複雑・ファジー小説
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- 最強魔導師は商人をしている
- 日時: 2020/03/27 20:37
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: .pwG6i3H)
『セイカゲ』で知ってくれた人はこんにちは。はじめましての方は初めまして。マッシュりゅーむです。
今作品は、僕が仲間と書いている『セイテンノカゲボウシ』、閲覧数4,000回を記念——ということを名目上に、僕が前からやってみたかった、僕個人の小説となっております。
〜文章での注意事項〜
ゴリゴリのファンタジーにしたいと思います。読みやすく、面白い小説になるように頑張りますので、よろしくお願いします。
題名で分かる通り、主人公は無自覚最強——最強まではいかずとも、そんな感じです。
こういった設定が嫌いな方もおられると思いますが、ご了承ください。
物語の世界は、この世界と違いますが、㎝やkmなどの物理の単位を新たに作るとややこしくなるので、それはこの世界でも同様とします。
- 第二幕 第二章 Ⅲ ( No.25 )
- 日時: 2020/04/10 19:38
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: JLxwojUk)
と、彼女は何かに気付いたようにゆったりとした動作でこちらの方向を向く。
図体や装備だけではなく顔のパーツ一つ一つごついので、その眼光も、竜をも射貫くような鋭さを持っている。
その視線に、思わず自分が見られているのでは、と思わず錯覚してしまう。
というか完全に僕を見ている。
「……………」
え、なに、何なの?
そう、緊張と困惑が心の中で駆け回る中、彼女はじっとこちらを睨む——いや、何やら思案している様子。
何故こちらを注視しているのか分からないし、僕に何かあるのか、一体何を思っているのかで、今僕は内心ビクビクだ。
「———おい」
「は、はいッ!」
不意に、先程から一切変わらないテンション、声音で声を掛けられる。
その言葉に思わず敬礼しながら自分の出来る限り最高の声で応答する。
気分は宛ら怖い上司に叱られる下っ端だ。
さっきから暴君ぶりをこれでもかと見せられていたので、出来るだけ相手を刺激しないように集中する。
「お前……魔導師だな」
なので、次に告げられた言葉に、思わず一瞬呆けてしまった。
ほぼ断定に近いトーン。それと同時にニヤリと吊り上げられる口元。
相手方の雰囲気が、「どうだ、当たっただろう」と自信満々なものに変わる。
なので非常に言いにくいのだが……ここは譲れないので億劫せずに言わせてもらう。
「い、いえ、僕は…いや!私は、唯の、商人です……!」
そう、僕はこれでももう一端の商人。どもらずに堂々と、そう、堂々と名乗ることが許されている。
例え相手が強面の筋肉ムキムキ巨人女でも、プライドがそれ以外を言うことを許さないのだ。
僕は誇り高き商業者………!
「魔導師……………だな?」
「はい!そうですぅっ!!」
うん、プライドとか知らね!
いやだってしょうがないでしょ、そんな殺気とガン飛ばされたら。
「そうかそうか、やっぱり!」
はっはっは、と高らかに笑う巨女さん。
「それならちょうどいいな!おい、あいつの代わり、此奴でいいか!?」
何かをお仲間さんに確認している。何が何やら分からないが、取り敢えず悪寒がした。
助けを求める様にその方向を向くと、そのお仲間さんは、彼女に絶大な信頼を寄せているようで「いいんじゃね」「いいよー」「うん」と即肯定していた。
あれ、絶対適当だよ。
「よしっ!」
彼女は頷くと、また再度こちらを向き、
「お前、ランクはなんだ」
と、聞いてきた。
ランク?冒険者ランクのことかな?
「いえ、僕は冒険者じゃないのでランクは……」
存在しない、という旨を伝えながら、同時に、何の要件か知らないがとにかく関わるつもりはない事を言おうとする。
「そうか。じゃ、登録しよう」
しかし【爆弾女】は待ってくれない。
「おい、此奴のギルドカード作ってやれ」
「へ?は、はいッ!!」
少し前に僕が話を聞こうとして全く相手してくれなかった受付の男性がこうも簡単に従うところを見ると半眼を作りたくなるのだが今はそれどころじゃない。
「ちょっ……ど、どういうことか説明してくださいよ!」
「あん?なんだよ」
「いや、だからこうなった経緯を……」
「およ、話してなかったか?」
話してないよ。
「いやな、クエストで魔石の不景気だかなんだかで迷宮潜ったんだが、そこに今まで見たことない化け物がいてな」
くつくつと肩を揺らし笑いながら話始める。
って、魔石のこと……!
