複雑・ファジー小説
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- よろずあそび。
- 日時: 2011/09/21 21:53
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: ロンリー・ジャッジーロなんてなかった。
・初めての方、始めまして。
・私のことをご存知の方は、お久しぶりです。
・かつてシリアス・ダークの方で活動していましたが、一度スランプに陥り、ひと時筆を置いておりました。
当時の作品は私の黒歴史として、もう執筆することもないでしょう。
・ですので心機一転、名前を変えて一からやり直そうとする所存であります。
・今回執筆する作品は、戦闘や能力などのない極めて平凡な生活を背景にし、その舞台で発生する、些細な非凡についての物語です。
・しかしだからといって、登場人物たちがほのぼのと日常を過ごすだけの物語でもありません。
・加えて、この物語は長くてもコピー用紙40文字×34行×110枚(丁度ライトノベル一冊分)を終了目安としています。どうかご理解ください。
・至らない点もありますが、善処しますのでご容赦ください。
それでは、ご案内致します。
この物語が、貴方様の享楽となることを願って。
どうぞ、ごゆるりと。
* * *
* * *
<インデックス>
プロローグ >>1 >>2
第一章 >>5 >>6 >>7 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20
パロディ説明 >>21
第二章 >>24 >>27 >>28
- Re: よろずあそび。 ( No.17 )
- 日時: 2011/09/22 20:40
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: 深夜のテンションがおかしい現在。
ティノ・レックスがこちらへ向き直ろうとするのを確認する。そのタイミングを見計らって、奴に駆け出していくジュンの背中目掛けて閃光爆弾を投げる。こうすればジュンの目まで眩む危険がなくなるのだ。
爆発、閃光。
すると奴は驚愕したように鳴き、目を背けるように身体を仰け反らせる。だが遅い。既に奴の網膜は焼けている。
ジュンは正気に戻ろうと必死に頭を振っているティノ・レックスの、がら空きの懐に入り込むや否や、その刀を存分に振り回した。
「倒れんじゃねぇぞ……?」
縦に、横に、袈裟に。
腕に、下顎に、胸に、首に、肩に。
斬って、薙いで、突いて、裂いた。
全身に返り血を浴びることも厭わず、ただ一心不乱に振るうその姿は、まるで狂人だった。
「ひゃはははははははははははははははははははははははは…………! 愉快、痛快、なんて奇怪ィ……! やっぱ狩るってのはこうだろォォ……!」
またトチ狂ってやがる。……そういう攻撃性のおかげで、楽な場面もあるんだけどさ。でもまあ、限度ってのもあるしね? ほら、ティノ・レックスだってもう何か動き出してるし。
「ジュン、そろそろ退いたらー?」
僕はせめてもの良心で忠告してみる。
だというのにジュンは一切耳を傾けず、何かに憑かれたように暴走していた。絶対聞いてないな、あれは。
もう放っといてこっちもこっちで準備してよう。そう思い、ティノ・レックスが突進してきたときのために、落とし穴トラップを自分の前方に配置した。
ティノ・レックスの網膜が修復し、奴の視界が元に戻った刹那——
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH…………!」
刀によって与えられた痛みを怒りとして、一気に爆発させるように吼えた。今までとは比べ物にならない、凄まじい轟音だった。
奴から結構離れた位置にいる、僕でさえ耳を塞がざるを得ない代物だ。至近距離にいるジュンなどひとたまりもない。
案の定、ジュンは刀を落として辛そうに耳を塞いでいた。ちゃんと忠告したのに。やっぱり無鉄砲はただの無鉄砲だったいうことか。
ティノ・レックスは咆哮の後、ぼろぼろの左前脚でジュンの右半身を狙った。
クリーンヒット。ジュンの身体が宙に浮き、力の法則にしたがって吹っ飛ぶ。
ろくに受身も取れないまま、地面に激突。そのまま二転三転と転がっていき、ようやく止まった。あの当たり方は、マズイ……!
「が……はっ……」
ジュンは苦しそうな声を出したまま、すぐに立ち上がろうとしなかった。——否、立ち上がることが出来ないのだ。遠くから見ても理解できる。ダメージが普通のそれではない。
ティノ・レックスの筋力を侮るとは迂闊だった。ジュンの猛攻で筋肉は既にぼろ雑巾同然だと油断してしまい、完全に嘗めきっていた。
奴は仕返しと言わんばかりに、顎を大きく開けてジュンに追い討ちを掛けようとする。
誰が、させるものか……!
