複雑・ファジー小説

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奇想天外!プロレス物語【完結!】
日時: 2014/05/11 19:35
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

今回は笑いあり感動ありのプロレスをテーマにした小説です。楽しんで行ってもらえると嬉しいです。

第1話 変な転校生>>1 オリキャラ応募用紙>>60

第2話 井吹と大形>>2 オリキャラ人気投票開始>>58

第3話 無く子も黙る不動仁王>>3 第49話 ハニーの猛攻撃>>72

第4話 スターレスリングジム>>4 第50話 井吹VS怒雷氷>>76

第5話 新しい仲間!?>>5 第51話 サッカー部の友情>>77

第6話 暴走保安官ロディ参上!!>>10 第52話 新たなる助っ人参上!?>>78

第7話 助っ人・・・だといいな>>11 第53話 イルVS怒雷氷>>79

第8話 副会長カイザー登場!!>>14 第54話 試合の決着>>84

第9話 会長の出した条件>>15 第55話 ふたつの弱点>>85

第10話 軽井沢VS井吹>>17 第56話 カイザーの父登場!!>>89

第11話 意外な結末>>18 第57話 宇宙から来た救世主たち>>90

〜世界大会編〜

第12話 予選開幕!>>20 第58話 みんなで掴んだ勝利!!>>91

第13話 第1回戦開始!>>21 最終話 井吹の挑戦はどこまでも>>92

第14話 星野の実力>>22

第15話 星野の新必殺技>>23

第16話 星野の思い>>24

第17話 メープルの告白! >>25

第18話 勝負の結果は!?>>26

第19話 タッグマッチ>>27

第20話 お見舞い>>28

第21話 衝撃の対戦相手>>29

第22話 一筋の光>>30

第23話 準決勝開始!>>31

第24話 それぞれの思惑1>>32

第25話 それぞれの思惑2>>33

第26話 ジャドウの本心>>36

第27話 シーの疑問>>37

第28話 明王の怒り!!>>39

第29話 井吹勝利なるか!?>>40

第30話 ST8>>41

第31話 最強のニードロップ!!>>42

第32話 ヨハネスの動揺>>43

第33話 シーの強さ>>45

第34話 少年探偵の怒り>>46

第35話 カイザーの正夢>>47

第36話 不動の異変>>48

第37話 それぞれの価値観>>49

第38話 シーの正体!!>>50

第39話 一進一退の攻防!!>>51

第40話 ヨハネスの過去!>>52

第41話 大逆転の勝利!>>53

第42話 決勝の相手>>56

第43話 不動の弟子登場!!>>57

第44話 決勝戦開始!>>63

第45話 ヨハネスの秘密>>64

第46話 少女ヨハネス大激闘!!>>67

第47話 不屈のゲルマン魂!>>70

第48話 ヨハネスの涙>>71

来てくださった大切なお客様

みららさん、夕陽さん、 愛欄さん

驟雨さん、 まどかさん、 陽乃悠飛さん

狐さん、 みにょさん、菜の花さん、Suirenさん

Re: 奇想天外!プロレス物語 ( No.20 )
日時: 2014/04/27 16:18
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

俺たちはプロレスの世界大会、ワールドプロレスグランプリ、通称『WPG』に出場した。

出場チームは世界各国から集められた100チーム。

その中で本戦へと出場できるのはたった8チームのみだ。

なんとしても勝ち抜き、本戦へ出場してやる!

と、ここでチームのメンバー紹介を忘れていた。

1人目は王李。カンフーの達人だが口が非常に悪い。

2人目は星野。1ヶ月の特訓で俺の相棒的存在となった自称天使だ。

3人目はメープル。メンバーの紅一点の女の子。

優しくて天然なところがたまらなく可愛いお嬢様。

4人目はスターレスリングジムの副会長を務めるカイザーブレッド。

ジムの中では2番目に強く、心も体もでかく、頼りになるおっさんだ。

そして最後に俺を加えた5人がチームとなっている。

他のメンバーは居残り組になったものもいれば、ジャドウみたいにどこかに失踪したものもいるし、わざわざ俺たちの応援団になってくれた奴らもいる。

そんなこんなしているうちに、全チームが入場し終わり、開会式がスタートした。

周りを見渡してみると世界各国の団体から集められた強豪選手ばかりがいる。

だけど、俺は絶対に負けねぇ。

必ず本戦に出場して、優勝してやる!!

