複雑・ファジー小説
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- 異能探偵社の日常と襲撃【3/24up】
- 日時: 2015/03/24 01:31
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16823
【軍警】が闊歩し【マフィア】が暗躍する都市__【帝都】
ニ年前__【帝都】の裏街を支配していた組織【亡霊】
表向きは【軍警】によって 滅ぼされたその組織は実際には【帝都】のとある小さな探偵社によって潰された。
【異能探偵社】__
探偵社と名乗るものの彼らは普通の組織ではない。
全員が通常では説明する事の出来ない【異能】を有した武闘派集団。
今日も【探偵社】を尋ねて依頼人が事務所の扉を叩く……
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞
いらっしゃいませ♪
不定期更新、長期逃亡の常習犯のるみねです。
前作【××異能探偵社××】の続編になりますので、登場人物や世界観に関して説明不足になるかもしれません。
そこで募集したオリキャラもまた使わせて頂くと思います。
今回は【短編集風】になると思われます。
×××注意事項×××
■更新不定期。続けるつもりですが保証出来ません。
■自己満足の塊。
■登場人物はかなり多い(予定)です。
■荒らし禁止!
■とある漫画の設定から触発されてやってます。
■こんな感じです。わかる人は元ネタ分かると思いますが、日本を舞台にした能力ファンタジー物を目指します!
オリキャラ募集用紙 >>006
頂いたキャラ
葛城響 >>007 隆崎天光 >>008
国見翼 >>012 小野寺鮮花 >>013
賢木蓮璃 >>017 一ノ瀬隼 >>020
オリキャラを下さった皆様ありがとうございました!
採用出来なかった皆様、申し訳ありません!
もうちょっと軌道に乗ってから二次募集も検討しておりますのでその時にでもお願いします。
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【資料】 >>005.>>024
月曜日【出会い】 >>002.>>004
日曜日【序章】 >>011
火曜日【日常A】 >>016
【日常B】 >>027 【襲撃B】>>028
【日常C】 >>029
【日常D】 >>030.>>031 【襲撃D】>>032
【日常E】 >>034.>>035
【日常B②】>>036.>>038
【間章】 >>039
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【お客様】
ブラッドオレンジ様、エルモ様、宇宙様、雨様、リグル様、蓮楓様、パーセンター様
夏希様、大関様、siyaruden様、カルム様
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【12/29up!】オリキャラ募集終了。 ( No.28 )
- 日時: 2015/01/13 23:13
- 名前: るみね (ID: fYloRGSl)
- 参照: なんか順番間違えた気がする。
【襲撃B】
微かに珈琲の匂いの漂う店内。
ラジオのクラシックのBGMが流れる一方で、目の前では雰囲気に似つかわしくない拳銃を構えた男たちがつる子を人質に立っていた。
「てめぇら、通報してネェだろうなぁ!」
「し、してません!」
泣き出しそうなつる子の言葉にも男達は安心しない。
普通ならばただ嚇し付けて逃げれば良い者をこんな行為をしているのだから精神があきらかに正常とは言いがたい。
「あんたどこ強盗したの」
「そんなの知ってどうなるってんだ?」
潤の言葉に苛立たし気にもう一人の男が照準をふらふらと潤達に向ける。闇市場で見るものよりもかなり大型で改造かなにかして殺傷能力を高めたもののようだ。
「こんな時に紅魅がいると楽なんだけど……」
「そっすね……」
いっそ創平の異能で強引にでも吹き飛ばしてやりたいがつる子の影に立っているのでこのいちから攻撃すればつる子を巻き添えにしかねない。
潤も銃でも切断してやろうかと隙をうかがうが相手の様子からして少しでも動けば撃ちかねない。また即座に制圧するにしても入り口から潤達のいる席の間にはテーブルも多くそりなりの距離があるので一瞬ではさすがの潤でも無理だ。
「とりあえず軍警に告げ口されても困るからなぁ」
焦点の定まらない男はゆっくりと銃口をつる子の頭に向けた。
青い顔で震えるつる子に創平は意を決して息を吸うが、その前に外から派手に響いたガラスの割れる音に邪魔された。
「あ?」
その音に強盗の意識が完璧に つる子からそれた。
二人はその隙を見逃さなかった。あとで謝るとしてテーブルを踏み台に男達に向かって飛び出そうとしたのだが。
「ぐあっ!」
創平の手が届く前につる子に銃を向けていた男の悲鳴が響いた。
驚いて見れば亜麻色で癖っ毛の男性が男の銃を蹴り上げその勢いのまま腕を捻って取り押さえるところだった。
「!?」
突然の男の登場で創平達はもとよりつる子や店内にいた客たちも一瞬混乱した。
、、、、、、、、、
なにしろ彼はいままで店内にいなかった客だからだ。
しかし、動揺している暇はない。
相方が取り押さえられているのに気づいた男が銃を突然現れた男に向ける。が、潤の爪が一閃し銃を切り裂いた。
「ヒッ……!」
思わず引きつった悲鳴を上げた男は武器を失ったと気づくやくるりと相方に背を向けて店の外に逃げ出した。
「あ、てめぇっ!」
創平が叫び、潤や常連客たちも思わず後を追って通りに出た。
通りにはガラスが散乱しており、路肩に駐車された車のボンネットには何故か木製の引き出しが突き刺さっていた。
その光景に創平は眉をひそめたがそんな事は後だと思い出す。
みると男は転げるように通りを逃げていたのだが何かに足を取られたのかつんのめって倒れた。
「逃げんじゃねぇよ!」
通りならば周りの被害を(そこまで)気にする必要はない。
今度こそ息を吸うが角から現れた見覚えのある女性に気づいて慌ててやめた。
「清子さん!そいつ強盗です!」
潤の叫び声で清子は目の前の男に気づき足を止めた。
「どけっ」
転んだ男は足をもつれさせながら立ち上がると隠し持っていたナイフを荒々しく突き出した。
「清子ちゃん!」
常連客の男性が思わず叫んだがその言葉は不要だった。
突き出されたナイフをもった腕は伸びるような手刀で弾かれた。連続でもう一方の手が男の手首を打ちナイフを落とす。
