複雑・ファジー小説
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- 【散文】コワレモノショウコウグン【掲載】
- 日時: 2014/03/26 19:49
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: zLcGFy2P)
- 参照: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=big&illust_id=40477742
——コワレる程の、愛を捧ぐ。
* * * *
僕の愛はコワレモノ、いつもきみはコワレモノ。
* * * *
●クリスマス短編●
上記参照がクリスマス短編の表紙になってます。
>>23-24
【頭骨と百合のお砂糖漬け-哀願S女と冷笑M嬢の快楽と思われる賛歌の断片-】 R-18
注意:『SM』『同性愛』『グロ』『拷問』『流血』『殺害』『微エロ』『食人』描写有り。
【お知らせ】
●アンソロジー参加者様各位、お疲れ様でした。
素晴しい作品をありがとうございます!
【大事なこと】
●宣伝は結構ですが読んでないのに「面白いです」とか要らないです。 面白い話とか書いてません。 こっちにも挿したら怒るよ。
【先にご注意】
個人的にはカキコ最狂を目指します。
エログロ食人、同性愛なんでも有りの短編集です。
しかしテーマは全編通して「愛」です。
話毎にタイプは変わりそうですが、個別に注意書きとか書くと興が冷めそうなのでこちらで先に言っておきます。
生々しいのが無理な方、ここでブラウザバックお願いします。
他はまぁ、ありきたりな感じです。
●おにーさんがアンチな方はブラウザバック。
●えすえむ苦手な方はブラウザバック。
●大人の性事情とか知りたくない方ブラウザバック。
●指切るとか眼抉るとかグロいの無理な方ブラウザバック。
●↑で入手したパーツをmgmgするとか無理な方ブラウザバック。
●恋愛に夢見てる方ブラウザバック。
●善意在る指摘、添削意見はドンと来い((
●「これはそろそろ消されるんじゃね?」とか感じたらおせーてください。
●一レス読み切りぐらいの気持ちで書きます。ほぼss的な感じ。
長編希望の方、余所へどうぞ。
●コメントは頂ければ喜びますが、一時保存中や話の途中には差さないで頂けると幸いです。 コメント頂いた方、参照貼って頂ければお返しに伺わせて頂きます。
ではどうぞ、貴方の中のコワレモノを、一緒に探してみましょう。
コワレモノショウコウグン、それは誰しもが罹る病です。
【目次】
>>1 表題:コワレモノショウコウグン
>>2 きみにあげる R-12 グロ有
>>3 束縛 (7/25 いちほ 31完結)>>6にて少し解説
>>9 ひとりじめ (8/26 完結) R-15 流血描写 mgmgします。
>>10 S.E.L.D (9/2 いちほ 9/7 9/12更新 9/16完結) 微エロ有
>>25 表題:オスカーワイルドを気取って
>>26 少年採集Ⅱ (1/19いちほ 1/29更新 2/6完結)同性愛表現有り
>>27 金魚姫のままの夢
【アンソロジー企画:この種を孕んで】
>>15 アンソロジー表題:Act Cadenza
>>16 たろす@作 /【この種を孕んで】
>>17 柚子様作 / 「この種を孕んで」
>>18 ハル様作 / Out Of Frame_0 この種を孕んで。
>>19 陽様作 / 【この種を孕んで】
>>20 黒雪様作 / 【Anthologie】 —*この種を孕んで*—
>>21 日向様作 / 「この種を孕んで」
>>22 夕凪泥雲(唯柚)様作 / 【この種を孕んで —青い鳥籠—】
【コメント頂いたお客様】
lp様 / 柚子様 / 友桃様
【企画参加頂いた方々】
柚子様 / ハル様 / 陽様 / 黒雪様 / 日向様 / 夕凪泥雲様
【略歴】
13/07/13 スレ立て
9/05 参照500
9/13 参照600
9/22 参照700
10/6 参照800
10/14 参照900
10/19 参照1000
10/24 参照1100
11/03 参照1200
11/11 参照1300
11/27 参照1400
12/14 参照1500
12/30 参照1600
14/1/19 参照1700
2/10 参照1800
3/26 参照1900
- Re: 【企画】コワレモノショウコウグン【アンソロ始動】 ( No.15 )
- 日時: 2013/10/14 06:22
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: smnt7Sg1)
【アンソロジー企画表題:Act Cadenza】
綺麗な色、綺麗な言葉。
滑らかな質感、泡沫。
優しい言葉は、いつもそう。 曖昧で、軽快、そうしてすぐに綻ぶの。
崩れ去る時も軽快で、嗚呼、またこうして私は一人になるのねと、心の中で反芻、だけれども、それもつかの間。
私の中で、優しい気持ち、悲しい気持ち、どう名づければ言いのか分からない気持ち。 溢れ出して、混沌と。
恐ろしいほどの速さで、感情は入れ替わる。 崩れ去りながら、また、生まれる。
延々とこの胸を啄んで、終わりの無い苦痛の渦がこの胸には在るの。
私を包む建前の感情の中、この醜い想いを抱えて、私は今日も生きる。
だけれども、私はこの醜い感情が、どうしても嫌いになれないの。 誰もが持つ、いたいけな醜さ。
さあ延々と歌いましょう、この醜い感情を。
さあ延々と奏でましょう、この悲壮な想いを。
さあ綴りましょう、貴方の、その内側に隠した、コワレモノを。
ゆるり巡る一日は、昨日の延長線、繰り返すばかり。
なのにどうして私たちは、毎日同じように何かを感じられるの?
