二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 艦これ In The End of Deeper Sea
- 日時: 2016/04/06 00:42
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。
結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。
えぇ、ただのお遊びです。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.1 )
- 日時: 2016/07/25 23:19
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
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1.海の篝火
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2.(K)nightmare
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3.Crazy Diamond
>>32 >>33
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.2 )
- 日時: 2016/04/06 16:39
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: iqzIP66W)
暗い、ただただ暗い海原を彼女達は往く。先頭を切る彼女は、鉢金から伸びるインカムを口元まで手繰り寄せ、静かな口調で語りかけるようにボソボソと呟く。
「此方、第3護衛隊旗艦神通。応答を願います」
「——此方、同隊日向。戦況は芳しくない。制空権は維持しているが、何分敵の数が多い。至急、合流を」
「了解しました、なんとか持ちこたえて下さい」
「あぁ……。——伊勢共々航空戦艦の真の力、見せてやるさ」
「御武運を——! 」
静かに、しかし強くインカムの向こう側の日向に語りかける。日向から返答こそない物の、耳を劈くような砲声が鳴り響く。突発的にインカムの電源を切り、小さく溜息を吐いた。インカムを切る暇もなく、深海棲艦に砲撃を浴びせる必要があったのだろう。
「神通? どうかしました? 」
「日向さんは……、遠慮がない人ですね」
「……まぁ、そうですね」
神通が何を言いたいのか察しが付かないが、適当な相槌をついて眼鏡についた水滴を払う。戦闘中はコンタクトにするべきだろうか、と考えながら彼女は艤装に取り付けた10cm連装高角砲を仰角67.5°に設定し、照明弾を放つ。真正面に一発、北西に一発。更に仰角を30°に設定しなおし、更に遠くに一発放つ。周囲は明るく照らされ、視界の確保が容易となった。
「平舘海峡まで入ってくるとは考え難いですが、視界を取っておくのは定石でしょう? 」
「……筑摩さん、夜偵を」
「もう飛んでますよ。ほら」
筑摩と呼ばれた艦娘は東の空に向けて指を差す。神通や、大淀の目には何も写らない。暗い空に暗い機体は見えないようだ。
「飛んでるっぽい? 」
「飛んでるかも、です」
神通達の後ろを往く艦娘達は、目を細めながら言う。片方は海峡を吹き抜ける風にマフラーが靡き、何処と無くそわそわとした落ち着きの無さを感じさせ、もう片方はややおどおどしたような表情で暗闇を見つめている。
「高波。見えますか? 」
「見えるかもです」
「見えてるっぽい」
