複雑・ファジー小説

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「私は去ります。さよなら。」 ——曖昧模糊な短編集
日時: 2012/02/09 23:45
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)

 おはようございます。こんにちは。或いは今晩は、はじめまして。

 N.Clockことトケイバリと申します。
 別名「雑踏(L.A.Bustle)」とも「サクシャ(SHAKUSYA)」とも言います。知ってるヒト多分居ないでしょうケド。


 さて、スランプに陥ってしまい小説が書けなくなりました。

 よってこのスレはまた短編熱気が再来するころにもう一度上げます。

 これまでのご支援及び御題・キャラクターの提供をしてくださった皆さん、ありがとうございました。


 

Thank you for watching my novels.

See you next time.

Bye-bye.

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.13 )
日時: 2011/12/27 02:30
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: JSaR90tz)
参照: 分割② マフラーに関係あ……る?

 どさどさどさ、と勢いよく雪の滑り落ちる音ではっと目が覚めた。
 時刻は十二時五分。どうもあれから三時間半近く寝ていたらしく、日はほぼ南中の高度まで登り詰めており、車の中も心持ち暖かい。朝には眩暈を覚えるほど積もっていた雪も随分と融けたらしく、外は未だ一面銀色ではあったが、枝の上の雪は殆ど落ちていたし、ドアを開けてみると全開まで開くようになっていた。
 しかし、冬の日は南中から五時間で潰える。
余り悠長にこんな所で腐っているわけには行かない。私はとりあえず鞄にチョコレートの袋を突っ込み、黒の毛布一枚だけをダウンジャケットの上から防寒着代わりに羽織り、マフラーで確りと首元に入る風を防いでから外に出る。風は幸いながら無く、雲も相変わらず空には二欠けほどしかない。
 車は迷いに迷った挙句、一人でこの雪道の中を押してゆく訳には行かなかったのでその場に置いていくことにした。下山した後で業者なり何なりに取りに来てもらえばきっと大丈夫だろう。サイドブレーキは掛けたままにはしてあるものの、雪で勝手にスリップして落ちたりしないといいが。
 最後にもう一度だけ車の姿を顧み、車が泰然としてそこにある事を検めた後、急いで山の道を下る。こんな事になるならば普通のブーツになど足を突っ込まないで置けばよかった。上半身はまだしも、足元が寒い。ざくざくと音を立てつつ凍り始めた雪を踏みしめる度に、ブーツの中に雪混じりの水が入り込んで、足の感覚と体温を急速に奪ってゆく。
 巻いたマフラーを口元まで引き上げ、私は寂しさ紛れに空を見上げて歩いた。
 
 何時間歩いただろうか。
 時間の感覚はおろか手足の感覚も無くなり、足を動かすことすら出来なくなって、私は雪道の端に座り込んでいた。俗に言う低体温症と言う奴なのだろう、体は冷え切っているにも拘らず震えもなく、ふと胸に当てた手はどうにも不可思議な鼓動を感じる。眠ると死ぬという言葉を頑迷に信じて意識は何とか覚醒させているが、景色は霞み暗くなっている。
 視界が見る見るうちに暗くなり、感覚がじわじわと失われ行く中で、首元のマフラーの感覚が、何故かとても鮮明に感じる。それはあの事故で皆が外に放り出され死んだ中、たった一人生き残った私を責めているようであり、逆に救おうとしているようでもあり。どちらを信じれば良いのか分からず、何故か涙が零れ落ちた。その涙すら氷のように冷たい。
 心の底から絶望し、愈々意識を取り留めるのも難しくなりかけた、そんな時のことだった。
 「だい……ですか……大丈夫ですかっ?」
 耳元に響く、玲瓏たる女声。熱を帯びた声と呼気を当てられ、はっと我に返った私は緩慢に視線を上げる。一瞬死んだ妻の幻覚でも見たのかと思ったが、肩をしっかりと掴まれている感覚に意識を何とか覚醒させてよく目を凝らすと、違った。極僅かな違いだが、長く妻を付き合ってきたのだから、私には分かる。
 ——違う、今はそんなことを考えている場合ではない。
 頭を振って錯乱しかける頭を確りさせ、私は気力を振り絞り、辛うじて人に聞き取れるほどの声を何とか絞り出した。
 「誰か——」
 私の声に限界まで耳を近づけた女性が、無言のままコートのポケットからわたわたとしながらスマートフォンを取り出して一一九へと電話を繋げる。その時一瞬垣間見えた待ち受け画面の、目を瞠るほど色鮮やかな取り取りの紅葉の画像を最後に目に焼き付け、ふつり、と私の意識は途切れていた。

