二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

艦これ In The End of Deeper Sea
日時: 2016/04/06 00:42
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。

結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。

えぇ、ただのお遊びです。

Page:1 2 3 4 5 6 7



Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.22 )
日時: 2016/06/06 00:04
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 海原を駆ける。白波一つなく太陽の照り返しで、青を失った海原を。「たつた」のLINK16と情報を同期、共有していたが相変わらず深海棲艦を探知した旨の情報はなく、一瞬海中からプロペラの振動音を聴知したが、やや航路から外れてしまった第4潜水隊の伊19が音の発生源であった。

「ここいらはいっつも荒れてんだけどなぁ」
「……パナマ奪還を思い出すな」
「あそこら辺も普段、海静かだからな」

 どこか昔話に耽るような摩耶と木曾であった。この二人と第4潜水隊はアメリカの艦娘達とパナマ運河の奪還作戦に参加していた。摩耶と木曾は水上打撃に従事、第4潜水隊は懐まで潜り込み、浮上後の爆撃を主任務としており、日米の共同作戦によりパナマ運河は無事奪還出来ていた。

「へー、あたし達からしたら波がないなんて信じられないよねー」
「波に抑え付けられる事だってありますからね」
「90年前に"飛行機じゃない神風"が吹いてくれりゃ良かったんだがな」
 
 艦娘達には元々、艦の記憶を引き継ぐ者も居るが多くはその記憶を引き継ぐ事がない。大湊でそういった記憶を持っていたのは川内、日向程度にとどまる。それが故に艦娘達には戦闘に関する分野のみならず、戦史教育も施している。摩耶の言う"飛行機じゃない神風"が吹いていたのなら、東京大空襲、長崎、広島への原爆投下は避けられなかったが、荒天が原因で戦艦アイオワやミズーリ等による室蘭砲撃は避けられた可能性はあった。そんな詮無い事を口走る。

「摩耶、90年も昔の話だなんて。お隣みたいで見苦しいわよ」
「そいつもそうか。木曾。西部方面隊と"護衛艦「さがみ」"の事もあと一世紀は言われ続けるんじゃねーか?」
「人民解放軍の13000人規模の師団全滅、揚陸艦3隻、随伴駆逐艦3隻、空母1隻撃沈だからな。1世紀じゃ利かないぜ? 旧軍が南京で正規兵を殺した数より多いだろ」
「ところで木曾ー、捕虜はいたのかい?」
「昔の事なんて覚えてねぇな」

 如何にも含みのある言葉を木曾は吐く。北上はうげーと大袈裟なリアクションを取ってみせ、摩耶は苦笑いを浮かべていた。文字通り全滅させてしまったのだ。護衛艦「さがみ」による巡航ミサイル並びに新型設計された177mm速射砲による対地砲撃、更には通信を阻害する電波妨害装置、EMPなどをフル活用した結果、投降の意思を示させなかったというのが正しい。佐渡島が深海棲艦の発生源になってもおかしくない程に、艦が沈み、人が死んでいる場所に彼女達はしてしまったのだ。

「ホント、"さがみ"は凄いんだぜ? RIMPACでも集積地棲姫撃破してるしな」
「そんな事もあったねぇ。撃破に使った36発、120km先から全弾命中でしょ?」
「大和も真っ青ってな」

 呉の大和が聞いたらなんというだろうか。46cm三連装砲は一撃必殺だとでも言うのだろうか。当たらなければ意味がないのだが。射程圏外から必ず攻撃を命中させる、そんな事が出来る艦娘が存在したらさぞ、心強いだろう。敵を早期発見した上で、従来の艦娘達の交戦距離に入る前に深海棲艦を減耗させられる。とても理想的な存在だ。

「……しっかし、レニングラード共いねぇな」

 自身の電探にも、「たつた」のLINK16からも彼女達の位置情報が同期されない。既に海馬島まで30km、強速15ノットでゆっくりと航行しているがもう1時間足らずで海馬島沖の合流ポイントまで到達してしまう。差し詰めウォッカの飲み過ぎで、ガガーリンよろしく月まで行ってしまったのだろうか。今頃は「神は居なかった」とキマった言葉と共に吐瀉物を撒き散らしている可能性がある。

