複雑・ファジー小説

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マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女—
日時: 2012/11/11 00:12
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
参照: http://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n4373o/

お初にお目にかかります、電式です。
小説家になろうでも投稿させていただいている、
「マジで俺を巻き込むな!!」を、
こちらでも転載させて頂くことにしました。

本家の小説家になろうでは、
長時間の読書に配慮したデザインと、
閲覧耐久レースな挿絵を公開しています。
気になった方はぜひ。
(これ以上は宣伝になるので……(^^ゞ)

ここのサイトに関しては、
右も左もわからない初心者ですので、
私の変な挙動を見たら、それとなく教えて下さい。
電式、ちょっと忙しい学生なので、
更新ペースはご容赦願います。

******

バーチャル・リアリティが発展した、
シミュレーテッド・リアリティ(仮想現実)世界での物語。
笑いあり、シリアスありの世界を、毒舌主人公の視点でお楽しみください。

よくありそうなQ&A

Q.この話のどこが仮想現実なの?
A.始まりからすでに仮想現実のお話


INDEX

プロローグ 

1.井の中の蛙 >>1


第1話 計算式の彼女

1.祟り >>2-3
2.黒煙 >>3-5
3.傍観者 >>8-10
4.特集と日常 >>11
5.重なる怪事件 >>12
6.カレー30% >>17-18
7.白の彼女 >>19-21
8.論理エラー>>23-25
9.不意打ちの彼女>>26-27
10.猫>テスト >>29-31
11.役得である。 >>32-34
12.カツアゲにしか見えない >>35-36
13.おしぼり >>37-38
14.監視 >>39-41
15.危機一髪 >>42-43
16.詰問 >>44-46
17.やっぱり春だった >>47-48
18.どう考えても、電波。 >>49-52
******
感想・コメント

——おこのみやき さん——

>>6-7

作品
それは恋のはじまり。
キミがくれたもの。


——ゆぅ さん——

>>13 返信>>15
>>22 返信>>28

作品
幻蝶
推理のあとは走り出す。

——蒼 さん——

>>14 返信>>16

作品
彼らの旅〜FROM SPECIAL SCHOOL〜


関連作品は、電式が個人的に判断しています。
作品が間違っている場合は、電式までご一報ください。
修正します。

コメントは随時歓迎しています!

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.4 )
日時: 2012/04/22 23:34
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)


第1話-2 計算式の彼女 黒煙 1/2

******

 学校に着く時には、6月中旬だというのに、フライング気味に始まった初夏の暑さのせいで、額にうっすらと汗が滲み出ていた。登校中の他の生徒とともに校門をくぐり、下駄箱で上靴に履き替える。

 下駄箱で靴を履き変える度に毎回思うのだが、なぜわざわざ下靴からほぼ学内専用仕様の上履きに履き替えるのか、その意義が分からん。しかもやたらとキュッキュキュッキュうるさいし、変にグリップ性は高いし。大体、「廊下を走るな!」と教師陣が廊下で追いかけっこしている男子生徒をよく注意するが、それならそんなハイスペックな上履きを履かせんなって話だ。走り屋にスポーツカーを与えるのと一緒だ。全校生徒に下駄なり草履なりスリッパなりを履かせりゃ、走りにくいから廊下を走る生徒はゼロとはいかないが、かなり減ると思うんだがな。

 下駄と草履は冗談だが。歩く度にカラカラと音が鳴るんじゃ、耳障り過ぎるし。まあ、スリッパはスリッパで、蹴り飛ばして遊ぶガキ生徒がいそうな気がする。“明日の天気を占うぜ!!”とか言ってな。蹴り飛ばして普通に落ちたなら晴れ、ひっくり返ったら雨、横に落ちたら曇りとかそんなんだったような。てか曇りとか無理だし。全員が全員じゃないが、そういうおめでたい奴もいるわけで。まあ、一番いいのはそんな危険な生徒を教師が粛清してくれることなのだが……生徒の親がバケモンだったときのリスクとか社会的な世論云々考えると非現実的である。親がバケモンで市議会議員とかやってたら目も当てらんねえしな。


 そんなどうでもいいような、どうでもよくないようなことを考えながら教室のドアを開けると、冷房の効いた空気が足元を流れ出た。ひんやりとした空気が無駄に逃げないよう、さっと入り、ドアを閉める。これはクラスメイト内では暗黙の|了解《マナー》だということは、どこの学校でもそうだろう。

