複雑・ファジー小説
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- コンプリヘンシブ
- 日時: 2025/03/01 03:53
- 名前: 梶原明生 (ID: BLmVP1GO)
あらすじ・・・混迷を極める昨今の社会情勢。この時代を国や政府が乗り切るためにある専門家によるアイデアが採用された。それが「コンプリヘンシブ プロジェクト」各省庁の専門家でチームを組み、あらゆる事態と事件に対処する。ここまでは従来通り。しかし、ここからが違った。「省庁に限らず、アトランダムに選出されたあらゆるエキスパートに、それぞれのパイプラインとなって心臓部になってもらう。」つまりは壁を開けてお互いを共有し合う前代未聞のチーム作りを許可したわけだ。しかし問題はその土台をどこにするか。最終的に防衛省と警視庁が揉めたが、「まだ国民の多くは警察手帳に重きを置く傾向にある。また、単調的に説明しやすい。」として、やむなく「警察庁、警視庁」に本部を置く事で決定した。かくして、あらゆるエキスパート8人が警視庁別室総合特別対応室に集められた。しかも初日から特別に警察手帳と特殊拳銃が支給された。それぞれクセのある8人だが、国と国民を守るため、日夜あらゆる事案、事態、事件に「コンプリヘンシブ」達が挑んでいく。・・・8人の所属組織は以下の通り。防衛省(特戦、別班?)、警視庁、消防庁、海保、医療機関、マル暴、文科省、芸能界。
- Re: コンプリヘンシブ ( No.29 )
- 日時: 2025/09/03 20:47
- 名前: 梶原明生 (ID: FWNZhYRN)
・・・藤崎が何かを思い出していた。「元北朝鮮対外情報調査部にいた朴か。」「対外情報調査部って、まさかスパイ組織の。」遠藤が気がついた。「まぁね。特戦群にいた時はかなりマークしたもんだが、尻尾は一度も出さなかった。そのうち白なんじゃないかと言われ始めた頃、調査部を辞めて朝鮮総連経由で貿易会社を築いたとか聞いてた。その際、外交部の女性と結婚したと聞いていたが・・・まさかそれが李春明だったとはな。」遠藤が促す。「どうしますか。ワッパかけますか赤川。」「いや、今捕まえても知らぬ存ぜぬで通されたら終わりだ。証拠を掴まない限りトカゲの尻尾切りに会うだけ。それより赤川が何を渡されたのか気になる。先ずはそれを手にしないと。」藤崎は松下を意味ありげに見る。「ちょ、ちょっとまさか私に。」「ああ。丁度謹慎中だし、古巣にもどるんなら新田主任にもバレない。」「しかし私はコンプリヘンシブの人間であって、疑われて・・・」「疑われないだろ。何せ君は私怨で水島の件を有耶無耶にしようとしてた。だろ。」思わぬしっぺ返しに閉口する松下。彼女を相良と同じく横浜の海保関東管区本部に移送した後、朴凛貿易に急ぐ藤崎達。すると2台のSUVが道路上で挟み撃ちをかけてきた。「何だこいつら。」遠藤が睨みを利かす。しかしSUVの連中はお構いなしに銃を向けてくる。「降りろ、警察だっ。」不躾に拳銃を向ける輩にやむなく従う藤崎。「やめろ、銃は抜くな。同業者だぞ。」相良班にもそう指示して車を出る面々。「何する、こっちは無抵抗だぞ。手帳なら持ってる。」殴る相手に藤崎は叫ぶ。「そんなことは知ってる。コンプリヘンシブだろ。」「そう言うあんたらは公安部外事課か。見ただけでわかる。」「ほう、なら話は早い。しばらく我々に付き合ってもらおう。」「キスもしてないのにか。」ふざけた藤崎の顔を思いっきり殴る外事課。「連行しろ。」手錠かけられた藤崎達はどことも知れぬアジトに車ごと移動させられる。手錠かけられたまま椅子に座らせられる藤崎達。「随分と手厚い歓迎だな。こんなことしてただで済むと思ってんのか。」「うるさい、この畑荒らしが。お前らの捜査は常軌を逸してる。我々も色々と事情があるんだ。今進めてる捜査に支障をきたすんだ。あんたらにはここでしばらく大人しくしててもらう。」「今進めてる捜査だ。・・・ふん、嘘だね。あんたらの本当のお目当て教えてやろうか。朴達に便宜を図っていた事実が発覚するのを恐れているんだろ。お宅らの上司である久寛警視監が黒幕だろ。違うか。」「バカな、何を証拠にそんなことを・・・」「あんたのその慌てぶりさ。」・・・続く。
