複雑・ファジー小説

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 最強魔導師は商人をしている
日時: 2020/03/27 20:37
名前: マッシュりゅーむ (ID: .pwG6i3H)

 
 『セイカゲ』で知ってくれた人はこんにちは。はじめましての方は初めまして。マッシュりゅーむです。
 今作品は、僕が仲間と書いている『セイテンノカゲボウシ』、閲覧数4,000回を記念——ということを名目上に、僕が前からやってみたかった、僕個人の小説となっております。


〜文章での注意事項〜
 ゴリゴリのファンタジーにしたいと思います。読みやすく、面白い小説になるように頑張りますので、よろしくお願いします。

 題名で分かる通り、主人公は無自覚最強——最強まではいかずとも、そんな感じです。
 こういった設定が嫌いな方もおられると思いますが、ご了承ください。

 物語の世界は、この世界と違いますが、㎝やkmなどの物理の単位を新たに作るとややこしくなるので、それはこの世界でも同様とします。

第二幕 第二章 閑話 ( No.30 )
日時: 2020/05/07 09:53
名前: マッシュりゅーむ (ID: bG4Eh4U7)

***

 昔、魔王による魔物の無限にも思える軍勢に苦戦を強いられてきた当時に戦士たちは、どうそれらを攻略するか頭を悩ませていた。
 どんなに挑んでも、どんなに狩っても減らない敵に辟易していたのだ。

 そんな中、魔導師たちは、自分たちの本領である対抗できる魔法、もしくは『魔道具』を開発しようと躍起になっていた。

 しかしアイデアが思いつかない。

 どんなに優秀な武器を作っても、どんなに頑丈な防具で固めても、あの魔物の大軍を前にすればその数と強力なポテンシャルで蹂躙されてしまう。

 そう、当時は魔王によって魔物一匹一匹の力が倍増されていたのだ。

 どうすればいいのか。どうすれば勝てる。頭を悩ませ、抱えて、捻って、そして辿り着いた答え。それが———

 ———『魔物には、魔物をぶつけよう』

 なんだ、簡単じゃねぇか、と、秀才な彼らは朗らかに笑いあった。
 彼らは頭を使い過ぎて少し馬鹿になってしまっていた。

 と、いうことで早速、魔物の中でも強い部類の部位で『魔道具』を造ろうとしたのだが………。
 ここで、ある問題が発生した。

 使う強い魔物の種類で意見が割れたのだ。

 ある者は言った。蛇こそ最強の魔物だと。
 あの獲物に対する狡猾さ、体内の強力な猛毒、自信よりも大きな獲物に対して引かず、そして丸呑みにしてしまう精神の強さ。
 この魔物こそ、『魔道具』にするのに相応しい。

 ある者は言った。いや、最強の魔物は竜だ。
 陸、海、空、全てを征す世界の覇者。強靭な鱗に牙、そして爪。威圧感。
 この魔物こそ、『魔道具』にするのに相応しい。

 そして、そこでバチバチとやりあっていた二派の戦いの収束は———この無駄とも言える争いを外側から見ていた、当時の【賢者】の一言だった。

『もう両方で良くない?』
『『『『それだッ』』』』

 そして彼らは力を集結しあい、作り上げた。

 後につけられた名前は———【蛇竜(ピュトン)】。

 ソレは魔物との戦争に放り込まれ、その体に刻まれた術式を元に幾度となく相手を殲滅、屠り———


 今現在、彼の存在を知っている者はいない。



————————————————————————————————————————————

後に、このようにして魔導師同士が協力し、世界を発展させることに貢献することが出来るという事で、三大ギルドの一つ、『魔術者ギルド』が誕生しました。

第二幕 第二章 Ⅷ ( No.31 )
日時: 2020/05/14 11:34
名前: マッシュりゅーむ (ID: bG4Eh4U7)

 ***

 揺れが止まる。同時に揺れ動いていた視線が定まり、相手の姿がよく見えるようになった。
 全長は分からないが、今見えているだけでも3、4メートルは優にある。
 紺桔梗の刺々しい鱗に身を包んだその長い体躯の先に、角が生えわたった蛇の様な平たい顔があった。
 腕は通常の四足獣と比べ遙かに短い。しかし、その強靭な鉤爪と背中から生える翼は確かに竜を彷彿とさせた。
 その異形とも言える見た目に淡い畏怖を覚えながら、金縛りにあったように誰も動けずにいた。

