複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

星憑のエルヒューガ
日時: 2018/02/21 02:56
名前: 夕暮れメランコリー (ID: OxIH1fPx)

星憑(ホシツキ)。
それはいわゆる「ヒーロー」のようなモノであり、この世界の子供の憧れである。
しかし誰一人としてその存在を見た人はいなく、架空の存在であると信じていた。
かくいう僕もその一人であったのだ。
————ついこの前までは。









*********************
初めまして、夕暮れメランコリーです。
こちらで小説を書くのは初めてですので、仲良くして頂けたら幸いです。圧倒的不定期更新。
感想、批評大歓迎ですが、荒しが目的の人はお帰り下さい。

参照が恐ろしいことになっていて作者はとても混乱しております、とにかく亀更新なこの作品を読んで頂きありがとうございます……

※キャラ名色々変更しました。元ネタがわかるとクスリと出来るかもしれません。

【一話:箱庭ノ中】
>>1>>2>>5>>6>>7>>8>>9>>10>>11>>12>>13>>14>>15

【二話:蠍ノ少女】
>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>23>>24>>25>>30>>31>>32

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.8 )
日時: 2013/08/20 22:51
名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)

 この状況で言うのもアレだけど、これは血ではないと思い込むことにした。今ここでこの赤黒い液体を「血」だと認めてしまったら、僕はよくわからないけれど壊れてしまって、全くの別物になりそうだと直感したからだ。
「てかこれ、誰の腕————?」
 ここの商店街の人とはそれなりに好友があったので、誰の腕でもあまり気持ちのいいものではないが。と言うか人の腕(もげたやつ)なんて正直、見たくない。

 いつの間にか太陽は西へ沈み、月が顔を覗かせ始める時間帯となった。そんなに長くここにいたのか、と思い僕は立ち上がった。
 急がなくては、家族が心配してしまう。僕は振り向いて路地裏から逃げ出せないか————特にあの何かに見つからないで済む方法————を模索したが成果は出ず。僕がいた路地は見事に行き止まりになっていて、あの何かにバレないよう商店街を抜け出さなくてはいけないと言う、危険極まりない状態に陥っていた。
 こうなったからには、方法はただ一つ。あの何かの隙をついて飛び出し、全力で商店街の出口目掛けて走り抜けることだけだ。
 じっと、何かの様子を伺う。顔があるのかどうかすらわからないけど、少なくとも何かは今、僕を発見していない。
 たいがいの破壊行為が済んだのか、何かはそれまで縦横無尽に動かしていた触手を地面に下ろした。
 ————————今だ。
 僕は路地裏から商店街の路地(だったところ)に移動した。ここにきてしまうと遮蔽物は建物の瓦礫しかなくなり、正直心もとない。
 まだバレていない。まだバレていない。その言葉を何回も繰り返して僕は走り出した。


 ————ああやっぱり逃げるのか。
 ————今回ばかりは仕方ないでしょ?
 ————でもさ、僕が逃げてる何かと戦ってる人だっているんだよ。


「痛っ!」
 何かにつまづいて転ぶ、なんてお約束の展開すぎる。もう滑稽としか言い様がなくて笑えない。
 と言うか僕は何につまづいて転んだんだ?感触的には肉のような————



「え?」
 服をまとったミンチがあった。そして僕は服に見覚えがあった。
 きっと僕を追いかけてきたんだろう。
 そして目の前によくわからない何かがいたんだろう。
 なす術もなくあの触手に叩かれて、人間ミンチになったんだろう。

 ————体型が豚でも、いくら嫌いだったからと言っても、人が死んでしまったことに納得などできない。
「うぁ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 何かに気づかれるかもしれないのに、僕は嗚咽混じりに叫んでいた。

