複雑・ファジー小説

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「私は去ります。さよなら。」 ——曖昧模糊な短編集
日時: 2012/02/09 23:45
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)

 おはようございます。こんにちは。或いは今晩は、はじめまして。

 N.Clockことトケイバリと申します。
 別名「雑踏(L.A.Bustle)」とも「サクシャ(SHAKUSYA)」とも言います。知ってるヒト多分居ないでしょうケド。


 さて、スランプに陥ってしまい小説が書けなくなりました。

 よってこのスレはまた短編熱気が再来するころにもう一度上げます。

 これまでのご支援及び御題・キャラクターの提供をしてくださった皆さん、ありがとうございました。


 

Thank you for watching my novels.

See you next time.

Bye-bye.

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.18 )
日時: 2012/01/01 00:28
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)

明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いします。

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.19 )
日時: 2012/01/01 00:32
名前: よく脛ばかり蹴られて痛い男 (ID: khvYzXY.)


 ハリーさんも

 あけおめェ

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.20 )
日時: 2012/01/02 02:41
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
参照: 「天体観測」を少しリスペクト。

>>19
はい。あけましておめでとう御座います。
欄が惜しいのでこの下に更新。

———————————————————————————

【流星群】(とある部活の先輩より)
 午前一時を過ぎる頃。
 最終の電車を通す為に閉じる踏切の鳴らす眉を顰めたくなるような甲高く鈍い不協和音が、一人踏み切りの前に立つ青年の耳に届く。
 暗闇に居る所為か光に乏しい漆黒の瞳で、音と点滅のタイミングの合わない踏み切りの赤い光を見上げた少女は、更に高く空を見上げて溜息を一つ吐いた。空には灰色の雲が覆い、速い風に流れている。昼間のテレビの天気予報「明日の朝まで快晴」は見事に外れ、雨すら降り過ぎそうな空模様。
 この踏み切りのある辺りは住宅地から離れた辺鄙な土地、人の通りは夜明けまで無きに等しい。暗いくせに街灯も無い。しかしそれが要らないほど人の通りもなく、こうまで夜が更けると人と畑に害を齎す野獣の類は殆ど眠りに就く。故に今この場に居るのは青年一人きりであった。

 大の大人でもこんな場所に放り出されては恐怖を感じる。心細いのと雨模様になりそうなのとでそわそわと身を動かしながらもう一度空を見上げた時、遠くの方で自転車のベルを鳴らす音がけたたましく響き渡った。
 彼は一瞬肩を震わせて音の出た方を探り、すぐに小さな自転車のライト、そして自分の方を明るく照らす大きな懐中電灯の光に気付き、何秒か遅れてよく見知った友人の顔が良くある三流ホラー映画のように下から照らし出され、ほっと大きく安堵の溜息を吐いて青年は大声を送る。
 「遅いなあ、何時間もこんな所で人を待たせて……」
 友人が閉じたままの踏み切りで自転車を停め、何か言葉を返しかけたとき、電車が轟音を立てて通り過ぎた。
 少し経って踏み切りが持ち上がり、分断された道路が再び一本の道として機能を始める。
 これが最後の電車、青年は堂々と踏み切りのど真ん中まで足を踏み出し、荷台にこれでもかと大荷物を搭載した友人にまた同じ文言を投げかける。友人はその場で持って来た荷物——三脚と望遠鏡を出して組み立てながら、悪ィなぁ、と余り反省の色の無い明朗快活とした声を上げ返した。
 「くそ、暗くて見えやしねぇ。……望遠鏡押入れの奥に突っ込んじまっててよ。音立てないように出すってな難しかったぜ? 望遠鏡出してからもこそこそ音立てずに片付けなきゃオヤジが起きて文句垂れるし。お前みたいに身一つで来てるんじゃねぇンだよ、俺はさ」
 厭味なのか皮肉なのか。青年は険悪そうに眉を顰め、声に僅かな怒気を孕ませつつ言い返す。
 「それは悪うござんした。僕ン家は父さんの努めてた会社が倒産した挙句が自己破産して貧乏の底無しなんだから、そんな娯楽品が買えるほど余裕がないんだよね。そりゃ僕だってバイトしてるけどさ、そのお金は全部生活費に充てないと水道だって危ないわけだし……経済力でキミの家と同じ土俵に立てると思ってるのかい?」
 「分かったよ、ゴメン。わりかし平気そうな顔してるからちょっと失念してたンだよ」
 「あんまり平然ってわけでも無いんだけどね、ホントは……」
 敢えてか本当に聞こえていなかったのか、独り言めいた返答は綺麗に聞き流された。後には静寂と、僅かに望遠鏡を空に向けて固定する螺子回しの音ばかりが響く。
 青年は重苦しい溜息を一つ吐き、友人が持って来ていた懐中電灯で友人の手元を照らしつつ、再び空を見上げる。上空を覆っていた灰色の雲は地球の空を走るジェット気流に押し流され、満天に星が光っていた。丁度今はオリオン座が頭上に来ており、鼓のような形がよく見える。
 「ライトさんきゅう。ほい、出来たぜ」
 暫く経って、声と共に、見るか、と言わんばかりに友人が接眼レンズの前を空ける。懐中電灯を消して友人に返した青年は無言の提案に甘え、その場に座り込んで、ほぼ天頂まで上げられた望遠鏡のレンズに眼を近づける。
 「わ、ぎゃッ!?」

