複雑・ファジー小説
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- 僕と家族と愛情と【六章】
- 日時: 2015/03/23 11:17
- 名前: ナル姫 (ID: MX8BW3Ro)
- 参照: http://www.fastpic.jp/users.php?act=gallery
僕愛のイラスト(全体的に低クオリティ)が掲載されています
ぜひご覧ください
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皆さんこんにちは!こんばんは!おはようございます!
タイトル変わってしまってすいません!!
初っ端から謝ってしまいました…。
MARIONNETTE 〜蒼の翼〜の書き直しにやって来たナル姫です。
いやほんとすいません。あんな中途半端なところで止めてしまい…。
しかし次こそはちゃんとやります。
頑張ります。悔いのないようにします。
attention
※史実と創作が入り混じってます。これで歴史を学ぼうとは間違ってもしないでください。
※荒らし、チェンメ、中傷はお帰りください。
※誤字、脱字、多々見受けられると思います。お知らせいただけると幸いです。
※スレ主の心はガラス製です。
※スレ主は基本携帯からのアクセスです。>>0が直せてなくても怒らないでください。
※上記の通り携帯からアクセスなため、携帯が不調な時は返信が遅くなります。ご了承ください。
※一応、学生です。途中カメさんが通過するかもです。
※グロ、エロ、たまにあります。
information>>606
SPECIAL THANKS!
アリス-Alice-様!ファンクラブなんて素敵なものを作っていただきありがとうございます!!
comment
春嵐様 檸檬様 陽炎様 六花様 しーちゃん様 世詩瑠様 ヰルマ(千襾)様 秋桜様 明星陽炎様 緋賀アリス様 奈未様 パール様 蓮華様 赤のす様 三毛猫様 磁石様 ゆぅ様 赤月蘇羅様 黒服様 まい様 無花果様 アリス-Alice-様 彩羽様 梅次郎様 真夜空羅斗様 みかん殿様 F様 コーラマスター様 雛罌粟様 真琴様 魁人様 碧颯様
story
一章『蒼丸』>>521
二章『伊達家の仲間』>>522
三章『父の背中』>>523
四章『姫と殿』>>524
五章『死闘、人取橋の戦い』
part1>>542
part2>>543
☆番外編☆
>>340【成実withティア・アウカル(無花果様より)】
>>349【佳孝with楽獲紗沙(ヰルマ様より)】
>>350【政宗withティア・アウカル(無花果様より)】
>>354【政宗(梵天丸)withエルカ・ゼロ(真夜空 羅斗様より)】
☆小十郎スピンオフ☆
>>351 >>362-363 >>369-370 >>373
では次からプロローグです。
◇◆◇◆
何が、『蒼い空の様に』だ。
ただの綺麗事にしか聞こえない。
この空は、灰色にしか見えない。
僕の目には、塵の様に汚いものにしか映らない。
何処が、『蒼く澄んだ空』だ。
この乱世で汚れない事なんて無いのに。
綺麗なんてありえないのに。
こんな荒んだ心が、一番汚いのも分かってるけど。
それもどうしようもない事で。
いつか、誰かが僕を『綺麗だ』と言ってくれる日が
来るのだろうか─…?