ジュンとティノ・レックスの間に、先程と同じように閃光爆弾を放る。奴がもう一度目を眩ましている隙を見て、ジュンを助けてやらなければならない。
閃光爆弾が爆発し、眩い光が当たり一帯を照らす。これで奴も止まることだろう。
僕は爆発した後の光景を確信して疑いはしなかった。
——だが現実は、確信していたものとはまったく別のものであった。
奴は閃光爆弾が爆発する寸前、地面に右前脚をついてそれを軸にし、回転して閃光を見ないように身体の向きを変えていたのだ。
それだけでは終わらない。奴が向きを変えた方向はこちらである。そして、奴は遠心力を利用し、こちらへ向かって跳躍してきた。
狙いは、僕だったのか。そう判断し、仕掛けておいた 落とし穴トラップに誘い込むべく後ろに下がる。予定とは違うが、これで時間を稼ぐとしよう。
ティノ・レックスは僕の設置した、落とし穴トラップがある位置に着地する。
計算通り、奴は落とし穴トラップに引っ掛かって落ちる——ようなことは、なかった。
奴は落ちる間際、穴に落ちていく地面を素早くもう一度蹴り、僕の真上を越えてトラップをかわしたのだ。
反応して振り向くと、奴がいた。ティノ・レックスは既にこちらを向き、右前脚を振り上げている。
大楯を——駄目だ、間に合わない。
そう僕がティノ・レックスの一撃を覚悟した刹那——
「させるかぁぁぁぁぁぁぁ……!」
どこからか、ジュンでも、僕でもない声が響き渡った。
僕は声の主へ目をやる。
長い銀髪に、凛とした雰囲気を持つ勇姿。それはまるで、猛々しい白銀の狼のようだった。
白銀の狼は目にも留まらぬ速さで僕の前に立ち、振るわれた右前脚の一撃を、己の武器である変形斧で立ち向かって防いでいた。ぎりぎりと、力の圧し合いをする音が聞こえる。
それを目の当たりにして、僕は驚愕する。
「ヤ……コさん……」
呼ぶとおり、白銀の狼の名前はヤコという。彼女は、つい先日から共に狩りをするようになったばかりの仲間である。先刻まで戦闘に集中していたせいで忘れていたが、危機一髪という状況に駆けつけてくれたようだ。
兎にも角にも、助かった。
「キミは早くジュンくんの救援に行って! ここは私が食い止める……!」
僕の安堵は、彼女の怒号にかき消される。
しまった。そうだった。僕は何をグズグズしているのだろうか。すぐに心を緊張状態に戻し、ティノ・レックスの動きに注意しながらジュンの下へと向かった。
出来うる限りの速さで走り、息を切らせながら到着する。
「ジュン!」
見ると、彼は表情を歪ませながら右肩を抑えつつ、膝が笑っていてなお立ち上がろうとしていた。あれを直撃していても、辛うじて意識だけは残っているようである。
しかし、安心だけで済ませられる状態でもない。
「ん、あー。お前か……」
言っていることは飄々としていて未だ余力が残っていそうだが、顔つきを見る限りそう思えるはずがなかった。
顔から冷や汗、ないし脂汗がにじんでいる。相当大きな衝撃、ダメージだったのだろう。血色も火を見るより明らかに悪く、青ざめている。
「動かせる?」
「ちっ」
と、ジュンは悔しそうに舌を打つ。
「見りゃあ判ンだろ。……右腕が麻痺してやがる」
彼が必死に起き上がろうとするその様子を、僕は無言で眺めていた。
全く、何やってんだか。普段からあれ程言い聞かせておいたのに、ついさっきも忠告したばかりなのに、それを五月蝿いだの余計なお世話だの聞かなかったのが悪いんじゃないか。もう自業自得、同情の余地はないね。馬鹿は馬鹿なりに勝手にしてほしいよ、正直。
「……けどさ、」
そう言って、僕は立ち上がりかけのジュンの右腕を力強く引っ張った。
「それでもお前を助けてやりたくなる僕が、誰よりも一番馬鹿なのかもね」
助け起こされ、ようやく立ち上がることが出来たジュンは、僕に対して申し訳なさそうに——するはずもなく、ただ僕に右腕を引っ張られた際に走った激痛に対して悶えていた。
間違ったかな。……ここは左腕を引っ張るべきだったか。まあいいか、ジュンだし。
「……泣かす。テメェ後でぜってぇ泣かす」
目尻に涙を浮かべながら言われても、全然迫力ないんだけど。
「はいはい、とりあえずティノ・レックスを何とかしてから言ってくれよ」
僕は呆れ顔でため息をつきながら続ける。
「それに痛覚が残ってるのなら、一応は動かせるんじゃないの?」
「…………まあ、な。面倒だが何とかやれそうだ」
立ち上がりかけのときとは打って変わって、ジュンは不貞腐れたような表情を見せた。どうやら、それなりに回復はしてきている様子ではある。
それを確認して、僕は面白そうに笑う。
「じゃあ行こうか。いつまでもあの人に任せっきりじゃカッコわるいし」
呼応するように、ジュンも不敵な笑みを見せる。
「だな。……よし、行くぜ相棒。遅れンじゃねぇぞ!」
「こっちの台詞だよ……!」
僕たちは後脚に全力を込めて、ティノ・レックス目掛け駆け出した。
- Re: よろずあそび。 ( No.18 )
- 日時: 2011/09/22 20:43
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: 深夜のテンションがおかしい現在。
正面から、前へ、前へ。退却など考えない。撤退など思わない。敗北など信じない。ただひたすら奴の下へ向かうために地面を蹴る。全ては奴の息の根を止めるために。全ては勝利のために。そのためなら、僕だって無鉄砲な馬鹿になってやるさ……!