その言葉に、はっとし、成り行きで当初の目的が果たせそうなので黙って話を聞く。
「そいつが今回の件の主犯だってことで当たりつけてブッ殺そうとしたんだが……少々手こずっちまって仲間の魔導師がやられちまってなぁ」
「な、なんでそのモンスターが犯人だって……」
素直に疑問をぶつけてみると、
「勘」
勘かよおい。
もう何に突っ込んでいいのか分からなくなってきた。
でもまぁ、大事な時の「勘」は何気に大事かもしれない。戦いの中では常に多岐にわたる選択を強いられるからだ。
経験からの一択。これに勝る選択など、ないのかもしれない。
と、それはともかく。
「魔導師が負傷してしまっていないから僕を代わりに………ということですか」
「おう、そうだ」
「でも僕、魔術なんて人並程度にしか使えないですよ?」
ようやく経緯を理解、納得する。
しかし、僕は本当の魔導師でなければ、彼女が期待するような魔術など、多分使えない。
仮にも相手は迷宮のモンスター。その強さはこれまで僕が倒してきたことのあるどのモンスターをも凌ぐだろう。
そして、一緒に戦うのがA級冒険者という点についても、僕じゃついていけない。
つまり役者不足。足手まといにしかならない弱者。
そのことを伝えると、彼女は朗らかに笑う。
「いや、謙遜しなくてもいいぞ。アタシには人の実力を見抜く才能があるんだ」
「えぇ……いやでも、」
「それに、これから《ステイタス》を確かめればわかることだろう。………なぁ、カーリー!」
「は、はぁ……」
カーリーと呼ばれた受付の男は返事をしながら、両手で長方形の薄黒い石板の様なものを手にしていた。
「では、準備が出来たのでこれからギルドカード作成の儀を行いたいと思います」
………これは、もう作るしかないかなぁ…。
- 第二幕 第二章 Ⅳ ( No.26 )
- 日時: 2020/04/10 19:39
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: JLxwojUk)
「ではこちらに、手を」
石板を示すカーリーさん。その両手に包まれたそれは、確か魔石の一種で【解読】や【表示】の【魔法付与(エンチャント)】がされていると聞く。
これは、それらの魔法によりその人物の秘めた力、俗に言う《ステイタス》を読み取り、表面に投影することのできる『魔道具』だ。
「ふぅ……」
静かに息を吐く。初めの事は、誰だって少しは緊張すると思う。
まぁ商業者ギルドではこの行為をしたことがなかったので、興味深いっちゃ興味深いのだが………。一つ言うならもっと安静な時にやりたかった。
確かに今は【爆弾女】が暴れてくれたせいでこの冒険者ギルドはすごい静かだ。しかしそれは同時に注目を浴びているというわけで。
辺りにはあのA級冒険者が選んだ魔導師ということで、《ステイタス》を視ようと大勢の冒険者が石板と僕の周りを取り囲んでいる。
正直に言うととてもやりづらい。
ちら、と背後を見やると巨女が腕を組んで成り行きを見守っている。……そういえば異名だけで本名聞いてなかったな。
「………あの」
「あ、すみません」
カーリーさんの言葉に思考していた頭を正面の『魔道具』に移し、覚悟を決めて手を翳す。
すると、フッ、と光が波紋上に長方形の中心から広がり——間を置かず文字が現れた。
そして。
「なっ———」
そこに描かれていく表示にカーリーさんは頬を引きつらせ、
「ハっ!ほらな!!」
巨女はその口元をにやけさせ、
「「「おおっ……………!!!」」」
周りのならず者達は感嘆の声を上げた。
そんな中、僕は。
「………?」
一人だけその表記された文字列の良し悪しを全く理解していなかった。
「そーら、すげぇ《ステイタス》だろ!?」
「……え?そうなんですか?」
後ろからのその豪快な笑みにぽかんとしながら応答する。
残念ながら僕は冒険者ギルドの《ステイタス》の読み方までは知らない。それは本来、こういった冒険者ギルド登録の際に受付の人から説明があったりするものだからだ。少なくとも僕はそうだと聞かされていた。
しかしその当の受付さんは自分の手元の石を眺め口を半開きにし、呆然としている。
この様子じゃ説明してくれなさそうだなぁ……。
「———うしッ!じゃあ早速アタシらで作戦会議するぞ!ついてこいっ!!」
「え?ちょまっ………待って!」
僕の襟首をつかんだ彼女はその馬鹿力でそのまま肩に担ぐ。その行為に僕は制止を訴える。
別に行くとは一言も……っ!
