複雑・ファジー小説
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- マジで俺を巻き込むな!!—計算式の彼女—
- 日時: 2012/11/11 00:12
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n4373o/
お初にお目にかかります、電式です。
小説家になろうでも投稿させていただいている、
「マジで俺を巻き込むな!!」を、
こちらでも転載させて頂くことにしました。
本家の小説家になろうでは、
長時間の読書に配慮したデザインと、
閲覧耐久レースな挿絵を公開しています。
気になった方はぜひ。
(これ以上は宣伝になるので……(^^ゞ)
ここのサイトに関しては、
右も左もわからない初心者ですので、
私の変な挙動を見たら、それとなく教えて下さい。
電式、ちょっと忙しい学生なので、
更新ペースはご容赦願います。
******
バーチャル・リアリティが発展した、
シミュレーテッド・リアリティ(仮想現実)世界での物語。
笑いあり、シリアスありの世界を、毒舌主人公の視点でお楽しみください。
よくありそうなQ&A
Q.この話のどこが仮想現実なの?
A.始まりからすでに仮想現実のお話
INDEX
プロローグ
1.井の中の蛙 >>1
第1話 計算式の彼女
1.祟り >>2-3
2.黒煙 >>3-5
3.傍観者 >>8-10
4.特集と日常 >>11
5.重なる怪事件 >>12
6.カレー30% >>17-18
7.白の彼女 >>19-21
8.論理エラー>>23-25
9.不意打ちの彼女>>26-27
10.猫>テスト >>29-31
11.役得である。 >>32-34
12.カツアゲにしか見えない >>35-36
13.おしぼり >>37-38
14.監視 >>39-41
15.危機一髪 >>42-43
16.詰問 >>44-46
17.やっぱり春だった >>47-48
18.どう考えても、電波。 >>49-52
******
感想・コメント
——おこのみやき さん——
>>6-7
作品
それは恋のはじまり。
キミがくれたもの。
——ゆぅ さん——
>>13 返信>>15
>>22 返信>>28
作品
幻蝶
推理のあとは走り出す。
——蒼 さん——
>>14 返信>>16
作品
彼らの旅〜FROM SPECIAL SCHOOL〜
関連作品は、電式が個人的に判断しています。
作品が間違っている場合は、電式までご一報ください。
修正します。
コメントは随時歓迎しています!
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.34 )
- 日時: 2012/05/16 20:33
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: duKjQgRl)
あれこれしゃべりまくっても1時間あれば完食することは容易で、実際俺の前に置かれた皿は綺麗サッパリ食べ尽くされている。俺が食事を終えたということを目ざとく見つけた店員がすっ飛んできて、「お下げしてもよろしいでしょうか?」と声を掛けて食器類を没収して去っていく。
「そろそろ俺、勉強するんだが、帰るか?」
「ううん、まだここに残っておこうかなって思うんだけど」
「そうか」
「邪魔だったら帰るけど……」
神子上が気まずそうな様子で俺の様子を伺う。ここにいても俺はただただ勉強するだけだ。およそ98%の確率で神子上は暇になると俺は試算する。残りの2%は予想が外れた時の予防線である。
「いや、残っても構わないんだが……暇になるぞ?」
「私こう見えても、退屈には強いの」
「退屈したら5分で寝てしまいそうな気がする」
そもそもの話、ここに残って何するんだよって話だ。自らを暇な状況に追い込むって、神子上はMなのか? イニシャルは確かにMだが、そこまでMで合わせる必要は……ないわな(二重の意味で)。
