複雑・ファジー小説

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 最強魔導師は商人をしている
日時: 2020/03/27 20:37
名前: マッシュりゅーむ (ID: .pwG6i3H)

 
 『セイカゲ』で知ってくれた人はこんにちは。はじめましての方は初めまして。マッシュりゅーむです。
 今作品は、僕が仲間と書いている『セイテンノカゲボウシ』、閲覧数4,000回を記念——ということを名目上に、僕が前からやってみたかった、僕個人の小説となっております。


〜文章での注意事項〜
 ゴリゴリのファンタジーにしたいと思います。読みやすく、面白い小説になるように頑張りますので、よろしくお願いします。

 題名で分かる通り、主人公は無自覚最強——最強まではいかずとも、そんな感じです。
 こういった設定が嫌いな方もおられると思いますが、ご了承ください。

 物語の世界は、この世界と違いますが、㎝やkmなどの物理の単位を新たに作るとややこしくなるので、それはこの世界でも同様とします。

第一幕 第二章 Ⅳ ( No.9 )
日時: 2019/12/10 19:11
名前: マッシュりゅーむ (ID: 9ul7iLKX)

 昼間なのに、深夜と思わせられるほどの暗闇。そこにいるのは小さい音をさせながら木の実などを食べる小動物と、その自分よりも格下の動物を食らおうと身を潜めるでもなく堂々とのさばっている肉食動物たち。そして、その油断しきっている背中を見てまるで、バカだな、と嗤うかのように血の匂いを纏わせながら口角を上げる怪物、モンスター達。

 人の目があまりつかない森の奥では、弱肉強食という言葉がこれでもかと体言化されているように獣たちの静かな戦いが今日も繰り広げられていた。
 長いこと討伐されずに、森の奥という住処で生きているモンスター達は、他の動物やモンスターを摂取することで、生き物ならば必ず持っている魔力を体の一部として蓄積させていき、とても強い力を得ていた。

 今日も今日とて狩りをする彼らモンスター達は、知性も少し得ているので、自分たちが少なくとも強いということを知っていた。この暗く、広大な森の中でも。

 なので、まだただの動物だった時に食われそうになった時の、あの、自分たちでは到底覆せない、圧倒的な威圧、恐怖、絶望という感情は、長いこと忘れていた。

「……?」
 音もなく獲物の背後に降り立つ。目の前の憐れむべき弱者に、しかし慈悲など一切なく、そして、口を大きく開け、今日の餌を丸呑みしようとする、が———その獲物が突然消えた。
 逃げられた?いや、そんなわけはない。自分から逃げられるのは自分と同じぐらい強大な力を持つ怪物だけ。ただの小動物ではこの瞳から隙を盗んで立ち去るなどという芸当が出来るはずもない。しかし先程の獲物からはモンスター独特の匂いがしなかった。

——獲物を他の奴にとられた?

 その考えが脳裏をかすめた時、形容しがたい屈辱、怒りが体を熱くした。
 ……ふざけるな。あれは自分の獲物だ。人のものを取るなど、許されることではない。
 自分が感知できないところで自分よりも強いこと、そして森の中では強者が絶対だということなど、そのころにはとうに頭から抜け落ちていた。

「!?」
 と、突然、その盗んだやつを捉えようとこの暗い森を走り出す寸前、体が震えた。なんだ、この感覚は。なんだこの、匂いは。
 バッ!、と、気配のする方向を向く。餌をとったやつが現れたと思ったのだ。どんな奴でも、許さない。きっとこの震えは恐怖ではない。きっと自分は強いから勝てる。きっと、その肢体をズタズタに噛み千切って———

「……あぁ、モンスターか。なら殺してもいいかな」

 その、目の前にいる猿のような動物が鳴き声を発した時、視界がくるくる回った。
 動けない。グシャッ、と音がした。痛みはない、いや、痺れている?視界が赤く染まる。視点が切り替わる。なぜ?あれはなんだ?4本足の動物?でも首がない————
 そこまで考えた時、その怪物はこと切れた。

* * *

「こっちか」
 あれから僕は、あの女の子、ミナちゃんの弟を連れ去ったと思われる盗賊の魔力の残滓を追いかけていた。
 僕は人の魔力を見分けることが出来る。父さん曰く、『魔眼』というらしいが、あまり知らない。その目で見るに、人の魔力の波動はその人の性格で変わることが多い。そして今回も例に反さず、盗賊っぽい、ぞわぞわした感じがする。