「待ってたよ……!」
ヤコさんが自分の後ろにいる僕たちの姿を視界の端で確認すると、ティノ・レックスが突き出してきた右鉤爪を軽くいなし、バックステップをして僕たちとすれ違う。
その際、彼女と僕は目が合った。
——何故だか、背中を押された気分になった。
僕は左から、ジュンは右から奴の側面に回りこむ。すれ違う際に、奴の体重が掛かっている両前脚を走りながら切り裂いた。たとえ長槍であっても、切っ先を上手く使えば切ることも可能になる。
神経に走る激痛に反応して、ティノ・レックスは身体を大きく後に仰け反らせた。それによって奴の強靭な尾の腹が地面に着く。ここを狙うのだ。
重い大楯を走りながら横合いに投げ、それから少し脚の回転数を上げて、ジュンより先にティノ・レックスの後方に僕は回りこんだ。
右手に持っている長槍を逆手に持ち直す。切っ先が小指の方向で、柄の先がその逆だ。
「合わせろよ、ジュン……!」
そう言い、僕腕をは逆手に持った長槍ごと大きく振りかぶり、思い切り投擲するような動作でティノ・レックスの尾に手に持ったそれを深々と突き立てた。
不意に自らの尾に鋭利なものを打ち立てられ、痛みにもがくより先に驚いたようにティノ・レックスは身体を痙攣させた。その右からジュンが抜き身の刀を腰元に構えつつ、長槍で固定された尾がある後方に追いつく。
「任せとけって……!」
彼はそこで立ち止まるようなことはしなかった。そして、それが僕の求めた行動だった。
駆けてくる速度のまま、ジュンはティノ・レックスの尾を通り過ぎる。奴に何も攻撃せず、ただ走り抜けただけなのか。——答えは、ノーだ。
一閃。
それは正に、目にも留まらぬ速さだった。
ジュンは奴の尾の、固定されている少し手前に刃を滑り込ませ、撫でるように滑らかな線を描きつつ——そう、バターをナイフで切るが如く刀を左から右に振った。
比喩の通り、尾は鮮やかな断面を見せて両断される。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHH…………!」
その際の痛みでティノ・レックスの声帯から出されたものは、今までのような、威嚇のための咆哮では断じてなかった。
痛い、痛いと、幼い子供がただ泣き叫ぶのようにそれは聞こえた。それの確証はない——だが、はっきりとそれを認識できた気がする。
奴は尾を失ったことで体のバランス感覚を狂わせてしまい、小石に躓いたように前のめりに豪快に転んだ。
その様子をつぶさに見ていた三人は、瞬時にお互いの視線を交し合う。——仕掛けるなら、今……!
僕は長槍を両手に持って構える。大盾はさっきどこかに放り出したのだが、拾いに戻っている暇などなく、防御は捨てるという覚悟を決めた。——だが、一抹にも不安や恐怖は感じなかい。
仲間がいるからだろうか。敵に大きな隙が出来ているからだろうか。自分でも良くわからない——が、自問自答している暇も余裕も、今は必要ない。目の前のモンスターを狩ることが、何よりも最優先事項なのだから。
「今ならボコれる。……やっとくか?」
そう考えていた僕を見ながら、ジュンが唐突にそう言った。
別に言わなくても——と、彼の言葉に対して返そうと思った言葉を、僕は途中まで言って止めた。ここは、ノッておくべきかな。モチベーションも上がってきたしね……!
「……行こうか。仕留めるぞ……!」
ティノ・レックスを威圧するように、僕は力の限り叫んだ。
* * *
「あー、終わった。お前らお疲れ」
満足感と達成感に満ちた表情で、ため息をつきながら順平は携帯ゲーム機を僕のベッドの上に放る。こいつにとっても、今日討伐したモンスターたちはなかなか手強かったのだろう。
「あはは、ゴメンねぇ、開始早々に武器の素材集めに出掛けちゃって。もう少し早く合流できればよかったんだけど……」
申し訳なさそうに笑いつつ、八百子さんが携帯ゲーム機の電源を落とす。この人はこういうところでも律儀なんだよね……。どこかのヤンキーとは大違いだ。
続けるように僕も携帯ゲーム機の電源をオフにして、立ち上がって冷蔵庫へ向かう。大げさかもしれないが、手に汗握る相手だった。若干、喉も渇いてきた気がする。
こういうときには、あれだ。
冷蔵庫の扉を開け、中に充満する冷気が腕に刺さるのを感じながら、僕はそれを掴み取る。
「野菜じゅーすぅー!」
「……順平、少し黙ってて」
背後から一世代前の、未来から来たロボットのような声真似が聞こえたのを、僕はうんざりした口調で振り返りもせず返事をした。あれか、僕の部屋の冷蔵庫は時空も越えられるのか。
少し乱暴に冷蔵庫を閉めて、それから背後に視線をやる。……というか、いつの間にこいつは僕の背後まで回ったんだ……? こういうスニーキング技能は、つくづくテロ兵器の阻止に役立ててほしいものである。
「ハハッ、冗談が通じないんだね彰くんは! しょうがないなぁ!」
今度は某夢の国の王様であり、世界一有名なねずみのような甲高い声を出して僕をからかって来た。その少し癇に障る表情に、僕は冷めた視線を送ってやる。
「……馬鹿じゃないの? てか、馬鹿じゃないの?」
「二回言うな。……人の名前でネタをするのはもうやめろよ……」