しかし【爆弾女】は待ってくれない。
「まっ……うわぁああああぁぁァァぁ………————」
そのまま僕は運ばれていった。
***
「……」
少年の悲鳴を聞き流しながら、受付の男——カーリーは目を見開き、動きを止めていた。
その理由は十中八九手元の少年——アースの《ステイタス》である。
実は、このカーリーは冒険者ギルドの受付の仕事の前は冒険者を生業としていた。
そう、彼は元冒険者。引退した戦士の一人である。
なので彼の人生は殆どが冒険者と関わっているといっても過言ではない。
そんなベテランの彼は、冒険者の現状に飽き飽きしていた。
———弱い、意思がない、勇気がない、根性がない。
自分が全盛期の頃はもっと猛々しい輩が沢山いた。皆の一人一人が率先して迷宮へと乗り込み、財宝を、名誉を、そして世界への普及、発展を、という事を胸に、日々命がけの戦いを演じていた。
しかし、だ。
今の奴らは努力もしないで、ただひたすら自分たちの欲ばっかりを優先する者ばかりとなってしまった。そのせいで冒険者同士の結束力が弱まり、我先にという醜い争いばかりで、全く強者がいなくなってしまった。
なのでカーリーはもはや冒険者達に絶望視までするようになっていた。
そんな時に現れたのがあの少年である。
最初はただの脆弱なガキだと思った。こいつも自分の事ばかり考える愚か者の仲間だと思った。
だが、その考えが変わり始めたのは、その後に現れた彼も認める冒険者パーティー、【ワイルドダモクレス】が来た時だ。
その少年を臨時のパーティーにすると言った時には、彼は内心驚倒していた。遂にハイネ——【爆弾女】の眼も腐ったか、とまで思った。
しかし、実際に腐っていたのはカーリーの眼だった。
リーダーの彼女の言われるまま半信半疑で《ステイタス》を確認したところ、そこには驚愕の才能が———というよりも色々おかしい事が書き記されていた。
《ステイタス》に示されたその少年の年齢は15歳。この年齢の最高水準の平均というと、少し遠くのグウィディオン高等学園の、魔術科の1年生であろうか。
まずは例を挙げよう。
世界最高峰の学校に通う、才能に満ち溢れている彼らの平均《ステイタス》は、以下の通りである。
=《ステイタス》====
・筋力———180 (E)
・耐久———200 (D)
・知力———250 (D)
・機敏———200 (D)
・魔力———250 (D)
============
魔術科なので筋力などは乏しいものの、ステイタスランク、D判定というのはこの歳にしては相当凄い数値である。
そしてこれが少年、アースの《ステイタス》。
=《ステイタス》====
アース 15歳 職業:商業者
《アビリティ》
・筋力———172 (E)
・耐久———256 (D)
・知力———801 (S)
・機敏———197 (E)
・魔力———∞ (SSS+)
・(霊力)———0 (F)
《スキル》
———本人ノ許可ガナイタメ見レマセン———
============
さぁ、何からツッコもうか。
まずは筋力、機敏は平均ぐらいで普通だ。耐久が何故か地味に高いのも、まぁ良しとしよう。
スキルが見れないのも、個人情報を守るため元からこうなっている。
知力。凄い。どれだけ本を読んで魔法を覚えたらそんな数値になるのか。
因みにランクがSというのは英雄とか伝説レベルである。最高ランクに一つ上のS+があるが、ここまでたどり着けたのはこれまでの歴史、〔勇者パーティー〕の面々だけとされている。なのでこれ以上はないとされる。
次に魔力。
どうした。
どうすれば無限(∞)なんて数値が出る。
ランクも………えすえすえすぷらす?
