複雑・ファジー小説
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- プリンセスは突然に
- 日時: 2017/10/14 00:45
- 名前: 梶原明生 (ID: SKF4GgT1)
あらすじ
イギリスのケンブリッジ大学に通うジョージ。彼はテレビカメラの前で大変不思議な体験を語っていた。「私は凄く日本に興味がありまして、いえ大好きといっても過言ではありません。しかし私は貧乏学生で、とても日本には行けない有り様でした。しかし、ある人物が声をかけてきて、日本に行かないか。費用は全部こちらが出すからと言われました。すると私は何故かいきなり、憧れの日本に、いえ東京にいたんです。途方に暮れていた私を助けてくれたのが、知也と美子でした。しかし美子は何と、この国のプリンセスだったのです。正式には園部宮美子と言う名前で、天皇陛下の次男のお嬢さんになります。知也は全くの一般青年でした。これからお話しするのは、この二人の不思議な不思議な美しい叶わぬ恋の物語です。」旧知の親友を思い出すかのようにジョージは優しい目をしていた。果たして彼が体験した世界はパラレルワールドなのか現実なのか。憧れの美しき国「日本」のプリンセスを語った御伽噺は今始まる。
- Re: プリンセスは突然に ( No.15 )
- 日時: 2018/01/18 16:43
- 名前: 梶原明生 (ID: doo.G8T9)
「予期せね追跡者」
…何やらキッチンから美味しい臭いが漂ってきた。「美子様…」寝ぼけ眼で起き上がると、いるはずの美子様はベッドにいない。「え、まさか。」慌てる知也にやさしく声をかけられる美子様。「おはようございます。すみません、勝手にキッチンを扱ってしまって。でも朝ご飯を作りましたよ。良かったら召し上がってください。」「うわ、凄い。これ皆美子様が…」「はい。お口に合うかどうか。」「いえ、とんでもない。いただきます。…う、うまい。」頬張りながら感嘆する知也。「でも、凄いのは冷蔵庫です。食材があんなに豊富に。」「ああ、それは…僕の実家は食堂やってるもんで、うちの母ちゃ…いや母が毎回送ってくるんです。こんなに送ってもらっても、毎日大学とバイトを行ったり来たりじゃなかなか料理してる暇がなくて。…でも、美子様って料理うまいんですね。知らなかったな。」「ええ。お手伝い…いえ、女官の由美さんが教えてくださったんですよ。」「ああ、あの話の由美さんが。…」二人の会話を聞いていた青木達は、任務中とはいえ、しばし二人のはにかむ光景に微笑んだ。「何かいい感じっすね。このままにしてやりたいって言うか。」福岡が呟く。「何だ、お前もか。」「は、まさか青木一尉がっすか。御冗談を…」「わかってる。任務は任務だ。だが不思議だ。何故かあの二人を見てると引き離したくなくなってくる。」和やかな眼差しで大学寮を見つめる青木一尉。…続く。
- Re: プリンセスは突然に ( No.16 )
- 日時: 2018/01/23 19:54
- 名前: 梶原明生 (ID: jtlok8NT)
…その頃、知也は大学に向かうため靴を履いていた。「じゃあ美子様、行ってきます。」「行ってらっしゃいませ。」「何だか新婚さんみたいだなぁ。」ニヤつきながらドアノブに手をかける。「新居がどうされたんですか。」「いや〜、何でもありません。こっちのことで。…行ってきます。」開けて通路に出たところで重大なことに気づいた。「待ってください美子様。重大なこと忘れてました。あの青木って人。僕の大学寮知ってますよ。」「え、そんな…」思わず美子様は口を押さえる。知也は慌てて靴を脱ぎ捨て、ベランダに出た。「く、黒のSUVが停まってる。マズい。」全てを察した彼は美子様の手を取った。「すぐここから逃げましょう。」「ええ。」バッグとコートを取り、急いで玄関を出る二人。「任せてください。寮生でも滅多に知らない抜け道があるんです。」取り急ぎ逃げる。察した青木と福岡は、車を降りて走り出した。「今度は逃がさん。」侵入に慣れている二人は、早々と裏口から入って知也の部屋にたどり着いた。「くそっいない。」「青木一尉。発信機は大学寮敷地外を移動してます。」