「お前も、そのファンシーさの欠片もない顔でのこれ以上の狼藉は許さん。子供たちの夢が壊れるからね」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ。子供たちの夢が壊れるだあ? ……馬鹿め、むしろ俺を見て夢を持つに決まってンだろうが」
「デデーン。今のはタイキックじゃ済まないよー。鼻フックぐらい酷いよー」
「お? 言ったな? 言いやがったな? 彰のくせに上等じゃねえか。……良いぜ、表に出ろよ……。久々に切れちまったぜ……!」
「奇遇だね、実は僕も……相当イラついてんだよ……!」
「今日は加減する気になンねえよ……。不運と踊っちまったと思いやがれ……!」
僕たちはお互いを睨み付けながら、八百子さんがオロオロしながら見ているのにも関わらず、靴を履いて賃貸アパートの外へ向かいだした。
* * *
- Re: よろずあそび。 ( No.19 )
- 日時: 2011/09/22 21:02
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: 課題多すぎでしょ…。
* * *
人通りの数も皆無になり、遠くの大通りから微かに聞こえる車の音やスクーターの音を鼓膜で感じながら、僕と順平は対峙していた。それはまさに、親の敵を見るような目つきだった。
少し離れたところで、困ったように僕と順平の顔を交互に見ている八百子さんすら、今の僕たちの眼中には入らなかった。
八百子さんは慣れていないからこのような反応をするが、こういうことは僕たちの間で度々発生している。それはもう、初めてであった高校生の頃から、だ。
「二人とも……やめなよ……!」
とうとう耐え切れなくなったのか、八百子さんは搾り出したような声で止めに入る。しかし、僕と順平はそれに対して一切耳を傾けようとはなかった。順平にいたっては、彼女に対して睨みつけることさえした。
「黙ってなァ、ベジ子ォ……。こいつは俺と彰のプライドを賭けた勝負なんだよ……!」
「そんな、だからって……!」
「……八百子さん。悪いけど少し静かにしてて。温厚な僕でも、こればっかりは譲れないんだ」
そう、誰にだって譲れないものはあるんだ。それがどういった物かは各々違うが、短いようで長い人生の中でそれは必ず見つけられる。そして、やっとのことで見つけたものは、どんなことがあろうと手放したいとは絶対思わない。……自分で思っといてなんだけど、結構これは恥ずかしい……!
お互いの右手に握られている、唯一の武器。これこそが、己のプライドを貫き通す武器だ。
「行くよ、順平……!」
「来やがれ、彰……!」
目の前の敵を圧倒するべく、僕たちは武器を構えた。
「やめて……お願いだから……!」
それでも尚、八百子さんは止めようと訴えかけている。もうどうやっても、無駄なのに。
「こんな夜中に、いい年した大人がバドミントンするのは……!」
「ていっ!」
懸命な忠告も聞き流し、僕は全力でシャトルを順平の陣地に打ち込む。螺旋回転をして、直線軌道を描きながら僕の打ち込んだそれは、銃弾のように順平の右脇に飛んで行った。会心のサービスショットだと、僕は心の中でガッツポーズをとる。
——だが、そのショットを目の当たりにした順平の表情には、焦燥や不安など見られない。
「甘いんだよ……」
落ち着き払った声とともに、順平は右手にあるラケットの持ち方を、ウェスタングリップからイースタングリップに持ち直す。顔に似合わず、丁寧な対応をするものだ。……しかし、そうでなくちゃ面白くない。
奴はそのまま、自分の右下に落ちてくるシャトルにフェイス(シャトルを打つ部分)を合わせ、掬い上げる要領で打ち返してきた。
打つときのフォームから見れば、僕にとっての絶好球が来るであろうと予測できるが、如何せん相手は順平だ。曲がりなりにも運動能力が優れている奴が、そんな球を打つだろうか。——否、そんなはずは絶対ない。これ反語な。
案の定、奴の打った球は山なりの絶好球ではなく、僕の右後ろ——アウトライン限界の部分を狙った絶妙なショットだった。低い弾道から、何とも奴の性格の悪さがにじみ出ているのを感じ取る。
「面倒な所に打つな!」
しかし、ここで引いたら負けてしまう。僕は順平に悪態をつきながら落下点まで駆け出した。間に合うかどうかは、自身でも良くわからないけれど。
可能な限り落下点に近づき、足りない距離は腕をそこに伸ばして補った。結果、ラケットのフェイスの端を届かせることに成功した。
だが本番はここから。仮にこれで安心してしまい、打ち返せるという達成感に浸った状態でラケットを振ったら、シャトルはどういう風に飛んでいくか。……無論、それは相手から得点を奪えるものでは決してない。むしろ、相手にスマッシュを打たれる危険が発生してしまう。
こうなったら、こっちがスマッシュを——や、無理! この体勢からじゃあ、どう工夫しても強い打球なんか打てっこない……! じゃあ、せめてあっちのライン際ギリギリのところに打ち込む? 駄目だ。ほぼ十割ネットに引っ掛かるって! そのまま打ち返したら絶対の絶対に順平のスマッシュをもらっちゃうし、……ああもう、何でもっとこっちに来ないんだよ! ええい、こうなったら一か八か……!
