複雑・ファジー小説

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【散文】コワレモノショウコウグン【掲載】
日時: 2014/03/26 19:49
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: zLcGFy2P)
参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=big&illust_id=40477742

——コワレる程の、愛を捧ぐ。

* * * *
僕の愛はコワレモノ、いつもきみはコワレモノ。
* * * *

●クリスマス短編●
上記参照がクリスマス短編の表紙になってます。

>>23-24
【頭骨と百合のお砂糖漬け-哀願S女と冷笑M嬢の快楽と思われる賛歌の断片-】 R-18
注意:『SM』『同性愛』『グロ』『拷問』『流血』『殺害』『微エロ』『食人』描写有り。



【お知らせ】

●アンソロジー参加者様各位、お疲れ様でした。
素晴しい作品をありがとうございます!



【大事なこと】
●宣伝は結構ですが読んでないのに「面白いです」とか要らないです。 面白い話とか書いてません。 こっちにも挿したら怒るよ。

【先にご注意】
個人的にはカキコ最狂を目指します。
エログロ食人、同性愛なんでも有りの短編集です。
しかしテーマは全編通して「愛」です。
話毎にタイプは変わりそうですが、個別に注意書きとか書くと興が冷めそうなのでこちらで先に言っておきます。
生々しいのが無理な方、ここでブラウザバックお願いします。

他はまぁ、ありきたりな感じです。
●おにーさんがアンチな方はブラウザバック。
●えすえむ苦手な方はブラウザバック。
●大人の性事情とか知りたくない方ブラウザバック。
●指切るとか眼抉るとかグロいの無理な方ブラウザバック。
●↑で入手したパーツをmgmgするとか無理な方ブラウザバック。
●恋愛に夢見てる方ブラウザバック。
●善意在る指摘、添削意見はドンと来い((
●「これはそろそろ消されるんじゃね?」とか感じたらおせーてください。

●一レス読み切りぐらいの気持ちで書きます。ほぼss的な感じ。
長編希望の方、余所へどうぞ。

●コメントは頂ければ喜びますが、一時保存中や話の途中には差さないで頂けると幸いです。 コメント頂いた方、参照貼って頂ければお返しに伺わせて頂きます。

ではどうぞ、貴方の中のコワレモノを、一緒に探してみましょう。
コワレモノショウコウグン、それは誰しもが罹る病です。


【目次】

>>1 表題:コワレモノショウコウグン
>>2 きみにあげる R-12 グロ有
>>3 束縛 (7/25 いちほ 31完結)>>6にて少し解説
>>9 ひとりじめ (8/26 完結) R-15 流血描写 mgmgします。
>>10 S.E.L.D (9/2 いちほ 9/7 9/12更新 9/16完結) 微エロ有

>>25 表題:オスカーワイルドを気取って
>>26 少年採集Ⅱ (1/19いちほ 1/29更新 2/6完結)同性愛表現有り
>>27 金魚姫のままの夢

【アンソロジー企画:この種を孕んで】
>>15 アンソロジー表題:Act Cadenza
>>16 たろす@作 /【この種を孕んで】
>>17 柚子様作 / 「この種を孕んで」
>>18 ハル様作 / Out Of Frame_0 この種を孕んで。
>>19 陽様作 / 【この種を孕んで】
>>20 黒雪様作 / 【Anthologie】 —*この種を孕んで*—
>>21 日向様作 / 「この種を孕んで」
>>22 夕凪泥雲(唯柚)様作 / 【この種を孕んで —青い鳥籠—】

【コメント頂いたお客様】

lp様 / 柚子様 / 友桃様

【企画参加頂いた方々】

柚子様 / ハル様 / 陽様 / 黒雪様 / 日向様 / 夕凪泥雲様

【略歴】

13/07/13 スレ立て
9/05 参照500
9/13 参照600
9/22 参照700
10/6 参照800
10/14 参照900
10/19 参照1000
10/24 参照1100
11/03 参照1200
11/11 参照1300
11/27 参照1400
12/14 参照1500
12/30 参照1600
14/1/19 参照1700
2/10 参照1800
3/26 参照1900

Re: 【アンソロ】コワレモノショウコウグン【投稿開始】 ( No.21 )
日時: 2013/11/04 18:02
名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: B6dMFtMS)

「この種を孕んで」

******

「全く。今日も今日とて疲れたよ」
「院長、お疲れ様でした」

 相当疲労が溜まっていたようで、院長と呼ばれた男は合革ソファに倒れ込み、もう一人の女はガラス机を挟んだ向かいの椅子に座った。
 消灯した院内のバックヤード、ナース室。
 二人分の声が蛍光灯の明かりと共に日の暮れた薄暗い廊下へ漏れ出ている。
 ここは、都内有数の産婦人科であった。

「ミルクは一つ、お砂糖は無しでよろしいですか」

 背の低いガラス机に手を突いて、女が立ち上がった。
 院長は俯せに倒れこんだまま手を振って応えた。

「頼む」
「はい」

 女は隅の給湯室に入った。
 慣れた手つきで湯を沸かして、棚のコーヒーパックと紅茶パックを手に取った。
 出来上がったそれらをトレーに載せて、ガラス机にコンと置く。
 コーヒーの匂いを嗅ぎ取り、院長はよろよろと身を起こした。 横をちらりと見遣るともう女は席について紅茶を飲んでいた。
 そしてこちらを見ることなく言う。

