複雑・ファジー小説
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- ユーリの冒険
- 日時: 2014/08/04 09:49
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
- 参照: エロすぎ注意!?
「ボクの願い、か……」
柔らかく涼しい風が入り込む部屋で、一つの声が響く。
少年のようで、それでいて少女のように少し甲高い声だ。
そんな不思議な声の持ち主は、照明が完全に落ちたこの部屋で、月明かりに照らされ風に吹かれていた。
青に近い藍色でラフな短髪は風に揺れ、黒に近い藍色のボンヤリした瞳は青白い光を放つ二つの月を見上げている。
男性とも女性とも取れない体つきや中性的な顔立ちが印象の<ユーリ・アルフォンス>は、布団に潜り込みながら考える。
今叶えたい願いとは何か、と。
しばらくして、ごそごそと厚い布が擦れ合う音がした後、ユーリは一人で呟いた。
「——失ったものを取り戻したい、かな」
◇ ◇ ◇
キャラ紹介
ユーリ・アルフォンス
本作の主人公。
声や顔立ち、体型に口調など、初見では何処を見ても男性か女性かの区別が付つきにくい。
おまけに身体も小さいので、年齢の区別さえもつきにくい。趣味や仕草、物事の考え方でさえ完全に中性となっている。
名前も男女共用の名であるし、稀に着る水着も男女共用。ユーリの性別を判断するのは難しいとされている。
性格は冷静で穏和。声も涼やかで、決して怒鳴ったりしない。
(ネタバレを防ぐため、年齢と性別を伏せております)
現在、キャラクターの募集を中止しております。
応募されたキャラの一覧はこちら(テンプレート下記にて)>>1
目次
Episode0—ユーリの失踪—
>>6 >>9 >>13
Episode1—目覚め、悲観—
>>21 >>24 >>26
Episode2—記憶を辿って—
>>27 >>31 >>35 >>36 >>42
Episode3—明かされる真実—
>>43
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.9 )
- 日時: 2014/05/09 19:16
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
ユーリは早速、先日と同じバイクに跨ってエンジンをかけた。
このバイクは軍用ではないので、市販で普通に手に入れることが出来る。
それでも丈夫でタフな上、パワーもさることながら音もそれなりに押さえられている。
単独での移動手段には最適である。
早速目的地へ行こうとした時、遠くでユーリを呼ぶ声がした。
ユーリにとって最も聞き覚えのある声であり、その声は二つ存在している。
後ろを振り返れば、ある意味予想通りの人物が走ってくるのが見えた。
「よう、ユーリ! 今日も戦場かよ?」
「うん」
やってきたのは、第一印象がガキ大将に相応しい少年〈リク・フォレスノーム〉だった。
彼のあとに続いてもう一人、赤い軍服に身を包んだ少年のような少女〈フロイ=バウムクーヘン〉もやってきた。
「はぁ、はぁ……ごめんユーリちゃん、バイク後ろ乗せて!」
「いいよ」
「あ、ありがと……」
フロイは息を切らせている。どうやら遅刻寸前らしい。
早速彼女はユーリの許可を得て、バイクの後部に跨った。
彼女の豊かな——傍目にはそう見えない——胸が、ユーリの背中にダイレクトに当たる。
「ヒューヒュー! お熱いねぇ二人とも!」
「え、え?」
「フロイ、リクなんかほっといて行くよ」
「あ、うん」
横から茶々を入れるリクを置いて、何が"お熱い"のか分からず戸惑うフロイを乗せて、ユーリはバイクを走らせる。
走り出した後でリクが何かを叫んでいたが、フロイは聞こえなかったので気付かず、ユーリは聞こえていたが無視していた。
◇ ◇ ◇
ユーリとフロイは同じ軍に所属しているが、フロイは衛生兵なのであまりユーリと戦場で関わることがない。
ユーリが偵察兵なので、怪我を滅多にしない故だ。逆に言えば、フロイも衛生兵なので戦火の真っ只中に赴くことはまずない。
それでも嘗ての軍事学校で級友だったので、フロイトユーリは親しい仲にある。
「ねぇユーリちゃん。ボクたち、何が熱かったのかな? リク君そんなこと言ってたけど……」
荒野を移動している最中、フロイは先ほどのリクの言葉についてユーリに問いかけた。
問いかけられたユーリは思わず、彼女の質問に対して呆れを多分に含んだ溜息をついてしまった。
