複雑・ファジー小説

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【第4話】変革のアコンプリス【オリキャラ募集中】
日時: 2014/06/04 14:35
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: Rn9Xbmu5)

壱路と言います。前作を放置しながら懲りずに第2作です。

今作の舞台は「某クエのようなRPGのような、武器はあり魔法もあり、魔族も魔物も獣人も人間もいる世界」の予定です。
変なことを言いますが、真剣な話を書く気はないです。自分なりの適当な話を書くつもりです。
真剣な話でも真剣になりすぎないというか……そう出来るかどうかは別として。

変革のaccomplice。意味は「共犯者」ですね、変革の共犯者。


ーーーーーーーーーー

登場人物 >>1
その他設定 >>2
目次 >>3
オリキャラ用テンプレ >>4
プロローグ >>5

ーーーーーーーーーー

※ 4/3 見切り発車開始。
※ 4/14 "ラナ・カプリース"の落書き投下。見苦しいですがこちらに >>21
※ 5/3 ようやく第3話に終わりが見えてきた。長かった…
※ 5/9 図書館に掲載してみたテスト。
※ 5/11 "テオドール"の落書き投下。(>>34) iPhoneで適当に殴り描いてます。
※ 6/4 作者のやる気低下により更新をローペースに。今に始まった話ではないですが。 月2,3回くらいの予定です。

変革のアコンプリス ( No.26 )
日時: 2014/04/22 00:41
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: HC9Ij0EE)
参照: 第3話「Raid of Black rose」−⑤


「ぁっ……はあ、黒鼠? なんだそれ」

 口元を手で隠し呑気に大きな欠伸をし、尻餅をついたままのルドルフに問いかける。
 流石にその姿勢のままでいることはせず、寝間着の裾を手で払いながら素早く立ち上がる。 件の黒鼠も足の踏み場を探すようにしてゆっくりと立ち上がる。

「黒鼠と言うのは、およそ二年程前から偶にこのイデアール宮殿に出没するようになった二組の不審者です。 金品や貴重品、武器といった盗むに値する物には目もくれず、一心不乱にただ宮殿内を駆け回るだけの奇妙な連中。 特に実害は無いのですが、強固な防壁や警備を掻い潜って侵入されている以上野放しには出来ずで……」

 テオドールに背を向けたままの解説の途中、何かを探すように首だけを軽く動かし始める。
 そして目的の物を見つけたのか、お借りします兄上とだけ言い、返事も聞かずに本棚の脇に立てかけてあった剣を鞘から抜き、黒鼠に対し構えを取る。

「目的も不明、考えていることも分からない。 けれどもこうして貴様の方から出向いて来るのであれば、逃がしはしない!」

 構える剣の様に鋭く言い切る。 が、勢いに任せて斬りかかることはしない。 不審者と言えども、武器も持たない無防備な相手を斬り伏せる非道な行いを、彼なりの剣を持つ者としての矜恃が許さないのだろう。
 そんな矜恃を感じ取ったのかどうなのか、黒鼠のフードの下では眉も動かず恐怖の色も見えない。 寧ろ、余裕が見え隠れしていなくもない。

「黒鼠などと呼ばれていたとはのう。 余は薔薇の方が好みじゃから、どうせなら黒薔薇にしてくれんか? そっちの方が気品があってよかろう」
「何が気品か、呑気なことを!」
「お前さ、また口調硬くなってるぞ」
「今はそんな場合ではないじゃないですか! 兄上まで何を呑気な!」
「そうじゃぞ、気を張っても仕方あるまい? ほれ、肩の力を抜かんか」
「貴様に言われる筋合いは無い!!」

 矜恃は何処へやら。 空気の違う二人の板挟みにされ、刹那的な感情に任せて剣で斬り払う。 それを避けれないわけもなく、黒鼠はバックステップを踏み開きっぱなしになっている部屋の出入り口の境に立つ。

「おやおや、ちょいとつついてみただけでこれか。 余裕のない奴じゃの」
「だろ? コイツ真面目なのは良いんだけど、頭硬いんだよな」
「何をあんな奴と意気投合しているのですか!! もう少し緊張感を持ってください!!」
「え、別にアイツ悪い奴じゃなさそうじゃんか」
「ーーーーッ!!」