「院長、コーヒーが冷めますよ」
「あ、あぁ頂くよ」

 院長と呼ばれてはいるがナースの女の方が事実上の立場は女の方が上のようだ。歳も男の方が一回り若く、この病院を任されたのは春からだである。それに引き替えナースの女はここの産婦人科で昔から長いこと婦長を任されているキャリアウーマンであった。

「うん、美味い。——いや、しかし今日のあれは」
「何です、院長。コーヒーならいつも通り淹れましたけど」
「違うよ、その、あれさ」

 院長はコーヒーを机に置いて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「今日、帝王切開した女。やはりヤニをやっていたようで……見ただろう?」
「あぁ」

 青ざめた顔で院長が腕を組んでぽつりぽつりと言った。
 向かいの女は無表情のまま紅茶を啜っている。

「僕はああいったものを、初めて、見た。そういえば君はあれの処分をしていたね……平気なのか? それは慣れなのかい? そうだとしたら僕は慣れそうにないよ」

 女は紅茶を机に置いて、院長を見た。鋭く、深みのある視線。 軽蔑、哀愁、戦慄、失望、どれともとれない不思議な瞳だった。
 そして言った。

「何をおそれることがありましょうか」

 表情とは裏腹に女はソーサーを置き去りにしたまま、紅茶を飲み干した。まだ熱いはずなのだが喉を鳴らして。
 突然の行動に唖然とした院長を余所に帰り支度を始める女。

 「院長、今日の夜勤は私では無かったはずですので、これで失礼致します。お疲れ様でした」

 俯いて表情は分からなかった。女は更衣室に入っていってしまった。

******

 車で家路を辿る女。信号無視や蛇行運転が目立つが山道なのが幸いして被害や目を付けられることは無かった。隣の助手席に置かれた鞄がやけに膨らんでいる。
 女の表情は先ほどとうって変わって、頬は上気して口元からはだらしなく涎を垂らしその視線は蕩けそうだった。右手で片手運転、左手は下腹部をまさぐっている。
 異常なほどの興奮、雌の顔。

 三十分少々車を走らせ辿り着いた女の家。山奥の小さなアパートの一室。もう完全な夜の闇が辺りを覆っているが灯りはどこの部屋にもついていない。このアパートを借りているのはこの女だけのようだった。
 ふらふらとした足取りでアパート一階の隅の部屋の扉へと向かう。鞄が重いようで何度も肩にかけ直している。
 鍵を開けようとするも手元が狂い、なかなか鍵穴にささらない。女は苛立って錆びたドアを蹴った。錆びた塗装が剥げ落ちる。

「うぅうぅぅぅぅうう!」

 まるで獣。

「ひあぁぁぁあああぃぃい!」

 やっと鍵穴に差しこむと、力一杯に回した。
 がちゃり、とロック解除の音を聞く前に部屋に雪崩れ込んだ。
 
 そこは女の城だった。
 薬臭い匂い、甘い腐臭、ベビーフードの僅かな匂いに満ちている。
 そして辺りには液体に浸された何かがいた、否、あった。
 水槽、フラスコ、虫かご、夥しい数の容器があり、共通しているのは中が液体で満たされて何かがあること。

「みんなぁ、ただいま、ママよぉ。帰ったわよぉ……ひ、ひひひ」

 床に垂れた涎が薬臭い室内の匂いと混ざり合う。
 女は冷たい床に倒れこむと、自らを慰めた。
 発狂したように声を出し、体を捻る。
 何分そうしていたことか、女は息絶え絶えに口を開いた。

「——今日はね、新しい子が来たのよぉ、みんな仲良くしなさいよぉ、ねぇ……?」

 満足するとよろよろと立ち上がった。
 足下に転がっていた空の水槽を手に取り、鞄の中から何かを取り出す。
 ラベルの貼られた容器と——。
 女は容器の蓋を乱雑に取り外すと、零れ飛び散るのも構わず水槽にいれた。
 どろりと粘性のある液体に浸してみるが、浮上してくる。
 頬を上気させ、母が子に言い聞かせるように。

「駄目よぉ、ほら、ちゃんと浸かって……。きれいきれいしましょうね」

 女は素手でそれを沈めた。浮き上がってくるたびに何度も沈めた。

「偉いわね、あなたは出来る子よ」

 女は沈めたそれを再び引き上げて、愛おしそうに頬ずりした。
 頭部であるはずのそこを優しく撫でて、本来額であるはずのそこにキスをする。
 先ほどの興奮は失われ、その代わりに子を思う一人の母の姿があった。

「私はあなたを見捨てない、あなたは私の子、ずっとずっと一緒にいましょうね」

 それを抱きしめた後、再び液体の中にそれを戻した。

******

日向です。

オチがいまいちよく分からないですね、でもこれで良いんでしょうね。
この女性がどうしてこのようなものを愛するのか、それはお一人お一人の考えに委ねるとして。
うまく孕めたかどうかは分かりませんが、書かせて頂きました。

そうそう日向、触手好きなんですよ。
いや、何でもないです、失言です、気にしないで下さい。

 

Re: 【散文】コワレモノショウコウグン【掲載中】 ( No.22 )
日時: 2013/12/07 12:27
名前: 夕凪泥雲 ◆0Tihdxj/C6 (ID: FvI/oER9)
参照: 元唯柚。

【この種を孕んで —青い鳥籠—】


 少し開けた窓から、春の柔らかい風が入る。
 ゆらりと顔に触れる髪がくすぐったくて思わずクスリと笑うと、丁度検温を済ませた看護師さんが「どうしました?」と首を傾げた。