「暇だと思ったら、勉強、邪魔させてもらうから」
「邪魔するなら帰って欲しいところだ」
どっかの新喜劇でそんな昭和臭そうでそうでないようなネタがあった気がするが、俺の心境はまさにそれである。
俺が勉強を始めてしばらく経つと彼女は窓の外の景色を見たり、自分の手付かずのお冷やに付いている大量の水滴を指でつついて流したり、ほげ〜っと宙を眺めていたりと、自分で暇潰しの方法を色々見つけて時間をやり過ごしているようだ。俺はそんな事するぐらいなら家に帰って好きな事でもやっておけばいいものを、とんだ物好きだなと思いながらシャーペンを走らせる。
「あ、そこ文法的におかしいよ。『〜たり』は基本的に複数回繰り返して使わないと……」
「そうなのか?」
「原則的にそういうふうに使わないといけないって、定義されていたはずなんだけど……うん」
「『たり』が一回でも、さほど変じゃない気がするんだがな……ちなみにその定義の出典元はなんていう本?」
そういわれれば、変だ、とも言えそうだが、変じゃない、とも言えそうだ。そういう細かいところについての作法がまとめてある本とかがあれば読んでみたい。これってこういう使い方でオッケーなのか? って時に役立ちそうだ。
「えっとね、これ、本じゃ……ないんだよね」
「書籍じゃないのか……ということは塾か何かの講義か?」
「塾、でもないんだよね、へへ」
「それじゃその定義の情報元をズバシッと言うと?」
「秘密」
……イスから転げ落ちるのが俺のやるべき正当なツッコミだったかもしれない。それは置いといて、大事な話の核を引きずりに引きずって、最後「秘密」って、話の結末を引っ張っておきながら「続きはまた来週!」を平然とやってのけるどっかの意地汚いテレビ番組みたいじゃねえか。いや、テレビ番組は教えるつもりはあるが、こいつは教えるつもりがないんだからもっとたちが悪い。
「強いて言うなら……“いにしえより存在する日本語についてまとめたもの”っていう感じかな?」
「そういうのを“国語辞典”っていうんじゃねえのか?」
「そうともいうけど、違うの」
「どこがどう違うんだよ?」
「それは……言えない」
俺の脳内には“いにしえより〜”の該当件数が国語辞典の一件しか出てこなかったんだが、まさか不正な手段で文法を覚えたんじゃねえだろうな? その|年齢《とし》で夜な夜などっかの権威ある資料室に忍び入って古文書を読み漁ったとか。
「(文法ごときで、んなわけあるかよ)」
今の例示について、もう一人の俺が猛烈な勢いで否定する。考えなおしてみれば至極当然のツッコミである。
「ああ、おばあちゃんの知恵袋か!」
なるほど、おばあちゃんの知恵袋ならば“いにしえより〜”に該当するかもしれない。特段「おばあちゃん」である必要はないが、そこはそこ、知恵袋の代名詞的存在ということで「おばあちゃん」だ。これに違いない、と77%の自信を持って俺は言い放ったが、神子上の表情は明るくならない。
「えっとね、近いけど、やっぱり違う」
「そうか、知恵袋じゃないなら……」
「ねえ、それって今考えるべきことなのかな?」
「え?」
「だって、明日も試験なんでしょ?」
「あ……あ〜、そうだそうだ、今はそれどころじゃねえんだよな」
思考が完全に謎解き方面へ行ってしまっていたが、本題はテスト勉強である。今回は邪魔されたと言うより自分から進んで脇道へ踏み入ってしまった。
「私、国語はあまり得意じゃないんだけど……わからない所があったら一緒に考えよ」
「それはありがたい」
「私は邪魔はするけど|邪魔《・・》はしないから」
「そっちの邪魔は歓迎する」
「でもその前に、一つお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「メールアドレス、教えてくれない?」
「メールアドレス?」
「そう、メールアドレス。……ダメかな?」
「……仕方ねーな」
そんなことを言っている俺だが、こんな美少女とメールアドレスを交換できるということについての感想を率直に言うと、か、な、り、役得だ。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.35 )