「井吹くんはこの中で1番弱い癖によくそんな自信満々なことが言えますね」

「・・・・・この野郎!」

俺が王李の言葉につい切れそうになり、掴みかかりそうになるのを止めたのはカイザーさんだった。

「やめたまえ。今は開会式の最中だ。つまらない揉め事を起こし、失格にされてしまったら、元も子もない」

カイザーさんのおかげでなんとか俺は冷静さを取り戻すことができた。

しばらくして開会式が終わり、安堵のため息をついていると、第1次予選を開始することが運営委員より宣言された。

「マジかよ!?開会式が終わったばっかだぜ?少しやすませろよ」

「井吹、疲れている気持ちは分かる。
だが、真のレスラーというものは決して何があっても決してうろたえたりしないものだ。それをよく覚えておきたまえ」

「お、おう・・・・」

『第1次予選は恒例のジャンケン大会です!
チームの代表を決めて、決まった代表の人は前へ進みでてください!』

はあ?ジャンケン!?

俺はその種目に拍子抜けしたが、とりあえず代表として前へ出た。

ここで負けたら恥さらしもいいとこだ。

『私に勝ったチームだけが第2予選へとコマを進めることができます。それでは始めましょう』

一列に並んだ俺たちは次々に司会者とジャンケンをしていく。

だが、この司会者はジャンケンに強いらしく、次々に脱落チームが出る。

負けたチームの代表はチームへ帰ると袋叩きにされている奴らが少なくなかった。

『ただいま、49チームが出場権を獲得しています。残りは最後の1チームだけです』

最後の1枠か・・・・って俺の番じゃねぇか!!

『それでは行きますよ、ジャンケンポン!』

司会者が出したのはチョキ。俺はグー。

『おめでとうございます。第2次予選進出決定です!!』

嬉しいのか嬉しくないのか複雑な気持ちで俺はチームに戻った。



翌日第2次予選が開かれた。

昨日で一気に50チームまで減らされた各チームがこれからさらに減るのかと思うと俺も緊張してくる。

『第2予選は大玉ころがしです。チーム全員で協力して、1番を目指してください!1番になったチームだけが最終予選へと出場できます!!』

運動会かよ、と心の中でツッコミを入れつつ、予選がスタートした。

俺たちは出場順にボールを回し、楽々と第2次予選を突破することができた。

これで出場チームは50から20チームへ減ってしまった。



次の日、ついに最終予選が行われた。

『最終予選はメンバー全員で協力する5人6脚です!
上位12位までになったチームが見事本戦へ出場権を獲得できます!!』

やっぱり運動会だな、この予選・・・・・

俺たちはバンドで脚を固定し、ピストルの合図と共に走りだした。

ところがみんな歩幅が違い、連携もかみ合わず、なかなかうまくいかない。俺たちはどんどん抜かされ、とうとう最後尾になってしまった。

この5人6脚はゴールまで20キロあるので、まだまだ巻き返しは可能なのだが、とりあえず息を合わせないとまずい。

「みんな行くぞ、1、2、1、2!」

俺の掛け声に合わせて走り始めるが、なかなか息が合わず、転んでばかりだ。

連携が取れないため、どんどん敵チームたちとの差は開くばかり。その状況に俺は次第にイライラしてきた。

「なんでだよ、みんな俺の号令に合わせろ!!」

「僕は嫌ですね。誰があなたなんかの言うこと聞きますか」

「井吹くんは端っこですから、この場合は中央にいるカイザーさんが号令したほうがいいのではないでしょうか・・・・」

ほんわかしながらもメープルの意見は的を射ている。

みんなもそれに同意し、カイザーさんが号令を取り始めた。

すると副会長の号令で闘志に火が灯ったのか、次第に息が合い、速度が速くなっていることが分かった。

一番ビリだったのが、どんどん巻き返していき、最終的に12位で俺たちは最終予選を突破、本戦への出場が決まった。

Re: 奇想天外!プロレス物語 ( No.21 )
日時: 2014/04/27 16:26
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

ついに始まった本戦。ここからは団体戦の勝ち抜き式となる。

俺たちの対戦相手は『ジ=アニマルズ』。

その名の通り、メンバー全員が動物の覆面をしたメルヘンチックな集団だ。

だが、覆面はメルヘンでも体つきは目茶苦茶ゴツイ。

その顔と体のギャップに俺は少し引いていた。

第1試合は王李対シカ。

カーン!