「髪がくすぐったくて、思わず」

 子供っぽく見られてしまったかもしれないと思うと、恥ずかしくて顔が熱くなった。
 看護師さんはそんな私を見てつられるように笑う。
 不思議な気分だった。入院し始めたのはつい昨日や一昨日くらいの事なのに、ここの病院の温かい空気はもうずっと前からいるように、私に馴染んだ。
 まあ、ずっと前から病院にいるなんて、実際はあまり良いものじゃないんだけど。
 というか、もう日付感覚無くなっちゃってるなぁ。まだ何カ月も入院しなきゃいけないのに、社会復帰出来るか今から心配になる。

「今日も異常無し、ですね。……それじゃあ、またお昼に来るんでなにかあったら呼んでくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」

 部屋を出ていく看護師さんを笑顔で見送る。
 カチャリというドアが閉まる音がして、部屋は私一人になった。

「…………」

 なんとなしに、お腹を撫でてみる。
 シーツとパジャマ、それに自分の体を挟んで自分以外の命があるというのは、不思議な感覚だった。
 少しだけ、不安だし怖い。でも、それ以上に守ってあげたくて、幸せを約束してあげたい。
 それは今まで経験していたどの感情とも違う、静かだけど希望に溢れて、とても強い気持ちだった。
 顔を見るのが待ち遠しくて、この気持ちを一足早く伝えたくなる。

「君のお陰で、私は強くなれたんだよー」

 だから、はやくこの幸せな世界に出ておいで。

          ☆

 来客があるというのを聞いたのは、お昼を食べる直前。食べ終わったら庭に散歩にでも出ようかと思った時だった。

「昼日向さん、お見舞いの方が来てくれているんですけど、会われます?」
「……? お見舞い、ですか?」

 誰だろう? 交友関係は決して狭くはないけど、ピンとくる人がいない。
 私が首を傾げたのを見て、看護師さんは察してくれたらしい。昼ご飯の食器を全てベッドについた小さなテーブルに置くと、少し考え

「えーっと、確か名前は……羽瀬川瀬良さんっていってましたよ」
「えっ、瀬良ちゃん!? じゃなくて、羽瀬川さんですか!?」

 思わず身を乗り出して大きな声を出すと、看護師さんに「取り敢えず落ち着きましょうか、ね?」と宥められた。恥ずかしい。

「すいません、思わず……。学生の時からの友達なんです」
「そうなんですか。では、先生に面談の許可を出してもらいましょうか」
「宜しくお願いしますっ」

 この病院は念には念をと、主治医の先生に許可を貰わなければ面会は出来ない事になっている。今回は先生も快く許可を出してくれたらしい。
 結局、今日は体調も良いし、折角来てくれたので少し待ってもらって、お昼を食べたら午後の検診まで面談させてもらう事になった。

「それじゃあ、食べ終わったらお連れしますので呼んでくださいね」
「はい、分かりました」

 笑顔で出ていく看護師さんを見送ってから、手を合わせて「頂きます」
 ここの病院は病院食がとっても美味しい。そういう面も含めて『彼』はこんな良い病院を探してくれたのかと思うと嬉しいけど、同時に『彼』の心配性ぶりに苦笑が漏れた。
 私のお腹はまだ膨みが目立っていない。それなのに『彼』は、元々身体が少し弱い私を気遣って早めに病院に入院して、私とお腹の中の子両方になにも起こらないようにと図ってくれた。そのお陰で私は、今のところ体調を崩してもいないし経過も順調だ。
 今まで世界で一番愛していた彼。これからはこの子と同じくらい愛していく彼。彼と出会えた事は、私の人生の中でも凄く幸運で幸福な事だと思う。

          ☆

「……なぁんて、本人に言ったら調子に乗っちゃうよねぇ」
「そうだね。乗りまくって有頂天になる可能性も出てくるね」

 熱くなった頬に手を当てながら惚気る私の言葉に、瀬良ちゃんはとっても冷静に頷いてくれた。
 瀬良ちゃんはどうやら、私がお昼を食べてる間に看護師さんが病院食を御馳走してくれたらしい。「ここの病院食ってクオリティ高過ぎでしょ」とは、部屋に入ってきた瀬良ちゃんの第一声である。気持ちは分かる。とっても良く分かる。
 私の惚気が一息ついたところで、改めてお互い挨拶しあう。

「……久し振りだね、棗子さん。幸せそうでなにより」
「瀬良ちゃんはとっても大人っぽくなったよねぇ! 昔からすっごいかっこよかったけど、更にかっこいいよ!」

テンションが上がり過ぎて、また瀬良ちゃんに「ちょっと落ち着こうよ」と言われてしまった。このペースだと、今日中にあと四回は誰かに言われてしまいそう。
でも、なにせ数ヶ月、下手すると一年振りの再会。たまに連絡を取り合って遊んでいたとは言え、別々の大学に入ってしまうと日常的にはお互いの顔を見れなくなってしまった。更に、三年生の半ばからはお互いに就活で手一杯になっていて、ゆっくり会う事なんてほとんど出来ない。そしてそのまま私は入院していたから、多少なりとも興奮してしまうのは仕方ないよ。自己正当化なんかじゃなくてね。