「いっいつの間に。追うぞ。」二人は急いで追跡を開始した。知也は途中、物陰に隠れて様子を見た。「げっ、あの軍人さんなんで抜け道を…」500メートルほど後方に青木一尉の姿を見た。「バカな。わずかな寮生しか知らない抜け道を何で易々と。…まさか。美子様、服でやつに触られた所なかったですか。」「いえ、そんなこと…そう言えば、襟に糸クズがついていると取ってくれたことがありました。」「それだっ。」襟を探ってみると、確かに発信機らしいマイクロチップが襟裏に付いていた。「これか。んっ、猫。」運良く目の前に野良猫が座り込んでいる。知也は猫の背中に発信機を付けて走らせた。「頼んだぞ。」早速、美子様の手を再び取って走り出した。その頃、イギリスのケンブリッジ大学寮にいたジョージは、レディKなる人物と会っていた。「それではお約束通り、今すぐここから東京に向かいましょう。」「はぁ。空港とかに行くんじゃないんですか。」「いいえ。ただ少し、目をつぶっていて下さい。」「は、はぁ。」半信半疑になりながらも従うジョージ。すると喧騒な街並みの音がいきなり聞こえてきて、目を開けるとそこは、夢にまで見た日本の、東京の街並みだった。…続く。
- Re: プリンセスは突然に ( No.17 )
- 日時: 2018/01/31 23:10
- 名前: 梶原明生 (ID: sdLb5.Z4)
…「わ、私は何故こんな所に。あ、あれは東京スカイツリー。まさか本当に東京へ…」人ごみが見える公園の某所で、ただただ自分に起きた出来事に驚愕していた。「やった、やったぞ。ついに憧れの日本に来たんだ。」途方に暮れる前に日本にいきなり来れた喜びが勝った。その頃、知也と美子様は青木一尉の脅威に臆することなく、東京の街を楽しんだ。知也の妹も。…「うわー、やっぱり東京はいい。」ギャルっぽく少し背伸びした格好で東京の街を楽しんだ。親に対する反抗もあったが、毎日部活に明け暮れる日々から解放されたい気もあった。勿論グレるつもりはない。ただ、日常から解放されて誰でもない自分に酔いしれたかったのだ。しかしさっきから変だ。回りが彼女を見てる気がする。芸能人でもないのにスマホのカメラで写す輩がいたり。「私って誰かに似てたっけ。それとも可愛いからかな。でも東京って怖いとこだから早めに帰ったほうがいいかな。」怪訝そうにする彼女。そんな妹とは行き違いに、知也は美子様を連れて一路、千葉の実家を目指した。歩道から駅に向かう途中、見知らぬバンが二台美子様達の前に現れて、中から男達が出てきた。明らかに青木一尉達ではない。「な、何ですかあなた達は。」知也が庇いながら勇気を振り絞った。「お前に用はないが、見られた以上一緒に来てもらう。さぁ、園部宮美子内親王。我々と来てもらおうか。」無理やり引き込もうとした時、横から二人の男が新たに現れて阻止した。リストロックして足刀蹴り。もう一人は背後から手下2名を排除。運転席からサイレンサー付きトカレフで撃とうとした一人を、やむなくP8拳銃を抜いて撃って肩に当てる。それは青木と福岡だった。「さぁ、美子様早く。」掴もうとしたものの、知也が早かった。「行きましょう。」「はい。」走りだす二人を追いたかったが、警察のパトカーがその先から走ってきていた。「追いましょう。」「待て。無理だパトカーが来る。捕まったら不味い、行くぞ。」青木一尉はやむなく逃走した。…続く。
- Re: プリンセスは突然に ( No.18 )
- 日時: 2018/02/15 15:45
- 名前: 梶原明生 (ID: txINssKz)
…どこをどう辿ったのか。美子様も定かではなかった。電車を方向違いで三回乗り継ぎ、バスを四回も乗り継いでようやく千葉県に入った。「ここが僕の生家です。」「ここが知也さんの生家。なかなか風情ある佇まいの食堂なんですね。」「いや、そんな…しがないただの汚い食堂ですよ。」「そんなことないですよ。是非とも知也さんの御両親がつくる料理を食べてみたいです。」「美子様…」そう言ってる間に美子様は暖簾をくぐった。「あ、美子様。」心の準備もないまま事は進む。「はい、いらっしゃ…久美、久美じゃないか。何だその格好、お淑やかにしやがってまぁ何考えてんだか。