試合開始のゴングが鳴る。

「シカシカシカシカシカシカシカ!子どもだからって容赦はしないぜ!」

奇怪な笑い声を上げつつ、シカが王李目掛けてタックルを仕掛ける。

「そんな攻撃あたりませんよ」

ひょいっと跳び箱のようにシカのタックルを飛び越えて避ける王李。

「少しはやるようだな。だが、スピードだけじゃ俺は倒せん!」

すると驚いたことに、シカの左右の額から強力な枝分かれした角が生えてきた。

「食らえーッ!『クリスマスタックル』ーッ!」

「ぐあああああああっ!!」

シカの強力なタックルをまともに受け、きりもみ回転をしながら、吹き飛ぶ王李。そのまま落下し、マットに突き刺さる。

だが王李は素早く立ち上がり、ドロップキックをお見舞いする。

「ハッ、そんな攻撃俺の前には無傷だ!」

シカは筋肉を膨張させ、王李のキックを弾き返すと、再度クリスマスタックルを敢行。

「今度は完璧に仕留めてやるぜ!!」

1発、2発、3発、4発・・・・

落下してくる王李に立て続けに技を放つシカ。王李の服は破れ、皮膚からは血が噴出し、無残な有様となっている。

だが、シカは動きをとめようとしない。

「まだまだこれぐらいでギブアップとかされちゃ困るぜーッ!」

「やめろ!王李はもう動ける状態じゃねぇ!これ以上やってなんの意味があるんだ!!」

俺はシカに怒鳴るが、奴は非情にもこう返した。

「意味はあるぜ。お前らが恐怖で二度と俺たちと戦う気が起きず、棄権するって意味がなーッ!そろそろサイコーの必殺技を繰り出し、地獄へ送ってやるとするか、カンフー坊や!!」

クリスマスタックルで王李を空中に舞い上がらせ、それを追いかけ、腰を掴み、ジャーマンの体勢を取る。

「これぞ俺の必殺技『ターキークラッシュ』!!」

王李はリングに串刺しになった後、ゆっくりと仰向けに倒れた。

完全に失神し、立ち上がれる状態ではない。

『王李の失神KO負け。勝者シカ!』

判定が決まり、王李は担架で病院へと運び込まれた。

Re: 奇想天外!プロレス物語 ( No.22 )
日時: 2014/04/27 16:47
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

「あの野郎・・・許せねぇ!今度は俺が戦ってやる!!」

「弱小チームの癖に気合だけは人一倍だな。
まあ、今の攻撃をみて打ち破れる奴などお前たちの中にはいないだろう。さっさと諦めて棄権したほうが得策だ!」

「・・・・僕が、破って見せます」

リングに上がったのは星野だ。

「星野、お前・・・・」

「僕、試合前に決心していたんです。もし、王李くんが倒されるようなことがあれば、僕が天使として、敵を天国へ送ってあげるって。
だからシカさん、あなたの対戦相手はこの僕です」

相変わらず表情そのものに際立った変化はないが、その声は幾分か低くなり、王李を倒された怒りに燃えていることが分かる。

「シカカッカッカッカッカ!お前のような華奢な少年がこの俺に勝てるとでも!?コイツはお笑い草だぜ。それにもし、俺に勝てたとしても、
俺の仲間はあと4人も残っている。お前たちの敗北は濃厚だ!」

「その心配は要りません。あなたたちは全て僕が倒します」

「お、おい星野・・・あんま無理すんな」

「大丈夫です。井吹くんは僕の試合を観戦しておいてください」

俺が声を掛けると、星野は少しだけ微笑み言った。

だが、俺は星野がリングに上がったことよりも気になることがあった。それは、敵の笑い方が変化したことだ!