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.9 )
日時: 2014/03/01 20:04
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ったく黙れ!アホか馬鹿か脳みそイカれたか!」
 急に誰かに口を塞がれた。普段なら怒るところだが、かえって僕は冷静になれた。
「あーもうしっちゃかめっちゃか!休みだと思ったら呼び出され、仕方なく行ってやったら死体見て発狂してる美少年発見っておかしーだろ!」
「現実を受け止めろ」
 どうやら突然現れた来訪者は最低でも二人いるらしい。
「て言うかさーもうあのホシクイ始末していい?さっさと終わらせて帰って寝たいんだよー」
 どことなく幼さを感じさせる声の方がどうやら僕の口を塞いでいる主犯らしい。
「ああ、思う存分やってこい」
「りょーかい」
 塞がれていた口が開放され、僕はなるべく死体を見ないように移動した。
「大丈夫か?なんか凄い叫び声あげてたけど」
 もう一方の声が話しかける。幼さを感じさせる方はあの何かに向かって走っていた。
「多分大丈夫……だと思います」
 思わず苦笑いが漏れる。正直僕自身にもどうなっているか理解するのは難しい状況だ。
「親御さんは?このあたりに住んでたら生きてる可能性少ないけどな」
「心配しているとは思いますよ。結構暗くなってきたし」
 僕はここで初めて救世主の顔を見ることに成功した。バンダナを鉢巻のように巻いていて、暗い群青色をした長袖の上着を着ている。上着の中は無地のTシャツだった。少しツリ目気味の双眸が僕を心配そうに見ている。言動などから察するに、世話を焼きたがるタイプなのだと分析した。
「でもな……「箱庭」だと翼使えないしな……見つかった瞬間捕まるし。“また”監獄生活なんて嫌だし……」
 “また”?一度何処かで捕まったのだろうか。それにしては囚人服とか着てないし、もしかして釈放された後とか。
 僕がくだらない推論を並べていると、救世主のもう一方が叫ぶ声が聞こえた。どうやら助けを求めているらしい。
「シグナル兄ちゃん!ちょっと援軍入ってよ、一人じゃ無理!」
「援軍って言ってもなぁ……お前俺の力分かってんのか?武器を作り出すことは出来てもそれを完全に使い切ることは無理なんだぞ?」
「じゃあ銀の矢!あれならいいでしょあれなら!」
「『銀の矢引くの疲れるんだよねー』とかほざいてたの誰だっけ?」
「それとこれとは別物でしょーが!ほらほら早く銀の矢生成して!エーテル溜まってるヤツ全部ぶっぱなして打てばあのホシクイもくたばるでしょ!」
 ちょくちょく解らない単語が混ざるその漫才は、どうやら何かの正式名称が「ホシクイ」だと言うことを知らせてくれた。
「て言うか兄ちゃんクラムボン呼んでこい!超特急で!」
「呼んだとして、連れてくるまでの時間は少なくとも五分はかかるぞ?それまでにお前が生存してるかどうか心配なんだが」
「————わかったよ。じわじわあの「ホシクイ」をいたぶりゃいいんだろ?」
「地味に怖いこと言うなよ……」
 どうやらその「ホシクイ」とやらに苦戦を強いられているらしい。僕に出来ることなど何も無いので、しばらくここにいさせて貰う。足が震えちゃって立てそうにないし。




 ————助けたいの?
 ————うん、助けたい。でも無理でしょ?
 ————“今の君じゃ”無理だね。
 ————どうせ逃げるから?
 ————いや、君が逃げない勇敢な人だったとしても一般人じゃあれ、倒せないって
 ————ではどうしろと?






 ————簡単だよ。“星憑になればいい”のさ。

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.10 )
日時: 2013/08/30 16:59
名前: 夕暮れメランコリー (ID: hMEf4cCY)

「は?」
 誰かと会話していた気がするが、ここにいる人間は僕を含め三人しかいないし、僕以外の二人は現在絶賛戦闘中である。この距離にいる僕と会話だなんて無理にも程がある。
 でも。



 ————簡単だよ。“星憑になればいい”のさ。



 この言葉が妙に引っかかる。確か星憑と言うのはここら辺に伝わる童話に出てくる単語で、この国が「箱庭」になる以前に外から入ってきた。子供の間ではかなり人気があり、かく言う僕も本がボロボロになるまで読んだ覚えがある。さて、あの本は何処にしまったっけ。と言うかあの本って正式な題名あったっけ。著者によって「星憑の物語」だったり「星の勇者」だったりしたから。