先程最高ランクがSと言ったのが一瞬で虚言になってしまったではないか。
こんなに凄いというかバグった《アビリティ》はお目にかかったことがない。
「天才だ……」
思わず呟いてしまう。周りに囲んでいる冒険者達も口々に同じようなことを言っている。
こんな逸材が商業者なんて矮小で汚い職業で燻っているなんて考えられない。
才能が、腐ってしまう。
(………彼は、絶対に)
冒険者にさせる。そう、心の中で固く決意する。
彼はこのギルドの、今の冒険者の現状の希望となりえる存在と、確信したから。
———それよりも。
・・・・
カーリーはここに記された最後の欄の言葉の意味を、先程からずっと脳内で探っていた。
(霊力………確かこれは———)
————————————————————————————————————————————————
アース君、実は【身体強化】の魔法で筋力、耐久、機敏の数値を上げられます。
通常騎士などの魔法を使わない戦士が使うこの魔法は、度が過ぎると肉体が壊れるので、最高で1.3〜1.5倍までしか上げられません。
しかしこのチート野郎は【賢者】のお父さんと『特別な訓練』をしていたので、それ以上上げられます。
およそ5倍。それが彼のできる最高の数値です。
一応数値にするとこんな感じです。
=《ステイタス》====
・筋力———860 (S)
・耐久———1280 (SS)
・知力———801 (S)
・機敏———985 (S+)
・魔力———∞ (SSS+)
・(霊力)———0 (F)
============
もう嫌やわ〜、この子。無敵やん。
そう思う方も多々いることでしょう。仕方ない、天才だもの。
一応ランクの説明もしておくと、一ランク100ずつ上がっています。(例を挙げるとFランクは0〜99、S+は900〜999、といった具合です!)
これらはF、E、D、C、B−、B+、A−、A+、S、S+まで999が上限で、それを突破すると1000〜1499がSS、1500〜1999がSSS、それより多いとSSS+、といった感じになります。
ややこしいですね。すみません。
《スキル》については追々物語が進む中で判明させていきます。
では早速一つ目。
《スキル》
【魔眼】
・効果対象の魔力探知。
・魔力の流れ、大きさ、色によって、その対象の力、性質等が分かる。
・瞳に流す魔力量により効果持続、上昇。
・任意発動。
【】
【】
【】
【】
【】
- 第二幕 第二章 Ⅴ ( No.27 )
- 日時: 2020/04/17 19:16
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: mhiP6sLm)
「会議始めるぞ〜〜!」
「「「「……お〜〜」」」」
A級冒険者が泊っている豪華な宿の一角に響くのは、一つの大きい声と、その声に応える四つの間の抜けたものだった。
先程巨女ことハイネさん(名前教えてもらった)の爆裂ダッシュによって、あっという間に彼らが滞在しているというここに着いた。
が、その速さに圧倒された僕と、同じくその速さに追いつくために全力を出していた他3人のパーティーメンバーは皆、疲れ切っていた。
息を、息を整えたいぃ……。
「よし、じゃあまずは坊主の配置だな」
しかし【爆弾女】は待ってくれない。
「アンネ——前の魔導師と同じ後衛で、敵が出てきたときにアタシたちが守ってる間に詠唱してもらう。で、完成したら合図してぶっ放す。———そんな感じでいいか」
「……」
「おい」
「………え?あ、はい、いいんじゃないですか?」
僕に聞かれていたのだと気付き、特に何も考えず応答する。
今の話でなんかこれ、断れないところまで知らずのうちに来てしまったような気がする。
もう腹を括ってしまおうと思った。
「だとすると……問題は詠唱時間かな」
「確かに」
「この子の《アビリティ》は凄かったけど魔力と詠唱の長さは関係ねぇーもんな」
僕を置いて進む話。まぁ、こういう戦いの事は本業の彼らに任せた方がいいか。
「それもそうか……おい坊主、お前、一個の魔法でどんくらい時間かかる?」
顎に手を添え、横目に真剣な表情で尋ねてくるハイネさん。
「そうですね……」
僕も眼を閉じ考える風を装いながら流し聞きしていたさっきまでの話を頑張って思い出す。
思い出した、確か詠唱がどうのこうのって———
「詠唱……とは?」
「は?」
僕の呟きに目を丸くして固まるハイネさん。
おいおい冗談だろ、という視線を他方から真っ向に受けながら、僕は続けて疑問を口にする。
「詠唱ってあれですよね。なんか言うやつですよね」
「あ、あぁ。魔法を放つときにやる……」
「え、そうなんですか?」
「ええぇぇぇ………」
全く分かっていない僕に信じられないという顔をするパーティーの面々。
仕方がないじゃないか、僕は冒険者の事は勉強していないんだから。
「……もしかして、魔法知らない?」
「いえ、好きなので昔からやってましたよ」
「え、じゃあいつもどうやって……」
「? 普通に……だと思います、よ?」
「……普通に…」
「はい」
聞かれたことをただ答えてるだけなのにどんどん困惑に染まっていく表情。僕も全く訳が分からない。
この人たちは何を言いたいのだろう?