「「「そんなことどうでもいい(でしょ)!!」」」



「シカッ!」

開始のゴング早々、シカはパンチを繰り出す。

だが、星野はひょいひょいと繰り出されるパンチを軽々と避けていく。

「・・・さっきのカンフーよりもやるじゃねぇか。
だがな自称天使。お前は捕まえられれば、手も足もでねぇだろ?」

シカは星野の襟首を掴み引き寄せる。

「へえ、よく見るとお前、結構可愛い顔してるじゃねぇか」

「王李くんのほうが可愛いって言われていますよ」

星野はサマーソルトキックをシカの鼻先にお見舞いする。

「グオッ・・・・」

不意打ちを食らい、思わす後退するシカの隙を逃さず、ロープへ放り投げ、反動ではね返ってきたところを、内股をかけ、マットへ押し倒し、腕ひしぎ十字固めを掛ける。

「調子に乗るなよチビが〜ッ!」

シカは豪腕にものを言わせ、軽々と持ち上げ、コーナーポストへ放り投げた。

だが、星野も負けてはいない。

素早く身を翻し、激突を免れる。

そのままコーナーポストを蹴って手刀を軸にしてきりもみ回転し、シカに突っ込んでいく。

「そんな攻撃がこの俺に通用するとでも思っているのか」

シカはそれを掴み、マットに叩きつける。

そしてニードロップの連打を星野に浴びせる。

「どうした?もうおねんねか小僧?」

「まだ・・・まだです・・・・」

星野はニードロップを腕でガードし、敵をよろめかせると、素早く立ち上がり、とんぼ返りを敢行。そのままブランチャーに移行する。

だが、敵にそれを捕まれ、投げっぱなしジャーマンでマットに叩きつけられる。

「自称天使よ、俺の猛攻の前に満身創痍のようだな。
そろそろギブアップしたらどうだ?
所詮お前はただの子供。お前が俺に勝つことなど不可能だ」

「あなたの考えはそうかも知れませんが、あいにく僕は痛みを感じない体質なんです。
ですから、いくら攻撃を受けても立ち上がることができます」

「そうかよ。だがな、俺たちもお前たちのことは調査済み。
お前は先のスリープマン戦でその痛みを感じない体質があだとなり、苦戦したことがあったろ?」

「・・・・・・」

俺にはなんのことかはわからないが、どうやらそういうことがあったらしい。

「お前はそれ以前もそれ以後も何も変わってはいない!
己の体質を過信し、敗北するのだ。
スリープマンにはできなかったかもしれんぇが、俺はお前を倒すことができる!
ナルシー、カイザーに続き、お前を破る3人目の男となるのだーッ!」

シカはクリスマスタックルをお見舞いし、星野を空中に舞い上がらせる。

「さっきのカンフーと同じくあの世に送ってやろう!
必殺『ターキークラッシュ』!」

ところが星野は敵の頭で素早く身を翻してジャーマンされるのを防ぎ、敵のバックを取り、逆にジャーマンで返した。

「ターキークラッシュ返しです」

「ゴフォア〜ッ!」

今の攻撃でシカの角が折れ、奴の戦力が半減した。

さらに自分の必殺技を食らったともなれば、肉体的、精神的にも大ダメージなはずだ。

「こ・・・このクソガキ・・・・」

「僕はクソガキじゃありません。天使です」

「ゴファ〜ッ!」

星野の必殺のアッパーが決まり、シカは力尽きた。

Re: 奇想天外!プロレス物語 ( No.23 )
日時: 2014/04/27 16:55
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

「自業自得です」

担架で運ばれるシカを見て、星野はため息を吐きながらつぶやいた。

これは星野が試合が終わると必ず言う決め台詞だ。

「次の対戦相手は誰ですか」

「次は我輩、カバが行こう」

次の対戦相手はかなりの大柄なレスラー、カバだ。

「シカはこの中では実力的に一番最低。だが、王李を破り、そなたを少々苦戦させたのだから、まあ、合格点。だが、この我輩はそのような不覚は取らぬ。確実にそなたを倒してごらんにいれようぞ」

「楽しみにしています」

相変わらず無表情な顔で告げる星野。

試合のゴングが鳴り、3試合目が始まった。

星野は連戦の疲れをまったく見せていないようで息ひとつ乱していない。

「我輩の力、見せてあげよう」

とたんにカバはその馬鹿でかい口を開け、星野の右肩に噛み付いた。

「『ビックマウス』!」

星野の肩からはおびただしい量の血が滴るが、星野は動じない。

「やはりそなたは噂どおり、相当な実力を持っている。
この大会7連覇を狙う強豪集団、スターレスリングジムの猛者たちは侮れませんのう」

7連覇!!ってことはこれまでに6度優勝したことがあるってことか。

すると今まで無言を貫いていたカイザーさんが口を開いた。

「・・・・過去6年間、我々は一度もダウンせず、かつ30分以内で敵を倒し、全試合圧勝。圧倒的実力で優勝した。
今年も優勝しようと意気込んでいたが、ここまでくるとさすがに敵も我らのことを研究しているらしいな・・・・星野は去年、始めて参戦し、ひとりで決勝まで闘い、平均5分で敵を葬っている」