- Re: コンプリヘンシブ ( No.30 )
- 日時: 2025/09/06 13:38
- 名前: 梶原明生 (ID: 8GPKKkoN)
・・・「勘のいい捜査官は嫌いでね。」互いに目を見合わせる外事課の面々。拳銃を取る。「これはあんたらの拳銃だ。とち狂った奴が仲間を撃ち殺したとさ。」「俺も勘の鈍い大人は嫌いでね。もう外したよ。」「い、いつの間に・・・」手錠がまるで手品みたいに見事外れている。藤崎素早く拳銃を取り上げると、外事課のメンバー全員を撃った。「パン、パン、パン。」鋭い銃声が部屋中を劈く。「安心しろ。急所は外してある。同業者のせめてもの情けだ。ついでに救急車とパトカーも呼んどいた。」「くそっ・・・」藤崎達は銃器などを取り返して、再び車に戻る。「朴凛貿易に向かうぞ。」「了解。」その頃、朴と李は会社ビルのプライベートラウンジで高級シャンパンを嗜んでいた。朴が李をソファで抱き座りながら呟く。「これで赤川の利用価値もなくなるな。あれさえアメリカ大使館に渡れば取引成立。やっとお前とのアルゼンチンでの新しい悠々自適な暮らしが待っている。ふん、何が祖国だ国だ。単なる利用価値がないかあるかの存在に過ぎん。なくなればおさらばバイバイするまでさ。」「その通りね。国家安全部や対外情報調査部が気づいた時は私達はアルゼンチン空港ね。」「悪い子だ。フハハッ」笑い合いながらシャンパングラスを合わせる。「動くな朴。そして李。」藤崎達が拳銃を構えて入ってきた。「これはこれは刑事さん。何の騒ぎですか。」「惚けるな。機密情報漏洩並びに水島崇、大志田廉、深見海保官への殺人教唆並びに殺人未遂。不正密輸入に人身売買、麻薬取締法違反等の罪でお前を逮捕する。」「悪いおふざけだ。ここを何処だと思ってる。ここは朝鮮の管轄する敷地だぞ。そこに勝手に踏み込んでただで済むと思うのか。総理に聞いてみるんだな。」「く、・・」歯軋りする藤崎。しかしそれも数秒のことだ。「銃を納めてもらおうか。我々は朝鮮大使館の者だ。」「私は中国大使館の外交官だ。」ゾロゾロとスーツ姿の男女が押し寄せてきた。「ほう、これはこれは、国家安全部と対外情報調査部が一気にお目見えとは驚きだ。」朴が白々しく助けを求める。「良かった、孫同志。危うく日本の馬鹿どもに捕まる所でした。助けていただきありがとうございます。」「いやいやどう致しまして。」「、それでは・・」「本国に送り届けてあげよう。処刑台にな。連行しろ。」「へぇっ。」あまりの急転直下に肝を抜かれたみたいにへたり込む二人。やがて姿は見えなくなった。「どうかな。これで丸く収めてはくれんかね。後にオタクの総理には話をつけておくから。」「ま、そう言うことなら。」「藤崎チーフっ、引き渡すんですか。奴は・・・」遠藤が食ってかかる。「気持ちはわかる。だが、これを引き金に戦争でもする気か遠藤さん。」「そ、それは。」「どのみちこれで組織は壊滅。首謀者はおそらく銃殺刑だ。ただでは済まん。それでも事を構える気か。新田主任に確認してみろ、答えは同じはずだ。」「ちっ、わかりました。これが外交ってやつですか。」「悪いが良くも悪くもそうだ。」藤崎達はやむなく車に戻り、本部を目指した。スマホに連絡が入る。「何、赤川が松下を人質に取っただと。本当か美山。」・・・続く。
- Re: コンプリヘンシブ ( No.31 )
- 日時: 2025/09/08 01:12
- 名前: 梶原明生 (ID: bGiPag13)