- 日時: 2012/05/28 20:27
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: duKjQgRl)
******
第1話-12 計算式の彼女 カツアゲにしか見えない
******
「ついに待ち望んでいたこの時がやって来ましたぜ、コウ!」
「…………。」
「定期テスト終了イェ————イ!」
「…………。」
「俺達は自由だッ!」
神経すり減らし、大人しく着席してくたばってる俺と強引に肩を組み、かの有名な楽曲の中のあの部分をfreeに置き換え、和訳で“我々は世界だ”改め、自由だ、と控えめの音量で歌っている。いくら控えめだからって危ないもんは危ない。やめろ。
「ジョー、一つお願いごとがあるんだが、聞いてくれるか?」
「ん? 何?」
「はしゃぐときは俺から最低500m以上、推奨1km以上離れてからはしゃぎやがれ。地球の裏側、いや宇宙で叫んでくれるのが理想的だ」
しかも「自由だッ!」って、さしてお前勉強してねえだろうが。猫と遊んでいたお前のどの口が言うか。まあ、こんな陽気なところがジョーがジョーであることを証明する証拠みたいなものなんだが。
騒音としか思えないジョーの魂の叫びを聞いてもらった諸君は、今どんな状況なのかは大体察しがついたであろう。そう、つい今しがた、期末テスト最後の教科が終わったのである。
「ときにジョー」
「なんだ?」
「今日が数学の宿題提出日なのだが、持ってきたか?」
「あ……」
数学の宿題とは前にチカが肝を冷やしたあの宿題である。“やってきたけど忘れる”が得意技のジョーは、今回ももれなくその技を発動しているのは、ヤな汗タラリな表情からすぐに分かった。
「あれって評価に入るんだよな? ジョー」
「……そんな事、言ってたっけ」
「そもそもこういう日に集めるんだから評価に入らないはずがないよな。まっ、俺は持ってきたけど」
俺は鞄の中に手を突っ込んでガサゴソと探り、1冊のノートを取り出し、ジョーに見せつけた。
「コウ、悪いけど写させてくんね?」
「断る」
「じゃあ……ジュース奢るから」
「NO」
「ジュース2L奢る」
「無理」
「じゃあ、昼飯奢る!」
「Negative.」
ついに俺の口からあの少女の名言であるNegative.が飛び出した。お前が言うな、ないしお前は言うなという声がしてきそうだが、とかく俺はジョーに貸すつもりは一切ない。俺のノートを借りて写すより、一旦家に取りに帰る方がいい気がするからだ。ましてや俺のノートまで皆より遅れて提出するとなれば、俺の心証に関わってきそうな気がする。
「取りに帰ればいいじゃねえか。ダッシュで」
「そしたら親がなんか小言言ってくるから、その方法はあんまりしたくないんだ」
「自業自得だろ。第一、写すだけのノートはあるのか?」
「俺、いつもノート切れにならないように、予備のノート1冊ストックしてある。それ使おうと思う」
「大人しく諦めな」
「えー……」
「何? ジョー、また忘れ物したの?」
水掛け論を繰り広げる俺たちの匂いを嗅ぎつけ、チカが寄ってきた。繰り返すが、ジョーが忘れ物をすることはほぼ日常的なものなので、チカは半ば呆れ顔である。
「こいつが俺のノートを貸せ貸せと口うるさく言ってきて面倒なんだが」
「貸してやればいいじゃない」
「悪いが、俺はゴメンだ」
俺はノートを机の中に突っ込んみ、腕組みをしてジョーに視線を向ける。今までも事あるごとにジョーは俺を頼ってきたのだ。俺は実害なしと判断した時は惜しげもなく貸してやってはいた。恐らくジョーは今回もそのようなノリなんだろう。別に人を頼りにすることが悪いと言っているわけではない。俺が言いたいのは頼り過ぎは禁物である、ということだ。ジョーのためにも、ここはあえて貸さない方針でいこう。俺はお前の青狸じゃねえんだ。
「コウが貸さないなら、あたしが貸してあげるから」
「ありがとうございます、木下様!」