「まぁ、ロシアだからねー。あいつ等は午前か、午後しかないんだ」

 ルーズすぎる時間管理の存在を知ってか、北上は何処か遠い目をしていた。かつて北上はまだ親交がなかった頃に、ロシア艦娘の監視任務に就いた事があり、彼女達に張り付いて行動していたが傍受した情報、命令は相当いい加減な物で、大湊では絶対あり得ないようなものだった。そんな事があったためか、北上はロシア艦娘達が使っていた電探の周波数帯を覚えており、それに自身の電探を同調させるも耳に飛び込んでくるのはノイズばかりでレニングラード達の声はない。

「おっかしいなぁ」

 波音に紛れた北上の独り言。それに誰も反応する事もなく、ロシア艦娘達からの応答もなかった。何かがおかしい。不吉な直感に由来する不信感、猜疑心、不安感。そんな物が北上の中に沸々と沸き立つのであった。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.23 )
日時: 2016/06/06 22:30
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 羨ましげに彼女達は水面を睨み付けていた。その瞳は青い光を宿し、伸ばした手は水面を指差す。彼女達が身に纏う装束は赤く、黄色い槌と鎌、そして五芒星が描かれていた。その顔立ちに生気はなく、開かれた口からは呼気すらない。その様相は宛ら、深海棲艦の如く。傍らに沈むはスキットル。それには見慣れた名が刻印されていた。


 海馬島の西側は切り立った断崖絶壁をしており、海の青は厭に深い。まるで何かが潜んで居そうな予感を過ぎらせる。この海にアンノウンが撃墜されたのだ。第4潜水隊が海底を直接探査しながら、水上からはソーナーを照射して海底の残留物を探知しているが、一向に発見されたという報告はない。

「ホントに沈んでるの? 」
「沈んでるはずだ、座標はこの近辺だろ? 」
「というかさぁ、ロシアの連中どこ行ったのさ」

 アンノウンは発見出来ず、ロシア艦娘との合流は適わず、彼女達から応答はない。それは愚か彼女達の母艦となるロシア海軍の艦艇すらレーダーに反応がないのだ。
 
「……撤収を進言するか?」

 何かがある。そう判断し引くのも正解であり、誰も咎める事はないだろう。しかし、摩耶のその言葉は艦隊を煽るために発した言葉であり、それを聞いた木曾は小さく舌打ちをし、悪態を付きながらも海底の探査に勤しんでいた。

「ちょっと、摩耶その言い方はないでしょ?」
「知るかよ。ちょっとイレギュラーな事が起きてるからって、臆病風に吹かれるコイツ等がワリィんだよ」

 鳥海に戒められるも、それを一蹴するなり摩耶は空を睨む。あの空から何かが堕ちたのは確実。それを探しに来たというのに、見つけられない。それは愚か、共に探索する仲間すら見つけられない。

「……探知音聴知。ここから3km先、深度約70m。何かがあるわ」

 静かに語る大井を一瞥し、その方向へと雷巡達はソーナーを照射すれば、確かにそこに何かがあった。潜水艦娘達ではないのは確かだ。彼女達は海馬島南に布陣し、別箇所を探索しているからだ。

「摩耶、潜水隊を呼ぶか?」

 その方向を指差しながら、木曾は進言してくるが妙な不快感が摩耶の中を去来する。彼女達が今、探知したのはアンノウンではない別の何か。そんな気がしてならないのだ。
 喉まで行けと声が出かける。それを飲み込み、摩耶は拳を握り締めていた。その異変に気付いたのか、鳥海は不安げな表情を一瞬だけ浮かべるも、主砲をその方角へと向け見据えていた。

「おいおい、動いてないんだ。あれは深海棲艦じゃないだろ?」
「……艦隊行動。輪形陣を形成しつつ、各艦は後退せよ」

 緊張した面持ちの摩耶を横目で見遣りつつ、木曾は魚雷管を海面に向けつつ形成されつつある輪形陣の先頭へと就く。輪形陣を展開した場合の彼女の定位置であった。気付けば木曾の真下を航行していく、第4潜水隊の面々が一瞬だけソーナーに探知され、伊19の妙に気に障る笑い声を、聴知する事が出来る。

(さてな……)