それはきっと慣れてしまう脆さを知っていた私たちが、今日を愛するために選んだこと。
それはきっと期待しなくなってしまった私たちが、明日を夢見るために選んだこと。
例えば繰り返し来る今日を感じて、明日を予想するとしたら?
歪んだピントに狂う心、嗚呼、滑稽。
意地汚い私たちは、どんなことも貪欲に搾取するの。
そんな私たちが生きた今日には、いったい何が残るの?
明日に芽生える種を孕むには、枯れすぎてしまう。
だからきっと私たちは、毎日繰り返す日常に、繰り返し感情で答えるの。
醜い私たちが出来る、私たちへの手向け。
どうせどれも同じ様に醜いばかりの心なら、もう何もかも語りつくしたようなもの。
だからほら、臆さずに描きましょう?
建前で飾り付けた安物のスーツを脱いで、汚れ物同士腕を回して、そうしてどんどん堕ちていくの。
罪悪の素晴しさを語って、今日を愛せなかったことを嘆いて、また新しい今日へ帰りましょう?
そうしてほら、本当の自分、コワレモノを吐き出した貴方は、この新しい今日に目を覚まして、きっと明日が来て欲しいと言うわ。
本当は他の誰のようにもなりたくないから。
そうして新しい今日を感じて、貴方は明日に願いを掛けるわ。 自分自身でさえ居たくは無いと。
そうして抱きしめるわ。 貴方自身が吐き出した、その醜いコワレモノを。
* * * *
cadenza(カデンツァ):伴奏を伴わない即興で弾く 素晴しいソロ。 楽章の締め、見せ場。
アンソロジー企画に参加いただいた全ての方々に捧ぐ。
- Re: 【企画】コワレモノショウコウグン【アンソロ始動】 ( No.16 )
- 日時: 2013/12/26 10:40
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Z9bE6Hnf)
アンソロジー企画【この種を孕んで】
——ただただ暗い闇の中、埃とカビと、涙の臭いの中で想う。 嗚呼、この声はどうすれば止まる?
熱を持って腫れ上がった頬はいつしか涙も乾ききり、ただただ聞こえる、母親の罵声。 その口を塞ぎ、喉を切り裂いて、声を止める妄想だけが、心の拠り所。
「でかいのは体だけ、鈍間な穀潰し。 何で生まれてきたんだろうね」
そんなことを言われたって。 俺だって親が選べたなら、こんな処には生まれなかった。
殴られた全身の痛みも忘れて、甘い妄想に微笑んで、怨嗟の声は胸の中で。 ただただ芽生えて、育ち往く。
* * * *
車通りの少ない国道は今日も居心地が良い。 遮る物も、縛るものもない。 速度制限も、有って無いような物。
ステレオから流れるラジオでは、陰鬱な経済と他愛ないエンタメの話。 どこにでもある、唯の日常。 まるで白紙のような。
「大学の友人の家から帰るところなんですけど、乗せてくれる人が居て本当に良かった」
楽しそうに聞こえる、助手席からの声。 ヒッチハイクは金のない大学生の十八番。 断りにくかっただけ。
聞こえてくるのは友人の話、学校生活の話、将来の夢、思い出話。 楽しそうな、唯の声。
俺にはそんなもの、何もない。 ただ、芽生えるだけで世話もされない、植えつけられた種がひとつ。 まるで白紙の上の、インクの染み。
「お兄さんの話も聞かせてくださいよ」
嗚呼、どうすればこの声を止められる? どうすれば、この芽を摘める? どうすれば、良い?