◇◆◇◆
壊れてしまった家族に、永久の愛を──
【僕と家族と愛情と】
- Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.618 )
- 日時: 2015/08/23 19:13
- 名前: ナル姫 (ID: z1wpqE.E)
「若松様、ここが間違っておりますれば」
「……あ」
「もう一息でございましたな」
苦笑を漏らす景就に若松も苦笑した。この男は父とは違った。この男は父のように面倒臭そうに自分を教育しない、厳しい言葉で指導しない、木野家の将来ではなく、自分の将来を見てくれていると−−そう感じていた。景就の物腰柔らかく、それでいてしっかりした指導に若松は徐々に心を開いていった。
景就は、物事を教えるという点ではとてもうってつけの人物ではあった。教えるのは、上手だったのだ。勿論策士という点では若松の父には及ばなかったが、算術などの計算や短歌や俳句の才能においては、右に出るものは木野家にはいなかった。そして策略以外のことについては若松の教育は景就が担うことになっていた。篤行も、景就の教える能力は高く評価していた。
−−つまり、今の定行の策略以外の脳を作ったのは景就だったのだ。優しい景就によって養われた教育は、今も定行の中で策を作る際の基盤となっている。
___
「あの人……定行が殺したあの人は、定行の教育係だったんですか……」
「……皮肉ですね…」
政哉に続き、尚継がゆるゆると首を振りつつ声を出す。
まさか、あの時惨殺された景就が、定行とこんなに厚い繋がりがあり、信頼を寄せられていたとは−−と、誰もが驚いているのだろう。それ以上に真剣に話を聞いていて、誰もそんな表情は出せていないが。
「……あいつは人を取り込むのが上手かったんだ…恐らく、俺と梵天丸にまで深く接触していたら、定行は今頃この世にはいないかもしれない……いや、そうでなくても、本当ならあいつは十年前に死んでいる筈だったんだ……桃姉も」
成実の言葉に、奇襲に当たった面子がはっと思い出す。生きていたのかという、景就のあの言葉を。
「……続きを話すぞ。……教育係として信頼していた景就が、どうして定行……若松から恨まれる原因となったか。それは…」
政宗の隻眼は、鋭く。
「奴の目的が、木野家の抹消にあったからだ」
「……抹消……?」
「木野家は裏で暗躍する一族だが、あれほどに頭脳を活かせる一族だ。知名度が低いわけがない」
「し、しかし政宗様。そしたら堺…いや、もっと遠くまで名前が響いていてもおかしくないんちゃいます?儂がこっち来る前、木野だなんて名前耳に入ったのは一度も……」
「そうだろうな。木野家はなるべく親戚を作らないようにしていたし、没落した足利幕府に長いこと仕えていた。いつの間にか世に忘れ去られてもおかしくはない。故に、京から程近い堺でも名はそこまで聞こえなかったのじゃろう。故に、木野の知名度が高く警戒されていたのは、応仁の乱以前の話だ。足利を見離した奴らが目を付けたのは我々伊達家……その頃はまだ大大名じゃった。どういうことかわかるか?」
ぽつり、と秋善が声を出す。
「……都から、その名が消えても……」
「次は、奥州で広まる」
その続きを浜継が引き継ぎ、それを聞いた政宗は頷いた。そして、言う。周辺大名から、警戒されないわけがないのだ、と。
「篤行が…いや、木野家が滅ばずに今日まで生き残っていれば、または、我が軍が幼かった定行に軍法を全て任せていれば、人取り橋での戦いはなかったかもしれん。誰も、木野家相手に無謀な戦いをしようとは考えんだろうからな」
「だが戦となった……それは、敵が完全に木野家は滅んだものと考えていたから、ですね?」
「あぁ。まぁ流石に数で押されたが……涼影、お前を非難するわけではない。だが、聞いておけ。定行がいなければ、今回の戦は負けていた」
「……はい、痛感しとります」
「話が逸れたな、すまん。……早い話、木野家は奥羽では知名度が高かった。そして恐れられていた。どんどん小大名へ落ちていく伊達だが、回りの大名達はいつ木野から反撃を受けるかと気が気でなかった。そして、潰される前に木野家の全滅を考えた。そしてそのために使われた大名が河原じゃ」
- Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.619 )
- 日時: 2015/10/31 01:21