やっぱこいつら人間じゃねえよ。

「そなたの得意はボクシング。プロレス技もそこそこできるそうだが、実力は二流並み。そういう情報のはず」

カバは星野の肩から離れ、その巨大な足でキックを放つ。

1発のキックで星野は吹き飛び、思い切り顔面をぶつける。

額が割れ、血が噴出すが星野はまだ戦うらしい。

試合開始8分が経過している。体力的に星野はもう限界のはずだ。

「僕は負けるわけにはいきません。それに新必殺技もまだ披露していないのですから、ここで負けてしまえば披露することができなくなる・・・・・」

「そなたは必殺技を披露する前に我輩に倒されるのである」

カバは星野におがみ打ちを連発し、徐々に後退させる。だが、星野はどこにそんな力が残っていたのかと思うほど、パンチを連射し、敵を追い詰める。

星野が優勢になってきたかと思ったが、そうではなかった。

「そなたのパンチは我輩のボディに衝撃を吸収され、無効化されているのである」

言われてみると確かにその通りだった。

星野のジャブの連打はまったく通用していない。

それならばとストレートを放つが、脂肪だらけの腹に軽く弾かれてしまう。

「ここは・・・・新必殺技を披露するしかありませんね」

ジャブ、ストレート、そして一撃必殺のアッパーに続く星野の必殺技とは一体・・・・・

「本邦初公開。これが僕の新必殺技です」

星野は少し空中で浮遊しつつ、カバの巨体に羽交い絞めをかけ、そのままジャイアントスィングのようにグルグルと回転し始める。

回転は回数速度ともにどんどん上昇していき、リング上は竜巻が舞い上がっているように見えた。

ふたりの姿は回転が速すぎて見ることができない。

「これが必殺技の序盤・・・・ここからが本番です」

星野が羽交い絞めを解くと遠心力でカバの体は急上昇していく。

もう、豆粒のような大きさになったかと思うと、いきなり落下しはじめた。

それを確認して飛び上がる星野。

「ま、まさか・・・・この体勢は・・・・!!」

何かに気がついたのか、カイザーがイスから立ち上がる。

メープルもどんな技を繰り出すのか予想がついたようで、星野に向かって叫ぶ。

「星野くん、やめてください!その技は禁断の超必殺技じゃないですか!」

だが、星野に彼らの声は届かない。

「・・・・星野!やめろ!敵を殺したいのか!?」

「星野くん!!」

星野はカバの首元に自分の肘を当てそのまま落下していく。
この技・・・昔、アニメで見た必殺技のような・・・・?

「『ヘブン=ザ=ギロチン』!」

Re: 奇想天外!プロレス物語 ( No.24 )
日時: 2014/04/28 10:26
名前: モンブラン博士 (ID: CMSJHimU)

敵は穏やかな顔で完全失神をしている。

血も噴出していなければ、血泡も吹いていない。

ただ倒れ伏しているだけだ。

会場は水を打ったかのように静まりかえり、物音ひとつしない。

ヘブン=ザ=ギロチン。意味は天国の断頭台。

これのオリジナルを以前テレビアニメで見たことがある。

これを食らった対戦相手は確実に死ぬと言われ、幼い俺の脳裏にこの必殺技の光景がオーバーラップする。

だが、あの必殺技は確か膝だったはず。どうして肘を・・・・・?