そんなごちゃごちゃした思考をすべて捨て去って、僕は持てる力をすべて振り絞り、シャトルを上方向に打ち上げた。シャトルが落ちる寸前でラケットを振ったようなものなので、その際のシャトルに勢いはなかった。ただ機械的に、空に向かいつつも順平の陣地へ飛んでいく。
だが、それでいい。これが最善の一手なのだ。
「畜生……。えげつねえなあ、オイ」
これを見てその真意を察したのか、順平は苦虫を噛み潰したような顔で上空を見上げた。
奴は僕がもし打ち返せたとしても、自分にとって絶好球がくると思っていたのだろう。その証拠に、奴の立っている位置は自身の陣地の限りなく前にある。
僕の打った打球が順平の陣地に降って来る。ほぼ落下といっていいその軌道は、経験者ならいざ知らず、素人が打ち返すのは容易ではないのだ。打とうとしていたのが強い打球なら、尚更である。
結構高く上がったシャトルは、相当な位置エネルギーを得たはずだ。そして、力学的エネルギー保存の法則によると位置エネルギーは落下に伴い減少し、その分だけ運動エネルギーに変換される。
つまり、苦し紛れに打ったあの悪球であっても、重力を受けることによって勢いは想像をはるかに超えるものとなるのだ。
更に、今は真夜中なので上空は日の当たらない真っ黒に染められており、夜目が利く人間でないと視認することすら難しい。……打った後で言うのも何だけど、行けるんじゃないかこれ。
「あー、どこだシャトル——お、あれか。結構高く飛んでンなぁ。……落下地点は——ここだな。よし、準備オーケー」
少し期待した直後にこれかよ。
どうやら順平は既にシャトルの落下地点に入っており、ラケットを構えてシャトルを迎え入れる体勢に入っていた。
で、でも、九十度近い角度で落ちてくるシャトルで強い打球を打つのは——って、ちょっと待ってウェイウェイウェイ! 何その「今から百八式まであるような、とんでもない打球を打ちますよ」とでも言いたげな振りかぶり方は。嘘だよね? 地面にめり込んじゃうようなスマッシュを打つつもりなんて毛頭ないよね? まずいまずいまずいどうしよう……!
その焦燥が顔にでも出ていたのか、順平は口の端を吊り上げて不敵な笑みを見せる。
「おいおいおいどうしたァ? ピッチャーびびってる、ヘイヘイヘイ! ピッチャーびびってる、ヘイヘイヘェイ……!」
ついにはラケットを遊ぶようにくるくると回し始めた。余裕綽々といった態度が僕をイラつかせたが、如何せん今はそれに注意を向けている余裕などない。
あいつの行動には嘘や騙しがない——そう、一度決めたことは決して曲げないのだ。
故に、順平がスマッシュの動作を見せたなら。奴は百パーセントの確率でそれを実行する。
「万事休す、か……」
——と、覚悟した矢先のことだった。
目の前——順平より奥の方から、何やら白く光る丸のようなものを確認する。初見では何でもないと思い、僕は再び視線を順平に戻した。
電球だろうか。……まあ、気にすることでもないかな。そう心で呟いた刹那、「何でもない」という考えが根本から覆された。
ふと、それから発せられているであろう音が僕の鼓膜を揺らす。
音そのものだけを聞いてみれば、それはバリカンの振動音のような、夏場に大量発生するアブラゼミのような音である。——だが、その音はそれらとは似て異なり、本能から生じる危機感を感じ取ってしまう代物だった。
「……蜂?」
独り言のような声で、八百子さんが呟く。
そう、蜂だ。それもとびっきり危険な、スズメバチの羽音。
スズメバチの羽音を奏でながら、それは僕の目の前いる男——四ツ谷順平の背後へ突っ込んできて、
「こんな時間になんやってんだクソガキ共ぉぉぉぉぉ…………!」
そして、そのまま順平を撥ね飛ばした。
「がっ……」
撥ね飛ばされた順平はというと、スマッシュを打つことに全神経を集中させていたせいで背後への警戒を怠っていたのか、唖然とした表情を浮かべながら一メートル程吹っ飛ばされていた。それから前のめりにアスファルトへ身体を叩きつけられ、うつぶせに倒れ伏した。……ちょっと、こいつ動いてないんだけど。
今度は撥ね飛ばした方に目をやる。
明るい黄色のボディと、砂利道を走るには向いていなさそうな車輪を持ち、マフラーから発される蜂の羽音のようなエンジン音が特徴的なスクーター、ヴェスパである。そして、そのサドルに跨ってブレーキを握っている一人の人間がいた。
「オラオラァ! 近所迷惑も考えねえクソガキに天誅だァッ!」
薄茶色に染め上げられた、清潔感をあまり感じられない髪。獲物を狙う鷹のような鋭い目つき。健康そうな四肢に、それを包むオレンジ色のツナギ。
彼女こそ、僕の住むアパートの管理人——十坂由紀その人だった。
- Re: よろずあそび。 ( No.20 )
- 日時: 2011/09/22 21:06
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: 休んだ気がしない希ガス。仙台の代ゼミ行ってました。
十坂さんはブレーキを利かせてヴェスパを停止させると、それに跨ったまま僕と順平を睨み付ける。元々鋭い目つきが更にきつくなっている彼女の睥睨は、反論すら許さない迫力に満ちていた。
言えない……。ヴェスパのエンジン音だって近所迷惑だなんて絶対言えない……!
「あの、そのスクーターも結構五月蝿いと思うんですが……」
僕の本音を漏らしたような意見。しかし、僕はそんなことを言った覚えは全くない。というか、言えるはずないでしょ? さっきの事故(故意だけど)を見れば判ると思うけど、あの人の容赦のなさは常識を遥かに凌駕しているんだ。そんな彼女に盾突こうものなら、そこの順平のようにアスファルトとキスする羽目になるに決まってる。
言ったのは僕ではなく八百子さんだった。彼女は十坂さんの威圧感に圧されたり怯えたりすることなく、まるで問題の答えが判らない小学生が、それを先生に聞くような態度で首を傾げていた。
「ああ?」
それに眉間を寄せて睨み返した十坂さんだったが、何か確かめるように八百子さんの全身を眺め、やがて思い出したように表情を明るくさせる。そうしてから、彼女はヴェスパのエンジンを切った。
「……おお、ヤーコじゃねえか! しばらくぶりだなあ、オイ!」
「ふふ、由紀先輩も相変わらずですね。お元気そうで何よりですよ」
「どの位ご無沙汰してたっけ。最近は月イチで帰ってきても顔は合わせてなかったしな」
「本当です。全くもう、毎回帰ってくるタイミングが深夜だからじゃないですか?」
「あっははははははは、ゴメンなー!」
……ええと、あれ? 何? 何なのこのほのぼのした空気は。僕はてっきり血の雨でも降りそうな状況だと思ってたのに。英語で言うとブラッド・レインね。
それなのに、……え? ゴメン、ちょっと話が見えないんですけど。というか、さっきから僕の存在が忘れられてない? 話題から置いてきぼりにされてるんだけど、さ。誰でもいいから僕に説明してくれないかな?