「……はぁ、あのな、アース君」
と、そこまで黙って話を聞いていた中衛担当の男性魔剣士さんが、組んでいた両腕を解いて、こちらに語り掛けてくる。
「魔法ってのは発動するときに『詠唱』をして、その言霊に含まれた術式を展開させなきゃならんのよ」
「……え」
初めて聞いた、そんな話。
「………その様子じゃ本当に知らなかったんだな」
そう言って、その人は手のひらを表にし、少しこちらに向けながら口を開く。
「【我が命に応えよ———光を灯せ】」
魔法発動時特有の魔力の高まりを手のひら中に纏わせ、一言。
「【———灯火(ライト)】」
おぉ、すごくそれっぽい。
ボウっと淡い赤色に染まった光の宝玉が浮かび上がる。
これはその名の通り、明かりを出す初級魔法だ。
「と、まぁこんな感じだな。君はこれまでどうやって魔法を?………もしかして、もうあまり聞かない『舞』とか?」
「えーと……普通に、こうです」
言って、僕は特に何も動かさずにいつもの様にやる。
間を置かず、僕と魔剣士さんの間に【ライト】を発動させる。
「………」
「あ、あの?」
「……ん、あ、あぁ、ごめんごめん。———おいハイネ、この子すげぇぞ」
彼は後ろでポカンとしているパーティーと一緒に瞠目しているハイネさんに声をかける。
「……無詠唱ってのはなかなかできないもんなのか?」
「いや。まず無詠唱ってのは不可能だ。さっきも言ったが詠唱ってのは魔法陣の陣に描いてある様な、その発動する魔法の属性、効果、範囲、対象、規模を言霊の中に術式として埋め込んだり省略されてるもんなんだよ」
ハイネさんの疑問にそう答える魔剣士。
そういえばそんなことが一冊目の魔導書に書いてあったような……?
「……まぁいいか」
もう10年ぐらい前の記憶を必死に呼び起こそうとしたが、途中で気を改める。
どうせこの人達に教わるんだし。
「それを省略どころか無くすなんて普通はできねぇしありえねぇ。多分俺の予想だとそんなことが出来るのは一つ。———《スキル》だと思う」
彼が言うには僕の《ステイタス》にはそういった魔法関連のスキルが存在し、僕の魔法発動時に関与している可能性が高いのだと。
しかし《スキル》とはその人物が日々生活していく中の『日常』に関連して発現することが多い。僕は確かに魔法自体は好きで使ってはいるものの、才で言ったら多分いっても中の上ぐらいだし、職業も商人だ。
親からの遺伝ってこともあるけど………。父さんと母さんも普通の村人だしなぁ。
「まぁ、とりあえず、必要時間が無いってのは幸いだな」
「そうだな……じゃあ坊主には魔力もあるしバンバン撃ってもらって…あ」
思案していたハイネさんは僕の方に向き直る。
「坊主は何級魔法まで撃てる?上級がいけたら結構楽なんだが……。あぁ、坊主の事だから超常までいけるか?ハハハハっ!」
どこか冗談交じりの音色を声音の中に混ぜながら、ハイネさんが問うてくる。
「はい、いけますよ」
質問にそう答えた瞬間、彼女の表情が初めて崩れる。
「はは、は?ん、今何、て——」
「——超常魔法は多分ほとんどできます。まぁ、僕の知っている範疇であればなんですけど——」
「——ぜ、全属性も?空間魔法も?」
咳き込むように動転するハイネさんを見て、内心その顔とのギャップに可笑しくて笑ってしまったが、何とか表情を取り繕う。
「はい。えっと、【灼熱黒牢(ヘルヴァナフレイム)】に【死鎌鼬(ゼッシクルヴェントス)】、【塵黒穴(ハヴダズホ—ル)】と、———」
「———分かった!!もういい!」
僕のできる超常魔法を片っ端から挙げていくも、ハイネさんに遮られた。
見ると、彼女は疲れたようにこちらを上目遣いで睨んできていた。
「……まさか、ここまでの魔導師とはなぁ……もはやバケモンクラスじゃねェか………」
その様子に気圧されるも、すぐに、フッ、と笑い、表情を弛緩させた彼女に安堵する。
「よぅし!じゃあ坊主はもうアタシらに被害が行かないように前衛でドンドンモンスターを薙ぎ倒せ!———では配置については終わりっ、次は例のモンスターについてだっ!」