 盗賊の魔力なんてあったことないからわからないけど。

 ミナちゃんは一緒に来たそうにしていたが、流石に危ないので置いてきた。相手は自分よりもたぶん、対人戦で場数を踏んでいるから強いに決まっているので、守り切れないかもしれない。まぁ、心配しなくてもいいだろう。あそこにはあと、生き残った3人の大人たちがいる。

 急がないといけないので風魔法で加速しているが、森の中の動物がその余波で切り刻まれてもかわいそうだと思い、その範囲に入る前に違うところに【転移】させている。

 モンスターはモンスターなので普通に殺しているが。

「うん?」
 と、何やらまたモンスターのような気配を感じ、そちらに目を向ける。またか、と思ったが、今度は少し特殊なので、足を止めた。
 モンスターは基本、単独で行動することが多い。なぜなら、同類の怪物でも、飢えているモンスターから観れば皆獲物なのだ。鉢合わせしたら基本殺しあう。

 しかし、今回のモンスターは群れている。なぜ。
 数は16……いや、18か。こちらに接近してくる。

 ………なんか先程の盗賊の魔力の気配に似ているが、気のせいだろう。群れがいるだろう方向に目を向けながら、すぐに僕は魔力を高め、戦闘態勢に入った。



 

第一幕 第二章 Ⅴ ( No.10 )
日時: 2019/12/12 19:18
名前: マッシュりゅーむ (ID: 9ul7iLKX)

 これまでの話の中で薄かったところを付け足しました。
 もしよかったら見てください。(これからも少しずつ脚色していく予定)
—————————————————————————————————————————————

 どんなモンスターにも対応できるよう、深呼吸し、意識を集中させる。
 これまで出てきたものは皆、倒すことができたが、もしかしたらこれまで見たこともない強さのモンスターが来るかもしれない。僕はこの間まで田舎にいたから何が強くて何が弱いのか見分けがつかないから。
 『魔眼』は自分の魔力は見通すことが出来ない。ので、例え相手の魔力が弱弱しく見えても、実は自分よりも全然強かった、ということもあり得る。

——……ガサガサ
「!!」

 と、ついにお出ましのようだ。どんな怪物でも、今もまだ囚われている人を助けるために倒して———

「っ!いたぞ、こいつだ!!」
「……へ?」

———進もう!と、思った矢先、出てきたのは、予想していた目をぎらつかせた凶悪なモンスターではなく、普通に言葉を話す人間だった。

 しかもめちゃ見覚えのある盗賊姿だし。

「捕らえろっ!」
『はっ!!!』
「え、え!?どういうこと!??」
 そして混乱したまま始まる戦闘。訳が分からず、とりあえず応戦する。
 相手は様々な武器を持ってきていて、剣、槍、ナイフなどのもので襲い掛かってくる。
 しかしそれは——魔法を使う僕にとってはリーチが短すぎる。

「水よ……風よ!!」
 既に自分の周りにある風と、生み出した水で、水を風にまとわりつかせ、大きい水の渦にして攻撃する。炎だと森が燃えるし、土は、風との相性が悪い。せっかく風を出しているから合成魔法にしようと思っていたので、水にしたのだ。

「う、うわっ」「やばいやばい!」「に、にげ——」
 巨大な水の渦を見、喚き、なすすべもなく水流に飲み込まれる盗賊たち。

 しかし、この魔法はそれだけでは終わらない。

 パチンッ!と指を鳴らすと、一瞬まとわりついた水が、急激に温度を下げ、氷の枷となって盗賊を捕らえた。
 中に泡などが入ってとても純度が高いとは言えないが、中に人が入り、恐怖の顔や、驚きの顔をしているそれは、一種の彫刻のようだった。