 一拍。

 【蛇竜】の赤い眼が動く。
 まるで目の前の獲物を射るように。その絶大な魔力に見入るように。

「———マズいッ!?」
 その圧倒的な存在を目の前に、逸早く動いたのは———アースのすぐ近くに居た、彼だった。

 彼はその身をアースの前へと滑らせる。

 その瞬間———
「———」
「……アイル?おいっ、どうした!?」
 アイルと呼ばれた、自分の身を挺して仲間を守った勇敢な魔剣士は———一瞬にしてその心臓の鼓動を停止させていた。
 ハイネの余裕のない声音が巨大な空洞に響く。そして、守られた絶大な魔力の持ち主———アースは、今の状況を、真相を、正しく理解する。
「——ハイネさんっ、一回柱の陰に隠れましょう!」
 自身も走り出しながらアイルを抱くハイネに叫ぶ。ハイネは一瞬を置いて頷き、続くように走り出す。

 動き出す彼らを追うように【蛇竜】の首が動く。

 そして狙いを定める様に眼を細め———その膨れ上がった魔力を、口内から一気に放出させた。

「———ッ!?これは——」
 それは激しい竜巻。無数の風の刃が飛び交い、触れただけで細切れにさせられるのは容易に想像が出来た。
 険しい表情でパーティーの面々が自動的に攻撃を避けるように二手に別れながら、アースはその攻撃を見て疑惑が生まれる。

 転げる様に柱の陰に隠れ、後ろにいるのが剣士だけであることを確認する。

 ハイネ達は無事か首を左右に振る。と———
『———ら、お前ら!聞こえるかっ!?』
『は、ハイネさん、無事だったんですね………』
『……私も無事だ』
 ハイネのあの独特な声が脳内に響く。その声に同じく脳内で応答するアースと剣士。


———中級魔法、【思考共有(ミューチェシアル)】。
 軍隊や、このような冒険者たちが戦いの中で仲間と連携を取るために必須な魔法。
                                    ・・
 実際にこれは脳内で会話をしているのではなく、音と同じ波動を魔力に変えて瞬時に相手に送り出しているだけなので、もし敵が近くに居てこの魔法を使える人間だった場合、全て聞かれてしまうのが難点だ。
 しかし、このような状況下であれば一番役に立つ、普及している意思疎通の魔法だ。


『良かった………それよりもアイルだ。こいつは……——』
 何かを言おうとして口ごもる。しかし彼女が何を言わんとしているのか、他の3人は理解した。
 斥候と剣士が押し黙り、嫌な静寂が一瞬、場を満たす。
 しかしそんな中、アースは。

『ハイネさん———もしかしたら、アイルさんは助かるかもしれません』

『——なにッ!?』
 ハイネや後ろの剣士も驚きの声を上げる。それもそのはず、アースは既に心臓が完全に停止し、生命活動を終えようとしている人間がまだ助かると言っているのだから。

『どういう———?』
『落ち着いて聞いてください。恐らく今さっきあの【ピュトン】が放った攻撃———あれは【強睨】と呼ばれるものです。蛇に睨まれた蛙の様に、自分よりも強大な魔力を持つ者に睨まれると体内の魔力が怯え、流動が止まってしまう。それに脳が「血流が止まった」と錯覚し、心臓を逆に止めてしまう』
『んなアホな——』
『——人の脳は意外とアホなんです。なので少しの間は———3、4分ぐらいは脳が辛うじて機能しています。それ以上は……——』
『——……分かった。だが睨まれたら終いなんだろう?どうすれば——』
『——安心してください、もう僕が【全異常魔法耐性】をさっき全員にかけました』
『はっやッ!』
『僕がアイルさんの元に行って心臓を再起動させます。………来ますよ』
                                     ・・
 ハイネがアースに無事を聞いて、ここまでおよそ1秒。【ミューチェシアル】は瞬時に相手に伝えたいことを伝えることが出来るので、口を開いていちいち言葉を発すよりも慣れればこちらの方が圧倒的に早い。

 【蛇竜】がこちらに向けて一歩足を踏み出す。と、同時にアース、剣士、そしてハイネが攻撃の準備に移る。今彼らが隠れている柱は【蛇竜】の前に左右で並ぶように存在している。