 「再婚早ッ!? おま、ちょ、まだ亡くなって半年だぜ、そりゃあ幾ら何でも奥さんに失礼だろ……しかもあのマフラー、お前の命の恩物だろうが……処分ってお前な」
 あの時チョコレートの詰め合わせを押し付けた、あのお節介な友人の声が相変わらず耳に痛い。相変わらずのお節介さに思わず苦笑を浮かべ、私は「別にいいじゃないか」とだけ返し、前妻に良く似た妻の肩に手を置く。妻はそれに抵抗せず、寧ろにっこりと快活な笑みを浮かべて頭を預けてくる。
 「私の命の恩人なんだよ、お互い惹かれあうところも在ったことだし。マフラーはまたこの妻に編んでもらうさ」
 「はァ——お前、仮死して頭がおかしくなっちまったのか?」
 心底呆れたような声に、私はまた苦笑する。
 「かもな。否、元々から頭が可笑しいのかもしれない。何しろあの日、二人共死のうとしていたんだからな」

 <fin>

 伏線は回収したつもり。
 短編がうまく書けぬ(´;ω;)

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.14 )
日時: 2011/12/27 09:20
名前: 雨子 ◆N0LvqHQqO2 (ID: b5YHse7e)

わお。素敵な短編ありがとうございました!

伏線にドキッとしました…

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.15 )
日時: 2011/12/28 03:50
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: JSaR90tz)

>>14
雨子様

コメントありがとうございます。

素敵……素敵なんていい響きすぎる……!!
やたらと分かりにくい伏線でしたが、気付いていただけて何よりです。
……あれ、気付いてない? アレですよアレ。

【マフラー】という御題から随分と外れたモノになってしまいました。今此処にてお詫び申し上げます。

コメントのほう本当にありがとう御座いました。
重ねて感謝申し上げます。

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.16 )
日時: 2011/12/30 08:29
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: JSaR90tz)
参照: 死ネタを含有しています。割とグロ注意。

【死から生を学ぶ】(No315様より)
 瓶の割れる音。響き渡る悲鳴。喧しいサイレンの音。携帯の着信音の暗い響き。
 転がり落ちたのは五百ミリペットボトル相当ほどの硫酸の瓶。激しく上がる白煙。
 「ギャァァァァアぁアアァァアアアああッ! あがっ、ぎイぁああッ、あァァアアアアアアッ!」
 常人が聞けば間違いなく気分を悪くする、音程も何もない、トチ狂った滅茶苦茶な叫び声。押さえつける手を撥ね退ける勢いで暴れる手足。手や足がベッドに叩き付けられる度にこびり付く血。噎せ返るような血の臭いや、肉の焦げるような、病院では殆ど嗅がない異臭。
 医者になって三十年、何百回何千回と見慣れた光景ではあるが、何時見ても慣れない惨状が、今日もまた目の前に広がっている。それでも私は平静と無表情を貫き、傍らで補佐をする看護士に指示を飛ばしながら、ベッドの上で暴れまわる男の肩を押さえ付けて鎮痛の魔法を掛ける。治癒の魔法は徒に苦痛を増すばかり、既に医師の手も無意味だ。
 沈静魔法を続けて何度か掛けると、男の悲鳴は収まり、笛を吹くような喘鳴が病室を席巻する。
 それから数分で、男の息は絶えた。顔も手足も硫酸によって概ね溶け崩れ、ベッドの上には半ば溶かされかかった臓物を広げた、見るも無惨な、絶対になりたくない亡骸を一つ残して。
 そうして首元に溶け残った金の十字架は、血に塗れ、嘗てこの国で起こった宗教戦争の焼け跡、瓦礫に挟まった悲惨な有様を投影しているように見えた。私自身両親をその宗教戦争で亡くしているが、そんな幼い頃の記憶と、状況はそっくりだ。信じた道の為に人は死んだ。後に残ったのは血の海に沈む十字架と虚しさ。
 「午前一時十七分二十二秒。硫酸による全身火傷及び脱水症状による死亡」
 私の声は、酷く冷たく聞こえた。

