二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- オリバト2
- 日時: 2010/07/13 03:47
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
オリバト2を書きたいと思います。
前作と同じで残酷な描写がありますので注意してください。
- Re: オリバト2 ( No.10 )
- 日時: 2010/07/15 18:54
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
最後の一人、井本彩(22番)はバスを降りて荷物を受け取ると一目散に校舎に向かう小道を目指した。
何しろ自分は他の生徒と違って校舎外をうろうろしているわけにはいかない。
自分が出発した五分後には、校舎外は全面的に禁止エリアになってしまうのだから、なんとしても五分以内に校舎に入ってしまわねば
ならないのだ。
それは逆にもう校舎の外をうろついている人間がいないことをも示していた。
校舎に入るまでの身の安全は、確保されたも同然なのである。
用心すべきは、校舎の入り口を入ったとたんに、待ち伏せしていた誰かに殺されてしまうかもしれない、その一点だけである。
このあたり、非常にラッキーであったと言える。
少なくとも彩はそう思っていた。
急な傾斜の校舎に向かう小道を足の裏に力を入れて踏ん張ってのぼっている途中中腹のあたりで誰かが倒れているのに気付いた。
池田真央(14番)だった。
目を見開き、仰向けに倒れ、その胸には深々と、カーボン製で黒色をした矢が突き刺さっていた。
倒れたときに後頭部が割れたのか、頭の下に血溜りができいた。
茶色いショートカットの髪が、その血溜りに浸って、ゆらゆらとかすかに動いていた。
間違いない、死んでいる。
池田のその目はもう何も見てはいなかった。
一体誰にやられたのだろうか?
池田が殺されるその瞬間を自分は目撃してはいないわけだから、ニ〜三分前に出発した、稲川直美(20番)や犬飼絵美(21番)であるとは考えにくい。
池田の胸に刺さり、どうだい?綺麗に刺さっているだろう? とでも言いたげな矢から考えると、洋弓部員の石井佳織(15番)の仕業だろうか?
矢は一本しか刺さっていない。一撃で仕留めたということだ。
そしてそれは、石井ならば造作も無いことには違いない。
ただ、——石井に弓などそう都合よい武器が当たるだろうか?
もしかしたら、どこかに隠れていた誰かが、池田に気付かれる前に弓で射殺したのかもしれない。
一撃で仕留められたのは、単に運が良かっただけのことなのかもしれない。
いずれにせよ、池田が死んでいる以上、彩にはどうでもよいことだった。
今の彩には、何より校舎に入ることが先決なのだから。
池田が生きているなら、助け起こして連れて行く必要がもしくはトドメを刺しておく必要があったが。
彩は広場の端を抜け、A棟の入り口の扉に手を掛けた。
重そうなガラスの扉の取ってを、両手で掴み、そっと、しかし思い切り押した。
——開かない!
二度、三度と押してみたが、がん、がん、とくぐもった音を立てるだけで、扉は開く気配がない。
内側から鍵が掛けられているらしかった。
彩は急いで引き返し、今度は階段を一段抜かしで駆け上り、B棟の入り口を開けようとした。
こちらも同様に内側から鍵が掛けられているようだ。慌ててデイパックから図面を取り出した。
引き返し、中庭に沿って右に向かう道を行けば、C棟の入り口があるが、そこまで行くにはもう残り時間は僅かだったし、その入り口が開いているかどうかも甚だ疑問であった。
扉の向こうにピンク色の人影がかすかに動くのが見えた。
内側に、誰かいるのなら、なんとかなる!
「誰か! ねえ! 開けて! 鍵が閉まってるの! ねえ!」
思い切り拳で扉を叩いた。
あわよくば割れてくれればとも思ったが、扉には針金の補強材が網目のように入っており、それは叶わぬ願いであった。
何かガラスを割るに適した武器でも入っていればよかったが、彩の武器はつまらない手品セット一式だった。
——せめて棒切れでも入っていればよかったのに!
「開けて!」
幾ら叫んでも、扉の向こうの人影が鍵を開けてくれる気配はなかった。
それどころか、桃色の塊は、遠ざかっていくように見えた。そこでようやく彩は思い至った。
——まさか。まさか、わざと? わざと私を閉め出して、殺そうっていうの?