 ふう〜、生き返る……汗が急速に冷却され、氷漬けにでもされたような感覚になる。オハヨーとか、うーっすとか、まあそこらの適当な挨拶をクラスメイトと交わし、鞄を机の横に置いて、俺の|座席《オアシス》に座る。今日もここで何が面白いのか見いだせない授業を延々と聞いて、板書を写すってわけだ。まあ、こんな言い草をしてるが、成績はほぼ平均辺りをさまよっている俺だ。勉強してない訳じゃない。


「はぁー……」


 特に意味もなくため息をついて、机に突っ伏す。散々寝たため頭はすっきり爽快どころか、むしろ不愉快さを感じる。というのも、突っ伏した状態では周囲の情報は聴覚のみしか入って来ない。聴覚から出来るだけ多くの情報を引き出そうと脳が躍起になり、無意識的に耳の感度が上昇する。結果、どうでもいいような物音が脳に鋭く刺激し、それが不愉快さの原因になっている。なら突っ伏すなといわれたらそこまでなのだが、この行動は毎朝同じように続けている流れ作業的な習慣であるから、いつもと違う行動を起こすと、どこか違和感が生じてしまうわけで。


「オッス、コウ!」


 そんなこんなでしばらく突っ伏しているとジョーが陽気に近づいてきたのが音と声で分かった。なんか応対するのが、けだるい。明確な理由は分からんが、今の不愉快な感情をジョーに八つ当たりしてるのか、なんかイラッとくる。俺の反抗期はとっくの昔に終了したはずなんだがな……
 まあ、俺に多少の気分屋気質があるのは否めない。とりあえずここは仮眠中ということで通させてもらおう。


「…………。」

「毎度同じく就寝中……か。おいこらコウ〜、起きろ〜!」

「…………。」


 ジョーが俺の頭を拳でドリルよろしくぐりぐりとしているのだが、無視。けだるさが抜けるまでこのままにしてくれ……


「……痛って!」


 ところがそう思った瞬間に頭部に人のものとは思えないような強烈な打撃を受け、思わず声を上げて飛び起きちまった。


「……やっと起きたわね、コウ。はぁ、あんたは学校を寝床か何かと間違えてるじゃんないの? 睡眠ぐらい家でとってきたら?」


 そんな女子の声がして見上げると、メガネをかけた|木下千賀《キノシタ チカ》、通称チカがいた。人物紹介をすると、俺の友達の一人で、性格はやや活発。髪が波打っていて、クセ毛なのは生まれつきだそうで、本人曰く「私、ストレートヘアの遺伝子を持って生まれたかった」とのこと。本人は納得してないが、俺的視点から言えば、今のヘアスタイルの方が雰囲気的に似合ってる。一度俺が、金出してパーマかける奴もいるんだから、そいつらから見れば、ストレートになりたいとは贅沢な悩みだな、と言ったことがある。

その瞬間にチカの目の色が変わったね。鬼に。

「あんた、私の悩みなんて分からないでしょ!? 髪の手入れは面倒だし、櫛は髪にすぐ絡まっちゃうし、朝は寝癖が直らなくて地獄!分かる!?」

と、チカを慰めるつもりが逆に逆鱗に触れたらしく、結果的に俺はぶっ飛ばされた。髪の質で悩んでるやつに軽率な発言は慎むべきだと学習したよ。そんなどこにでもいそうないなさそうな感じのバイオレンスな女子。

 で、どうやら俺はこいつから肘打ちを食らったらしい。俺は今の衝撃で死滅した脳細胞を弔うように頭を抱えつつ答えた。


「どこで誰が寝ようが勝手だろうが……」

「あ〜もう、そーゆー気だるさ満点の態度を見てると、こっちまで気だるくなってくるじゃない!」

「今日に始まったことじゃねえだろ……」

「これから毎日今日みたいに起こしてやってもいいんだけど?」

「……喜んで遠慮させていただく」


 今日のような衝撃を毎日食らうようじゃ、そのうちボケてきそうだ。俺はチカの近くにいるジョーに視線を合わせる。


「で、俺を起こしてまで言いたかったことって何だ?」

「いや、昨日の停電すごかったな、って」

「たったそれだけかよ……」


というか、すごい停電って何なんだよ。

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.5 )
日時: 2012/04/22 23:36
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)


第1話-2 計算式の彼女 黒煙 2/2

******


「ん? なんか言った?」

「……いいや、何にも。昨日のアレは、すごいというか、まあ、災難だったな。携帯は繋がらなくなる、テレビも見れなくなる、挙句の果てには停電だ。しかも携帯とテレビに関しては、どっかのアホが相当強力な|電波妨碍《ジャミング》を仕掛けてきたらしい。迷惑な話だぜ、まったく」