 先の渦にうっそうとしていた木がなぎ倒されて、日の光が入り明るくなった更地と化しているここで、僕は、なぜ『魔眼』が魔力を見間違えたか、少しの間考えていた。

 その結果、出てきたのはこの三つの考えだ。

1、ただ単に見間違えたか
2、この森が魔力を見間違えさせる、何らかの魔法がかかっているか
3、モンスターが人に化けていたか

 消去法で行こう。まず1だが、もし本当にそうだとしたらそれで終わりだ。僕の未熟さのせいで見間違えたのかもしれない。しかし、僕は生まれてこの方『魔眼』で相手の正体を間違えたことはない。一度、自分の力を信じてみよう。
 と、すると、次は2だ。この森の特性か、はたまた呪いか。しかし、『魔眼』を信じるなら入るときにそういった魔力は感じなかった。『魔眼』は人の魔力だけでなく、物にかかっているものまで見える。
 そして、最後に3。もし僕の知らないモンスターがいて、そのモンスターには人に化ける能力があれば。人がモンスターに化けた可能性も考えたが、魔力は最初からモンスター、特有のものだった。なのでそれはないだろう。しかも、馬車を助けた時に捕らえた盗賊も、今思い返すと人間にしては気配がぞわぞわし過ぎていた。あれは人じゃない。

 もし、目の前にいたのが人間だということで、相手は自分と同じ人だ、という先入観にとらわれていたのだとしたら。

 それを確かめるのには、いい方法がある。

 氷の中の盗賊の一人に向けて、静かに手を、氷の中に浸透するように押し付け、指先に魔力を集め、そして一言。

「【其の真実は】」

 そしてゆっくりと———目の前の盗賊は、光りだした。


 

第一幕 第二章 Ⅵ ( No.11 )
日時: 2019/12/20 19:28
名前: マッシュりゅーむ (ID: NTBCloh9)

 見ているうちに光がゆっくりと収束していく。暗い森の中、その輝きに少し目を細めて待っている。そしてその光が完全に消えると———そこにいたの
     ・・・・・
は、一体のモンスターだった。

「やっぱり……」
 溜息交じりに呟く声と、急に人間の形から違う形——狸みたいだが、体長が普通のよりも一回りも二回りも大きく、尻尾も何本も生えている——に変わった反動で中に空洞が出来た氷にひびが入る音が響く。とりあえず先程作った三つの考えのうち一つ目の、僕の『魔眼』が正常だった、ということが証明できたので、思わずホッとする。

 因みに今僕がやったのは、三つ目の、モンスターが人に化けている、ということを調べるために『相手の真実を表す』ことのできる、【其の真実は】という名前の魔法だ。

———オリジナル魔法、【其の真実は(ディスクローズ)】
 これは、同じ上級魔法の【暴露(コンフェス)】を応用したものだ。
 【コンフェス】は相手が口を開かなかったり、嘘などをついているときに、読んで字のごとく自白させることが出来る魔法だ。
 しかし、これは悪用される危険があるので、資格のあるもの——尋問官など——しかしてはいけない決まりになっている。

 ただしその法律が適用しているのは——人間相手にだけ、だ。

 こういったモンスターや動物などにはしても良い。一応王国法律上ではそうなっている。良いとも書いてはいないが悪いとも書いていない、俗に言う『法律の抜け道』というものだ。まぁ、それは動物と話せなければならない。そりゃそうだ。多分上級魔法はこんな僕がホイホイ使えるから王国の人たちも使えるのだろうけど、動物との意思疎通は難しい。

 さて、そんな【コンフェス】だが、残念ながら真実を口からでしかきくことが出来ない。つまり、その人が偽りの情報を持っていた場合、この魔法を使っても結局は本当のことは分からないということ。

 どうするか。

 そこで僕が開発したのがこの【ディスクローズ】だ。この魔法は僕の愛読書(魔法術式大百科)には載っていなかったので一応僕が勝手に名前を付けているが、父さん曰くこの本は古いらしいので、もう既に発見されていて他の名前がついているかもしれない。
                               ・・・・・・
 この魔法は、相手の思考を読み取り、そして自分の知りたい情報が自分の望む形として具現化するというものだ。
 例えば先程の事で言うと、僕はこの盗賊の姿をしたものが本当に人間であるかどうかを知りたかった。そして魔法を行使した結果、それは偽であり、真はモンスターだ、ということが形になり現れた。この一連の動きが、この魔法の効果である。


「と、いうことは………相手は、人々を連れ去ったのは、モンスター…?」
 この魔法が効果を示したという事実がある以上、この考えが出来てしまう。少し頭痛くなるような考えを整理するために声に出してみる。信じられない。確かにモンスターは知力が上がり、本能のままではなく自分で考えて行動することが出来る。しかし、人を襲うことはあるが、人を攫うなどということは聞いたことがない。いや、案外自分が知らないだけで、世間ではよくあることなのかもしれないが……。