 ルドルフの言葉が詰まる。 言葉にならない程の憤りを感じているのだろう。 ただ一人真剣味が違うため、空回りしているように見えても致し方ない。

「まあ良い、話を始めてやろうか。 余は目的を果たすべくここへ来たのじゃからな」

 テオドールに掴みかかる勢いで詰め寄っていたルドルフは振り返る。 これまで目的意識を持っていないように見えていた黒鼠が目的があると言うのだから。

「単刀直入に訊く、どちらが王子じゃ」

 宮廷内に満ちる月明かりは部屋の燭台よりも明るく、月光を背にする黒鼠からは、小柄ながらもそれこそ正体不明の威圧感をルドルフに感じさせた。
 そして、今の発言から分かることもある。
 ーーー黒鼠の狙いは兄上だ。 真意こそ分からないが、兄上を狙っているからこそここまで侵入して来ている。 思えば初めから気付くべきだったのだ。
 だが、そうと分かれば答えも簡単だ。 僕が身代わりになる。 兄上が狙われていると分かった以上、此方が兄上様になりますと差し出すわけがない。
 この質問をする限り、黒鼠は"第三王子"の存在は知っていても姿までは知らない様子。 ならば誤魔化せる筈だ。
 問い掛けられてからの寸分の間にルドルフは思考を巡らせ、次に取るべき行動をそう結論づける。 問いに答えようとして、足を一歩踏み出しかけた所で、

「僕がーーー」
「それなら俺だけど」

 全てを台無しにするのが兄上様だった。
 無論、彼に悪気は無く、黒鼠の質問の意図に対しても踏み入って考えることもなく、訊かれたから答えたという反射を行ったに過ぎないのだ。
 互いに思考が読め合う筈がない。 仕方のないこととも言える。
 そして踏み出しかけた足を逆に後ろに向け、振り返ることなく一歩下がる勢いをつけてルドルフが肘鉄をテオドールの腹部に打ち込む。 これもまた仕方のないことである。

「ごっふぅ」
「馬鹿か! 馬鹿なんですか!? 何を馬鹿正直に答えてるんですか貴方は!? 自分が狙われていると分かっていて名乗りを上げる阿呆がどこの世界にいると言うんです!!」

 苦悶の表情で膝を突くテオドールに、これでもかとばかりに馬鹿を叩き込む。 自由過ぎるとも言うか、他者の意図をも読もうとしない無神経さがルドルフの昂りを助長させた。
 目の前におるではないか、という黒鼠の呟きも届かないまでに。

「目の前に……」
「そう言うことじゃない!!」
「う、ちょっと落ち着こうぜ、な?」
「誰のせいだと思っているのですか!! いつもいつも人を振り回してばかりで!!」
「今振り回されてるのは間違いなく俺だよな」
「減らず口を挟まない!!」
「怖えー」
「余はいつ口を挟めば良いのじゃ?」
「そんなのーーーって、こんなことをしている場合じゃなかった」

 皮肉なことに、敵であろう筈の黒鼠の言葉で我に返る。 気を引き締める様に再度剣を構え、黒鼠と対峙する。
 黒鼠もそれに応ずる様に、黒い外套を華奢で色白な腕で払いはためかせ、外套の下の白い衣装が露わになる。
 華やかでも清楚とも言えないが、当人の弁に違わぬ高貴さは感じられる作りには見受けられる。
 フードだけは未だ深く被ったままだが、自信に満ち溢れた顔付きだ。

「荒事は好かぬが、お主が邪魔立てするのであろう? 恨むでないぞ」
「恨みはしない、後悔の念に暮れる余裕だけならくれてやる!」
「ちょっと待てお前ら」

 二人揃って意気込んだところにそれこそ空気を読まずに膝をついたままのテオドールが口を挟む。

「俺の部屋で暴れんな。どうせなら部屋の外でやれ」

 この人と来たら。 この状況で物怖じする態度を一切見せずに自己を通すのはもはや尊敬に値するよ、兄上。

Re: 【第3話】変革のアコンプリス【オリキャラ募集中】 ( No.27 )
日時: 2014/04/26 16:21
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: HC9Ij0EE)
参照: 参照300越え。


