複雑・ファジー小説

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異能探偵社の日常と襲撃【3/24up】
日時: 2015/03/24 01:31
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16823

 【軍警】が闊歩し【マフィア】が暗躍する都市__【帝都】


 ニ年前__【帝都】の裏街を支配していた組織【亡霊レムレース
  表向きは【軍警】によって 滅ぼされたその組織は実際には【帝都】のとある小さな探偵社によって潰された。


【異能探偵社】__
  探偵社と名乗るものの彼らは普通の組織ではない。
  全員が通常では説明する事の出来ない【異能】を有した武闘派集団。


 今日も【探偵社】を尋ねて依頼人が事務所の扉を叩く……






              ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞



 いらっしゃいませ♪
 不定期更新、長期逃亡の常習犯のるみねです。

 前作【××異能探偵社××】の続編になりますので、登場人物や世界観に関して説明不足になるかもしれません。
 そこで募集したオリキャラもまた使わせて頂くと思います。

 今回は【短編集風】になると思われます。




   ×××注意事項×××
■更新不定期。続けるつもりですが保証出来ません。
■自己満足の塊。
■登場人物はかなり多い(予定)です。
■荒らし禁止!
■とある漫画の設定から触発されてやってます。
■こんな感じです。わかる人は元ネタ分かると思いますが、日本を舞台にした能力ファンタジー物を目指します!


オリキャラ募集用紙 >>006

頂いたキャラ

葛城響  >>007  隆崎天光  >>008
国見翼  >>012  小野寺鮮花 >>013
賢木蓮璃 >>017  一ノ瀬隼  >>020

オリキャラを下さった皆様ありがとうございました!
採用出来なかった皆様、申し訳ありません!
もうちょっと軌道に乗ってから二次募集も検討しておりますのでその時にでもお願いします。



              ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞

【資料】 >>005.>>024


月曜日【出会い】 >>002.>>004

日曜日【序章】 >>011

火曜日【日常A】 >>016
   【日常B】 >>027  【襲撃B】>>028
   【日常C】 >>029
   【日常D】 >>030.>>031 【襲撃D】>>032
   【日常E】 >>034.>>035

   【日常B②】>>036.>>038
 【間章】 >>039


              ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞

【お客様】  
ブラッドオレンジ様、エルモ様、宇宙様、雨様、リグル様、蓮楓様、パーセンター様
夏希様、大関様、siyaruden様、カルム様

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/26up!】 ( No.34 )
日時: 2015/01/30 18:12
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
参照: ややこしくなってると思います。私も訳が変わらなくなりそうです←

【日常E】軍警と二羽の烏


【猫の目】を出た牡丹は伸びをするように手を挙げると軽く身体を捻った。

「さて、あたしらもいくかい」

 徹もあくびをかみ殺しながら頷いた。
「……そういえば姐さん昨日非番なのにいませんでしたね。また買い物ですか?」
「いや、デート」
「…………え!?」
 衝撃的な台詞に徹だけでなくそばにいた桃矢もおもわず聞き返した。
「……なんだい、その間と驚きは。ほら、徹さっさと行くよ」
 そうそうに歩き出した牡丹に我に帰った徹も追いすがった。

「だ、だってデートって!あのデートですか!?」
 しどろもどろに尋ねる徹に牡丹は頷いた。
「あんたが考えてるデートだよ」
「あ、相手は!?」
「潮見恭助って五つ下で赤毛の営業職」
「……どこで出会ったんですか、そんな人と」
「昔の友達の紹介」
「……よく姐さんの仕事でひかれませんでしたね。女性が荒事専門の探偵って 」
「女性下着の販売員って嘘ついてるもの」
 言葉を濁した徹に牡丹はあっけらかんと言ってのけた。
 あまりの潔さに一瞬何を言っているのか理解出来ずに戸惑うがすぐに叫んだ。
「絶対バレますよ」
「そうかい?」
 不服そうに聞き返す牡丹に徹が質問した。
「その人が後ろから抱きついて来たらどうしますか」
「投げる」
「普通の女性はしません!」
 即答した牡丹に噛み付くが牡丹ははいはいというように手を振ってあまり聞く耳を持たなかった。
__まぁ、あまり年下の俺が言う事でもないけど……
 心の中でブツブツいいながら結局それにはあまり触れずについていくが、よそ見をしていたので通行人とぶつかってしまった。
 よろけた相手を慌てて支える。
 ぶつかったのはあまり”拾壱区”では見ないような綺麗な服装をした女性だった。
「すいません!」
 徹が謝ったが女性はたいして気にしていないように笑顔を返した。
「いえ。大丈夫です。こちらもボーッとしていましたので」
 言葉遣いからも明らかに下の地区の人間ではない。不審に思ったが女性が続けた質問で我に帰った。
「あの、この近くに”異能探偵社”という探偵事務所があると伺ったのですが……」
「探偵社?」
 思いがけない質問に徹がつまると横から牡丹が助け舟を出した。
「あぁ、それならすぐそこの【猫の目】という喫茶店右側のビルに入っていただけば看板がありますよ」
 牡丹が説明すると女性は笑顔を浮かべお礼を言って歩いていった。

「なんですかね。お嬢様が訳ありの依頼ってかんじですか」
「まぁ、あとで修兵に聞いてみなよ」
「…ですね。姐さんもああいう風になれば普通の女性って思われるんじゃないですか?」
「どういう意味だい」

 眉をひそめる牡丹に桃矢は苦笑いで誤摩化した。
 ここで案内した彼女が探偵社で騒ぎを起こす事になるとは微塵も考えていなかったが、二人はそれを知るのは大分後になる。





_






「軍警の依頼って、やっぱり大貫さんかい」
 軍警察庁の入り口で出迎えた男は牡丹の言葉に苦笑した。

「こっちは姉ちゃんがくるとは知らなかったよ」
「あいにく今日はあたしの当番なんでね」
「すいませんねぇ、喧嘩腰で」
 挑発的な牡丹をなだめるように徹が謝った。
「もう慣れたよ」
 諦めたように頭を掻くと二人を裏手に案内した。



 裏口から軍警内にはいると、なにやらかなり慌ただしい様子だった。
 あまり広くない廊下を書類をかかえた人間や武装した軍警官たちが足早に歩き去っていく様子を見て、ただ事ではない雰囲気を感じさすがの牡丹も真剣な表情を見せた。

