複雑・ファジー小説
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- 「私は去ります。さよなら。」 ——曖昧模糊な短編集
- 日時: 2012/02/09 23:45
- 名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
おはようございます。こんにちは。或いは今晩は、はじめまして。
N.Clockことトケイバリと申します。
別名「雑踏(L.A.Bustle)」とも「サクシャ(SHAKUSYA)」とも言います。知ってるヒト多分居ないでしょうケド。
さて、スランプに陥ってしまい小説が書けなくなりました。
よってこのスレはまた短編熱気が再来するころにもう一度上げます。
これまでのご支援及び御題・キャラクターの提供をしてくださった皆さん、ありがとうございました。
Thank you for watching my novels.
See you next time.
Bye-bye.
- Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.23 )
- 日時: 2012/01/08 04:57
- 名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
- 参照: http://www.nicotwitter.com/watch/sm10676104
【横溢】(トケイバリ考案)
「諸君聞きたまえ!」
バンッ、と机に手を叩き付けた拍子に、机の上の紙の山が落ちる。
ギラギラと虎の如く眼を輝かせ、D博士はおでんの糸蒟蒻が突き刺さったままの割り箸を右手に怒鳴った。
「私は傍観しているのだ。赤い塵と碧い空の上でパンクに狂い踊る素体がメンガーのスポンジから飛び降りてはディスプレイに降り立ち、描かれる三原色のマスの上を走り去っていく。ユークリッド幾何に定義されない答え無き五次関数の平面に咲いているのはコッホの華だ、座卓の上を飛んでいるのは羽の無い蝶だ、足で飛ぶ蜘蛛だ。猫又の欠けた尻尾の先に止まって小さな元素霊達が白き妊婦の中指のガーネットの指輪を目薬で湿す、使徒達の乾いた唇を合成のリバティーが裂く。汚穢から飛び降りる賢者のカチ割れた脳味噌から見たことない至福と嘗て未来に投げ捨てた分岐が溢れ出し、辺り一面は見渡す限りの炎だ、民が逃げる燃える朽ちて走る。アリバイ無き毒茸に何を遠慮があろうかと燃やせば塩素の臭いを放ちつつ、歯車仕掛けの歌唄いがオドに包まれた手でペンデュラムを黄金のロータスに翳し『円周率は有理数』と金切り声を上げ、音符混じりの雨は両性具有の貴婦人とグローヴァルに広がった馬の骨どもを歓喜さすッ!!」
最早何を言っているかすら、私には——否、此処に居た全員は分からなかった。
D博士は割り箸を空になった鍋の中に突っ込んで自分の机をひとっ飛びに飛び越え、私は行きます、諸君トルヒーヨへ行こうじゃないか、と広い研究室中に響き渡らんばかりの大声を上げて笑いながら、研究所のドアを蹴り開けて出て行った。廊下から響いてくる博士の笑い声の所為で、部屋の中は決して静かではない。
「D博士に何が起きたんです?」
研究室の副室長である私に尋ねつつ、M研修生が博士の机から落ちた書類を引っ掻き集めて机の上にもう一度山を作る。D博士の補佐として長年行動を見てきた私だが、いきなりあんなことを言い出した理由はちっとも分からない。あの瞬間まで、博士は極普通の好々爺然とした中年男だったのだから。
私は頭をフルに回転させて、指示を飛ばす。
「憶測以上のことは分からない。C君とI君は一緒に博士を追って、何か変わったことが起きたら直ぐに連絡して。M君は私に着いて来て、危険研究用の部屋に入って原因を調べるわよ。あ、で、憶測って言うのはね。博士が囂々と話していた内容は、まず現実では在り得ない話よね。妄想か夢に関わるようなことで、何か禁忌に触れたのかもしれないってこと」
C研究員とI研究員が白衣を脱ぎ捨てて部屋から飛び出していくのを横目に見ながら、私はM研修生の問いに返して、部屋の最奥にある部屋に向かう。
研究部屋には総じてセキュリティ対策として普通のタンブラー錠と更にダイヤルロック、その上キーロックまで掛かっているが、この部屋はことに危険なものを扱うときにのみ解放される部屋で、パターンロックとパスワードロックも掛かっている。私はこの部屋を開くことのできる権限を持っていた。