そう思ってはいても、十坂さんはおろか八百子さんまで会話に夢中になっており、僕の存在を気にも留めていない様子だった。無論だが、順平は論外だ。
「あの、二人ともお知り合いなんですか?」
仕方がないと肩を落とし、二人を見てそう話しかける。
「そりゃあそうですよ。一応隣家だからね」
優しく答えてくれたのは言うまでもなく八百子さんである。彼女は十坂さんが管理する賃貸アパートと八百屋——八百万を交互に指差しながら、僕に穏やかな表情を向けた。
「それで、由紀先輩は私の高校時代の一つ上の先輩なの」
「と言っても、あたしは中退したんだけどな!」
後ろめたさを微塵にも感じさせない笑顔で、被りっぱなしのヘルメットを手で押さえながら十坂さんは八百子さんの隣に立つ。
「学校なんて退屈だからよ。だからほら、お前も知ってる通り今はこうして自由人やってんじゃん? 当時はヤーコも誘おうと思ったんだけど、何かこいつ、なりたいものがあるとか言って聞かなかったんだよな。ええと、」
そして、彼女は考えるように空を見上げ、答えに至ったような表情で僕を見てきた。
「そうそう、確かしん——」
「由紀先輩……!」
不意に轟く、怒号。
それは十坂さんの言葉を意図的に打ち消そうとしたもののようだ。真夜中だというのに、周囲の大気すら鳴動してしまうほどの声を八百子さんは出していた。
当の本人——声を張り上げた八百子さんはというと、一瞬だけ自分でも良く判らないと言わんばかりに目を丸くさせ、やがて我に帰ったのかはっとして顔を上げる。それから取り繕うような乾いた笑い声とともに、両手のひらを顔の前でぶんぶんと振った。
「——あ、いやいやいや何でもないです! 何だかごめんなさい、びっくりさせちゃって!」
それに対して、僕と十坂さんは戸惑いながらも頷くしかなかった。
このときの八百子さんが、今にも泣きそうな顔をしていたと思うのは杞憂だろうか。
「……なるほどな。だから八百屋なんてやってんのか」
暫くして、十坂さんは何か納得したようにため息を吐く。何が判ったのだろうかとふと思ったが、ここでそれを尋ねるのは場違いだろう。
「いいさ、駄弁のもここまでにしとこう。本題も忘れる前ところだったしなぁ」
そして彼女は言うが早いか、僕の顔を自分の顔の横まで引き寄せる。
完璧なる容姿端麗の代名詞——八百子さんと同等とは言えないが、健康的な色気を振り撒く美人こと十坂さんに抱き寄せられ、刹那の時間だが心臓がどくんと跳ねる。だが、彼女が切羽詰ったような苦笑いを浮かべながら僕の耳元で囁いた一言で、そういった感情は一掃された。
「……悪い。今月は早くも軍資金が底をついた。後生だからカンパしてくれ……!」
……もう、ため息しか出てこないよ。
「……というか、何で僕にそれをを求めるんですか。十坂さんがその気になれば大勢の諭吉さんがガマ口に入って来るでしょ? それはもう、クワガタとカマキリとバッタを組み合わせたような姿の仮面の戦士のように」
「察してくれよ。あそこには頼りたくないんだよなぁ……」
「だからって、貧乏大学生を金ヅルにするのはどうかと」
「きゃー! アッキー素敵! 中性的イケメン愛してるゥ!」
「…………」
……もう、ため息すら出てこないよ。
* * *
結局、僕は渋々といった態度で十坂さんに万札を二枚ほど貸す羽目になってしまった。漸く貯金が出来るような生活になってきたと思ったのに……!
