複雑・ファジー小説
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- マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女—
- 日時: 2012/11/11 00:12
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n4373o/
お初にお目にかかります、電式です。
小説家になろうでも投稿させていただいている、
「マジで俺を巻き込むな!!」を、
こちらでも転載させて頂くことにしました。
本家の小説家になろうでは、
長時間の読書に配慮したデザインと、
閲覧耐久レースな挿絵を公開しています。
気になった方はぜひ。
(これ以上は宣伝になるので……(^^ゞ)
ここのサイトに関しては、
右も左もわからない初心者ですので、
私の変な挙動を見たら、それとなく教えて下さい。
電式、ちょっと忙しい学生なので、
更新ペースはご容赦願います。
******
バーチャル・リアリティが発展した、
シミュレーテッド・リアリティ(仮想現実)世界での物語。
笑いあり、シリアスありの世界を、毒舌主人公の視点でお楽しみください。
よくありそうなQ&A
Q.この話のどこが仮想現実なの?
A.始まりからすでに仮想現実のお話
INDEX
プロローグ
1.井の中の蛙 >>1
第1話 計算式の彼女
1.祟り >>2-3
2.黒煙 >>3-5
3.傍観者 >>8-10
4.特集と日常 >>11
5.重なる怪事件 >>12
6.カレー30% >>17-18
7.白の彼女 >>19-21
8.論理エラー>>23-25
9.不意打ちの彼女>>26-27
10.猫>テスト >>29-31
11.役得である。 >>32-34
12.カツアゲにしか見えない >>35-36
13.おしぼり >>37-38
14.監視 >>39-41
15.危機一髪 >>42-43
16.詰問 >>44-46
17.やっぱり春だった >>47-48
18.どう考えても、電波。 >>49-52
******
感想・コメント
——おこのみやき さん——
>>6-7
作品
それは恋のはじまり。
キミがくれたもの。
——ゆぅ さん——
>>13 返信>>15
>>22 返信>>28
作品
幻蝶
推理のあとは走り出す。
——蒼 さん——
>>14 返信>>16
作品
彼らの旅〜FROM SPECIAL SCHOOL〜
関連作品は、電式が個人的に判断しています。
作品が間違っている場合は、電式までご一報ください。
修正します。
コメントは随時歓迎しています!
- Re: マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女— ( No.44 )
- 日時: 2012/07/19 18:24
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
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第1話-16 計算式の彼女 詰問
******
買い物は10分もかからなかった。俺が一人で暮らす分量でいいため、買うのはそれ相応のものでいい。俺は代金を支払い、レジを通過してカゴの中身を袋詰めにする台の上に置いた。
「コウが買い物しているとこ見てるとさ」
「ん?」
俺が周囲を気にしながらせかせかと手際よく袋詰めしている横で、チカはカバンを台の上に立て、それに乗っかかる体勢で話しかけてきた。俺は一時作業を止めてその顔を見る。チカは俺と目があった瞬間に笑って言った。
「おばちゃんに見えるんだけど」
「フン、黙れ」
おばちゃんの“ん”も言い終わらないうちに俺は苦笑気味に言い返した。お前のことだからいつか必ず言うと思った。想定の範囲内である。内心ドヤ顔でちょっと満足した俺は再び作業に戻る。チカはお茶をにごすように言う。
「別に悪い意味じゃなくてさ、主婦みたいだなって」
「それを言うなら“主夫”だろ」
袋詰め作業を終え、ビニール袋の口を縛った。チカは「これはあたしが戻すから」と空の買い物カゴを手に取った。ご親切に、と俺は片手に通学カバン、片手に買い物袋を持つ。
店を出た俺はチカに気付かれぬように周囲を見渡す。————やはり姿は見えない。俺は彼女を内心警戒しつつも、何も知らずに軽い足取りで歩いていくチカの横に付いて歩く。よっぽど沈黙が嫌なのか、チカの話がまた始まった。
「今日はちょっとやりすぎたかも」
「何が?」
「ジョーの財布。今日って金曜日なんだよね」