後ろで声を揃えて見えたと言い張る艦娘達に、老いたかなと苦笑いを浮かべつつ神通は暗闇を睨み付ける。あと30分も走れば平舘海峡を抜け、津軽海峡へと入る。そこから最大戦速35ktで航行したとしても、軽く見積もって1時間を切れるか切れないかだろう。それまで日向達が戦線を維持出来れば良いのだが、と思いこそしたものの、悩む暇があれば兎に角急ぐべきだと、自分に言い聞かせていた。
敵の数は多い。後方に布陣する戦艦ル級1隻、重巡リ級2隻、軽巡ト級1隻、駆逐ロ級5隻からなる計9隻の機動艦隊は絶え間なく攻撃を浴びせ続けて来ている。猛り狂う波間を走りながら攻撃を遣り過ごす日向の顔色には焦りが見え始めていた。ル級及びリ級までの距離は大凡15km弱、主砲は充分に届く距離である。だが、今この海象下で砲撃を行えば当たらない可能性が高くなる。資源に限りはあり、特に弾薬を使い尽くせば後の戦闘が出来なくなってしまう。無駄な砲撃は避けたい所である。それに加え、自分は深海棲艦のように「沈むための戦い」を挑んでいる訳ではない。後先を考えなければ、彼等と同じ「畜生」に身を窶してしまうだろう。それを日向の矜持が許す事はない。
「日向、顔怖いよー? 」
「伊勢、軽口を叩くんじゃない」
「もうじき大湊から神通達が来る。もう少し踏ん張ろうじゃないの? 飛鷹とあきつ丸の航空隊が制空権を取ってくれてるんだし、そんなに気にするような状況じゃないよ」
「まぁ、そうだな。エンガノと比べたらこの程度遊びか……」
飛んでくるのは砲弾のみ。駆逐艦や巡洋艦の魚雷は航跡が見やすく、航行速度も決して早いとは言えず避けやすい。現代の魚雷のように発射されてから、潜行し船体の真下で爆発する長魚雷のような代物ではなく、時代遅れな魚雷だ。更には上からの脅威もない、気を張り続ければエンガノ岬沖の戦いよりも遥かに楽なのだ。
「凌ぐ戦いは我々の本領だったな」
「そういう事よ。——ねぇ、日向。凌ぐついでにちょっと意地を見せてみない? 」
「コイツで遊んで来るか」
そう日向は薄っすらと笑みを浮かべながら言う。展開された艤装から次々と水上機が飛び立ち、高度を上げてゆく。そして最後が飛び立つか、飛び立たないかで腰に差した軍刀を引き抜く。
「鈍らになっていると思ったが……。————まだ斬れそうだ」
暗闇に浮かぶ月の明かりが軍刀の刀身を照らす。日向の表情に乏しい顔がそこに写った瞬間、彼女は波間を越えて駆け出した。その後ろを続く伊勢は水上機を放つ事なく、軍刀も抜かずにニヤニヤした楽しげな笑みを浮かべて、うねる波へと乗り上げ、日向よりも高い位置から敵を見据える。
「此方伊勢、飛鷹。これからシーカーでリ級とト級に照準を合わせるわ。同じタイミングで攻撃出来る? 」
「——攻撃隊は既に敵艦隊上空に配備済みよ。いつでもいけるわ」
「バイパーゼロで連中をグラウンドゼロまで吹っ飛ばしてやって頂戴」
「——了解よ」
バイパーゼロ、平成のゼロ戦その名を語った伊勢であったが、リ級とト級の頭上を飛び往くのは多数の彗星一二型、そして僅かな紫電改だった。現代に生きる彼女の微かな遊び心だったのだろう。それらから視線を外すなり、単眼鏡のようなシーカーを取り出し、リ級とト級の姿をその視界に納める。標的を照準し終えると同時に波間へ身を隠す。彼女の航跡を目掛け、複数の砲弾が飛び交うがそれは水柱を挙げるだけに過ぎなかった。
飛び交う砲弾、水面下を走る魚雷を視界に納めながら、日向は口元を歪めた。それは苦悶から来る表情ではなく、戦いに身を置く愉悦から来る代物だった。脳裏に過ぎるレイテ沖海戦や、北号作戦の記憶。あれは面白い物だった、今の何十倍もの攻撃を受けながら、一撃も当てる事が出来ず、躍起になって真っ赤になった敵艦載機のパイロットの顔が今でもありありと思い出せる。
「——さて」