・・・「はい。海保の巡視艇内でスプレーのような催眠ガスで眠らされた松下さんが、人質にされて立て籠られています。」「朴の野郎、突入時何かメール送りやがったな。」早速向かう面々。現場には新田主任以下全員来ていた。海保官の上官達が引き止める。「あんたらコンプリヘンシブだな。警視庁が踏み込む場所じゃない。ここは関東管区海上保安庁本部だ。海保のことは海保でケリをつける。」藤崎が突っかかる。「この期に及んで縄張り争いか。うちの隊員が人質なんだぞ。」新田が割って入る。「まぁ、とにかく。この通りオタクの上層部から許可は取ってます。合同で事態に当たりましょう。」用意周到なのか、海保上層部の許可証まで持ってきていた。「まぁ、そういうことなら。」早速対策本部に案内されたコンプリヘンシブ達。美山がパソコンを開く。「立てこもってる場所は食堂兼会議室になる部屋。厨房以外では二つしか出入り口がありません。要求は高速艇一隻と一千万の現金だそうです。」「突入するならこの2箇所のドアからだな。」新田が思案しているが、藤崎が何か思いつく。「新田主任。俺に考えがあります。」「どんなやり方だ。」「名付けてジョンマクレーン作戦。」ニヤリと笑う藤崎。巡視艇内に潜り込んだ。「赤川保通だな。私は警視庁の藤崎だ。撃つな、約束の金と高速艇の鍵を持ってきた。ほら、これだ。」ゆっくりと中に入る藤崎。バッグとキーを掲げている。「妙なマネするなっ。ゆっくりだ、ゆっくり俺の前のテーブルに置け。」「わかった。安心しろ。俺は何も持ってない。バッグとキーだけだ。」「置いたな。よし、じゃあ手を挙げてろ。・・それから、腰の拳銃と足首の拳銃を出せ。」「な、何のことだ。」「惚けるな。俺がその手を食うと思うか。わかってんだぞ。お前らは大体腰か足首に拳銃を隠してる。お見通しだぞ。」「わかった、わかった、悪かった嘘をついて。」「こっちに床を滑らせて拳銃を渡せ。」言われた通りに従う藤崎。「そいつは朴凛貿易の金庫からくすねた。持ってけ。」「ふん、まあいい。チャラにしてやる。あ、あ、動くな。動くなよ。松下の命はないぞ。」「ああ。だが、SSTを呼んだか。」「何っ。」赤川は一瞬後ろに拳銃を向けた。それを見逃さない藤崎。首後ろに貼り付けてあったコルトガバメント抜き取り、一発発砲した。拳銃を持っていた側の鎖骨付近を貫通する。「グワーッ」赤川はその勢いで開けておいた非常扉を開けて外に出た。「待てっ。」ホルスターに納めて追いかける。しかし、外通路で待ち伏せていた赤川に襲われて互いに格闘戦となる。「よー、陸の警察さんよ。俺は海の逮捕術の達人でな。」首を絞めながら嘯く赤川。抵抗する拍子にコルトを落としてしまう藤崎。肘打ちが炸裂し、呻く赤川は彼ごと海に転落する。ニヤリと笑う赤川。「海なら俺の右に出る奴はいねー。水中に落ちたのが運の尽き。海底まで引きずりこん・・・何っ。」と心で呟いたが、彼の下に来ていたシャツの徽章を見て驚愕した。「残念なのはお前だよ。悪かったな、元水陸機動団だよ。」・・・続く。
- Re: コンプリヘンシブ ( No.32 )
- 日時: 2025/09/08 16:04
- 名前: 梶原明生 (ID: quQfBDMh)
・・・相浦駐屯地所属の水陸機動団は、「日本版海兵隊」と称される、九州の島嶼部防衛を担う精鋭部隊だ。まさか彼が特戦に行く前はそこの人間だったとは。「救う側と狙う側。どちらの海猿が強いかはわかるだろ。」そう心で叫んで逆に藤崎が赤川を締め上げる。失神寸前で海面に上昇する藤崎。赤川も一緒だ。しかし、SSTの狙撃班にはそれが争っているように見えたのか。あるいは消したかったのか。・・・PSGー1狙撃銃の銃弾が赤川の頭部を貫通した。真っ赤に海面を染めながら、沈む彼を助けることも出来ずにただ狙撃班の方向を睨む。腕を撃たれて手当てを受けていた相良も同じだ。数日後。メンバーは本部のオフィスにいた。天川が椅子の背もたれに背中を預けて気だるく喋る。「なーんかスッキリしない一件でしたね今回は。」斎賀が同調する。「本当っすよ。どうしてこんな。」藤崎は珍しくダンマリだ。新田が入る。「皆、聞いてくれ。たった今報告があった。日勤待機は解けた。政府の見解は容疑者死亡のまま書類送検。大志田、水島の殺人及び深見に対する殺人未遂は全て赤川の公金横領の発覚を恐れての犯行と発表する。」松下が立ち上がる。「はぁ、何ですかそれ。朴や李の組織の話は。奴らの事は闇に葬る気ですか。