複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

星憑のエルヒューガ
日時: 2018/02/21 02:56
名前: 夕暮れメランコリー (ID: OxIH1fPx)

星憑(ホシツキ)。
それはいわゆる「ヒーロー」のようなモノであり、この世界の子供の憧れである。
しかし誰一人としてその存在を見た人はいなく、架空の存在であると信じていた。
かくいう僕もその一人であったのだ。
————ついこの前までは。









*********************
初めまして、夕暮れメランコリーです。
こちらで小説を書くのは初めてですので、仲良くして頂けたら幸いです。圧倒的不定期更新。
感想、批評大歓迎ですが、荒しが目的の人はお帰り下さい。

参照が恐ろしいことになっていて作者はとても混乱しております、とにかく亀更新なこの作品を読んで頂きありがとうございます……

※キャラ名色々変更しました。元ネタがわかるとクスリと出来るかもしれません。

【一話:箱庭ノ中】
>>1>>2>>5>>6>>7>>8>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15

【二話:蠍ノ少女】
>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24>>25>>30>>31>>32

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.13 )
日時: 2014/03/01 20:10
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

 視界が真っ白になってから数十秒後、僕はホシクイの前に立っていた。左耳に違和感を感じたので少し触ってみると、星を模した飾りのついたピアスが付いていた。僕はあまり装飾類は好まないので、少しうざったるかった。第一、こんなもの付けた記憶なんてない。
「ちょ、おま、こんな所いると危険だぞ!しかも兄ちゃんほったらかしだし!」
 エギルの声を無視して、僕はホシクイに歩み寄る。
「まさか、ホシクイと平和的解決でもしようってか!?駄目駄目、やめときな!そいつら言葉通じないから!」
 平和的解決?
 そんなの、これとどうやってしろと言うのか。倒す事よりそっちの方が無理難題だ。
 ホシクイの視線がシグナレスから僕に移り変わる。ホシクイはどうやら武器を持っているシグナレスより徒手空拳の僕の方が倒しやすいと判断したようで(そこまでの学習能力があるかどうかは不明だが)、僕に向かってあの触手を振り下ろしてきた。

 ————残念。
      お前の認識は誤りだ————

 僕はどこからともなく、いや正確には一時的に作った別世界へのゲートから二つの剣を取り出した。表立った装飾は何一つない、純粋に「戦う為だけ」に作られたそれを、僕は右手と左手、簡単に言えば両手で構えた。剣なんて持つのは初めての事だったし、重くてうまく扱えないのではないかと危惧していたが、どうやらそんな心配はするだけ無駄だったようだ。
「はぁ!?お前なにそれ!?実は星憑でした、みたいな?」
 シグナレスの表現には少しだけ齟齬がある。僕は星憑“だった”のでは無く、星憑に“なった”のだ。
 突然僕が武器を持った事に驚いたホシクイは、咄嗟に触手を戻そうとした。が、振り下ろした物を元に戻すなんて不可能だ。当然ホシクイは目標とはそれた地点に触手を打ち付ける結果になり、大きな隙を僕に与えた。そんな隙を見逃す奴は、相当慈悲深い人だろうと、僕は触手を輪切りにしながら思った。
 ちなみに僕にとっての隙はシグナレスにとっての隙でもあり、シグナレスも容赦無く矢を放っていた。
 死にかけたホシツキの最後の足掻きなのか、悲鳴とはまた違う奇声をあげて襲いかかってきた。どうやら触手を全て使っての攻撃のようだが。
 しかし触手での攻撃など避けてしまえば問題ない。僕は器用に、打ち付けてきた触手の上に乗り、多少ぬめっている触手の上を駆けてゆく。星憑になると身体能力も飛躍的に上がり、普段の僕なら五秒走ったら滑って落ちるような触手の上を走れた。
「おいお前!そのホシクイの弱点は頭だ!その剣でそいつの脳天にブッ刺してやれ!俺は触手の方を片付ける!」
 シグナレスが矢を放ちながら叫んでいる。僕はこくりとシグナレスに頷くと、間近になったホシクイの頭を睨む。
 きっとホシクイ自身も頭をやられるとヤバイ事を察している筈だ。触手を総動員してでも守るに違いない。なら、そのまま陸続きで行くのは不可能。だったら————