「僕は天使です。悪魔じゃありません。人殺しなんてごめんです。ですから、膝でなく肘を使い、威力を半減させ、なおかつ敵に痛みを感じさせないように高度まで敵を飛ばし、落下で失神させた上で放ちました。だから天国の断頭台なんです」

ここまで敵をいたわっていたとは・・・俺はこいつの優しさに感服してしまった。



星野は3連戦目を迎えた。

対戦相手はホワイトウルフ。

「どいつもこいつもしょうもない負け方しやがって。こんなくだらねぇ必殺技など俺の敵ではない。この俺が完璧にお前の必殺技を葬りさってやる!そしてお前から全てを奪い必ずお前たち全員を全滅させてやる。覚悟するがいい」

3戦目の対戦相手ウルフは先ほどまでのシカ、カバとは迫力が違った。

他のふたりよりも筋肉隆々で高い身長。

たぶん体格的にはカイザーさんと引けをとらないだろう。

全身に熊のように剛毛を生やしたこの男は、やはり外見からして只者ではないオーラが漂っている。

「星野、気をつけろ。あいつは只者じゃない」

「分かっています。この試合、もしかすると苦戦するかもしれません」

星野は少し顔に冷や汗を浮かべている。

俺たちはリングサイドから戦いを見守り、声援を送ることしかできない。

だが、それでも星野の力になれるのであれば、声を枯らしてでも声援を送ってやる!

それが男ってやつなんだ!!

「フン」

ウルフはそんな様子を見て鼻で笑う。

こいつ、俺たちの友情をバカにしやがった。

カーン!

3連戦目のゴングが鳴る。

「食らえ、天使野郎!」

ウルフは隠し持っていた鉄のつめを両手の甲に装着し、星野に襲い掛かる。

乱れ引っかきをお見舞いし、星野の服を裂き、皮膚を裂き、彼の体を血に染める。

星野は胸板や腹、腕や肩などに切り傷を負い、立っているだけでやっとの状態という感じだ。

痛みは感じていないのだろうが、肉体的には相当なダメージがあることは一目瞭然だ。

以前カイザーさんが話していた星野の最大の弱点。それは自分の体力、肉体を省みず、無理をし続けた挙句、力尽きるということだった。

そのことを思い出した俺は星野に語りかける。

「星野。戦法を切り替えるんだ。消極的に攻めて確実にダメージを負わせるんだ」

「はい・・・・・井吹くん・・・・・」

「ガハハハハハハ!無駄、無駄!お前はもう立っているだけでやっとの状態。
それもそのはず、この試合でお前は3連戦もしているのだからな!
お前は体力的には普通の少年。ただ感覚が麻痺しているだけに過ぎない。やせ我慢はいい加減にやめたほうがいいと思うがな。
そろそろ交代したらどうだ?お前の・・・・可愛い友達によ・・・」

「いやです!!それだけは・・・・それだけはできません!!」

その強い声に星野を見ると、彼は静かに泣いていた。

半開きの瞳に大粒の涙をボロボロ流し、泣きながら敵に向かっていく。

「手ぬるいパンチだな。どうした?お前の力はこんなものなのか?
くだらねぇ。こんなパンチじゃ虫も殺せないぜ」

星野の拳を軽く振り払い、彼の顔面に鉄拳をお見舞いする。

「ぐあああっ!」

もう、星野はボロボロだ。これ以上戦ったら命が危ない。

「星野、棄権しろ!これは俺の親友としての願いなんだ!!
次の奴に代われ!あとは俺たちが引き受ける・・・・!!」

「ダメです!彼らは僕がひとりで倒さなくちゃいけないんです!」

「星野、どうしてそこまで・・・・」

「それは・・・・」

星野が言いかけたそのとき、ウルフが星野の小柄な体を掴んだ。

「万年片思いの彼女の前で死ぬがいい!!」

この瞬間、俺は全てを理解した。

星野は最愛のメープルに代わりたくない。

彼女に交代して彼女を傷つけたくない。

恐らく星野は王李が敗れることは予想外だったのかもしれない。

だが、もし敗れたときは自分が敵を全て倒し、大好きな彼女を守る。

その一心でここまで戦ってきたのだろう。

だが、あいつがずっと片思いだった彼女に、たった今好きだということを自分の口からでなく、敵の口から放たれたのだ。星野の精神はもうズタボロだろう。

「うわあああああああああああああああああああっ!!!」

星野はもう我を忘れ、がむしゃらに拳を振るう。だが、リーチが短いためウルフの顔面には届かない。

「止めだ。あばよ、天使野郎!」

ウルフは星野を空高く放り投げ、敵と背中合わせになり、敵のアゴを両腕でロック。そして両足を自分の足でロックし、そのまま落下し始めた。

「食らえ、俺の超必殺技『アルプス大山脈落とし』!!」


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