「なんの騒ぎだい?」
「お前らだって先日の事件の事は嫌でも耳に入ってるだろ」
 もちろん地下街のある闘技場の襲撃事件の事だ。牡丹と徹が頷くと大貫は胸ポケットから複数の写真を見せた。
 何が映っているのかを確認した徹は思わず顔をしかめた。
 それは軍警が撮った現場写真だった。現場の状況や遺体の傷の状況などが納められている。凄惨な状況はすぐに見て取れる。
「これが現場か。ひどいな……」
「いくら地下街と言えど不干渉でいられる事件じゃないね」
「まぁな。ゴーストは逃げ出すし。そのうえ今朝方もどっかで強盗おこした馬鹿まで逃走中。結城の野郎はいないし、上はお冠。軍警は今大混乱の絶賛人手不足中なんだよ」
 イライラした大貫の言葉。たしかにこの慌ただしさは納得出来る。
「で、あたしらへの依頼内容は?」
「これからちょっとした遠足に行くもんだから、それの補助要因だ」
「遠足?」
 あまりその言葉が本来差すようなのほほんとした絵がどうしても考えられないのだが、

 徹の想像の通り、大貫に連れて行かれた部屋には武装した警官がずらりと整列する部屋だった。ざっと三十人以上。みな緊張した面持ちで装備の点検を行っている。
「あまり楽しい遠足って感じじゃないね」
「だろうな」
 すでに部屋で待機していた詩音が小声で言う。と部屋の前列に立っている女性に大貫が合図した。
「八千草。こいつらが補助要因だ。実力は俺が保証する」
「ありがとうございます」
 八千草は軽く会釈すると牡丹と徹にも簡単に挨拶をすませ、警官達に向き直った。
「これより、拾弐区地下街【煉獄】への強制摘発を開始する!」


「ちょうど1週間前。拾区でおきた【敷島】のマフィア構成員の惨殺事件。そこからまったく同じ手口で起きた3日前の【鰐淵】傘下の闘技場惨殺事件ーー」

 作戦概要を話し始める八千草の話を頭に入れつつ徹は首をかしげた。
「軍警が地下街に手ぇ出すなんて珍しいですね」
 これまで地下街では敵対マフィア同士の抗争は大なり小なり存在した。探偵社がそれに巻き込まれた事も何度かある。しかし、軍警はそうした事態には率先して仲介に動くという事はなかった。殺人事件が起きれば調査はするがマフィアが絡むとなれば深入りはしてこない。
 修兵曰く軍警の上層部とマフィアの上層部の裏取引や交渉が存在するらしく、そうした体制も修兵が軍警に嫌気が指した要因だと言っていた。

「一般人にまで被害がひろがってるとなればそんな日和見なこと言ってもいられまい」
「違法闘技場はマフィアの収入源なんだから、そこ叩けばマフィアの力も弱体化すると思うけどね」
「地下街で派閥を聞かせている二つの組織【鰐淵】と【敷島】。今回の事件、軍警はその一つの【鰐淵】が殺し屋を雇って敵対してる組織の闘技場を襲撃したとみてる。最初の【敷島】構成員殺しは小規模だったがな。俺が丁度担当したが遺体は全員闘技場で殺された人間達と同じように殺されてた」
「でも【鰐淵】が犯人なら闘技場襲撃は同じ【鰐淵】の傘下組織ですよ?」
「その闘技場のオーナーは自分の組織から敵対組織である【敷島】に寝返ろうとしてた」
「……なるほど」
「闘技場は組織には美味しい収入だ。そこを襲撃されれば組織の戦力を落とすどころか、人は離れいずれ内部から崩壊する」
「それで今回は襲撃を計った組織のガサ入れって訳ね」
「そうだ。拾弐区の地下街を中心に幅を利かせてる【鰐淵】の経営してる闘技場、三つに入って闘技場の人間から組織ごと潰す」
 いつもの大貫に似合わない妙に力のこもった言葉に徹は少し引いた。
「なんかあったんすか」
「……いや。なんでもねぇよ」
 徹に覗き込まれて大貫はあわてて否定した。首を傾げる徹はなにか知ってる風の牡丹の表情に気づく。
「姐さん。なんか知ってるんですか?」
「知ってるけど、大貫さんがいわない事はあたしは言わないよ」
 ひやかしでない真面目なトーンでいわれ、徹は踏み込む機会を失ってそのまま聞きそびれた。

「さ、いくぞ。俺の現役最後の仕事だろうからな。最後までつきあってくれや」

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/30up!】 ( No.35 )
日時: 2015/02/05 19:20
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)



 突然の軍警の来訪に地下街はざわめきたった。
 八千草を先頭に進む一団は何事かと騒然とする野次馬を追い払い、闘技場を目指す。
 軍警から派遣された人員は100名ほど。それをそれぞれ三つの部隊にわけ、同時に闘技場に侵入。内部の人間を摘発、逮捕する。闘技場を潰す事でおのずと上の組織にも圧力になっていく。
「こんな人数で……。隠密とかこっそりっていう発想はないのか」
「地下街の出入り口は軍警が全部抑えてる、バレようと関係ないよ」
 徹の呆れ声に詩音が補足説明したところで一団の歩みがとまった。

「あぁ、ここか」
 目的地を見た牡丹が呟いた。それを聞いた徹はフッと顔を上げた。地下街自体あまりこない徹にはあまり見覚えのない建物だ。
「姐さん来た事あるんですか」
「昔ね。大地がもともとここにいたんだよ。闘士で」
「え!?」
 いままで大地の過去は詳しく詮索してこなかったので思わぬ情報に驚く。
「大地が強いのはここでの経験が大きいね。まぁ、ちょっとした事件があってここやめて、社長に拾われたのよ」
「事件?」
 すこし戸惑うような間があってから牡丹が口を開いた。
「……大地が毎週金曜日、病院に行く理由知ってる?」
「……いえ」
「大地の彼女が意識不明で入院してるんだよ」
「……」
「昔、軍警だった彼女は闘技場の潜入中にそれがバレて——
「おい、無駄話してないで緊張感もて」
 イライラと大貫に注意され二人は口をつぐんだ。
「なんか大貫さんぴりぴりしてんな」
「当然だろ」
 突き放すような詩音の言葉に徹は何か知っているのかと聞こうとしたが無駄口叩くなというような視線で見られて口を閉じた。たしかに周囲の緊張している警官たちの視線もいたい。
「仕事はちゃんとやりますよ……」
 徹は異能で八千草の思考を捜査員につなげる。
 徹の異能は【以心伝心】__これで言葉を発する事なく正確に動く事が出来る。