腰にマウントされた35.6cm連装砲を1基だけ僅かに動かし、身の丈よりも遥かに高い波を睨み付ける。波に乗り、攻撃を凌ぎながらの照準、艦の姿を保っていたならば波を切り裂き、舵を取りながら砲撃を加えるのだが今は人の身、波を切裂くだけの質量を持ち合わせていない。不便だとは思いながらも艦の時とはまた違う、海との向き合い方を知る事が出来たのはある種の幸福だったのかも知れない。波に乗り上げ、視界に入った深海棲艦はト級だった。日向が接近していたのは既に知っていたのだろう乗り上げた先の波の上で152mm連装砲を構え、日向へと向けていた。533mm魚雷の航跡はなく、まだ撃っていない。ならば、魚雷を撃たせる訳にはいかない。その事からト級と向かって右側へと回り込む。視界の外へ出られてはならないとト級も日向に向き合おうとするが、上半身を回した瞬間、軍刀がト級の頭部へと減り込んでゆく。耳触りな悲鳴を上げながら、魚雷管を日向へと向ける物の、それを航空甲板で叩き払い、中央の頭部へと35.6cm連装砲の砲身を突っ込む。砲身を噛み切ろうと口が開閉するものの、噛み切る事が出来ず苦悶に満ちた悲鳴を挙げるだけだった。
「……寝てろ」
小さく語るように言うなり、砲弾がト級の頭部を穿ち、爆ぜる。同時に遠くで火柱と轟音が上がっていた。耳を劈くようなそれに顔を顰めながら、その方向を見遣れば複数の攻撃機達が半ば一方的にル級とリ級を蹂躙している様が見られた。まるで昔の自分たちを見ているようなそれに、一抹の不快感を抱きはしたが戦場に置いて、敵が減るのはこの上なく良い事だ。
「——此方、第3護衛隊日向。飛鷹航空隊がル級及びリ級を攻撃中。決着は付きそうだが、第二波の可能性はなきしにもあらず。急いでくれ。また、ロ級の姿が見えない。遭遇したら適宜、殲滅を頼む」
神通からの応答を待たず、一方的にインカムを切るなり、燃え上がる夜の海に目を細めた。この光りが太陽で、夜明けだったら良いのだが、と日向は思いながら軍刀を納めた。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.3 )
- 日時: 2016/04/06 20:44
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
水平線が赤く染まっている。まるで自分達を戦地へ誘う篝火のようなそれに視線を奪われていた。荒れ狂う海の黒に、炎の赤が映え、戦うための艦としての闘争心に似た何かが沸々と沸き立っている事に一種の嫌悪感を覚えながら、身の丈の倍はありそうな波の上へと乗り上げた。海鳥は夜だというのに、餌を捜し求め波間を漂う。眼前の海には海鳥以外居らず、まるで場違いな自分達を此処から去れと言わんばかりに海鳥が視線を向けていた。
「……神通さん、忘れましたか? 私達にされた教育を」
「そうでしたね」
耳元で静かに落ち着いた様子で囁く筑摩はにやついた笑みを浮かべていた。恐らくは夜偵から海中に何かが潜んでいるなどと、そういった旨の情報を受けていたのだろう。意地悪く、それが何なのかを言おうとはしなかったが、神通は筑摩の囁きから一つの事柄を思い出したのだった。
海鳥は空から魚群を追い、大勢を以ってして捕食を行う。海の中に見慣れない蠢く何かが居れば、魚群は分散し、必然的に海鳥達は分散した魚群を追う。そしてそこには確かに存在したのだ、海鳥の群れの裂け目が。それは少しずつ前進し、自分達に近寄ってきている。
「夕立、高波は爆雷投下用意、大淀は視界の確保を。筑摩は砲撃戦の用意を」
「了解」
波に身を翻しながら、いつになく落ち着き払った口調で夕立は静かに言葉を発した。夕立に肩を押され、促されるように高波は東へと走り、夕立は西へと向かってゆく。彼女達の行き先と同じ方向の空へと飛び往く照明弾は辺りを照らし、その光りの中を夜偵が突っ切って行く。
「たった五隻の輪陣形ですが、やらないよりマシという物でしょう」
防空目的ではない、海中から襲来してくる可能性がある深海棲艦を迎撃するための陣形。海面に姿を現さないのであれば、駆逐艦及び軽巡が燻り出し、上がった所を陣、中央に控えた筑摩が叩く算段である。