「お前それ分かっててやったんじゃないのか?」
ううん全然、とチカは首を横に振った。俺からすれば、まずありえない事象である。なぜか? 学校で机にへばりつきながらあと何日で休日が来るのかカウントダウンしているからだ。ちなみに俺的に一番テンションが下がるのは火曜日。月曜日で早くも疲労したところに残るあと4日のカウントは精神的にノックアウト寸前である。
「1日だけお預けするつもりだったんだけど」
「じゃあどうすんだよ。家まで返しに行くのか?」
「それだけのためにわざわざ行くのもなんかちょっと……月曜日でいいよね!」
「それでいいんじゃ……そういや」
そういえば、この前のジョーとの電話——あの停電前の電話でヅラ先の話題が持ち上がる直前、ジョーがテスト明けの土日に人気ゲームの新作が出るから並んで買うんだ、と鼻息荒くして言ってたような言ってなかったような。
「え、なんかあった?」
「アイツ、明日か明後日か新作ゲーム並んで買うとか言ってた気がする」
「えー! ちょっと待って、それ冗談じゃないよね?」
立ち止まり、驚いたような困ったような顔で俺を見つめるチカ。俺は平然と言った。
「いや、あくまで|気がする《・・・・》だけだ」
「ちょっと、そこ大事だから! ハッキリ言ってよ」
チカは俺の肩を両手でがっちりとホールドすると俺を激しく揺さぶる。ヘビメタのヘッドバンキングをしているかのように激しく揺れる俺の頭蓋骨。あまり激しくゆすらないでくれ! 脳挫傷で死んじまう! 殴られたり揺すられたり、俺の脳環境はまったくもって劣悪である。俺が家でゴロゴロして脳を休ませているのは多分正解だ。
「財布確かめたらいいだろ」
そう言うと、チカの俺を揺さぶる手が止まった。
「どういうこと?」
「ゲームの新作は決して安いもんじゃない。買おうと思ってるなら財布は肥えてるはずだ」
なるほど、とチカは声を上げ、早速カバンのロックを外し、ジョーの財布を取り出した。こういうのを勝手に見るのはあまりよくないが、他人の財布の中身というのはやっぱ気になるもんだ。それに、ジョー本人に電話かメールで直接聞いたほうが正確で早い。つまり、この方法を提案した理由は単純明快、ジョーがどれだけの財力があるか気になるからだ。チカは財布のお札入れから札を取り出した。すべて千円札だ。うおぉ、俺の心がときめいたね。
「うわぁ、この量だとあんたの話は本当っぽいね」
チカはちょっとこれはマズいことしちゃったかも、と言った。ジョーの財布の中は大量のレシートが入っている。ジョーはレシートを紙幣か何かと勘違いしてるんじゃねえだろうな? こんなに溜めこんで何がしたいんだ。こんなの出先のトイレでトイレットペーパーが空だった、という絶望的状況に陥った時ぐらいしか使い道ないだろ。レシートは水に流せねえから、その後の処理に困るし。彼のガサツさはこんな所でもあらわだ。
「とにかく数えてみようじゃないか」
チカは財布へ一枚ずつ千円札を戻しながら声を出して数えていく。1枚、2枚、3枚、4枚、5枚、6枚、7枚、8枚、9枚、10枚、11枚。——つまり11,000円+小銭。なるほど、結構高額である。新品のゲームの相場はだいたい5000円から高くても8000円だ。それを引くと残金は3〜6000円と、学生の財布の中身としてはちょうどいい値段になる。ほぼ確実にゲーム資金と考えていいだろう。
こんだけ余裕があるんだから、とりあえず俺の生活費の補助としてジョーの財布から1枚——伸ばした手をチカにパシンと叩かれた。
「それやっちゃダメでしょ」
「冗談だ、本気にすんな」
チカは影のある笑みを浮かべた。チカは軽く叩いたつもりなんだろうが、痛みのツボにはまったらしく、俺の手がジンジンと痛む。財布をカバンの中にしまい込もうとしたとき、ジョーの財布から1枚の白いレシートがこぼれ落ちた。
- Re: マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女— ( No.45 )
- 日時: 2012/07/19 18:26
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
「なんか落ちたぞ」
落ちたそれを拾い上げる。ジョーの家の近所にあるコンビニのレシートのようだった。“シュウカン(略)”…………俺はあまり多く語らんぞ。俺が落ちたと言ったのをチカは聞いていなかったようで、再び歩き出した。これは俺の善意で回収しておくとするか。レシートをそっとポケットに突っ込んだ。
「コウ……どうしよう」
「いやいや、自分で起こした火は自分で消せよ」
「今日中に返したほうがいいと思う?」
「本人に聞いてみたらいいじゃねえか」