「子供が出来たなら、もうちょっと大人っぽくなってるかと思ったんだけどなぁ」

 そう言って少し笑った瀬良ちゃんに、「むぅ」と頬を膨らます。……確かに少し子供っぽいかもしれない。

「……棗子さんは本当に幸せそうだね。なんかこの世の春って感じ」
「ふふ、そうかな? 青春はそろそろ終盤だけど。瀬良ちゃんは最近、その……大丈夫そうで安心したよ」

 『あの事』をなんて言ったらいいか分からず言い淀んだ私に、瀬良ちゃんは言いたい事を分かったように「まあ、そうだね。大学入ってから落ち着いたからなぁ」と笑って頷いた。
 記憶にある瀬良ちゃんよりずっと落ち着いて大人びたその様子を見て、今更ながら高校生活はずっと前に終わっていて、大学だって私はもう行く事が無いんだという事がじんわりと胸に沁みてくる。
 なんとなく心のどこかで、私達はいつかあの高校時代に帰ると思っていた。そうじゃなくても、あの自由でちょっと気怠いけど不思議と活気のある大学生活がずっと続くのだと。でも、私はもう高校生でも大学生でもなくて、お腹の中の子を産めば比喩じゃなく私を取り巻く世界は変わるのだろう。
 でも、後悔はしない。だって、彼が植えてくれて、私が守って育てるこの種は、きっと幸せの種だから。

「……そろそろ時間かな」

 ふと瀬良ちゃんが腕時計を見て、ぽつりと呟く。もうそんなに時間が経っているのか、とびっくりしてしまった。話しているとあっという間だったから気付かなかった。
 久し振りに会えたんだし本当はもう少し話していたいけど、お医者さんからの制限という事はこれ以上はあまり身体に良くないのだろう。それはあまりよろしくない。というかとってもよろしくない。
それに、今生の別れという訳でもないんだし。
 座っていたパイプ椅子から立ち上がってドアに向かう瀬良ちゃんを、エレベーターまで見送ろうかと私もベッドから降りる。
瀬良ちゃんはドアノブに手をかけたところで、ふと動きを止めて部屋の隅にあった箱に視線をやった。

「……これ、なに?」

 瀬良ちゃんは中が薄青に塗られて、小さな建物などが入ったそこそこ大きな箱に軽く触れる。

「看護師さんが暇だろうからって持って来てくれたの。中に建物の模型とかを入れてジオラマを作るんだけど、上手く出来たから置いておこうかと思って」
「……ふぅん。通りで退屈してなさそうな訳だ」

 実は、箱の中の街はお腹の中の子を育てたい『理想の街』だったりするけど、現実主義者な瀬良ちゃんにそんな事言えば鼻で笑われるのは分かり切っているから、そこは秘密にしておく。
 瀬良ちゃんはそれでもう箱から興味が無くなったらしく、何度か「送るよー」「いや入院してる妊婦さんにそんな事させれないって」というやり取りをしてから、結局押し切られて見送りはしない事になってしまった。残念。

「じゃあ、元気でね」
「そっちこそ。お幸せに」

 客人を送った後の部屋に、再び緩やかな静寂が戻ってくる。久し振りに会った瀬良ちゃんの相変わらずな様子に、ほっと安心した。
瀬良ちゃんはそういう雰囲気になったら、あっさりと別れの言葉と共に部屋を出ていく。昔はそれがちょっと冷たい気もしたけど、今なら寧ろそのあっさりした空気が瀬良ちゃんらしくて好きだった。そういうところまで変わってなくて良かった。
 ……早く元気な状態で退院して、また話したいな。

「……よし、お母さんと一緒に頑張るよー。おー!」

 私の中の子にも届くように勢いよく、でもびっくりしないように小さく言うと、両手の拳を白い天井に向かって挙げた。

          ★

 手に持っていたコートを羽織って薄く色の付いたガラス戸を押すと、隙間から冷たい風が雪崩れ込んできた。暖房が効いた室内に戻りたくなるのを我慢して扉を開ける。
まだ暦上は秋とは言え、もう気温は冬並みに下がって来ている。数歩歩いただけでもう、身体の端から凍てついて取れていきそうだ。
罅割れたアスファルトが敷かれた広い駐車場のような場所を抜けて、門を抜ける。
門には朽木同然の木板に、褪せた薄い字で『×××病院精神病棟』と書かれていた。
最寄りの駅行きのバス停まで、私の足で十五分。長い間整備どころか歩行者すらいないような荒れた道を歩く。
緩い下り坂のため、行きよりは楽だが足元に気をつけなくてはいけないのが面倒臭い。道の両端は鬱蒼とした森だからか、心なし風が強かった。

「……寒い」

 冷たい風がコートの中まで這入ってきて、背筋が震える。私の中で呑気に寝ているであろう生き物が憎たらしくて、自分の腹の中に小言の二つや三つ言いたくなった。
 歩いていても景色が楽しめる訳でも無く、歩きながら出来る様な娯楽も持っていないので、自然と思考はさっきまでいた病院に向く。
 私がさっきまで古い友人と会っていたのは、所謂精神病院。当然だが妊婦を受け入れるような場所ではない。
 そしてこれも当然だが、棗子さんは妊娠などしていない。それに『彼』は妊娠させた相手を病院に入れるような心優しい人間ではなかった。
 この寒い日に窓を開け、冷たい風が吹き荒ぶ中穏やかに笑っていた彼女。
 彼女の目には、私はどんな幸せを上塗りさせられて映っていたのだろう。