彩の左手が無意識に首輪を掴んでいる。
その数秒後、どん、と鈍くくぐもった音が響き、彩の頭が消失した。
右手はなお扉を叩くかのように拳を振り上げたままだった。
左の手首から先は頭部同様、首輪の爆発によりはじけ散っていた。
ガラスの扉の外側には、ペンキが一杯に入ったバケツを投げつけたような赤い跡が乱暴についていた。
【残り 19人】
死亡者:井本彩(22番)
- Re: オリバト2 ( No.11 )
- 日時: 2010/07/19 09:09
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
井本彩(22番)が爆死したのとちょうど同じ頃、市川真弓(17番)はC棟3階のエレベーターホールに居た。
勿論、真弓が井本の死を知るわけはなかった。
特別に親しい者がいるわけでもなく、一人、真弓はホールに佇んでいた。
背の中ほど辺りまで伸ばした、ゆるくウエーブのかかった髪を真弓は無意識にかきあげた。
その仕草はとても優雅だったし、クラスで一番背が高く、すらっとしていて、なおかつグラマーなその体はまるでモデルのようだった。
実際、他校の男子生徒から交際を申し込まれた経験なんてもはや数え切れないほどだ(ただし全部断わってしまったのだけれど)。
そして、恐ろしいことに真弓自体は自身の美貌を意識したことが無く常に無頓着であった。
こういう真弓の態度が、一部の生徒達には非常に評判が悪かったし、真弓としても友達ゴッコとか、そういった馴れ合いは大嫌いであったのでむしろ好都合のようにも思えていた。
今だって、多くの生徒が友達と殺しあわねばならないことに戸惑いや恐怖心を抱いていたが、真弓はそういった感情は持ち合わせていなかった。
誰にも恨みはないけれど殺すことを躊躇う理由も無いのだ、真弓には。
本当のところ、この殺人ゲームに放り込まれて、最初は驚きはしたものの、嬉しくもあった。
「友達」がいるなら、その「友達」が本当に信用するに足る存在であるかどうか、実は敵意を胸に秘めているんじゃないか、などと常に
不安に思わねばならない。
しかし真弓にはそういった信頼する「友達」はいない。
逆に真弓を「友達」と思う者もいない。
つまり、真弓と出くわせば、誰もが銃口を向けてくるだろうし、真弓自身が迷わず武器を手にしても、誰も文句は言わないはずである。
友達か、そうでないか、の線引きをしなくて済む分、自分は随分と有利なのだ!
一人だけ例外的に真弓に対して親しげな口をきいてくる、秋葉優子(7番)がいるが——、秋葉はどう思っているかはわからないが、
真弓としては、こういう極限状態において頼りにするような、そんな存在とは思ってなどいない。
秋山里奈(9番)も、ちょくちょく喋ったりする間柄ではあるが、それはただ、真弓にとっては単なる近所のよしみでしかない。
現時点で、間違いなく真弓は優勝候補筆頭であった。
ただ、彼女が手にした武器は、拳銃でもなければ鋭利な刃物でもなかった。
真弓に支給された武器は、——いや、武器とすら呼べない代物だったのだが、それは、「絵の具セット」だったのだ。
何の変哲も無い、普通にどこの文具店でも売っている、安物の十二色の水彩絵の具、である。
確かに美術部の光子には、お似合いかもしれない。
洋弓部の石井佳織(15番)に弓と矢、美術部の真弓に絵の具セット!
とてもよく出来た偶然ではないか!
とにかく、最低ランクのハズレ武器をいただいてしまったものの、少なくとも真弓は落胆してはいなかった。
真弓は新品の絵の具箱のまわりのビニールに爪を立て、端を少し破いてから一気に全部を剥ぎ取った。
それから、そうっと、宝石箱でも開けるかのように、大切に蓋を取った。
紙箱には、新品の絵の具のチューブが、銀色の胴体に色の名前を記した紙を巻かれて、間違いなく十二本入っている。
真弓の、すらりと細く長く美しい、人差し指と親指の指先が、中の一本を摘み上げた。