気付いたら参照が300を越えてたということで。
少なからずとも見ていただけてる方がいるというのはやる気の糧にもなります。
亀のような遅さですが、これからもよろしくお願いします。

ついでにどうでもいい近況報告を。
単に某艦隊ゲーのつい最近のイベントでやる気を使い果たしただけです。
おかげで話の流れが決まってても文におこせないという。
次の更新はしばらく遅れるかも、ということなので…ではまた。

変革のアコンプリス ( No.28 )
日時: 2014/04/28 19:50
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: HC9Ij0EE)
参照: 第3話「Raid of Black rose」−⑥



 テオドールに促されるがままに廊下へと追い出された二人は、再びその場で対峙する。 テオドールも二人に続くように部屋を出、邪魔にならないようになのかルドルフのやや後ろに立つ。
 テオドールが彼に加勢しないのは、この状況を打破するための思考を張り巡らせる時間稼ぎでもなければ彼に恨みがあり、いっそこの場で命を落としてしまえと言うわけでもなく、ただ単に自身の剣を彼が握ってしまっているため、その彼に任せているだけだ。
 手ぶらなのはルドルフと対峙している黒鼠も同じだ。 前を開いた外套の下を見ても帯剣している様には見えない。
 このことから、剣を持つルドルフが有利であることは明らかだ。 無手の者が剣を有する者に勝てる要素は戦術的に見ても極僅か。
 しかし、その暴力的に圧倒的な優位に胡座をかいて座る真似をルドルフはしなかった。

「貴様、武器は持っていないのか」

 剣を構えたまま鋭く言い放つ。
 例え賊が相手であろうと、過ぎた力で押さえ付けては抑止力ではなく暴力となり、野蛮でしかない。
 相手に自分と同じ土俵で戦わせる。 そういった、ある種の甘さとも取れる信念がルドルフにはあった。
 だが、黒鼠は信念を知っているわけではないが、それに甘えることないかの様に鼻で笑う。

「賊にその様な事を訊くとは随分と余裕じゃの。 生憎じゃが、余は鉄の板を振り回す趣味はない、武器など持ってはおらぬよ」
「……だったら、おとなしく投降ーーー」
「抗う術まで家に忘れてきたとは言っておらん。 余はこれを使わせてもらう」

 鉄の板なんかよりもこれの方が自分には相応しいとばかりに腕を払い、腕の延長線をなぞる様にして華奢な手首から先に白く細長い円錐状の氷の剣が音を立てて形成される。
 それを見るや否や、ルドルフは間髪入れずに数メートルの距離を詰め、上方から剣を振り下ろす。 黒鼠はその剣戟を腕を曲げ、引き気味にして形成したばかりのそれで受け止める。
 円錐状で、表面の大部分が曲面となっているその氷の剣は、剣戟を受け流すのに適しており、いわば剣戟を受け止める為の剣のようだ。 片手用に小型化したランスと言う方が近いだろうか。
 だが、勘違いしてはならないのは黒鼠は魔法を使ったと言うこと。 いくら剣術試合の様相を成していても、剣同士の戦いではないと言うことだ。

 ルドルフの実力は良く知っている。 アイツが剣を初めて握った時から見ていたからな。
 他人と比べて頭抜けている、と言うほどではないが、それでも地道に積み重ねられた確かな実力はある。 今ではウチの国の兵士と並べても遜色はないだろう。

 ーーー黒鼠の鋭い突きがルドルフの右肩上方の空を貫く。
 寸でのところで躱したルドルフは体勢を崩しながらも、黒鼠の接近を嫌い剣で水平に振り払い、今一度距離を取る。

 だが、それは飽くまで剣術においてのみだ。 この世には剣だけでなく、槍や槌、棒術に果てまでは素手による近接格闘の術まであると聞く。
 それ以外にも兵法の様に、戦争の様な命の掛かった戦いなんて経験すらしたことがないはずだ。
 要するにルドルフは、剣同士の試合でしか実力を発揮したことのない、箱入り坊っちゃんだ。