 ハイネと剣士が指し示すように同時に——若干剣士の方が速く——【蛇竜】の両脇に飛び出す。両者、甲高い音を立て自身の得物を背中から、腰からそれぞれ抜き去り、果敢に敵の前へ身を躍らせる。

 剣士とハイネが行動を起こした一拍後、アースも魔剣士を回復させるために視線の先、斥候のユミラとアイルがいる柱に向けて走り出す。

 その時アースは自分も攻撃も加えるため、速攻性の【灼熱黒牢(ヘルヴァナフレイム)】を撃つため膨大な魔力を両目とその右腕に瞬時に装填。標的に向ける。

 そして。二人の剣が【蛇竜】の体躯に届く前、数舜早く紫の炎塊が高い位置でこちらを俯瞰していたその凶悪な顔に着弾し、その鱗を焼き尽す———

「———!?」

 ———どころか、アースの渾身の超常魔法は、その表面を少し溶かしただけで他は何の負傷も与えていない。

 圧倒的な火炎耐性。そして多くの場合、その属性の耐性を持っているという事は、その属性魔法が使えるという事で———

「まずッ———!」
 アースが手を伸ばす。しかし、【蛇竜】は無情にも自分に襲い掛かってくる剣士に目を向け———吐いた。

 人二人覆い隠すほどの、巨大な火球を。


「—————」










 叫び声は、光と共に飲み込まれた。




第二幕 第二章 Ⅸ ( No.32 )
日時: 2020/05/27 20:00
名前: マッシュりゅーむ (ID: DN0pvQeX)

 光が晴れていく。どこからともなく岩が剥がれ落ち、崩れていく。

 一瞬にして作り出された瓦礫の山の隅———【蛇竜】は、その一角に自身の紅く静謐な瞳を向ける。

「……あぁ……はぁ…」
 上がるのは人の声。
 そこに在る影は、黒髪の少年のものだった。

「だ、いじょうぶ……です…ぁ?」
「…あぁ。アタシは、な……」
 欠乏した酸素を顔を上げて貪るように喘ぎながら、アースの問いかけにハイネが答える。

 ハイネは、アースの即座の【障壁(オビス)】——その名の通りの防御——の魔法で、軽い火傷を負うだけで済んだ。

 しかし。

「……あぁ……クロード……っ!」
 膝をついているアースとハイネの間には、所々赤を通り越して紫色に変色している剣士の姿が。
 ハイネは、悲痛ともいえるその呟きを口に出す。
「…すみません、咄嗟だったので……………」
 僕の魔法が上手く起動しませんでした。アースはそう言いかけて、ただ自分は言い訳をしようとしているだけだと気付く。少し顔を歪める。

 クロードと呼ばれた剣士は、ハイネよりも前に【蛇竜】に接近しており、近距離で彼の火球を浴びた。

 アースの【障壁】と、事前にかかっていた【全異常魔法耐性】が効いたのか、全身は無事であった。
 が、腕や足など、見えるところでもかなりの炎症を負っている。皮膚は焼き爛れ、多少出血し、顔なども酷い有様だ。
 痛みもひどいのか、今彼は気絶したまま動かない。

 これが、当時の【賢者】達魔導師の傑作の威力。
 これは、早急に回復しなければならない。

 そう思い、アースはその界隈の魔法の中でも強力な、聖属性の回復魔法をしようと手を近づける。
 ハイネも、少年のその行動の目的を察し、万が一【蛇竜】が攻撃してきてもいいよう、前に出て大剣を構える。

 そして、魔力が高まり、聖なる光が漂い、今火傷が、炎症が癒える———

「なっ—————」
 詰まるような声を出したのは、【蛇竜】を見、警戒していたハイネ。
 その声に、回復に集中していたアースは横目で【蛇竜】を一瞥し———目を見開く。

 【蛇竜】は、その身を低くし、翼を大きく広げ、まるで威嚇するようなポーズをとっていた。
 その行為は、冒険者であるハイネ、【蛇竜】の正体を知っているアースのどちらも知っていた。