「……まあ、考えたくも無いけど」

 自分を発狂させるまで追い詰めた人間が目の前に現れて、それでもニコニコ幸せ一杯に笑える人間の思考を、私は理解したくない。
 久し振りに見た棗子さんの笑顔は、高校時代から全く変わらなかった。

          ★

 私と棗子さんの付き合いは、高校入学からだった。そして棗子さんの幼馴染だった『あいつ』との付き合いも、大体同じ頃からだ。
 その頃家の事が上手くいってなかった私は今思い返すと実体がある幽霊のような状態で、自分から話す事は殆ど無かった。それでも私にくっ付いて来て一緒に行動する棗子さんがいて、そんな棗子さんの世話係のような立ち位置だったあいつがいて、私は孤立せずに表面上は穏やかな高校生活を送れた。
 ただ、私は問題無く学校生活が送れる事しか棗子さんには感謝してなかったし、奴に至っては『殺したかった』なんて過激な言葉を、何時だったかポロリと零していたけれど。
 あの時の私達三人の内、きっと棗子さんだけが心の底から幸せだった。私の無関心も知らず、彼の憎悪にも気付かず、彼女の世界には幸福の種しか無くて、世界からの愛情を吸った幸福の花が彼女の周りだけ咲き乱れているようだった。
 そしてそれは、今でも変わっていなかった訳だ。ただ、花の栄養分が変わっただけで。

「妊娠したのは私で、壊れたのは棗子さんで、いなくなったのがあいつか……」

 高校時代には予想出来なかった今に、溜め息を吐きたくなる。一つずつ後にずれるかと思っていたのに。
 考え事をしてる内にそれなりに時間が経っていたらしく、乗るのが不安になるような音を立ててバスがやってきた。低いステップを踏んで整理券を取り、一番後ろの窓際に腰を下ろす。
 乗客は私以外誰もいない。がらんと空虚な空気を乗せて、バスはゆっくりと走り出した。
 徒歩とは比べ物にならない速さで流れていく景色を眺めながら、私の思考は過去へと流される。
 妊娠が分かった時、既にあいつは行方を眩ませていた。その前から連絡は取れなくなっていたから、姿が無くなってもそれほど驚かなかった。
私は色々な人に助言を求めた。両親からの意見は聞けなかったけど、そういう体験談が載った本も読んだし映像も見た。全ての結論に一貫していたのは、『子供を愛する』事だった。
 愛していれば、どんな困難も乗り切れる。愛していれば、幸せになれる。愛していれば、愛していれば、愛していれば! 気が変になりそうだ。
 そしてさっき見た棗子さんの箱庭。青色に囲まれた世界は、兎に角詰め込んだという感じで小学生が作ったように乱雑なものになっていた。
 幸福の体現者のような棗子さんの世界がそうなら、私には産む事も愛する事も無理だ。やる前から答えは明白だった。
 両親は義務だから私を育てた。あいつは侮蔑と憎悪で私を犯した。私は怠惰で今までそれを放置していた。そうして出来上がったこの子には、愛なんて言葉が入る余地は無い。

『次は終点、××駅。お降りの際は忘れ物の無いようお気を付けください』

 女性の機械的な声で流れるアナウンスで、駅に着いた事に気付いた。
相変わらず周囲は木ばかりだが、低いビルが点々と建っている。いつの間にか町まで来ていたらしい。それにしたってやはり建物も少ないのだけど。
 交通系ICカードで運賃を払って、私はバスから降りた。
駅も外に切符販売機が一台あるだけで、殆ど無人らしい。時刻表を見ると、次の電車までは一時間近く時間があった。
普段なら喫茶店か何かに入るくらい空いているけど、生憎ここら辺で時間を潰せるところは無い。改札に入って、ベンチに座って待つことにする。辛うじて改札はICカードが使えた。
塗装が剥げて錆びたベンチに腰を下ろす。まだ立つのが辛い訳ではないけど、誰だって一時間好き好んで立ち続けたいとは思わないだろう。
 ふと気分が向いて、お腹に向かって声を掛けてみた。

「……ねぇ、どうしようか。どうしたい?」

 当たり前ながら、返事は無い。だからこれは、私が決めなくてはいけない事なんだろう。当事者に任せたかったけど、そうもいくまい。

『まもなく、一番ホームに列車が通過いたします。黄色い線の——』

 踏切が下がる音と一緒に聞こえたアナウンスに誘われるような気持ちで、立ち上がって線路の方に近寄る。
 靴の爪先が点字ブロックの端に重なる辺りで、立ち止まった。

「……ねぇ、不運だったね。わざわざ私なんかに入らなくても良かったのに」

 遠くから列車が線路を走る音が聞こえてくる。結構速いから、特急か何かなのだろう。
 飛び込むには申し分無い。

「でもさ、折角死ぬんだから……ねぇ、独りよりはマシでしょ?」

【クリスマス短編】コワレモノショウコウグン【R-18】 ( No.23 )
日時: 2013/12/25 08:03
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: A53dvSWh)
参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=big&illust_id=40477742

【頭骨と百合のお砂糖漬け-哀願S女と冷笑M嬢の快楽と思われる賛歌の断片-】



「ねぇ、愛している? 私を愛しているの?」

 ふふふ、と薄い笑みを湛える彼女の口元はそんな言葉を紡ぐけれど、冷泉を湛えた様な鋭い瞳は容赦なく私の裸体を突き刺す。
 勿論私は彼女を愛しているし、そう伝えたいけれど、喉の奥までゴワついた布切れを詰め込まれている身にはそれさえ叶わない。
 必死に呻いてはみるが、彼女は心底どうでも良さそうに「ふうん」と零す。 いつものように。
 そうしてその冷たい笑みの張り付いた口角を持ち上げて、手にしたカッタ—ナイフを私の目の前で静かに振る。