「でも……」
チカは黙り込んだ。自分が勢いで取り上げてしまった手前、自分から返してやるとはなかなか言えない。そんな風に言いたそうな表情だった。俺が自ら進んで財布を届けに行ってやる、というのがチカの願望だろう。だが、なぜ俺が人の尻拭いをせにゃならんのだ。
「どうしても必要なら近いうちに向こうから連絡してくるだろ。言ってこなかったら月曜に返せばいい」
「あのねぇ……」
チカは俺に若干睨みをきかせる。
「それで買えなかったらあたしの良心が晴れないでしょ! アイツ見た目バカだけど、中身結構シャイなんだからさ……」
「学校出る前もチラっと言ったと思うが、今日明日は家事の後始末でやら先約やらで忙しいから力にはなれんぞ」
俺がそう言うとチカは肩を落とした。携帯電話を取り出して着歴をパッと確認して仕舞う。俺も同じように着歴を確認したが、ジョーからの連絡はなかった。返して欲しいなら何かしらのアクションを起こすものと俺は推測するんだが、もしかしたらゲームを買う金は自宅に別保管してあるのかもしれない。
なんだかんだ言いながら、とうとう俺とチカの家の分岐点である十字路にたどり着いた。
「とりあえず何かあったら俺に連絡してこい。一万の大金だ、うかつに移動させるとかえってややこしくなる。ろくでもないことしか考えつかんが、それでもいいならこのミソ貸してやる」
「うん、そうしてくれると助かる。三人寄れば文殊の知恵って言うしね」
いや、一人足りないから。じゃあね、とチカは片手を上げて俺から離れていく。俺は周囲を確認する。やっぱり彼女の姿は見えない。
「あー、ちょい待ち」
俺はふと一つ気にかかってチカを呼び止めた。チカはどうしたの? と足を止め、踵を返してこちらへ戻ってきた。言うべきか、言わざるべきか。一瞬戸惑ったが、既に声をかけてしまっている。とりあえず言うだけ言おう。
「それとなく“ここでバイバイ”的な雰囲気、というか今まさにバイバイしようとしている最中に言うのもなんなんだが、お前の家まで付き合ってやってもいいぞ」
俺は何らかの理由で理不尽にも白に追われている。さらにその白は俺とチカが一緒だった場面を彼女は知っている。俺がもし彼女なら、メインは俺であるにせよ、知り合いの女子がいるとなれば、そっちから俺に関する情報を調べようする可能性もないことはない。とどのつまり、俺と離れることで、チカがかえって危険に晒される可能性があるということだ。
「いきなりどうしたの?」
「いや、ほら、一応4時間付き合うってことになってるだろ? まだ4時間経ってねえから」
チカはうつむいて黙りこんだ。数秒間の静寂ののち、顔を上げて口を開けて何か言おうとした。しかし何か思いとどまったらしく、何も言わずに手で口を塞ぎ、顔を俺から横に逸らしてまた考えこむ。沈黙。夏の空気が緩やかに流れ、チカのクルクルボサボサの天然髪がふわりと浮き上がった。そんな十数秒の長い空白を経て、チカは大きく息を吸い込んだ。
「コウ、あんたやっぱり変だよ。いきなり駆け出すし、妙に挙動不審だし、あたしが喋ってる間もうわの空で何か考え込んでるし、しまいにはあたしを家まで送るなんて、天地がひっくり返っても言わなさそうなこと言うし。あたしに何隠してるの? ていうか、そもそもスーパーの特売なんてなかったんでしょ? あたしは覚えてるよ、本屋であんたが言ったこと。『本読むのにも飽きたし、別のとこ行こうぜ』だったよね? あんたの言い訳を聞きながらずっとそれはおかしいって思ってた。本当にスーパーの特売目当てなら最初から特売だって言うに決まってるでしょ?」
チカの力強い口調と目ヂカラで整合性のなさを指摘され、俺は一切反論出来なかった。たしかに俺そんな事言ったような気がする。俺が言い返せないで棒立ちしているのをいいことに、チカはさらに続ける。
「もともと閉鎖的で悪口以外の不要なことは言わないあんたのことだから、ここで問い詰めても本当のことは喋ってくれないだろうことは分かってる。それに一貫性のない言い訳をしてでも隠したいことなんだったら、知らないでおいてあげる。でもこれだけは教えて」
状況的に完全アウェーで白く燃え尽きている俺になす術はない。しかしここで事実を言っても、んなたわごと言ってんじゃねーよバーロと一発ぶちのめされるだけである。俺に何を答えろというのだろうか。俺は身構える。チカはため息一つ間をおいて言った。
「今の提案って重要なことなの?」
拍子抜けた質問だと一瞬思ったが、よく考えればこれは実に洗練された問いだった。ここでYESと言えば、俺の今までの言動が嘘であったと白旗を上げることになる。さらにチカは俺が本屋から強引に連れ出してスーパーまで走らせたこと、今回の俺の提案を考え、自分自身の身に何かあると察知するだろう。逆にNOと言えば、あくまでもしらを切ることを宣言することになる。ここは慎重に答えないと、チカとの関係を損ねてしまいかねない。
