複雑・ファジー小説

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ふたり 《コメントください!》
日時: 2012/08/11 13:10
名前: きなこうどん (ID: FLOPlHzm)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11247

こんばんは。
そして、お久しぶりです、という人もいますか?
初めまして、というべき人もいるでしょう。

「この世界で」のきなこうどんです。(上のURLで行けます。)


新たな作品を書き始めたいと思います。
きなこうどんに初めて会う、という方がいれば、前作から読んでいただけるとありがたいです。
できれば感想もお願いします。(図々しいですが。)


前作から引き続きの方、どうもありがとうございます。
個々でいろいろ感じたことはあると思います。
その思いも引きずったままでこの作品を見てください。

もしかしたら、きなこうどんも成長しているかもしれませんね。




身勝手ながら、この頃は忙しいので、更新は遅くなってしまうかと思いますが、温かい目で見ていただけるとありがたいです。

コメントをする方は遠慮せずに、「本音」で!!!
敬語でなくても大丈夫です。いきなり友達感覚でも。

今回もよろしくお願いします。

Re: ふたり ( No.20 )
日時: 2012/04/08 09:34
名前: coco*. (ID: PXn4LtCH)

携帯から。
あたしの小説に感想ありがとうございます。
率直な感想をいだだいたので
あたしも率直に受け取り、率直な感想をしたいと思います。


きなこうどんさんの小説は
、現実味があってとてもい作品だと思いました。
欲を言えば、二人の出逢いとかをもっと深く読んでみたいです!

遥ちゃんと愁君はどうなっちゃうんでしょう?
すごく気になります。

言葉遣いも表現もgoodです!
ぜひ完結させてほしいです。


いつもいい小説を見つけても
隠れファンでコメントをする事が少ないので
どういったコメントをしたらいいのやら・・・。
こんなんで本当すいません。

応援してます。

Re: ふたり ( No.21 )
日時: 2012/04/11 21:10
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


遥は移植を受けない、と心に決めていた。

そして、直子はそれを止めない。

遥は分かっていた。

決定権は自分にある、と。



誰も止められない。



遥の考えを覆せない。




たとえ、愁であっても。
愁の願いであっても。

それが、あの時死に損なった遥の運命。

愁との約束も破るつもりでいた。約束したあのとき——まさにあのとき、遥は守ることよりも、破ることだけを考えていた。

 
——死ぬのはわたしだけでいい。愁は道連れにしない。




 
硬く、決意をしたのに——。
愁は死なせないと思っているのに——。

今あの母から聞いた言葉で遥は少しだけ安心感を得てしまった。

一緒にいてくれるのだ、と信じたくなった。
 


こんなにも容易く、信念が崩されるなんて……。
 

泣きそうだった。
 

体の内側からこみ上げるものを必死に抑えると、鼻と喉の奥が鈍い痛みを感じる。


口からゆっくりと息を吐きながら、何とか抑えきり、ため息をついた。




 
——愁が移植を断念したのは自分のせいだ。
 
愁には家族がいる。
父も母も。
まだ幼い妹も。

愁が死ぬことを決して認められない環境がある。
 
愁がなぜ、こんな結論を出したのか。遥には理解できなかった。そして、なぜこんなにも泣きそうになっているのか、ということも。
 



——わたしを置いて行ってくれていい。忘れてくれていい。
 

約束を果たそうとする者。
破ろうとする者。
互いに考えをすれ違いさせ、焦り続ける。



そうして、近づけないままのふたりの思いはそのまま放置しておけば消滅してしまうに違いなかった。
 



——やめてほしい。わたしに合わせないでいい。わたしなんか捨ててくれてもいい。
 
嫌いになりたい、と思った。





愁も、真理子も、直子も、ヨネ子も。


誰もかも嫌いになって世界から逃げ出してしまえば、愁は病気を治してくれるに違いない、と思った。











ここでふたりの運命が終わらなかったのは次の運命につながる。

Re: ふたり ( No.22 )
日時: 2012/04/14 17:56
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


——どうした?