「おいおい、甘やかし過ぎは禁物だぞ」
「ピンチの時ぐらい貸してやったらどうなのよ、イジワル」
「意地悪って、俺はジョーの今後の行く末を案じてだな……」
俺からすればいわれのない非難というやつなのだろうか。確かに俺の行動は自分第一がモットーになっていることが多いが……やっぱり今回は俺自身、今の言動は意地悪であったことを認めることにする。いくらジョーのためだとは言えど、多少なりともそういう気持ちはあった。これは事実だ。
チカは自分の席へ戻り、鞄の中のノートを検索している。検索開始から数秒後、彼女は一冊のノートを片手に俺とジョーのところまで戻ってきた。
「このひねくれ根性」
チカは丸めたノートで俺の頭をパシリと一撃。普段なら「ストレス解消分もオマケ」とかいう意味分からん理由で痛みが+αされることもちょくちょくだが、今回はいやにソフトに叩かれた。
「へいへい、ひねくれ根性で悪うござんした」
「でもねー、コウの言うこともあながち間違ってないのよね」
チカはそう言って視線をゆっくりとジョーに向けた。変な殺気を感じ取ったらしいジョーは、即座に一歩下がって身構える。
「あー、はは……やっぱ取りに帰ろうかなぁ……」
「こんな大事な提出物を助けてもらうんだから、お灸の一つぐらいないと、ねえ?」
「チカ、やっぱ遠慮する」
そんな、遠慮しなくてもいいのよ? とニヤついた顔で一歩詰め寄るチカ。同じ距離を保とうとさらに一歩下がるジョー。一歩進んで、一歩下がる。また一歩進んで、一歩下がる。ぶん殴られるのと母ちゃんに小言を言われるのと、どっちがいいかと比べれば、結果は火を見るよりも明らかだ。
「あ、いや、もうホントに今日は取りに帰るからさ……」
「でもジョーが2回分宿題をやるなんて、そーゆーやる気の芽は摘んじゃいけないと思うんだけど」
……丸写しだがな。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.36 )
- 日時: 2012/05/28 20:28
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: duKjQgRl)
「や、やめて、マジ」
これは完全にフラグが立った。ここからジョーはどうやって切り抜けるのか、楽しみだ。後ろに下がり続けたジョーの背中は、ついに壁にぶつかった。逃げ場なしだ。チカは両手をバシン、とジョーの顔スレスレを通るようにして壁に張り手。ジョーは逃げ場を完全に失った。ご冥福をお祈りする、ジョー。
「財布、出しなさい」
「……え?」
む! これは新展開だ。今までこういう状態になれば70%以上の確率でストレートがくるか、アッパーがくるか、すね蹴られまくって青アザだらけになるか——とにかく暴力が絡んでいたのだが、この発想は俺にもなかった。
「いいから財布、出して!」
「財布は俺の生命線、なんだよ……それだけは勘弁」
「何? あたしからノート借りるだけ借りてタダ乗りするつもり?」
これは相当痛いぞ。テスト最終日も午前中で授業が終わる。午後からパアッと遊ぼう、なんてことを考えるのが現代高校生の一般的な思考回路だろう。俺もそうだ。チカはそこにつけ込んだわけだ。パアッと遊ぶにもお金がなければ家でじっとしているか、公園のブランコに座って自由になったサラリーマンの如く悲壮感を周囲にばらまきながら打ちひしがれるしかない。今の季節、外に出るだけですぐに汗かいて水が欲しくなるから、金がないなら家一択だ。「そーゆーやる気の芽は摘んじゃいけないと思うんだけど」か……家に篭って黙って勉強しろってことだろう。チカの優しさ(?)である。
「本当に本当に財布は勘弁!」
「つべこべ言わない!」
結局、チカが強引にジョーの財布を引っ張り出した。その財布はスカートのポケットの中へ。つまり男子禁制の領域に、である。強引に奪い返そうものなら、やってるそいつは周囲からは完全なる変態にしか見えない。一応これでもチカは女子である。ジョーに奪取する余地はない。
「はい、貸借料確かに頂きましたっ」
「ええっ、財布ごとかよ!」