 闘技場内に侵入した徹たちは騒然とする構成員たちを拘束し奥の本丸である闘技場を目指す。試合がもうはじまっているために閉鎖されており、人もまばらだ。
「俺が鍵を……」
 言いかけた詩音の言葉を遮るような悲鳴が扉の奥から響いた。
「!!」
「悲鳴!?」
 思いもかけない声に軍警官たちが動揺した。
 自分たちはいままでの襲撃犯の組織を抑えるために摘発したのだ。しかし、この悲鳴はーー

「壊せ!」
 焦るように叫ぶ八千草の声で我に帰った警官たちが動き出すがその間も悲鳴は続いている。
 闘技場というだけあってかなり頑丈な作りの扉だ。
 破壊系の異能者もいないので行動が遅れ、悲鳴、派手な破壊音が収まった後に扉を開けた。




「動くな、軍警察だ!」
 八千草の怒号とともに制服姿の人間が雪崩を打って闘技場に入って行く。が、目の前に広がる光景に戸惑うように立ち止まった。
 見覚えのある致命傷を抱え、倒れている人。写真のように首筋や手首など太い動脈が狙われ、噛みちぎられるようにしている。一面には紅い血だまりがうまれ、濃い血の匂いが充満していた。
 写真でみるのとは違う現場の空気に徹や詩音も顔を背けた。
「これは……」
 先頭に立っていた八千草は唖然としたが、部屋の隅で一人立っている人物に気づく。

 首筋から顔にかけて傷痕のある黒髪の男。腕から血を流してはいるがそれ以外に大きな傷はなく突然やってきた軍警の一団を平然と見ている。
 その男と顔見知りらしい八千草は鋭い視線で男との距離を詰めた。
「……赤西。これは一体どういう事だ」
「あぁ〜っ、みりゃわかんだろ」
 赤西と呼ばれた男。闘技場の主、赤西燐太郎は気怠そうに周囲を示した。
「貴様」
 反抗的な態度に八千草の顔が険しくなるが彼女が言葉を続けるよりも燐太郎が手でなにか合図した。
 小声でなにか言っているようだが距離もあるので言葉までは聞こえない。

「なにを独り言を……」
 詰め寄ろうとした軍警にむかって燐太郎の影から破片が飛んで来た。
 破片は綺麗な放物線を描き——閃光とともに熱風をまき散らし爆発した。 

「爆発!?」
「くっ……」
 人が死ぬような爆発ではないが爆発の衝撃と熱に全員は顔を背け、それがおさまる頃には目の前から燐太郎は姿を消していた。

「奴が全て知っている。なんとしてでも探せ!。壱部隊と弐部隊は周辺捜索。参部隊はここの検証!」
 八千草の鋭い命令を皮切りに軍警たちが動き出す。同時に八千草は報告のために携帯電話で結城に連絡するがすぐに携帯を切った。
「ダメだな。結城警視はまた電源切ってる」
「あいつ……いつも電源は入れとけっていってんのに……」
 八千草の報告に大貫がイライラと言うと周囲を見渡す。
「はぁ……これで犯人が分からなくなったな……」
 遺体の傷口を確認する。
 詩音も口を抑え闘技場内を一通り見回るが生存者の望みは薄そうだ。と、電子音が響いて大貫が内ポケットから携帯電話を取り出した。
 着信画面を見て一瞬驚いたようにとまったがすぐに出た。
「……なんだ、お前の方から俺に電話するなんて珍しいな」
 ちょっとおもしろがっているような声で電話の相手が何か言うのを面白そうに聞いていた。
「あ〜、犯罪者だぁ?なら近くの交番行け。こっちは今大問題発生中なんだ」
「……人がいない?知らねぇよ」
 しばらく押し問答を続けていたが、
「あ、悪いな。キャッチ入った。切るぞー」
 微かに電話相手の文句が電話越しに聞こえたが構わず大貫は携帯を切った。
「誰ですか?」
「お前らの知り合いだよ」
 牡丹の疑問に大貫はぞんざいに答えると再び電話を耳に当てた。どうやらキャッチが入ったというのは切る口実ではなく本当の事だったらしい。
「どうした、ヱン。それよりそっちに結城の奴いるか?八千草が電話しても電源切ってんだよ」
 軽い口調で答えた大貫だったがみるみるその表情が険しくなってくる。
「わ、わかった。伝える」
 それだけ言って電話を切ると周辺を調査していた八千草を捕まえた。慌てた様子の大貫に八千草も何か感じ取ったのか視線が鋭くなる。
「どうした?」
 大貫が言葉を詰まらせるがなにかを耳打ちする。すると八千草の表情が険しくなり、そのあとの行動は迅速だった。

「大貫。ここ頼むよ。私は一度戻る」
 それだけ言うと捜査員数名に合図を送り足早に闘技場を出て行った。残された大貫は険しい顔でその後ろ姿を見送る。


「なんだい?」
 牡丹に言われ”以心伝心”で大貫の脳内を覗く。
「なんか上で爆発事件があって、その爆発したのが結城警視って人の車で、車内からは焼死体も見つかってるらしいです」
「今度は軍警の要人暗殺事件かい。派手な事する奴もいるもんね」
 おもしろがっているような牡丹の台詞に残っていた警官達の視線が突き刺さる。
 怯む徹を余所に牡丹はつかつかと大貫に詰め寄った。

「依頼内容はガサ入れの補助要因だったね」
 牡丹が何を言いたいのか察した大貫は渋い表情をしたが、わかったというように手を振った。牡丹はそれを確認すると一礼だけして現場に背を向けて足早に闘技場を出た。その様子を見て徹もあわてて追いかける。


「姐さん。なんで帰るんですか。仕事ですよ」
「あたしらの仕事は軍警の襲撃の際の補助。こっから先は任務外だからね」
「それ屁理屈ですよ」
「なんとでもいいな。現場調査は軍警の専門。だいたい軍警の警視様が死のうがあたしらの利益にもならない。それよりあたしの興味はあそこから逃げた連中だよ」
 牡丹の言葉に徹は首を傾げた。
「それこそ軍警とやる事一緒ですよ」
 あの場から逃走した赤西は軍警がいま必死に追っている。
 出入り口が限定される地下街なのだから捕まるのも時間の問題だと思うが、牡丹は不敵に笑った。