 その名も———【衝撃波】

 怪物の中でも、更に強力なモンスターが所持するスキル、最悪の広範囲攻撃。

「まさか———」

 魔眼を出していたアースは、その突然の事柄を正しく読み取った。

「気付かれた……僕の魔力を……!?」

 【魔力感知における衝撃波の自動発動】。
 一目見れば術式が読めるその『眼』は、腐っても『魔道具』の【蛇竜】の能力の一部を捉えていた。

 急いでハイネに手を伸ばす。


 それとほぼ同時に。


 キイイィィィン………と、甲高くも肌を逆撫でするような音が鳴り響き———放たれた。

 【蛇竜】から放射状に、透明で膨大な魔力の波が一面に広がる。それは地面を粉砕し、柱を壊し、大地を揺るがせる。
 それは残酷にもハイネ達のもとへと伸び———届く。

「—————ッ!!」

 が、ほんの一瞬、アースとハイネにその【衝撃波】がかすった瞬間、波が到達するとほぼ同時に———アースの手も、ハイネに届いた。


 そして彼は、自分ともう一人を対象に、一気に【転移】させる。


「……———はっ!?…うっ」
 自分たちの居場所が攻撃の効果範囲外に来て、丁度敵からも少し隠れられる場所であることに気付くと、ハイネは忘れていた息をし始める。

 今少年が行使したものが失われた魔法だという事を指摘することよりも、着実に近づいてきた、久々の濃厚な死の気配に気を取られ、後ろの壁に背を預け、荒い呼吸を繰り返す。

 それと同時に自信は平衡感覚を失っており、視界の揺れに喉を競り上がってくる嘔吐を歯を食いしばりながら耐える。


 彼女は様々な骨に罅が入り、鼓膜が破れていた。


 ちらりと横を見ると、いつの間に一緒に【転移】されていたのか、斥候が驚いたように目も丸くしながら冷たくなった魔剣士の座り込み、ハイネと同じように過呼吸を繰り返していた。

 そして少しは落ち着いたハイネは、目の前の一瞬にして自分たちを退避させた少年に語り掛ける。

『アース………無事か?』

 気持ちの悪さを我慢しながら、【ミューチェシアル】で少年の無事を問う。耳が聞こえないことを知っていたのか、彼もその魔法で静かに話し始めた。

『……えぇ。………魔法の耐性には自信があるので』
『…ハハハ、流石、だなぁ……』

 その、いつもとは違って弱弱しい様子のハイネを見て、アースは目を背きたくなる思いを必死に堪えた。

『それで……気付かれたって?』
 と、ハイネはことが起こる前に愕然とした声音で放たれたアースのその言葉の意味を聞く。
           ・・・・・・・・・・
『…………魔力を………魔法発動時特有の魔力を感知して、【ピュトン】は【衝撃波】を撃ってました』
『それは…………いや、だってお前はこれまで普通に撃ってたじゃねぇか?』

 そう、アースは【ヘルヴァナフレイム】を初め、【転移】に至るまで様々な魔法を発動させていた。

 何故今回だけ気付かれたか。

『僕……———聖属性魔法だけ、少しラグがあるんです』

 実は、嬉々として魔法を師事してくれる父と反対に、聖魔法が使える母は積極的にアースに魔法を教えなかった。

 というか途中まで聖属性が使えるとは思いもせず、信じていなかった。

 その結果、アースはほぼ自分の力で聖属性魔法を習得する破目になり、無属性の回復魔法を基に大まかに聖属性を扱えるようになった。

 詰まる所、独学。

 そしてその結果、発動までにかかるラグは———およそ1〜2秒。

『———ほぼ一瞬じゃねぇか!』
『………そのわずかな時間内で感知されるんです』

 逆に言えば、アースの通常の魔法はラグがゼロという事になる。そのぐらいのレベルでないと、【蛇竜】に魔法攻撃は効かないのだ。
 さらに———

『あの【衝撃波】には、【妨害(ジャミング)】効果も付与されていたので………』
 と、アースは壁に寄り掛かるように置かれている剣士を見やる。

 その姿は、先程と変らず酷い火傷を負っていた。

 【妨害(ジャミング)】は、その名の通り魔法を掻き消す魔法。つまり、魔力を察知されていても術式が完成されていれば発動出来る魔法も、この【衝撃波】に当たるだけで分解されてしまうのだ。

