二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 艦これ In The End of Deeper Sea
- 日時: 2016/04/06 00:42
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。
結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。
えぇ、ただのお遊びです。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.27 )
- 日時: 2016/07/05 20:10
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
真っ暗な海を眼下に、秋津洲と明石は二式大艇に乗り、海馬島へ向かっていた。随伴の直衛機はなく、深海棲艦の電探を躱しつつ、対空砲火を浴びにくいギリギリの高度を保ち、エンジン音を出来るだけ静かな物にするため、ゆっくりと飛び、夕刻出立したというのに未だ海馬島には辿り付いていなかった。
「秋津洲、あと何時間?」
「あとー……、1時間くらいかも」
「随分と掛かりますねー、もう少し飛ばせないの?」
「んー、敵に見つかりたくないから、静かに飛ばしてるんだけど」
エンジンを最大まで回せば、音で捉えられる。ゆっくり飛べば鳥海の容態が不安。このジレンマに明石はやや不安を抱く。内臓が露出する程の裂傷、弾け飛んだ右腕。いくら艦娘といえども、行動は出来ないような負傷である。
眼下には護衛艦「たつた」が対深海棲艦用に有線小型機雷を散布していた。彼等にヘリ運用能力があれば、鳥海はもう少し早く治療を受けられていただろう。ない物を強請り、泣き言を言うのは見っともないと明石は口を噤んでいたが、本音はそうであった。米国からの圧力で国産LCSなどを作ったが、ヘリ運用能力がないため、やはり決め手と汎用性に欠ける。かつて建造されたDDH、「いずも」と「かが」のような欠陥艦にしか思えなかった。
「……いつの時代も無用の長物ばかりね」
まるで自嘲するように1人ごちた明石は、機首下部の銃座から仄暗い海面を見つめた。暗闇に波は見えず、海も空も見分けがつかない。まるで、海そのものが得体の知れない何かに感じられ、不安と恐怖が交じり合い、好奇心の一滴が滴り落ちた、いいようのない奇妙な感情が胸の中を去来する。
「戦う艦は秩序を乱す頓狂が居るから必要なのかも。艦娘も同じ」
何やら普段のちゃらんぽらんで、臆病な秋津洲からは信じられないような発言であったが、彼女のいう事は尤もである。世に存在する秩序を乱す輩が居なければ武力は必要ない。艦娘もそれに等しい。現に日本という国は、その頓狂を秩序とした隣国を屠るために13年前にその力を奮った。
「それもそうかぁ」
秩序を乱す者が居るならば、その頓狂を殺める必要がある。頓狂に説得は通じず、死んでも治らない馬鹿の集団があるのなら、口のない死人の山を築き上げるしかないのだ。
「——ん……?」
機首下部の銃座から、感じ取った海面の異変。同時に「たつた」のLINK16から標的同期の通知が入り、二式大艇の中にけたたましいアラームが鳴り響いた。突如として銃座に姿を現した妖精らしき、小さな影が銃座を海面に向けている。
「……深海棲艦っぽいのとアンノウンが交戦してるかも。たつたにはデフコン2が発令されてる」
「2種配備ですか?」
「距離が距離だから、接近されてから対処するのかも」
あまり切迫した様子はなく、秋津洲は座席の上で油圧回路の計器をチェックしていた。先程まで操縦桿を握っていたが、今は妖精と思しき影がそれを触れずに操作しているようだ。念力の類だろう。
「無線の周波数弄って、アンノウンに通信しようとしてるけど、ダメかも」
「え、整備不良ですか?」
「ううん。多分ECM。ここいら一帯に妨害電波が流されてる」
摩耶達から通信のあったECM攻撃。再度これが為されるという事は第2次攻撃の兆しの可能性があった。摩耶達は上陸し、海馬島に身を潜めているが深海棲艦の対地攻撃があると想定するならば、照明弾を上げガイドビーコンの代わりにする事は難しい。即ち二式大艇の着水が遅れ、鳥海への対処が遅れる事となってしまう。
「……どうするの?」