「じゃあ少しだけ、俺のことを話そうか」
耳を傾ける女子大生。 俺は、燃料メーターと道路標識とにらめっこ。
そう、そんな感じだ。 昔から。
俺は生まれたときから母親の暴力と罵声に悩まされていて、十代半ばで家出した。 逃げ出した先は祖父母の農場で、母親以上に口うるさい祖母に悩まされた。
俺の名前はどうせ誰も気にしない、俺の知能指数なんて誰も信じない。 身長が2メートルを超えてたって俺は臆病な穀潰し。 社会の塵みたいなもの。
5年と少し前、俺の目の前に八つ裂きにされた祖母の死体が転がってて、白煙の上がるライフル銃が祖父の胸に火線を引いた。 何故か? 知らないね。
刑期を終えて、また母親の下で苦しんで、今に至る。 そんな他愛ない、唯の臆病者。
話しながら俺は自分の内側で、芽生えていた芽が急速に成長するのを知った。 幼いころに孕んだ種が、妊婦の腹みたいに膨らむのを。
産み落とされた感情は、どこに行けば良い? 独り歩きするこの浅ましい意思を、どう抑えれば良い? 俺には、なにもわからない。 白紙の様なこの生に、意味など、あるものか。
だから女学生を車から引き摺り降ろしたのも、強引に服を引き裂くのも、特に理由らしい理由は思い浮かばない。 両親に対する歪んだ復讐、人がそう言うならきっとそうなんだろう。
ただ、幼い頃から俺を苛む、女の罵声が鳴り止まないんだ。 重ねて聞こえるのは、叫び声と、殴り付ける音と、それから芽生えた感情が、花開く音。
気付いたとき、俺は首のない女の死体を抱いていた。 まだ僅かに熱を持った女の体内、そこへ解き放たれた、ひっそりと咲く白い花弁。 嗚呼、喋らない女なら、愛せるのか。
それから何度同じことを繰り返しただろうか。 何人の首のない女と寝ただろうか。
それでも、俺を罵倒する女の声は、変わらずに鳴り響いていて。 そうして、俺はこの大輪の花が何処へ行きたいのかを知った。
俺の孤独な逃避行に、終着点が見えた。
「ただいま、母さん」
俺は何日かぶりに家に帰って、母親の寝室をノックする。 何だか、新鮮な感覚。
「何だ、帰ってきたのかい。 お前みたいな負け組が帰ってくるから、五年も男と寝られないんだよ。 どうして帰って来たんだろうね」
返ってくるのは、聞き慣れた悪態。 いつも鳴ってる、女の罵声。
でもこれで、きっと鳴り止む。 俺は母親の寝室へ足を踏み入れた。
「母さん、花を摘もう。 今頃はきっと綺麗に赤く色付く頃なんだ」
言いながら俺は何度も腕を振った。 握られた金槌が立てる鈍い音が、段々とびちゃりびちゃりと湿気を持つまで、何度も何度も何度も何度も。
幼い頃、ホコリとカビと、涙の臭いが充満する暗い物置で、暴力と共に植え付けられた復讐の種。 子供心と言う豊潤な土が孕んだ、緋色の夢。 俺の心が身籠った種子は、永い歳月を掛けて大きく膨れ上がったんだ。 嗚呼、懐妊。 生まれ落ち、漸く芽生えた小さな狂気は、独り歩きで此処まで来た。
この種が、今真っ赤に塗れた花が、枯れて、実を結ぶんだ。
なのにどうして、鳴り止まない。 嗚呼、そうか。
俺は無表情に母親の首を落として、綺麗な断面の喉に手を突っ込んで声帯を引きずり出す。 ミンチにしてしまおう。
「声帯が無ければもう、俺に憎まれ口を利くことも出来ないね」
声帯をミキサーに突っ込んで、首のない母親に自分の臆病な棒切れを突っ込んで、俺の孕んだ種は漸く実を結んだ。 嗚呼、もう何も、聴こえない。
そうして結んだ実が落ちて、新しい種を孕んで、俺はもうその種が芽生えた事を知った。
最初から、知ってたのかもしれない。 白紙の上の染みが、少しだけ大きくなった気がした。
俺は警察へ電話を掛けて、濡れて広がった染みを抱き締めるように想った。
* * * *
「以上が被告人の調書と犯行の全容であり、このような凶悪且つ冒涜的犯行を行った被告は生涯釈放されるべきではない」
声高に聴こえる男の声に、空気を引き裂かんばかりの賛同の声が上がった。
「仰る通りです、判事」
俺の口から零れたのは、それだけだった。
新に芽生えた感情、摘み取った大輪の感情、それらの、本当の声。
首のない母親を犯しながら、枯れ果てた筈の涙を流して悟った真実。
新なこの種を孕んで気付いた事。
本当はただ、愛されたかっただけなんだ。 本当は、愛していたんだ。
もう実ることのない種を孕んだまま、檻の外に居る理由は何もない。
唯一人愛されたかった人は、もうこの世には居ないのだから。
涙で広がった染みはある意味で、白紙のようだった命を彩った気がした。
* * * *
Fin.