「ぐっ!」
思いもかけない反撃に男はあっさりナイフを取り落とすと手首を抑えて立ち止まった。
そして、創平と潤が駆けつける頃には男の身体は綺麗な放物線を描いて宙を舞っていた。
「ぐぎゃ」
潰れた蛙のような悲鳴を上げて男は道路に伸びた。
「こいつらなんなの?」
いつもとかわらぬ冷静な声で対処する清子に潤はおもわず拍手をおくり、彼女が元は探偵社の一員なのだという事を思い出した。
「今朝方強盗やって逃げてた犯人ですよ」
「あぁ」
ラジオを思い出したのか納得する。
数歩遅れた創平も追いつく。男の後ろ手を抑えて立たせる。観念したのか抵抗する気はないようだ。
「清子さん!大丈夫でした?」
大丈夫だろうなとおもいつつ聞いたのだが予想外に清子は首を振った。
「大丈夫じゃない。重傷」
言葉少なに言うと手から下げていた袋を見せた。
見れば買ったばかりの卵は衝撃で見事にひびが入りいくつかは割れて白身が溢れていた。
「今度は割らない」
それを聞いて二人は思わず吹き出した。
「もう、それぐらいなら大丈夫ですよ」
「当麻先生にスクランブルエッグでも作ったらいいんじゃないっすか?あの人なら清子さんの手料理なら喜んで食べますよ」
「……そうね」
そう答えた清子の表情が微かに嬉しそうなのを見て余計に創平は面白くない。
そっぽを向いた拍子に立ち去ろうとしている男に気づいた。
「あの!」
創平の声に男は驚いたようにビクッと肩をふるわせた。
「あ、え!?はい?」
まるで声をかけられるのを予想していなかったように男はしどろもどろに答えた。
亜麻色のくせっ毛でかなり目つきが悪いヤンキーのような風貌だが今は創平に声をかけられて何故か動揺していた。
「さっきはありがとうございました」
「い、いや」
どもりつつ男は首をひねった。
「あの、なんで俺に気づいたの?」
「は?」
「あ、いい。忘れてくれ」
男に聞かれた言葉の意味が分からずに聞きかえすとあわてて否定した。
「じゃあ……」
そう言った男は携帯を取り出すと足早に去っていった。
「なんだったんだ?」
創平は男の言動に首をひねりながら改めて道路の状態を見渡した。
なんでガラスが散乱し引き出しが落ちているのかも訳が分からないが……誰もいないので確認しようもない。
「はぁ、やっぱ暇じゃネェな……」
溜息まじりに言うと動揺から回復したらしいつる子が創平の肩を叩いた。
この地区にすんでいるだけあってこうした事態の対応も復活も早い。
「ごたごたして迷惑かけちゃったから。フレンチトースト食べない? あの卵だけど」
清子がさきほどの重傷の卵を見せる。
言われて気づいてみればもう昼をとっくに回っていた。そんなにのんびりしていたのかと軽い衝撃をうけたが 、その誘いを断る理由はない。
「いただきます!」
「日向さんと創さんもどうぞ」
「これはこれは」
「いただきます」
常連の老紳士と男性もつる子の申し出を嬉しそうに受けた。
「あ、じゃあ修兵さんよんできますよ」
「バカヒトも上じゃない?ついでにつれてきなよ」
「そうっすね」
創平はそういうと散らばったガラスを避けながら事務所のビルに入っていった。
「じゃ、ちょっと遅いお昼にしよ」
清子はそう言うとふふっと微笑んだ。
【日常と襲撃 B】猫の目 =完=
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【12/30up!】オリキャラ募集終了。 ( No.29 )
- 日時: 2015/01/13 23:27
- 名前: るみね (ID: fYloRGSl)
【日常C】探偵社は大いに荒れる。
事務所に戻った修兵は食事前に整理していた書類に目を落とした。
一週間前の今年何度目かも分からない襲撃による備品ほかビルの損壊(主に創平の部屋)の損傷額とそのことの社長への報告書だ。
その社長はと言うと一ヶ月前の長期出張からまだ帰って来ていない。
社長としてどうかとも思うが基本出かけるのが好きな人で、事務的な書類からクライアントとのやり取りまで修兵と大地が行っているので実務にもほぼ影響がないので皆気にしていない。なぜこのなかに最年長者である牡丹が入っていないかと言えば、彼女が間に入ればすぐに挑発的な喧嘩腰になるのが目に見えているからだ。接客にあまり牡丹を関与させないのも探偵社の間では暗黙の了解になっている。
客も来ないので書類をまとめ終えるとたまっていたゴミを捨てる。
「ったく、あいつら分別もせずに捨てやがって」
独り愚痴りながらも修兵は掃除の手を止めない。探偵社の衛生管理は彼がやっていると言っても過言ではない。
と、その事務所のドアが軽く二度ノックされた。
修兵は掃除の手を止めると目立ったゴミが落ちていないのを確認し、扉を開けた。
「こちら異能探偵社で間違いありませんか?」
そう言ってドアの前に立っていたのはいかにもお嬢様といった雰囲気をもつ女性だった。
女性と言っても少女とも思ってしまう幼さを感じる顔つきだ。年齢は20代前後だろうか。腰程までの亜麻色の髪に藍色がかった瞳は出迎えた修兵をまっすぐ見つめていた。服装も淡い落ち着いた色でまとめたワンピースを着ており、拾区というよりは壱区や弐区でみかけるような格好だった。
探偵社にも時々上位地区の客が来る事はあるがそれは極希で、若い女性ともなれば尚更だ。
珍しい客に修兵は内心眉をひそめたがそんな気などかけらも見せず彼女を事務所内に出迎えた。
「当探偵社ははじめてのご利用ですか?」
キョロキョロと事務所の中を見回す彼女にお茶を出しながら尋ねた。みるからにお嬢様だ。こういった地区の探偵事務所など訪れた事もないのだろう。
「えぇ……」
「どなたかからの紹介で?」
「……紹介と言えばそうですね」
少しタイムラグがあってから女性は答えた。
その様子に違和感を覚えて修兵は口を開いた。
「失礼ですがどなたから……」
しかし、修兵の言葉は唐突な女性の言葉で遮られた。
「あの、こちらに……!」
女性が言い終わる前に再び探偵社のドアが今度は無造作に開かれた。
見れば寝起きらしい鷹人がまだ寝癖の残る頭を掻きながら現れた。その様子に思わず修兵も顔をしかめずにはいられなかった。
「おい、バカヒト。来客中だぞ、ちょっとは……」
しかし、またしても修兵は最後まで台詞を言う事が出来なかった。
ガタンッ、という派手な音をたてて女性が勢いよく立ち上がったのだ。あまりの勢いに修兵は思わず呆気にとられたが、女性の表情を見て余計に驚いた。彼女は輝くような満面の笑みを浮かべていたのだ。
「……鷹人様!」
タカヒト……サマ?