「なに、あたしに文句あるの?」
「…………。」
「早く帰りたければ席につけ〜!」
そこに担任が登場。それを見たチカはノートをジョーの胸に押し付け、「あたしのノート、絶対に|汚《けが》さないでよね」と言い放ってその場を去った。対するジョーは、晴れてノートを借りられたはずなのに、どこか浮かない表情である。
*
終礼が終わり、俺は人の流れに押されるようにして教室から吐き出された。開放感に満ち溢れたクラスメイト達の表情が眩しい。「どこかに遊びに行こ〜」「俺んちに遊びに来ねえか?」という話題が俺の周りを飛び交う。俺は家に帰ったら、まずは昼飯作って、それから溜まった洗濯物と食器洗い、買い物。……親がいる家庭が羨ましい。言い方は悪いが雑用は親任せにして、自由時間がたっぷり取れるんだから。ジョーは親がいなくて羨ましいとかなんとか言っていたが、一人暮らしってそんなにいいもんじゃねえぞ。俺も親が家にいる時は「独り暮らしやりてぇー、ビバ自由主義!」とかほざいてたが、実際やるとなると今度はこれ。皮肉なもんだ。
「ちょっと!」
人の流れの赴くままに階段を降りて下駄箱まで流れ着いた時、誰かが俺の腕を引っ張った。チカだった。
「なんだ、この俺に野暮用か?」
「何が野暮用よ……」
ただ言ってみたかっただけだ。俺は下駄箱で上履きと自分の靴とを履き替えトントン、とつま先で地面を蹴る。
「確かにあんたからしたら野暮用かもしんないけど……」
チカも俺と同じようにスニーカーの先で地面を蹴りながら言う。
「今日暇? だよね、一人暮らしなんだから」
「残念だが、溜まった洗濯物とか、食器洗いとか、買い物とか、急を要するものがないわけではない」
「そんな遅くまでかかる頼みじゃないんだけど、いい?」
「そうか! 断る」
爽やかな笑顔で一刀両断した俺の首元に、チカの手刀が襲った。
「ゲフッゲフッ、オエェ……」
「言う前から断らないでよね」
「オエッ……一応言うだけ言ってみろ、言うのはタダだからな」
再来週の木曜日、スーパの特売に何が出て来るか真剣に予想してくれ、とかいうお願いなら俺に任せろだ。ダテに独り暮らしやってるわけじゃねえ。それぐらいのカンはついてる。当たる確率は3ヶ月後の天気予報の比じゃねえぞ。
「あのねぇ、それはそれでスゴいけど、そんなんじゃないから……」
「『今日買い物行くついでにウチの分の買い出しもしてきてくれる?』とかいう話ならお断りだ」
「それもち、が、う! ちゃんと聞いて」
「はい、サーセン」
チカはムスッとした顔を浮かべた。俺に茶化されたのが気に食わなかったらしい。俺にも限度というのはきちんとわきまえているつもりだ。必要以上に茶化して相手の気分を損ねさせるつもりはない。
「今日4時間だけ、付き合って」
「……はい?」
「『今日4時間だけ付き合って』って。何回も言わせないでよ、恥ずかしい」
「それはつまり、どういうことで?」
「ちゃんと説明するから、とりあえず学校出よう」
顔を赤くするチカに、俺はそれとなく察して足を前に進めた。今みたいな発言が他の生徒に聞かれたらまずい。特にその“断片”だけを耳にされては困る。
チカの話は、要約するとこんな感じだ。チカの父親が自宅の庭にある植栽の剪定と病害虫の防除の為の薬剤散布を造園業者に頼んでいて、それがよりによって今日の昼頃から始まるらしい。それで、夕方まで家に帰れないから暇潰しのお供を願う、ということらしい。道理で叩かれ方が嫌にソフトだったわけだ。
「それじゃ、昼飯はどうすんだよ」
「それも含めて付き合って欲しいって言ってるの」
「ふうん、俺は別に構わねえけど」
「本当に?」
「ああ。もうひとつ聞きたいんだが、メシ代は出るのか?」
「ホントならあたしが払わなきゃいけないんだろうけど、コウ持ちでいい?」
「それは構わない。で、時給いくらなんだ?」
「そ、そんなの0円に決まってるじゃない、このバカッ!」
「イッテっ!」
