複雑・ファジー小説
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- 最強魔導師は商人をしている
- 日時: 2020/03/27 20:37
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: .pwG6i3H)
『セイカゲ』で知ってくれた人はこんにちは。はじめましての方は初めまして。マッシュりゅーむです。
今作品は、僕が仲間と書いている『セイテンノカゲボウシ』、閲覧数4,000回を記念——ということを名目上に、僕が前からやってみたかった、僕個人の小説となっております。
〜文章での注意事項〜
ゴリゴリのファンタジーにしたいと思います。読みやすく、面白い小説になるように頑張りますので、よろしくお願いします。
題名で分かる通り、主人公は無自覚最強——最強まではいかずとも、そんな感じです。
こういった設定が嫌いな方もおられると思いますが、ご了承ください。
物語の世界は、この世界と違いますが、㎝やkmなどの物理の単位を新たに作るとややこしくなるので、それはこの世界でも同様とします。
- 第二幕 第一章 Ⅱ ( No.14 )
- 日時: 2020/01/12 20:45
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: bUg9QOGg)
———二日前。
僕は、助けた人たちが全員いるか確認し、口を開いた。
「では、これから王都に向かおうと思うので、乗合馬車に乗ってください」
そうすると、次々と人が馬車に乗っていく。因みに盗賊——モンスターに襲われボロボロだった乗合馬車は僕が直しておいた。前に作った時とほぼ同じ工程でだ。
全ての人が乗ったのを確認し、呟く。
「【服従(オベイ)】、馬車から馬車に」
すると、馬車に魔力が宿る。この魔法は、ある物体をある物体に付かせるためのものであり、例えばこの場合、僕が自分の馬車を走らせると後ろに乗合馬車が付いてくるようになる。
ちなみにこの魔法は人間には奴隷にしかかけてはいけないことになっている。
「さて、と」
僕も馬車に乗り込み、【ゴーレム】に前進するように命令しようとする。と——
「アースさん!」
「わっほ〜い!!」
突然転がり込んでくる二つの影。よく見るとそれは自分の助けた二人の子供だった。
「ど、どうしたの!?」
「いや、すみません。この馬鹿がこっち乗りたいって」
「あ!馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞう!!」
「あ?」
「落ち着いて、二人とも」
器用に片眉を上げて滅茶苦茶ムカつく顔をするミナちゃんに、今にもとびかかりそうなカイ君をなだめながら、馬車を動かせる。
「お、動いた!」
「はぁ、疲れる。ありがとうございます、乗らせてもらって」
「いやいや、いいよ」
深いため息をつくカイ君。このしっかりした方の子が弟だと知ったときは失礼と思いながら、えっ!?、と声を出してしまった。
それから僕たちは、あっという間に過ぎてゆく風景を横目に移しながら、暇になったので談笑した。それから一時間もしたらミナちゃんは寝てしまった。
「カイ君は寝なくていいの?」
「こいつと同じにしないでください」
心底嫌そうにその濃い茶髪の頭を振る彼を見て苦笑する。
「そういえば、どうして王都に行く予定だったの?」
何の用事で行くのか。そう聞くと、カイ君は——難しそうに眉をひそめた。
「…………実は、ですね」
「?」
そこで語られたのは、想像していたものとは大幅にずれていたことだった。
経緯はこうだ。
彼らは僕の住んでいたような貧しい村に住んでいた。しかし、生活は普通に出来るほどの家庭だった。
しかし、ある日忽然と共働きに出かけていた両親がいなくなってしまった。原因は不明で、村中捜索したが結局見つからなかったらしい。
そして残る子供二人。普通に生活できるとは言っても、親が二人とも遅くまで働いてで、だ。すぐに金はなくなるし、まだ成人に満たない小さい子供だけで一軒家に住んでいたら何かされるに決まっている。
そう思って、カイ君はその家を売り——大分ぼったくられたが——、その金で国の中心部である王都に赴き、何か金になる仕事を探そうとした——らしい。
しかし、十歳の子供に見合う仕事など、あるはずがない。それは、彼にも分かっているのだろう。