 いや、無駄な思考はやめよう。普通はしないモンスターの群れが何を意図して人を連れ去ったのかは知らないが、僕の目的はその人たちを助けることだ。相手が怪物だと分かった以上、早くいかなければ助けられないかもしれない。

「……よしっ」

 そして、氷漬けにされたモンスター達を残しながら、僕はだいぶ近づいている魔力が示す敵の位置に足を向け、また走るのを再開させた。

第一幕 最終話 ( No.12 )
日時: 2019/12/24 19:23
名前: マッシュりゅーむ (ID: NTBCloh9)

「……負けた、か」

 人気のない暗い部屋、地下要塞の光も届かぬ一室で、王座の様な大きな椅子に座り、自分は溜息をつき——同時に笑みを浮かべた。

 負けた。そうさ、負けたさ!あの3部隊、18体全員が!!ヒトよりも凶悪で強大と言われる怪物がッ!!?

 あいつらはあいつらで、あの方直伝の戦闘訓練はもちろん、修羅場など何度も潜り抜けている。そんな彼らが一瞬で沈められた——少なくとも自分の遠くを見通せるこの眼にはそう映った——ということは、それを成し遂げたアレは自分の思っている以上のものだった。

———自分の眼も、老いたのかもしれない。

 他の部下は儀式の関係で動けない、というか、アレに勝つのは不可能と知った。
 となれば、アレを手に入れる方法は一つだけ。

「……クク、行くか」

 そう、自分が行くのだ。

 さぁ、準備が必要だ。アレを確実に嵌める準備が。
 そういえば、もう仕事という仕事は部下に任せきりで、自分はもう何百年も外に出ていないな。

「失礼します、完了のお知らせを……おや?どこかへ行かれるのですか?」
 と、その時部下の一人が入ってきた。部隊に出動命令をした男とはまた別の者だ。
「あぁ、すこし、な」
「プリヴェラ様が外出するとは珍しいことですね。我々、モンスターと言われている者でも日に当たるというものは気持ちいものです。ここは光も漏れぬ森の奥ですが、少し西の方に行けば出れる——いや、すみません、こんなことはご存じですね」

 まるで久方振りに日の光が当たるところに行ってくれる引きこもりの息子に、嬉しい母親が早口で喋ってしまうかのような———いや、実際にそうだろう。そんな感じが彼の言葉の先々で感じられた。

 本当に心配をかけるな、と、思っても口には出さない。自分はモンスターの最大の宿敵であるヒトを攫ってくるという、生死を彷徨うような行為を何度も繰り返してくれている彼らに、優しさというものを振りまいてはいけない。

 そうしてしまえば、きっとつらい思いをしている彼らは優しさに依存してしまうだろうから。

「あぁ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
 もしかしたら、この不器用で稚拙な自分の配慮を、彼らは気付いているのかもしれない。いや、そうだ。この者の笑みを見れば分かる。

「………行ってくる」
 結局、何も成長していないな、と自分を責める反面、嬉しさを噛みしめながら、もう一度、感謝の意味も込めて——しかし、彼には絶対に聞こえないような声で言う。


 さぁ、勝負だ。奴らのためにも、あの方のためにも。

* * *

 この地下要塞には、入り口がいくつも存在する。と言うのも、色々な対策が講じられているのだろう。魔王を倒すため、ヒトビトは全力を尽くした。
 そのためこの要塞はトラップなど、え、そこにあったの!?、となるような仕掛けが多くある。しかし、これらは何十年物時を経て、廃れ、朽ちて、効力を失っている。

———出入口を除いて。

 城や要塞にとって、入り口、逃げ口などはとても重要だ。分かりずらければわかりずらい程、敵は不利、見方にとっては有利となる。

 そこで、ヒトビトは魔王と対峙するにあたって、出入口となるモノはある者に作らせた。

 それが【賢者】である。
                          ・・・・・・
 彼の【賢者】は、あらゆる魔法を操れたとされている。あの空間魔法ですら、彼は手足を操るように使った。
 なので、この要塞や、他の魔王対策として造られた建物の入り口には、すべて【転移術】が使われている。

———超常魔法、【空間転移】
 この魔法は、【賢者】にしか扱えなかった、全魔術師、魔法使いのロマン的存在である。
 一瞬で他の物、人を別のところへ移動させる、移動だけではなく、戦闘でも素早い転移で相手を攪乱させることのできる。しかも相手を崖の上などに転移させれば、相手はなすすべもなく敗れる。