「艦隊行動、各艦は筑摩を中心とし、回転運動を行え。ペースは乱すな」
「盆踊りっぽい」
ヘッドセットの向こう側から聞こえた夕立の盆踊りという言葉はまさしくだろう。前進する筑摩の動きに合わせ、一定の距離を保ったまま少しずつ回転してゆく。
「航空巡洋艦じゃなくてDE233だったら良かったんですけどね」
「利根さんが私達の末の妹になるのですね」
「それよりも阿武隈が一番上の姉ですよ」
「……成り立たないかもです」
「後でチクるっぽい。————神通さん、雷跡確認。爆雷投下いきます」
夕立が高波を恫喝すると、ほぼ同時に放たれた爆雷。雷跡の方角から判断した位置へと落としたのだろう。轟音を響かせ、暗い海に水柱が上がる。
「VLA欲しいっぽいー」
燻り出すための爆雷で夕立は深海棲艦を沈める気で居たのだろう。全く当たらない事を悔やんでいるようだった。潜水艦型の深海棲艦ならば兎も角、通常の水上艦型の深海棲艦には効果はないという事を覚えていないようだ。
「……深度90、50、急速浮上。————来ます! 」
筑摩の後方で探深儀を駆動させていた大淀が大声を張り上げる。ヘッドセット越しに響く、その声に神通は顔を顰めながら盛り上がる海面を見据え、14cm連装砲を構え海面に向けた。憎悪にも似たような深海棲艦に対する感情が少しずつ昂ぶって行く。もし今海面が静かならば、海面に映る自分は瞳孔が開き、おぞましい様相を呈している事だろう。それもどちらが深海棲艦なのか区別が付け難い程に。
「待っていましたよ」
静かな語気に相反し、口元が歪む。その瞬間、何かが海面から飛び出し神通の前へと躍り出で、耳触りな奇声を発する。まるで下顎を削がれた頭蓋骨のようなそれは、日向の情報とは異なる。駆逐ロ級ではなく、駆逐ニ級なのだ。それらを筆頭に次々に浮上してくる駆逐ハ級の群れ。戦いの中で進化したのだろうか、60kmもない距離を航行する短い時間の中で彼等が進化したのならば、異常な事態が起きているのは言うまでもないだろう。
「どれでも良いです。一体鹵獲しましょう。それ以外は————皆殺しよ」
呟くようにインカムへと言い放つ。誰一人とせず了解の意は唱えなかった、砲声が了解の意なのだ。海面を叩き潰すように圧しながら、火の弾が真っ直ぐな軌道を描きながら飛ぶ。それは神通の傍らを掠め、一体、また一体と深海棲艦の身体を穿ち、青い液体を撒き散らしながら、その形を壊していく。
筑摩と大淀のそれは現代艦が持つFCSにも引けを取らない精度であり、その砲撃に流石と、感嘆しつつも目の前のニ級を睨み付けながら、14cm連装砲を向ける。射線からその身を外すように海面を滑り、一発、また一発と魚雷を走らせながら動くその様子は駆逐艦の艦娘の挙動と同じである。その後を追えば、5インチ砲を牽制のようにして撃ち、波間にその身を隠してしまう。小癪ではあるが、正しい戦闘の仕方。であるならば、自分は邪道を取るしかないのだろう。魚雷発射管から三発魚雷を取り外し、右手に二発、左手に一発を持ち、発射管を予め背後に向け、海面を走る。敵味方関係なく、飛び交う砲撃、水面を走る雷跡が神通の闘争心を刺激し、コロンバンガラの記憶が少しずつ蘇り、艦の記憶が戦え、戦えと語りかけてくるのだ。
「夕立、高波。続きなさい」
インカムの向こう側からは応答がない。その代わりに後方からは小口径砲の輝度の低い、砲弾が初速を保ったまま飛んできている。彼女達に指示は聞こえているのだろう、そして味方への流れ弾を臆する事なく、砲撃を加えてきている。恐れを知らず、戦いに興じる。教育の賜物だ、などと思いながら肩にマウントした探照灯を照射する。これで彼女達の攻撃は精度を増し、雷撃の頻度を上げる事が出来るだろう。代わりに自分は当たらなければ良いだけなのだ。