「貴女の、その綺麗な指先が気に入らないわ」

 そう言いながら、鎖で繋がれた、とても綺麗とはいえない私の指を撫でる。
 私のよりも遥かに美しい、細く骨ばっているけれども、繊細な透明感のある指が、私の指に絡みつく。
 その彼女の美しい指が握る血に錆びたカッターナイフ。 相反する様な醜と美の結晶が、私の指先をざくりと切り裂いた。
 悲鳴を上げようにも、喉の奥まで入り込んだ布はそれさえ許さない。
 それを嘲笑う様に、彼女は冷たい笑みのまま、私の指先を一本一本切りつけて、十字の痕を付ける事を楽しんだ。
 でも、彼女はそれを堪能した後、私を解放してから必ず自分の傷つけた箇所を優しく手当てしてくれる。
 血の止まらない指先にガーゼを宛がって、アラベスクの様に滲む血にうっとりと眼を溶かしながら、彼女は必ず問いかける。

「私を、愛しているの?」

 そんな彼女に、自由になった唇を重ねる事で私は答えるけれど、どうしてだか、いつも喪失感を感じるの。

「愛しています、ご主人様」

 舌を絡めて、彼女の歯の裏へ舌を這わせる様にして、そうして彼女の甘い口腔の香りを含んだ、舌に絡んだ唾液が糸を引く程に愛し合っても、何故だか空疎な出鱈目を浴びせた様な罪悪感に苛まれる。
 そうして気付く。
 嗚呼、私は彼女を愛しているけれど、その愛を正しく伝えた事がないんだ。
 彼女を愛しているけれど、彼女は私に愛された事が無いんだ。
 だから、今度は寄生木の下で、彼女に私の醜い愛を感じてもらおう。 そう、私は心に誓った。

*  *  *  *

「こんな事をして、後で覚えていなさいな」

 悔しさを滲ませる彼女の声に、私は自然と笑みを零した。 嗚呼、愉しんでくれているのね。
 彼女の艶やかな長い黒髪の奥に光る眼光が、普段の冷たいものでない事は残念だけれど、今日はそれで良いの。 今日だけは。
 彼女が楽しんでくれている事が嬉しくて、私は手にした鞭、家に有る物の中でも特にお気に入りの動物調教用の長い鞭を振るった。
 黒く輝く残光が舞って、一寸遅れて甲高い音が部屋に響く。 その後を、彼女の悲鳴が追った。
 いつもの澄ました冷たい声とは違って、彼女の悲鳴も鋭い高さを持ち合わせている。 私だけが知る彼女の声、とても幸せ。
 彼女らしい白と黒の華美なワンピースが無残に裂けて、その下の白い肌も朱を弾かせている。
 そこらの大人のオモチャとは訳が違うの。 ホンモノは、悦いでしょう?
 そんな事を思う目の前で、彼女は綺麗に並んだ小さな歯でその薄い唇を噛み切った。 屈辱的なのね、とても。

「もう、鞭はお止めになりますか、ご主人様?」

 普段は私が磔にされている、私の血が染み込んだ木の磔台へ拘束された彼女にそう問いかけて、私はそっと彼女の唇へ唇を重ねる。
 鋭い痛みと共に、ぶつんと軽い音が鳴ったかと思うと、私の唇は思い切り食い破られていた。
 だけれど、彼女が元気なのはとても嬉しい。 だって、まだまだ愉しめそうなのだもの。
 私はバタバタと血の流れ落ちる唇へ僅かに触れてから、彼女の頬を思い切りはたいた。 彼女の唇から、淡い鮮血が飛ぶ。
 痛みよりも驚きで固まった彼女へ微笑んで、私は彼女の額に血で濡れた唇で口付ける。

「これ、やりましょうか?」

 ふと私は思いついて、彼女に問いかけながら部屋の隅の棚へ手を伸ばす。
 古今東西、あらゆる拷問器具——その殆どは殺傷力がありすぎて使った事の無い物ばかりだが、が並ぶ棚から、大量の細い札と一本のナイフが入った瓶を手に取る。
 彼女の顔からさっと血が引いた。

「駄目、それは駄目」

 急速に勢いを失った彼女の声が微笑ましくて、私の口は自然に笑みを作る。 その表情に危険を感じたのか、彼女は僅かな余裕しかない磔台で手足をばたつかせた。
 暴れれば暴れるだけ枷が皮膚を破る。 それを彼女は良く知っているはずなのに、その枷から逃げられるはずもない事も知っているはずなのに、必死に逃げだそうとする彼女が堪らなく愛おしい。

「さっきまでの威勢はどこへ行ってしまったんですかご主人様? 普段の貴女は、もっと凛然としていらっしゃるでしょう?」

 ふふふ、と零して、私は瓶に入った札を一枚引いた。 札には『親指』と書かれたいた。
 私はその札を彼女に見せて、彼女の表情が引きつるのを眺めて、瓶からナイフを引き抜く。
 小ぶりな、だけれど刀身が波打った、美しい装飾のナイフ。 これは彼女の美しい手が握れば芸術品なのだけれど、私が握っても、何も感じない。