素早く全てのキーを解除し、M研修生を伴って中に入る。
そして、入る前から二人して唖然とした。
「な……に、これ——」
M研修生が腰を抜かすのも無理はなかっただろう。
中に据え置かれていたのは、私が両手を広げても掴めないほどの大きなディジタルモニターが一台と、その前にちょうど医者が使う診察台と心電図計、脳波計等の計測具が一式。冷たい診察台上にはD博士が語った一部の物品の現物やレプリカが所狭しと置かれ、壁や床の上にも、手の付き場も足の踏み場も無いほど様々な物品が散乱している。
モニターには、恐らくD博士の言った内容と同一であろう映像がフルカラーで映し出されている。
凄惨と言えば凄惨な光景だった。
青い布地に赤絵の具を飛ばしたように塵が吹きすさび、その真っ只中に立つメンガーのスポンジ様の建物から前衛的な舞を披露しながら、素っ裸の肌色フィギュア素体が飛び降りて、赤青黄の三色で描かれた格子の上に着地しては次々と走り去っていく。まるで雪の結晶のような、しかし真っ赤なコッホの平面に立体的な深緑の茎と葉が付いて、歪みたゆたいながら空間の中で踊っている、その華が咲いている座卓の上を、キアゲハが丸々と太った芋虫のような胴体だけをくねらせて飛び、タランチュラのような大きな黒い蜘蛛が毛の長い足をヘリコプターのように振り回しながらふらふらと飛び……
「A先生!」
耳を劈く叫び声で我に返った。
- Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.24 )
- 日時: 2012/01/08 05:14
- 名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
- 参照: ぱいどぅあああああああーい!
気付けばM研修生はやや気勢を取り戻して部屋の中に飛び込み、散らばる有象無象を押し退けて診察台のところまで侵入に成功していた。その診察台の物も大半が払い除けられ、その上に寝かされている女性の姿を曝け出している。私もM研修生が物を除けて作った道を走った。
極普通のシャツとスカートを身に付けた女性。その胸には『K大農学部 Z』とネームプレート。最近B教授の講義に顔を見せずB教授が訝しがっていた女生徒の名だ。今はどうも寝ているらしい。脳波計はθ波とβ波の混在波形を示しており、その他計測器の数値は普通睡眠時の数値で安定している。
「こ、これは……どうしてこんなものが? Zさんは如何しましょう」
「どうしてこんなものがって、D博士がやったに決まってるわ。私にも貴方達にもこんなものと触れ合った覚えはないでしょう? とにかく、C君とI君から何か連絡が来ないことにはどうしようもないわね。彼女はとりあえずそっとしておいて、下手に起こすとD博士の身にも何かあるかもしれないから」
私の答えにM研修生がはいと声をあげたところで、都合よくサイレントにしておいた携帯が胸ポケットの中で暴れる。一旦部屋から出て誰からかを見遣ると、C研究員の名前と電話番号。直ぐに繋げる。
「どうしたの?」
無言。もう一度同じことを受話口に投げかけるも、無言。語気が荒くなる。
「もしもし、C君ッ?」
「ゆ——夢が、夢がっ……」
怯え切ったC研究員の声と言葉。そのほんの僅かな正気は、遠くの方から響いて来たお祭りのようなお囃子のような賑やかな音声に僅か気を取られ、そして耳を劈くほどの甲高く絶望と恐怖が素人にも分かるほどに込められた悲鳴によってあっと言う間に消えうせる。聞いたことも無い凄絶な声だ。
私は背がさあっと冷たくなるのを感じながら、机の角を引っ掴み電話に向かって叫んだ。
「何が在ったの、教えて!」
叫んだ刹那、凄まじい轟音が通話口から鼓膜を激しく震わせ伝わり響いて来た。思わず携帯を耳から放した所にC研究員の辛うじて絞り出したと思しき声が、轟々と響き渡る笛や太鼓や木琴などなどの音に掻き消されながら耳に届く。
「A女史、助け……て……ユメ——夢が、夢が現実に、この世に溢れて……Iが、夢に飲まれ……あがッ……ああ、ガラスのウサギと稲のイナゴが真っ赤な羅しょう門を越えてき、ああ、が………あ亜ああ亞あ、僕の、僕の夢があんなところに……地獄が、地獄が、天国も、カオスが叛乱して…………あっ、あ、亜、阿。あ」
唖。
と、生気と言う生気の抜けた一言が私の鼓膜に痛いほどの恐怖を伝えた途端、溢れ出した夢の音がM研修生の耳にすら届くほどに携帯から飛び出し、そしてブツッと何かを千切るような悲鳴を上げて切れた。ツーツーと後には無機質な現実の音だけが床に転がり落ちる。