 ーーー瞬きする間も無いほどの隙間もない剣戟の応酬が二人の間で交わされる。
 金属と氷とでぶつかり合っているにも拘らず、黒鼠の氷の剣にはヒビ一つ入っていない。

 そして、黒鼠の使っている獲物はこの世に存在する物体であり且つ物体ではなく、魔力によるもの。 要は魔法だ。
 魔力に氷としての特性を与え、あの形を形成しているんだろう。
 そして、魔力には魔力でしか干渉出来ない。 今の様に氷や岩みたく実体があれば物理的に触れることは可能だが、破壊することは出来ない。 物体であって物体ではないんだ。 いくらその特性を得られても、それには成り切れず似たような何かであり続けるだけだ。

 ーーー互いに踏み込み、同時に放たれた深い一撃を互いの剣で受け止める。
 黒鼠は受けるのではなく長そうとしたはずだが、ルドルフが意図的に黒鼠の剣に対し垂直に当てた為、上手く受け流せなかったのだ。
 そのことに思わず眉をひそめ、小さな舌打ちを零す。

 それにしたって不可解だ。 黒鼠は魔法が使えるのに、何故接近戦を挑む?
 壊されることのない武器を使えると言うメリットは確かにある、しかしメリットはそれしかない。 寧ろ、近接武器のリーチ外から一方的に攻撃が可能と言う多大なアドバンテージを自らかなぐり捨てている。
 近距離で多彩な魔法を繰り出す捻くれ者がいてもおかしくはない。 魔法を使う者達の本領はイメージの強さ、想像力だ。 戦場の最前線で確固たるイメージを以ってして暴れ回れると言うのであれば納得してやる。 かつての戦争ではどちらかというと固定砲台としての役割が主だったらしいが。

 ーーールドルフが連続して繰り出す突きを、氷の剣でどうにか凌ぐ様にして躱す。
 剣を振り回せるとは言え、広くはない廊下を所狭しと駆け回り逃げ側となった黒鼠と、それを追う側になったルドルフ。
 一見して有利な立場のはずだが、繰り出す突きはどこか慎重さを帯びており、顔付きも獲物を追う獅子とは程遠い、警戒心を最大へと高めたウサギの様だ。

変革のアコンプリス ( No.29 )
日時: 2014/04/30 00:26
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: HC9Ij0EE)
参照: 第3話「Raid of Black rose」−⑦



 それがどうだ、黒鼠の妙は。
 魔法を使ったのは初めの一度だけ、接近戦に持ち込むだけ持ち込んでそれだけだ。 余りにもわざとらしい。
 そうだ、見え透いた罠だ。 黒鼠が、ルドルフが剣術試合以外の戦闘様式には疎いことを知るはずもないが、今の氷の剣以外の魔法を使わないのは不自然だ。
 が、だからこそ罠として機能しているとも取れる。
 黒鼠の意図は読めないが、魔法を使わない不自然さにはルドルフも気付いてはいる様だ。 慎重を重ね過ぎてチャンスでも攻め切れない、そんな事が何度も続いている。
 魔法は、発動する瞬間まで何が飛び出すか分からない。 迅速に対処する為にも魔法の存在から意識を逸らす事は出来ないだろう。 と言っても、対処しようがなければそこまでだが。
 そのせいで攻め切れずにいる。このままではジリ貧だ。
 だが、それは黒鼠も同じだ。 いつまでもここで斬り合っていたらその内誰かが気付くだろう。
 コイツの目的は俺らしいが、そうなってはどうすることも出来ないはずだ。
 つまり、ルドルフが罠を踏むか、黒鼠が痺れを切らすか、だ。 剣を通して相手の肉や骨ではなく、思考や心の余裕を奪う戦いに成りつつある。