机をバンっと叩き、獰猛な笑みで司会を進行させていくハイネさん。
大雑把で適当な指示を出して勝手に先の議題へと移ってしまい、心配になる事もあるが、気付けば明るい雰囲気で話が進んでいく。
みんながみんな、楽しそうだ。
僕は、何故【爆弾女】が仲間から慕われているのか、分かった気がした。
- 第二幕 第二章 Ⅵ ( No.28 )
- 日時: 2020/04/23 08:40
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: mhiP6sLm)
———翌日。
「ふぅーー……」
まだ空が朝日の赤みを残す早朝。ヴルスグルナの都市の外れ、枯れた様な木々と湿気を含んだ地面の広がる平原の一角には、5人の冒険者パーティーが集まっていた。
この土地に不自然に、不気味にぽっかり浮かぶ大穴——迷宮を前に、緊張した面持ちで深呼吸するのは黒髪の少年——アース。
ギルドが無償で貸してくれる馬車から降り、荷物やなんやらを荷台から降ろしていた周りの仲間たちはその様子に横目で気付く。
彼らは緊張を解そうとすることもなくただ見守る。
命を懸けた戦いは、常に緊張が不可欠であることを知っているから。
「……うし、お前ら!」
準備が粗方終わりを告げたのを見計らい、大剣をその巨躯に背負ったハイネは自分の他の仲間に呼びかけ、最後の確認を行う。
「まずは全員武器、防具、回復薬が行ってるかもう一度確認しろ」
言われた通り、各自自身のポーチや鞘を確認していく。
アースも自分の横に下げた鞄の中を見やる。
中には花緑青や萩色といった、様々なカラフルな液体の入った透明な小瓶があった。
これらが先程ハイネが言った、回復薬、別名『ポーション』だ。
飲めば回復魔法をかけたように自身の傷、魔力、異常魔法が回復する。
「……大丈夫そうだな」
皆が何も異常がないことを確認したことを見、ハイネが口を開く。
「これから潜るこの迷宮は、『蛇の巣窟』」
迷宮には、一つ一つ名前が定められている。その名を付けるのは一番初めにその迷宮を見つけた発見者なので、たまに、というか全体の6割ダサかったり変だったりする。
因みにヴルスグルナ付近にある最高難易度の迷宮は、大型モンスターばかり出るので『筋肉集会(ボディビル)』という名が付けられていた。
「だがこの迷宮は完全に名前負けしている。……つまりは蛇系モンスターなんてここは一匹も出ないし、階層も五十までしかない。比較的初心者の迷宮だ」
「ここに……魔石が無くなっている元凶が……」
「あぁ、間違いねぇ」
全然簡単な方だと言うハイネに反応し呟くアース。その言葉に肯定し、ハイネは自分の見た『怪物』を思い出す。
「魔石の調査で片っ端から迷宮に潜って行きついたのが、絶対ねぇと思ってたまさかの此処だ。こんな安っぽい迷宮にいるとは思っていなかったからな」
魔石が取れるのは全ての迷宮。魔石が取れにくくなったのも全ての迷宮。その中でもここは取れにくくなった、ではなく取れなくなったと言えるほど魔石が枯渇しすぎている。
「なんで一つの迷宮のモンスターが他の迷宮に干渉できるかは知らん。もしかしたら見落としていただけで複数いるのかもしれない」
だが、とハイネは言葉を続ける。
「もしそうだとしても全部ぶっ潰すだけだ。今日はまず最初の一匹。絶対に殺るぞォッ!!」
「「「おぉおおおおおおっ!!」」」
ハイネの声に応える彼ら。
その雄たけびは、地を揺るがし、迷宮にも響き、反響し、最終階層にまでも辿り着き———
———ソレは、ようやく目覚める準備が整った。
————————————————————————————————————————————
次回、ちょっと長めです。
- 第二幕 第二章 Ⅶ ( No.29 )
- 日時: 2020/04/30 09:36
- 名前: マッシュりゅーむ (ID: bG4Eh4U7)
迷宮、一階層中盤。
「来ました!中型が四匹と小物が数十匹です!」
あれ、初っ端から多くない?