「気にしたら負けだよ、フロイ」
「?」
ユーリの意味深な返答に、フロイはただ首を傾げるだけであった。
◇ ◇ ◇
ユーリたちはその後、遅刻することなく軍の本部へと到着することが出来た。
早速仕事があるらしいユーリは戦場へと赴き、フロイは暫くの間詰め所で待機することとなった。
が、一匹狼のユーリは軍の仲間と離れ、単独で戦場の視察へ向かっている。
(——うーん……)
双眼鏡の役割を果たせるゴーグルを使い、ユーリは首を傾げていた。
現在冷戦状態である相手国の軍を視察に来たのだが、先日までいたはずの敵が全くいない。
陣地さえも撤去されており、見渡す限りの荒野である。
ユーリは偵察兵軍曹に通信を入れた。
『こちらラウラ。どうした?』
威厳ある女性の声が通信機越しに聞こえてきた。
「敵がいません。陣地も完全に撤去されているようです」
『何だと?』
そんな馬鹿な。そうとでも言いたげな偵察兵軍曹〈ラウラ・シュバルツ〉が神妙そうな声を上げる。
『見間違いではないのか?』
「C−6地点がボクの担当地区ですよね? それでしたら、やはり敵はいません」
『どういうことだ……』
「——あ」
ラウラが何やら頭を悩ませている最中、ユーリは何かを見つけたようにゴーグルをはめた。
どうかしたかと尋ねるラウラの声を他所に、ユーリはゴーグルのピントを合わせる。
遥か先に見えたものは、内臓や血を一切の例外なくぶちまけた、紛れもない敵の屍たちだった。
「うっ」
初めて見る人の骸に、ユーリは気分が悪くなる。
「て、敵の屍を発見しました……それも数多の……」
『何ィ!?』
ラウラは声を荒げた。
昨日のうちに何があった、夜間警戒していた兵士達はどうしたなどと、ラウラは酷く混乱して慌てている。
通信機越しに、様々な指示が回っていることが分かる。本部のほうも酷く慌てているようだ。
『アルフォンス、お前は陣地ではなく本部へ戻って来い! 気をつけろ!』
「あ、は、はい。すぐに本部へ戻ります」
ユーリは通信を切り、急いで撤退の準備を始めた。
が————
「あうぅ!」
ユーリの悲鳴が、静寂を切り裂く銃声と共に荒野に木霊した。
腕を狙撃されたらしい。幸いにも掠った程度だが、血は出ている。
どこから狙撃してきたのだろうか。非常に気になるところだが、留まっているわけにはいかない。
ユーリは出血を手で押さえながら走り出す。走る中で痛みを堪えながら、通信を入れた。ラウラが即座に対応した。
『こちらラウラ。どうした?』
「て、敵襲、です……狙撃され——きゃあぁあ!」
『おい! どうした!?』
次はユーリの背後で、大規模な爆発が起きた。
爆風に巻き込まれて吹き飛ばされ、近くにあった岩にそのままの勢いで全身を強打し、倒れる。
頭部や脚、腹などからも血が出てきて、火傷も伴って全身に激痛が走る。
「う、うぅ……」
意識が朦朧とする中で、ユーリは通信機を探した。が、通信機は粉み微塵に砕け散っていた。
最早、全力で逃げるしかない。いずれは死ぬと分かっていても、足掻くしかない。ユーリは何とか立ち上がり、歩き出した。
走ることはもう出来ない。ユーリは出来る限りのスピードで、その場を後にしようとする。
「っ!」
ユーリはまた、銃声を耳にした。同時に弾丸が肩に命中する。
再び襲い来る激痛に耐え切れず、ユーリは意識を落とした。
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.10 )
- 日時: 2014/05/09 19:19
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
コッコさん
オリキャラありがとうございます。
不採用だなんてとんでもない。数が多くない限り採用させていただきますとも。
モンブラン博士さん
お褒め頂き光栄でございます。
文才なき私の小説でよければ、どんどん足を運んでくださいな。
では。
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.11 )
- 日時: 2014/05/09 20:14
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
千螺虔迅さんへ
早速フロイを登場させてくださってありがとうございます。感謝しています。更新早いですね!それでいてこの文才、キャラクター性、背景描写、どれをとっても本当に素晴らしく内容も充実していてワクワクします。しかもオリキャラをすべて生かすとは・・・・本当にすごいとしかいいようがありません。すこしくどいようですが、更新楽しみにしています。無理せずがんばってください。これからの展開がとても楽しみです。