- Re: 【アンソロ】コワレモノショウコウグン【投稿開始】 ( No.18 )
- 日時: 2013/10/16 23:02
- 名前: ハル ◆pppAtQkMuY (ID: QXmYx0S/)
Out Of Frame_0 この種を孕んで。
ただ。その日は。
いつもと変わらない日常。
青春の1ページとか言った格好良いものでも、無く。
同じ様な繰り返しの中の、一瞬。
積み重なる日々の、たった1ページ。
存在しなくても。良かったのかもしれない。
僕にとっては。
でも。彼女にとっては、素敵な日であってほしい。
あの時、降っていた雨の様に。
彼女が涙で埋もれてしまわない様に。
願う。それしか僕には出来なくて。
その日は、朝から雨が降り続いていた。
まるで、誰かが悲しみに暮れた涙の様に。
止む気配を感じさせない、雨。
少し早めのいつもの帰り道。
人通りの少ない細い路地。
雨音が激しく鳴り響くアスファルト。
ビシャン。びしゃん。ビシャン。
そのアスファルトの上に。
傘を持ったびしょ濡れの猫さんが、ひとり。
「こんな所で、どうしたんですか?」
同じ高校の制服を着た、少女。
小さい体に、ボブ丈のふわふわ揺れる黒髪が印象的な。
同じクラスの学級委員の、彼女。
しゃがんだ体制から、僕を見上げる彼女。
大きな瞳が、こちらに向いて。
そして、ぽろぽろと。
ドロップが瞳から、零れ落ちて。
それは、降っている雨にも負けない。
大粒の、なみだ、だった。
彼女が、何故泣いているのか。
僕の頭を過ぎったのは、そんな簡単な言葉ではなく。
自分でも、驚くほど唐突な、感情。
綺麗だ。と、思った。
思わず、言葉を失ってしまう程に。
美しい涙。悲しみの、涙。
悲しみの涙が、こんなにも。
こんなにも、美しいと思ったのは。
彼女が、初めてで。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
彼女は、手で顔を覆う。
その、小さい手の隙間から、大きな瞳をちらちら覗かせて。
ひっそり。呟く。
たんぽぽ。
あまりに思いがけない言葉に、動揺する。
でも、彼女はその言葉を噛みしめる様に、何度も。呟いて。
たんぽ、ぽ。
た、んぽぽの、わた、げがね。
ひくひく言いながら、いっしょうけんめいに。
精一杯の言葉を繰り返す姿が。
たまらなく、愛おしくて。
僕は、頷く。何度も。頷く。
たんぽぽの綿毛がね、
この雨で濡れちゃって、遠くへ飛べなくなっちゃうでしょ?
黒い瞳が、じっと見つめる先に僕も視線を移す。
彼女がさす、桃色の傘の下には。
たんぽぽの綿毛がひとつ。
アスファルトの隅に。ひっそりと。
降りやまない雨の中。頼りなさげに。
でも、確かに。そこに。力強く佇んでいて。
それだけの為に。
このたんぽぽが、濡れて種が飛ばせなくなるが為に。
彼女は、学校を休んで朝からずっと。
このたんぽぽに傘をさしていたというのだ。
他人から見れば、あまりにも滑稽な出来事。
そんな彼女を笑う事も、とても容易くて。
でも、そんな光景を前に。思いがけない言葉が口を通り抜けて。
「そんなに泣いたら、君の涙で、
たんぽぽの綿毛が濡れてしまうよ?」
そう。そうだ、ね?