前も後ろも分からなく程に海原を駈けずり回り、砲撃を、雷撃をトチ狂ったかのように放ち続ける。聴覚は最早、波音と砲声の区別が付かない程に麻痺し、感覚は敏感に研ぎ澄まされつつある。
海面に浮かぶ燃えたそれは深海棲艦の残骸だろう、それを跨ぎながら駆逐ニ級の後を追い続ける。平舘海峡から津軽海峡まで追い出すことが出来れば、それはそれで作戦は成功したも同義。鹵獲はままならないまでも、撃沈せしめる事は容易いだろう。魚雷管を前に向け、手に持った魚雷を投擲する。三本の魚雷は真っ直ぐにしか進まない。雷跡は出ないが、魚雷を発射した事を確認すれば回避行動を取るだろう。避けた先に砲撃を加えつつ、残った魚雷を放つ。単独での波状攻撃となるが、型にはまった行動を取るこの深海棲艦相手には通用する事だろう。
「———沈みなさいッ!」
波に乗り上げながら吼え、その波から降りた瞬間だった。数発の魚雷が発射管から飛び出ると同時に神通はその身を崩し、海中へと没して行く。何が起きたか理解は及ばない。ただ言える事は何かに引きずり込まれているという事だけだ。視線の先には駆逐ロ級の姿。巨大な口が神通の左足を噛み潰し、海中に引き込んでいたのだ。牙は左足を確実に破壊している。駆逐二級に誘い込まれたのだろう。攻撃で沈められないのであれば、物理的に無理やり引き込むだけである。単純ながら明確な攻撃であったが、それを思いつくあたり深海棲艦にも組織で戦闘するだけの知能があるのだろうと感心していたが、はと我に返り右足の魚雷発射管から一発の魚雷を手に取る。狙う先は自分の足を噛んでいる、駆逐ロ級。左足ごと魚雷を見舞えば、確実にそれを沈める事が出来るだろう。死ぬ訳ではないのだ、左足程度安い。それに治る。そう言い聞かせながら神通は魚雷を手放し、身を引き裂くような衝撃と、激痛に聞こえ得ぬ叫びを挙げていた。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.4 )
- 日時: 2016/04/07 23:30
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
車椅子のハンドリムを押しながら、神通は岸壁を進む。案の定、左足は吹き飛び、思ったよりも炸薬量が多かったのか、右足にも大火傷を負い、一部は肉が引き剥がされてしまった。浮かんできた時は両足がないと誤解されていたらしい。本来であれば、既に入渠し治療を施されているはずなのだが、どうにも第7護衛隊の旗艦を勤める足柄と彼女に随伴した不知火が瀕死寸前の大破をし、大島に配置されている警戒監視隊の面々も、明石では足りないらしく由良と長波が大湊で緊急の入渠を行う事から、意識を保っていられる神通の緊急性は低いと判断されたようだ。
「おー、神通。だいぶ無茶したようやなぁ」
「えぇ、まさか直接海中に引っ張られると思わなくて……。つい……」
「つい……、で自分の足ふっ飛ばす奴がおるかぁ? 」
似非関西弁で話す赤い服が特徴的な龍驤が海上訓練指導隊(FTG)の建屋から、身を乗り出しながらにこやかな笑みを浮かべて話しかけてくる。彼女も第7護衛隊に所属する艦娘であり、歴戦の軽空母として名を馳せている。そんな彼女も、負傷したらしく腕を三角巾で吊るしていた。折れたのだろう。
「7護隊も手酷くやられたようですね」
「まーなぁー? 足柄が途中でブチ切れてしもうてなぁ。不知火と川内引き連れて夜戦敢行したもんだから、ウチ等の居場所バレて、ばかすか攻撃されてもうて」
大げさなリアクションを取りながら、龍驤は話す。恐らく彼女は至近弾でも浴びたのだろう。夜間の戦闘に従事出来ない軽空母からしたら、一方的に砲撃を食らうというのは生きた心地がしなかっただろう。それでも気丈に振舞っていられるのは流石というべきか。
「敵方はどれ程? 」
「戦艦タ級、ル級が一隻ずつに、潜水カ級が二隻、軽巡ヘ級が一隻、駆逐ハ級が四隻やなぁ」