- 名前: ナル姫 (ID: OK6L9khJ)
景就の、当主の顔も見たことがないという言葉に偽りはない。だが、そんな下等な家来、沢山いるはずだった。そもそも、何故そのような下等な家来を使ったのか−−その理由が、白髪の兄弟にあった。
そう、風迅家に生まれた兄弟である。その家で忌み嫌われていた白髪、そして二人が生まれた頃に起きた小さな内乱……そのことによって風迅家は他の家から嫌煙されるようになった。その中で唯一、支え合っていた一門があった−−それが、まさに河原である。蘆名は、全て計算していたのだ。あの双子を捨てよう、それは河原に任せよう、教育が得意と噂される河原の当主なら簡単に取り込まれるだろう。下等な家臣などいつ裏切っても不自然ではない。あらゆる面で、河原は都合が良かったのだ。
木野家の赤は、血の赤−−恐ろしい一族。木野を恐れた蘆名はその血統を絶とうと計画し、河原の当主にあれこれと命じ、実行させた。何も木野家全員に信頼される必要はない。当主と次期当主の信頼さえ得られれば問題はない。実際、桃は彼を信頼していなかったが、問題はなかった……だが、予想外のことが起こった。
次期当主となるはずであった、鬼才の持ち主が生き残ってしまったのだった。
___
「若松様!若松様!」
「どうしたんだ景就」
「大変なことでございますれば……」
景就は少し辺りを見回し、人影を見ると、場所を移しましょうと耳打ちし、人気のない場所へ若松を連れていった。
「ここなら良いかと……実は、篤行様が伊達家に反乱の気が御座います。梵天丸様を通じ、輝宗様に進言なされるべきです」
「な……まさか、父上と輝宗様はあれほど仲が良いのに」
「しかし若松様!これまで木野家が生き残ってきた術を知らない貴方ではないでしょう!」
「…っ……」
『木野家の赤は』
『血の赤だ』
『裏切りに裏切りを重ね』
『赤く染まった一族だ』
「……でも」
「松ちゃん、ここにいたの」
「あ……姉さん」
「こ、これはこれは桃姫様」
ささっと土下座をした彼を、一瞬何かを観察するように見つめると、すぐに彼女はいつものような優しい笑顔へ戻った。
「松ちゃん、景就の話は終わったかしら?」
「あ…はい」
「そう、なら、良かったわ。行きましょう、美味しそうな葛餅を頂いたのよ」
桃が若松を景就から引き離そうとしているのは明らかだったが、無意味に等しい。彼は若松からかなりの信頼を得ているし、どうあらがっても彼の教育を担っているのは彼なのだ。桃はもう必要ない。
くつり、と彼の口角は上がる。
一方で、若松はずっと悩んでいた。父が謀反など考えられない。しかし一族の生き残り方は知っている。自分含め、我等一門は多くの人に嫌われている。それに、景就が自分に嘘をつくはずがない……そして彼は、景就に言ったのだ。
「景就、僕を米沢へ連れていけ」
___
「どうしたんだよ松、いつもならこの時間は算術でもやってたろ?」
「うん、まぁね……時、梵はどこかな」
「梵は今厠だ。何かあいつに用なのか?」
「うん、ちょっとね」
「ふぅん?あ、戻ってきた」
当時の梵天丸は既に飛び出た右目を切り取って貰った後で、包帯から眼帯の姿になっていた。彼は珍しく見た赤毛に、少々驚いたように目を丸くした。
「久しいな松。何用だ?」
「その……信じて貰えないかも知れないんだけど……」
深刻そうな若松を見て、二人は眉をひそめた。三人は顔を近付ける。
「……景就が、父上が輝宗様に謀反を起こそうとしてるって……」
「…それは本当か若松」
「多分……信じたくはないけど…でも景就が言うなら…」
「う…嘘だろ!?だって篤行と輝宗様、すっげぇ仲良いじゃん!」
「ぼ、僕だって信じくない!でも……!」
それでも若松は、景就の言葉を信じてしまっていた。この男が自分に嘘を言うはずがないと、彼にほぼ絶対的な信頼を寄せてしまっていたのだった。
「……父上に進言するぞ」
「お、おい梵天丸!」
言った梵天丸に、彼のあとを追う時宗丸……若松も、彼等のあとに続いた。
−−悲劇の、始まりだった。
- Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.620 )
- 日時: 2016/03/12 12:06
- 名前: ナル姫 (ID: pcVc9ZHc)