そう聞きたそうなのに、聞けないでいる愁を遥はじっと見つめた。



「泣くな」




愁は、そう言いながらも、正直驚いていた。


しかし、心当たりはある。




母親がなぜだか不機嫌だったのは。
いきなり、がんばろうね、なんて声をかけたのは。


これと繋がっているのかもしれない、と見当をつけていた。なんだかやりきれない気持ちだった。

「ごめん」

遥はその言葉に驚いた。謝るのは自分の方だと、思った。


でも、結局何も返せなかった。


今まで、こんなことはなかった。



だから余計にこの先どうしたらいいのか分からず、相手が何か言葉をかけてくれないか迷っていた。











「俺のせいだろ?」

愁は尋ねた。
 

真理子は、がんばろうね、なんて愁に言ったことはなかった。母親なりに、息子の精神を気にしてのことだろう。

だから、その母親が悪びれた様子もなく、それを口にするなんて、余程のことがあったからだ。
 
——心臓のことかな。
 
ぎりぎりと肋骨の中でうごめいている筋肉を意識した。











「違うよ。わたしのせいなんだ」







遥はドアにピッタリと背中をくっつけて、言った。













その目が弱々しく、愁を見ていた。泣きはらしたふたつの目が涙で、キラキラと光っている。

愁は次の言葉を言おうとしたが、遥の言葉で遮られた。
 

どうしてふたりはこんなにもうまくいかないんだろう。











「お願い」

ぶわっと遥の眼から涙がこぼれた。遥は、正しい道だけを進んでいるのだ、と思っていた。

でも、結局迷路のような道を進んでいるだけだった。だから、何度も何度も行き止まりに立ち、焦っている。


「手術、受けて」

「何で——」

「お願い!」
遥は涙を拭きもせずに愁を抱きしめた。

愁は驚いた。







咄嗟に抱きしめ返すことは——。










出来なかった。

ただ茫然と、自分の胸の中で泣いている姿を、視界の隅で感じることしかできなかった。
 

ヨネ子はもう寝ている。九時をさそうとする時計の音が澄んだ空気に静かに響いていた。

「遥、俺、変えられないよ」
喉がカラカラと鳴ったような気がした。


「……どうして?」

理由を聞かれても答えにくい。








ずっと一緒にいたから。

一緒にいたいから。
 
遥をひとりにしたくないから。
 
遥がひとりで苦しんでいるのは見たくないから。
 



たくさんある。たくさんあるはずなのに、いざ言葉にしようとすると、どれから言えばいいのか分からない。

「ほら、自分でも分からないんでしょ? それなのに、死ぬこと、選ばないで!」

小刻みに震えた背中が余計に震えた。

違う、と言いたかった。
でも、口が動かない。
遥の目に見えないオーラが愁の口を押さえているようだった。

うっかり、遥の考えを曲げさせよう、などと考えてしまった。
 
しかし、実際、その方法が一番いいのだ。遥も生きる選択をしてくれれば……。


しかし、それは不可能に近い。
誰も覆せない。
現実には叶えられない夢だって、希望だって確かにあるのだ。





そして、愁はひとつ疑問に思ったことがあった。
 

——俺が病気を治しても、約束を守る、となれば結局、最後は同じじゃないか?