「大所帯で来たんですね…」
「せやで。夜の前までにカ級とハ級は無力化したんやけど、戦艦が後詰で来よってからに……」
巡洋艦と駆逐艦、潜水艦程度であれば通常の戦闘で済んだのだろうが、戦艦が来たのが今の被害の原因のようだ。
「霧島が居れば良かったんやけどねぇ」
「大島と余市も今激戦地ですからね」
大島は現在、津軽海峡の西口を警備するために港湾設備が整えられ、警戒監視任務に従事する艦娘達が常駐している。そこには元々の第7護衛隊の面々が配備されている。現在の第7護衛隊は大湊のチョークポイントを護衛するため、龍驤を除き殆どが舞鶴や呉から貸与された面々である。なお、防空巡洋艦である摩耶や鳥海、重雷装艦である北上や大井、木曾などは余市に即応戦力として配備、同時に陸上に多数の装備を配置し、防御の要としている。
「ウチ等はまだマシやで。警戒区域が津軽海峡の東と西。精々出ても道東沖の野付水道、根室海峡までや。連中、日本海から宗谷海峡。果てはオホーツク海まで出なきゃあかん。あんな荒れた海出るなんてウチ嫌や」
「艦橋つぶれちゃいますからね」
「……神通、それは言わんお約束やで。まぁ、なんやその。ウチも仕事戻るから、あんま無理せぇんでゆっくり休み」
「えぇ、そうさせてもらいます。では、失礼します」
「あいあい」
ひらひらと手を振るなり、龍驤は身を翻し建屋の中に姿を消した。艦娘をしながらFTGの業務までこなすのだから、大した物だ。二水戦の頃の自分を思い出すが、龍驤はそこまで鬼のような扱きをしないらしい。比べ物にならない程、彼女は教え方が上手いのだろう。習性として叩き込む訓練ではなく、頭で理解させ体現させる訓練を出来るのだから見習いたい物である。そう考えながらハンドリムを押してゆっくりと、進んで行く。造修補給所の前を通り過ぎ、工作部の前で一息つく。錆びの浮いた建屋は、自らが艦であった頃は美しく、無骨に光り輝いていた。それが今や錆びに塗れ、時の流れを感じざるを得なかった。その時が流れる間にも、自身と同じ名を冠した護衛艦や、夕立の名を冠した護衛艦、更には自分が知らない「あさぎり」をネームシップとした通称「きりクラス」が大湊で過ごしていたそうだが、彼女達の姿は最早なく、たかなみ型護衛艦、通称「なみクラス」が第一突堤に所狭しと四隻も停泊している。何隻かは見慣れない「すおう」や「YDT2号」といった本当に役に立っているか疑問を抱く船も停泊していたが。
「立派で綺麗な艦だよねー」
「えぇ、本当に。90年前、彼等が私達の味方だったら勝てたかも知れませんね」
「ホントだよねー。ま、無い物強請りしたって過去は変わんないよ。ところで足は大丈夫? 」
「この通りピンピンしてますよ」
膝掛けの下には、左足が存在していなかったが穏やかな笑みを浮かべながら、辛うじて動く右足を微かに動かし、健在をアピールする。それ見るなり神通に声を掛けてきた川内は人懐こい笑みを浮かべて、ベンチに腰を下ろした。横目で彼女の姿を視界に捉えれば、右手が削ぎ落とされ巻かれた包帯には薄っすらと血が滲んでいた。
「無茶をしたようですね……」
「まぁね。昨晩は同時多発的に深海棲艦が攻撃仕掛けてきたみたいでね。無事なのは余市の連中だけ」
「大島も由良と長波がだいぶやられたそうですね」
「それ以外にも霧島が右目吹っ飛ばされたらしいよー? 明石が付きっ切りで治してるらしいけど」
「……この状態で第二波攻撃が発動されたら、持ちこたえるのは厳しいかも知れませんね」
「余市の防備隊と、大島の残存戦力に、函館の分遣隊を総動員して、大湊の7護隊と3護隊を再編成。チョークポイントの死守って所かなぁ」
「4潜隊も早く呉から帰ってきて欲しいものですが」
「ホントだよねー」