パチンコで石でも飛ばされたんじゃないかと思うほどの強烈な衝撃が後頭部に。もちろん、それはチカの拳という名の鈍器が元凶である。当然だが、例の漫画のようにホォアタァ! と一発やられたぐらいで頭が飛んだり体が破裂したりすることはなかった。まあそんなことがあれば今頃世界中至る所でスプラッタしまくりである。
「どこに人を雇う高校生がいるのよ」
「世の中探せばいくらでも出てくると思うがな」
「知らないわよ、そんな。神様じゃあるまいし」
「とにかくこのまま昼にするんだろ? なら早いとこ行かねえと、混むぞ」
学校に行ってようが会社に勤めてようが昼の時間になるとどこの店も混雑してくる。家に向かうはずだった俺の足はそんなわけで急遽、行き先不明のぶらり旅をすることになった。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.37 )
- 日時: 2012/07/14 23:56
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
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第1話-13 計算式の彼女 おしぼり
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「あのトンカツ屋は?」
「あそこの味が濃いから好みじゃないんだよね」
「そこのラーメン屋は?」
「そこ油臭いからイヤ」
昼食をどの店で食べるのか、店探しを始めてから20分が経過したが未だ決まっていない。それもすべて俺の隣にいるお嬢様が原因である。最初は俺も女子の行くところだからと店を選んで提案したものの、「今はこれ食べたい気分じゃないんだよね」などとあれこれ言って提案する店をあますところなく蹴りやがったのだ。それで、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだろ精神で目についた店を片っぱしから提案しているのである。撃ちまくってもことごとく外してるがな。お前の的、どんだけ小さいんだよ。でもまあ俺自身ひしひしと感じてはいる。つくづく最低な男だと。
「そこの定食屋でいいだろ」
「オヤジばっかりじゃない、汗臭い」
いくらなんでもそれは世のオヤジに対して失礼というものだろう。誰の働いた金で3度の飯が食えてるのか考えてみたらどうだ。学校を出発して俺とチカは風に流されるように歩きまわり、ついに近所のちょっとした百貨店の近所まで流れ着いた。
「そもそもの話、何も俺に頼まなくても、付き合いのある女子は他にもいるだろう?」
「みんな先約があったのよ。ボーリングとかカラオケとか買い物とか。そうでなければこんなしみったれてそうな人に頼み事なんて——」
「ひでえな、おい」
俺がしみったれってか? 昼飯代とかバイト代とかは冗談の範疇だろ。本気で俺が人から金取るほどケチンボだと思われていたなんて、俺は悲しいよ……って、お前は人から金取ったんだよな。
「そんなのお灸を据えるために没収しただけで、使うわけないじゃない!」
「お前さんが良識ある人間だということが分かって、俺は嬉しいよ」
「財布は次学校に行く時に、そっくりそのままジョーに返すつもり。あたしが返し忘れてたら教えてよね。これ大事なやつなんだから。それと、その言い方コウにしては気持ち悪いからやめて」
「へーい、了解」
チカはポケットに入っていたジョーの財布を取り出してひらひらと俺に見せ、鞄の奥に入れてロックをかけた。そういえば今日は金曜日だったな。次学校行く時って……月曜日じゃねえかよ。こいつ、今日だけじゃなく明日明後日の自由も束縛しやがったのか。恐ろしすぎる。
「ねえ、いい加減どっか屋根のあるところに入らない? 外暑いわ」
「んじゃ百貨店にでも入るか」
早いところ昼飯決まってくれねえかな。そう思いつつ俺はチカと共に百貨店へと入っていった。エスカレーター側面の案内板を見つけたチカは、俺の手を引っ張ってそこまで寄っていく。
「飲食フロアは……5Fって書いてあるね。行こっ」