 一時間目の始業のチャイムが鳴った。だが、一時間目の担当の先生はまだ来ていない。生徒はチャイムで動くというより、先生が来てから動くことの方がよっぽど多い。そういうわけでチャイムが鳴っても、席につかず友人とだべったりふざけあったりしている生徒が多く見受けられる。俺たちも例に漏れずその一部なのだが。


「あたしは数学の宿題してたら急に真っ暗になっちゃって。しばらく電気が元に戻るのを待ってたんだけど、なかなか復旧しなかったでしょ? 今日提出の宿題も結局できずじまいで学校に来たのよ」


 俺はチカの席に目をやる。机の上には数学の教科書とノートが広げられているのが見えた。俺はこんな面倒なものはさっさと終わらせちまったからあわてる心配はない。俺にとってはチカの宿題なんてどうでもいいことなのだが、一応言っておくことにした。


「宿題ができてねえのに、俺たちとこんなくだらない話してて大丈夫なのか?」

「数学の授業は午後からでしょ? まだ時間があるから大丈夫じゃない?」

「『じゃない?』って聞かれてもだな……俺は知らん。どうせそうやって余裕かましてたら『想定外の出来事が〜』って事態になるのが関の山だ」

「想定外? たとえば?」

「例えばだな……」


 俺が例を挙げようとした時、教室のドアを開ける音が聞こえてきた。入ってきたその男性教師——俺のクラスの担任は、教壇の前に立った。


「今日の一時間目の国語が突然の時間割変更で数学になるとか、な」


 俺がニヤリと笑ってチカを見上げると同時に、担任はパンパン、と大きく二回手を叩いて生徒の注意を引いて言った。


「よ〜し、お前ら席に就け! 今日の一時間目の国語担当の三村先生は急用で遅れてくるとの連絡が入った。そういうわけで、国語と数学の時間を入れ替えることになった」

「ぇ……ええええ!?」


 チカは目が点になり、サァーっという効果音が聞こえてきそうな勢いで顔を青くする。ほかの生徒からも一部、不満の声が上がった。不満を上げた生徒もおそらく昨日の停電で宿題ができなかったか何かでまだ未完成なんだろう。


「ま、命運を祈っておく。頑張れ」


 チカは慌てて自分の席に戻って宿題を大急ぎでやるという悪|足掻き《あがき》を始める。そんなことしてもすでに手遅れなのは目に見えてるわけだが……本人からすりゃ「やらないよりかはマシ」ってやつだろう。


「ジョー、お前は宿題、大丈夫なのか?」

「俺は宿題は出された当日に全部仕上げてるから。 もっとも、提出日にそれを持ってくるのを忘れることが多いけどな」

「そりゃかなり惜しいな……で、今日はちゃんと持ってきたのか?」

「ああ、持ってきたさ。……多分」

「ハハ、こりゃまた自信のない返答だな」

「おっし、|牧田《ジョー》、席に就こうか」


担任の注意する声を聞いてジョーはそれじゃまた、と小走りに自分の席へ駆けていく。

 そうして始まった一時間目。周囲を見渡せば、授業の板書を写しながら、裏で宿題も仕上げようと企むチカをはじめとする曲芸師が何人かいる。教壇に立って一段高いところから教室を見下ろす担任には、その様子がしっかりと見えているらしく、「宿題は家でやるもんだろ……」とポツリ。普段はそんな曲芸師はあまりいないのだが、停電の影響で今日はいつもよりも多いようだ。

 一方、ジョーはというと、さっきから何やらカバンの中をがさごそと探している。どうせ宿題でも忘れたんだろう。俺がそう思ったと同時に、一冊のノート——数学の宿題のノートと思わしきものをカバンの中から引っ張り出し、ジョーは安堵の表情を見せる。

そんな感じで授業は進み、一時間目終了10分前に差し掛かった時だった。


「『(x−a)^2+(y−b)^2<r^2』の表す領域は、この円Cの……」


 突然、雷が鳴り響いたような重低音が響き、教室の窓がカタカタカタと鳴った。あまりの不意打ちな音に、公式の解説をしていた担任の声が詰まる。何、何が起こった、と生徒が騒ぎ出して教室の窓に詰め寄る。担任も窓に詰め寄ってその音源を探しだす。俺も気になったので自分の席を立って窓の外を眺める。

 ここから見えるはるか遠方で、黒煙と巨大な炎でできたキノコ雲が上がっているのが見えた。
まさか……核戦争か!? ……な訳ないか。それにしちゃ規模が小さすぎる。
 北の将軍様謹製の核ミサイル(粗悪品)でもこんな爆発はしないだろう。いったい何が燃えているのかは分からんが、遠くでキノコ雲が上がった場所から今度は黒煙が連続的に上がっている。どうやら、何かが爆発して火災が起きたらしい。教室からでは、「爆発した何か」が一体なんであるのかは特定できない。だが、爆発の衝撃がここまで届いたことを考えると、相当ダイナミックに吹っ飛んだらしいということは分かった。