 さらに言えば、先の攻撃でホルダーの中に入っていた回復薬入りのガラス瓶は、全て砕け散った。

 つまり———

『———回復が、出来ない』
『ははっ、マジかよ』

 真顔で言うアースに、場違いと知っていながら乾いた笑みを浮かべてしまうハイネ。

 今の状況は、ボロボロのリーダー、戦闘不能の剣士と魔剣士、大型戦闘に不慣れな斥候、即席の商人魔導師。

 絶望でしかない。

 A級冒険者パーティの首領は、戦意を喪失しかける。



 しかし。



「———」

 ふと顔を上げると、そこには全く諦めていない目をした少年が立っていた。

 その闇夜に浮かぶ月の様な黄色い瞳は、今も、この状況から脱する方法を必死に探している。

 今【蛇竜】に一番効果があるかもしれないのは、彼の、アースの魔法のみ。

 だからこそ、生きるため、仲間を守るため、自分にできることを手探りで探っている。

 その、自分よりも年下の、懸命な、諦めの悪い姿を見たハイネは———どこからか、勇気が湧いてきた。

(こんな、成人したての子供に負けられるか)

 そんな変な闘争心ではあったが、確かに心に火が付くのを感じた。


「ふ、ふふ……ハハハハ!!」
 段々と調子を取り戻していく。気づけば、あれほど感じていた倦怠感、嘔吐感、痛感は消えていた。
 それはただの疲れからの幻覚かもしれないが、そんなことはどうでもいい。


 自分は戦える。


 十分だ。


『アースッ!!!』

 【ミューチェシアル】で呼びかける。その声に顔を上げたアースに、初めて会った時の様に頬を吊り上げ、言う。

『———ぜってー、勝つぞ』
『——……はい、勿論です』



 今ここに、反撃の狼煙を———





————————————————————————————————————————————

反撃の狼煙を上げたところ申し訳ないのですが、用事と言うかなんというかで、来週は書けません。

ごめんアース、ハイネ。もう少しだけ待ってくれ(ノД`)・゜・。

第二幕 第二章 Ⅹ ( No.33 )
日時: 2020/06/04 09:05
名前: マッシュりゅーむ (ID: QxOw9.Zd)

***

 自身よりも強大な敵と対峙する。それは、遠い過去から現在に至るまで冒険者が必ずと言っていいほど強いられてきたことだ。

 それはハイネも依然として変わらない。周囲から『A級冒険者』と畏怖され、尊敬される今でも、だ。


 この世には、頂きなど存在しない。

       ・・・・
 その節理が、今でこそ痛いほど分かる、と、彼女は思う。強者になればなるほど、高みに登れば上り詰めるほど、更に上の存在、自分には到底敵わない格上というものがより明瞭に、鮮明に見えてくる。

 そしてこのことが理解できず、唯々「己はそこら辺の者よりも上だ」と宣う者もいるが、それは怠慢であり、驕りであり、無知だ。

 人は、力を手に入れると少なからず一度はそう思ってしまうもの。ハイネも例外ではなかった。

 しかしその後に圧倒的な力を、気迫を見せつけられ、自身の信じていた世界を否定され、世界の檻が壊されたとき———ようやく自分が『囚われていたこと』に気付く。世界は、本当は広いのだと思い知る。

 自分は、人間は、一生頂きには辿り着けない。それを知る。

 しかし逆に言えば、それは———自身はどこまでも強くなれるという事。

 才能も大切だ。人という種としての問題もある。———だからと言って可能性は否定されるのは間違っていると思う。



 この世界は『無限』だ。だからこそ、面白い———

***

 頭上の何かを探すように動く二対の瞳。その眼光に照らされながらもハイネは一切の躊躇いもなく真正面からその巨躯を見詰める。

 緊張しないと言えば嘘になる。自分は一人の臆病な人間だ。それを受け入れた心の弱い者だ。

 しかし、そのおかげで前へと進め、そしてここにいる。

「………」
 自分が任されたのは———否、自分から進んでやるのは、陽動。つまり、囮。
 性に合わないとは自負している。本来ハイネと言う人間は前へ前へと出て、暴虐的なまでに、その重量の大剣を普通の剣の様に扱い、叩っ斬る。

 アースにも反対された。曰く、もっと安全な方法を模索しよう、と。

 だが何故か、今この時だけは活き活きとしているのが分かる。
 それが何なのかは、分からない。

 ただ、心地よいと言っていいほど心が昂っている。思わず笑い声をあげたくなるほどだ。

 しかし、それは今は出来ない。大体の話し合いが終わり、少年の【転移】で自分とアース以外の戦闘力にならない面子を地上へと送った後からずっと、今も継続して『魔法の準備をしている』アースの集中力を、切らせてはならないからだ。

『———』
 と、【蛇竜】が探していたものが見つかった、と言わんばかりにこちらを見据える。

 きっとアースの【隠蔽(ハイディ)】の魔法が切れたのだろう。それは、彼が完全に集中の渦に心身を投げだした証拠。

 逡巡も油断も、止まる事すら許されない、戦いの———


———ドゴォオォォォゥッッ!!!