 要約すると、万能。この言葉に尽きる。

 ただこの魔法は述べたように過去で【賢者】しか扱えない。ただでさえ空間魔法は感覚をつかむのが難しいのに、使う魔力量が尋常じゃないのだ。
 それは、使った時に転移させる物体を囲うように魔力を纏わせるから
          ・・・・・・・・・・・・・
だ。そしてその魔力は自然消滅するまでそこに残る。
 そして、次第にこの魔法に挑戦する者はいなくなり、術式も衰退していった。

 ある意味神聖魔法と言っても過言ではない魔法。なんとそれがこんなにもふんだんに使われていると思うと、思わず苦笑してしまう——それが自分が思う、【空間転移】のイメージだ。

 そう思いながら、今その魔法で外に出てきたプリヴェラは、辺りを見渡す。森の中が暗いせいか、部屋に引きこもっていた時と同じ感じがして風景はあまり感動しない。しかし、懐かしい鼻腔につく木の独特な匂い、耳に流れる近くの小川のせせらぎ、肌を刺す冷たい空気を感じると———自然と笑みが浮かぶ。テンションが上がる。

「さてさて」
 自分の眼を頼りに、すぐ近くの強大な魔力に向かって歩き出す。久々の外の空気をゆっくり感じるのは後でいい。今は、アレだ。

 地面の枯れ葉をザクザク踏み、微塵も気配を隠さず堂々と歩く。普段はもっと慎重なのだが、やはり調子が上がっているらしい。
 少しの間歩くと、目当てのものが目の前だ、とプリヴェラの眼が言ってくる。木が邪魔で姿が見えない。
 一度立ち止まり、戦闘態勢を取りながらじりじりと近づく。相手がヒトだからといって、油断はできない。仮にもあの部下たちを倒したモノだ。しかも、自分自身、戦闘は久々。体がなまっているに違いない。

 そして、目の前の木をよけ、ようやくお目当てのアレと対峙———



「……は?」

 口を大きく開け、変な声を出してしまう。なぜならあの魔力を発していたヒトが魔力を残したまま——どこかへ消えてしまったからだ。
 ちゃんと魔力はここにある。自分の眼がそう言っている。おかしい、ならばここにアレがいるはずだ。いったいどこに——?

「ん、これは…?」
 と、そこで、地面に何か謎の文様が彫り込まれていた。いや、これは魔法陣だ。魔法陣が落ち葉をどけた下の土の上に彫り込まれている。

 魔法陣は、魔法を発動させるのに必要なものの一つだ。詠唱、舞と続いて、近年では一番使われていない術。それがなぜここに?

 目を細めてその、正方形の形をした魔法陣に書かれている古代魔法文字(ヒエログリフ)に目を走らせる。そこに書いてあったのは——

「こ、これはまさか——」










「——【空間転移】の魔法陣、久々に書いたけどちゃんと使えたな」

 既に深紅の太陽が沈み始め、2つの月が昇り始めているのを感じながら、ふぅ、と一息をつく。なんだか今日は3日分動きまわった気分だ。魔力はそれほど使っていないが体力的にはそれほど疲れている。

 あの後僕は、敵のアジトの真上であろう場所まで来て、捕らえられていると思われる5人分の魔力を探し、見つけ、そしてその地点に【アイテムボックス】を落とし穴のように彼らの真下に展開、閉じ、そしてすぐさま今度は僕の横に出現させた【アイテムボックス】からその5人を取り出した。
 【アイテムボックス】は本来、生きている動物を入れてはいけない——入れると中で圧縮され、死ぬ——のだが、それは1秒以上入れている場合だ。

 そこで僕は、一瞬で入れて、一瞬で出した。

 早業、1秒以内でやれば大丈夫、ということは以前村の横の森でモンスターを使って検証したので知っていた。
 そしてそのあと、地面に【転移】の魔法陣を書き、森の外、生き残りの5人の場所まで転移した。そのまま森の中をまた歩こうと1度思ったが、捕らわれていた人達がひどく衰弱していたのでそうした。
 ちなみになぜ魔法陣を描いたのかというと、家にいた時に本で読んだ【空間転移】の術式が、魔法陣型しかなかったからだ。