 陸が無くても空があるじゃないか。

 星憑は短時間なら飛行が出来るらしい。マニュアルがあった訳ではなく、例えあったとしても読んでいる時間は無かった。ただ、なった時に頭に必要最低限の情報が入ってきていたのだ。
 ちりり、とピアスが音を立てる。人によって様々だそうだが、一人一つは『ジョウホウタンマツ』とやらが付くらしい。これは相当便利なもので、必要な情報は全て頭の中に入るように設定されている。科学の「か」の字もない「箱庭」ではお目にかかれない代物だ。
『飛行可能体制に移行しました。制限時間は十秒です』
 中々に短いフライト時間だったが、それで十分だ。



 僕は思い切り助走をつけてジャンプした。

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.14 )
日時: 2014/03/02 16:20
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

『十、九、八、七……』
 カウントダウンが脳内で鳴り響く。かなりな強風と化した風が皮膚へ当たる。
 想像通り、相当な高度にまで上がる事が出来た。
『六、五、四、三……』
 カウントダウンは続く。
 無慈悲な声は、より一層僕を冷静にさせてくれる気がした。
『二、一』
 カウントが遂に、十と言う数字全てを言い切った。いや、まだ一つ残っている。あれは確か自然数だったか、そうでなかったか。

『零。飛行時間終了です』

 瞬間、僕の身体は重力に引っ張られた。
 ひゅおおお、と風の音と、物凄い勢いで変化していく景色。その景色は次第に大きくなっていき、ホシクイの頭だって鮮明に見えてくる。僕は右手に持った剣の切っ先をホシクイに向けた。
 ホシクイは本能的なものなのか、触手を頭の上に向けて必死に防御する。しかし高い所から落としたボールが物凄い勢いで跳ね返る事から解るように、遥か上空から落下してきた僕の攻撃は、触手をも突き抜ける事が可能—————!
「はああああああああ!」
 あんな上空から落ちてきたんだから、剣にも相当の不可がかかるので折れるのではないか、と心配していたが、どうやらそれは無いようだ。折れるどころかヒビ一つ入っていない。
 ぶちぶちぶち、とまるで血管でも切れるかのような音を立ててホシクイの触手は僕の剣によって断ち切られる。シグナレスの銀の矢を受けた時よりも大きな悲鳴をホシクイはあげるが、耳を塞ぐ事は不可能なので僕はそのまま剣をホシクイの脳天に突き立てた。

「——————————————————!」

 超音波、と表現するのが一番正しい声をあげてホシクイは消滅した。ホシクイのいた場所にはでろでろしたスライムのような、濁った物体がしばらく存在していたが、一分程したら水が蒸発するかのように跡形も無く消えてしまった。
「んでさ、そこのお前さん星憑だったの?見知らない顔なんだけどさー?」
「……いや、僕はついさっき星憑になったばかりだよ。さっきのはいわゆる僕の初戦、かな」
 シグナレスの質問に嘘偽りなく答えたら、たいそう驚かれた。何故か傷付く。
 そしてゆっくりと、シグナルさんも歩いてくる。シグナレスに「自己紹介した方がいいんじゃないのか?」と常識人な事を言ってくれて、何だか僕は非常に助かった。自分から名乗るのはちょっと勇気が必要だったから。
「俺はシグナレス。弓が得意でこれなら誰にも負ける自身が無い!ちなみに射手座の星憑な?」
「一応簡単な自己紹介はしたが……俺はシグナル。職業は鍛冶屋をやっている。白鳥座の星憑だ」
 星憑って、星座なんだ……と言うか僕は何座の星憑なんだろうか。シグナレスのように、武器で判断できるケースもあれば僕みたいな訳のわからないケースもあるようなので、ちょっと解らない。
「あ、僕はヨダカです。……え、と何の星憑なのかまだ解りません……」
「えー!?自分のホシビトに教えられなかったのか!?ったく、そのホシビト不親切だなー!」
「双剣使う星座なんて居ないよな……。『二つ』と言う意味なら双子座の可能性もあるがしかし、双子座はもういるからなぁ……」
 あ、双子座もういるんだ。
「だいたいホシビトってその星座で一番明るい星の名前を付けるから、今度会った時に名前でも聞いてみたらどうだ?星座を聞く方が早いけど、何か話を聞く限りだとそうそう簡単に教えてくれないだろうから」
 まったくシグナルさんの言う通りだ。僕はその意見に一度頷くと、家路につこうとした。流石に家族も心配しているだろうから。
「あ、ヨダカ、お前これから……」
 どうするんだ、と言おうとしたシグナルさんの台詞は、がちゃがちゃと五月蝿く近づいてきた鎧の音でかき消された。