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つづく。

【クリスマス短編】コワレモノショウコウグン【R-18】 ( No.24 )
日時: 2013/12/24 21:37
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: PJ6eXMON)
参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode

続き。

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「このナイフ、クリスダガ—と呼ぶんですってね。 動かないでくださいね、他の指まで切ってしまいますから」

 ガタガタと震える彼女が愛おしくて、私は優しく声を掛ける。 そうして、その良く切れるナイフで、彼女の親指の肉を抉った。
 やっぱり彼女の指は骨ばっていて、ナイフが骨にぶつかるのがわかる。
 彼女の絶叫が空気を劈く。 暴れるせいで、彼女の親指は骨ごと半分ぐらいの太さになってしまった。
 同じように何枚か引いて、彼女の耳や胸、太腿何かを抉った頃、私は彼女の傷の止血をした。
 拷問器具の並ぶ棚から血に汚れた包帯を取って、適当に止血をする。 いつもはされる側だから、止血の仕方が良く分からない。
 そうして、次で最後、と思って引いた札に、彼女が叫んだ。

「お願い、それは駄目! そこは止めて、本当に、お願い!」

 彼女の疲れ切った声が、精一杯言葉を振りしぼる。 だけれど、引いてしまった札は戻せない、それが決まりなの。
 その札には『右目』と書かれていた。 私は、自分の右目に当てられた眼帯を、ゆっくりと外す。

「ご主人様とお揃いになれるなんて、幸せです」

 眼帯の下にぽっかりと空いた空洞を凝視して、彼女は息を飲む。 彼女自身が抉り取った私の右目。
 その時の私の狂わんばかりの絶叫を思い出したのか、彼女の赤く彩られた脚を多量の水分が伝った。
 僅かな刺激臭が鼻孔を刺激する。
 その光景があまりにも甘美で、私は血流が熱を帯びるのを感じた。 それらは直ぐに確かな高揚になり、欲望を帯びた水分となって秘所を濡らす。
 背徳的な絶頂さえ感じて、私はナイフを握り直した。

「じゃあ、いきますよ。 動かないでくださいね」

 そう言って、私は彼女が暴れ出すよりも早く彼女の右目にナイフを突き立てた。
 人間はこんな声が出せるのか、と思う様な絶叫が上がって、彼女が咽返る。 叫びすぎて喉が切れたらしい彼女は酷く色の薄い血を吐いた。
 あまり暴れられて脳までナイフが刺さるといけないので、私は慌ててナイフを引き抜く。 刃先に、目玉が付いてきた。
 嗚呼、彼女の、ご主人様の目玉だ。 そう思うと、私は考えるよりも早くその目玉を口に含んでいた。
 鉄の味ばかりで、中の水分がどろりと舌の上で広がる。 すぐに嚥下するのは勿体ないから、もう少し堪能してからにしよう。

「この眼帯、お貸ししておきますね」

 私は新しいおもちゃを手に入れた子供の様に口の中で目玉の残骸を転がしながら、外した自分の眼帯でそっと彼女の血を流す右目を覆う。
 私の手が近づくと、彼女はガタガタと歯の根も合わないほどに震えて、足元の水たまりが大きくなった。

「あらあら、はしたないですよ。 蓋、しておきましょうか?」

 私は問いかけながら彼女のスカートをナイフで切り開いて、羞恥的な水分に濡れる彼女の秘所へ顔を埋めた。
 鼻孔を刺激する刺激臭は、舌にもじんわりと刺激的で、それがまた愛おしくて、私は夢中で舌を這わせた。
 彼女の花菱はすぐに私の唾液と甘露に濡れて、私の脳内を溶かしていく。 嗚呼、やっぱり愉しんでくれてるのね。
 充分に彼女のそれが粘度を含んだ事を確認して、私は再び隅の棚へと向かった。

「嗚呼、お願い、もう止めて」

 力無く哀願する彼女の声を背後に聞いて、私は目的の物を手に取った。
 銀色の、掌の上に乗り切るような大きさの物体。 綺麗な彫刻の彫られた、洋梨の様な形の拷問具。
 それを彼女に見せて、私はいつも彼女がやる様に、冷たい笑みを彼女へ贈った。

「私もまだ使ったことは有りませんけど、きっととても悦いと思いますよ」

 そんな事を他人ごとの様に言って、私はそれが正しく動くか確認した。 美しい芸術品は、キリキリと僅かな音を立てて、問題無く動いた。
 彼女はもう暴れる気力も体力も残っていないのか、僅かに嗚呼、と零す。
 そんな彼女に唇に血の乾いた唇を重ねて、私はそっとその銀色の洋梨を彼女の秘所に宛がった。

「嗚呼、無理よ、そんなの入らない!」

 最後の気力を振り絞って紡がれた彼女の声を唇で塞いで、私はゆっくりと手に力を込めた。
 まだ男を受け入れた事のない彼女の聖域を、銀色の洋梨が侵す。
 彼女の悲鳴が切れ切れに上がって、その度に彼女の秘所は洋梨を押し戻すように伸縮した。 とても妖艶で、欲情を煽る動き。
 私はいつの間にか自分の脚の間へ空いた手を伸ばしている事に気付いたけれど、もう自制は効かなかった。
 彼女の脚を伝う破瓜の鮮血を舐め取って、私は快楽へ堕ちる。 落下する様な急速な絶頂を感じる瞬間に、思い切り彼女へ洋梨を押し込む。
 絶頂の悲鳴と、彼女の悲鳴が重なった事が、私はとても嬉しかった。
 そうして僅かに顔をのぞかせるヘタの部分へ指を絡ませて、私はいつの間にか折っていた膝を伸ばす。