話はすぐに広まった。木野家、謀反——何をされるかわからない、しかしある意味ではとても都合の良いことである。あの頭脳が失われるのは惜しいが、伊達家家臣はいつ木野に食い潰されるか不安を抱えていたため、これを機に木野家を滅ぼしてしまおうと考えたのだ。
「輝宗様!」
「これはまたとない好機!」
「木野に制裁を!」
「のろのろしていれば伊達が滅びます!」
輝宗は、親友である篤行が自分に謀反など考えられない……考えたくなかったが、家臣は必死だった。多くの家臣との溝を作ってはならない、決心した輝宗は、ついに決断を下す。
「……木野家を、潰せ……!」
___
「……木野を滅ぼすよう言ったのは…父上なんですか…!?」
「…父上とて苦渋の決断じゃ。子供の儂らでも分かった。…だが家臣は、そんなことどうでも良かった」
「結局は、輝宗様から木野を滅ぼす命が下れば良かった…ということですね?」
満信の声に政宗と成実が頷く。
「…計画はすぐに立てられた。狙うべき時期は、木野家が一族と家臣、全員屋敷にいる時間……そこで、定行が問題になった」
___
「……そういうわけだ。若松、お前は当主や家臣が集まっている時間について情報を集め、伊達へ知らせよ」
「…はい」
「……待て、永継、若松の命はどうするのじゃ」
「?当然死んで貰いますが」
「なっ…若松も殺すというのか!?」
「えぇ、若松も子供ですから」
若松は驚くこともなく、わかっていたというようにじっと畳を見つめていた。
「何故!若松は謀反の件を知らせてくれたというのに…!!」
「そうは言いましても、梵天丸様…」
永継は困ったように梵天丸を見た。どうも永継は考えを改めようとしないのがわかると、梵天丸は側にいた時宗丸を連れて輝宗へ直訴しに向かったのだが、その場にいた家臣に猛反対されたのだった。
___
「……では、どうして定行さんは…」
龍久が小さく溢す。政宗は成実を一瞥した。成実は溜息をついて肩を落とした。
「……消えるのが望まれた命を…鷲と成実が小十郎を巻き込んで……勝手に助けただけだ」
——そうだ、親友に死んでほしくなかった。
——自分たち三人は一緒に在りたかった。
——だから、どうしても、何があっても助けたかった。
___
影就の協力もあり、弥生の十日に木野家の滅亡計画は始動した。時刻は深夜。その日木野一族とその家臣は、広い部屋で酒盛りをしていた。だがその場に河原はいなかった。若松は自分の部屋から出て、短い刀を懐に仕舞った。更に小さな弓矢を部屋の前に置いておいた。
「……」
少年は酒盛りの行われている部屋へ向かった。楽しそうな声が聞こえる。伊達の家臣が屋敷に火を放つまではまだ時間がある。自分は家臣を屋敷内に留める必要がある。ゴクリと固唾を飲み込み、部屋の襖を開け、子供らしいあどけない笑みを浮かべた。
「ん?どうした若松。目が覚めたか?」
篤行が彼に気付き笑顔で問いかける。若松は肩を竦めて笑ったが……この笑顔を見られるのも最後だと思うと虚しかった。自分に優しくなかった父が、笑ってくれた。
「父上、僕も混ざって宜しいですか?」
「影就はおらんが良いのか?」
「はい、父上のお隣にいさせてください」
「あぁ、そうしなさい。侍女に茶をもたせよう。これ、誰か茶を」
女性は侍女しかいなかったが、特に疑問には思わなかった。父親はこういう場に女性を呼ぶことがないとわかっていた。
沢山の人の赤い顔、笑顔。これを見られるのもあと少し。
「若松よ」
「はい」
「お前もいづれ当主になった時には、このようにたまには家臣を労うことが大切だ」
「はい、わかっています……父上」
どっ。
「——かは…っ」
その場が静まり返った。バレないように抜いた刀は、父の左胸を貫いた。返り血が頬に飛ぶ。
「きゃぁぁぁぁッ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「若がご乱心なさったぞ!!」
「落ち着け!!落ち着け!!」
若松はすぐさま部屋から出た。家臣たちが彼を追う。若松は自分の部屋の前に来て、まず持っていた刀を先頭を走る家臣に投げつけた。家臣の首を深く傷つけ、血が飛び出した。すぐに弓を手にし、次々と矢を放つ。家臣は刀を抜き、いざとなれば若松を斬るつもりだった。
……その時、にわかに場が暑くなってきた。更に焦げ臭い。
「…何だ…?」
「何かを燃やしているような……」
「火事だぁぁぁッ!!」
遠くから家臣が掛けて来る。
「火事だ! 出火元はわからぬが、とにかく早く外へ!!」
「ッ…若松様、事情は後で聞きます、とにかく今は…」