うっすらと、極上の天使の笑みをうかべながら、真弓はねじ式のチューブの蓋を捻り開けた。
【残り 19人】
- Re: オリバト2 ( No.12 )
- 日時: 2010/07/19 09:18
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
伊藤加奈(19番)は、デザインこそ皆と同じであったが、一目で仕立てが違うとわかる制服に身を包み、C棟3階の廊下を恐る恐る一人で歩いていた。
その右手には何やら拳銃が握られている。
拳銃は思いのほか軽かったが、それでも加奈の小さな手には余りある大きさだった。
拳銃を握ったのはもちろん初めてで、そのため、本来拳銃とセットでデイパックに入れられていて然るべき、補充用の弾丸の紙箱が見当たらないことに、加奈は気付いてもいなかった。
そもそも相沢の言っていた、取り扱い説明書すらない。
とにかく、拳銃の引き金に人差し指をかけながら、加奈はとぼとぼと歩いていた。
同じブラスバンド部の稲川直美(20番)は、加奈のすぐ後に出発したのだが、身を隠すことを最大限に優先して校舎に駆け込んた結果、未だ直美とは合流できていない、というわけだ。
——直美ちゃんを待っていればよかったかな、でも、私と組んでくれるかな。
もう何度も同じ考えが頭の中でぐるぐるしていた。
直美を待っていれば今頃は少しは安心して過ごせていたかもしれない。
いやいや、たとえあの場で直美を待っていたとしても、これ幸いと直美は自分を殺したかもしれないではないか。
何度目かの溜息が口から流れ出た。
結局合流できていないのだから、もう、直美のことは考えない方が良いのかもしれない。
そう思うと、少しだけ加奈の気持ちは軽くなった。
今一度、加奈は拳銃を握りなおした。
廊下が二手に分かれていた。
まっすぐD棟に向かう渡り廊下へと続くものと、左手に折れ、B棟の東の端に向かうものと。
渡り廊下は、右手側が壁、左手側はガラス張りになっている。
どんなに壁寄りを歩いても、左手側…B棟側からは麻結香の移動が丸見えだ。
それはとても、恐ろしいことだった。
ああ、普段なら、部活を終えて帰宅して、温かいシャワーを浴びている時間帯なのに、なんだってこんな、怖い思いをしなければならないのか。
温かいシャワー、ふかふかのソファ、いつも見ているテレビ番組(そしてそのテレビは最新型の大画面のもの!)、手触りの良い生地のスリッパ、そういったものがとても懐かしく思えて、涙がこぼれそうだった。
いや、泣いている場合ではない。
生き残れば、また、いつもと変わらない生活に戻れるのだから!
加奈は迷わず(いやいや、少しだけ迷った。B棟の東の端に向かう方の廊下は薄暗く、不気味であったから。)、左に曲がった。
そして、危うく、大きな悲鳴をあげそうになり、あいていた左手で口を覆い、悲鳴を飲み込んだ。
人が、倒れている。
薄暗いエレベーターホールで、見慣れた桃色の制服姿の誰かが、仰向けに倒れているのだ。
桃色の制服には、赤いシミが広がっているようだ。
赤いシミ。——血痕!!
よく見ると、刃物で刺されたのか、鈍器で殴打されたのか、腹部と頭部に血痕が集中している。
随分前に殺害されたのだろう、ゆるやかにウエーブのかかった髪に付着した血は、乾いてバリバリになっていた。
加奈は、そろりと近寄って、死体の顔にかかっていた髪をよけて、顔を確かめた。
「市川さん…!」
市川真弓(17番)だった。
目を見開いた死に顔を予想していたがその瞳は閉じられ、穏やかな表情だった。
元々美少女であった真弓は、死してなお、美しかった。
血痕さえなければ、眠り姫のようにさえ見えたかもしれない。
誰が殺したのか、人付き合いが悪い真弓なだけに、加奈にはとても想像がつかなかった。
何より、人が死んでいるのを目の当たりにした以上、もう、誰かとつるむという考えは消し飛んでいた。
何とか一人で生き延びなければ!