薄暗がりの中でも分かる明石の切迫した表情。それに秋津洲は静かに息を飲み、座席に腰を下ろした。
「ゆっくり高度下げて、海上を走るしかないかも……」
出来る事ならやりたくないと言った様子だ。ガイドビーコンがない状況で、島に着水するという事は減速の加減と進入位置を間違えば、島へ衝突する可能性が多いにあるからだ。それでも秋津洲は覚悟を決めたように、静かに息を吐き、妖精の変わりに操縦桿を握ったのだった。
ロシア海軍に所属する艦娘である「レニングラード」は見えない敵から逃げていた。海面に姿を出せば、水平線の向こう側から回避位置まで予測された砲撃をされ、海中に姿を隠せば対潜ミサイルの雨が降り、それを凌いでも爆発した水圧で身体の骨を圧し折られる。水圧に右手の指は、圧し折られた鉄筋のように折れ曲がり、右の耳は魚雷音の聴知すら出来ずに居た。
(……なんだ)
恐らくこのまま行けば死ぬであろう。しかし、それでもレニングラードは冷静で居られた。死神、地獄の番犬、その類の必ず敵を屠るという意思を持った何かが、ひたすらに負い掛けて来ている。どこにも逃げ場などないのでは、と思えるのだった。
早朝、スラーヴヌイが撃沈され、混乱する中で殿を務めたヴォロシーロフは深海棲艦の手によって拿捕、文字通り"解体"された。終いに深海棲艦の艦隊に拿捕され、同様に"解体"されたが目覚めた時には艦娘ではなくなっていた。海の上が羨ましく、彼女達が憎く、沸々と殺意が沸きあがってきたのだ。自制しようにも身体は、脳を無視して動く。終いには友軍であるはずの「鳥海」を傷つけてしまった。
微かに残る自我が自分の苛め、このまま沈み贖罪せよと言い聞かせても、真っ暗な海底に恋人でも置いてきたかのように、軽やかに、足早にその身を落としてしまう。
その刹那、何かが海底から海面へ向け急速に浮上していく。その姿は見覚えがある物で、月明かりを受け青い瞳を輝かせ、真っ黒な長い髪を海中に漂わせる。それはヴォロシーロフであった。殿を務め、"解体"されたというのに、また自分1人で死にに行くといのだろうか。哀れだ、そう思った途端、レニングラードの身体は反転され、再度海面へと上がっていくのだった。これは深海棲艦の習性によるものだと、僅かに残った自我で判断していた。1人では戦いを避け、仲間が居れば寄って集って標的を追い回す。
(脳じゃなく、身体で動いてるのか)
本能や、走性で動く。まるで蟻だ。恐らくは人型ではない深海棲艦は蟻のように何かに命ぜられて生きているのだろう。下位の深海棲艦同士が互いに"フェロモン"のような物を発しあい、互いに引き付け合って標的に向かっていく。そして人型の深海棲艦が居る事で、より強い"フェロモン"の元で意思を持ったかのように動くのだろう。このまま行けば死ぬ。そんな状態だというのに、今更になって深海棲艦の行動原理に仮説を打ち立てられるとは、馬鹿げた話だとレニングラードは自嘲した。
海面に立てばヴォロシーロフは、蛇行しながら砲弾を躱し"何か"へと向かっていた。それに続くように身体は勝手に動く。波のない海、月の明かりがその"何か"を照らした時、真っ赤に燃え盛るような瞳を此方に向け、それは口を動かした。
「——殺してやる」
そう短く言葉を発したように感じられた。その刹那、空から何かが降りヴォロシーロフを爆散させた。艤装も身体も、彼女の形は一瞬で失われ水柱が上がる。耳をつんざくように何かが飛来するような音。それを見ようと首を動かした時、レニングラードの意識は途絶えた。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.28 )
- 日時: 2016/07/07 00:20
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
爆煙と共に水柱が立ち上り、突き刺すような戦場の感覚が木曾を支配していた。13年前の佐渡島の記憶が蘇る。海上から放たれる対地ミサイルと、護衛艦「さがみ」から絶え間なく放たれる177mm。敵から容赦なく放たれる機関銃の銃弾が、ビーチングした運貨船のバウ・ランプに減り込み、弾が弾けるその感覚。磨り減っていく神経がどことなく心地いい。