「ねえ、どうなの?」
視線を俺の目から逸らさないチカ。どういう答え方がいいのか悩む。ここは包み隠さず正直に言ったほうがいいだろう。どうせ言うなら———— 俺は周囲に人が|見えない《・・・・》ことを確認し、声を張り上げて言った。
「確かにお前の言うとおり、俺はあることを隠してる。それは紛れも無い事実だ。認める。だが、世の中には奇妙な事実というもの、知らないほうがいい事実というものがある。知るのは俺一人だけで十分だ!」
俺は最後の一文を特に強調した。思いもしなかった反応だったんだろう、チカはキョトン顔だ。
「んでさっきの質問の回答だが、今はそれほど重要じゃない」
「…………。」
チカはキョトンから進化を遂げ、豆鉄砲でも喰らったような顔をしていた。うまく切り抜けられたというかなんというか、まあこれで安心してチカと別れることができる。絶対に、とまでは断言できないが。
- Re: マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女— ( No.46 )
- 日時: 2012/07/19 18:26
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
「んじゃ、また来週な」
「ち、ちょっと、意味わかんないんだけど」
文句を垂れるチカに背を向けた。俺が真剣に事情を説明する姿を見せようものなら、たとえ表面上では世迷い言だと言っても、チカは不安になるだろう。俺一人で抱え込むのは実に心細い。だからといってチカにそれをおすそ分けするわけにはいかなかった。チカにはできることがねえんだから。恐怖だけ植えつけることになる。厄介ごとを押し付けられるのは大嫌いだが、同じく押し付けるのも嫌いだ。
「逃げないでよ!」
家路の方向へ数歩あるいたところで肩を強く掴まれ、後ろへ引っ張られた。体は半回転、掴んだ張本人とご対面。チカは怒っているように見えた。俺はまた溜め息をつき、明るく言った。
「ほらな、そうやって追求するだろ? 歯がゆいだろうが、今日のことは忘れろ」
「だって!」
「大丈夫だ、気にすんな。言ったろ? 知らない方がいい事もある。あと、このことは他言無用だ」
蒸し暑い悶々とした空気の中、一筋の汗が頬を伝って滴り落ちた。納得いかなさそうな言い草に、俺はまだ肩に乗っているチカの手を外して口調を和らげ、諭すように言った。
「……気にしたら負けだ」
そう言い残して俺はゆっくりと向きを変え再び家路へと歩きだした。十数歩進んだところで振り返る。チカは思考停止に陥っているのか、少し俯いたまま立ち尽くしていた。どこのお子ちゃまだよ。俺はまた引き返した。チカの前で立ち止まると顔が上がった。
「こんな所で突っ立って道路脇地蔵の真似事してもしょうがねえだろ。熱中症になるぞ」
ただでさえクルクル髪なのに、日光に当てられて大仏みたいに縮れたらどうすんだよ。
「…………。」
「必要になれば一から順を追って説明してやるから。ほれ」
今度は俺がチカの肩を持って半回転させ、汗で湿った背中を軽く押した。
「倒れる前に帰れよ」
バカ。
チカは小さく、口にした。確かに俺がチカなら気になって仕方がないのは同じだ。知らない方がいい事もあると言われればなおさらだろう。
「じゃ、また来週」
チカはゆっくりと歩きだした。俺はしばらくその場にとどまリ、徐々に小さくなっていくチカの背中を眺めていたが、特に問題なさそうに見えた。俺もさっさと帰るか。
俺はあることを隠してる。それは紛れも無い事実だ。認める。だが、世の中には奇妙な事実というもの、知らないほうがいい事実というものがある。知るのは俺一人だけで十分だ————
さて、なぜ俺があそこでこんな言動をしたのか、疑問に思うだろう。それはスーパーの喫茶コーナーで俺の脳裏に浮かび上がった一つの仮説が関係してくる。彼女はファミレスで食事も何も注文することなく2日連続で俺を凝視し続けていた。今回も同じように書店で立ち読みしている俺を物陰からじっと見ていた。この2つのことをつなぎ合わせると必然的に出てくる一つの仮説。
彼女はどこからか長時間にわたって監視している。
それも俺がファミレスに行く以前から監視している。でなけりゃ初っ端から何も食わないなんてことはない。どういう理由でこんなクソッタレ野郎を監視しているのか理由は一切不明だが、なぜかこんなことになってしまっている。アイツがもし地球調査の人類代表として俺を監視してるなら、間違った人間を選んでるから選び直せと言いたい。フライングソーサーからまばゆい光が降り注いで宇宙へ|アブダクション《誘拐》とかまっぴらごめんだ。