「無駄だ」
冷たい、さっきまで愛らしい笑顔で父の隣にいた子供とは思えないような声で、若松は言い放った。
- Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.621 )
- 日時: 2016/07/31 23:33
- 名前: ナル姫 (ID: .fB/HkE3)
「…おかしい、絶対におかしい」
「…梵天丸様…」
「松は悪くない。大体篤行が父上を裏切るものか?何かが絡んでいる、絶対……絶対!」
「でも、よ…」
「貴様らはこれで満足か、時宗ッ、小十郎ッ!?」
「っ…」
そんな訳がなかった。けれど今更遅い。今更若松は生かそうなど、無理だと時宗丸は項垂れた。小十郎も目を伏せる。遠くに見える燃える屋敷。若松も桃も、きっと……それでも、声は自然と出てきた。
「…させてたまるか…」
「時宗丸…」
「若松は、絶対に死なせねぇ!」
「…小十郎」
「……えぇ、二人の親友を見捨てるわけには行きませぬな」
「…決まりだな」
「おう」
「はっ」
「松を絶対、助けるぞ!!」
___
「何を…何を仰るのですか、若松様ッ!」
「これは伊達家が仕組んだことだ。僕達は今日ここで、死ぬんだよ!!」
「そんなっ…何故、何故です!?」
「何故だと?木野とその家臣が今日まで行った人としての非行を考えてみろ!むしろ今まで処刑されなかったのが奇跡だ!!」
「っ…そんなこと仰らず!!出口は蹴破ればあります!!」
「嫌だ離せッ!!父上を殺した!きっと姉さんも死んだ!!景就も館で腹を切ると言ってた!!もう僕は生きていたくなんかないッ!!」
彼の腕を掴む家臣から腕を振り解く。遠くから声が聞こえた。家臣や侍女たちの阿鼻叫喚だった。
「いやァァァァッ!!」
「助けて、助けてくれぇッ!!」
「あつい、あついよぉ!!」
「母上、母上ぇッ!!」
心臓が悲鳴を上げた。それでも、もうすぐ死ぬのだ、関係などない。行く先が地獄だろうが極楽だろうがどうだっていい。
家臣がもういちど彼を引き戻そうとする前に、若松は自室に入って戸を占め、木刀で開かないようにした。まだ部屋には火の手が回っていない。だが待つことなどしなくていい。若松は火打ち石を持ち出し、麩の近くで石を打った。火花が落ち、少しずつ燃え上がっていった。
——赤。
——汚らわしい赤。
——これが、汚れた木野に相応しい最期。
___
「はぁっ、はぁっ……」
三人が監視の目を抜けて木野の館についた時には、既に館の大半は燃え盛っていた。
「小十郎、出来る範囲で桃姉を探せ!時宗、若松を探しに行くぞ!」
「おう!」
「畏まりました!」
三人はそれぞれ駆け出し、梵天丸と時宗丸は若松の部屋についた。だがそこももう火が燃え盛っている。二人は自分が怪我をするのも構わず、持ってきた木刀で壁を叩き始める。燃えたために脆くなった壁は簡単に崩れ、火の粉が降り注ぐ。
土足のまま中に入ると、部屋の真ん中辺りで若松が倒れているのが見えた。
「松ッ!!」
浅いが息はあるのを確認した。梵天丸が出口を確保し、時宗丸が若松を背負って急いで屋敷から出た。彼の髪から見えた左耳は、燻されたように黒くなっていた。
___
「……定行の、耳の火傷は……」
「……それが原因だ」
政哉の声に政宗が静かに応える。
「……小十郎は誰一人、人を抱えて出てこなかった。桃姉……あの女性が見つからなかった……」
「それは他でもない、あの女性は屋敷の中にいなかった……助かったから、ですね?」
満信が確認する。政宗と成実が頷いた。偶然いなかったのだ、と言葉を付け加えて。
「だが、当時の儂らはその可能性を考えていなかった。誰しもが館にいると考えていた。……だがらきっと桃姉は……屋敷のどこかで焼け死んだのだと、そう思った。生きていたのは、儂らが助けた松……定行と、この日館にいなかった桃と定行の実母だけ。実質、この日を境に木野一族は滅んだことになる。そして、河原は蘆名へ戻った」
「……政宗様」
政哉が声を上げる。政宗は隻眼を少年へ向けた。
「結構前……僕が婿養子に向かう話が危うくなった頃、成実様が言ってましたよね。僕が二条へ行く場合、定行は晴千代の教育を喜多に任せて僕に付いて来るって……あの時は特に何とも思いませんでしたが……今思うと変です。定行が、どうして僕にそんなこだわりを持つのか……わかりません」
「……そうか……そうだな、それも話さねばなるまい」
政宗が目を伏せる。