それでも微かな希望を求め、王都に向かおうとしているのだ。この年でその思いは称賛に値する。
そこまで話を聞いたとき、カイ君は、逆にアースさんは何をしに?、と聞いてきた。
別に隠すことでもないので、言う。
「僕はこれから行商人になって、旅をしながら物を売ろうと思っているんだ」
「商人……」
すると、何か思案するように顎に手を添え———そして、ガバッ!と頭を下げてきた。
「!?」
「あの、不躾かもしれません、迷惑かもしれませんが、お願いします、俺たちを雇ってください!!仕事は雑用でも何でも———」
「いいよ」
「———軽ゥッ!!?」
今度はまた勢いよく頭を振り上げ叫んでくる。忙しい子だ。
ふぅ、と息をついてから、語り掛ける。
「別に、困っているようだったら最初から誘うつもりだったし。これからよろしくね」
「え……えぇ………」
僕は手を差し伸べる。彼は戸惑いながらも握手を返した。
* * *
「で、今日はどこに?」
寝起きは不機嫌そうになるカイ君を一瞥し、トーストの塊を飲み込みながら言う。
「まずは——商業者ギルドに行こう」
- 第二幕 第一章 Ⅲ ( No.15 )
- 日時: 2020/01/22 11:17
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: ehSJRu10)
———ファンレン商業者ギルド。
それは、商業者の、商業者による商業者のための『ギルド』だ。
この王国の都市、ファンレンの一角に鎮座する、萌黄色を基調とした建物で、ファンレンの北東にある。同時にそこの区域には店が多く、今日も押し寄せた人々の賑やかな話し声が聞こえる。
そんな風景を横目に、ギルドの前で立ち止まり、そして感嘆の息をつく。
「……凄いですね。」
「そう…だね」
カイの呟くような声に僕も同じような感想を返す。ミナは口を大きく開けて声も出ない様子だ。
それもそのはず、この商業者ギルドは、王城に続いてこの国で二番目に大きいからだ。
この王国は、他の国に比べて貿易が盛んだ。なので自然と商業者が集まる。それに比例するようにこのギルドも大きくなったというわけだ。
「よし、入るか」
僕が言うと二人も頷いて付いてくる。
そして入って、犇めく人たちの間を縫って歩いてすぐ前の中央にある受付のところへ行く。
「すみません」
「はい、今日はどのようなご用件でしょうか」
僕が呼びかけると、受付嬢がにこやかな営業スマイルで応答してくる。流石、サービス業を主とするギルドとあって完成度がすごい。
「あの、このギルドに会員登録したいのでのですが……」
僕が言うとその人は、笑みを崩さぬまま言う。
「ではこちらにお名前、年齢、生年月日、仕事の種類、商人の経歴、学歴などを記入してください」
そして羽ペンと用紙を渡され、見てみる。
まず名前はアーセスト……いや、アースか。名字は書かない。
「これって仕事仲間の名前も書いた方がいいんですかね」
カイとミナのことである。
「あぁ、そこにはリーダーとなる人の名前だけで大丈夫ですよ」
よし、名前はOK。
次に種類。運送業、金融業、倉庫業、広告業、保険業……うわ、こんなに商人って仕事の種類があるんだ。まぁ、僕はこの運送業……行商人になりたいからここに丸っと。
その下の項目は特にない。これから商人になるんだし、学校に行っていたこともない。
「どうぞ」
僕は記述した紙を受付嬢に返す。
「ありがとうございます。では拝見いたしますね」
そして、その人は紙を見て———少し困ったような表情をした。何か問題でもあったのだろうか。
「すみません、この商業者ギルドに入るためには、最低でも初等科、中等科の学校を卒業しているほどの学歴が必要で………」
あぁ、そういうことか。確かに商人はいろいろなことに頭を使う。品物の値段を割り出したり、どれだけ高く多く買い取ってもらえるかなどの話術もそうだ。
「そうですか……」
呟くもまだ僕はあきらめていない。
「ではどうすれば良いでしょうか」
「そうですね………」
彼女は思案するように頭をひねり、言う。
「では、一つテストをしましょう」
「テスト?」
僕が聞き返すと、彼女は頷き、その『テスト』のことを話し出す。
「はい、そうです。商業者に必ずなくてはいけない知識を、テストとして出させてもらいます。それでよろしいでしょうか」
「はい、望むところです」
そして僕は受付嬢に案内された場所でテストをし、満点をたたき出した。
- 第二幕 第一章 Ⅳ ( No.16 )
- 日時: 2020/02/04 14:18
