っつかむと、手早く組み立て、矢をつがえた。
焦らない、焦らない。
池田の胴体に的を思い描き、その中心あたりにじっくりと狙いをつける…。

集中すると、なぜか池田の胴体が、本当に、競技用の的に見えてきた。
見慣れた、馴染み深い、競技用の的に。
小気味よく風を切って、一直線に矢が飛び、どっ、と鈍い音をたてて、的の中心に突き刺さった、いや、池田の胸部に深々と突き刺さった。

池田は何が起こったのか理解できず、突如自分の胸に生えた物体を不思議そうに目だけで確認した。
それから、声をあげることもなく、大きく後ろに傾いだ。佳織は、そのまま池田が後方へ仰向けに倒れる様子を見ながら、弓を手に持ったまま、校舎に向かう小道を駆けのぼった。
途中、倒れた池田が取り落とした包丁、近くで見ると柳葉包丁であることがわかったそれを、拾い上げ、——戦闘後の習得アイテムは持てる限り拾っていかなくちゃね!——、無造作に自分のデイパックに放り込んで、T組最初の殺戮者佳織はまた駆け出した。

 
【残り 20人】
死亡者:池田真央(14番)


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