「はっ、地下街で違法行為やってる連中がそんなすぐに逃げ場を無くすようなことする訳ないだろ。隠し通路がいたるところにあるんだよ。今回の襲撃だって前回に比べると死体の数も少ない。客が減ってるって言うのもあるかもしれないけど、うまく客を誘導して何人かは逃がせたんだろ」
「あぁ……」
 納得する一方で行く先が決まっているような牡丹の歩くスピードに必死で合わせた。
「ってか、どこに逃げたが分かってんですか?」
「あぁ、爆発起こした時に一匹追跡用に飛ばしたからね」
 そういった牡丹の右手が一瞬黒い羽根で覆われて消えた。
 牡丹の異能は”烏合之衆”。自身の身体を大鴉に変身させたり、無数の烏に分裂させる事が出来る。先ほどの爆発で用意周到に一匹だけ烏を飛ばし後を追わせていたのだ。
「なら、それ軍警さんに言った方が……」

「なに言ってんだい!せっかくの手柄、軍警にやる事ないだろ」
 強い口調でそう言われ徹も何も言わない。


「だいたい、一緒にいるのは知らない顔じゃないからね」

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【2/5up!】 ( No.36 )
日時: 2015/02/13 15:05
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)

 【日常B ②】猫の目に全てが集まる。


 差し込む光も傾いて徐々に気温も下がり始める時間帯。拾区の大通りは、先ほどまで散らばっていたガラスや大破した車も業者に撤去され、いつもの状態に戻っていた。
 カフェ”猫の目”にはアールグレイの紅茶の香りと香ばしい甘い香りが漂い、騒動から落ち着いた探偵社の面々や常連客の創や日向が強盗の緊張から解放されて談笑していたのだが。

「美味しいです!」
 嬉しそうに言ったのはカウンターの一席でつる子特性のフレンチトーストを頬張る麻里子だ。
 先ほど異能探偵社にやってきて器物破損などの問題を起こした彼女だったが、修繕費が麻里子が払うと折り合いがつき、今は”猫の目”に場所を移し、諸事情で割れた卵で作ったフレンチトーストを食べている。
「良かった。お嬢様に気に入ってもらえて」
「お、お嬢様なんてやめてください!」
 清子の軽い言葉に麻里子は必死に否定する。その様子にふふっと笑う。

「あそこ……天国だ」
「清子ちゃんはお母さんもリアル天使だしね〜」
 女子二人の談笑に見とれる創平とつる子だがその創平の様子に潤はムスッとして睨んだ。
「創平君。私の事見えてる?」
「……え?なんか言った?」
 思わず聞き返した創平の首筋に潤の爪が当てられた。
「一回切られてみる?そしたら本物の天国に行けるよ」
 普段と変わらない微笑に逆に危険な空気を感じて創平はあわてて首を振り、つる子も足早に他のテーブルに歩いていった。
 そんなやり取りをする二人の一方で、事務所から猫の目に移動していた修兵と鷹人はなにやら言い争いをしていた。飛び込みの依頼は少ないので今は探偵社の扉には「現在、事務所をあけております」という言葉と修兵の連絡先を書いた看板が下がっている。
「なんで俺が!」
「仕方ないだろ。こいつら連行しようにも近くの交番出払ってて誰もいないしさ。なら大貫さんに直で引き取りに来てもらうのがいいじゃん」
「それでなんで連絡するのが俺なんだ!」
 口論の原因は店の隅で縛られている2人組の強盗だ。
 拘束したはいいが、今しがた事務所から来た修平が交番に連れて行ったが丁度巡回中らしく警官は出払っており、結局すぐには帰ってこず、彼らを軍警に引き渡す事が出来なかったのだ。
 仕方なく再び”猫の目”に戻って来て、後ろ手に縛り、グルグルに拘束している。そして、現在。強盗犯を捕まえた事を大貫に連絡しようとしているのだが——。

「頼むよ、修ちゃん!」
「人に頼みたいならまずはその呼び方をどうにかしろ」
 元々探偵社に入社する前は軍警にいた修兵は大貫とも付き合いがある。が、あまり軍警時代に良い思い出がない修兵は鋭い目で鷹人を睨んだのだが、結局根負けして携帯をとった。それでもボタンを押すのをためらい、数秒の間躊躇したが結局ため息をついて大貫に電話をかけた。
「……お久しぶりです。園村です」
 固い口調で挨拶する修兵に絶えきれず創平が吹き出した。その頭に拳骨を落としてから挨拶もそうそうに切り上げると本題に入った。
「今朝、強盗事件ありましたよね。2人組の。そいつら捕まえたので報告と引き取りを頼みたいんですけど」
__あ〜、犯罪者だぁ?なら近くの交番行け。こっちは今大問題発生中なんだ
「一般人のいる場所に犯罪者放置しとくほうが大問題だっての……。だいたい交番に人がいないから連絡したんですよ」
__人がいない?知らねぇよ
「知らないじゃなくて、ちゃんと引き取りに来てくださいよ!?」
 その親を叱るような口調に周囲は必死に吹き出すのを堪える。その様子を視界から外すように修兵はしばらく押し問答を続けていたが、
__あ、悪いな。キャッチ入った。切るぞー
「は、ちょっと!ちゃんとこいよ!?」
 とうとう敬語ですらない言葉を叫んだが結局電話は切られた。
「どうだった?……って無理だよね」
「……まぁ、夜までには来るだろ」
「今日軍警に牡丹姐さんたち行ってるんすよね。大貫さんがこっちに仕事回す時はだいたいデカい仕事がある時だからそれじゃないっすか」
 創平の言葉に二人も納得する。

「あの、すいません。ごちそうにまでなってしまって」
 フレンチトーストを食べ終えた麻里子がお礼を言った。なにやら言い争いをしていたので言うに言えなかったのだろう。
「いや。俺らにも丁度良かったので」
 修兵の言葉に再び頭を下げてから麻里子は鷹人の隣に腰を落とした。鷹人は少し戦いたが麻里子は真剣な表情なので何も言わなかった。
「で、さきほど言っていた相談なんですけど……」
「あぁ、人探しでしたね」
 営業口調に切り替えつつ修兵は尋ねた。
「そうなんです。探してほしいのは……私の弟なんです」