「気を張り過ぎるのも良くはないぞ?」

 テオドールが戦いの流れを結論付けるのも束の間、均衡は容易く崩れ始める。
 黒鼠が氷の剣を解除、解除したての右手の指が鳴らされると同時に、ルドルフの眼前で小さな爆発が起き、規模相応の音を立てる。
 当然、それはルドルフにダメージを与える事はないが、彼の張り詰め過ぎた緊張と警戒、思考を爆発させるのには十分だった。
 思考の外からの爆発、そして突然不明瞭になる視界。 心身共に驚愕せざるを得ず、たったこれだけの事で彼の脳は思考することを放棄した。
 ふらつく足を立て直そうと踏鞴を踏まされた隙を黒鼠は逃さない。 距離を詰め、左拳を腹部にねじ込む様に叩き込む。

「ぐっ……ぅ……」
「ルドルフッ!!」

 終始を見ていたテオドールは血相を変え、崩れ落ちたルドルフの元に駆け寄る。 彼が確認出来たのはルドルフの後ろ姿だったせいか、ナイフか短い刃物で刺されたとでも思ったのだろう。
 血が滴っている様子が無いのを確認すると表情に若干の安堵の色が浮かぶ。

「安心せい、鳩尾に一撃入れてやっただけじゃ。 数分もすれば立ち直るじゃろうて」

 安堵も束の間、眼前の黒鼠が二人を見下ろしていた。 彼女もまたルドルフを退けたからか、緊張が僅かばかり綻んでいる様でもある。
 彼女の言う通り、数分経てばルドルフは立ち上がるだろう。 だが、黒鼠の目的はルドルフではなく、テオドール。 応戦する人間が他にいない以上、自分自身で凌がなければならないことをテオドールは理解する。
 ルドルフの手から零れた剣を拾い、黒鼠から数歩分距離を取る。 ルドルフと同じく魔法の使えない自分では、魔法の使える黒鼠に対して圧倒的に不利がつく。 どうしたものかーーー、

「おーじょーうー」

 と考え始めようとした矢先に気の抜ける様な声が黒鼠の背後から響く。 それに反応してか、黒鼠が首だけを後ろに向ける。

「……何をしておるのじゃお主は。 兵士達を引きつけて時間を稼いだ後は魔法陣付近にて待機するはずではなかったのか?」
「やー、それが滅法強いおっさんか出て来ましてねー。 時間稼ぎなんかしてたら気取られますってアレ。 あのおっさんやべーよマジで」

 黒鼠と同じく、黒い外套に身を包んだ女がパタパタと音を立てて現れる。 黒鼠と違うのは長身であることと、外套の至る所に斬撃を掠めたような切り込みがあること。

「つまりは」
「逃げて来たって事ッスね! だいじょぶ! 明後日の方向に走ってからここに来たから大丈夫なはず! たぶん!」
「あーうん、そんなことじゃろうと思った。 怒る気もないわ」

 やって来た女の纏う、つい今まで張り詰めていた空気とは真逆の適当さが感染ったのかはたまた、いつものことだとばかりに投げやりな態度になる黒鼠。
 女の方は何故かいい笑顔だ。 反省を知らないのだろうかというくらいに。

「つーかお嬢も仕事終わってないッスね。 どっちが本丸? 赤いの?黄色いの?」
「そっちの赤くてぱっと見冴えなさそうな方じゃ」
「へー、中々いい男じゃん? やっぱ王子ってのはイケメンであっ然るべきッスよねえ」
「やって来るなりお主という奴は、こないだも言ったが色魔かと言うに。 やはりそのでか乳は誘惑する為の物か貴様」
「あー、そーいや私淫魔混じってるかもしんないッスわ」
「こないだと言っている事が違うではないか」
「私人造悪魔なんで」
「なっ」
「あん時は適当に流してましたかんねー。 ってあれ、どしたのお嬢? 鳩が豆鉄砲喰らってもそんな顔しないよ? あーそっか、言ってなかったっけな」
「な、何故そのような重要な事を今、それも物凄く適当に言うのじゃ!? こんな、ええ!?」
「だってどーでもいい事だし?」
「よくなかろうが!!」
「あのー」
「お主は黙っておれ!!」
「いや黙らせちゃダメでしょ」

 すっかり完全に蚊帳の外に追い出されたテオドール。 口を挟んではみたが、門前払いを受けてしまった。
 ……このまま逃げてやろうかな、俺。 でもなあ、狙われる理由が気になるんだよな。