 はぁ、しかし助けられてよかったな。他の殺されてしまった人々は残念だったが。
 しかし、これで後3日で次こそ王都に行ける。そして——


——商人に、なる。



————————
第一幕が終わりました。今回はもう流石に終わらせようと頑張りました。楽しんでいただければ幸いです。
さて、皆さまはきっとこの作品のタイトルに反して全然商人らしいことしてねぇじゃねえか!?と思っていると思われます。
本当は第一幕を短くし、主人公の性格などの説明もかねてストーリーを書こうとしたのですが、思いのほか多くなってしまいました。誠に申し訳ありません。
第二幕からはようやく商人日常物語と化します。ようやくです。
頑張っていくので、よろしくお願いします。
 

第二幕 第一章 Ⅰ ( No.13 )
日時: 2020/01/04 20:30
名前: マッシュりゅーむ (ID: ZxuEMv7U)

——ここはどこだ。

 漠然とそう考える。これはなんだ?体が動かせない。今自分は立っていて、そして誰かと話している感覚だけがわかる。

 首は動かせないが、目に見える範囲からは、周りは住宅らしき建物のたくさんの瓦礫が積もり、さらに多くの砂ぼこりが舞うの酷い光景——それはどこか王国に似ていた。

「——最悪だッ」

 と、僕の口から、されど聞きなれた自分の声域ではない、もっと低い声が吐き捨てるように言葉を出す。その瞬間、相手が動揺したかのように気配が揺らぐ。
「すまない。本当に、……こ、こんなことは俺は——」
「——知らなかった?それだけで済む問題じゃないのは君にも分かっているだろう?なあ、おい!?」
「ちょ、こんな時にやめてよ!?このことはまた落ち着いてからにして———」
 僕の手が相手の胸ぐらをつかみ、大声でまくしたてる。そこで、第三者の女性が割って入り、初めて僕は、目の前の人物と僕の他に3人周りにいたことを知る。

 僕の手は彼から離れたが、しかし、感じる憤りは行き場を無くし爆発する。

「あぁぁ!!?僕は、僕たちはこれまで何のために、何を求めて、何を成し遂げてきたんだっ!!死してなおこれか!!お前は何なんだあんまりだふざけるなああぁぁぁぁ!!!!!」

 空に向かって咆哮する。それを、残りの4人は悲しそうな、しかし何も言わずに、言えずにこちらを見ている————


***


 意識が浮上する。はっ、と目を開け、明るい光が差し込む窓を見、ここは昨日から泊っている宿で、そして朝になったことを知る。
 少し寒いな、と思いつつ頭に手をやると、濡れていた。これは汗だ。汗をかいたから冷えて寒いのか。

「なんか恐ろしい夢でも見たのかなぁ」
 全く覚えていない夢の内容を勝手に想像しながら支度をする。ベッドから降り、手をお椀のようにしてそこに魔法で水を出し顔を洗い、歯を磨き、そして【アイテムボックス】から適当に服を取り出し着替える。
 手に乗るほどの長方形の氷を造り、それを鏡代わりにして寝癖がないか確認する。と、言っても大体いつも特定の場所にあるので確かめる必要もないのだが。

 窓と逆側にある扉から廊下に出て、寝癖を水でなでつけながら食堂のある一階に階段を伝って降りていく。と、——

「……あ、アースさん」
「おはよーございまーす!」
「お、おはよう。……早くない?」
 食堂のテーブルの一つに二人の双子がいた。
 一人はまだ眠そうな眼——まぁ、いつも眠そうだが——でこちらを見やりながら小さく会釈をしてくる少年。もう一人は元気いっぱいに大声で挨拶してくる少女——ミナちゃん。

 そう、この子達は、二日前に僕が助けた子たちである。

「そうですか……いつもですよ、いつも」
「ふ、偉いだろ」
「ははは、そうだね」
 げんなりしている少年——カイ君は横目で自分の姉を見て溜息をつく。きっといつも彼女に振り回されているのだろう。そして目線の先にいる彼女はどや顔でこちらを見てくるからとりあえず褒めておく。あ、満更でもなさそうだ。

「はぁ、でも、二人とも無事でよかったよ」
 頬をほころばせながら呟く。そして、僕はあの後、ここの宿に来るまでのことを思い出していた。









「アースさん……嬉しいんですがそのセリフ、もう20回目ですよ」
「あ、ごめん」


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