                     ▲▽








「で、名前は?」



 地下街から煉獄の裏通路を使って無事に抜け出した一行は拾弐区を抜けて拾区の暗い路地裏に潜んでいた。今は落ち着いて乱れた息を整える。
 そこでようやく桃矢が大地がつれて来てしまった少年に声をかけた。さきほどまで気を失っていたが逃げている途中で目を覚ましなにやら分からぬうちにここにつれてこられたのだ。
 少年は桃矢の問いに脅えるように後ずさった。まぁ、突然目の前で大量殺人がおき、見知らぬ大人につれてこられればこうなるだろう。
「ったく、大地さんのせいですよ」
 ジトッとした目で大地を睨む。入れ替わりで侑斗が少年に近づいて目の高さまで腰を落とした。
「ボク、名前は?」
「子供扱いするな、ひょろひょろ!」
 直球で飛んで来た言葉に侑斗の頬が引きつった。同時に後ろにいた燐太郎がうひゃうひゃと妙な声で笑いだした。
「ユウマ。名前」
 そう言ってそっぽ向くユウマに興味を持ったのか今度は燐太郎が近づくと大きな手をユウマの頭の上にのせた。
「ユウマか。なんで闘技場なんて入ったんだ?」
 黙ってそっぽをむくユウマに燐太郎はため息をついた。
「格好的に地下街の孤児って感じはしネェんだよな」
 そこで桃矢は改めてユウマの服を見た。たしかに、汚れてはいるが、大人の着ていた古着を着回しているような孤児とは違いちゃんと自分にあったサイズのものをきている。
 しかし、それにもユウマは何も言わない。
「子供が来ていい場所じゃねぇよ、俺様の試合が一度でも見てみたかったってんならなにもいわネェけどな」
「燐太郎さん……」
「燐太郎さんじゃねぇ、燐さんだ!」
 蓮璃のあきれた声にいつものように突っ込む燐太郎だが表通りを慌ただしく通り過ぎる軍警にさすがに声を潜めた。
 ここまでかなり軍警を見かけたが、その慌ただしい様子や着ている警官の制服からさきほど地下闘技場にやってきた軍警とは別件のようだ。
「今朝の強盗の配備か?」
「それはこことは別の地区だ。あれじゃないか?」
 そういった隼は空気中のにおいを嗅ぐと路地から少し顔をのぞかせちょうど見えた人だかりを指差した。
「爆薬の匂いがする。爆発事件でもあったんだろ」
 それを聞くと燐太郎はニヤッと笑った。
「ともあれ通行人も軍警も今はあっちに目が向く。地下から連絡が入る前に行くか」
「猫の目ならすぐそこで少しもしたらバレそうですけど」
「灯台下暗しって言うだろ?」
「あ、ちょっと燐さん!」
 そういうと侑斗の肩を抱いて先頭を歩いていった。

「お前らも大変だな」
 変わらない同僚に苦笑しながら大地が蓮璃と隼をねぎらった。








                     ▲▽







「なるほどね……」
「10日前から行方不明か」
 麻里子の説明を聞き終えた探偵社の面々は腕を組んだ。
「えぇ……」
「上位地区ならまだ心配ないがふらふらここら辺まできてるとなるとかなり心配ですね」
 潤が呟いた。
 人身売買などはさすがにないだそれでも一人で歩くのは危険だ。
「あ、思い出した……」
 考えこんでいた鷹人が手を叩いた。
「いつも麻里子の後ろにくっついてたあの子!?」
「えぇ、そうです」
 頷く麻里子に鷹人は首をひねった。家を出る前。まだ許嫁という事を知らずに麻里子と遊んでいた頃、確かに小さい少年が一人くっついていたのを覚えている。麻里子の事が大好きで、一人が嫌な寂しがりだった。大人しい子であまり家出をすると言うイメージに結びつかない。まぁ、それから何年も立っているし、性格は変わるものだが。
「なにか家出するような原因でもあったのですか?」
 修兵の問いに麻里子は答えるのに少し戸惑った。
「でも、それでなんで俺たちなんすか?冬峰家なんて名家のご子息なら軍警がまっさきに動きそうなもんすよね」
 創平のもっともな疑問に麻里子の表情が硬くなった。
 たしかに、帝都でも有数の冬峰家。もし、その家の関係者がいなくなったとなったらまっさきに疑われるのは誘拐であり、そうなったら頼むのは町の探偵ではなく軍警の特別科であるべきだ。
「実は……弟にはちょっと問題があって」
 いいずらそうに言いよどむ麻里子に鷹人たちは黙ってその答えを待ったのだが、その沈黙は派手に鳴り響いた入り口のベルに壊された。

「よぉ!」

「燐太郎さん……」
 珍しい訪問者を出迎えた清子は入って来た人物に驚いた。
「久しぶりだねぇ、清子ちゃん♪最後に会ったの、まだ大地が探偵社の下っ端の頃だったよな」
「そうですね」
 なれなれしく回して来た手を叩く。
「ゴメンな、清子」
 後から追いついた大地が手を合わせた。
「八人大丈夫か?」
「大丈夫。修兵たちもいる」
 そう言ってカウンターの探偵社の面々を指差した。
「ただいま戻りました」
「おかえりー、桃矢くん。千鶴ちゃん。ってか随分増えてるね」
「いろいろあったんですよ!あの地下闘技場襲撃事件に遭遇しちゃうし、軍警には追いかけられるし」
「しょっぱなから大変な仕事だったね」
「はい……。なんか家出らしい少年まで保護しちゃうし……」
「あの、それでそちらは?」
 麻里子に気づいた桃矢が尋ねた。
「あぁ、狗木さんの許嫁の……」
 紹介しようとした潤は麻里子の様子に違和感を覚えて彼女の顔を覗き込んだ。
「麻里子さん?」
 しかし、麻里子は入って来た大地の方を驚いて見ると席を弾けるように立ち上がった。

「え、麻里子?」

 鷹人の言葉には応えず、麻里子は扉の方に歩いていく。







     、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そして、ユウマの横を抜けその後ろに立っていた青年__侑斗に抱きついた。



 呆気にとられる一同のなかで侑斗は動揺するようにあわあわと麻里子の腕から逃れた。









「ま、麻里子姉さん……」

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【2/13up!】 ( No.38 )
日時: 2015/03/14 13:55
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
参照: 文脈が放浪。展開が迷子。。。←

【日常B ②】


「ま、麻里子姉さん……」

 突然抱きついて来た麻里子に侑斗は目を白黒させて呟いた。周りにいた大地や燐太郎達も思いがけない歓迎にあっけにとられた。
 気を聞かせた清子が二人に少し離れた席を用意した。
「もう、家出なんて……!」
「あ、いや……」