彼女達は他愛もない会話を繰り広げ、現状を整理しつつも、まだ迫っていない危機に対する不安を吐露する。ある者は杞憂と嘲るであろうが、仮定の話をし覚悟を決めておくのも必要な事象なのだ。それはミッドウェーで沈んだ四隻の空母達が、遥か昔にそうあれと反面教師となりそう教えてくれている。
「嫌な予感が当たらなければ良いのですが……」
そう語る神通の顔には不安はなく、覚悟を定めたような引き締まった表情を浮かべていた。たかが足がなくなっただけ、砲と魚雷があれば幾らでも戦える。例えその身体を真っ二つに引き裂かれようともだ。彼女はそのような事を考えていても不思議ではない。そんな神通の表情を見遣りながら、変わってないと川内は呆れたような苦笑いを浮かべていた。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.5 )
- 日時: 2016/04/10 13:45
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
抜き身の軍刀を見つめながら、日向は溜息を吐く。刀身は微かに歪み、刃毀れを起こしていた。昨晩の戦いの中で久々に使ったのが原因だったのだろう。状態維持の為には普段から、使う必要があるのだがそれを怠ったが故のツケを清算する羽目になってしまった、明日は我が身と肝に命じた日向は鞘に軍刀を納め、窓から外を見遣る。町並みは昨日、深海棲艦の襲撃があったとは信じられない程に穏やかで、人々は日常に追われている。
「伊勢……。私達が負けていたら、此処は地獄絵図だったのだろうな」
「そうだろうねー。何人も死ぬ事になっただろうから。ま、良いじゃない? 勝ったんだしさ」
日向とは逆の方向の窓を見ながら、伊勢は言う。彼女の視界には昨日戦った海が広がっている。深海棲艦から攻撃を受けた、護衛艦「きよなみ」が艦首を失い、VLS区画と給弾室を露わにしながら曳船(以下YT)に曳航されながら、近隣の造船所へと向かっている。
「きよなみは何人死んだか聞いているか」
「さぁね。元々VLSに居る一分隊員って少ないし、給弾室には人配置してないし」
「精々4、5人という所か。——いや、人死にが出ない事に勝るものはないのだが」
実のところ、深海棲艦とのファーストコンタクトを果たしたのは「きよなみ」であった。津軽海峡の東側から対潜網を潜り抜け、津軽海峡に侵入した深海棲艦を探知し、戦闘行動を取っていたのだ。彼等が居なければ、対処が遅れていた可能性があった。現に彼等は函館に襲来するであろう、空母オ級を2体撃沈している。
「きよなみ」は深海棲艦という脅威が発生したが為に、やまぐも型護衛艦以降の新型DDKとして建造、就役した対潜護衛艦であったが損耗率は高く、「きよなみ」に至っては就役から8年余りの間に大規模な修理を3度も受けていた。
ネームシップである「ふじなみ」と二番艦の「はやなみ」は深海棲艦の手によって、周防灘と浦賀水道でそれぞれ修復不能な程に大破させられており、既に除籍してしまっている。幸いにも死傷者は少なく、自力で帰港したらしいが、横須賀と呉に配備された艦娘達は何をしているのかと大湊では相当物議を醸した。
「あれだけやられたら、私等も呉とか横須賀の連中の事言えないねぇ」
「……不本意ながらまったくだ」
町から視線を外し「きよなみ」を見据えながら、日向は返事を返す。本来であれば自分達が早急に対処し、護衛艦の損耗は避けるべきだったのだろうが、それが出来なかった自分達が情けなく思えてしまう。
「あぁ、日向此処に居たのね」
白いブレザーに袴という奇妙な出で立ちをした黒髪の女が声を掛ける。
「飛鷹か。何だ? 」
「損害状況をまとめた書類よ。確認して。マズいわ」
飛鷹から受け取った書類を目に通すと第3護衛隊並び第7護衛隊と、大島警戒監視隊の被害状況がまとめられていた。第3護衛隊は神通が左足を欠損、右足を損傷。第7護衛隊では足柄が全身に重度の火傷を負い、不知火も同様の負傷している。また川内が左手を失ってしまっていた。大島警戒監視隊に至っては霧島が右目を“喪失”、由良ならび長波が複数箇所の内臓破裂という被害を被っているとの事だった。