それで、なぜ俺が珍妙な発言をしたのかということだが、彼女は以前から俺の行動を監視していると推測される人間だ。俺達に見つからないようにして尾行を続けている可能性というのも十分に考えられる。
この発言はチカと、尾行を続けているかもしれない彼女に向けたダブルメッセージだったというわけだ。“チカには知らせるつもりはない。彼女には手を出すな”それを彼女にもしっかりと聞こえるように声を大にして言った、ただそれだけのことである。
ノリでもう一つ。なんとなくだが神子上も怪しい。よく考えれば彼女も白と同じく現れるタイミングが良すぎる。初めて会ったのが、俺が夜食をとって勉強しているサマを白に二日連続で監視されたその次の日のことだ。ファミレスの満席御礼は偶然だとしても、同じ高校の制服を着た女子二人と相席になる確率は低い。思い返せば、というかこれは半分こじつけだが、神子上が食事をとる場面、とったと思われるようなものを、俺は白と同じく一切確認していない。それに白と神子上の発言傾向も心なしか似通っている気がする。二人とも“定義”とかいう小難しい言葉を使ってるとか、発言スケールが常人のそれを逸脱しているとか、何かがズレてる雰囲気とか。
俺の住むマンションが近くなってきた。白の彼女もそろそろ俺を追尾しているだろう。追跡するときは大概においてホシの住所を調べ上げているものだ。一旦ホシを見失っても、家の近くで張り込んでおけば必ず戻ってくる。調べない手はない。勝手に追跡されてるほうからすれば、胸くそ悪い話だが。
俺はマンション入口前の路地で立ち止まった。俺が追われていると分かった以上、そのまま帰るわけにはいかない。心情としてはさっさと家に入ってシャワーで汗を洗い流したいところだが、俺の聖域まで彼女の監視対象になるのはどう考えても後味悪い。俺に一つ案はある。だが彼女がそれに応じてくれるとは限らない。それ以前に彼女が攻撃的になるかもしれない。……いや、それはないか。彼女に攻撃の意図があれば、彼女が独自にガラパゴス的進化をさせた理論で難解化した物理計算式の解説をしてくれるなんていうことはないはずだ。
「いるんだろ? もうそろそろ出てきたらどうだ? コソコソやってねえで腹割って話そうじゃねえか!」
そう言って振り返る。彼女は絶対にいるという自信があった。しかし、そこに姿はなかった。その代わり、パンク寸前の赤さびた黒い自転車をキコキコ鳴らしながらゆっくり走るじいさんが、突然声を張り上げた俺を軽蔑の眼差しで睨みつつ、マンションの駐輪場に入っていった。これは気まずい。俺は恥ずかしさのあまり、じいさんの荷台にタイヤチューブで括りつけてあった有田みかんのボロ箱を眺めることしかできなかった。同じエレベーターに乗らないよう、少し時間を空けたほうがよさそうだ。
- Re: マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女— ( No.47 )
- 日時: 2012/09/09 23:58
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
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第1話-17 計算式の彼女 やっぱり春だった
******
翌日の朝。土曜日の雰囲気を満喫しながらの朝食を終え、食器の後片付けを終えて溜まった洗濯物の消化をしている時、自室に置いてあった俺の携帯電話の着信音が響く音が聞こえた。その時俺は首振り扇風機を背後に、洗面台の前に立ってゴム手袋を装着し、洗濯機に入りきらなかった洗濯物をゴシゴシ手洗いしている最中だった。せっかくの作業を中断して確認するのは面倒くさいから後回しにしようかと考えたが、心なしか嫌な予感がする。言葉ではうまく説明できないが、いわゆる第六感というやつだろう。俺はゴム手袋を泡立つ洗面器の縁に投げ捨てて自室のベッドに放置してある携帯電話を取り上げた。
発信者:ジョー(牧田宗一)
時刻:9:12
題名:悪いんだけどさ
本文
至急来て欲しいんだ
……俺はパタリと携帯電話を折ってベッドに投げた。第六感というのは俺の杞憂だったようだ。第六感の誤検知である。メールには至急来いって書いてあるくせに場所の指定がないんだが、どうやって行けばいいんだろうか。無駄足踏んだな、と思いながら部屋から出ようとするとまたもや着信が入った。今度は誰だよ、ともう一度拾い上げて確認。
発信者:ジョー(牧田宗一)
時刻:9:24
題名:無題
本文
放置は勘弁してくれ!