隣に立つ北上の表情もどことなく強張り、瞳は見開かれていた。何時の間にか艤装が展開され、手にはしっかりと14cm単装砲が握られている。第4潜水隊の面々は各々が伸びをしたり、煙草の火を消して海面を見据えていた。あとは摩耶の指示1つ、行けの一言を待つのみなのだ。
行けというべきか、やり過ごすべきか。その選択を摩耶は強いられている。というのは誰も言葉を発さずとも分かる事であった。敵が目の前に居るなら、撃退するのが常。現に彼女達の導火線には火が付き、乾ききった火薬に点火するのを待つだけだ。しかし、それの指示を出せば「鳥海」を置き去りにする事となり、深海棲艦と"アンノウン"との三つ巴の戦いとなる可能性がある。そこで更なる損害を出すか、そこで沈むか。命と戦いの選択、戦わなければ遠巻きに死ぬ。1人を見捨て、敵を叩いて多くを救うか。選択しがたい事象であり、その判断に苦慮するのであった。
「……摩耶、行けの一言すら言えないの?」
北上がそう煽る。彼女の顔付きは、どことなく暗く凄みがあった。修羅場を潜り抜けてきた兵士の顔。命の取捨選択を容赦なく出来る、指揮官の顔だ。それを見て摩耶は口を噤む。答えは導き出せずにいた。戦闘技能こそあれど、冷徹な指揮官である側面は見せられない。
不意に後頭部突きつけられた冷たい鉄の感触。北上から向けられたものではなく、それは木曾から向けられた代物だ。撃鉄を起こす、金属質な乾いた音が摩耶の耳に飛び込む。
「判断しろ。指示を出せ。それが出来ないなら価値はない。鉄屑だ」
取捨選択。それを為すのが指揮官の務め。価値がない物は要らない。木曾の言葉はこうだ。向けられたのは彼女が普段から持ち歩いている、艤装を破壊された時に使用する自害用の拳銃であるのは間違いない。指示を出さないなら殺す、という意味だろう。
大湊の艦娘特有の文化だ。他部隊から転属され、旗艦を勤める事となった艦娘が非常に徹しきれず、大湊の文化に染まりきった艦娘の手によって、処分され、一時的に指揮権を乗っ取るのだ。そこに平時の友情や、思慕といった物は存在せず為さなければならないのであるからこそ為すというだけの、単純な使命感のような代物である。
ゆっくりと後頭部に手を伸ばし、木曾に突きつけられた拳銃を退かそうとするが、彼女は両手で構えているらしく、それを退かす事は適わなかった。仕方ないと小さく溜息を吐き、手で拳銃の銃口を塞ぐ。もし撃たれても手を抜けて、頭蓋で止まる。
「……二度目のミスは許されないぜ」
「よく言う。お前があたしを撃ったとして、指揮が取れるのか?」
「俺がやるんじゃない。なぁ、北上」
横目で北上は木曾に視線を一瞬だけ遣すと、小さく鼻で笑うような素振りを見せた。指揮を乗っ取るつもりがあるのか、ないのか判別に困る返答をする。巻き込むなとも言わんばかりの反応に木曾は小さく舌打ちをし、その銃口を下ろす。
「ったく……、どうすんだぁ? やらなきゃ秋津洲達も着水できねーぜ?」
木曾の言う事も尤もであり、水上の脅威を排除しなければ秋津洲達が接近できない状況。ミイラ取りがミイラになるような事は避けなければならず、それが起きるのは最悪の事象であり、水上連絡や大島の整備能力を欠くような結末は避けなければならない。霧島に地獄の果てまで追い回される事になる。
「あの……、浜に何か上がってますけど……?」
光学単眼鏡で監視を続けていた大井が、戸惑うように状況を報告していた。深海棲艦は陸に上がらない。何時の間に秋津洲や明石が到着したのだろうかと、首を傾げながら摩耶は暗闇に目を凝らすも、人影は1つに留まり、それが何者なのか判別出来ずに居た。
「陸に上がる深海棲艦なんて居たか?」
「集積地棲姫くらい」
集積地棲姫は発生条件がよく分かっていない。数年前のRIMPACで米海軍と海上自衛隊の手により、撃破されたそれは突如として出現した物らしい。原住民は海中から化物が上がってきたなどと騒ぎ立てていたようだが。集積地棲姫でないのであれば、何らかの艦娘とも考えられる。光学単眼鏡越しにキョロキョロと辺りを見回すそれには、物々しい艤装のような物が確かに展開されていた。体躯は神通より背丈がやや高い位であろうか、砲らしき物は持っておらず筒状の何かと、巨大な箱のような物を持っている。それはゆっくりと大井へ向き直り、厭に赤い瞳を此方に向けた。禍々しく見える眼光であったが、夕立の前例がある。それに不思議と殺意や敵意といった負の物は含まれていないように感じられた。その赤い瞳の持ち主は、ゆっくりと歩み寄ってくるのであった。