そう言いながら、彼女の涙は留まるところを知らない。
ぽろぽろ。ぽろぽろ。
さらに加速する。涙。
ずっと。降り止まない、雨。
これじゃあ、あたしも雨もおんなじだ。
一緒に居ちゃ、いけないね?
彼女は、制服の袖でちからいっぱい涙を拭いて。
たんぽぽの横に自分の傘をいて。
小さい体で、一生懸命背伸びをして。
雨で冷えてしまった手を。めいいっぱい僕の耳に翳す。
僕の鼓膜に、柔らかな声が響く。
「教えてくれて、ありがとう。またあした、ね?」
ひらひらと。手を振って。
涙の雨の中。背筋を伸ばしたびしょ濡れ猫さんが、ひとり。
あたし。もっと、強くならなくちゃいけないから。
そう言いながら、ふわふわと歩いて行く彼女の姿が。
とても、力強く見えて。
あの映像が、忘れられ、ない。
その日が彼女と出逢った、最初で最後の日。
次の日。
教室に彼女の姿はなかった。
担任は、彼女が家庭の事情で、退学した事を告げた。
そして、彼女に関するひとつの噂が流れた。
あの子さ、妊娠してたらしいよ。
もう、その噂が真実であるかすらも解らないのだ。
彼女は、僕の目の前には存在しないのだから。
それでも、僕は。それが、真実であると思った。
だって。あの涙の意味も。
守り続けたたんぽぽの意味も。
全てが理解出来た様な気がして。
僕はまた、あの日と同じ様に笑った。
やっぱり。1ページなんかじゃ、ない。
僕にとっても、大切な瞬間だった。
一生、忘れない。鮮明に焼き付いた、記憶。
ずっと。色褪せる事の無い、フィルム。
来年の春。彼女のように。
力強く、儚く咲く。たんぽぽに。
逢えればいい。
きっと。必ず。
...End。
- Re: 【アンソロ】コワレモノショウコウグン【投稿開始】 ( No.19 )
- 日時: 2013/10/19 15:29
- 名前: 陽 ◆Gx1HAvNNAE (ID: ixlh4Enr)
- 参照: http://crazy1030love.blog.fc2.com/
アンソロジー企画【この種を孕んで】
こんなに探してるのに、どうして見つからないの。
私のなかで、息もできないほどに大きくなったこれを与えたのは、間違いなくあなたなのに。
どうして、あなたはその欠片すらも持ってないの。
どうして、私があなたに与えることはできないの。
流石に腕が上がらなくなってきたので、手を休めて夜空を仰ぐ。
繁華街の光を反射しているせいで何色なんだか分からない曇天。好きだとも、嫌いだとも思ったことはなかったけれど、今夜はひどく馴れ馴れしいものに思えて、嫌悪感がじわりと広がった。
私とあなたさえいれば、この世界には空だっていらなかったのに。
あなたの瞳に他の何も映したくなくて、私は慌ててあなたの顔を覗き込んだ。
ああ、と思わずため息がこぼれる。
街灯に白く照らされたあなたの顔に、漆黒の瞳がうつくしい。
じっと見つめると、そのなかで私が私を確かに見つめ返していた。
でも、知っている。
私から見たあなたの瞳には私が映っているけれど、本当は私を映してなんかいないこと。
今まで一度だって、あなたの瞳に私が、私の望むように映ったことなんてなかった。
この瞳も、私のためのものではないの、それなら。
私の右手から、血と脂でべとべとした鉈が滑り落ちる。
乾いた音を立てて地面に横たわったそれをほったらかしにして、私はあなたの瞳に手を伸ばした。
ここにも、私は根付けない。
眼球の周りの繊維が離れるのを拒むように邪魔をしたけれど、無理やり引っ張ると視神経がぶつりと切れる。
思ったよりも重くて硬いあなたの左目を手のひらにのせると、あの感情がまた膨らんで、軋んだ音が聞こえた気がした。
この瞳を、愛していた。
この瞳が、私にこの感情を孕ませたのに。