彼女の口から漏れたフレーズが理解出来ずに修兵の思考数秒停止する。
「鷹人様?」
ようやく変換出来たがその意味もまだわかっていない。問いただそうと鷹人を見てまた驚く事になる。
普段はなにがあっても飄々とクールにしている鷹人が目の前の彼女を見て明らかな動揺と驚きを見せていたからだ。
「ま、麻里子……さん?」
「鷹人様!お久しぶりですっ!」
嬉しくて仕方が無いというように叫ぶと、麻里子と呼ばれた女性は鷹人に向かって駆け寄ると抱きついた。
「うぐぎゃ。い、いだいっ!痛ッ!麻里子、痛い!!!」
あまりの勢いに妙な悲鳴をあげる鷹人にあわてて麻里子は離れた。
「ごめんなさい」
しゅんとする彼女にまだ動揺している鷹人は現状がよく把握出来ていないようだ。
「あ、え。えっと、なんで麻里子がここに?」
「明日香叔母さまに聞いたんですの。警察署でお会いになりましたでしょ?」
その言葉になにか思い当たる節が有ったのか鷹人の表情が引きつった。
「本当にひどいです。突然家出してから、なにも連絡も下さらずに」
「……」
不満をのべる麻里子の一方でようやく現実が飲み込めて来たのか鷹人は遠くの方を見ている。
「ちょっと聞いてますの?」
「聞いてない」
「なんですって!」
「あの……」
熱のこもってきた麻里子を修兵が止めた。
修兵の言葉で我に帰る。
「あ、ごめんなさい。私ったら」
「いえ。……あの、このバカ——狗木とはどういう?それに……あなたは?」
その言葉に今度は麻里子が首を傾げた。
「クギ?」
そしてそっぽを向いている鷹人の方を見て何か納得したのか少し黙っていたが口を開いた。
「申し遅れました、私は冬峰麻里子といいます」
彼女が名乗った苗字に聞き覚えがあって修兵は戸惑った。
「冬峰……」
修兵の記憶に間違いがなければ第弐区に住む中で特に家柄の古い四大名家。「春馬」「夏目」「秋宮」に並ぶのが「冬峰」家のはずだ。
「冬峰って……、あの?」
戸惑う修兵の反応に麻里子はあっさりと頷いた。
「私の祖母は現当主の冬峰尚子です」
つまりは冬峰家のご令嬢というわけだ。
「でも、なんでそんな人と狗木が?」
話が全く整理出来ていない。混乱を理解した麻里子が黙っている鷹人にかわって説明した。
「今はお婆さまの旧姓を使っているようですけど、この方の本名は夏目鷹人。第弐区、夏目家のご次男で私の許嫁です」
「……」
苦虫を噛み潰したような表情の鷹人の一方で修兵は更に混乱する事になる。
「麻里子、もう俺はあんな家とは関係ない。もう親父だって俺を勘当してるだろ」
「そうですけど……」
「ならほっといてくれよ、許嫁だって親が勝手に決めた事だ」
いつになる荒々しく対応する鷹人に麻里子は戸惑うようにしていたが頬を膨らませると叫んだ。
「突然家出してどんなに心配したと思ってるんですか!」
「ちゃんと手紙は書いたよ」
「えぇ、出て行く。の一言だけですわね」
「……」
「ご両親にもご兄弟にも、私にもなにも言わずに!連絡も下さらずに……8年も!」
だんだん言葉に熱を帯びる麻里子はとまらない。ずっといろいろ言いたかったのだろう。何か言おうと言葉に詰まっているうちに気持ちが抑えられなくなったのか、
「鷹人様の馬鹿!バカ!」
涙まじりの声で叫びながら手近にあった紅茶カップを投げた。
「うわっ、ちょっと!」
慌てた修兵が飛んで来たカップをキャッチする。幸い中身は入っていなかったので事なきを得たがスイッチが入ったらしい麻里子はとまらない。もはや駄々っ子だ。手近にあったペンやらカップやらを鷹人に投げるので鷹人と修兵はソファの影に隠れた。
「おい、お前の許嫁だろ。どうにかしろ!」
「無理だよ。ああなった麻里子は落ち着くまでずっとああだから」
諦めたような鷹人の言葉に修兵はさらにイラっとする。
「ってか、修兵さん。俺が夏目家の人間だって聞いてもあんま驚いた感じないんですけど」
「混乱はしてるがまぁ、事情があるのは入社して来た時から察しはついてたよ。許嫁がいるとまでは知らなかったけどな」
「……まぁ」
「しっかし、なんで家出なんかしたんだ?」
「父親や兄貴とは考え方があわなくてねぇ」
いつものごとくまるで他人の事を話すような口調の鷹人に修兵も苛々を通り越して呆れて来た。
「だからってなんであの子にもなにも言わなかった?あんなに好いてくれてんだろ?」
しかし、鷹人はその言葉に黙り込んだ。心なしか顔色が悪い。
その様子を不思議に思ったが本が壁に当たる音に首をすくめた。コントロールがないのでさっきから投げるものは二人が隠れているソファとは見当違いの場所に当たっている。
が、こころなしか投げるものがデカくなっている。
「ったく、お嬢様は好き勝手やってくれてるな」
「麻里子はあんなもんじゃないんだよ……」
「あ?なんて——
修兵の言葉はガラスの砕ける音でかき消された。続いてビルの外から激しい破壊音。
「は!?」
「……」
あっけにとられる修兵に鷹人は黙り込んだ。
「いい加減、出てきてくださいまし……」
その声はすでに泣き止んでいた。
驚いて顔をのぞかせた修兵は麻里子の周囲がなにか足りたいと感じる。
「あ、桃矢の引き出し……」
客人用のテーブルのそばにあったはずの桃矢の机付属の引き出しがなくなっている。
いままでの話など吹っ飛んだ。
唖然としている修兵の顔をみてハッと麻里子は我に帰ったのか耳まで真っ赤になった。
「あ、わ。私!ごめんなさい!!こんなつもりじゃ……」
打って変わっておろおろとする麻里子はどうやら冷静になったようだ。
自分で投げ続けたペンや本をあわてて拾いだす。幸い壁以外に被害はないが、
そろっと窓を覗くと見事に車に直撃しフロントを大破する引き出しが見え、そこでようやく麻里子が引き出しを投げて壁をぶち抜いたのだと把握した。
「……」
「大丈夫か、修兵さん」
鷹人は青い顔で聞いた。
「ちょっとこい……」
修兵はそんな鷹人の服を掴むと麻里子から少し離れた。
「おい、なんだお前の許嫁……」
もっともな修兵の疑問に鷹人は少し黙っていたが渋々口を開いて説明した。
「……麻里子は怪力の異能者。しかもコントロールが上手くないから加減が全く分からない。子供の時からそれで大変でさ」
さっき行っていた他の原因というにも関連しているようだ。
「怒ったり怖がったり感情がたかぶると特にそれ。貴族の娘だからって気を使われてたけど子供で環境が辛かったりもしたんだろうな……」
「……」
「でも、お前の異能なら」