「人造悪魔とかおっぱいでかいとかどうでもいいけどさ、俺を狙ーーー」
「やはり乳か!! 世界を!人種を!優劣をハッキリと穿つのはやはり乳もごもご」
「うるさいちょっと黙れ馬鹿お嬢。 悪いねー、ウチのお嬢まな板だからさー。 ハイどうぞ続けて続けて」

 この世の巨乳全てに戦争をけしかける勢いで猛烈に口を開きかけたところを、強引に豊満な肉体に顔を埋められ阻止される。
 黒鼠はじたじたと暴れるが、がっちり腕と胸とでホールドされ動けず終い。 ある種反感を買う止め方だが、それでいいのだろうか。
 テオドールも呆れて物を言うのを忘れかける。
 なんなんだこいつら。

「えっと、俺を狙う理由……ってか目的はなんだ? お前達は何者だ?」
「や、それ言っちゃダメじゃね? 一応正体隠してんだしさ、私ら」
「それもそうか」

 知らなくてもいいのだが、気になっていたこと。 自分が狙われる理由を問うが当然の返事を貰い、あっさりと承諾してしまう。
 この一帯がどこか投げやりな空気になっているためか、互いに投げやりな返事と返答だ。
 が、黒鼠は別だった。 肉から顔を引き剥がし、何やら悪役らしい笑みと笑い声をあげ始めては腕を払い、勢い良く外套をはためかせる。
 先程から何度もやっているが、その動きが好きなのだろう。

「何者かと訊かれたら答えてやるのが世の情けというもの! 良いぞ、答えてやろう!」
「おいお嬢」

 制止など気にも留めない、完全に自己陶酔の世界に入ってしまっている。

「我が名はリーゼロッテ・エーデル・エアガイツ!! 世界の変革を企てるべく貴様を攫いに来た!!」

 一方で女は片手で顔を覆い、深い溜め息をついていた。

変革のアコンプリス ( No.30 )
日時: 2014/05/03 23:15
名前: 壱路 ◆NNJiXONKZo (ID: HC9Ij0EE)
参照: 第3話「Raid of Black rose」−⑧



「何盛大に名乗りをあげてんだ、この馬鹿お嬢」

 黒鼠ことリーゼロッテが高らかに名乗った直後、ぽっかりと空いた間を埋めるように、女に尻を膝で小突かれ、おぅっ、と可愛げのない声を上げぴょこんと飛び跳ねる。
 恨めしそうに顔を向けるが、蹴った女もまた呆れ顔で見つめ返している。

「馬鹿はお主の方であろう、貴族たるもの名を問われて答えぬわけにはいくまい!」
「何から何まで話せってんじゃねえっつうの! ってーかウチらがいつ貴族になったんスか、ましてやお嬢は生まれてこのかたずっと庶民レベルの暮らししかしてねーじゃん! どっちかってと没落貴族の方がお似合いだっつの!」
「おおう…何もそこまで卑下せんでも」

 女の剣幕にリーゼロッテはたじろぐ。 そんな様子をまたもや蚊帳の外に追い出されたテオドールはやるせなさそうに見守っている。 構えていた剣もすっかり降ろしてしまっている。

「ってーかさ? お嬢は計画性ねーよな! 何度も忍び込んで地図作るまではいいけどさ、肝心の実行部分の計画はかなりふわっとしてるし! こっから先の事もかなり打算的だし! おまけに更にその先は何も見えてないし!! 名前までバラすし!! あーもう、感動し損じゃねーかい!! こないだの私の感動を返せー!!」
「お、落ち着け、落ち着くのじゃラナよ」
「ほーらすぐそーやって私の名前までバラすー!! この馬鹿お嬢ー!! 馬鹿に百回掛けて大馬鹿お嬢ー!!」
「おい、騒ぐと見つかるだろ」
「そうじゃぞ、文句は後で聞いてやるから静かにせい」
「アンタはどっちの味方なんだこのクソ王子ー!!」