マジで時間がないから(>人<)
なんだ、俺のことどっからか監視でもしてるのか? タイミングが神がかっている。どうせジョーのことだから俺の行動を先読みしただけで偶然だろうがな。どういう理由で呼び出したのか、薄々勘づいてはいるが、一応理由を聞いてみる。
時刻:9:27
題名:Re:
本文
俺今忙しいんだが。
一応理由を聞く時間は割いておく。
どうした?
返信するとリビングから聞こえてくるTVの15秒コマーシャルが終わり切らないうちに、ジョーからの通話着信が入った。なるほど、メールより通話のほうが手っ取り早いからそっちで、というわけか。冗談半分でコールに出ないとどうなるかと少しじらしてみたが、どうせ留守番電話センターにジョーの文句垂れメッセージが記録されるだけだと思い、7コール目で受話器ボタンを押した。
「おぉっと」
間違えて切る方のボタンを押しちまったぜ。ちょっとスッキリしたかもしれん。いや、結構スッキリした。まあ、ジョーが本当に急を要する事態なら——このようにすぐにリダイヤルで電話がかかってくるはずだ。
「どうした、ジョー」
《お前さっき電話切っただろ!》
通話早々、ジョーのツッコミが入る。ジョーの声の向こうから人の話し声や車の走る音が聞こえてくる。外から電話をかけているらしい。電話しながら洗濯ぐらいはできる。洗面所へと向かい、肩と耳で携帯電話を挟みながらゴム手袋を嵌める。
「ん、何のことかさっぱり。ボタンを押し間違えはしたが」
《トチったのか?》
「俺が故意に間違えてボタンを押したということを考えなければ、の話だが」
《やっぱわざとかよ!》
俺の予想どおりの反応を返してくれるジョー。イジってて楽しいと思えるヤツだ。
「で、急ぎの用なんだろ? まさかゲームの購入資金がなんちゃらで電話してきたんじゃねえだろうな?」
《……そのまさかだ》
「俺が予想するに、今日が例のゲームの発売日で、今は開店前のゲームショップに向かっているか並んでいるかだと思うが、違うか?」
《ビンゴだよ、もう並んで整理券貰った》
「ハハハ、買う金なしでか?」
《しょうがないだろ、チカに財布取られちゃったんだし》
「大人しく諦めて後日買えよ」
《今状況的に抜けだすのは無理っぽい》
「頑張れ。じゃあな」
たかがゲームでなぜそこまで頑張れるのやら。別にゲーマーを批判してるわけじゃない。その熱意を勉強に向けたらどうなんだという誰しもが到達するであろう意見との比較対象としての表現である。電話を切ろうかと思ったとき、ジョーの叫び声がスピーカーから聞こえてきた。
《あ゛〜〜! ちょっと待ったァ!》
「なんなんだよ、もしや俺を今から超特急でゲームショップに向かわせて、そのうえ金貸せとせびるつもりじゃないだろうな?」
《いや、まあ、要件はそういう……こと、だ》
手洗いしている手を止め、やれやれと溜め息をつくと同時に、洗面台横の洗濯機が作業終了のメロディーを奏でる。
「今の音聞こえただろ? 俺は今洗濯で忙しいんだよ。明日は別の用事が入りそうだしな。明日の先約抜きにしても、お前のオモチャを買うのに付き合ってるヒマはない」
《そこ何とか頼む! こんな事言うのもアレだけど、洗濯はあとからでも——》
「あのなぁ、ジョー。洗濯物は陽の当たりが良い時間帯に済ませておかねえと、効率が落ちるんだよ。午後は曇り、明日は大雨の予報だからなおさらだ」
《いやでも、整理券貰っちゃったし、後戻りできないし》
「貰えなかった人に渡しゃ済むだろ」
《ホントにもうお前しかいないんだって!》
「はぁ……」
チカもあんだけ気にしてたし、今日買えなかったら怒られるのはほぼ俺だ。チカのやつ、厄介なことしてくれやがって。ジョーを懲らしめるつもりが、結局無実の俺が懲らしめられるハメになるとかおかしいだろ。ジョーもジョーではじめから俺を当てにしてたようだ。手ぶらでショップ行って整理券もらうとか、はたから見れば盗む気満々じゃねえか。俺はゴム手袋を外してリビングに向かった。壁掛け時計の時刻は午前9時40分過ぎを指していた。