 さて、じゃあその話を説明しようと思う。

 国を捨てて流浪の旅人となった青年、ポラリスは草原を歩いている時に一人の少年と出会う。少年はポラリスに「北に行ってはいけない」と忠告するが、食料が尽きかけていたポラリスはその忠告を無視する。草原から一番近い国が北にあったのだ。
 道中、何も起こらず目的の国に辿りついたポラリスは、必要なものを買い揃えている時に怪物に襲われる。持っていた剣で必死に応戦するも、怪物の圧倒的な力にはかなわない。
 ポラリスが諦めていた時に救世主が表れる。それがあの草原で出会った少年だ。少年は不思議な力を駆使して怪物を打ち負かした。そしてあっけに取られているポラリスに「一緒に旅をしよう」と提案する。ポラリスはその少年に一つだけ条件を出した。「その力を使わせてくれ」と。
 少年は簡単には首を縦に振らなかった。この力は僕たちが使える力だ、人間が使ったらどうなるか分からない、と言って。
 ならばこの剣にその力を宿して使えばいい。ポラリスの提案にそれなら、と少年は星の形をした小瓶を差し出した。「いつでも僕らの力が使えるように」との事らしい。剣などを使えば人体に直接的な影響は出ないと思う、と少年は小瓶に力を溜め始める。
 それが物語の序章。ポラリスはその後、少年と共に旅をする。なんと不思議なことにポラリスは次第に老いていくのに対して、少年は全く成長をしない。遂にポラリスは少年に一つの質問を投げかける。

 ————「君は何者だ」と。

 少年は急に無表情になって、悲しそうな声でポラリスに真実を告げる。

 ————「僕は星なんだ」

 何処の星だと問われれば柄杓星だと答える。動かない星だよ、とも付け加えた。少年は柄杓星(すなわち北斗七星)で、そのうちの一つ、船乗り達が目印に使ったと言われる北極星だったのだ(北極星も実際は少し動いているらしいが)。
 少年は言う。「君はこの僕に取り憑かれた————いや、僕が取り憑いた人間だ。星に憑かれたんだから今後、君みたいな人の事をこう呼ぼう。敬意をこめて「星憑」と」
 そして少年はポラリスの前から姿を消す。それと同時に貰った小瓶も割れ、不思議な力も使えなくなってしまう。
 ポラリスは少年のことを「ホシビト」と名付けた。星の人だからホシビト。実にそのままな名前だ。
 物語はポラリスがあの草原に戻ってくる所で終焉を迎える————





 星憑なんて実際にいるわけがない。でも昔は自分もなれると信じて疑わなかった。
 そう、星憑なんて実在するわけがない。
 星憑なんて————

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.11 )
日時: 2014/03/01 20:06
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「あーもう本当にコイツしつこい!無線とかでさ、援軍呼んでよ!あと一人ぐらい戦力になるやつがいりゃいーんだから!」
 叫んでいる声。どうすればいいのだろうか、僕は。ここで隠れているのでもしばらくは安全だと思っていたのだが、そうもいかなくなってきた。さっきも近くの瓦礫が粉々に砕けた。
 彼らは必死にホシクイと戦闘を続けている。ややホシクイの方が優勢に見える。やはり戦力が足りないのか。
「畜生さっさとくたばりやがれこの外道!」
 外道ではない気がする……
「これでどーだ、兄ちゃん特性銀の矢三本セットエーテル仕立てだ!どうぞ心ゆくまでメインディッシュをご堪能下さいッ!」
 何と言うか……凄いなその発想力。
 ひゅん、と何かが風を切る音が微かに聞こえる。台詞から察するに「銀の矢」とか言うやつなのだろう。それがぶしゅる、とまるでトマトが潰れた時のような音がして、耳をつんざくような声————いや、これは声なのだろうか?とにかくホシクイの悲鳴が聞こえた。マンドラゴラを引き抜いた時にはこんな声がするのだろうと僕は何故か思っていた。
 それでもまだホシクイはくたばらないらしく、それ以降も矢が風を切る音やらなんやらが聞こえてきた。