「……そこに至るまでの過程を言わねばなるまい。そして……定行が今まで策を作らなかった訳も」
- Re: 僕と家族と愛情と【六章】 ( No.622 )
- 日時: 2016/09/09 19:23
- 名前: ナル姫 (ID: CROAJ4XF)
——木野の屋敷は、大火で跡形もなく焼けた。人の黒焦げの死体と、燃え尽きることなく火が消えた大木だけがそこに残った。皮膚の焼き爛れた死体が誰かなど、誰一人分かるはずもない。骨すら燃え尽きた死体も多いのだろう、明らかに人の数が足りなかった。木野の屋敷跡は墓場にされ、そのまま殆ど手入れもされず放置された。そこが、政宗と成実、そして定行が毎年墓参りをする場所である。
自分だけが助かったと知った定行の反応は、酷いものだった。
「……っ、……どうして……助けたりしたんだ……」
「わかま……」
「僕はっ!僕は、助けてくれなんて一言も言ってない!!」
頬、腕、足、胴体の所々に包帯を巻いた痛々しい姿。黒く燻された左耳はほとんど音が聞こえない状態だった。
「……すまん、若松……桃姉も助けようと、」
「違う、違うッ!そんなことを聞きたいんじゃない!!僕は……生きたいなんて、これっぽっちも思ってなかったのに!!」
「おい、若松……」
「姉さんがいようがいなかろうが、そんなの関係ない!!父上を殺して、家臣を殺して、景就も死んで、僕は、こんな世界で……」
息を荒げて叫ぶも、現実が変わることはありえない。自分は死ねずに助けられた。望む望まないに関わらず、友達だからという理由だけで助けられてしまった。
梵天丸と時宗丸は、何も声をかけられなかった。自分達の勝手な判断で若松を助けてしまった。本人はそれを望んでいなかったのに助けて——拒絶された。
問題は若松の処理だった。本来ならば死ぬべき命であり、それを本人も受け入れた。……しかし、伊達家の次期当主とその従兄が助けた命だ。自害を命じられるわけがない。そして下された判断が、十年間戦における策を作らないという取り決めだった。木野を認めない、しかしその頭脳は使いたいという情けない事情が丸見えなものだった。
季節は過ぎて、三人の少年は大人になっていった。梵天丸が政宗と、若松は定行と、時宗丸は成実と名を改め、政宗が田村家の愛姫を娶ったとこで、伊達家の次期当主は政宗とほぼ決定した。
三人の距離は相変わらず離れたまま、定行は二人を拒絶したまま、時は過ぎていった。
そんな時だ、とある人物が定行を欲しいと言ったのだ。
___
「……父上」
「そう、哉人だ。哉人は、定行のことを木野の人間として見ていなかった。一個人として見ていた。……だからこそ、お前の教育につけたのだろう」
「……」
全員が軽く目を伏せた。それほどまでに、哉人は人として素晴らしい人だったのだろう。戦乱の世に向きが不向きかはとにかくとして、彼は絶望に叩きつけられた定行を、現在の優しい彼に仕立て上げるだけの希望を見せたのだ。
「……続きを話そう」
___
「君が定行君か。早速だが君には、我が養子の傅役となって欲しい」
「はぁ……」
突然自分を呼び出した当主を、奇特な人を見る目で定行は見つめていた。突然の誘い。何故この人はわざわざ自分を呼び出したのだろうと考えるも、聡い定行もこればかりはわからなかった。家臣は皆木野を嫌っていて、自分も木野の生き残りとしか見られていない……それが彼の頭の中での固定概念であり、前提であった。
「おいで、蒼丸」
「はい!」
侍女が襖を開け、そこから顔を覗かせたのは、彼を助けた友人とは正反対と言っていいような黒髪、しかして彼と全く同じ、青の混ざった黒い瞳。にこりと子供らしく愛らしい笑顔を浮かべた彼の主となる子供は、父親の隣に正座をすると、よろしくお願いします、と元気に頭を下げた。
「……よろしく、お願い致します、蒼丸様」
ぎこちない愛想笑いを浮かべ、定行は新たな主に頭を下げた。
___
「……」
政哉にとって、それはさして思い出深くもない日常の一場面だった。勿論、それは彼が子供だったからで、定行のことをどうも思っていないとか、そんなわけではない。ただありふれた主従の始まり——なのだと、思っていた。
「……この後、定行に人生の転機が訪れる。……定行が、哉人を恩人と慕っていたのだが……その理由となる出来事が起こる」
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