十坂さんはばつが悪そうに笑い、受け取ったそれらを乱暴にツナギのポケットに押し込んだ。財布すら持っていないとは、彼女は女性というより人間として無頓着すぎる嫌いがあるように思える。
「本当にゴメンなー、アッキー。どうにかお礼しなくちゃな。……んー、何かあったかー?」
そう言い、彼女は着ているツナギのポケットというポケットの中を漁りだした。こういう誠実で律儀なところは尊敬できるが、如何せん十坂さんのことだから期待よりも不安の方が強く感じる。
「……お、ほらアッキーお礼だ。パース!」
「え? ……うわっ!」
彼女の手から放られたそれは、放物線を描いて空を舞う——ことの出来るような重量を持ち合わせていなかった。それは紅葉した木の葉が落ちるかのごとく、取ろうとする僕の手のひらから逃げるように地面に落ちる。
くぅ……、カッコ悪い……! 心の内で赤面しつつ、地に落ちたそれを僕は拾い上げる。どうやら何かの引換券のようだ。
「来る途中で貰ったんだ。よかったら使えよー?」
十坂さんはそう言い、僕がお礼を言おうとする前に今度は八百子さんの顔を見た。
「んじゃ、ヤーコ。あたしはそろそろ行くよ」
「……はい、また会いましょう。道中は気をつけてくださいね?」
「判ってるよ。……それと、さっきはゴメンな? 流石に無神経だった」
「大丈夫、気にしてませんから」
「……さんきゅ」
会話を終え、手でヘルメットの位置を直し、再びヴェスパのエンジンを入れる。そうしてから、彼女は僕に無邪気に笑いかけた。
「じゃあ、アッキー。マスターキーはいつもの所に隠してるから、無くならないように見とけよ?」
「自分で管理して欲しいけどね。……まあ一応、判りましたよ」
僕がそう言うと、彼女は安心したように頷いてヴェスパに跨った。
「おしっ! んじゃ、行きますか!」
彼女がアクセルを捻ると、ヴェスパはスズメバチの羽音を奏でながら車輪を回転させる。そしてそのまま、アスファルトの道路を走っていった。
十坂さんの背中が夜の闇に消えるまで見送ってから、ふと思い出して視線をアスファルトにやる。その先には先ほどの交通事故で動かなくなった被害者——順平がいた。……そう言えば忘れてたな。そう苦笑して足元に落ちてた小石を拾い、うつ伏せで倒れている奴の背中目掛けて投げてやった。
「順平、起きてるでしょ?」
「…………」
のっそりと、不機嫌そうに順平が立ち上がる。挙動を見る限りではいためている箇所はなさそうだが——って、ちょっと待って。時速四十キロは出ていたであろうスクーターの追突を受けて、何で普通に立ち上がることが出来るのさ。こいつ、化け物か……?
奴のタフさに驚き呆れていた僕だが、安否を確認しないで置くのは人として同化と思われる。そのことに気がつき、とりあえず聞いておくことにした。
「大丈夫? ケガとか……さ」
その言葉を奴に投げかけてから、数秒。未だに返答は来ない。……無視かよ。
立ち上がってから順平はがっくりと肩を落とし、哀愁漂う背中を見せつけながら離れていく。あれは怒っていると言うより落ち込んでるように見える。その様子を見て、僕は珍しく心配してしまう。
「……帰って寝る。今日はもうシンドイ」
ため息と共に順平が言葉を吐く。その声のトーンは下がっていて、憶測でしかないものが確信へと変わってしまった。アレは絶対、確実に落ち込んでる……!
ていうかアイツ、今日は僕の家に泊まるんじゃなかったっけ。まあ、帰るって言ってるんだから、それを引き止めるのは野暮だよね。……それにしても、何がアイツをあそこまで落ち込ませてるんだろう。いつもなら「事故る奴は……、不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったんだよ……」とか言いそうなのに。
「……スマッシュ」
立ち止まりながら、ぼそりと奴が呟いた。
「え?」
「最後のスマッシュ。決めらんなかった……」
子供か。
ツッコミをしたい衝動に駆られたが喉の辺りでぐっと堪え、生まれたての可哀想な子馬を見るような視線を送ってやる。
十坂さんが行った方向とは逆の道を行き、順平も薄暗い夜に消えていった。この間、一帯の空気は心なしか冬並みの冷気を帯びていた気がする。飽くまで、気がするだけだが。
結果その通りに残った人間は僕と八百子さんだけになってしまった。どうにかこの場の収拾を付けようと、僕は八百子さんの顔を見て、何を言おうか必死に考え始める。
「や、八百子さん。どうかしたんですか? ほらさっき、急に怒鳴ってから……」
って、違ぁぁぁぁぁぁぁう! 必死に考えた結論で何口走ってんですかぁぁぁぁぁ! ああもう馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの? むしろ馬鹿だろ? うううあああどうすればいいのさ。むしろどうすれバインダー……!
「……やっぱり、気になります?」
「ええ、まあ、はい……」
や、気にはなるけどそうじゃないでしょ? 何深く聞こうとしてんのさ。どんだけデリカシーもモラルもないんだよ……!
僕の反応に八百子さんは少し困惑した様子を見せる。やはり、迷惑なのだろうか。彼女の中はどうやら葛藤があるようで、どうしようかという慮る態度が火を見るより明らかにそれを物語る。
軽い唸り声を漏らしながら数秒、数分が経ったかもしれない。やがて彼女は心の中にひとつの答えを出したようで、顎に指を当てたまま僕の両の瞳を見据えた。
「彰くん、……明日暇かな?」
「順平が帰っちゃいましたからね。結構暇なんです」
何のことかと思ったが、波風立てたくはないので素直に答える。
「じゃあ、よかったら明日私とデートでもしない?」
「……へ?」
我ながら、何とも間抜けな声を出してしまったんだろうか。そのまま、思考が真っ白に染め上げられ、脳の機能がそのまま一時停止した。
そういった反応——つまりは無反応を示していたら、言いだしっぺの八百子さんすら恥ずかしそうに頬を、と言うか顔面を染めた。
「い、いやあの、少しは反応してくれても良いじゃないですか! いいい言ってる私だって、台詞を外したら結構恥ずかしいんだよ?」
「外したって何ですか外したって! 渾身の一発芸か何かですか! そりゃあ、いきなりあんなこと言われれば誰だって反応に困りますよ!」
「と、とにかくっ!」
咳払いをひとつして、彼女は会話の勢いを無理矢理止めた。
「明日、朝の十時に隣町の駅前に集合、決定! いいね?」
「ええ……?」
「じゃあお休みっ!」
そう言って、八百子さんは逃げるように八百万の中に戻っていった。静寂が支配する深夜の中に、僕だけが取り残される。何故か、世界から取り残されたような孤独感を感じてしまう。
もう、何が何だか判らない……。
僕はただ、そう絶句するばかりであった。
第一章『非日常と僕』了
- Re: よろずあそび。 ( No.21 )
- 日時: 2011/08/22 18:40
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WrJpXEdQ)
- 参照: 休んだ気がしない希ガス。仙台の代ゼミ行ってました。
第一章を終えて、今は二章を執筆中な私、カケガミです。
キリもいいのでちょっとここらで劇中のアレ——「パロディ」の解説をしたいと思います。わからないネタも多いと思いますし、何よりこれを機に元ネタにも興味を示してくれれば私としても、結構嬉しいので…。
あと大前提として言って置きますが、「パロディ」であって「パクリ」ではありません。悪しからず!