 恐らくは摩耶が悪い予感を感じ取ったのだろう。臆病風に吹かれて——、と艦隊を煽った彼女であったが、旗艦が何かあると判断したのならばそれは白でも黒とせざるを得ない。尤も摩耶のこの判断は、艦隊を安心させる要因へと帰結する事だろう。異常な状況が重複し、何が起きているか判断しがたい現状、有事に即応出来る状況を形成するのは間違いではない。

「各艦、爆雷投下用意。鳥海はポイントへ砲撃を用意せよ。弾着観測を怠るな」
 
 木曾のソーナーからは伊58が爆雷投下は止してくれ、と非難の声が聴知されたが、それは無視し1発の爆雷を手に取った。北上や大井もそれに倣い、鳥海だけが後方から20cm連装砲の照準を定め、水上機を放つ。気付くと第4潜水隊の面々が、海面から顔だけ出して木曾の様子を見ていた。

「それ間違って落とさないでね!」
「バカ言うんじゃねぇよ」
 
 インカムの向こう側から、摩耶のカウントが聞こえていたが木曾は伊401へと軽口を叩き、緊張などないと薄らと笑みを浮かべる。
 鬼が出るか蛇が出るか、それとも何も起きないか。カウントが10から5となり、5から3となる。そして終ぞ投下の時。爆雷は中空を舞い、海中へと没していく。

「6秒って所だな」

 深度70mであれば、大体それくらいの時間で標的へと到達するだろう。足元の伊401がどうも、戦々恐々とした表情を浮かべていたのは気のせいではない。潜水艦からすれば至近に爆雷が落ちなくても、恐怖なのだ。水圧により外廓を破壊され、バイタルパートにまでダメージが到達すれば浮上すら侭ならない。

 現に木曾が言うように、おおよそ6秒のタイムラグで海面に水柱が上がる。水中に爆音が木霊しているせいで、ソーナーの波形は滅茶苦茶に狂い標的の探知が出来ずに居た。

「各艦、砲戦用意。第4潜水隊は雷撃用意を」
「りょーっかい」
 
 もしあれが浮上してきたならば、雷撃と砲撃を浴びせ飽和攻撃を以ってして、一瞬の間すら与えずに撃破するのみだ。それを為さなければ艦隊に損害が出る可能性がある。あれがもし空中へと飛び立つようであれば、己がそれを撃ち落すまでである。時はソーナーの波形が落ち着いた瞬間だ。
 隙を与えまい。そう考えていた摩耶を海底から見据える者が居た事は、誰も知る由がなかった。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.24 )
日時: 2016/06/12 23:28
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 仄暗い海底から、羨ましげに摩耶を見つめる"それ"は静かに魚雷管を海面へと向けた。1発、2発、3発と魚雷がスクリューから泡を生じさせながら、ゆっくりと海面へと向かっていく。ソーナーは未だ、海中への爆雷投下の影響で魚雷のスクリュー音を聴知出来ずにいた。魚雷はゆっくりとだが、確実に深度を上げていく。60m、40m、20m、10m、5m。それが海面を航走した時、はじめてその雷跡に鳥海が気付いた様子だった。

「……摩耶! 後方に雷跡! 回避をッ!!」

 インカムに叫ぶも、その声は摩耶に届かない。それは愚か、インカム自身が通信出来ずに居るようだった。何者からかECM攻撃を仕掛けられただろう。主砲に俯角を付け、海面を航走する魚雷へと主砲を放つ。夾叉を図り、正確な弾着をなす余裕などない。砲撃に摩耶が気付く事を期待する事しか出来ないのだ。

「……冗談じゃあねぇ」

 鳥海からの砲撃を見据え、摩耶は魚雷を振り切るように回頭し、速力を上げ海面を走る。それに気付いた北上や大井は摩耶へ、付随するように追ってきているが最前に居る木曾と、第4潜水隊はそれに気付く事なく、攻撃の指示を待っている状況が続いていた。遠目には大井がインカムを操作し、通信しようとしているが上手くいっていない様子が見て取れる。その事から摩耶も鳥海同様、ECM攻撃を仕掛けられた事を悟った。

(洒落にならねぇぜ)