「M君。彼女を寝かせたまま、この部屋を閉めて」
「えっ、でも、それだと」
「いいから。あの音を聞いたでしょ? 夢を、そしてD博士を止めないと、この世は溢れた夢で潰れてしまうわ」
私の声より、携帯から響いた音のほうに信憑性を持ったのだろう。M研修生はまだすうすうと安らかな寝息を立てる彼女の方に少しだけ目を遣り、そして振り切るように大きく首を横に振って私の所まで走ってきた。私は蹴散らかして部屋の外にまで溢れ出た有象無象を部屋の中に押し込めて強引に扉を閉じ、鍵を掛けて白衣を脱ぎ捨てる。
研究所の人気も味気もない廊下を走り過ぎ、そして未だ平和を保つ分厚い鉄の扉を抉じ開けた。
刹那、私は見ていた。真っ青真っ青で、雲一つない、未だ嘗て見たことのないような美しい空を。
天使の真っ白な羽が何枚も何枚も、ふわりと柔らかに私の胸に落ちて紅い物を吸う。
真っ赤になった羽はひらひらと舞い飛び、凝集して、真っ赤な天使になった。
「これが、今の貴女が夢の中で望んだこと。夢は現実になった」
空から、声が聞こえた。
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今回はネタが無く苦肉の策を捻り出しました。
故今敏さん監督「パプリカ」のニコ動の外部プレイヤーで一度見たシーンを換骨奪胎したものです。
と言っても、多分ここでは知らない人のほうが多いでしょうから、一つの短編としてみてくださって構いません。
シーンを借用した故今敏さんには最大の感謝と、冥福をお祈りします。
文字ばかりで飽き飽きする方は>>23参照「ハルディン・ホテル(これを書く間中聞いていた作業用BGM。作詞作曲平沢進)」を聞きながらご観賞ください。
- Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.25 )
- 日時: 2012/01/09 00:46
- 名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
- 参照: 全てを知る男と何も知らない女
【ミッドナイトブルーに沈む】(結城柵様より)
「星はどうしてあんなに光ってるの」
真冬の深夜には音も無い。
二つの人影が肌寒い風の吹くビルの屋上から、星が疎らに散る濃紺の夜空を見上げる。一人は触れてしまえば崩折れてしまいそうに線の細い少女、もう一人は日本人の顔には珍しい碧い眼をしている以外は特に特徴も無さそうな、夜空の色と同じブレザーを纏った極平凡そうな青年。
二人は虚しい恋人同士だった。彼女を傷つける度悦に浸り、彼女に近寄るもの全てを選り好みしたがる異様な性癖と、それに気付く以前にそれを理解することすら出来ず、サディストの彼に頼り愛することを止められぬ単純な性格の依存者。傍目から見れば、忌避したくなるような二人組である。
しかし二人は互いを愛し合っていた。それが二人にとっての愛の形であるならば、誰にも止められない。
「竜胆。聞いてる?」
心配そうな少女の声。
竜胆と呼ばれた青年ははっとしたような表情で大きく頭を振ると、己の隣でコンクリートの地面で膝を抱きかかえる少女に顔を向けて何処か狂気めいたものを含んだ笑みを浮かべた。そしてほっとした顔になった少女へと竜胆は、聞いてるよ、と至極穏やかに言った後、ようやく問いに答えを返す。包帯を巻いた左腕を、音も無く空に差し伸べつつ。
「神様が分厚いカーテンに穴を開けたんだよ。あれから、天国の光が零れてるんだ」
「それじゃ、なんで神様はこんなくらいものを空にかけたの。それに、どうして穴をあけたの?」
「信用できないんだよ。僕達のことが。だからカーテンで覆って、でも自分からは見えるように穴を開けた」
「竜胆——ひどい」
苦虫を噛んだような顔と共に吐き出された一言は、重い。
手を降ろした竜胆は僅かに苦い色を交えた曖昧な笑みを浮かべただけで何も話さず、少女もまたそれきり声を上げようとはしない。棘の生えた静謐が真夜中の夜と共に二人へと圧し掛かる。普通の恋人同士であれば気まずさに耐えられないこの静寂も、しかしこの二人に掛かっては何処か心地よい空気であった。無音は二人にとって至上の空間なのだ。
「世界」
竜胆の穏やかな声が、享受しかかっていた心地よさを破る。世界、と呼ばれた少女がさらさらとした長い焦げ茶色の髪を書き上げながら子供っぽい仕草で円らな瞳を竜胆の方に向け、竜胆はそんな世界に向けて背筋が冷たくなるような優しい笑顔を満面に作り、まだ新しい大きな切り傷の目立つ右手を世界の白い頬へと伸ばす。