「はいはい、お前ら、もういいだろ、あとちょっとで授業も終わる。早く席に就け」


 担任に催促されて渋々自席に戻って筆記用具を持つ生徒。昨日、今日と二日続けてこんなビッグイベントが開催されるとは、この街も話題的にホットな場所になりそうだ。

……悪い意味で。

マジで俺を巻き込むな!! ( No.6 )
日時: 2012/04/23 20:19
名前: お好み焼き ◆nk9AoDkbaU (ID: cMSoX1Ah)
参照: http://daisuki*okonomiyaki




初めまして!
「お好み焼き」といいます。


スミマセン、
まだ途中までしか読めていないのですが・・・。

すごいお上手です!!
私とはもうレベルが違いすぎて((泣
これからも応援させて
頂きます!!(^^)
更新頑張ってください*

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.7 )
日時: 2012/04/24 18:14
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)

お好み焼きさん

はじめまして。コメントありがとうございます!

文字がひと塊で見た目ブワァ〜って感じなので、
確かにサラっと読むにはあまり適していないですよね……

第1話(章)だけ書き直した経緯があるので、異常なクオリティです。
第2話以降は安心の下手っぴです。
総文字数60万文字以上と、まだまだ未投稿な部分が大量にあります。

投稿が大変だ〜^^;

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.8 )
日時: 2012/04/24 18:41
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)

******

第1話-3 計算式の彼女 傍観者

******

 一時間目の授業が終わり、俺は教室の窓際に立って、もくもくと上がる黒煙が風に乗ってこっちに流されてきているのを眺めていた。

 俺が通うのはどこにでもあるような平凡な高校だ。特に自慢できるような偏差値の高校ではないが、世間的に評判が悪い不良高校というわけでもない。
 
 代わり映えのない授業。休み時間になれば、ありふれた喧騒に満ちた校内が展開される。ちらりと辺りを見回せば、そこらでキャッキャと騒いでいる者、上靴の悲鳴を響かせながら廊下を走り回る者が見える。対照的に、読書にいそしむ者、携帯をいじっている者も結構いる。このように休み時間の使い方は人それぞれで、周囲の目を引くような奇行に走る人間は、俺が認知する限りにおいてはいない。

 俺か?

 俺は普段は机に伏して窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、ただただ早く学校終わってくれと念じている。そんなヒマ人間だからこそ、こうやって遠くで起きている大惨事を傍観してるわけで。

 チカはずっと机にかじりついて宿題をしている。結局、一時間目の授業で回収するはずだった宿題は回収されず、担任は身軽な状態で教室を後にした。宿題のことをど忘れしてしまったのか、もしくは昨日の停電のことを察してわざとそうしたのかは分からない。だが事実、担任はそれを回収せずに教室を出て行ったもんだから、チカが安堵しないわけがなかった。



「海風か……」


 俺は特に意味もなく、独り言を呟いた。陸地と海では、太陽光が当たった時の温まりやすさが違う。一般的に、陸地は暖められやすく、海は暖められにくい。空気は、暖められると上昇気流を作る。そのため、暖められやすい陸地では上昇気流ができ、周りの空気を吸い込む。そうやって出来上がるのが海風だ。夏は特に日の光が強いため、その傾向が顕著に表れる。


「なんか焦げ臭いな……」


 ジョーが俺の隣に来て俺と同じく窓の外を眺めた。顔をしかめて遠くにある煙の発生源をじっと見つめながら、話しかけてきた。いや、焦げ臭いって、俺に言ったって仕方ねえだろ。


「なあコウ、これってもしかしたら石油かなんかが燃えてるんじゃねえか? なんかそれっぽい臭いがするしさ……」

「そうかもな……」

「そういや隣のクラス、次の授業体育だってさ。こんな石油臭い中体育って、かわいそうだな、なんか」

「じゃあお前も隣のクラスと一緒に体育するか? 苦しみを分かち合うというコンセプトで」

「それは……遠慮しとく」


 それからすぐに2時間目を知らせるチャイムが鳴り、先生が入ってきた。次の先生は板書してから消すまでの時間がえらく速い先生で、みんな必死で板書しているのだが、教室のクーラーから外の石油の臭いが教室の中に侵入し、それがまたどんどん臭いが濃くなっていくもんだからやってられん。先生も「焦げ臭い」と、顔をしかめている。途中、高校の前をサイレンと半鐘をせわしなく鳴らし、猛スピードで公道を駆け抜けていく消防車が窓から見えた。