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.21 )
日時: 2012/01/02 02:50
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
参照: 星と言う名の失望を掴む

 目の前に広がる壮大な別世界に声を上げかけた刹那、青年は別の意味で声を上げ、同時に接眼レンズを覗き込んでいた方の眼を押さえた。携帯を弄っていた手を止め、どうした、と声を上げる友人に彼は何か凄いのが光った、と言う声と指を差し上げることで返し、それに従って友人が表情を張り詰めさせたまま大急ぎで空を振り仰ぐ。
 夜空は特に何も変化してない。無論、反射鏡に向かって懐中電灯を照らすなどと言う愚挙はしていない。
 友人の頭の中で、結論は一つしかなかった。
 「別に星が爆発したわけじゃあるまいし……流れ星でも映ったのか? コレに?」
 信じられない、と言う風な表情で友人は首を振りたくる。
 流星は流星群でも起きない限り一時間に一個見られるか見られないかと言う低確率な現象であり、それが望遠鏡に映るということは、望遠鏡が大口径のものであっても流星を普通に見かけるより稀な現象である。しかもそれをまともに覗き込んだ青年は眼を傷めた。望遠鏡発明史上一、二を争う稀な不幸だと言って良いだろう。
 暫く空を呆然として見つめていた友人は、ハッとした表情に色を変えて沈黙を貫くままの青年に視線を移した。余程強い光を見たのか、まだ片眼を押えてやや憎たらしげに望遠鏡を睨んでいる。だが友人がおろおろとしている内に青年はそっと手を下ろし、嗚呼びっくりした、と目を瞬きながら極明朗な声を上げて肩を竦めた。
 「ホントに大丈夫かよ? 俺だって望遠鏡で流れ星なんか見たことねえからな」
 「うん? まだ残像が残ってるけど、もう大丈夫。一瞬でも、虫眼鏡越しに太陽覗かされるよりマシと思えば、さ。やー凄かった、僕の眼で見える以上に星ってのは多いんだねぇ。初めて望遠鏡覗いたけど、カンドーだよ。まあ、星がこの眼に全部見えてたら今頃夜なんて概念無かっただろうけど」
 そう興奮した声で言いつつ尚も望遠鏡を覗く青年に、友人は内心ハラハラしながら空を振り仰ぐ。すると、今度は望遠鏡に映らない範囲でまた光の緒が空を過ぎり、そうかと思えば今度は友人の目にしか映らないところで三度目の流星が空にごく緩やかな曲線を描いて飛び去っていった。
 続けざまに二つなど、珍しいどころの騒ぎではない。厭な予感と期待が同時に渦を巻く。
 「おい、望遠鏡から目を放した方が良いぜ。何だよ、今日は何か特別なことは無かったと思ったんだけど……?」
 独り言に対し、望遠鏡から目を放し地面に寝転んで空を眺め遣っていた青年は、また一つ流れた流星を消えるまで目で追い、そして真顔のまま至極生真面目な表情で声を張り上げた。
 「……死ぬんじゃない?」
 「!? ちょっ、あのな、お前って奴は……! 頼むから俺以外の人間にそんなこと言うんじゃねぇぞ、只でさえお前不気味なところがあるんだから、物騒なこと言うんじゃねえよ!」
 本気で焦る友人に対し、余裕綽々、寧ろ穏やかな笑みさえ浮かべて、青年は暴言を往なす。
 「でもホントに死んじゃうよ。わりと直ぐに」
 「おいって……わッ!?」
 爽やかとも言えそうなほど綺麗に言い切った彼に顔を歪めて抗弁しかかった友人が、真横からの光に短く思わず顔を覆う。青年は其処で弾かれたように体を起こし、道路のど真ん中に設置されていた望遠鏡を道の端に置くと、爆裂音を立てる光源にいきなり目を潰され身動きの取れない友人に真横から激しく体当たりを掛けた。
 何するんだよ、と怒鳴りながらもバランスを崩され、目を腕で覆ったままよろよろと道の端に弾き飛ばされた友人にくすくすと潜んだ笑声を零し、青年は笑みを浮かべたまま静かに道のど真ん中に立つ。爆裂音を放つ光源は次第に乱暴なエンジン音と幾つものバイクのライトに変わり、それはブレーキさえ掛けないまま、一人立つ青年に突っ込んでいった。
 生身の砕ける鈍い音と切羽詰った怒号。不良らしい野卑な催促の声が響き渡る。
 少しの後、莫迦だの死ねだのとボキャブラリー貧困な脳味噌から有らん限り罵声を捻くりだしつつ、エンジン音は瞬く間に去ってゆく。暫くの間は目を瞑ったままその場に座り込んでいた友人は、完全にエンジン音が消え去ってからやっとの思いで目を開いた。まだ光の残像がぼんやりと視界を覆っているが、それでも道の端に倒れこんだ人の影だけは、確かに見える。
 声も出せずにその場で凍りついた友人へ、青年は細い息を吐きつつ、微かに途切れ途切れの声を絞り出した。
 「あはは……だから、言ったじゃん、死ぬって。朝から、何となーく、そんな、気、が、してたんだけど、ね……」
 少しだけ目を細め、青年は怖気が差すほど明朗な笑みを浮かべつつ、仰向けに倒れたまま空を見つめる。
 常人では捉えられないほど微かに光芒を放つ小さな星を輻射店として、流星がまた一つ、空を過ぎった。青年はそれを掴み取ろうとするように震える手を天上に差し伸ばし、そして空を掴んだ。直後哀しそうな顔に顔を顰めて、一つ呟く。
 「綺麗だねぇ——最期、に見れる、景色、が、こんな綺麗でさ、いいのかな……僕に、は、勿体無い、なァ……」
 音を立てて、握られたままの手が落ちる。手には無論、何もない。
 一際明るく赤い灯を放つ星が、放物線を描いて地平線に落ちていった。
<fin>

