複雑・ファジー小説

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「私は去ります。さよなら。」 ——曖昧模糊な短編集
日時: 2012/02/09 23:45
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: 5E9vSmKZ)

 おはようございます。こんにちは。或いは今晩は、はじめまして。

 N.Clockことトケイバリと申します。
 別名「雑踏(L.A.Bustle)」とも「サクシャ(SHAKUSYA)」とも言います。知ってるヒト多分居ないでしょうケド。


 さて、スランプに陥ってしまい小説が書けなくなりました。

 よってこのスレはまた短編熱気が再来するころにもう一度上げます。

 これまでのご支援及び御題・キャラクターの提供をしてくださった皆さん、ありがとうございました。


 

Thank you for watching my novels.

See you next time.

Bye-bye.

Re: 「さあ皆、鬱になれ」 ——曖昧模糊な短編集 ( No.3 )
日時: 2011/12/17 20:55
名前: N.Clock ◆RWBTWxfCNc (ID: JSaR90tz)
参照: 分割① まだ本題には入ってません

御題:【微笑みと嘲笑は紙一重】(結城柵様より)

 ポーカーフェイス、と言う頂けないものが、この世には存在するらしい。
 友人から聞いた話からパソコンで調べてみると、<ポーカーで手札を悟られまいと無表情を装うことから>『表情を変えないこと』『無表情な顔つき』……(goo辞書より引用)と言うような意味の言葉で、具体的には『何を考えているのか傍目からでは分からない』顔がそうだと言う。
 それは所詮言葉に過ぎないから別に良い。頂けないのは、その顔を誰かに例えるならば——
 オレの彼女、ホノカの顔だと抜かしやがったところだ。
 確かにホノカは神出鬼没だし、言動がいつもふわふわひょろひょろしていて掴み所がない。話す言葉にも謎や妙な含みが多く、オレのように心中をありのままさらけ出しているような感じはしない。だからと言ってそのポーカーフェイスなる謎めいた顔にホノカの顔が当てはまるかと言えば、オレは違うと断言する。
 言葉はひねくれているが、顔は実に正直なのがホノカだ。真のポーカーフェイスなら表情で手札を読まれるなぞと言う失態はしないだろうが、ホノカの顔はカードを一枚引くたびに色々な表情を浮かべてオレにあっさり手札を読ませてくれる。お陰でカードゲームは負け知らず、件のポーカーでも凹むほど負けたことはない。
 しかし、そんなオレの常勝が他の人には信じられないらしい。
 「おかしい、アンタ絶対おかしい。どうして仄の顔から情報が読み取れるの? あたしなんか十回対戦して十回とも負けたのよ? 仄ったら、何引いてもどれ選んでもずっとニコニコしてばっかりだし、心理戦を嗾けようと思って声掛けてもずーっと同じ顔だし……何かおぞましくてさ、仄とポーカーするの諦めちゃったくらいなのに」
 青くなって声を張り上げるのは、ホノカの友人ことチエ。が、彼女のポーカーフェイスをいくら力説されたところでオレは不思議でしかない。
 「そーかぁ? フルハウスが出ただけで喜色満面、ブタが出たら意気消沈、それこそ読み合いのテーブルであんなに表情豊かな奴って凄い珍しいと思ったんだけどな。オレはホノカが他の人と勝負してるところを見たことがないから分からんけど、それってチエの眼力が無さ過ぎるだけなんじゃねぇの?」
 「失礼ね、これでも路上で人引っ掛けて負けたら五十円支払うポーカー勝負してよ、それで一日分の弁当代巻き上げてあたし生きてんのよ? 人間観察は趣味の欄に書けるくらい習熟しちゃってるし、人を見る眼はあるつもりですー。仄とアンタがおかしいの、だから!」
 人間観察なぞと言う不気味な趣味をそんなに習熟してほしくないし、路上で賭け事も止めてほしいし、その言い方も癪に障る。流石にムッとしたオレは思わず眉を顰め、少しきつい口調で言い返してしまった。
 「おかしいおかしいって、お前こそ失礼だろうが人を何か物狂いみたいな感じで言いやがって。そんなに言うなら今度ホノカと会うときに目の前でポーカー勝負してやるよ。何度も言うけどアイツは読み合いのテーブルの上じゃ弱いんだって。お前が素人ばっかり引っ掛けてるんだろうが」
 「じゃあ、アンタ負けたら貶すからね」
 「よかろう。なら、オレが勝ったら弁当代巻き上げるぜ?」
 「べっ…………むうううッ、良いわよ、分かったわよッ!」
 何とも突拍子だったが——
 こうして、立会人にチエを置いたホノカとのポーカー勝負は明後日に決まった。

 「やっぽーいシンー……って、あれ? どしたのーチィちゃんまで一緒にー。シン、さてはチィちゃんに目移りした? それとも今日って何か特別な日だったっけ? あ、それとももしかして、チィちゃんずっとあたしにポーカーで勝てないからシンが怒っちゃったとか。その様子だとそうかな」
 待ち合わせした場所にアーガイルチェックのポンチョとワンピースという暖かそうなのか寒そうなのか良く分からない格好でやってきたホノカは、暇つぶしに二度目のババ抜き(一度目はオレが勝った)をしていたオレとチエを見て勝手に疑問を呈し、自分の中で勝手に納得してそのまま観戦体勢に移った。
 天然で何も考えていないように見えるくせに、他人のことには妙に聡い。彼女の方から告白を貰い、そのままオレも惹かれて付き合い始め、今かれこれ三年くらいになるが、未だにホノカがどういう人間なのか分かってない部分が多い。そもそも家にすら上がらせてもらったことがない(……きっと動物とぬいぐるみで溢れかえってるだろうけど……)。
 「う゛……」
 切羽詰ったようなチエの声で我に返った。
 気付けば、今の今まで手札の中にあったジョーカーが無い。暫く放心していたからジョーカーを手に取られても顔が変わらなかったのが功を奏したようだ。オレは余裕綽々で我に返った瞬間に見えたジョーカーの行く末を眼で追い、さっさとペアになるカードを抜いてババ抜きを終わらせた。
 「何よ、やっぱりアンタも強いじゃない」
 「別に、オレはぼーっとしてただけだぜ」
 オレの返答にチエはちょっと凹んだようだった。
 しくしく言いながら素早くカードを切り始めるチエを尻目に、ホノカはのそのそとオレの隣に腰を下ろして肩に手を載せ、そのままオレに椅子の背凭れに寄りかかるような感じで体重を掛けてきた。
 彼女はオレのことを自分が体重を預けるにふさわしい物体のように考えているかもしれない。だが、オレは一応ホノカを人間と考えて此処に座っている。そして今此処は公園のベンチであり、今目の前では子供と親が縄跳びを繋げて大縄跳びをしている。……要するに子供の目の前でこの構図が恥ずかしいってことだ言わせんな恥ずかしい。
 「ホノカ、オレのことなんだと思ってる?」
 「男。彼氏とも思ってるよ?」
 ……的確なんだか的確でないんだか。


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