 授業中、廊下が急に騒がしくなった。どうやら隣のクラスの体育の授業が中止になり、教室の鍵が開けられるのを待っているらしい。あまりにもうるさく、必死に板書をとっていた俺たちが一堂に嫌な顔をするのを先生が見るや否や、教室から廊下へ身を乗り出し、「授業中だから静かにしなさい」と注意。まあ、先生から怒られれば多少の効果はあるもんで、完全とまではいかないが、外の喧騒はずっとおとなしくなった。今回は俺たちが嫌な顔をしたが、立場が逆転したとしたら、俺のクラスが廊下で騒ぐ確率ははほぼ100%なので、どっちもお互い様といったところだろう。

 そんな二時間目の授業終了チャイムが鳴り、小休止の休み時間になった直後、校内放送がかかった。


≪休み時間中失礼します。現在、港区の石油精製工場火災に伴い、有害な物質が風に流されてきている可能性があるとの連絡が教育委員会よりありましたので、教室の窓を閉め、休み時間中はグラウンド、屋上には出ないよう、お願いします。繰り返します——≫


 ……やっぱ石油臭かったのはあの火災のせいか。さっきの体育の授業が中止になったのも、火災のせいと見ていいだろう。




「コウ、石油精製工場の火災だってさ」

「今聞いた」


 俺が机でボーっと窓の外を眺めてそんなことを考えていると、またジョーが現れた。
 チカの席を見やれば、数学の宿題をバリバリ解いている。運悪く担任が数学教師だからな、帰り際に「宿題提出しろ」なんて言われるかもしれねえ。まあ頑張れ。


「昨日、今日と何かと災難続きだな……」


 俺が遠くの火災現場を傍観しながらしんみり言うと同時に、そこからまた大きな火の手が上がった。それから数秒のタイムラグの後、ドーンという爆発音が響いて、また窓が震える。


 体育の授業が全面中止になる、昼休みの屋外退出禁止などのちょっとした事件はあったが、今日も一日比較的平凡に終わり、下校する時間になっても、火はまだ延々と燃え続けていた。

 明日の連絡をしに教室に戻ってきた担任は、「数学の宿題は評価に入れることにしたから、提出はまた後日連絡する」と、今回数学の宿題の提出を求めなかった理由を述べた。きちんと宿題をやってきた俺は提出が後回しになったのはいささか不満だった。
 というのは、何の理由があるにせよ、宿題をやってこなかった奴(チカとか、チカとか、チカとか)に猶予を与えるわけで、そもそも宿題をやる気のなかった生徒も、評価に入れると言われれば頑張るのは明確。せっかくやった奴とやらなかった奴の差が開いていたのに、その差を縮めることになるからだ。教師側の出来るだけ多くの生徒に高い評価をつけたい気持ちも分からなくはないが、やっぱ不満だ。

 下校はチカとジョー、それと俺の三人で、普段は授業が終わったら即帰宅なのだが、今日は俺たち三人揃って下校前に行かなければならない場所があった。
 「職員室」と書かれた白い小さな看板が吊り下がった扉の前で、俺たちは足を止めた。職員室の前には、俺たちと同じ目的で職員室に来たと思われる、十人程の生徒が既に並んでいる。


「……いちいち面倒くせえな、なんかもう並んでるし」


 俺は言った。
 俺の通うこの高校では全員が部活に入ることを強制されている。どこにでもある平凡高校の中でここだけがおかしなところである。部活推奨としておけば済むものを、なぜわざわざ強制にするのかについては、一応学校側の公式見解としては“それが、この学校の伝統だ”という説明が出ている。
 そこまで伝統にこだわる必要が果たしてあるのかと、俺はその説明に胡散臭さを感じずにはいられない。そもそも校舎は鉄筋コンクリートでできてるし、比較的新しい。規則が三日施行されたら伝統って言いだしそうだ、この学校は。
 で、その規則に則って俺も部活に加入している。何の部活かって?

 帰宅部。

 一般に部活しない奴を帰宅部などと呼ぶが、こちらでは学校公認の部活だ。定期テスト前は部活禁止で、帰宅部は帰宅できないという深刻、いや、命に関わる欠陥があるため、帰宅部部員はみな退部し、在校部という部活に入部する。こちらの部活の活動内容は、「帰宅しないこと」。

 部活が禁止されると在校部は帰宅しなければならない。帰宅部と在校部を入退部することで、結果、学校に残る必要がない。トンチ高校の異名はここからだ。


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