 敵は何処から雷撃を放ってきたか分からない。更には艦隊内の通信をECMで破壊されている以上、陣形を保ったまま艦隊を移動させる事すら適わない。木曾ならび第4潜水隊が陣形前方に取り残され、摩耶と北上、大井が行動を共にし、鳥海が後方に孤立している状況がなされた。深海棲艦達の組織先頭の一環だと考えれば、次の一手は摩耶へと雷撃を放ってきた深海棲艦が鳥海へと攻撃を開始し、本隊を木曾達へ差し向ける事だろう。

「完璧にブッシュされてたねぇ。……陣形構築しなおそ」

 緊張感に欠け、飄々とした様子で北上が摩耶へと話しかける。既に輪形陣は瓦解しているため、北上は単縦陣への陣形展開を進言しに戻ってきたのだろう。その進言を受理し、小さく頷くなり北上は手信号で大井へと指示を伝えていた。

「…………ぶっ殺してやりたくなるよねぇ」
 
 大井へ指示を伝え、摩耶の隣を航行する北上はそんな物騒な事を小さく呟いていた。彼女の言葉の意味を考えるだけで、空恐ろしいものがあった。それは深海棲艦に対する敵意と、完全に出し抜かれた摩耶に対する恨み言を孕んでいたからだ。北上は普段から、飄々としていたが彼女の思考回路は"TheRollingStones"の"PaintIt,Black"の「俺」とまさしく同じだった。それ程までに彼女は戦場で黒く染まっている。

 鳥海の救援に向かうべきか、木曾達と合流を優先し艦隊の規模を増勢させるべきか。摩耶にはその選択が迫られていた。通信網を破壊されている以上、規模が大きくなれば連携を重視しなければならない、しかし単艦を捨て置けば間違いなく敵は殺到する。

「鳥海から発行信号。"第4潜水隊並び木曾への合流を敢行。深海棲艦の追撃あり、規模はイ級4隻、リ級2隻、ヲ級1隻。至急、対処支援されたし"だってさぁ……、行くよねぇ」

 指示を下す前に味方からの救援。旗艦の面目など既にない。小さく舌打ちをしながら、北上の肩を握りつぶすのではないのか、という程の力で掴み彼女の耳元で囁く。

「先導しろ、行くぞ」
「……怖いなぁ」

 茶化すような北上の背を押す。摩耶の前を進み、先行する北上は自身で分かる程に、悪い笑みを浮かべていた。深海棲艦に対する殺意、出し抜かれた摩耶に対する悪意、そして戦場の空気の心地よさ、これらが全て自身の箍を1つ外してくれるような気がしてならなかった。

「艦隊行動。梯形陣を形成せよ」

 重雷装艦の雷撃を生かすためには、単横陣は向かない。しかしながら、北上を後退させ、大井を前進させるのでは重雷装艦の速力上、難しい。故に北上を左舷側へ、大井を右舷側へとスライドするような指示を下す。

「全門撃っちゃっていいんですか?」
「鳥海に当てんなよ」
「難しい相談だねー」

 悪い笑みを浮かべた北上は相変わらず、飄々とした言葉を放っていた。誤射の可能性はなきしにも非ず。全門魚雷を放つという事は深海棲艦への攻撃を点ではなく、面で行う事となる。雷撃の予測進路に鳥海が居れば、彼女に当たる事すらあり得るのだ。

「ホント、ECMなんて深海棲艦も厄介だねぇ」
「……私達が対処しにくように、出来ないように少しずつ進化してるようにしか——」

 護衛艦「まきなみ」に乗っていた頃、深海棲艦と戦った時にはこんな事はなかった。組織戦闘は愚か、ECMなど高次なものを使えるようには感じ得なかった。それ程までに呆気なかったのだ。

 この海域にはやはり何かがある。そんな事を思いながら大井は魚雷管を海面へ向けるのだった。有象無象を吹き飛ばし、ここの謎に手を触れなければならないと。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.25 )
日時: 2016/06/18 12:06
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 西から走る雷跡。それを見据えつつ、増速、減速を繰り返しながら深海棲艦と思しき艦隊を狙い、照準を定める。敵の数は6隻。放った水上機からの情報によるとニ級後期型が4隻、レ級が1隻、そしてヌ級が2隻存在しているという。既に水上機は撃墜され、それ以上の敵勢力の情報は入手出来ていない。通信も出来ない状況であるため、その情報を別働している摩耶や木曾達に同期する事も難しい。発光信号を以ってして自身の行動を摩耶達に伝える事は出来たが、攻撃されている状況下、それ以上に情報を伝達する事が難しかった。