各々は艤装を展開し、それを向かい討つ準備をし、陸上では無力な第4潜水隊の面々は、木曾を盾にするようにその後ろに隠れている。電探を回せば、ECMによりノイズまみれであったが着実に標的が近寄ってきているのが分かる。摩耶は息を呑み、その暗闇の向こう側を睨みつけるのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.29 )
- 日時: 2016/07/10 10:13
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
赤い瞳は少しずつ、歩み寄ってくる。言葉は発さず、暗闇の向こう側から向けられているであろう砲口に恐れを為すような素振りは見せない。当てられても損害が出ないのだろうか、それとも砲弾を避けきる自身でもあるのだろうか。普通ではあり得ない事を摩耶は思い、想像してしまうのだった。
「……名乗れッ!!」
暗闇に響く摩耶の怒号。それに赤い瞳は立ち止まり、瞳を閉じるのだった。まるで自分の名を思い出すようにも見える、その素振り。雲から月が顔を覗かせ、その者の顔を見せる。灰色の艤装を担ぎ、灰色の海洋迷彩のような外套に身を包んだそれは、手に持った巨大な箱を砂浜に下ろすと瞳を見開く。
「——DDK-124"きよなみ"だ」
——DDK-124"きよなみ"——そう名乗った彼女は赤い瞳を向け、どうにも底意地の悪そうな笑みを湛えた。灰色の艤装は124と白地に黒の縁取りをされた艦番号が書かれている。
「はぁ?」
"きよなみ"と言えば、先日、津軽海峡で深海棲艦と交戦し、艦首を失い大規模な修繕に入っている護衛艦の名である。それが何故人の形をしているのか、不思議な事象に遭遇し、思わず摩耶は素っ頓狂な声を上げてしまっていた。周囲の艦娘達も同様に、戸惑いを隠せず首を傾げたり、互いに小声で言葉を交わしている。
「弾薬と燃料の補給を願う。……あわよくば大湊に帰還したいんだ」
気恥ずかしそうに言う"きよなみ"であったが、彼女のような存在が何故、出現したのかが分からない。現在の艦娘は第二次世界大戦時に存在した艦艇の艦霊が、生身の人間や、海難事故者の死体。轟沈された深海棲艦が姿を変えた物ばかりであり、現代の艦からそういった者が現れるとは見た事も、聞いた事もなかった。
「……もしかしてそれはVLSですか?」
「あぁ。今はVLAしか入ってない上に、もう8発しか残ってない。彼方此方で使う羽目になってしまって」
かつて「まきなみ」に乗っていた大井は目ざとく、その艤装の正体を言い当てる。搭載している弾頭の正体までは分からなかったようだ。
「もうESSMは撃ち切ってしまった。……恥ずかしながら、人の身で使うのは難しい」
"きよなみ"は苦笑いを浮かべながら、VLSのセルを開いて中身が空だとアピールしていた。
従来の艦娘であれば、即時保護をするべきなのだろうが、判断に困るというのが摩耶の正直な所であり、同様に伊58も戸惑いを隠せずに見てみぬふりをしながら、ラッキーストライクに火をつけた。
「敵意はないんだよね?」
「勿論。何で同じ国、しかも大先輩に武器を向けなきゃいけないんだい? まぁ、撃ったら勝てるけど……」
最後に物騒な一言が返ってきたが、伊58も"きよなみ"に苦笑いを浮かべて返す事しか出来なかった。保護すべきか、保護せざるべきか今川の指示を仰ぐべきであろうが、ECMがなされている現状それも出来ず旗艦2人は頭を抱えているのだった。
「それより良いのかい? US-2飛んでるけど。誘導しないのかい?」
"きよなみ"が指差す方向、そこには二式代艇の姿があった。恐らく二式大艇の事を"きよなみ"は知らないのだろう。US-2の先祖のような物だが、全く別物である。
「木曾、照明弾撃ってやれ」
「あ、あぁ」
"きよなみ"の出現に動揺しているのか、木曾はやや言葉に詰まりながら短く返事を返した。仰角を15°刻みにし、計4発の照明弾を海上へと打ち上げれば二式大艇から発光信号で感謝の意が伝えられた。彼女達もECMに苦慮しているのだろう。視界が確保された事から、二式大艇は徐々に高度を下げてきていた。
「あれは誰なんだい?」
「……工作部の明石と、大島防備隊の秋津洲だ」
「あぁ、明石2級技官かい? 南澤3級技官とは話になってたね。秋津洲とやらは知らないけど」