水島さんの家族には何て。」「松下。」藤崎が首を横に振る。新田が続ける。「そうだな。だが、事件は解決。不要な衝突も避けられたんだ。とりあえずは勝ち星としよう。確かに彼の母親に解決の一報を入れられないのは残念だが。我々にはどうすることもできない。」藤崎が頭後ろに両手をやりながら問う。「赤川から取ったあのUSBはどうなります。」「ん、あれはな。丁重にアメリカさんに渡すことになった。大変助かったと喜んでいたぞ。」「ケッ。大方そうだろうと思いましたよ。まさに漁夫の利とはこの事ですか。美味しいところだけ持っていく。」「まあそう言うな藤崎。全ては丸く収まってくれたんだ。」「はいはい。」そっぽを向く藤崎。「それからな、サプライズがあるぞ松下。お前が探していた不審船の生き残り、今警視庁の食堂に来てる。」「本当ですか。」意気揚々と立ち上がる松下。黒石、天川、そして藤崎たちは、面会する松下を見守った。「あ、な、た、が、マツシタさん。」辿々しい日本語で話す女性。在日朝鮮人で人身売買されるところを命からがら逃げていたのだ。今はコンプリヘンシブの被害者保護支援制度を受けている。「ごめ、ん、なさ、い。私脱北した見、だ、から、か、く、れる、しかなかた。」「もういいのよ。事情はわかってるから。あなたが廉の最後を見たのね。」「は、い。私いしょ倒れたフリ、してた、ら、松下さん名前、言われて、これ、渡して、きた。ずと、返し、たかた。」テーブルに置かれたのは松下に渡すはずだった結婚指輪。・・・続く。
- Re: コンプリヘンシブ ( No.33 )
- 日時: 2025/09/10 00:06
- 名前: 梶原明生 (ID: 1Lh17cxz)
・・・あの日、サプライズがあると言われてデートする予定だった。そんな時非常呼集がかかり、あんなことに。それまで抑えていた感情が溢れんばかりに松下は嗚咽した。「結婚しよう。」そんな廉の声が今になって聞こえた気がした。「松下を頼む。」「藤崎チーフ、どこへ。」「もう二、三片付ける案件があるんでな。」背中で語り、手を振った。久寛警視監のオフィスに向かっていた。「おや、これは新田主任。向かう先は同じですか。」「ああ。不本意ながら。」「それは余計でしょ。じゃあ、ショータイムと行きますか。」通路にspらしきスーツ姿の男達が立ち並んでいる。「警視総監からの接近許可証だ。久寛警視監に会わせてもらおう。」「新田主任、どうやらペンより拳が好みのようだ。」並いるspと格闘戦を繰り広げつつも、オフィスにたどり着く二人。「何だ新田。また私の部下に怪我を負わせたか。お前はとんでもない放蕩野郎だな。」「そりゃ、どっちの話で。これは警視総監並びに法務省、総理大臣からの逮捕許可証です。」「バカな。一体何の罪でそんな話が出る。」「残念ながら、渡したUSBの中に、あなたの協力記録もありました。」「な、何。・・・」閉口する久寛。藤崎が割って入る。「あんた、偉そうに日本の政治家は中国朝鮮に尾っぽを振る売国奴が多いと言ってたそうじゃないですか。人の事言えた義理か。」「うぬぬねっ・・・」何も言えなくなる久寛。そこへ十和田、竹中、塩谷のいつものトリオが現れる。「警視総監からの命令でしてね。後は我々が引き受けます。コンプリヘンシブの方々はお引き取りを。」新田が皮肉混じりに言う。「なるほど、また美味しい手柄だけはちゃっかり警察さんが持って行くわけか。」「警察・・あなたは同じ警察側では。」うっかりしたとした顔を見せる新田を見逃さなかった。「もしかして新田主任、こっち側だったりして。」「行くぞ。」無視するかのように立ち去る新田。翌日、相良と藤崎、そして松下の三人は水島家を訪れていた。「ありがとうございます。これであの子も報われます。」渋柿を食べたかのような顔つきになる三人。松下が言いかける。「実は水島さ・・・」言った矢先彼女の肩を掴み、首を振る藤崎。その矢先、消し忘れていたテレビがニュースを示した。「北朝鮮と中国で極秘に政府高官が処刑されたようです。誰かはまだ不明です。」・・・終わり。 次回「いじめの報酬」に続く。