索敵スキルに長けている斥候の女性の声を聴きながら、アースは頬を引きつらせる。
———迷宮って本当にモンスターの湧くのが速いんだな………。
そんなことを思う彼の動揺をよそに、他の面々はそれぞれ自身の得物を抜き取り、今日初のモンスターとのエンカウントに戦闘態勢を取り始める。
しかし、モンスターの気配が奥の方からどんどん近づいてきているのに、ハイネだけはその背の大剣を手に取らず、何やら思案する様子。
「……ハイネさん?」
「……ん、坊主——」
後衛に徹しているアースが、前のそのハイネの様子に声を掛けると、彼女は彼を向いて、一言。
「———前に出ろ」
「……は?」
突然の命令に固まり、少し無遠慮な声を出してしまう。
ハイネはそれだけ言うと、再び前を向き、立ち止まる。
何故急に、前に出ろなどという事を言ったのか。
その理由を探ろうとするも、しかし、アースは何か考えがあるのだろうと疑うのを止め、はい、と返事をしてハイネの横に並んだ。
「ハイネ?どうしたんだ、急に」
「………いや、特に理由はない。単純な興味だ」
隣の同じく前衛の剣士の男性に問われ、腕を組み横目でアースを見やる。
「お前らも知りたいだろ?———コイツの力」
「あぁ……成程」
「確かにね」
納得したように彼らは件の少年の方に目をやり、自分たちも立ち止まって見守ろうとする。
しかし、その様子を見たハイネは、
「おい、何ちんたらしてんだ。テメェらは配置に着け。……ユミラは一応アタシの後ろに居ろ」
「分かりました!」
ユミラ、と呼ばれた斥候の女性は、リーダーのその大きな背中に隠れるように。
剣士と魔法剣士は共に溜息をつき、ハイネ達とは背を向ける様にし、彼女たちを守るように移動する。
「アタシが合図するから、その瞬間にぶっ放せ。いいな?」
「は、はい。……ふぅーー」
何の魔法がいいか考えていたアースは、ハイネの言葉に少し緊張で震える唇から返事をする。そしてそれを紛らわすように、大きく深呼吸。
一瞬の静寂。
「今だ」
「———【突風(ウィンドブラスト)】」
気持ちの良い風切り音が鳴ると同時に、指向性を前方——モンスターが現れるであろう方向に定め、濃縮された風の刃の雨を降らす。
その中級魔法の風属性魔法は———果たしてハイネの言う通りに出現した怪物たちをまとめて吹き飛ばし、切り裂き———そして絶命させた。
「——よしっ!」
「……よくやった、流石だな」
アースは倒せたことに喜び、ハイネは素直に称賛した。
***
迷宮 『蛇の巣窟』
ここは、無骨な岩肌をさらした大穴が、長年かけて魔力を溜め、迷宮化したもの。
人工的に造られた照明がその青白い壁をひっそりと映し、所々上から垂れる水滴によって水たまりが出来ている。
『まるで、ナニカが任意的に掘った巣のようだ』
そう感じたこの迷宮の発見者は、その意味合いを含めこの名を付けたという。
階層数は五十。一般的な迷宮が百層という数字を見ると、その出現するモンスターの弱さも相まって『初心者用の練習場』と呼ばれるのも納得だろう。
しかも極めつけは———
「———魔力が……?」
「あぁ。多分君は魔力量が多すぎて気付かなかったろうが、この迷宮は居ると魔力が無くなる。……それも下に行けば行くほど、な」」
49階層。もう少しで最終階層に辿り着くであろうこの場所までこんなにも早くたどり着けたのは、この迷宮がほとんど一方通行で迷わずに済むことと、この迷宮に似合わないA級冒険者の力ゆえだ。
さすがと言うべきか、彼らは彼ら同士の行動を予知できるかのように連携しあい、一切スピードを緩めずにここまで来れた。
アースはほとんど何もしていない。
「すみません、お役に立てず……」
「いやいや、君の真価が発揮されるのはここからだろう?頼りにしてるぜ、行商人さん?」
「ははは……」
そんな気の抜けたやり取りもできるほど、アースの心持も軟化していた。
今彼は例の中衛魔剣士と周りに目を配りながら並んで話している。
本当は中衛と後衛が一緒にいてはいけないのだが……。リーダーのハイネはこのくらいはいいかと目を瞑っている。
「おい、もう着くぞ。もう戻れ!」
「あ、はい!」
ハイネの言葉に顔を上げたアースはパーティーの後ろにつく。
「…………そういえば、前の魔導師さん……アンネさんが敵から攻撃を受けた時、身体が硬直して動かなくなって、回復薬も無かったので仕方なく帰って来たんですよね」