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.12 )
- 日時: 2014/05/10 15:26
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
モンブラン博士さん
そんなに褒めても何も出ませんよ。厨二バリバリの設定で申し訳ないくらいです。
フロイ、上手く描写できているでしょうか。独特なキャラなので上手く操れているかどうか、時折不安になります。
のんびりと更新させていただきますね。保留にならない程度に。
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.13 )
- 日時: 2014/05/10 16:29
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
呼吸さえ止まりそうなユーリに近付く人物がいた。
優雅でミステリアスな雰囲気を醸し出す女性〈モード・リントヴルム〉だ。全体的に大人っぽいが、顔立ちはまだ若い。
荒野を駆ける強い風に色素の薄い水色の髪を揺らし、眠そうに細められた赤い瞳をユーリに向ける。
煙管を右手に持っており、優雅に紫煙を燻らせている。だがそれも全て、時折吹く荒んだ風に溶けて消えている。
「可哀想に……」
その女性は煙管をしまい、ユーリを抱え上げた。身につけている白いワンピースが、血で汚れると分かっていながら。
気を失っているユーリの傷ついた顔を見据え、女性は少しだけ悲壮感を漂わす表情を浮かべながら転移魔法を唱えた。
赤く光る魔方陣が足元に出現し、ユーリ諸共その場から消え去る。
◇ ◇ ◇
「——間違いではないのだな?」
「はっ。ユーリ上等兵は最後の通信から推測して、何者かによる奇襲を受けた後に姿を消したと思われます」
「むぅ……」
偵察軍本部にて、ラウラはユーリの同僚から状況報告を受けていた。
ユーリが失踪した事件はすぐに問題となった。
悲鳴を最後に通信が途絶えた後、ラウラは急いで出撃中の部隊に最優先任務を変更する指示を出した。内容は、ユーリの捜索。
様々な捜索を専門とする部隊にも出撃命令が下った。
それから二日が経ったが、ユーリは見つかっていない。
当のユーリを襲撃した犯人や敵部隊の全滅についても全力で捜査をしているが、進展はまるでない。
各部隊が全力で捜査して現時点で発見したのは、ユーリの血飛沫と何かが爆発した痕跡だけ。
脱走した可能性も考えられたが、あの時点での脱走など到底出来るはずもない。
案の定捜索部隊は、念のためにとユーリが携わってきた家々を周ったが、誰も発見者はいないとのことだ。
それよりも軍は、自分の子供が失踪したことを知ったらしいエマの対応に困っていた。
「お願い! はやく……はやくユーリを見つけて!!」
「ちょっと奥さん! 落ち着いてください!」
現在もエマは、司令室で門前払いを食らっている。
エマにとってユーリはただ一人の子供だ。このようなことに陥ってしまっても、当然と言えば当然である。
それに、ユーリが失踪して悩んでいるのは何もエマや軍だけではない。
リクやフロイを初めとする人々もユーリの身を心配しており、中でもリクは一層心配していた。
どうせそのうち戻ってくる。健気に明るく振舞おうとそう言っているリクだが、いつもの勢いがない。
◇ ◇ ◇
ユーリが失踪して五日が経った。
その日の夜、リクは質素な木造ベッドに、宛ら無くなった元気を取り戻すかのように乱暴に倒れこんだ。
だがやはりというか、曇ったような気持ちはそれだけでは晴れなかった。
(くそ! ユーリ、戻って来いよ……)
古びた白いベッドシーツを握る。その手に力はまるでなく、とても弱々しい。
中々寝付けないでいる彼の表情は、酷く後ろ向きになっている。本人の意思に関係なく。
丁度近くにあった姿見に映った自分と目が合い、リクは頭を振った。
やがてリクは、何か思い立ったかのようにベッドから降りた。
それから長い時間をかけ、入念過ぎると言っていい身支度を完了する。
旅支度、という言葉が正しいだろうか。そんな準備をしたリクは、リビングのテーブルに書置きを残した。
「じゃあな、母さん。父さん」
愛用している剣を腰に帯剣し、リクは家の鍵も持たずに家を出た。
書置きには乱雑な字で「探さないで」という一文が綴られていた。