「その話は止めてやれ」
明石と南澤のスクープは、余り広げるべき話ではない。既に周知の事実であるが、表向きにする話ではない。艦娘と普通の人間は好き合うべきではないのだ。明石が真名を名乗れるようになるまで何故、待てなかったのだろうかと摩耶からすれば、余り面白い話ではない。
「やっぱ艦娘とデキちゃうってのは、マズ————」
言い終えるか終えないかの所で、"きよなみ"は海を睨みつけ、口を閉ざした。何が見えるのだろうか、彼女が見据える方向に摩耶は瞳を向けるが、真っ暗な海には何も見えない。恐らくは"きよなみ"の持つレーダーでようやく探知出来るような距離に何かが居るのだろう。
「……鳥海の搬出を急ぐぞ。至急此処から出よう」
不吉な予感が反射的に口を、そう動かす。"きよなみ"は凍りついたまま、海の向こう側を睨みつけている。弾薬もない状況下で、どうやって戦おうか算段を練っているのか、それとも遥か向こう側の何かを見定めようとしているのか。
"きよなみ"を他所に乱雑ながら、3人の雷巡が鳥海を担ぎ上げて海岸へ向かう最中、第4潜水隊の面々が"きよなみ"をまじまじと見つめていた。その視線にも彼女は気付く事はない。
「おい」
ぼんやりとした"きよなみ"は、ハッと我に返ったようにして摩耶へ向き直ると、水平線の向こうを指差し、小さく言葉を吐いた。
「——深海棲艦の大艦隊が400km先に居る。あいつ等だよ、妨害電波流してきてるの」
「……規模は?」
「分からない。ただ、40隻近い艦隊だ。ここ最近頻発してた襲撃の主力だと思う」
VLSを担ぐ、"きよなみ"手が微かに震えていた。赤い瞳は戦意を湛え、口角は少しばかり吊りあがっていた。悪い顔だと摩耶はそれを内心、嘲るが彼女を1人、あそこに向かわせて沈める訳にはいかない。そもそも今や、彼女の攻撃手段は対艦ミサイルが3発しかないのだから、3隻沈めてそれで終いだ。
「……お前も帰るぞ、弾も燃料も好きなだけくれてやる。1人で死にに行くなんて水臭い真似すんな」
"きよなみ"は首を縦には振らなかったが、無理やりそのか細い肩と、艤装を掴み摩耶は彼女を引き摺っていく。横暴だと言わんばかりの第4潜水隊からの視線が気になったが、それでも彼女を1人行かせる訳にはいかない。
「……摩耶さん」
「摩耶でいい」
「あいつ等、私達を泳がすつもりだよ」
「あぁ、泳がせてもらうだけだ。泳いで、泳いで……、泳ぎ飽きたらその腹を食い裂いてやるんだ」
秋津洲が急げと囃し立て、明石が開口部から手を振り、摩耶達を招く。"きよなみ"を見ても、彼女達は何も言わず黙ってそれを受け入れた。最後に二式大艇へ乗ったのは伊401。彼女は防弾ガラスの窓に張り付き、海馬島を見つめていた。
次第に二式大艇は唸り声を上げ、一気に海面を滑走する。ECMにより「たつた」との連絡も叶わず、深海棲艦の大艦隊が存在するという情報も伝えられない。
機内の明石は鳥海の治療に尽力し、各々は緊張の糸が解れたのか、ぐったりと疲れ果てたように俯いている。完全な負け戦、敗軍の兵に誇りなどなく、友を失いかけ、仲間との衝突を齎した無能な指揮官だと、摩耶は自身を嘲り伊401の隣で、海馬島を睨みつけるのだった。
「クソが……!」
思わず摩耶は悪態を漏らした。その表情には苛立ちと、自責の念、悔しさが滲み出ている。
苛立つ摩耶と疲れ果てた皆を見て"きよなみ"は思うのだった。戦いの先に良い事など、1つもないのだと。彼女は艦であった頃から見ていた。佐渡島から帰還し、疲弊しきった兵士を。右目を失い苦しみ悶える兵士を。そして、フラッシュバックされる最後の記憶。戦いに人も深海棲艦もなく、勝ちも負けもないのだと。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.30 )
- 日時: 2016/07/17 22:01
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
陸上に配置されたCICの中、ある物が写っているディスプレイの目の前に今川直海は腰を下ろし、目を細めていた。被写体は"きよなみ"と、護衛艦「たつた」が撮影に成功した深海棲艦の大艦隊であった。