それでは、どうぞごゆるりと。
<モンハン>
<モンスターハンティング>
→元ネタはモンスターハンターポータブル(MHP)、2005年にカプコンから発売されたプレイステーション・ポータブル(PSP)用ハンティングアクションゲーム、およびそのシリーズです。劇中に出てきてるのは「3rd」を基にしました。
<ウナギコトル>
→上に記述してあるMHPに出てくるモンスター、アグナコトルを基にしました。ちなみに、切断した尻尾が本当に美味しそうに見えます。例えるなら白身魚。
<レオレウス>
→上述してあるMHPに登場する飛龍、リオレウスをもじったものです。シリーズを追うごとに弱体化していったのはきっとゆとり教育のせい。
<おばあちゃんが言っていた>
→2006年に放映されていた平成ライダーシリーズ、「仮面ライダーカブト」に登場する水嶋ヒロさん演じる主人公、天道総司の名言のひとつ。性格は軽度のナルシストで異常なシスコン。でもカッコいい、何故だろう。
<デデーン。○○、アウトー>
→日本テレビ系列で毎週日曜日(一部地域を除く)の22:56〜23:26に放送される、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」というバラエティ番組において、毎年大晦日に企画される特番「笑ってはいけない」シリーズのネタです。ここ最近は見てませんねぇ。
<テレッテッテー>
<お手上げ侍>
→日本でアトラス(現・インデックス)から2006年7月13日に発売されたプレイステーション2用ゲームソフト、7年ぶりに発売されたペルソナシリーズの三作目である「ペルソナ3」に出てくる「伊織順平」というキャラクタの発言の数々です。「テレッテッテー」はレベルアップ時のボイス、「お手上げ侍」は作中のストーリーで起こる事件が謎に包まれたとき、自嘲気味に言った台詞ですよ。<ヘルメス><トリスメギストス>は作中で彼が召喚するペルソナの名前です。
余談ですが、ペルソナ3のイメージカラーは「青」で、「P3」と略されています。そして2007年4月19日には使い要素を加えた「ペルソナ3フェス」、2009年11月1日にはPSPに移植された「ペルソナ3ポータブル」が発売されました。
ちなみに、私はこのシリーズが好きで結構やりこんでました。七周はしたかな? 全書コンプして、例の三人倒して、コミュ全制覇して、最強の「オルフェウス・改」を作りましたよ。我ながら没頭してました、お恥ずかしい…。
<魔法の言葉>
<ぽぽぽぽーん>
<ただいマンボウ>
<こんばんワニ>
<いただきマウス>
<ごちそうさマウス>
→言わずと知れた洗脳ソング。
<攻撃が当たらなければどうということはない>
→「機動戦士ガンダム」に登場する「シャア」という人物の台詞らしいです。後で知りました…。
<一世代前の未来から来たロボットのような声真似>
→藤子・F・不二雄先生の漫画作品「ドラえもん」を原作とするテレビアニメ、「ドラえもん」シリーズでドラえもんが秘密道具を出すときの台詞が元ネタです。この場合、声優は第二期を担当していた大山のぶ代さんですね。私自身、今の声優の人はあまり好みませんので。何でココスのフレーズまで変わったんだろう…。
声優さんの例えを最近で当てはめるなら、2010年11月25日に発売されたスパイクのコンシューマーゲーム、「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」に出てくるモノクマと言えば判りますかね。
<ハハッ>
→世界で一番人気のあるネズミ。二番目はサトシくんの相棒の電気ネズミ。著作権が許さないので言及はしません。
<不運と踊っちまった>
→読み方は「ハードラックとダンスっちまった」。過去にマガジンで掲載されていた漫画「疾風伝説 特攻の拓(かぜでんせつ ぶっこみのたく)」に登場する台詞。「運が悪かった」という意味です。
<百八式>
→波動球。元ネタは色々ファンタジーな原作、「テニスの王子様」より。そういえば、ゲームのほうも今は完全に乙女ゲーでテニスしてませんよね。
<ピッチャーびびってる、へいへいへい>
→野球応援。
<クワガタとカマキリとバッタを組み合わせた(ry>
→2010年現在に放映されている仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーOOO(オーズ)」において、主人公の火野映司が変身するスタイルのひとつ「ガタキリバコンボ」といい、分身する能力を持っています。沢山金が入るというネタの由来はこれにありますね。