ソフトボール部どうするつもりだこの親不孝もんがっ、家飛び出したもんだから心配だったんだぞ。」突然の店主からの怒号にびっくりする美子様。「父ちゃん、やめてくれよいきなり。」「何だ、知也じゃないか。何でお前がいきなり…そうか東京に行ってたんだな。俺を説得しようたってそうはいくか。」そこへ騒ぎを聞きつけた母、美佐恵が駆けつけた。「父ちゃん、いい加減にしなよ。久美じゃないよ、余所様のお嬢さんだよ。」さすがは生みの母か、見分けはついていた。「え、えーっ。」一瞬固まる父、雅也。「こ、こ、こりゃ失礼を。すみませんでした。」「いえいえ、別に構いませんよ。」癒やさる笑顔でニッコリと話しかける美子様。「いやいやしかし似た人もいたもんだな。うちの娘にそっくりだ。」知也は否定する。「父ちゃん、似てるわけないだろ。」「ところで、知也。こちらは…はっまさか、やったな母ちゃん。」「はい。ようやく知也にも春が来たんですよ。」何やら誤解が更に誤解を呼ぶ始末に。「いやーっありがとうお嬢さん。うちの息子はね、優しいのだけは取り柄なんだよ。末永く付き合ってやってくださいね。」「父ちゃん。違うってば。」実情を話そうとした知也を美子様は制した。「知也さん。…はい。こちらこそ末永くよろしくお願いします。」二人は食堂奥の家屋に案内されていた。「そろそろジョージさんに電話した方が。」美子様は先ほど逃亡していたさいに、困っていたイギリス人男性を助けて、共に千葉県へ来ていたのだ。「そうだった。駅で待ってるだろうし。」知也はスマホを取り出して連絡する。…次回「来訪者」に続く。
- Re: プリンセスは突然に ( No.19 )
- 日時: 2018/03/15 00:20
- 名前: 梶原明生 (ID: txINssKz)
「来訪者」
「わかりました。ええ大丈夫大丈夫。私、日本語少しできます。」「良かった。じゃあそこから、真っ直ぐ500メートルくらい歩いたらうちの食堂…あー、ジャパニーズレストランがあるから。うん。じゃあまた。」知也はスマホをしまった。「今の誰。」美佐恵が聞く。「ああ、うちの大学の留学生。ジョージって言うんだ。そうだ、ここでしばらくホームステイさせてよ。とってもいいやつで、美子…いや、よしこさんと僕の親友みたいなもんなんだ。」「何言ってんのダメダメ。今久美の話したばっかりじゃない。よしこさんならまだしも、外人なんて…」「大丈夫だよ。ほら、従兄弟の康博兄ちゃんが使ってた離れあるだろ。あそこならね。」「でも…第一何食べさせたらいいかわからないしね。」「それ心配ないよ。彼日本食オタクだから。賄い飯で十分だから、ね。」頼み込む知也に渋々OKを出す美佐恵。父雅也も承諾した。「やぁ、ジョージ。ここだよ僕の我が家。」「オウ、イッツ、アメージング。まさに日本だねここ。素晴らしいね。ありがと知也、ありがとよしこ。」まだ園部宮美子内親王と知らないジョージは、親切な大学生カップルとしか認識がない。「パパさんママさんですか。はじーめまして。ジョージ・バレット言います。よろしく おながいします。」「お願いしますだよ。」「ワッツ。そうだった。」このやりとりに爆笑する両親。すっかり和んだところで離れに案内された。「ごめんごめん。従兄弟が出てってから僕の物置みたいにしてたから散らかしっ放しで。」「これ、凄いね。知也の書いた図面かな。」部屋に入るなり机に無造作に置かれた巻紙の束をひとつ取って広げた。「ああ、それ。高校時代に書いたんだ。その頃はほぼ独学でね。調理師にさせたかった親父が建築士の夢に猛反対してたから。」「独学、だけじゃない。素晴らしいよ。やぱり知也、才能ある。これ、建てたら街ガラリ変わる。僕もケンブリッジ大学の建築科学んでる。だからわかる。」「ジョージ…」感慨深い表情でかつての図面を見る知也。やがて二人は建築の話に没頭し、美子様は微笑ましく二人の会話に聞き入った。「ただいま。」食堂の方から女の子の声がする。「何がただいまだ。こんな時間までどこほっつき歩いてた。しかも何だその不良みたいな格好。」雅也が開口一番に怒鳴りつけた。「そうだよ。心配したんだからね。」「別にぐれてるわけじゃないんだ。てね、ちょっと東京まで遊びに行ったの。」…続く