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: ehSJRu10)
「………」
ある日の夕方、そろそろ店は閉まり、それとは逆に酒場が盛り上がりを見せていくであろう今日この頃。私——セイスは、目も前の資料——否、テスト用紙を見て唖然としていた。
ある不思議な少年が現れてからすでに約一時間が経過していた。行商人になりたいと用紙に書いていたその子——アースという子を初めて見た時、見て、長年商業者ギルドに勤めていて人を見る目を肥やしてきた私は直感で察した。
———この子は商人に向いていない。
少し長めの黒髪に、良く映えた金色の眼。柔和な表情を浮かべる肌は色白で、多分運動はあまりしてこなかっただろうとその薄緑の長いローブに隠されていた細腕から推測できた。
見た目は頭は悪そうには見えなかったが、提出された用紙には学歴は書いていなかった。
普通、商人になろうとする者は商業学校か、他の学校の商業科を卒業してからだったり、他の商人に弟子入りなどをして仕事を学んでからなる。
しかし行商人はその限りではない。ただ遠くへ行き、商品を欲しているものにそれを売るだけだからだ。
ただ、そこでも普通に算術、交渉術などはいるし、行商人は遠くの地域に物を運ぶ仕事だ。体力も人知れず必要となる。
こうした事から無理だと判断した。だが、ただ『無理です』、と言ってもこれは自分の想定の中なので、一応仕事上「テスト」と称して筆記試験、体力を調べて、それから諦めてもらおうと思った。
そして出た結果は———合格。知識も、運動能力も申し分ない——どころか、十分すぎるほどであった。
国の経済環境や地理、算術、語彙力などを問う筆記試験は全問正解。体力テストは魔法の【身体強化】を使いたいと言われ、何も問題はないので了承したら、常人の数倍——魔族にも匹敵するのではないかと思うぐらいの力を見せた。
確かに頭もすごくいいのだが、それよりも驚いたのがその魔法技術だった。
普通、巷で言う【身体強化】の魔法とは、剣士や戦士などが使うもので、しかしそれが与える効果も微々たるもの——動きが少し早くなったり、耐久力が増える程度だ。
それを彼は本来自身の力よりもあれ程倍増させたのだ。それをなすためには、どれほどの才能と努力が必要か。
しかし、しかしだ。魔法の力はすごくても、それを継続させる魔力がないと意味がない。商業は持久戦だ。しかもあれ程のものをずっと、となると……。
そう思って、ただ特殊な魔法石に魔力を流し込み続けるだけの魔力調査をしたら、とんでもない数値が出た。
否、実際に数値は出ていない。なぜなら———止めないと永遠に続きそうだったからだ。
魔法の才能は素晴らしい。これほどの力があれば旅に行く際、護衛などもいらないのだろう。
しかしそこで私は思った。
———なぜ魔術者ギルドじゃなくここへ来た——。
おかしい。普通におかしい。場所、間違えたのかな?うん?、と思って本人にもう一度確認しても首を振られる。
魔術者ギルドを進めても商業者の方が興味があるらしい。
確かに商業者ギルドの職員としては嬉しい。嬉しいのだが………。
「これが本当の才能の無駄遣い、っていうやつか……」
「はい?」
「あぁ、いえ。なんでもないです」
ぽかん、としている目の前のアースさん。過去に魔術師になろうとして全くその方面の才能がなく、そのまま今の職業に落ち着いてしまった身としては一言いいたい。が、職務上、その言葉は心の中にしまっておく。
でもまぁ、いい。それが彼のやりたいことなのであれば。私は、後は彼の夢が実現するように導くだけだ。
そして、私は彼が今一番欲しているであろう言葉を紡ぐ。
「———さて、遅くなりましたが、ようこそ、商業者ギルドへ」
- 第二幕 第一章 Ⅴ ( No.18 )
- 日時: 2020/02/21 18:00
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: ehSJRu10)
———————————————————
ドラ太さん、ありがとうございます。コメントの件ですが、総合掲示板の『リク依頼・相談掲示板』の、(忘れ去られている)『セイテンノカゲボウシ 関連スレ』というところに書いてください(上にあげときます)。違う小説のスレですが、きっとおまさんは許してくれる……はず。
もしまだこのセイカゲを見てないようでしたら、同じ複雑・ファジーにあるので是非見てみてください!