 声が絶え、息も絶えて森閑とした最中、死亡診断書作成にあたり黙ってカルテを纏めていた看護婦、クレアの責めるような視線が痛い。視線に応える私の声は何処か自嘲の響きを帯び、肩を竦める動作もまた自虐を含んだ。
 「そんな目で見なさんな、クレア。どんなに医療が進んだって限界がある。高望みは崩壊に繋がるよ」
 「分かっています。わたしもこの状況ではこれしか道は無いと思います。ただ……」
 言いにくそうにクレアは少しだけ口を引き結び、促すと、如何にも苦々しい表情で声を上げ返してきた。
 「ただ、何時見てもシルヴ先生が平然とした顔をしているのが気になっただけです。分かってるんですよ、医療関係者は常に平常心でいなきゃいけないことは分かってるんです。でも、この最中でああも冷静な顔を出来る人は、そんなにいません。仮令それが取り繕ったものだとしても」
 「陰惨な現場は医師だけのものじゃあないんだよ。自慢じゃないが私は王族呪医、つまり最低でも五年は兵役に就いていたのだから、そこでも少なからず阿鼻叫喚の巷にはつき合わされている。それに、人生五十年も生きていれば人の死にはそれなりに立ち会うものだ。厭でも取り乱さなくなるさ」
 私の声に説得力はあったか否か。クレアは納得していない表情では遭ったがそれきり何も言葉を発そうとはせず、ただ沈痛な面持ちで懐中時計とカルテを見比べていた。気まずい空間がただただその場に広がる。
少しだけ、補足をしておいた。医師としての私以前に、人間としての私を。
 「私は只の人間だが、生まれは龍の峠なんだよ。昔からあの峠は色々な戦の激戦地帯に成り易くてね、四十年前のベネトナシェ宗教戦争の記録的激戦区でもあった。そこで随分と人の死を見せ付けられてきたものさ。爆死、轢死は当たり前だし、餓死も、凍死も、病死も勿論だ。人の死について慣れてしまうのも無理はない」
 「そんな修羅場に立ち会ったこと……確かに、今の医師にはありませんね」
 気圧されたような響き。私は畳み掛ける。
 「だからこそこの平静で、だからこその非信仰者さ。人が何かを妄信するからそこに齟齬が生まれ、そうして各々思想が擦れ違うから其処に非道と死が齎される。私は敬虔な宗教者の家系に生まれ育ったが、あの戦争以来宗教の門を叩こうなんて思ったことは一度もないね。なぁクレア、人の死に様って言うのは色んなことを教えてくれる」
 ——良きにつけ悪いにつけ、幼かった私は死から生を学んだ。だからこそ今の私があり、今の考えがあるんだよ。
 クレアは私の出した結論に黙って頷いた。

<fin>

 みっじけぇ……改めて段落つけるとホントみじけぇ……;
 因みに、王族呪医に関しては「王様が召集した直属のお医者さん。因みに魔法使えます」といったような人達だと思ってください。
 後で設定をうpしておきますね。

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.17 )
日時: 2011/12/30 08:25
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: JSaR90tz)
参照: http://onedaysay.blog27.fc2.com/blog-entry-3.html#more

↑が「王族呪医」に関する設定を早速うp。
見れば分かりますが、他に書いている小説と少しリンクしています。


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