「んで、開店は何時からなんだ? 場所は?」
《コウ! 恩に着るぜ!》
「いいからとっとと言え道楽野郎」
自室に戻り、クローゼットを物色しながら時間と場所を聞いた。開店は午前10時かららしい。
《間に合うか?》
「間に合わんかもしれんな。途中の公園でひなたぼっこするから」
《すんなよ!》
「だいたいギリで連絡してくるお前が悪い。それ以前に課題忘れるからこんなことになったんだろーが」
《そうだけどさ、お前の場合、余裕持たせて連絡すると絶対動かないだろ》
まあ、それも正しい。それだけ自己解決するための残り時間が残されてるんだからな。携帯電話を肩で挟んだ不自由な状態で着替えを始める。自転車でぶっ飛ばして間に合うかどうかといったところだ。
「で、そのブツはいくらだ?」
《8000円あれば絶対足りる》
「だからいくらなのかと——まあいい、そんだけ持って行きゃいいんだな?」
《ああ》
「それじゃ切るぞ。時間までに現れなくても恨むなよ」
そう言って一方的に切リ、携帯電話をベットに投げた。8000円か……用意できない額ではない。実際の出費となるわけじゃないし、別に貸してもいいだろう。ジョーの財布にそれ以上の額が入ってるのも確認したし、返せないことはまずない。午前9時46分、俺は財布に大金をねじ込んで家を飛び出した。
- Re: マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女— ( No.48 )
- 日時: 2012/09/09 23:59
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
俺が息せき切ってそのゲームショップに到着したのは、ジョーが並んでいると思われる列が流れだした時だった。店の外で二列に並ぶ人の中からバカを探すため、トロトロと自転車を走らせる。前方から俺を呼ぶ声がした。
「コォォーウ!」
見れば歓喜満面の表情で大手を振りつつ、列に流されている脳タリンがいた。
「騒ぐな。いい子は黙って待ってろ」
取り出した財布から8000円を抜き出し、手刀を激しく切るジョーに押し付ける。ジョーは「お前最高だよ」とうわずった声で言った。
「買ったらさっさと出てこい」
15分後、白いビニール袋を手にジョーが店から出てきた。その間俺はショップ入り口横の駐輪スペースでずっとサドルにまたがったまま、ジョーとチカに対するイラつきをどう処理したものかと考え込んでいた。ジョーはハンドルに肘を乗せて待つ俺を見ると無邪気と言うべき笑顔で近寄ってきた。単純なやつだ。
「そこ暑いだろ、店の中に入っときゃよかったのに」
「店混んでるのに冷やかしが入ったら邪魔になるだろ。ほれ」
俺はジョーに手を差し出した。ジョーは以前と同じく手を乗せる。
「お手じゃなくてだな、俺に渡すもんがあるだろ」
「ああ、お釣りか」
「残念、不正解だ」
俺はジョーが持っているビニール袋を取り上げた。その瞬間ジョーの顔が一変。
「アーッ! それはダメだ!」
奪い返そうとする手を上手いことかわし(チャリにまたがったままでよくかわせたもんだ)、ジョーを宥める。
「どうどう! 落ち着け」
「馬かよ!」
「それともう一つ、レシートはどこにある?」
「無視かよ……その袋の中だよ」
そう言われて袋の中を覗き込んだ。……袋の中にはゲームソフト本体、お釣り、レシート、そして初回限定盤のおまけが入っていた。うむ。きちんと一式そろっている。いい心がけじゃないか、ジョー。
「なるほど。貸出手数料として初回限定特典は俺が頂いておくかな」
「あ?」
「それじゃまたな」
ペダルに力を入れて発進した俺を、ジョーが自転車の後ろの荷台を掴んで引き止めた。
「いやちょ——っと待て! おかしいだろそれは」
「ん、何か?」
「『何か?』じゃなくてさ、お前それどこに持っていくつもりだよ」
「俺の家に決まってんだろ。貸した金に担保はつきものだ。大金ならなおさら」
「ちょっとそれ勘弁してくださいよ〜」