 【蛇竜】がその前足でハイネのいる地面を穿つ。それだけで、迷宮が啼く。

 自分の視力では予備動作など見えるはずもない。しかしハイネは、見付けられた瞬間にはもうそこを跳躍で移動していた。

 罅割れた底、自分の姿を追う醜悪な表情。それ全てを視界に収めながら、ハイネは空中で一回転。

 そのまま大剣を上段に、その重力に引っ張られるまま首を狙う。

 【蛇竜】はそれを見———ハイネに向けて炎塊をその口腔から発射。

 確実に得物を殺す、必殺のフレア。
 仲間を一撃で瀕死に追い込んだ、最凶のブレス。

「———」

 一瞬停滞する時間。そんな中彼女は、



———それは、知っている。



 静かに笑みを浮かべる。


 次に彼女は気にせずその炎を—————斬った。


『———』
「——っへ」

 煽るように口角を上げる。


 【殺魔剣】ダスレイラドル。

     ・・・・・・・・・・・・・・
 特性は、一度見たことのある魔法を斬る。

 特攻重視の持ち主に集中砲火を受けさせない、言わばハイネの様な者にはピッタリな武器。

 多くの戦場を共にした、彼女の相棒。

「———ぁアアアアアあああああああああッッッ!!!」

 吶喊は自分の耳には入らない。聞こえない。だが、心は十分に震えた。

 剣がその醜い首筋に断とうと伸びる。


———防がれる。


 鱗がとてつもなく硬い。だが———


———それも、知っているッ!


 防がれた反動で、自身は反対の方向に引っ張られるように退く。

 それと同時に自分を切り裂こうとする鋭利な爪が空を切る。

 そして次の攻撃を見極めようと、相手の動きに注視する。

 だが———


「———あぁ、これ、は———」


 その攻撃を見て—————彼女はあまりにも短い戦いが終わりを告げたのだと悟る。

 【蛇竜】は首を回して自身を追い、今度はエンカウントした直後に放ってきたような竜巻のブレスを放とうとしていた。

 例え【殺魔剣】であっても、風は斬れない。
 避けようとしても、空中では身のこなしが効かない。

 口惜しさを滲ませた声音で何かを言おうとして、止める。
 ふっと目を閉じ、強張った体の力を抜く。

 無謀な戦いだとはハナからわかっていた。それでも自分の無力さには痛感させられる。


———すまん、アタシには無理だった———


 嫌味の様にスローモーションになる情景の中、疲労からか、こんな時に限って眠気が襲う。


———だから———


 そして、最後にうっすらと目を開け、彼女が見たのは———


























「———【断罪冰祈祷(レヴルエヒム)】」





———少年の出した、紺碧の魔法だった。



————————————————————————————————————————————

遅くなりました。
なんでアース君、魔法準備で【蛇竜】の【衝撃波】発動されてないの?という疑問は次回説明します。
因みに殺魔剣は魔道具の一種です。【魔法耐性】、【妨害(ジャミング)】、【想起(リコレクション)】等が付与されています。

最強魔導師は商人をしている ( No.34 )
日時: 2020/06/26 19:41
名前: マッシュりゅーむ (ID: T.7CB5Ou)

***

———ずっと考えていた。

 何故、人類を救うために創造された『魔道具』が、僕らを攻撃するのかを。

 彼の存在は見た目こそモンスターの類だが、本質は操り人形。
 構造は【魔法式自律型守護者(ゴーレム)】とほぼ同じだ。

 その体内に埋め込まれた術式に従い、盲目的に動く。
 動作を繰り返す。
 それだけだ。

 しかし現に【ピュトン】はこちらと完全に敵対している。

 ただ単に勘違いをしてこちらを敵だと思っているだとか、そう言う事ではない。

 あの【蛇竜】は人間史全盛期と言われている魔王の時代に、その【賢者】も含めた当時の偉大な魔導師達が苦心してようやく完成した最高傑作。後にも先にもこれを超える『魔道具』は存在しないと言わしめた傑物だ。
 そんな矮小な理由でおかしくなったら、こんなに評価は得ていない。