既存の艦娘とは異なる存在、深海棲艦の大艦隊。そしてECMを用いる深海棲艦の存在。全てがイレギュラーな出来事であった。かつて武蔵が深海棲艦と化し、佐世保に大きな打撃を与えた時は単純な戦闘能力による被害であったが、昨今の深海棲艦の攻撃は少し違う。用意周到かつ、同時多発的に作戦指揮を執り行い、戦力の接収、妨害、全てが人間のそれに近しい物になりつつあるのだ。
それが今川はとても不愉快であった。
人間が何世紀とかけて、培った戦術理論。それを深海棲艦が短期間で学習、実施しているのだ。彼等は人にでも成り代わろうというのだろうか。海と空を制し、陸を真綿で締め付け人間を殺そうとしているのではないだろうか。百万回の自己問答を繰り返しても、それを是とし首を縦には振られない。
「……神通、気配を殺して来るな」
「邪魔しては悪いかと」
目が上手く利かない分、感覚神経が過敏になっているのだ。足音を殺し、息を潜め近寄ってきていた神通を戒める。彼女はバツが悪そうに照れ笑いのような素振りを見せた。
「嫌ですね。この感じ」
今川の隣で神通は短く言葉を吐く。大きな戦いの前に起きる緊張、圧迫感、静けさ。全てが嫌な予感を感じさせる。元々は艦娘であった今川も、神通の感覚には同意できた。
「……ECMをどう凌ぐかだ」
「今の私達の装備では、凌ぎようがないんですよ。第一、ECMを照射されているという事は、既に敵艦隊に捕捉されてますからね」
「10km、20km先からの攻撃なんて生温い物ではダメだな。100km、200km先から殺さなければ」
現状の艦娘の装備では、そんな事は出来ない。戦艦達の主砲ですら最大射程は30km前後が限度である。有効射程となればもっと短い事だろう。
如何に損耗を減らし、敵を一方的に叩くか。それを為すためには、本当の意味での近代化回収を施す必要があるだろう。しかし、その予算、技術、更には誰がどうやるのか。全てが靄に包まれ、作り上げられないように感じられる。
「その顔、"長門"だった時みたいですね」
神通は直接、長門であった今川と共に戦った事はない。それでも資料か何かで見ていたのだろう。あの時の自分は、深海棲艦に敗れる訳にはいかないという思いと、旗艦である以上は部下の模範となり、規律を重んじなければならないという思考停止に陥り、それが顔に出ていた。酷い顔だと武蔵によく笑われたものである。
「老いても性根は変わらんさ。……神通。お前は未知と戦うのが怖くないか?」
「私達、大湊の艦娘はその未知と戦い続け、血を流しながらそれを打破してきました。……もう恐怖なんてありませんよ」
神通の吐く言葉に今川は顔を顰める。恐怖は生存本能だ。その恐怖を抱かないというのであれば、生きる意志を持たないそれ——深海棲艦——と同じなのだ。特に深く考えての発言ではないのだろうが、神通のその言葉は不愉快な物であった。
「恐怖は死を忌避するものだ。恐れを忘れるな」
「……恐怖に惑い、足を止めれば死神に喉を裂かれますよ」
恐怖を忘れるなという者と恐怖に止まるなという者。その2人は顔を見合わせ、にやにやとした笑みを浮かべていた。顔立ちは全く違うのに、その笑みはとても似通っていた。鉄火場を潜り、仲間の死を見届け、敵を屠り続けた兵士の顔だ。
「私が現役を退いたら、お前を此処の司令として迎え入れるよう進言しなければな」
「……筋が違うと思えば、上官に忌憚なく進言するのがその"部下"というものですから」
優しげな笑みに切り替わった神通。その額を軽く拳で小突くと、彼女は痛くもないのに大仰な素振りを見せた。そして肩から掛けていた鞄から書類を取り出して、今川へと手渡した。
「"きよなみ"の入隊許可を。これ申請書です」
「函館と大湊のどっちに置くんだ?」
「函館です。日向さんが運用案を作ってくれたので、それを一番理解してる彼女の下に」
「そうか」
日向の下に就くというのであれば、問題なく彼女を運用出来ることだろう。砲を主体とする艦娘であるが、近代の艦隊戦、運用にも精通している彼女ならば信頼が置ける。恐らくはあきつ丸や飛鷹の直衛として、運用し、完全なアウトレンジから対艦ミサイルを運用、さらにはレーダーで補足した敵艦隊の情報を同期してくれるだろう。自衛隊の戦術レーダーリンクに依存する必要がなくなり、戦闘が円滑となる事を予想される。どうであったとしても、後々日向の運用案を確認しなければならない。
「言ってましたよ。私にもVLSをくれ……って」