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.15 )
日時: 2014/03/02 16:47
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「あーもー、だから「箱庭」は嫌なんだよもうっ!上空飛んだだけでもすーぐ軍隊差し向けて来てさー、嗚呼嫌だ嫌だ!」
 シグナレスは心底恨めしそうにそう毒づいた。
「だいたい何で「箱庭」にホシクイが出たの!?これまで出現事例は最近全く無かったって言うのに!」
「……確かにな。ここら一体は最近全くホシクイの被害が出ていなかった。にも関わらず今日急にホシクイが「箱庭」に出現————あいつらはいつも徐々に勢力を拡大していっていたのに」
 また僕は話題に置いてけぼりだ。ちょっとは状況が飲み込めればどうにかなるのだろうけれど、僕は星憑の中でも新人中の新人、下っ端中の下っ端。パシリに使われるのが関の山だ。
「とにかく細かい話は後だ!早く隠れるぞ!」
 シグナルさんに先導されるように、僕たちは瓦礫の影に隠れた。あくまで一時的な避難なので、見つかる可能性もある。僕は見つかるまいと頭を引っ込めて、まるで怯える小動物かのように丸まった。



「ひゃー、これは酷いな」
「一体どこをどうしたらこうなるっちゅーんだ……」
「門番に確認した所、ここ一時間程外からの人間は誰も入ってきてはいないようだ。南北両方な」
「て事は国内の人間の犯行か、あるいは……」
「ああ、あれか?時折空を通っていく「星憑」とか名乗るふざけた奴等か?」
「やりかねないな。あいつら、えーっと星?か何かの力を借りているみたいだから人間離れしたものが使用出来てもおかしくはないんだよな……」

 声から判断するに、来た兵士は最低でも二人いる。その兵士たちがこちらの瓦礫に近づいてきたので僕たちはより一層息を潜めた。シグナレスに至っては恐らく僕のピアスと同じ『ジョウホウタンマツ』である星型の髪飾りを握っていた。いつこちらがバレてもいいように戦闘体勢にでも入っているのだろうか。
「まあ、こんだけ酷くやらかしてくれたんだ。どうせ生存者はいないでしょ。死亡者人数、及び氏名は……身体がバラバラになってるから数えても意味無いか」
 そうだな、と相手の兵士は溜め息混じりに言葉を返す。さっさとこんな任務終わらせたいのだろう。


 つまり、これで家に帰らなかったら僕は見事に死亡者扱いな訳で、でもそれで悲しむのは一体誰なんだろうと思案して—————やめておいた。そんな事考えても無益だ。
「で、どうするヨダカ。別に家へ帰ってもいい頃だろう?」
 心配そうにシグナルさんが聞くが、別にそんな事どうでもいい。
「いいえ、帰りません。どうせこんな状態から帰ったってバケモノ扱いされるだけでしょう?」
 よく見ると服には誰のものかわからないけれど、返り血がついてしまっている。こんなので帰ったら逆にバケモノ扱いを悪化させるに決まっている。
「つー事は、だ。俺たちと一緒に来るの?来ちゃうの新人君?」
 訓練はきっついよースパルタだよー、とシグナレスが脅しをかけてくるが、そんなの「箱庭」にずっといるよりかマシであろう。
「別にそれでもいいです。こんな所にいるよりか有益ですから」
 そう言うとシグナルさんとシグナレスは驚いたように顔を見合わせて、「ま、そりゃそーだ」と笑いかけた。