チカは俺を従者か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな? エスカレーターに乗って5階まで上がると香ばしい香りが充満していた。チカがどの店に行きたいというのか、俺は少々ヒヤヒヤしている。一食1500円のお高い料理店に行きたいとでも言い出したら、こっちの財布もたまったものじゃねえ。
「あっ! ここいいかも!」
チカは一軒の店の前で立ち止まった。海鮮Cという名前の料理屋だ。なんというか、ここの経営者はセンスという単語を知っているのか問いたくなる店名である。AランクのAでもなければB級グルメのBでもなく、何を思ってよりによってCなんか……まさかっ、海鮮だけに|C《sea》っていう……なんか急に寒くなってきたな、冷房効きすぎてね? ていうかうまい事言ったつもりかっ! だいたいこういう海産物を扱っている料理店は総じて値段が高めだ。
「チカ、こういう店は俺の財布に優しくねえからさ、悪いが他の店に——」
「見てこれ」
「話聞けよ……」
「聞いてるわよ。これだったら財布に優しいでしょ、海鮮丼」
チカが指さしたのは、店の入口横にあるスタンド型黒板。内容を読めば、1日限定50食で海鮮丼と味噌汁のセットが840円らしい。黒板に貼りつけてある写真を見れば、鯛マグロ鮭イクラその他が丼にもっさりと乗っかかっている。確かにこれぐらいなら財布の許容範囲内には入る。
「この値段で多くの刺身が食べられるって、いいと思わない?」
「どうだろうな……」
そんなことなら近場の回転寿司(100円)に行けば安い値段でよりどりみどりの海産物が好き放題に食えるじゃねえかと考えるのは俺だけであろうか。まあ、海産物扱ってる料理店だからっていう言い方も変だが、高品質なものを提供していると思うが。提供していると信じたい。
「店の雰囲気も良さげだし、ここでいいんじゃない?」
「気に入ったならここでいいんじゃねえの?」
俺としてはやっと見つかった、といったところだ。限定50食の海鮮丼がまだ残っているかは知らんが、お嬢様がお気に召されたならばそこでいい。チカは最初に店の暖簾をくぐるのは苦手なようで、ここにすると言っておきながら店に入ろうとはしない。先発隊は俺が努めろってことか。
店に入るとすぐ、いらっしゃい、と若くて威勢のいい女性従業員が出てきた。店内は温かみのある暖色系の照明がつき、イスやテーブル、店の模様までもダークブラウンの木材が採用されている。暖色系の光を採用するとメシが美味そうに見えるらしい。確かに昼白色の蛍光灯の下で海鮮丼を食うのと、電球色の光の下で海鮮丼を食うのとでは、後者のほうが美味しそうに思える。
「ここ、初めて来たけど雰囲気はいいね」
「確かに悪くはない」
席に案内された俺達は向い合って座った。連日のファミレスでの出来事を思い起こさせる。俺達が着席するとすぐに店員が2人分の水と布おしぼりを持ってきた。例の海鮮丼は残っているのか店員に聞いてみる。あるとの返答だったので二人してそれを注文した。改めて店内を見渡すとオジサンに混じって制服姿のOLの姿もあった。
「それにしても、なんでわざわざ俺にこんな頼み事したんだ?」
「だからそれは友達がみんな——」
「そっちじゃなくてだな、暇つぶしぐらいなら1人でもできるだろってことだ」
料理が来るまでの待ち時間を利用して、俺は気になっていることを聞いてみることにした。さっきこれ関連の話をしていたときについでで話そうと思っていたが、話題がジョーの話にすり変わっちまったからな。チカは俺から視線を逸した。
「それは……ほら、物騒な事件が身近で起きてるでしょ? いくら昼だって、あたし一人じゃちょっと怖いから」
「つまり俺は変な奴からお前を守るための保険的な意味で連れてこられたのか」
「言い方は悪いけど、そういうこと」
ん〜なんとまあ心許ない保険である。いくら俺の股間にアレがぶら下がっているとはいえ、万が一の時に俺がお前を守る盾になることはないと思うぞ。付き添いの者がいるというだけでの抑止力なら効果はありそうだが。
「もしもの時にコウが助けてくれるかは疑問だけどね」