「親はそれを期待したんだろうな。でも……」
なにか言いかけたところへ片付けを終えた麻里子が飛んで来て頭を下げてきたので中断した。
「本当に申し訳ありません!壁の修理代は私がちゃんと支払います!」
「いえ、頭を上げてください!」
修平はあわてて制し、麻里子は深く下げていた頭を上げた。
なにやら外も騒がしいので引き出しも速く回収しなくてはいけない。
すまなそうな麻里子を落ち着けさせるように新しく紅茶を入れなおしていると再びドアが激しくあいて創平が飛び込んで来た。
「修兵さん、鷹人さん! 聞いてくださいよ。さっき【猫の目】に強盗が来て……」
しかし、事務所の光景に気づいてその言葉は尻窄みで消えた。
「よぉ、創平。強盗だって?」
「え、あ。はい……。あの」
あまりにフランクな鷹人の様子に切り出すタイミングを逃した。どちらかといえば【猫の目】よりもこの事務所のほうがよっぽど大事だ。軽い襲撃でもあったのではないかと疑ってしまうが、
「あ、そう。それで、つるこさんがフレンチトーストおごってくれるって……」
そこまで言ってはじめて創平は麻里子の存在に気づいた。
「だ!ど、どなたですか」
麻里子に緊張してうわずった声で尋ねたが、麻里子は創平の疑問は聞こえなかったのか鷹人に何かを言おうと戸惑っていた。
「あ、あの。こんなことになったあとなんですけど。私、実は鷹人様にお願いがあって……」
「鷹人様!?」
「お前はしばらく黙ってろ」
言葉を詰まらせた麻里子に鷹人はいつものような飄々とした笑みを見せた。
「いいよ。とりあえずフレンチトースト食べながらでいいよね」
鷹人の笑みにつられて麻里子も自然と笑みを浮かべた。
「はい」
【日常C】探偵社は大いに荒れる =完=
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/12up!】 ( No.30 )
- 日時: 2015/01/30 17:19
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
【日常D】煉獄の皇帝
「ここが……」
「第拾壱区、地下街__無法者の巣窟だな」
聞いてるこちらが困惑する程軽い説明ですませる大地に一抹の不安を覚えつつも千鶴と桃矢は大地に先導され地下街の入り口の一つである煉瓦の階段をゆっくり下りた。
この拾壱区の地下には十字の通りと囲むように闇市や酒場などがならび、無法者が闊歩している。つい最近まで軍警にいた身としては目の前で普通に販売されている盗品らしい品々に思わず眉をひそめ、とてもいい気持ちはしないが、大地が先に行ってしまうので置いていかれるわけにもいかないのでなにも言えない。
桃矢も地下街に来るのは初めてで、艶かしく手を振ってくる女性に苦笑いをかえしつつも足早に歩いていった。大地はというと顔なじみが多いのかたまに軽く挨拶をしつつ目的地に向かって歩いていく。
「大地さん。よく平気ですね」
「そっか、桃矢は初めてだっけ?千鶴ちゃんも?」
「千鶴で良いです。拾壱区自体始めてきました」
「まぁ、新人が配属されるような場所でもないし、軍警と地下街はいろいろあるからな……」
「?」
意味深な言葉に千鶴が聞き返そうとしたが大地が立ち止まったのでタイミングを逃した。
「ここだ」
そう指差したのは地下街でもひときわ目を引く建物だった。重厚な鉄製の扉で壁にはなにやら数字や人の名前が書かれた掲示板がたっていた。
「ここが【煉獄】」
地下街の違法闘技場。地下街によらずならず者、無法者。腕に自身のある人間達が集い賞金をかけて戦う。異能者もなにもかもが自由に戦い、客はそれぞれ賭けなど鑑賞を楽しむ地下街の娯楽。
こんなところにいるところもとの同期や上司には絶対見せられないな……などと思っている千鶴の気も知らずに大地は扉を叩いた。
少しの間を置いて少し扉が開くと鮮やかな赤毛の男が顔を出した。男は吊り目の鋭い赤い眼で訪問者を睨んだので思わず千鶴はたじろぐが、男は大地を確認したとたんにフッと笑みを見せた。
「大地さん!お久しぶりです」
「よぉ、翼。元気してたか?」
大地は嬉しそうに男の肩を叩いた。
「はい。今日は、試合見物ですか?あ、もしかして……」
「もうやらねぇよ。燐は?」
「大将なら奥にいますよ。案内します」
「あ、こいつらも一緒な」
桃矢と千鶴を指差す。そこで大地は男を紹介した。
「紹介するよ。こいつは国見翼。桃矢よりも一つ上だな。皮肉ばっか言うけど悪い奴じゃないから」
「皮肉は余計です」
そういいつつ軽く会釈する。
「探偵社の桃矢と千鶴」
「あ、じゃあ。仕事ですか」
「あぁ」
そういいつつ三人は建物の中に案内される。カウンターや売店などがある広間は外観よりも奥に広がっているのか大分広く感じる。
いまは会場前なのか人はまばらだが大地を見るとみんな挨拶して来た。2m近い長身の男が挨拶する様子には千鶴はおろか桃矢もあっけにとられた。
「この人なにもの?」
「俺だって知らない……」
「遅れんなよ」
囁き合う二人に翼が注意する。あわてて小走りに追いかけ、売店裏の控え室のような部屋に案内された。にしてはちゃんとした調度品がそろっているので来客専用なのかもしれない。
しかし、それよりも対面したソファに座る男に目が言ってしまう。
前髪にわずかに赤いメッシュを入れているがそれ以外は深い黒髪。体格は大地とそれ程変わらない。首筋から頬にかけた大きな傷。鋭い灰色の目が猛禽類のように桃矢と千鶴を見据えたがほぼ一瞥しただけで大地に向いた。
「一人だと思ったんだけどな」
「こっちにも事情があるんでね。紹介するよ。今回の依頼人の赤西燐太郎だ」
「燐太郎はやめろっつってんだろ?金太郎みたいで響き悪いじゃねぇか!燐でいい」
男はぶっきらぼうに言ったが、人を惹き付ける何かを持っているのかそこまで怖い印象を持たなかった。二人もおずおずと頭を下げた。
「で、俺に頼むってどんな依頼?」
世間話もそこそこに大地が突っ込んだ。すると燐も神妙な表情になる。
「……さっしはつくだろ?最近下を騒がせてる事件は一つだけだ」
燐がそういうとタイミングを計ったように翼が服のポケットから数枚の写真を取り出して机に広げた。
その写真に写っていたものを確認した千鶴は顔を背け、桃矢は言葉を失い、大地でさも思わず顔をしかめた。
写っていたのは薄暗い屋内に横たわる無数の死体と血の海。損傷した死体の写真だ。失血死はまず間違いない。どれも動脈が通っている急所を噛み切られるようにして絶命していた。