幸い、自分に支給された武器は拳銃だ。
その拳銃を握り締め、加奈はホール横の階段を降りようと、真弓に背を向けた。
これ以上死体と一緒に居るのは御免だった。
ふと、背後に人の気配を感じ、振り返ろうとしたが、出来なかった。
すらりと美しい十本の指が、力を込めて、加奈の細い首を掴んでいたのだ。
加奈は自分の首を締めるその指から逃れようと夢中でもがいたが、指は一層力を込めてきた。
——これは一体、どういう、事、なの…、…
加奈の思考を断ち切るように、ぽきん、と軽い音がした。
首が折れ、全身から急速に力が抜けていった。
右手から、拳銃が落ち、かつん、かつんと階段を二段飛ばしで転がっていく。
魂を失った加奈の体を、指の持ち主——市川真弓が突き落とした。
拳銃よりも早く、加奈の体は踊り場に転がり落ち、だらんと横たわった。
今度こそ本当に、死体が一つ、出来上がった。
たん、たん、たんと軽やかに真弓は階段を降りて、優雅な身のこなしでかがむと、加奈の死体には見向きもせず、その左手付近に転がっている拳銃を手に取った。
とたん、真弓の表情が、険しくなった。
怒りにまかせて拳銃を床に叩きつけようとして、しかし、何を思ったか、ぎりぎりのところでやめ、上着のポケットに押し込んだ。
——脅しくらいには、使えるかもしれなかった。モデルガンでも。
代わりに、ポケットに入れてあった、あらかた中身を絞り尽くした、クリムゾンの絵の具のチューブを加奈の頭部めがけてがつんと投げつけた。
それから、うーん、と伸びをすると(なにしろ三十分近くずっと死体のフリをしていたのだ、体をほぐさねばなるまい)、加奈のデイパックと
移動教室用鞄を拾い上げ、また、軽やかに階段を降りていった。
【残り 18人】
死亡者:伊藤加奈(19番)
- Re: オリバト2 ( No.13 )
- 日時: 2010/07/17 15:56
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
一斉に廊下と階段の電気が点灯し、眩しさに秋山里奈(9番)は思わず目を細めた。
同時に大音量のクラシックをBGMに、相沢リカ(担任)の声がスピーカーから流れてきた。
「は〜い!皆さ〜ん!元気に殺し合ってますかぁ?6時になりました!第一回の放送の時間で〜す。よく聞いて、しっかりメモしましょう!!」
隣で秋葉優子(7番)がデイパックから図面と鉛筆を取り出すのが見えた。
今、二人は、校舎入り口から最も遠いであろう場所、D棟四階の大学院演習室(D501教室)前の階段に、並んで腰掛けている。
ここまで来るまでに、誰とも出会うことはなかったので、未だ二人きりだ。
「まず、死んだ人の名前を読み上げま〜す!死んだ順番で〜す!14番、池田真央さん。22番、井本彩さん。19番、伊藤加奈さん。以上、三名で〜す!」
とりあえず会長グループの者の名前は読み上げられなかった。
しかしもう、飯田愛美(12番)を除いて三人が実際に死んだのだ。
二人とも、その現場を見たわけではなかったから、やや実感が薄かったが、誰かが誰かを殺したのだ、確実に殺し合いが始まっているのだ、という事実に少なからず薄ら寒さを覚えた。
「次に、禁止エリアの予告で〜す。19時、A棟4階、A401教室!20時、C棟3階、日本文学科院生控え室! 21時、A棟1階、ロッカー室!22時、B棟1階、庶務部!23時、B棟4階、B401前廊下!24時、D棟3階、D301教室!」
優子は鉛筆で、各指定エリアに時間をさっと書き入れると、自分の鞄から赤いサインペンを取り出して、丁寧に丸で囲んだ。
それから、思い出したように名簿を手にとって、死亡者の名前の横に ×印をつけた。
「以上、放送終わり! あ、まだ、始まって一時間半だっていうのに、なかなかいいペースですヨ! この調子でガンガン殺っちゃいましょう! ガンバ!!」
ぶつっという音と共に、放送は唐突に終わった。
里奈は無言のまま、鞄から引っ張り出した煙草を咥え、ライターで火をつけた。
いつものように優子が、中学生は煙草吸っちゃだめじゃん、と注意しかけてやめた。
里奈がライターをポケットに仕舞うと、煙草の箱を捻り潰したのを見たから。
…それは、箱に残っていた、最後の一本だったのだ。
恐らく、人生で最後の一服。
——いい、ペースか。
チ奈は煙を吐きながら、相沢の言葉を思い返した。
確かにそうだ。一時間半で、三人が死亡したということは、単純計算で、次の、六時間後の放送では、その四倍、十二人が死亡していることになる。
クラスの半分以上、だ。
実際のところは人数が減っていけば(嫌な言い方だ)、偶然に出くわして戦闘状態になるといった可能性も減るのだろうが、それでも、あと一日も経てば、優勝者は決定するだろう。
里奈の憂鬱な計算は、優子の脈絡の無い問いかけに止められた。
「ねえねえ、里奈、初めて会った日のこと、覚えてる?」
もちろん、覚えていた。