そう、愁が自殺すれば約束は守られる。



少し時間を要して、ついに、たどり着いた。遥が立てているであろう作戦に。
 

そして、とりあえず愁は、


「俺やっぱり受けるよ。移植する」
と、言った。


遥は顔をゆっくりと上げて、うれしい、と言った。
 

しかし、遥の言葉は嘘だった。遥は愁の顔を見ることができなかった。
 



——やっぱり、辛いんじゃないか。
 

悲しく思って、でも、自分を気遣うように、平気で嘘をつく遥の気持ちを思って、愁はたまらなく遥が愛しくなってしまった。


だから、やっと腕を遥の背中にまわして、ゆっくりと抱きしめた。







「遥、好きだ」

流れに任せて言った言葉はさわやかに空気に溶けた。
遥の耳にはしっかりと届いていた。
 

遥は愁の心臓の音を聞きながら、穏やかな気持ちになっていた。やっと聞きたい言葉が聞けた、と思った。



このまま死んでもいい、とさえ思った。


「わたしも、好き」


愁は、このまま遥を抱きしめたまま死んでもいい、と思った。

このまま死んでも、人生に未練など無い、と。
言葉で表せない深い愛情。

相手の全てを包み込み、全てを手に入れたい。
体が火照って、顔が赤く染まる。
相手のことが好きで、好きで……。


一度言葉にしてしまうと、想いが洪水のように溢れてくる。

好きすぎて、うれしすぎて、泣いてしまいそうだった。
 

このままじっとしていたい。
 

好き、という言葉が今まで聞いたどんな言葉よりも柔らかく思えた。

ふたりの緊迫した空気をとろとろと溶かしている。
ただ、愁の頭の中はこれからのことでねばねばとしていた。
 

それでも心は、ほろほろと揺れていた。


まさか、相手が自分のことをこんなふうに想っていたなんて——。
 

ずっと聞きたかった言葉が今、聞けた。それでもふたりは派手に喜んだりしなかった。

心の中でそっと涙を流した。


「俺は生きるよ」
愁は嘘をついた。



きっとふたりの約束は守る。





心に誓って、もう一度、遥を抱きしめた。

Re: ふたり ( No.23 )
日時: 2012/04/24 00:08
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


遥がなぜ、ここまで、死ぬことに執着するのか。

厳密に言えば、遥が執着しているのは死ぬことではない。



心臓移植をしないことだ。
そして、その理由は約四年前のことにある。



——あの日。

家族を一気に失ったあの日。
じっと泣いたあの日。



遥は家族のために生き、そして、家族からもらったこの体のまま死のうと決めた。


心臓が壊れていっても、決して抗うことなく、生きることに執着せずに、自然のままに死のうと。
 

その意志は固く、誰からも触れられることなく、さらされることなく、ただ、彼女の心の、意識の奥の方で、固まる一方だった。
 




——死ぬことは怖くない。逆に生きすぎて、人生の中できれいなものを見すぎてしまうことが怖かった。
 




だから、愁への気持ちも隠しておきたかったのに、彼の言葉を聞くと、自然に出てきてしまったのだ。


好きすぎて、狂ってしまいそうだった。

自分でも、こんな激しい感情を持っていたことに驚いた。


今では家族を想う気持ちよりも、愁を想う気持ちの方が大きい。

 

——ごめんね。わたし、もっと生きてみたい、なんて、思った。
 

天国にいる家族たちがどんな顔をしているだろう、と遥は考えた。でも、空を見たってその表情が分かるわけ、ないのだ。

ただ、青の中にきらりと光る飛行機しか……。
 


——醜い。
 

愁の気持ちを受け止めたまま、遥はそんな自分を非難した


。寂しさを感じる遥と、それを嫌う遥がひとつの心の中に住みついている。

体はひとつのくせに、どちらの気持ちにも同意できる。

そんな自分を遥は後押しすればいいのか、はたまた諌めればいいのか。

 

















——愁が、わたしのことをどうしようもなく好きでいてくれればいいのに。
 

遥が愁の腕からそっと離れると、ふたりは静かに眠りについた。


それでも、浅い眠りで、見回りに来る看護師の足音で何度も目覚めた。

寝息が聞こえないと、相手が起きていることが分かるが、声をかけられない。

看護師に、起きているのね、なんて言われないように嘘寝入りもして……。

一晩中起きていたような心地で、何が現実か夢かも分からなくなってしまった。

それならいっそ夢で終わってしまえばいいのに、そうならないのが現実だ。
 





——それか、ぼろぼろになるまで傷つけてくれればいいのに。
 

そうすれば遥はどちらかの自分を振り切れるような気がした。
 

愁と、遥は目を閉じながら、それでも沈むことはできなくて、初めて、寝坊をした。


Re: ふたり ( No.24 )
日時: 2012/06/10 01:16
名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


愁はいよいよ、手術の準備を始めていた。

——アメリカへ行く。

遥は、初めて知った。


十八歳未満の子供が命を取り戻すためにはアメリカへ旅立たなければならない。

日本では十八歳未満の心臓移植は認められていないのだ。それが少しだけショックだった。












でも、泣かない、と決めた。寂しくても、悲しくても、もし、愁が帰って来なくても——。


「遥は、受けないんだよね? ……俺、直接遥の口から聞いてないや」



遥は窓辺に立つ愁を自分のベッドに腰をおろして見ていた。愁も、遥の目をじっと見つめている。

どうか、目をそらしてくれ、と愁は願った。


それが遥が嘘をついた証だから。





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