後、スレッドを消しておいてください。お願いします。
さて、小説の投稿が遅くなってすみません。本編です。
———————————————————
「——ぃやった!!」
すっかり暗くなってしまったこの夜に、宿の自分の部屋で、僕は嬉しさに頻りに叫んでいた。
テストを合格してから既に数時間。僕は幸せいっぱいの気持ちでギルドを出て、少し買い物をしてから宿に戻っていた。
今、手に持っているのは『ギルドカード』と呼ばれる、いわば商業者ギルドの一員であることの証明書。商業を表す緑色の下このカードを見て、ひたすらニヤニヤしてる。
「はぁ〜〜、これで僕も念願の商業者かぁ……」
ほう、と感動のため息をつきながら独り言を言う。多分興奮で寝れない。因みにカイとミナは隣の部屋で一緒に寝ている寝ている。流石子供。
「とはいえ明日から初仕事。流石に寝ないとまずいよな」
初日から寝不足で商品を運べませんでした、なんてことがあったら締まらない。
というわけで、カードを握りしめながら、今日はもう眠ることにした。
***
「おっはようございま〜すぅ!」
「…………おはようございます」
「うん、おはよう!」
ミナ、カイ、僕の順番で挨拶をしていく。
結論からいこう。眠れなかったッ!!!
結局遅くまで目が覚めているし、しかも楽しみ過ぎて早く起きちゃうし。なので今の僕は絶賛夜のテンションだ。さいこう!
それから僕たちは朝食を食べ、昨日ギルドに行くついでに買ってあった着替えを着て、荷物を確認し宿を出払って、馬車を回収。そして、商業者ギルドの別館の倉庫から品物を回収。馬車に積んで、昼時には王都の西門の前まで来ていた。
「よぉし、では諸君!これから目的地への旅、そして行商人としての仕事が始まるわけだが——」
「おお〜〜〜!!」
「テンション高いですねアースさん」
「——フッ。それはともかく一応旅での移動ルートを確認しておく。旅に不慣れな君たちのために、出来る限り野宿はしない道程を選んだ」
やる気満ミナと冷静なカイを交互に見ながら言葉を続ける。
「まずはこのまままっすぐ西に行って、2つの村で商品を売るのと同時に泊り、そこから一回野宿。そしてもう一つの村を越して———」
「——んん?え、でもそのルートをそこまで行ったら——」
「——そう」
首をかしげながら問うてくるカイを見て、言う。
「そこまで行くと見えてくるのは———最終目的地、隣国、ヴルスグルナだ」
***
アース一行がこのファンレン王国王都を出発したのと同時刻。その王都の中央に鎮座する王城、その謁見の間に、ある3人の姿があった。
「よく参った、ライ——いや、【勇者】、ライミス・ヴェル・ファンレン、そして【防衛士】、【戦士】の名を冠する者たちよ」
・・・
ファンレン王が座っていた豪奢な椅子から立ち上がり、目の前に並んで跪いている現代の勇者パーティーを歓迎する。
「「「——はっ!」」」
そして揃う声。その中でもひときわ大きな声を出した女性は、ファンレン王の面影を感じさせる顔立ちをしていた。
黄金色の髪の毛に、淡い碧眼。そして腰には一振りの件を携えている。
「では提示報告を聞こう。——ライ?」
「はい」
王にも愛称で呼ばれるこの女性は、名字からわかるようにこのファンレン王の娘。彼女は立ち上がると、報告を始めた。
「年々空気中の魔素が増えていき、出てくるモンスターも次第に強くなっている気がします。これは、魔王が復活するとみて間違いないでしょう」
「そうか……」
「もし現れたとしても【勇者】の名に恥じぬよう、これからも精進していく所存です。それに——」
そう言って一度言葉を切り、ライミスは両隣にいる己の仲間を見て、王の方にまた向く。
「——仲間も、見つけることが出来ましたし」
「……ハハハ!!そうかそうか。しかし【勇者パーティー】は五人という伝承だが?」
「うっ……。すみません。なぜか後二人は技能(スキル)に引っかからなくて………」
【勇者】には、魔王が復活する時、呼応するようにある技能(スキル)と呼ばれるものが開花するようになっている。それが【探査《勇者》】というものだ。これは、過去に【勇者パーティー】として戦った五人が交わした契りであり、呪いであり、そして権能という名の力である。もしまた魔王が復活するとき、自分たちの子孫たちがまた集まって戦えるように———。
そういう理由があり、このスキルの効果は、「勇者パーティーの他の四人の居場所を知ることが出来る」というもの。なのでそのスキルを使って二人までは集めることが出来たのだが———