 —————この日から僕は、空想上の存在だとされてきた「星憑」になったのだ。



Re: 星憑のエルヒューガ ( No.16 )
日時: 2014/03/02 17:35
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

【二話:蠍ノ少女】


 蠍(さそり)は悪いものというイメージがどうも強いが、実はそうでもない。なんて言ったって英雄オリオンの傲慢さに怒った女神が地上に送り込み、そのオリオンを殺したのは蠍なのだ。えっへん。
 ……だと言うのに「その蠍が天上で暴れるといけないから」と言ってケイローン(射手座)がいっつもいっつも狙っているのだろうか。いや別に暴れたりしないでしょう。むしろ狙うならオリオンでしょ!?あいつ結構暴れん坊だったみたいじゃない。星憑本部の図書館で調べたのよ私。


 むかつくアイツ—————射手座の星憑、シグナレスの鼻を明かす為にねッ!

 そもそも射手座のケイローンだって訳がわからないわ。なんて言うか、その……安楽死?そもそも星座って「可哀想だから星座にしてあげる」系が多い!多すぎる!

 そうやってぶつぶつ言っていると、ちょっとエントランスが騒がしくなってきた。ははーん、アイツが帰ってきたんだな。ホシクイにこてんぱんにされて、兄であるシグナルに助けられたのだろう。あの兄ちゃん、結構戦闘能力はあるっぽいしな。隠しているだけで。
 さーて、シグナレスをいびりに行ってやりますか!



 まさかこの時、私はシグナレスがホシクイを倒したのではなく、シグナルでもなく、未だエーテルの使い方もわからない新人が倒したのだとは思いもしなかった。

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.17 )
日時: 2014/03/04 12:10
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「ちょ、怖い怖いこーわーいー!」
「ああもう落ち着けヨダカ!そんなに暴れると落ちるぞ!」
 ————箱庭を出る方法は、当然徒歩では無かった。ざっくり言えば「空」からだ。正式な星憑であるシグナレスは空を飛ぶ機械を持っているし、シグナルさんはそもそも契約したホシビト的に空が飛べる。つまりこの中で空を飛ぶ事が出来ないのは僕だけであって、シグナレスの持っている機械は一人乗りなので必然的に僕はシグナルさんにつかまってその星憑本部とやらに行くこととなった。
 しかし、これが案外怖い。さっきは星憑の能力で飛べていたじゃん。平気じゃないの、と言われそうだが、あの時はホシクイを倒す事で頭がいっぱいだったからそこまで気にする事ではなかったのだ。今改めて飛んでみると凄く怖い。
「ははっ、変なヨダカー!慣れると面白いモンだぞ?」
 シグナレスが笑いながら話しかけてくれるが、それに返答出来るほど僕の心には今、余裕がない。
「す、すいませんあとどのくらいで本部到着するんですか……」
「本部には、まぁ……一時間くらい?」
 うーんとうなってからシグナルさんは答える。え、つまりそれって一時間も空飛んでいるってこと……?
「案の定嫌そうな顔ー」
「ま、どのみち俺も一時間は飛べないわ。行きは体力あったから割と平気だったけど、帰りはやっぱキツいな」
 ではどうするのだろうか。まさか徒歩……とか言わないよね?空飛ぶのよりはまだマシだけど、でも……
「それにしても、今回はお世話にならないと思ってたけど、予想外のイレギュラー君が現れたから結局お世話になっちゃうねぇ」
「便利だしいいじゃないか。お前、あれ好きだろ?」
 ま、そうだけど、とシグナレスが破顔する。……あれって何だ?それが何を表現するのか、全くもって見当がつかない。人なのか物なのかもわからない。
「距離からしたらもうすぐの筈なんだが……あ、あった」


 そこには、駅のホームが“浮いていた”。


Page:1 2 3 4 5 6 7



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。