「俺も今そう思った」
「あ〜、やっぱりジョーのほうが良かったかも。アイツなら嘘でも『俺一人で百人力だから安心しろ』ぐらい言ってくれそうだし」
「俺一人で百人力だ、安心しろ」
「いまさら言われても信頼ないから」
どっちにしてもジョーはここには来られなかったけどね、と言って、チカは水を飲んだ。コップについた水が手につき、おしぼりでそれを拭き取る。それをテーブルに置くとチカは思い出したような口調で話を始めた。
「こないださあ、ちょっと用事があって久しぶりに父さんと外食したんだけど」
「ほう、親父さんとか」
「うん、それでね、店の人がここみたいにしておしぼりを持ってきたの」
「ふむ」
俺は椅子に座りなおして予め最も楽になるような姿勢をとった。もしこの話が長くなった場合、時間がたってから座り直すと話がつまらなく思われているとチカに思われるかもしれん。予防線だ。まあ、こいつ一旦しゃべりだすといつまでも喋り続けるから、BGM程度に聞き流せば苦痛じゃないが、意見を求められるときがたまにあるので一筋縄ではいかない。
「そしたら父さんがそれで手を拭いたの。その次、どうしたと思う?」
「さあ。すかしっ屁でもかましたのか?」
「それも嫌だけどさ、いきなりおしぼりで顔を拭きだして。どう思う?」
「俺はあまり快くは思わねえな」
「でしょ?」
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.38 )
- 日時: 2012/07/14 23:56
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: hWSVGTFy)
チカの話し方からしてこの質問に要求する答えはほぼ一つである。俺はなぜ相手方が同意を求めたいだけの生産性のない質問をするのか、と疑問に思う。そういう質問が悪いとは言わないが、選択を間違えた時が恐ろしいから、俺はこの手の質問は苦手だ。
「顔を拭いたかと思えば、今度は首筋まで拭きだして。あり得なくない? 脂汗がついたおしぼりを見てるこっちが気持ち悪くなる」
「だろうな」
俺はそんなことをする発想自体がなかったのだが、チカの言い分は理解できる。しかしなんとなくだが親父さんが顔を拭きたくなる気持ちも分からなくもない。
「それで、汚いからやめてって言ったら『会社で食べに行くときはみんなそうしてる』って。男の人ってみんなそうなのかって思ったけど、コウみたいな否定派がいて安心した」
とりあえず、今回の答え方は正解だったようだ。一択しかない時はいいが、たまに二択とか三択の質問が来るからたまらん。
「まあ、そのおしぼりはまた洗って次の人に行くわけだからな。携帯型ウェットティッシュ持たせたらいいだろ。最近は顔用もあるらしいし」
「…………。」
俺の発言に相槌も打たず、突然チカは顔をしかめた。自分の両手に視線を落として顔をぐしゃぐしゃにしたかと思うと、突然声を張り上げた。
「うえぇ〜! ちょっとコウ、そんな事言わないでよ! もうおしぼり触れないじゃない!」
「は?」
「ちょっと手、洗ってくるから!」
はて、どうやら俺は爆弾発言をしたらしい。いったい何が問題だったのか……携帯電話がメールの着信音を奏でた。
「お待たせしました、海鮮丼セットで……あ、失礼しました」
誰からだ、と携帯電話を開いた時、絶妙なタイミングで若い男性が注文を持ってやってきた。席に一人しかいないことに気がついた彼は、律儀に頭を下げて立ち去ろうとする。俺は誰が送ってきたのか確認もできず、慌てて携帯電話をしまった。
「海鮮丼2人分で合ってます。今一人手洗いに行ったので」
「あっそうですか」
安心したらしい彼は俺の前に一つ、チカの席の前に一つ、注文のものを置き、お決まりの伝票をテーブルの上に置いて去っていった。危うく海鮮丼が放浪の旅に出るところだった。気を利かせたつもりなのか、接客の仕方が統一していないのか、盆の上にはそれぞれおしぼりがあった。
「ああ……そういうことか」
“次の人”は自分なんだから、そりゃああなるわな……