久しぶりに三人称の小説を書いてみました。
最初の迷走と最後の走りすぎた感、大いに反省。
語らない部分もわりかし多かったので、そこは皆様の想像による補填をお願い致します。

P.S.
先輩、こんな救いのない話で本当にゴメンなさい……orz
コレが実力とです(´;ω;)

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.22 )
日時: 2012/01/02 08:10
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)
参照: 英単語混じり文は古典的手段。

【微睡み】(陽様より)
 吾輩は猫である。名前はビワなり。
 大御所のパクリと言いたければ言えば宜しい。
 何しろ吾とてもこのように文を書くなど初めてのこと、なれば同じ猫の書いたモノをちょいと拝借するくらいは良かろうに。タイプライターなど用いて認める猫など日本中で二猫目、否あれは猫の言うことを人間が万年筆で書いたのだから、やはり認める猫は吾が初めてなのである。初めてのことに人の遣ることを引用して何が——否違う、吾は人でもなければこの行為自体は引用ではない。猫の言う事を猫が参考にして何が悪い。うむこれで良い。
 さて、吾は今、タイプライターを打っておる所。
 タイプライターなどとうの昔に廃れて久しい。しかしこんな旧時代のものが普通に置いてある反面、飼い主の部屋にはきちんとしたパソコンもある。それ故キーボードなるものを叩くのも中々良いが、あれは長々としておる内に静電気で毛がばちばち言いだしてどうもいけない。それに比べこれは静電気など発しはしないし、行を変えるときに鳴るベルの「チーン」と言うあの音がまた良い。まあ、猫の手ではどうにも釦の重たいのと、コレを漢字カナ混じりなおすに活字を拾わにゃならんのは面倒臭いか。蟻ん子のような活字の山から一つ一つ拾って行く様は、宛ら何某とか言う作家の「銀河鉄道の夜」のよう。
 はてさて、吾がタイプライターを弄っているなど、気付いているのか居ないのか、飼い主は何も言わぬ。しかし普段であっても会話は最小限、特別な時とあっても誰とも口を聞きたがらぬ矢鱈滅鱈寡黙な男であるから、吾の行為に気付いていても言わないだけかも知れぬ。吾を呼ぶにはあれほど明朗な声を出すと言うに。
 おっとっと、噂をすれば陰。呼ばれてしもた。この辺で一度切り上げじゃ。(チーン)