「全く、あの野郎……」
 姉と弟の話す姿を遠目で見ながら燐太郎は珈琲を煽った。
「まさか侑斗が四大名家の次男坊だったとはな、予想外だ」
「それはこっちの台詞だ」
 のんきな燐太郎の台詞に修兵が睨んだ。
「なんでお前(大地)の依頼主が指名手配になってこの店に来てんだ」
「悪いな……」
「ごめんなさい、修平さん」
 同じ煉獄の一員である隼と蓮璃が代理であやまるがあまり説得力がない。


「四大名家ねぇ……」
 つめよられるようにして麻里子に話しかけられている侑斗を大地は考え込むように見つけた。
「どうかしたんすか、大地さん」
「あ、いや……」
 心配そうに創平が大地の顔を覗き込んだので、大地は我に帰るとなんでもないというように手を振った。しかし、それでもなにかひっかかる事があるらしい。
「それ考え込むのもいいけど、この子もどうにかしてよね」
 鷹人が言ったのはカウンター席でつる子の出したフレンチトーストを頬張っている少年、ユウマのことだ。人当たりが良く面倒見のいいつる子にユウマの緊張もほぐれ、今は笑みも浮かべている。

「もし家出じゃなかったら誘拐ですよ、誘拐」
「千鶴ちゃん、ホントのこと言うな」
「……」
 千鶴と桃矢の言葉に大地は顔を引きつらせた。
「まぁ、家出ってのは本人が認めてくれたし、家も地下街じゃないってのはわかったけど。でも肝心のどこの子かとか全然話してくれないんだよね。桃矢さんはなぜか嫌われてるし」
「俺、なんもしてないんだけどな……」
 こっちを見ている事に気づいたユウマが桃矢を睨んだので本人も苦笑するしかない。
「案外なんかやったんじゃねぇか?しらねぇとこで」
「適当言わないでくださいよ。燐太郎さん」
「わかんねぇだろ? あと燐太郎じゃなくて、燐な」
 そこへ珈琲のおかわりをだしにつる子がカウンターから出てきたので捕まえた。小声でユウマの事がなにか分かったかを聞くがつる子は首を振った。
「あんまり話してくれない。まだ家出二日目くらいで、家は釟区らしいってのは話してくれたけど、なんで地下街なんかにいたのかも詳しく聞くと黙っちゃうし……。だいたい第拾弐区の地下街なんて子供が率先して入るような場所じゃないでしょ?」

 たしかに地下街にも浮浪児はいるが、そういう少年達は生まれた場所が地下街であったか、地下街に捨てられたか。ユウマの服装から地下街うまれというわけではなさそうだし、恐いもの見たさで複数の少年が地下街の入り口あたりをうろつくぐらいならあるが、少年が一人で地下街の、それも闘技場なんて場所に入ってくるなんて、あまりあることではない。
「誰かにつれていかれたんじゃないの?」
「それこそ誘拐じゃねぇかよ」
「誘拐ってのはあそこの侑斗みたいなおぼっちゃまにする事で意味があるんだよ。帝都の下地区の子供なんか誘拐してもなんの特もないだろ?」
「燐太郎さん、もはや犯罪者の発言ですよ」
「間違ってないだろ。蓮璃。燐太郎さんは立派な犯罪者だよ」
「あぁ、そうか。軍警に指名手配中でしたね」
「人気者は辛いな」
「のんきな事言わないでよ!だいたい指名手配ってなんなの?違法闘技場以外になにやらかしたんですか?」
 潤の疑問で蓮璃と隼は顔をみ合わせるとチラッと燐太郎を見た。当の燐太郎はなんでもないというように手をヒラヒラフっている。
「なぁに、ちょっと地下街連続惨殺事件の容疑者になっちゃったぽいんだよね」
 その発言にどういうことかとにわかに騒がしくなる。

「始めにあの子にあったの大地さんですよね?なんか変わった様子とかありました?」
 騒ぎから外れた桃矢が大地に尋ねた。が、肝心の大地はどこか上の空だ。
「なぁ、桃矢。『櫻』のことなんだけど……」
 突然の質問に桃矢は動きを止めた。
「さ、『櫻』ですか?」
 『櫻』とは、桃矢の中にいる別人格のことだ。
 幼少期の虐待が原因で生まれた『櫻』は、死んだ桃矢の双子の兄が元になっており、長い間桃矢の記憶さえ支配し、異能さえ別のものをもっていた。人格が一人歩きをし、暴走する中で探偵社に拾われ黒尾禅十郎との対決の中で人格を桃矢が支配する事が出来たのだ。
「櫻が表にいる間は桃矢は異能を使ってる自覚はなかったんだよな?」
「……はい。そもそも櫻の存在すら分かってませんでしたから」
「用は異能がコントロール出来ないってことだろ?一種の異能の暴走だな」
「そうですけど……、それがどうかしたんですか?」
 しかし、大地は桃矢の疑問には答えずにまた黙り込んでしまった。


「そういえば、襲撃の時に最初に襲われ始めたのって大地さんがいた付近ですよね、犯人みてないんですか!?」
 燐太郎の指名手配の件を話していた蓮璃が思い出したように聞いた。突然話を降られた大地は驚きながらも肩をすくめた。
「……俺も突然でわけわかんなくてな。すまん」
「お前が気づかないなんて、実戦経験にぶってんじゃねぇか?」
 からかう燐太郎の言葉に一緒に笑う大地の顔をみた桃矢の脳裏になにかがひっかかった。



 どんなに強者だろうと殺意を持って大地のそばで異能を発動させれば、彼が気づかないはずがない。


 大地が襲撃者に気づかない可能性として高いのはなにか。





  、、、、、、、、、、、、、
 もし、相手が子供だったなら————————







「異能の暴走……」
 さきほど大地が聞いて来た言葉が思い出された。
 桃矢のように、身の危険を感じたりなにか条件が発動すると異能を暴走させてしまう事件は少なくない。しかし、どんな異能も使用者が気を失えば解除される。

 隼が壁を破壊し、闘技場内に入った時に大地に担がれて気絶していたユウマ。
 全ての情報が桃矢に一つの可能性を示していた。

「まさか……」




「どうした桃矢?」
 突然動きを止めた桃矢に気づいた修兵が尋ねる。その声で鷹人や創平、燐太郎たちもどうしたのかと桃矢の方に向いた。


「も、もしかして……この襲撃事件の犯人って、ユウマなんじゃ」


「はぁ!?」
 突拍子もない言葉に全員が疑いの声を上げるが、桃矢は小声で今自分が考えた事を話した。
 大地は桃矢が話しだした話に何かいいたそうだったが何も言わずに聞いていた。
 話し終えると皆黙ってその内容を考える。