「あぁ……それが?」
全員が集中し、響くのは水の滴る音と、岩を踏みしめる足音だけになった時。
アースが、ふと思ったことを口にする。
「……それってもしかしたら———」
「———着いた。ここだ」
アースが何かを言う前に、ハイネが目的地に到着したことを告げる。
そこは、この迷宮に来て初めての箱型の空間であった。
天井は見上げる首が痛くなるほどの高さ。ランプが視野を助けているが、それでもまだ見えない。高すぎる。
・・・・・
奥行きも途方もなく広かった。こちらも影になって一番奥以外は見えない。静謐な暗闇が、唯そこに在るだけだ。
適当に、無作為に造られたような凸凹な壁と床、忘れたと言わんばかりの堀残しが巨大な柱となって天井と地面を繋げている。
そして、一際目を引くのはその奥。
何故かそこだけ青白く、かつ不気味にぼんやりと光が存在している中。
一番向こうの壁の面に、巨大な岩の柱が、曲がって、折り重なり、絡み合っている。
そして、その頂上には、その岩の管の終わりが、先端が上を向いて鎮座しており、そこに微かに光る二対の宝玉が———
「これ、は………」
「ここが五十階層。変な場所だろ?」
口を開けてポカンとしているアースを見やり、その心中を察する様に前の魔剣士がそう話してくる。
俺も最初の時は驚いたなぁ、と言いつつ、前に来た時のことを彼は思い出す。
「この部屋に入った瞬間、変な気配というか……何かの『視線』を感じて……なぁ?ハイネ」
「あぁ、ここに来た時、良く見えなかったが確かにモンスターの影が現れて、それで———」
「あぁー………。確かに強そうですね。魔力が凄い。どうします?」
「……ん?」
隣に並び、驚くアースに、同じく説明をしようとするハイネだったが、続くアースの言葉を予想していなかったか、動きを止める。
「……何か、見えるのか?」
ハイネが眉を顰めながら彼に問う。
この子は何を見ているのか、と———
「———………………………違う」
不意に、目の前の少年の声音が、変わった。
「———違う違う!そうじゃない、いやそんなはずは……嘘だ……!」
アースは急に重大な何かに気付いたように顔を振り上げて声を掠れさせる。
その背中は、ひどく震えている。
彼の目線の先を辿ったハイネは———ふっ、と苦笑した。
「お前は魔眼があるのか? 確かにあの岩塊には結構な魔力が灯っているが、それだけだ。クソ強い敵にでも錯覚したのか、あれはモンスターじゃないぞ?」
それは、一番奥に存在するあの絡み合った岩。
あれは大昔から在り、この何十年、何百年と異変も災いも怪しいことも何もない、オブジェだ。
「……ええ、あれはモンスターじゃない」
安心させるように少年の肩に手を置き、そう言ってやると、彼は間違えたことに恥ずかしがるも、言い訳すこともなく———ただ首肯した。
不審がるハイネとパーティーメンバーを置いて、アースは昔読んだ事のある、ある本の書かれていたことを頭の中で思い出しながら言う。
アースの声が、顔が、身体が、張り詰める。
「今、アレをよく見て思い出しました。あれはそう、———昔、古代の時代に魔王に対抗するために魔導師が【賢者】の手をも借りて、命を懸けて創造した———」
瞬間———
「な、んだ、これ……?
「地面が……迷宮が、揺れている……?」
ゴゴゴゴゴ……、と、静かに、そして確かに、地面が。壁が。天井が。空気が。そして、あの岩も一斉に揺れだす。
まるでこれから起こることを、目的が合致する新たな同胞を祝福する様に。
「———対怪物型戦闘用魔道具、アーティファクト———」
揺れは次第に、着実に大きくなり、それと比例し眼前の岩塊の魔力が高まる。光が強まる。
その魔力量と、その正体を知っているアースの崩れ落ちた表情が、ソレがどれほどの存在かを語っている。
「———使われた材料を元につけられたその名は、———」
岩が、剥がれ落ちる。
・
あらわになったのは、漆黒と青緑が無理やり混ぜられたような、紺桔梗に限りなく近い鱗。
天辺の二つの宝玉が——瞳が、赤く怪しく光る。
「———【蛇竜】、ピュトン」
岩が、弾け、彼の古の兵器が完全に復活した瞬間であった。
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凄い急展開。