「先日襲われた闘技場の現場の写真だ。生存者ゼロ。闘士どころか観客も皆殺しときてる。俺と同じマフィアの傘下の闘技場だ。こんな事件、拾壱区といえどさすがに軍警もほうっておかない。上もお怒りで犯人を捜してるがこっちも軍警の出入りで表立って動けネェ。そのうえに客が減りだしてる。大問題だ」
「闘士も全員か?」
「言ったろ。生存者ゼロ。小さいとこだからそこまで上位の奴はいなかったがそれでも異常だ」
燐が言う中、千鶴は隣に座っている桃矢が青い顔で写真を見つめているのに気づいた。最初はその凄惨さに恐怖しているのかと思ったがどうも様子が違う。
「冬月さん?」
「……」
千鶴の言葉も桃矢の耳には入っていなかった。
忘れようにも簡単に忘れられるものではない。地面から立ち上がる巨大な”鬼”によって喰われていく人々。喰われた人々はまるで獣にでも教われたようで——
桃矢の脳裏にかすめるのは二年前までともにいたとある人物の顔。
「……黒尾…禅十朗」
乾いた唇から唐突に紡がれた言葉に話していた燐は喋るのをやめ目を丸くした。
「お前、わかんのか?」
「桃矢は……元は”亡霊”の構成員だ」
大地がそういった瞬間、燐のまとっている空気が変わった。部屋の室温が下がったようだ。後ろに立っていた翼の手にも力がこもるが、翼が桃矢に触れる前に大地がその手首をつかみ燐の眼前まで引っ張った。
目の前の翼の手を突き出され、燐は動けなかった。
「『元』だっつってんだろ。今は探偵者の人間だ……」
普段とは打って変わった声の調子と威圧感に千鶴の首筋の毛が逆立った。
「……相変わらず怖いねぇ」
まとっていた殺気を消して燐はへラッと笑った。
「まぁ、園村の野郎がお前以外をよこした理由もわかった。禅十朗の元お仲間がいるんだもんな」
その台詞に刺を感じつつも桃矢は何も言わない。
「裏の人間の中では噂が広がってる。現場はこことは別の地下街の小規模の闘技場。ご丁寧に明かりのたぐいは壊れてたそうだ」
禅十郎の異能”百鬼夜行”は影を使役する異能だ。必要なのは暗闇——。
「……」
「でも、黒尾は重傷で行方不明だ。生き残った”亡霊”の幹部もまだ牢獄の中だろ?」
、、、、
「死んだ訳じゃねぇ。行方不明だ。二年は怪我を治すのには十分すぎる。昔、奴は地下どころか拾壱区以下でも脅威だった。それが今じゃここいらでは俺の上のマフィアのお偉い様が幅効かせてる。……上も怖いんだろうな。今回の事件は禅十朗が戻ってきたのろしだってな」
「あの、それで依頼ってもしかして……」
察しがついてしまった桃矢が燐を見ると燐はニヤッと笑った。
「黒尾の居場所を探してくれ」
燐の言葉に桃矢の顔がさらに青ざめ、大地はため息をついた。
「相変わらず無茶言うな……」
「頼むよ。元闘技場のチャンピオンさん」
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/16up!】 ( No.31 )
- 日時: 2015/01/26 18:39
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
【日常D】煉獄の皇帝
「そりゃ、昔の話だよ」
笑う大地に燐はイライラした表情で睨んだ。
「ったく、昔っから気に食わない野郎だよ……」
燐はそう言うと立ち上がった。
「じゃ、頼むな」
そう言ったとき、軽いノックオンがして青年が顔をのぞかせた。
色白でひょろっとした青年だ。
「侑斗。お客さんだよ」
侑斗と呼ばれた青年を翼が諭した。
「あ、ごめんなさい」
客人に気づいてひこうとするが燐がいい、というように手を振ったので用件を言う。
「燐太郎さん。そろそろ試合ですよ?」
「もう時間か。あと燐な。それか赤西さん」
あくびまじりに燐が立ち上がった。侑斗はそれを確認すると会釈だけして部屋を出た。
「今の知らない顔だな」
「最近入ったんですよ。侑斗って言うんですけど。試合出来るような奴でもないから受付とかやってるんです」
「確かに、ふいたら倒れちゃいそう……」
千鶴の呟きに光景を想像したのか翼が吹き出した。
「試合やんのか」
少し興味を惹かれた大地が聞いた。
「お、見てくか?」
「まぁ、仕事内容も聞いたし……チャンピオンさんの試合でも見学するか」
「うっせぇ……」
ニヤニヤ笑いの大地に燐はふてくされる。
翼に案内されて大地達は部屋を出てホールに出た。ホールには先ほどよりも人が増えて皆
「ってか、闘技場チャンピオンってなんですか?」
「っていったら……」
尋ねる千鶴にどもる桃矢だが翼が説明してくれた。
「闘技場ってのは年間を通して勝敗の数でチャンピオンが決まるんだよ。大地さんは探偵社に入るまで大将とチャンピオン競ってたんだよ。まぁ、こことは別の組織が仕切ってた闘技場だけど、燐太郎さんは大地さんが辞めた後でこの闘技場始めたから」
それを聞けばさきほどの地下街の住人達の反応も納得がいく。
とても穏やかな大地のイメージと結びつかないが……。
「いや、ああ見えて大地さん結構怖いから。無茶するし……」
いろいろ思い当たる事があるのか桃矢は一人で頷いた。
「今日の試合は?」
「元は大将は出ない予定だったんだけど、急遽変更。まぁ、この間の事件とかで客足も減ってたから」
翼が小声で説明する。そして三人はひときわ広い部屋に案内された。
10mほどの正方形の柵で仕切られた空間。おそらくそこがリングなのだろう。その空間を取り囲むように階段状の客席が並んでいた。客の熱気で部屋の温度が上がっている。
「すごい……」
その空間に圧倒された千鶴は思わずそう呟いた。
「なんでここって違法闘技場なんて言われてるんですか。別にこれってボクシングとかの試合と変わらないですよね」
「その収入がマフィアに流れるのが問題なんだよ。賭博は最高の収入だ……稼ぎたければ八百長でもすればいい」
千鶴の疑問に大地が答えたが、その声に微かな殺気を感じて言葉を飲み込んだ。
「なんかあったんですか」
「詳しくは知らない……」
千鶴の問いに桃矢はかぶりを振った。
断片で聞いた話では大地が毎週金曜日に休みを取るのと何か関係があるらしいがいまだにその理由を聞けずにいる。
視線をそらした桃矢の目に少し離れた通路の影に立つ少女がうつった。黒髪の癖っけの眼鏡をかけた女性だ。それだけなら別に気に留める事でもないがまるでなにかを探るような目で闘技場を見渡していた。