「まぁ、筋は通ってるな」
「けどあの年齢ですよ?」
「異能の力は生まれ持った才能だ。血統もあるが年齢なんて参考にもならないよ」
 闘技場組が意見をかわす。
「でも、あの子そんな事——」
「記憶にはない。自分の異能を制御出来ない人間には良くある事だ。感情で枷が外れて暴走すればもう自分の意志ではどうにもできない」
 桃矢の強い言葉に千鶴はなにも言い返せなかった。


「なぁに、随分面白い話してるじゃない」

 不意に耳元で囁かれて桃矢は飛び上がった。振り返ると牡丹がニヤニヤ笑いながら立っていた。その影で徹がため息をついている。
「ぼ、牡丹さん!」
「ただいま。なんか随分にぎわってるね」
 常連客だけでない、ユウマや冬峰姉弟。闘技場の面々をみて牡丹は面白そうに笑った。

「仕事終わったのか?」
「ちょっと軍警のお偉いさんが暗殺されちゃったらしくてね、あたしらの仕事どころじゃなくなっちゃったから引いて来たのよ。なぜか現場から逃げた奴らの中に見慣れた顔も会ったもんだから……。そしたら随分楽しそうな事になってるね」
「面白がるもんじゃないですよ」
 徹のツッコミを無視すると牡丹は少し真面目な表情に戻った。

「で、あの子だけど。家出って言ってたけどいつからなの?」
「ここ数日らしいですけど」
「家は?」
「つるこさん曰く釟区あたりだろうって」
 すると牡丹は千鶴のほうに笑顔を向けた。
「安心しな。あの子は違うよ」
「え?」
 驚く桃矢たちに徹が補足で説明した。軍警によると襲撃と同一犯と思われる事件が一週間前に拾区で起きている事を。
「まぁ、その時も家出してたって言われたら反論出来ませんけど、子供が自分の家からなんども遠出するなんてそうそう考えられませんけどね」

 たしかに、そう考えるとユウマは違う。
 その事実に千鶴は安心で息を吐き出した。一方で桃矢も混乱しつつも事実を受け止めた。
「犯人探しも大事だけど、思い込みで決めつけるのはまだ早計だよ」
 牡丹にウインク付きでいわれ頷いた。

「けど、じゃあ襲撃犯は?逃げたって事ですか」
 そう訴える桃矢の言葉を聞いていた千鶴はそのそばで浮かない表情の大地に気づいた。
 そういえば先ほどから大地の様子がおかしい。

「?」

 首を傾げる千鶴の脳内でいままでの話が走馬灯のように流れた。

 襲撃が発生した際、誰が大地の近くにいたのか。
 誰が大地に警戒されないのか。

 誰が一週間前の襲撃に関われるのか。


 さきほど、桃矢はユウマが気絶したことで異能が解除され、襲撃がやんだと言っていた。



 しかし、あの時気絶していたのはユウマだけでは——










「———————ッ!!」



 脳内に電流が走るような衝撃とともに一つの答えが現れた。



「だ、大地さん……」
 震える声の千鶴の様子に大地は察したのか頷いた。








 一週間以上前から拾壱区周辺におり、
  襲撃の際、大地のそばにいて、その後気絶した人物は一人しかいない。




















                          ______冬峰 侑斗だ。

Re: 異能探偵社の日常と襲撃【3/14up】久々の更新。 ( No.39 )
日時: 2015/03/24 01:30
名前: るみね (ID: L1jL6eOs)


 【間章】冬峰 侑斗


 冬峰家。
 帝都の第弐区で、四大名家と呼ばれ上流階級としての地位と名誉を有している。
 現在は70歳をこえる女当主がおさめている。冬峰侑斗はその娘の子供である三兄弟の末っ子として育った。
 なに不自由なく育った。
 歳の離れていた兄は、侑斗とそれほど接点を持とうとしなかったが、姉と許嫁の少年とはよく遊んでいた。屋内で遊ぶ事も多いが、召使いの目を盗んで屋敷の外に抜け出すことが大好きだった。
 広い庭のすみ。壊れた垣根から抜け出して弐区の通りで遊んでいたものだ。
 あまり人に対して積極的ではない侑斗の、数少ない楽しめる時間だったのかもしれない。


 事件が起きたのはそんな時だった。

 いつものように、召使いを騙して屋敷の抜け出した三人は知らない男達に突然囲まれた。
 相手は冬峰家の当主の孫に夏目家の次男坊。当然、身代金を目的とした誘拐犯だ。下の地区では「黒足」と呼ばれる誘拐も手広く人身売買を主とした組織。この時鷹人は13歳。麻里子は10歳。侑斗は5歳だった。黒足の証である特徴的な黒い蜘蛛の入れ墨が侑斗を震えさせた。

「はなしてっ!」
 麻里子が侑斗を守ろうと抵抗するが、男達は鼻で笑った。幼い少女の力で自分たち大人に勝てるわけがない。しかし、男たちの見解は大いに狂う事になる。
 麻里子を掴んでいた男の身体が傾ぐとその身体が浮いた。
「っ!?」
 自分のみに起きた事がわからないまま男はバランスを崩し尻をしたたかに打ち付けた。その様子を見て男達の顔色が変わった。
「こいつ……化け物か」
「異能者だ」
 男達の目の色が変わる。10年以上前はまだまだ異能者は人数が多いわけではなく、裏の人身売買では高値で売られる事も少なくなかったのだ。
「身代金は一人でもいりゃ十分だろ。異能者の餓鬼をほしがる組織はいくらでもいるぜ」
「麻里子っ!」
 鷹人が助けに入ろうとしたが男達にスタンガンを当てられ気絶させられた。
「騒がれても面倒だ。さっさと黙らせてつれてくぞ」
「ちょっとおとなしくしてもらうよ」
 力はあっても動きまで鍛えているわけではない。麻里子悲鳴をあげることも出来ず、手足を拘束された。
「姉様!」
 目の前で崩れ落ちる姉を見て、侑斗の中でなにかが外れた。







 そのあとなにが起こったのか。侑斗は全く覚えていない。
 気がついた時は、侑斗たち三人は誘拐犯とは違う男二人につれられて、屋敷に帰って来ていた。どうやら彼らは軍警でたまたま通りすがったところで、騒ぎに気づき助けに来てくれたらしい。
 親からは心配されるとともに怒られたが、それ以来事件のことについてなにもなかった。