「とても、とてもとても愛しています、ご主人様」

 そう言いながら彼女に口付けて、私はそのヘタを回した。 彼女の中で、朝顔の様に洋梨が開く。
 ゆっくりと、執拗に、もう既に許容できる大きさを遥かに超えた彼女の秘所を押し広げていく。
 彼女は打ち上げられた魚の様に、僅かな空気を求める様に切れ切れの悲鳴を上ていた。 もう、反抗する余裕もないらしいのは少し残念。
 私は再び背徳的な絶頂が近い事を知った。 嗚呼、なら、一緒に。
 そう思って、私は彼女の咥えこんだ洋梨のヘタを、思い切り回す。 美しい機械仕掛けは僅かな停滞も見せず、彼女の聖域をズタズタに引き裂いて、もう一度彼女の絶叫を響かせた。
 私は、今までにない大きな絶頂の波に飲まれて、私の視界は白く塗りつぶされた。

*  *  *  *

 どれほどの時間、床で果てて居たかはわからない。
 だけれど、私が目覚めた時、彼女は寄生木の下に設えられた磔台で息絶えていた。 無残に引き裂かれた秘所から滴る鮮血が、その下の血だまりに落ちて虚しい音を奏でる。
 私が、愛すべき小さな死を迎える時、彼女が紛う事無き死の淵へ堕ちていった。 それだけで、私は満足。
 私は力無い彼女の華奢な体を丁寧に解放して、お風呂場で綺麗に汚れを洗い流した。
 元の形にして彼女の中から取り出した洋梨も、綺麗に洗った。
 洗い流して、もう一度開いてみると、洋梨よりも百合に似ている気がする。 そうだ、百合の花の、お砂糖漬けを作ろう。
 思い至った私は寝室の花瓶から乙女百合を引き抜いて、手頃な瓶にお砂糖とお水と一緒に詰め込んだ。
 だけれども百合の花はすぐに浮かんできてしまう。
 私はもう少し大きな瓶を用意して、中身を移して、何か重石になる物を探した。
 そうして完成したお砂糖漬けの瓶、乙女百合と角砂糖と、金平糖と、それから頭骨の沈んだ美しい瓶。
 それを眺める度に私を苛む空虚な喪失感。 戒めの様にふと痛む、無くなった右目。 その全てが、私たちの愛し合った証。
 痛みも、孤独も、貴女の与える全てが、私の幸せ。

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Fin.

Re: 【表題】コワレモノショウコウグン【更新】 ( No.25 )
日時: 2014/01/09 12:44
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: LWAPAHAd)


【表題:オスカーワイルドを気取って】

 俺には何時でも孤高の場所があったけど、友人なんてのは居なかった。
 俺には何時でも暴発寸前の自分自身があったけど、理解者なんてのは居なかった。
 鞘に収まらないナイフの様な愛が、明日にでも錆び付いてしまいそうで、それを研ぎ澄ます事だけが生き甲斐だった。

 お前がその悪趣味な光輝く仮面の下で、計算高く笑うのを、それをお前が愛だと言うなら俺はそれで全く構わない。
 だから俺の愛がお前をバラバラにして、ダイヤモンドみたいに綺麗な断面にしちまったって、それは俺の愛に他ならないんだよ。
 お前は何時だって媚びへつらって甘い声で賎しい物乞いみたいな事を言うが、俺には全然関係ないね。

 口を利くのも億劫で、お前の下らない理想なんて掃き溜めのゴミみたいなものさ。 そんなものを聞いてるぐらいなら、ポルノの宣教師がばら蒔くファックな冗談の方がまだましだった。
 上っ面なお前の言う愛なんてものは「ハイル!」と敬礼してぶっ壊すよ。 ナチス式進行で後ろから入ろうか。
 そいつらは全部俺の愛で、お前が理解する必要なんてこれっぽっちもない。
 お前が泣き叫ぶなら俺はまた暴発寸前に戻れば良いだけで、誰もお前の理想に付き合う気なんてありゃしない。

 だけどお前がどうしても俺を理解したいって言うなら、スカした商売女にも解るように簡潔に説明しようじゃないか。
 きっとその時俺は言うだろうね。 お前の手足を縛り上げて、錆び付いたナイフで俺の名前を彫って、お前の唇を喰い千切りながら、オスカーワイルドを気取ってさ。

「女は皆淫らであるべきであって、話を聞いてやるべきものじゃないんだよ」

 俺の愛は、全くそう言うことって訳だ。

 だけど勘違いしないでくれよ? 俺は何もお前の全てを俺の中から弾き出そうってんじゃないんだ。 俺はお前を誰より理解してる。
 だから言うのさ、お前の愛も理想も、知ったこっちゃないってな。
 俺が何故ポルノ映画の台詞を暗記してるか知ってるか? お前の「愛してる」なんかよりよっぽど信用出来るからさ。

 愛なんて、そんなもんさ。
 俺もお前も、人を愛すには不器用すぎる。


——喜劇役者、グルーチョ・マルクスの言葉" Womwn should be obscen and not heard "より解釈。
コワレる程に、人を愛し、コワレる程に、愛されたくて。


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