どっかの後輩のような顔で、両手を合わせて懇願するジョーの姿はどこか芝居ががったようにインチキ臭かった。
「知らんがな。嫌なら今日中にチカに財布を返してもらってだな——」
「ムリムリムリムリムリ! 俺が殺されるって!」
俺はもう片方のポケットから携帯電話を取り出し、チカに電話をかけた。もちろん、返して欲しいと懇願するのが怖いらしいジョーの不安を払拭させるためである。
《もしもし?》
「ああ、俺だよ俺」
《コウ、サギなら別の人にしてもらえる?》
「例の財布のことでちょっと用件があってな」
《何かあったの?》
「ついさっき俺がジョーに金貸した。今ゲーム屋の前だ」
《あ……ごめんね、迷惑かけちゃって》
「それよりだな、目の前に例のアホがいるんだが、情けな〜いことにビビって返して欲しいと言えないそうだ」
「おい!」
ジョーがそう言って俺の通話に割り込んできた。俺はチカにちょっと待っててくれと言い、携帯電話を耳から離した。
「俺なんか間違ったこと言ったか?」
「お前、言い方ってのがあるだろ。もうちょっとオブラートに言って欲しかった」
「そうか、悪かったな」
俺は再び携帯電話を耳に当てた。
《どうしたの?》
「いや、なんでも」
《またそんなこと言って》
「ジョーが俺に文句いって来たなんて、お前に関係無いことだろ?」
《うん……そうだけど、それぐらいちゃんと言ってよ》
「で、今からジョーに代わるから『財布は月曜にきちんと返す』と言ってやってくれ」
うん、分かった。チカの返事を聞いて携帯をジョーに渡そうとしたが、途中で気がついて言った。
「おっと、渡す前に聞いておこう。お前あの猫触った後、手洗ったか?」
「当然だろ」
「よし」
俺が携帯電話を差し出す。何を今ごろ言ってんだよ、とジョーは笑って受け取った。
「あ、もしもし。うん、俺だよ俺——ああもう別に気にすんなよ。アイツのお陰でなんとか手に入ったからさ————」
ジョーは2、3分ほど話をすると「それじゃあ、月曜日に。忘れんなよ?」と言って通話を切った。俺に携帯電話を返すなり、重荷から解放されたような顔をした。
「なんか話が通じてたけど、お前が気を効かせてくれたんだろ。サンキューな」
「こいつは渡しておくが、特典は担保ということでよろ」
俺はビニール袋からゲームソフト本体とつり銭——1000円ちょっとを取り出してジョーに渡した。
「お釣りは……」
「カネ無しじゃつまらんだろ。1000円ありゃ必要なもんの1つ2つぐらい買えるだろ。持っておけ」
「マジか! コウがマザーテレサに見える」
「勘違いすんな。これは貸してるんだからな。月曜には8000円、耳を揃えて返せよ」
「大丈夫、月曜には必ず返すから」
「返さなかったら加熱分解寸前の原液濃硫酸に顔突っ込んで息止め30秒耐久な」
「顔、顔、顔!」
「だいたい340℃ぐらいあるらしい。ちなみに食用油の発火点は300℃もないから」
「うおお……返さなかったら翌日から顔無しになるのか……おっそろしい」
「それともう一つ。お前も大胆だな」
俺は財布を取り出して一枚の白い紙をジョーに。そう、俺が密かに回収したあのレシートである。ジョーは受け取ると笑顔が一瞬で消えた。
「これ、お前のだろ。チカが財布覗いたときに落ちてきたぞ」
「人の覗いたのかよ!」
「話すと長くなるから略すが、チカに話が通じてるのは財布を覗いたからといっても過言じゃない」
「これ、チカも見たのか?」
「いや、見てない。俺が秘密裏に回収した」
「お前、絶対にこれ内緒だぞ」
「大丈夫だ、任せろ」
俺がそう言うと、ジョーは空気が抜けたように肩を落とし安堵の表情を見せた。
「で、他のは?」
「……は?」
「いや、他のレシートは? これ一枚だけじゃないんだろ?」
「何言ってんだよ、これだけだ」
「…………。」
「もしや他にもあったのか?」
「財布に入ってるレシート全部だよ。家のゴミ箱になんか捨てられないだろ!」
「…………。」
「…………。」
「……ご愁傷さまです」
その時、ジョーの携帯が鳴った。どうやらチカからの電話らしい。