「……?」
「どうかしたんですか?」
「いや、あの角に立ってる眼鏡の女の様子がおかしくて」
そう言って女性を指差したが千鶴は首を傾げた。
「なに言ってるんですか?眼鏡の女の人なんていませんよ?」
「あ?」
思わず聞き返したが、眼鏡の女が動き出したので注意が途切れた。
「ちょっと来て」
「え、え?」
「大地さん。ちょっと外れます」
「あぁ。絡まれるなよ。そんで騒ぎにはするな」
大地は釘を刺すように言ったが特に止める事はしなかった。
眼鏡の女性を追って人の多い廊下を抜けていると後ろから翼が追いかけて来た。
「迷子になられても困るんでな」
「別にこなくても良かったのに」
「あ!?」
「桃矢さん!」
喧嘩腰の桃矢に千鶴が仲裁に入る。
「だいだい、誰追ってるんだよ」
「……やっぱ見えないのか」
桃矢は翼の言葉を聞くと歩く速度を速め、女性の肩を叩いた。
予想以上に飛び上がった彼女は驚いて振り返ると桃矢を見た。
年齢はおそらく桃矢と変わらない。眼鏡の中の目を丸くして桃矢を見かえしていた。
千鶴と翼もそこでようやく桃矢の言っていた彼女を認識出来た。
「あ!え!?なんですか?ってか、なんで見えて」
動揺する彼女に桃矢は眉をひそめた。その背後で聞き慣れた声が響いた。
____こいつは、異能者だ。そこの小娘の反応を見るになにか見えない仕掛けがあったんだろうな。けど、お前にはオレがいるから、お前だけを騙した所で関係ねぇんだよ。
「——黙ってろ、”櫻”」
「え?」
「いや、なんでもない。こんなところで女の人が一人って変だなと思ってさ」
「あぁ、それは……」
「小野寺さん?」
その言葉で女性は再び肩をふるわせた。
桃矢が驚いて振り返ると千鶴も目を丸くして女性を見ていた。
「……知り合い?」
「えぇ、小野寺鮮花さんって、昔の同僚で」
「ってことは、軍警?」
その言葉に翼が殺気立つ番だった。
「軍警って……てめぇ、なに嗅ぎ回ってたんだ? 返事によっちゃ吹き飛ばすぞ……」
「ったく、なんで気づけるのよ……」
翼の殺気に数歩距離をあけつつそう呟く鮮花だったがなにか感じたのか今度は胸ポケットに手を入れ携帯を取り出した。電話でも入ったのかバイブで震えている。
画面を見て顔をしかめたが出た。
「天光さん、今こっち大問題発生中だから後にして」
__問題はこっちも同じだ鮮花!!おかげでバレただろ、なにやってんだよ!!
耳に当てていなくても聞こえる音量の声が受話器から漏れ、鮮花は顔をしかめる。
「すいませーん、今地下で電波悪いみたい。聞こえませーん」
わざとらしくそれだけ言って相手が文句を言わないうちに電話を切った。
「ごめんごめん。私用の電話」
ヘラヘラ笑う鮮花に千鶴が詰め寄った。
「小野寺さん。なんでここに?」
「え?いや、仕事よ。仕事」
「軍警さんがこんな所に?」
「今は状況が状況でこっちにもいろいろ事情があるんですよ」
「どういう事?」
聞き返した千鶴の言葉は唐突にあがった悲鳴でかき消された。
試合はすでに始まっている時間で、闘技場はすでに締め切られている。しかし、その悲鳴は試合に対する悲鳴とは明らかに違うものだった。
「!?」
「闘技場のほうだ!」
翼はそれだけ言うと騒然とする人をかき分けて戻っていった。
「千鶴ちゃん、行くよ!」
桃矢もあわてて後を追う。
二人の脳裏にはここ数日地下街を騒がせている惨殺事件の事が浮かんだ。
「お、小野寺さんも……」
思い出して千鶴が鮮花のほうを振り返った。
しかし、そこには小野寺鮮花の姿はなかった。
- Re: 異能探偵社の日常と襲撃【1/18up!】 ( No.32 )
- 日時: 2015/02/13 14:19
- 名前: るみね (ID: L1jL6eOs)
【襲撃D】煉獄と番犬
「さぁ、今日もはじまったぜ。オレ様の試合だ!」
その言葉に客が沸き立つ。テンションをあげて客を煽る燐を大地は苦笑しながら見ていた。
自分はどうもそういう盛り上げが下手だったのを思い出す。
闘技場は地下の建物とは思えない広さと高さの空間だ。闘士が入るのはその中心の10メートル四方の開けた空間。打ちっぱなしのコンクリートむき出しでリングというよりただの床だ。
リングと客席の間には数メートル距離が置かれているが、遮るのは頑丈なフェンスのみ。時に異能者同士の戦いではその空間では足りず場外乱闘も珍しくない。
「昨年度のチャンピオン!赤西燐太郎に対するのは、最近調子を上げてるルーキー、一ノ瀬隼だぁ!」
実況をまかされ、高らかに叫ぶのは腰程までの緑がかった黒髪の少女__闘技場の闘士でもある賢木蓮璃だ。そんな蓮璃の台詞に燐太郎は顔をしかめた。
「何度も言ってんだろ、蓮璃!燐太郎じゃねぇ。燐だ!」
子供のように噛み付く燐に観客が笑った。
「いいじゃないですか、燐太郎さん」
「てめぇもサラッとよぶんじゃねぇよ」
軽く言った隼につっこむ。