一通り読み終えると、苦い顔をしながら日向は書類を伊勢に手渡す。伊勢もそれを受け取り、ざっと目を通すなりうげーっと大げさかつ、軽率な反応を取ってみせる。
「お前、状況分かってるのか……?」
「分かってるよー? あんまり気にしちゃいけないからね。なるようにしかならないんだもの」
伊勢の言う事は尤もであるが、最悪の状況を想定するのは必要な事であり、蔑ろにするような事はあってはならない。一航戦や二航戦、コロンバンガラでニ水戦に叩きのめされたエインスワースと同じ轍を歩む事は許されないのだ。
「危機的状況だという事を忘れるな」
「此処で私達が敗れて、大湊まで侵攻を許したらそれで終いだからねぇ」
「補充、増援があれば助かるのだが、そうともいかんだろうな」
第二波攻撃が今夜発生すれば、瓦解しかねないだろう。如何に負けない戦いを行うか、策を講じる必要があるだろう、と難しい顔しながら頭を悩ませ始めた日向を見つめ、伊勢は少し憂いを帯びた表情を浮かべ、また「きよなみ」に視線を向けた。
月は厭に光り輝き、静かな水面にその光りを照り返す。静かな海を見遣りながら霧島は溜息を吐く。失われた右目は明石を以ってしても未だ治り切らず、ガーゼで覆われたそこには微かに血が滲んでいた。
「由良と長波は大丈夫でしょうか……」
「……なるようにしかならないわよ? 」
傍らで不安げに振舞う明石を、励ますような事もせずに霧島は思いの丈を呟いた。彼女は正直だ。此処を死ぬまで守れ、守ったら死んでもいい。そう部下達には教育を徹底させていた。それが故に、長波と由良は命を投げ打ち、大島の防衛に尽力したのだ。彼女達は大島を守った、死ぬ権利は既に得たのだ。
「誰が生きる、死ぬは関係ないわ。私達は此処を守るだけ。……明石、逃げたいなら逃げてもいいわよ? 」
「いえ、最期まで此処に居させてもらいます。死ぬまで私は治し続ける運命ですから」
「そう。心強いわ」
良い部下を持ったと薄っすらと笑みを浮かべながら、霧島は厭に静かな海を見据えた。浜辺では艦の時代にソロモンの狼と呼ばれた青葉が、霧島と同じ方向を睨み付けていた。彼女は意気軒昂といった様子だ。傍らの巻雲はいつものようにオロオロとした様子ではあるが、問題はないだろう。平常運転だ。
「——我等幸福なる少数は、兄弟の群れである。何故ならば、私と共に血を見る者は私の兄弟となるからである、ってね」
「……シェイクスピアですか」
「えぇ、私達は皆血を流したわ。だからもう姉妹みたいなものよ。一緒に戦って、一緒に守ってね」
「ソ連と戦った士魂部隊もこんな気分だったんでしょうか」
「近しい物はあったかも知れないわね」
「ですけど正直、“土塊”にはなりたくないですね」
「いいえ、私達は“藻屑”よ」
霧島は縁起でもない言葉を吐いて、にこやかに笑ってみせた。笑えない冗談だと霧島の肩を明石は軽く叩いて、笑みを浮かべる。こうして笑いあえるのもこれが最後かも知れない、ならば笑っておこう。そう胸に刻みながら明石も霧島や、青葉同様海を睨み付けていた。
「工作部に戻れればいいのですが……」
「南沢技官も寂しがってるんじゃないかしら?」
「なっ——、あの人はそういう人じゃないですから!」
「はいはい、からかって御免なさいね」
顔を赤らめながら憤る明石を軽く往なしながら、霧島は小さく笑う。彼女には思い人が居る、決して死なせてはならない。もし彼女を死なせてしまったらば、その責任を取り自分も沈もう。そんな事を霧島は考えていた。それが現実に対する逃避だと知りながら。
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