「善処しとくと伝えておけ。どうにか艤装を開発しなければなるないだろうからな」
冗談半分、本気半分で神通と言葉を交わす。彼女は穏やかに笑っていた。その笑みを見て、今川は理解するのだった。彼女は恐怖を抱かないのではなく、不安を抱かない勇ましい女なのだと。それを恐怖を持たないと言っているだけなのだと。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.31 )
- 日時: 2016/07/25 09:39
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
New Tips2
記載例
・第3護衛隊群 第3護衛隊 旗艦→(3-3旗)
・大 島 防 備 隊 →(大防)
・第3護衛隊群 第4潜水隊 →(3-4S) ※SはSubmarineの略。
なお、函館配備については「函」の字を文末に記載している。
最低限の設定開示とする。
神通(3-3旗)
元海上自衛官。幹部だったようだ。最後はFTGに在籍。
階級上は龍驤が元部下だった。
龍驤とは本名を知り合う仲であり、龍驤とは非常に親しい。
大淀(3-3)
素性不明。現在の司令である今川直海(元長門)の腹心。
大淀が今川に対し、一方的な不信感を持っている。
ジャコパスファンで、自身もフレットレスベースを演奏する。喫煙者。
筑摩(3-3)
素性不明。空撮を趣味としており、ドローンを飛ばす姿が時折見られる。
常々穏やかで、艦隊の癒しなどと称される。
夕立(3-3)
素性不明。甘味好きで有名。
戦術理解能力や、戦闘能力が高く評価されており神通の懐刀として重宝される。
高波(3-3)
海難事故者の亡骸に艦の魂が宿ったと考えられる。
艦娘であるというのに、海を嫌がるのはそのためか。
常々、おどおどとしているが訓練での成績は良好、大淀と仲が良いようだ。
日向(3-3函)
元深海棲艦。霧島に撃沈され、艦娘として転生したため保護されている。
思い切りの良さと、一部の隙のない性格をしており防衛戦を得意とする。
艦娘の更なる進化を望んでいる。
あきつ丸(3-3函)
陸上自衛隊から出向している。哨戒任務を行う事が多い。
第二次日中戦争に参加しており、陸上自衛隊西部方面普通科連隊の一員だった。
佐渡島奪還作戦時に上陸出来ず、水死しており彼女の亡骸に艦の魂が宿ったようだ。
現在でも競技射撃を趣味とする。
黒潮(3-3函)
素性不明。格闘訓練超好き。
伊勢を殴り倒した経歴を持つ脳筋。
あまりにも素直すぎ、味方の戦意を挫きかねない事を口走るため、日向から再三注意を受けている。
利根(3-3函)
素性不明。逃げ足の速さ、慎重な戦運びにおいては、大湊地区の艦娘では右に出る者がいない。
艦隊のストッパーとして意見具申する事が多い。
きよなみ(3-3函)
DDK-124きよなみから生じた艦娘と思われる。誰かの身体に憑依したりした物ではなく、真名が存在しないタイプの艦娘。
豪快なのだが気が利く、理想的な女性。
妙高(3-7旗)
元深海棲艦。日向同様霧島に撃沈されている。
口調などは穏やかなのだが、深海棲艦に対する敵対意識が強すぎる。
怒らせると洒落にならない。
余談だが、深海棲艦の時に霧島の眼鏡を破壊する大殊勲を上げた。
足柄(3-7)
素性不明。勇敢で勝利に貪欲に執着する人物。
相反し、気立ても良く明るいムードメーカー。大淀の悪友。
川内(3-7)
素性不明。戦術理解能力は高くないのだが、自分に与えられた役割を完遂する事に執着する。
艦隊では最も魚雷の扱いに長けており、有効射程内ギリギリから魚雷を撃っても、ほぼ必ず当たるとの事。
龍驤(3-7)
現職の海上自衛官。FTGに所属しており、階級は准尉。
神通は階級的には元上官で、互いに本名を知り合う仲。
不知火(3-7)
高波と同じ海難事故で死亡した人物と思われる。
表情が乏しく、どことなく冷めた印象だがその実、他者への思慮に溢れた人物。
龍驤に懐いている。
伊勢(3-7函)
今川直海の懐刀二号。実艦の姿での戦いを得意としており、強行的な作戦を取る際の主力となる。
日向ほどではないが、防衛戦も得意としており曰く「凌ぐ戦いは本職」との事。
深海棲艦を嬲って遊ぶ、悪趣味の持ち主。
矢矧(3-7函)
神通の親友2号。責任感が強く重巡を差し置いて第7護衛隊の水雷部隊を任される事も。