 蚊帳の中に入ろうとするテオドールを追い出すかの様な勢いである。 ひとしきり言い終え、やや早めに呼吸をして息を整えようとする。

「……それはそれとして、早いとこやること済ませるッスよ。 とっとと拉致ってズラからないと」

 煮え切らない様子だが、込み上がる文句を押し殺し、仕事を済ませようと一歩前に出るが、

「そうは、させ、ない」

 鳩尾に一撃されたダメージがある程度回復したのか、ルドルフがおぼつかない足取りで前に出ようとする女、ラナの前に立ちはだかる。

「貴様らに、魔族なんかに、兄上を攫わせなど、させるものか…!」
「魔族…? ああ、人造悪魔とか言ってたし…魔族なのか、こいつら」

 立ち上がったとは言え、回復し切ってはなく息も荒いルドルフの背中を不安げに見ていたが、続けられた言葉から自身も事実を見つけ、魔族と一括りにされた両名にどこか物珍しそうな視線を飛ばす。
 そして魔族呼ばわりされた両名は一瞬固まった後に、責任を押し付ける様に互いに横目で睨み合う。

「お主が適当に余計な事を言うからじゃぞ」
「お嬢が私の事を淫魔だとか言うからッス」
「そういう行動をしたのはお主じゃろうが。 と言うかお嬢と言うなと何度も」
「へーへー分かりましたよ、尻拭いの口封じすればいいんでしょ」

 そう言い終えるよりも先に、外套を開けさせながら腕をピンと伸ばし、ルドルフに指した指先から青く小さな光弾が放たれ、

「っ」

 避ける間も無く額に直撃、身体の支配権を失ったかの様に背中から倒れる。
 あっけなく、そして突然の出来事にテオドールも、リーゼロッテまでもが呆然とその末を見ているのみだった。

「…ルドルフ?」
「…おいラナ、殺せとは言ってはおらぬぞ」
「お嬢の目は節穴ッスかね、殺しちゃいませんよ、血だって出ちゃないでしょ」
「え? いやしかし、口封じだとお主ーーー」

 一人が呆然、一人が当惑、一人が平然。 そして間も置かずもう一人がゆっくりと起き上がる。
 上半身を起こしたはいいが、目覚めが悪いのか片手で額を押さえている。

「う……頭が……」
「お、生きとる」
「な、黒鼠!? 馬鹿な、つい今までと居場所が違、ぐっ、腹が…!?」
「無事なのは良かったけど忙しいなお前」
「あれ、何故兄上が剣を…いたた」

 今度は額ではなく腹を押さえだす。 ルドルフの混乱ぶりに、彼に何が起きたのか理解出来なくもないが、確認の為にとリーゼロッテはラナに質問を問い掛ける。
 偶然か必然か、同じ事をテオドールも考えたが、馬鹿正直に訊いたところで答えて貰えないのが目に見えていた。

「お主、一体何をした? 分からんでもないが……」
「分かるなら訊かなくても……まあいいけど。 ちょいと忘れて貰っただけッスよ」
「な、新手が!? いつの間に!?」

 一人騒ぐルドルフを捨て置き、リーゼロッテは質問を続ける。

「忘れて…って忘却魔法か何かか? お主そんな事が出来たのか、と言うか魔法を使えたのか」
「かじったレベルッスよ、精々直近の五、六分までの記憶しか吹っ飛ばせないし。 諜報活動とかしてた時は他にも色んな小技を使ったもんッス」
「……お主は一体何者なんじゃ。 長いこと共に過ごしておるが、未だに新事実が出てくるとは思いもせんかったぞ」
「やだなあ、私はただのお嬢の世話役ッスよ」
「この世には諜報活動をするような世話役がいるのか?」
「おらんじゃろ、って普通に話に入り込むでない!」

 三度、蚊帳の外からの介入を拒否されるテオドール。 が、意に介する事なく寧ろ歩み寄り始める。
 その予想外の動きに二人は閉口し、ルドルフは目を丸くする他なかった。
 だが当然、テオドールはそんな事を気にしない。

「俺を攫うなら早くしろ。 こんだけ騒いでんだから、勘付いた兵士が駆け付けて来てもおかしくねえぞ」

「お主、何をーーー」
「兄上、何をーーー」

 奇しくもリーゼロッテとルドルフの言葉がシンクロする。
 そして彼は言い放つ。

「攫われてやるって言ってんだよ」


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