 状況が変わり始めたのは、シグナレス(と呼ばれていた)が「兄ちゃん」と呼んでいた彼が僕の近くまで吹っ飛んできた。
「兄ちゃんッ!」
 シグナレスがこちらへ駆け寄ろうとするが、ホシクイからの攻撃が背後から迫ってくる。こちらに来るのは相当難しそうである。
「おいそこのお前!ちょっと兄ちゃん見といてくれ!」
 僕はこくこくと頷くと、これまで援護に徹していたはずの彼を比較的安全な場所へと連れて行った。
「大丈夫ですか?えーっと……」
「シグナル」
 急に謎の単語を発せられた。
「俺の名前だ」
「え、あ、えと、僕ヨダカって言います」
 どうやら名乗って貰えたようなので、反射的に僕も名乗ってみた。
「夜の鷹ね……割とお前鷹って言うより雀とかっぽいイメージだけど」
「あはは……」

Re: 星憑のエルヒューガ ( No.12 )
日時: 2014/03/04 12:18
名前: 夕暮れメランコリー (ID: vwUf/eNi)

「まぁ、そんなお喋りは置いておいて、だ。ヨダカ、お前今の状況理解してるのか?」
「え、っと」
 正直、理解など出来る筈がない。だって僕は買い物に行こうとしたら嫌な奴に遭遇して、名前を勝手に変えられる半ば詐欺みたいなモノを受けて走って逃げてきた、ごく一般的な少年なんだから。
 こんなしたくもない貴重な体験をしちゃったからには、そんな事言えないんだろうけどね。
「……状況の理解も何も、ちょっと無理っぽいです」
「だよなぁ」
 シグナルと名乗った彼は、溜め息をつくと説明をし始めた。
「俺と弟のシグナレス……ってのはあの弓で戦ってるアイツな?……はいわゆる“空想上のものだと考えられてきた”星憑だ。星憑はあの話のように“ホシビト”と契約を結ぶ事によって、あの変な怪物“ホシクイ”を倒す力を手に入れる事が出来るんだ。とは言っても当然最強な訳ではないからな。小さい頃俺らが思っていたように星憑は『完全無欠の超人』ではない、星の恩恵を受けただけの人間だから」
 ……小さい頃の幻想が裏切られたような、そんな感覚を感じた気がしたが、大きくなった今考えればそんな事くらい理解出来る筈なんだ。あの話の主人公、ポラリスだって一回負けそうになったんだし。
「なんか、曇の上の話みたいです……」
「実際そうだぞ?お前はあのホシクイを俺らが倒した後はただの少年だ。星憑とかホシクイとか、一切関係が無くなる」
 そうだ、僕はただ巻き込まれただけの少年、ヨダカだ。きっとこの後この人の弟、シグナレスが華麗にホシクイを倒して、僕はまた普通の生活に戻るんだ。朝起きて、一日中食堂の手伝いをした後は寝る。そんな単純なサイクルがまた明日から巡ってくる。不安がらなくても良いんだ————





 でも本当にそれで良いのか?





 状況はホシクイの方が一歩優勢だ。このままいけばシグナレスは負けてしまうかもしれない。そうなったら僕はどうなる?一見するとこのシグナルと言う人も圧倒的戦力があるようには見えない。むしろ武器などを生成していたので援護型だろう。ちらちらと話に出ていた「クラムボン」を呼んだら一気に状況が変わりそうなものだが、それも難しそうだ。呼びに行くまでに時間がかかる。くそ、この場に誰かいないのかよ!?


 いいや、一人居る。
 ずっと逃げてばっかりで、そんな自分が情けないと日頃から思いながらも逃げてきた奴。


 完全に名前負けしている夜の鷹が!











 ————お、やる気になったみたいだねヨダカくん?
 ————お陰様でね。で、どうすればいいの?
 ————うーん、ホシビトとの契約方法は人それぞれだからねぇ。
 ————なんだそれ。何か変な呪文とか唱えたり、儀式とかやったりしないのか?
 ————それ結構契約に対しての偏見あるからね!?あー、困ったな。ヨダカくんが本気になるとか想定の範囲外だったよー
 ————声掛けた時点で範囲内にしておけよ。
 ————じゃあさ、「誓いの言葉」とかはどう?なんか面白そうじゃん?言葉は勝手に決めちゃっていいから。星憑になる際の手続きは勝手にしておくよ。
 ————そんなのでいいのか?
 ————おっけーおっけー。案外この世界ってユルいんだよ。




     『星に願いを』




 ぽつりと呟いた僕の視界が真っ白になった。


Page:1 2 3 4 5 6 7



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。