元霧島の部下であり、対空戦闘に造詣が深い。
夕張(3-7函)
元霧島の部下かつ、現職の防衛技官。
新型装備のソーナーを所有しており、艦隊の対潜主力である。
飛鷹(3-7函)
元霧島の部下。
徹底したリアリストであり、自他に厳しく艦隊の規律を重んじる。
護衛艦「じゅんよう」に乗りたがらない。
伊58(3-4S旗)
素性不明。陸に居る時は絵画を趣味としており、第4潜水隊のエンブレムをデザインした。
戦闘能力、戦術理解力ともに第3護衛隊群の中では高く、彼女の存在は作戦を円滑に進める起因となる。
伊19(3-4S)
素性不明。趣味は一人カラオケ。
自称戦艦キラー。ロングレンジからの雷撃を得意とする。
伊401(3-4S)
いっつも泳いでんなコイツ(小並感)
陸に居る方が珍しいとの事だが、そのおかげか海象に関する知識が豊富。
勿論、雷撃もそつなくこなす器用な艦娘。
霧島(大防旗)
大島を守護する大湊の重鎮。激戦地に身を置く事が多く、負傷が絶えない。
砲撃は正確無比、胆力は長門以上。現に大湊は今川派と霧島派で分かれている。
ドのつく近眼。
青葉(大防)
霧島の直衛を勤める。激戦地に身を起きながら、記録写真を取り続けている。
曰く「いつ沈むか分からないから、生きた証を残したい」との事。
佐世保から転属してきた艦娘で、かつては武蔵の直衛を勤めた。
由良(大防)
対潜を勤める。神通に匹敵する実力を持ち、対潜能力にいたっては神通を遥かに凌駕する。
夜戦は得意でない模様。
長波(大防)
大島では由良の補佐を勤める。龍驤の教え子。
ややぶっきらぼうだが、思い切りがよく指揮官向き。
秋津洲(大防)
大島の補給を担当している輸送係。自身が戦闘では役に立たない事を悔やんでいる。
明石(大防)
現職の防衛技官。緊急修理能力を持つため、工廠を持たない大島での修理業務に従事している。
本来は禁止されているがある技官と恋仲で、本名を教えてしまった。
摩耶(余防旗)
余市を防衛する際に、対空指揮を執りつつも対艦戦闘も行う戦闘のプロフェッショナル。
性格や言葉遣いは苛烈だが、情愛にあふれた人物。
鳥海(余防)
戦闘時のポジションは摩耶同様。やや対艦寄り。
誤解を受けがちな摩耶のフォロー役。
北上(余防)
余市の切り札1号。
一撃離脱を信条としており、逃げ足が速い上に雷撃は必中を豪語する。
大井(余防)
余市の切り札2号。
運用は北上と同様だが、立ち回りはやや北上と比べて慎重。
元FTG。
木曾(余防)
余市の切り札3号。
摩耶の親友。北上や大井よりもオフェンス寄りで、摩耶や鳥海らと同じ戦線に立つことが多い。
今のところ余市での深海棲艦撃破数は最多。
今川直海(3群司)
艦娘の第3護衛隊群司令でありながら、現職の海上自衛官であり階級は1佐。
かつては長門であったが、武蔵を原型とした戦艦水鬼との交戦の結果、撃破するも目を負傷。
完全な修理が不能と判断され、艦娘を退役したが目に後遺症を抱えてしまい、現在もあまり目が見えていない。
クロスロードで目を焼かれたなどと冗談めいた事を言うが、この事実を知るのは大淀のみであり、他の艦娘達からは砲炎が原因で目を患ったと思われている。
年齢42歳。
南沢幸成(防技)
工作部に所属する防衛技官。明石と恋仲。
艦娘の艤装ならび深海棲艦の生態について造詣が深い。
大湊に来る前は、新型艤装などの開発研究に携わっており、現在夕張が装備しているOQR-5という最新鋭ソーナーを艦娘用にスケールダウンした張本人である。
年齢31歳。
舞立明乃(2群司)
艦娘の第2護衛隊群司令。現職海上自衛官であり今川同様1佐。佐世保の人間。
元金剛。内面的には苛烈で、豪胆らしく武蔵撃沈後のバラバラになった第6護衛隊旗艦をまとめ上げた。
今川が単独で武蔵を沈めに向かっていた際、第2護衛隊を一時的に第6護衛隊指揮下に編入、別働してきた深海棲艦の大艦隊を撃退したが、その際の負傷で右目と右肘先、左膝下を喪い、修繕不能判定を出される。
後にその負傷が原因で艦娘を除籍するが、そのまま第2護衛隊の司令の座についた。深海棲艦を圧倒する力を欲しており、各地方隊から有能な艦娘を引き抜きに奔走しているようだ。
現在41歳。
現王園奈央子(故人)
非公開。
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