「ルーキーで燐の相手出来るんだから、強いんだろ?」
出入り口近くでちょうど大地のそばに立っていた侑斗は突然そういわれビクッと震えた。
「は、はい! 僕と同い年ですけど、一ノ瀬さんは……凄いです」
素直な憧れの言葉を口にして侑斗は隼を見た。そのまま大地は、人見知りなのか緊張してそわそわしている侑斗をなかば強引に捕まえ雑談をしながら試合が始まるのをまつ。
するとゴングがなり、歓声とともに二人の闘士が迎えられた。
いつものようなニヤニヤ笑いを浮かべる燐太郎と冷静に燐太郎の動きを見極める隼。二人の纏う雰囲気はまさしく正反対と言っていい。
「さってぇ、今日はどんな風にチャンピオンを困らせてくれるのかなぁ」
わざとらしい台詞に隼はイラッとした表情を見せる。
「相変わらずムカつく奴だ」
「そ、そうで、すか?ね」
昔と変わらない仲間に苦笑しながら呟いたのだが自分に言われたと勘違いした侑斗は返事を濁すと試合が始まったのであわてて入り口の施錠のために逃げるように大地からはなれた。
「……オレって怖いかな」
まだ出会って間もない青年に嫌われたのかと真剣に悩んだのだが、
「あ、君。まって!」
侑斗の焦る声を聞いて振り返った。一瞬分からなかったが侑斗の影に隠れて小柄な少年が闘技場に入り込んできていた。地下街には路上生活をしている孤児も多い。大地も経験があるが、こうした場所に忍び込むのも彼らの遊びの一つだ。
「だ、大地さん。この子……」
慌てる侑斗を制して大地は穏やかな笑みを見せて少年の前にしゃがんだ。
年齢は14歳前後だろうか。黒髪にシャツとズボンをまとい、挑戦的な目で大地を見かえしてきた。
「君、ここは君みたいな子供が遊びにくるのはまだはやい。ダメだぞ」
ポンと軽く頭をたたくと少年の手を引いて立ち上がったのだが。
「____!?」
始めに感じたのは首筋に感じた妙な違和感だった。
誰かに見られているのような、首筋にちりちりと感じる感覚。尾行をされている時の違和感と似ているがそれらしい影はない。
大地が警戒しつつ周囲を見渡すが__腕に激痛が走った。
_
リングに相対した二人の緊張感は客席から怒った悲鳴で途切れた。
「!?」
「なんだ?」
声の方に目を向けると悲鳴とともに波が引くように客が逃げていく。しかし、少しも離れぬうちに断続的な悲鳴や呻き声が響き目視出来る程の血しぶきが上がった。
すぐさま燐太郎の脳内で先日襲撃事件が思い浮かんだ。
「ったく、よりにもよってうちかよ……」
愚痴ったのも一瞬で先ほどとは違う真剣な表情を見せた。
「蓮璃!」
名前を呼ばれた蓮璃もすぐさま自体を把握する。
「隼。試合は中止だ」
「……そうですね」
相対していた二人は敵意を姿の見えない襲撃者に向ける。
「蓮璃!柵バラせ。そんで他の奴ら集めて客逃がせ!すぐだ!」
「はいっ!」
そう言うと蓮璃は燐太郎と隼を囲んでいたリングの柵に触れた。とたんに頑丈な金網がまるでお互いを拒絶し合うかのように弾けて壊れた。
蓮璃の異能【支離滅裂】は蓮璃が触れたもの全てを分解することができる。
金網をバラした蓮璃は悲鳴を上げる客を誘導する。
しかし、その間にも血しぶきが飛び悲鳴はやまない。
リングという檻から解放された燐太郎は一切の躊躇いを見せずに混乱の中に飛び込んだ。客席には逃げ後れた客が首筋と言った急所から血を流して倒れていた。
その人間の中には燐太郎が面倒を見ていた闘士の顔もある。それぞれそれなりの戦歴を積んだ闘士だったはずだが、
「巫山戯んじゃねぇよ……」
怒りに震えた呟きを吐いた。と、同時に燐太郎の首筋を狙った目に見えない殺気を感じ取った。まるで鋭い刃を突きつけられているような感覚に咄嗟に燐太郎は首を守るために手を当てたが、その腕に焼けるような激痛が走った。
噛みちぎられたように腕の肉が持っていかれている。
しかし、燐太郎を襲った正体は見えなかった。
「大将!?」
腕の怪我を見た蓮璃がギョッとしたように叫んだ。
大半の客は燐太郎と同じように見えない何かに襲われ、死んでいないものも怪我や重傷を追っていた。試合中は不正防止のために出入りが出来ないため混乱もあり避難も進まない。
その間にも悲鳴と攻撃は止む事がない。
目に見えない殺気が空間に跳ね回り人を襲っていく。
「こんな手品……」
イライラと呟いた隼が自分の首筋を狙った殺気に向かって服に隠していたバタフライナイフを降った。するとそのナイフに衝撃を感じ半透明の存在が浮かび上がり跳ね飛ばされた。
「……狼?」
一瞬見えた存在に眉をひそめたが、その姿を良く確認するより前にその塊は再び姿を消し、違う方向から飛んでくる殺気を避けた。
「なんの異能だ?」
「わかりません!」
必死で叫ぶ蓮璃は殺気を避けるように身を伏せた。姿が見えないものでは破壊能力を有する蓮璃の異能も使い用がない。
「ったく、好き勝手やるんじゃねぇよ!!」