とても幼い日の、何てこと無いささいな出来事だったけれど、里奈の記憶の片隅に今もきちんと納められている。
それは優子も同様だった。
「優子が、話し掛けてきたんだ、『りなちゃんの、なまえって、かっこいい』って」
「…よかった、覚えてるんだ」
優子は心底嬉しそうにそう言った。
それから、ごそごそと支給のデイパックを漁り、紙箱に収められた大ぶりのショットガンを、箱から取り出した。
既に確認してあったが、優子の武器はレミントン社製のショットガンで幸か不幸か、里奈の武器は、そのレミントン用の強化パーツだった。
「これ。里奈が持っててよ。私より、上手く使えそう」
公言していなかったが、里奈は多少軍事マニアなところがあった。
優子はもちろん、そのことを知っている。
優子と自分の武器を確認した際、説明書を見ること無くレミントンにパーツを取り付けたのも拓美であった。
「いや、でも、それは優子の武器だろ。私が持ってしまったら、優子はどうすんだ?」
「いいよ、里奈が守ってくれたら」
冗談めかして言っている割に、優子の表情は固い。
いつもの、元気な優子と様子が違う。
いぶかしげに見る里奈の前で、優子は、右足の靴と、靴下を脱いだ。
「ね、里奈。ばんそうこう、持ってない?靴擦れ、しちゃってさあ」
——そういうわけだったのか。
里奈は、心中で苦笑いをした。優子の元気がないと思ったら、靴擦れだったとは。
つまらない心配をしてしまった。
「ああ、持ってる。ちょっと待て」
里奈の鞄には日頃からちょっとした救急用品が入れてあり、それは優子だけでなく、クラスメイト皆が知っていた。
里奈は、妙に用心深い性格で、自分が転んで擦り傷を作れば、翌日からはばんそうこうを、足を捻れば翌日からは湿布を、鞄に入れて持ち歩くようにしていたのだ。
そしていつしか、鞄が救急箱のようになっていた、というわけだ。
里奈は煙草を床に擦りつけて火を消すと、優子から目を離し、鞄に視線を落とした。
ほんの三秒ほどの後、ばん!と聴覚を狂わすほどの大音響が空気を震わせ、優子のレミントンが火を吹いた。
【残り 18人】
- Re: オリバト2 ( No.14 )
- 日時: 2010/07/17 16:03
- 名前: sasa (ID: q6B8cvef)
秋葉優子(7番)と秋山里奈(9番)は、並んで階段に腰掛けていた。
優子のレミントンは、底部は優子の腰掛けたよりも一段下に、銃口は優子の腹部に、それぞれ押し当てられていた。
そしてその引き金部分は、裸足の優子の右足親指に、思い切り、踏まれていた。
多量の鉛玉を受けて、優子の腹から血が溢れ出し、足元には早くも血溜りが出来ており、濃い血の臭いがした。
口の端からも、ゆるゆると血が流れている。
致命傷を負っていることは、明らかだった。
「私ね、」
口を開くと、なおいっそう血がこぼれて、足元の血溜りを大きくした。
それでも優子は話を続ける。
「殺すのも、殺されるのも、どっちも、嫌、なんだ、…」
それは、ほんの2〜3日前の下校途中に、里奈と交わした会話と奇妙によく似ていた。
どこまでも赤い、夕焼けの空の下、二人並んで駅まで歩く、いつもの下校風景。
「優子、高校受けないんだって?」
「うん、——ていうか、行かないの!」
あっけらかんと優子は言ってのけた。
確かに、優子はクラスで飛び抜けて優秀な成績というわけではない。
しかし、それはクラス内でのことであって、校内では充分に上位校を狙える成績であった。
ただ、優子が有名私立高校の受験を躊躇う理由が見当たらないわけではない。
優子は兄弟が多く、末の弟はまだ幼稚園にも入園していないほど幼い。
優子宅が、伊藤加奈(19番)のような過分に裕福な家ではないことは、里奈も知っている。
「なんで?優子なら奨学金くらい貰える成績だろう?公立の高校を狙うっていう方法だって…」
里奈の言葉を遮って優子は言った。
「だって、私、自分が落ちるのも、誰かを落とすのも、嫌なんだもん」
そうして優子は少し笑うと、改札の向こうへ、走って行ってしまった。
里奈は何か言おうとしたが、やめた——。
僅かの回想の後、視線を戻すと、優子はレミントンを抱えたまま死んでいた。
腹部の派手な血痕さえ見なければ、そして頬に散った返り血さえなければ、うとうと眠っているようにも見える。
里奈は優子の手からレミントンを受け取った。
手はまだ暖かく、硬直もまだ始まってはいなかったので、比較的容易にそれはできた。
ふと、優子に上着を貸したままなのに気付いたが、何しろ腹の部分が盛大に破れていたし、特に必要だとも思わなかったので、そのままにしておくことにした。
里奈は、もう優子には聞こえてはいないことを承知で言った。
「ありがたく、借りておくよ」
それは、つい4時間ほど前に優子が里奈に言ったのと、奇しくも同じ言葉だった。
【残り 17人】
死亡者:秋葉優子(7番)
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