あなたの瞳には、私にこれを植え付けた痕跡なんてどこにも見当たらない。
どうして。
この恋情を見ようともしなかったの。
私が摘み取ってしまいたかったこれは、涙と嗚咽を吸い上げて見事なまでに大きく育って。
実を結ばないとわかってたのに、私にはこれを消す術がなかった。
そしてあなたは、散るだけの花があるなんて思いもつかなかったのでしょう。
私は言った、あなたを愛していると。
あなたのなかに、少しでも私を残そうと必死で、これ以上ないほどの激情をのせて。
あなたは言った、私を愛していると。
多すぎる友人のうちの一人に対する社交辞令として、私の望んだものを何一つ含まないただの言葉として。
私のなかに収まりきらなくなった感情が、私の両目から溢れ出した。
濡れた頬の冷たさを拭い去ることも、瞬きさえもせずに、私はあなたを見下ろす。
他の人が今のあなたを見ても、あなただとはわからないかもしれない。
私を想って高鳴ることのないその心臓も、私に愛を歌わないその喉も、私と絡まることのない腕も。
残しておいても無駄だから、ぜんぶ壊してしまった。
私の全身にあなたは枝を伸ばして、こんなにも激しく広がっているのに。
あなたのどこを探しても、私は種さえ植える場所を見つけられない。
この恋情は徒花そのもの。
芽生える前から散るだけとは知っていたけど、それでも花は開いてしまった。
どうして。
私は、こんな愛しか知ることはできないの。
私はゆっくりと足元の鉈を拾い上げた。
こんなに変わり果てた姿でも、私はあなたがいとしい。
そして、この場所だけは、あなたに私の欠片さえ残せないとわかっていたから、いちばん最初にまっぷたつにしてしまった。
けれど、今になって別の思いが湧き出してくる。
これがあるから、だめだった。
私は両手で鉈をしっかりと持つ。
手が震えたけれど、取り落とすことはなく、それを振り上げた。
最初から、他の奴のための場所。
私の為にはつくられなかった。
もっともっとぐちゃぐちゃにして。
男とか女とか、なかったことにしてしまえば。
***
第一発見者は、近くの店の若い従業員の男だった。
清々しく、よく晴れた早朝。
繁華街を少し外れた裏路地で、その死体は見つかった。
彼が通報する前に現場にまき散らした吐瀉物は捜査に大いに支障をきたすこととなったが、駆けつけた捜査一課の刑事たちは無理もないことだと思った。
それほどに悲惨な光景だったからだ。
四肢はばらばらで、血とともに臓器の断片が辺りに飛び散っている。
殊に下腹部——ちょうど子宮のあたりはもはや原形を留めていなかった。
被害者の身元がわかるまで、それが女性だとは判別しがたいほど、その死体はひどく破壊されていた。
彼女の交友関係を洗い出さないことにはわからないが、男女関係のもつれが原因に違いないとその場にいた誰もが思った。
まもなく、いつもは静かな早朝の繁華街は、捜査員とマスコミで恐ろしく騒がしくなった。
どのように見出しを付けて報道しようかと、カメラを片手に現場に近づこうと頑張る記者の薄汚れたスニーカーが、
風に吹かれて落ちた小さな薄い黄色の花びらを、音もなく踏みつぶした。
————————————————————————
一般的にはナスの雄花を徒花と言うそうですが、雄花だって自分の遺伝子を残せるんじゃないかと。
雌花だって種子を残さなきゃ徒花でしょうよと。
そんな感じです。
とっ散らかった文章ですみません;
- Re: 【アンソロ】コワレモノショウコウグン【投稿開始】 ( No.20 )
- 日時: 2013/10/24 07:21
- 名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: u/mfVk0T)
芽生えたそれは、風に吹かれてどこへ行く?