「———【賢者】と【聖者】が見つからない、と」
「すみません……」
再び席に着いた王が呟く。別に聞こえるように言ったつもりはなかったが、聞こえてしまったようだ。
「まぁ、焦らずゆっくり見つけていけばよい。二人見つかったのならもう二人も見つかるだろう」
「………ありがとうございます」
深く首をうなだれて落ち込んでいる自分の娘を見て苦笑し、勇気づけるように言葉を言う。
「もしかしたら近くにいすぎて気付かないだけかもしれんから、な」
- 第二幕 第一章 Ⅵ ( No.19 )
- 日時: 2020/02/27 19:13
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: 9u1Zwsgn)
「とうちゃ〜く!!」
ミナの元気な声が響く。その声で横になって閉じていた瞼が開いた。
馬車の窓から首を伸ばすと目の前には、丸石でできた立派な、しかし王都のそれとは遥かに見劣りした門が建っていた。
王都からゴーレム馬車に揺られて約三時間。僕たちはあれから王都を出て、一つ目の村まで来ていた。
いや、デカさで言ったら『町』と言った方がいいかもしれない。流石都会の方の地区。少なくとも僕の住んでいた様な田舎とは比べ物にならない。
「身分証明書を提示してください」
それから門の前に並んでいた人たちが検問を終え、僕たちの順番がやってきた。門番らしき人が何か話しかけてきている、が、徹夜疲れとまだ少し眠っている脳では何を言っているのかわからない。
「………はぁい?」
「ですから身分証明書を……」
「……?」
「…アースさん、ギルドカードお借りしますよ」
門番さんとそんなやり取りをしていると、カイが僕のカバンから商業者ギルドのカードを出して門番さんに見せ——そして門番さんは頷くと、
「行商人の方ですね。確認しました。どうぞお通りください」
そういって通してくれた。あぁ、そうか、身分証明ね。
「ありがとう、カイ……」
「疲れてるならもっと寝てていいっすよ?」
カイに感謝の言葉を言うと、気にかけてそんなことを言ってくれる。優しいなぁ。
そんなこんなで町に入ることに成功したわけだが、まずやることは、定期的に開かれているという市場に行き、場所取りをすること。その部分をまずやらなければ売る以前の問題だ。
こういった大きな町や村には、人が沢山いるということでその人たちに商品を売ろうとする商人も多い。しかし、勝手な場所に店を構えて勝手に商売をしてしまうと、他の商業者に迷惑だし、マナーも悪い。
なので、そういった事態を避けるために周期的な市場が開催され、そこで商人は思う存分品を売れ、市場とあらば珍しいもの見たさで人も集まってくる。つまるところ素晴らしい制度、ということだ。
王都出発前に買った懐中時計を取り出し、今の時間帯を見る。その市場が開始されるまであと一時間程だ。すぐに会場入りして準備を進めなければならない。
僕たちはゴーレム馬車を走らせ、その場へと急いだ。
***
「よし、こんなもんかな」
「おぉ〜〜」
無事商品を並び終え、そこを改めて俯瞰すると、ミナは感嘆の声を上げる。僕も、初めてにしては上出来ともいえる店構えにとても満足している。もう眠気は吹っ飛んだ。
構える店はその商人の個性が色濃く出る。布を敷き床に商品を並べてみたり、テントを張り机の上に品を置いたりと。
その中でも僕は、『馬車の中』という場所を選択した。つまり、馬車自体を店にした。
実はこの馬車は行商人用に作られたもので、横についている蔀のような構造の窓の板を外し、それをすぐ下の溝に引っ掛けるとテーブルになる。さらに半円型の天幕の端の細長い板はスライド式となっており、滑らせると先程のテーブルを、上からすっぽり覆い隠す屋根のようになる。
今の手順を踏むと、ただの馬車がプチ店に早変わり。素晴らしい。製作者に会ってみたいわ〜。
「さぁ、そろそろだよアースさんッ!!」
「うん、楽しみだねッ!!」
ミナと同じように僕も大はしゃぎ。因みにカイは「腰が痛い」と言って、休んでいる。カイ君、君はいったい何歳なんだい?
僕がカイのことを失礼ながら心配しながら、開始するのを今か今かと待っていると———
「——時間になった」
懐中時計を見て時が来たことを知る。同時に、入り口の方から人の気配が………。
こうして僕たちの初の商業の仕事が始まった。