 なので仮説を立ててみた。
                   ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 恐らく術式が自然に削れて変化したか、何者かが意図的に術式を書き換えたか。
 考えられるのはこの二つだ。

 後者はないと思う。過去の遺産であり、高度な技術を用いられた『魔道具』の構造式を完璧に理解し、しかもそれを意のままに変えられる者など、この世に残っていないと思う。

 いるとしたら現代の【賢者】ぐらいか。それほどまでに魔法を極めたら、きっとそんなことも造作でもないだろう。

 それはともかくもう一方の前者なのだが、実を言うとこれも疑わしい。
 先も言った通り【蛇竜】は完璧に近い『魔道具』である。
 廃れて書き換えられました〜、では駄目なのだ。そんなものは最高傑作とは言わない。

 つまりこの二つの仮説は、無いという事だ。



 そう思いつつ【ヘルヴァナフレイム】放つと同時に【魔眼】で術式を覗いてみたら、しっかりばっちり書き換えられてました。


 えーーー………。

 僕の高い信頼は何処へ。

 それは視た感じ、無理やり抉り取られたみたいに不自然な、それでいてちゃんと機能する式になっていた。
 文字も今は使われていないような大昔のもので、複雑に、緻密に、そして綺麗に描かれている。

 それを分かる言葉に変えて言うと、『力示して魔物根絶やしにして〜』みたいなのが、『力示して         〜』というように削られている感じだ。
 このせいで【ピュトン】は、目についたものを滅尽してしまう暴走兵器と化している訳。

 謎は解けた。比較的簡単に。

 でもしかし、うーん………。流石に誰かが任意的にそうした訳ではないと思うけどなぁ……。



 それはともかく。
                                 ・・
 こんな時にこんなことを思うのはおかしいと自分でも思うのだが———残念だ。

 あろうことか【ピュトン】がこんな簡単に壊れ、そして僕や仲間を全力で殺しにかかってくるとは。

 なぜこんなことを思うかと言うと、実は僕は【蛇竜】の構造やスキル、見た目、ポテンシャルや功績、そして何より人類を救うことの一端を担っていたという、『英雄』のような一面に少なからず憧れと言う感情を抱いていたのだ。

 そう、あれは数年前の頃———

 そのことが書かれていた記録書のような物を読んだとき、僕も目を輝かしてそれは妄想したものだ。

 古来より、男の子と言うのは強さに惹かれるもの。その腕の中の小さく厚い本の中での【蛇竜】の活躍を、怪物の大軍をを薙ぎ倒す強さを。

 様々な場面の過去を夢想した僕も例外ではなく、その【蛇竜】と共に街を越え、空を飛び、立ちふさがる敵をブレスで殲滅することを夢見た。

 何度も何度も。実際に、夢に出てくるほど好きだった。


 なので造ってみた。


 ………懐かしいなぁ。

 ん、何をって?
 もちろん想像上の相棒、【ピュトン】を……!

 思えば既存の術式に頼らず自身の力だけで魔法式を構築したのはそれが初めてだったかもしれない。

 材料集めで数か月。魔法の文字列を構築するのに数週間。必要魔力を注ぐのに数日。

 遂に完成したのは、五メートル強のキメラだった。
 仕方が無い、術式は何枚も重ねることで再現しようとしたら大きくなっちゃったし、材料のモンスターは精々A級指定のものばかり。
 僕の家の周りには『魔道具』として性能が高く発揮される、体内魔力が多く、親魔性——魔力が伝わりやすい性質——が高いS級の怪物は居なかった。結果、雑魚ばかりを繋ぎ合わせる羽目になり、ちぐはぐな見た目になってしまった。



 ———と、お分かり頂けただろうか。僕の【蛇竜】に対する愛の強さを。

 【蛇竜】についての事なら、誰にも負ける気がしない。専門家以外。
                        ・・・
 そういう事なので、僕は彼の存在の強み、そして、弱い面を知っている。

 僕の仲間に手を出した以上、憧憬の的でも容赦はしない。





 【ピュトン】は僕が止める。



————————————————————————————————————————————
長くなりそうなので一旦区切ります。
後、これから投稿は不定期になります。


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