 全く、途中でエシラが来るとは思わなかった。何時来ても嵐のよう。
 「なァにか面白いことはないかァああ!」と、エシラ曰く。何時まで経っても好奇心の塊。それに一々「五月蠅い!」と応えるヤイチさんも、エシラそっくりに五月蠅い人だがの。速いところ逃げようと思ったら喧嘩に巻き込まれて、ヤイチさんの踵に尻尾を踏ん付けられてしもた。おお痛。
 ……はて、気付いた。
 何を書けば良いものやら。ネタと言うものがどうもない。寝子と書いてネコと読ませて猫を意味する、と昔から言われておるように、吾も日がなゴロゴロと寝てばかりおるからどうにも書くことがない。偶に散歩へ行けば最前の始末、尻尾が危のうて出歩けもしない。そうだ思い付いた。此処は一つ、此処『化物荘』に越して来た苦学生の元を尋ねんとする。
 向こうで書きながら苦学生サクラバ君と話す予定だから、まあ、持っていこうか。切り上げ。(チーン)

 サクラバ君の部屋は日当たり・風通し共に良好。独り身にしては割と本が多く、時に猫の吾から見ると非常に興味深いものも見つける(大抵はPhysicsやChemistryの参考書と言う喰えもせん奴ばかりであるが、一冊だけサカナ図鑑が混じっておるのだ……)。几帳面故にかゴミゴキブリは勿論、ダニシラミの類もない。
 うむ、良い部屋を取っておるし良い管理をしておる。飼い主の部屋もそれなりに楽しいもの(例えばこのタイプライター。他に活字拾い用活字セットだの戦国時代の鎧だの)が山積みになっておるし害虫も居ないっちゃ居ないけども、吾がこれを据え置くがらくた山は埃っぽくて敵わぬ。それに引き換えこの快適さと来たら!
 おお、眠。
 だがコレを書く為にサクラバ君を驚かしてまで来たのだから、何ぞ話だけでも拾わんと——なんて思った矢先、ちらとサクラバ君を見たら……ぐうすかと寝ておった。座布団一枚枕にして布団も掛けず、わざわざ日当たりの悪いところでまたまあ。普段から顔色の悪いのは知っておるが、日当たりの悪いせいでもっと悪う見える。
 あー、ぽかぽかする所を占有出来て余計眠くなって来よった。吾も偉そうに物事叩いておるが、矢張りどう足掻いても猫。斯様なところで眠気の湧かぬはずも無い。よって吾はこれを叩くのを止め、暫し寝る。皆おやすみ。(チーン)

 さて、短いまどろみから覚めたところでじゃ。タイプライターで書いたモノをカナ混じり文にすべくこうして活字を拾っておる所を、偶然にもサクラバ君に見られた。いや、別に良いのだがの。サクラバ君の心臓に悪そうで吾はちょいと恐ろしい。
 短いがの、今日はこれまでじゃ。ではまたいつか。(チーン)
<fin>

※活字を拾う=組版(古式活版印刷)のこと。印刷技術や電子演算機器の発達していなかった時代、複雑な日本語の印字には原稿通りに活字を組み合わせ、それを糸で縛ったものを使用していたことから。本来は「活字を組む」のが正解だが、ビワさんのところの活字はあちら此方に散らばっているため、「活字は拾うもの」とビワさんが勘違いをしている。
※(チーン)=タイプライターで改行させたときに鳴る音のオノマトペ
※Physics=物理  Chemistry=化学

 ……ええ。

 は っ ち ゃ け ま し た と も 。

 今回はアマチュア作家猫に相応しいであろう、実験的な要素をたっぷりと盛り込んだ短編となっております。いやあ楽しかった。
 そして、私の小説には珍しく、終始ほのぼのした感じで終わりました。苦学生サクラバ君の顔色が悪いのはデフォです。
 ただ、御題である【微睡み】から外れたものが出来上がってしまったのが残念……もっと腕を上げます。

 そうそう、登場人物の名前でもしかしたら察した方もいらっしゃるかもしれませんが、コレも実はほんの少しだけ私の書いている他の小説とリンクした話です。


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