 ところが、その事件から侑斗の周辺ではなにかが少しずつ。しかし確実に変わっていった。

 侑斗が8歳。鷹人とは遊ぶ回数が減っていたが、麻里子とは相も変わらずに一緒にいる事が多かった。しかし、麻里子たち以外の友人と遊ぶという事はなくなっていた。
 あの事件以来、世話係や執事たちもまるで腫れ物に触るように侑斗を扱っていたのだ。なぜか軍警や病院に連れて行かれる回数も増えた。
 別に病気をしているわけでもないし、侑斗自身には理由はまったくわからなかったが、鷹人や麻里子と一緒にいられるならと別に気にする事もなかった。

 侑斗が10歳のある日。鷹人が姿を消した。その日はいつも明るい麻里子が一日中部屋で泣きはらしていた。この頃から侑斗が麻里子と一緒に行動する回数が減っていき、自室にこもる事が多くなっていった。
 麻里子を避けるうちに彼女の方も侑斗に触れ合うこともなくなっていき侑斗は家で孤立した日々を送っていく事になる。



 18歳の誕生日。侑斗は家出をした。
 麻里子に対して心苦しさはあったが、他の家族や使用人達には特別な感情はなかった。麻里子に置手紙を残し夜のうちに家を抜け出した。
 くしくも鷹人が家出をした年齢と同じだった。

 貴族育ちだが、侑斗は下町の空気が好きだった。喧嘩や怖い人はいるが住んでいる人はなんだか暖かい。さすがに家の綺麗な格好で血の気の多い男達のいる中を歩くほど馬鹿ではないので、服もあえてすり切れたふるい服を選んで着ていった。
 半分気晴らしの散歩のように侑斗は足の向くままに帝都を下へ下へと歩いていた。彼にあったのはその時だった。
 幼い頃誘拐された侑斗たちを助け、家まで送ってくれた男だ。軍警でも何度か会う機会もあり、話した回数も少なくはない。
 侑斗に気づいた男は驚いたように立ち止まったが、昼をごちそうがてら話を聞いてくれたばかりか、軍警に報告する事をせずに家出に協力すると言ってくれた。
 そして、男が紹介した赤毛の青年は、仕事に不慣れな侑斗にもいろいろ仕事をさせてくれた。拾区のお使い、拾壱区の闘技場の手伝い。
 ガサツで乱暴な人間も多く、侑斗には体験した事がない事ばかりだったが必死だった。何度も怖い思いをしては気絶した事もあった。逃げたような気もするが、侑斗の記憶ではなにも思い出す事が出来なかった。それでも家に戻る気にはなれなかった。




                         ×
  




 数日前から、拾弐区の地下闘技場に見習いとして入っている。
 これまで以上に乱暴な人間も多くいたが、闘技場の人間達はがさつでも侑斗に平然と接してくるので、侑斗も自然と笑顔になっている事が多かった。
 今日は、燐太郎の久々の試合で、かつて闘士だった男も来るという事で職場も賑やかだった。
「侑斗。そろそろ燐さん呼んで来てくれるかい?」
「あ、はい!」
 小走りで燐太郎の談笑してる部屋にいき、軽くドアをノックして部屋に顔をのぞかせた。
「侑斗。お客さんだよ」
「あ、ごめんなさい」
 翼に諭されて侑斗はあわてて部屋を出ようとするが、燐がいい。というように手を振ったので用件を言う。
「燐太郎さん。そろそろ試合ですよ?」
「もう時間か。あと燐な。それか赤西さん」
 あくびまじりに燐が立ち上がった。侑斗はそれを確認すると会釈だけして部屋を出た。
 部屋を出てからは先輩達にしかられつつも賭けのチケットの販売や受付を手伝った後で、客も引いて来てようやく一段落ついた。
「燐太郎さんの試合みてきなよ。ついでに施錠もお願い」
 先輩にそう言われて侑斗は闘技場の会場へはいった。ここで働いてから何度か入ったが、何度味わってもこの独特な空気には緊張する。
「ルーキーで燐の相手出来るんだから、強いんだろ?」
 出入り口近くでそわそわ見ていると、燐太郎の客だった男に突然声をかけられた。ここ二週間で大分人馴れしていた侑斗だが、不意の事でビクッと震えた。
「は、はい! 僕と同い年ですけど、一ノ瀬さんは……凄いです」
 素直な憧れの言葉を口にして侑斗は隼を見た。そのまま男に捕まってなにげない雑談をしていた。大地と名乗った男は元闘士とは思えない穏やかな口調で侑斗もすぐに慣れる事が出来た。と、その視界を小さな影が横切って侑斗はハッと我に帰った。少年が闘技場に入り込んでいたのだ。

「あ、君。まって!」
 気づいた大地も近づいて来た。
「だ、大地さん。この子……」
 慌てる侑斗を制して大地は穏やかな笑みを見せて少年の前にしゃがんだ。
 大地が説教してくれたので侑斗は視線を戻したのだが、扉近くで立ち止まっていたので丁度入って来た客とぶつかった。
「あ、すいません!」
「気をつけろ餓鬼」
 そういった男の首筋を見た侑斗は固まった。そこに刻み込まれていたのは、黒い特徴的な蜘蛛の入れ墨————。
 その入れ墨が薄れかけていた侑斗の記憶を揺さぶった。
「あ、なんだ。ガンつけやがって」
 勘違いした男の腕が侑斗の胸ぐらをつかんだ。その衝撃が昔の記憶とリンクする。



 そして、侑斗の意識は消えた。




                         ×




「君、ここは君みたいな子供が遊びにくるのはまだはやい。ダメだぞ」
 大地はポンと軽く頭をたたくと少年の手を引いて立ち上がった。

「____!?」
 始めに感じたのは首筋に感じた妙な違和感だった。
 誰かに見られているのような、首筋にちりちりと感じる感覚。尾行をされている時の違和感と似ているがそれらしい影はない。
 大地が警戒しつつ周囲を見渡すが__腕に激痛が走った。

 ナイフで切られたような種類の痛みではない。獣に噛まれたような痛みだった。
 みるまにも周囲の客達が血を吹き倒れていく。
 大地は少年を抱き寄せる。そして、見たのだ。



 血を流し倒れ行く人の中で、虚ろな表情を浮かべ無傷で立っている侑斗の姿を。


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