「どうしたの、竜胆」
拒絶はない。
ただ、危険な空気が濃密に二人の間に満たされてゆく。
「世界。僕のこと好き? 僕は世界の傍に居ても良いかい?」
「ねえどうしたの? 竜胆、私のこと、なにか疑ってる?」
「そうじゃないよ。ちょっとだけ、確認してみたかった」
暗い調子の響きに、世界が一旦は緩めた緊張を再び顔に浮かべる。そうして頬に差し伸べられた手を真っ白な両手でそっと握り、竜胆が何か声を上げる前に、叩きつけるように微か上ずった声で矢継ぎ早に言葉を紡ぎだす。
「竜胆がこんなこと聞くのはいつものことだし、何度言ってもいいことだけど。私、竜胆のこと、とっても好きだよ? ずっとずっとずーっとずぅーっと、いつまでだって傍にいたいよ? たしかに、時々はとっても怖いときあるけど、でも、それでも、私竜胆と一緒にいたい。竜胆はずっと私のこと守ってくれるんでしょ? ずっと一緒にいてくれるんでしょ? ね?」
「……そうだね。そうだよ、世界……」
感情を限りなく押し殺した、しかし哀しそうな余韻の混じった響き。しかし世界にその微妙な感情は分からなかったのか、そうだよね、そうだよ、と嬉しそうに笑って握った竜胆の手に頬を擦り付ける。竜胆はそんな彼女を常人ですら分からないほど微かに悲愴な面持ちで一瞥し、そして直ぐ何かを振り払うように夜の空を見上げた。
ミッドナイトブルー。そう言うに相応しい、澄んだ冬の夜が視界一杯に広がる。
そこに幾つも幾つも明けられた輝く星の一つ一つから、竜胆は自分達を嘲弄する何かの視線を感じた気がした。
<fin>
……顔から火がボンッ!((
あからさまに恋愛を取り扱ったのはこれが初めてです。恋愛は苦手ジャンルですが、リク依頼板の方で御題とキャラクターを頂き、やっぱり一度は書いてみようと思い執筆に挑戦。
……正直言ってメチャクチャ恥ずかしいです。マジに顔を真っ赤にしながら書いてました。でも今まで書いてきた短編の中では恐らくコレが一番話的には纏っています。
さて。
御題及びキャラクターを提供してくださった結城柵様へ……
勝手に貴方様のキャラクターを借用してしまい……
本ッッッ当にすみませんでしたァァァァァッッ!!!
ああ、もうムチャクチャ……orz
- Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.26 )
- 日時: 2012/01/09 07:38
- 名前: 陽 ◆Gx1HAvNNAE (ID: ixlh4Enr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
ミッドナイトブルーいいですねー(^^●)
キャラのちょっとヤンデレな感じが私好m(殴
ごほん、『微睡み』書いて下さってありがとうございました!
お礼の言葉遅れてしまって申し訳ないです><
とーっても素敵でした(∀)
猫飼いたい……というかビワ飼いたいw
それでは更新頑張ってください♪
- Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.27 )
- 日時: 2012/01/09 12:18
- 名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
- 参照: 宿題が山のよう
>>26
コメントありがとう御座います(´・ω・)
ミッドナイトブルー良かったですか! だと嬉しいです。ホッとします。何しろ恋愛を書いたのはホントにこれが初めてなので……;
キャラのヤンデレさ加減は竜胆を提供してくださった結城柵様のお力によるものです。技術力ばかりが只管先行している私に、こんな魅力的なキャラクターは悔しいですがとても生み出せないッ……!
只管修業ですね(`−ω−)
いえいえ、こちらこそお礼を言いたいです。
【微睡み】はホントに楽しく書かせていただきました。見た瞬間から「コレはっ……」とインスピの湧いた御題です。遊びすぎてワケのわかんないことになっちゃってますが……(滝汗
作中では「猫」とのみ語られるタイプライター猫・ビワさんですが、実は設定としては妖怪「猫又」です。だから尻尾は二本ありますし人語も喋ります((
それでは、コメントありがとうございました!
これからも御題ある限り更新を続けていこうと思います!!