【Anthologie】 —*この種を孕んで*—
——美しすぎるモノは、箱の中に『永遠に』しまっておきたいの。
誰かに、盗まれたくないでしょう。
誰にも、見られたくないでしょう。
見つけたのはね、本当に偶然。
長い旅路の途中で、たまたま出合った。ただ、それだけ。
いつだったかしら……あぁ、嵐に巻き込まれて、ミャンマーの方へ流れ着いた時だわ。船も難破しちゃって、持っていたものは、着ている洋服と空っぽの箱と銀色のナイフ。
行くあてどころか、その日を生きる希望まで、すべて失って。途方に暮れながら、膝ぐらいまで育った草をかき分けて、ひたすら歩いていた。
足場も、すごく悪かったの。
石が大きいのから小さいのまで、たくさん落ちていて、おまけに、泥だらけで足元はぬかるんでいた。
一歩踏み出すたびに、靴が半分ぐらい埋まって、次の一歩を歩こうとすると、誰かに足を掴まれたみたいに動けないの。
もし、この世にカミサマなんて存在がいるとしたら、私のことを、どうしたかったのだろう。
気が付いたら、細長い草が、綺麗に刈り取られているところに着いていた。今思えばその場所は、不自然だったのかもしれない。でも、そんなことを考えてる余裕なんてなかった。
真っ赤なルビーが、いくつも落ちてたの。
その近くで綺麗な女の人が、血を流して死んでいた。腰につけた袋からは、大粒のルビーが零れ落ちていて、どれも月明かりに照らされている。
血で作られた川に沿うように、落ちていて、たっぷりとそれを吸い込んだ石は、暗くて重たい輝きを放っていた。
その中でも一番大きなのは、白くて柔らかなものに包まれて、大切に、大切に仕舞ってあったわ。
普通だったら気づかないけれど、何かの拍子に現れてしまったのね。
散らばっていたルビーを拾い集めていた私の目は、真紅の色をしたそれに釘付けになった。
——この世に、こんな美しいものがあったなんて。
心を奪われる。
そんな表現があるけれど、そう言い表すことでしか伝えられない。他の言葉になんて出来ない。
同時に思ったの。
これだけは、誰にも渡さないって。
小さなルビーは売ってお金にしないと、私が生きていけないけれど、これだけは、何があっても離さない。これのためなら、命だって差し出すわ。
それだけ、私にとっては愛しくて、価値があるものだから。
その後、あの場所からは港町へと無事に行くことが出来たの。それまで迷っていたのが嘘みたいに。
見つけたルビーをいくつか売って、必要なものを買い揃えた。もちろん、新しい船も買ったわよ。だって、船が無かったら、旅ができないじゃない。
一番大きなのは、口の広いビンの中に大切に入れて、持っていた箱の中に仕舞って、片時もそばから離さなかったわ。
直接持ち歩いたら、人目に触れてしまうし、騒がれるのも嫌なの。だからと言って宿に置いておいたら、誰かに盗まれてしまうかもしれない。古ぼけた箱に入れているから、捨てられてしまったらどうしよう。
そんな考えばかりが、頭をぐるぐると巡って離れない。そんな気がしたから。
そうこうしているうちに、出発の準備は整った。前の船よりも、ちょっとだけ大きくなった船に乗り込んで、旅を続けたわ。
片手で舵を操って、もう片方の手で、箱に触れながら。
今となっては、あそこでの出来事は遠い過去のこと。でも、そこで見つけたのは、今でも大切に、私の隣にあるの。
他の旅先でも、肌身離さず、常に持ち歩いたわ。
箱は何度も取り換えたけれど、中身は、私以外の人が見れないように、ずっと仕舞ったまま。箱からそれを取り出すのは、ビンの中の液体を取り換えるときだけ。
あとは、そっと眺めるの。
気まぐれな船旅が終わったように、私の人生も、もうすぐ終わる。
だから最近、思う。
私たちの人生って、船旅みたいなものじゃないかって。
船が、帆に風を孕んで海原を進むように、私たちは、真紅の色をした命の種に、いろいろな感情を孕んで人生を進んでく。
あの時見つけた、真紅の色をした種だって、ルビーの持ち主が生きていた証でしょう?
その人の、生きた時間の分だけ感情を孕んでいるから、美しくて、愛おしいと感じたの。
よく『生きている全てのものに愛を』なんて言うけれど、生きてなくても、愛は注げるでしょう?
だから、よろしくね。
私もちょうど、あの時の女の人と同じぐらいの年なの。だから私が死んだら、この胸から真紅の色をした種を取って。
そうして、私がしていたように、口の広いビンの中に、ホルマリンと一緒に入れて、ふたを閉める。
そして、私が持っている種を、大切に箱の中に仕舞って、肌身離さず持ち歩いてほしいの。
私が死んでも、この種があなたの感情を孕めるように。
*
個人的に、心臓は命の象徴だと思います。
また命というのは、親、つまりは男女の、どんな形であれ、愛がないと生み出されないものだとも。
分かりにくい文ですね汗