圧のある声とともに燐太郎の拳が姿のない殺気に打ち当たったのだが——
フッとその感触が消えるとともに燐太郎の拳も空を切り、殺気も消え失せた。
そして、周囲に跳ね返っていた殺気の気配の一切も感じられなくなった。
「!?」
「やったのか?」
「でも別に燐太郎さんは特にやっつけてないですよ」
「隼。目上に対する言葉はもう少し選んでから言え」
「にしても、なんで消えたんでしょうね」
「燐太郎!」
当惑する燐太郎たちを聞き慣れた声が呼んだ。見ると気絶した侑斗、少年を抱えた大地が立っていた。侑斗も足から血を流している。破れた服を見るに大地も怪我を追ったようだが異能のために傷は塞がりつつある。
「おぉ、無事だったか。そいつらは?」
「二人とも気絶してるだけだ」
侑斗と少年をおろしながら大地は周囲を見渡した。
どうやら襲撃者は消えたようだった。先の事件のような全滅とまではいかなかったが、それでも被害は甚大だった。
闘技場にいた客の半数以上、闘士も複数人殺られた。
試合中で閉じられていたために裏手の通じる隠し扉がなければ客への被害はもっと深刻だっただろう。
「……これがほかのシマを襲った事件ってやつか。けどなんで消えたんだ」
「……さぁな。それより」
しかし、大地が言葉を続けるよりも前に封鎖されていた闘技場の壁の一部が吹き飛んだ。
軽い爆発に全員が身構えるが土埃から現れた顔をみて警戒を解いた。
「ゴホッ!もっと穏便な方法あったと思うんだけど」
土埃に咳き込みながら訴える桃矢だが、爆発の犯人である翼はサラッとしたものだ。
「なに言ってんだ。これくらいじゃ死なねーよ。それにこれが一番楽だ」
平然と言って退けたのだが、その脳天に燐太郎の拳骨が落ちた。
「なにが楽だ。死人だけじゃなく余計な修理費までふやしてんじゃねぇよ!」
激痛に頭を抑える翼だったが視界が晴れて闘技場の様子に気づいたとたんに事態を完璧に把握したようだ。
隣にいた桃矢と千鶴も内部の様子に言葉を失った。
「は、犯人は?」
「消えた。逃げたのかもな」
大地はそう言うと気絶している侑斗を軽く揺すって起こした。少年を起こさないのは周りの状況を見てだろう。気がついた侑斗はしばらく意識が定まらないようだったが周囲の血に気づくと口に手を当て部屋の隅に逃げた。どうやら嘔吐しているらしい。
「大丈夫か、侑斗」
「……は、はい」
青い顔で戻って来た侑斗は周りを見ないようにしながら頷いた。
近くの遺体を確認した桃矢は噛みちぎられたような傷口を確認する。
「……これ。やっぱり」
「いや。禅十郎の野郎じゃねぇよ……」
ボソッと大地が呟いた。
「え!?じゃあ、誰が?」
「お前、犯人見たのか!?」
なかなか答えない大地にイライラした燐太郎がつかみかかろうとしたがふと動きを止めると笑みをひっこめ大地たちを瓦礫の影に隠れさせた。
「え、どうし」
「いいから」
わけも分からず隠れたが、その瞬間今度は闘技場の正面の扉が乱暴に開かれた。
「動くな、軍警察だ!」
女性の怒号とともに制服姿の人間が雪崩を打って闘技場に入って来た。その姿を見て千鶴は思わず大地の影に隠れた。しかし、目の前に広がる予想だにしなかった光景にこちらに気づくものはいなかった。
「これは……」
先頭に立っていた女性軍警官は唖然としたが、部屋の隅で一人立っている人物に気づく。
「……赤西。これは一体どういう事だ」
「あぁ〜っ、みりゃわかんだろ」
「貴様」
反抗的な態度に女性の顔が険しくなるが彼女が言葉を続けるよりも燐太郎が隠れていた翼に合図を送るのが先だった。
「壊せ」
その言葉に翼はニヤッと笑うと床に転がっていた大きめの壁の破片を掴んだ。
「いいのか、燐太郎さん」
「うるせぇ。燐だっていってんだろ」
「なにを独り言を……」
詰め寄ろうとした軍警にむかって翼が両手に持った破片を投げた。
破片は綺麗な放物線を描き——閃光とともに熱風をまき散らし爆発した。
「!?」
「ッ!!」
「ほら、逃げんぞ」
人を吹き飛ばす程の威力はないが怯む軍警を見てそう叫ぶと燐太郎は逃げ出した。
土煙にまぎれ、さきほど翼が破壊した壁から廊下にでて、そのまま燐太郎の先導で地下街の裏通りに入り込んだ。
全力疾走した侑斗は肩で息をしながら座り込んだ。
「な、なんで軍警が狂って分かったんですか」
「オレは鼻が効くんだよ」
千鶴には嘘かホントか分からないが得意げに言う言葉に無理矢理納得した。
「で、でも、燐太郎さんはなんで隠れなかったんです」
動揺している侑斗に燐太郎はしばらく考え込んでいたが……。
「気分」
「バカだろ」
「は!?」
答えは大地に一蹴された。
「まぁ、いくらなんでもこのまま地下にいるのはまずい。一旦どっかで立て直すぞ」
「どこで?」
その言葉にまた考えたがポンと手を打った。
「とりあえず清子ちゃんに会いにいくか」
そう言った燐太郎の頭に大地の拳骨が落ちた。
【襲撃D】煉獄【完】