(西方へ……回頭されたし。敵深海棲艦……多数視認。繰り返す——)

 発光信号を木曾達が居るであろう方向へ向け、通達するも波に遮られ上手く伝わっていないらしく、応答と思しき発光信号もない。波を切り裂く為、艦の姿を取るべきなのだろうが、図体が大きくなればその分、被弾面積も増えるだろう。敵の存在を知らせる前に、攻撃を浴び行動不能、撃沈されるなど笑い話にもならない。

 完全に出遅れた後手後手の対応。終ぞ雷撃のみならず砲撃までが飛来してきている。今はまだ輝度の低い、駆逐艦からの小口径砲だけが飛んできているが、次期にレ級とアンノウンからの攻撃が開始される事だろう。恐らくは弾道計算を繰り返し、その精度を上げてから1発で仕留めに来るはずだ。

(だったら——!)

 主砲である20.3cm連装砲を全門、左舷へと向け砲撃を放つ。海面は抉れ、押し潰されていた。砲炎に瞳を細めながら、次弾装填を進めつつ魚雷管を海面へと向けた。敵艦隊は真一文字に広げられた陣形を微かに歪めながら、回避行動を取っているらしく一時的にだが砲撃の手が緩められた。
 増速し波から波へと飛び移るようにして、海面を走り木曾達が居るであろう方向へと鳥海は突き進む。敵艦隊の状況を横目で見遣りながら、魚雷を3発放ち、次発装填を進め、今放った魚雷が命中する事を祈った。

「——元気ィ?」

 不意に海面から聞こえるロシア語。それは聞き覚えのある声でいながら、何かが違う。言うなればとても冷たく、抑揚がない。思わず缶を止めてしまった。振り向いてしまった。

「——レニングラード?」
「正解」

 突きつけられた主砲。状況が飲み込めないまま、次の声を放とうとした瞬間。眼前が爆炎で遮られ、激痛と共に身体が弾け飛ぶ。何をされたか、何があったか。ゆっくりと海面に斃れ込みながら、ほくそ笑むレニングラードを見据えていた。

「ずっと眠ってろよォ、鉄屑」

 真っ白な長い髪は海風に靡き、獰猛な笑みを浮かべた彼女は鳥海を見下ろしていた。全身は海水に濡れ、カーキ色の軍服に赤い星をあしらった腕章はズタボロに裂けていた。
 砲撃を浴び、全身を穿たれ身動きが取れなくなった鳥海にトドメを刺す事もせず、レニングラードは木曾からの発光信号を見つめていた。

「……へぇ、迂闊ゥー」
 
 楽しげに海面を走るレニングラード。それを止める事は適わず、ようやく輪郭を取り戻した視界で海を眺める事しか出来なかった。海面に浮かんでいるのは自分の右腕か、赤い血と自身の熱が、少しずつ青すぎる海に消えていく。まだ何があったか理解出来ない脳を無理やりに動かしながら、鳥海は死を受け入れる訳にはいかないと、小さく舌打ちをしながら人の形を捨てるのだった。

 無理やりに身体を動かし、鳥海は波を切り裂きながらレニングラードの後を追う。海面に彼女の姿はない。となれば、海中を進んでいる事が予測される。その行いはまるで深海棲艦の如く。かつて、佐世保にて勇名を轟かした武蔵のように彼女も深海棲艦に身を窶したのだろうか。そう考えれば話の筋は立ち、自身に攻撃してきた事実も納得がいく。

(おかしい……)

 全周をぐるりと見回すと、北方に木曾と第4潜水隊。西南方に摩耶達が航走している。鳥海の艦影に気が付き、彼女達の視線は此方を向いている。であれば、やる事は一つであろう。発光信号を以って状況を報せるのだ。北方の木曾達へ手短にレニングラード接近を伝え、西南方の摩耶達へはそのまま北方に深海棲艦の水上部隊の存在を報せる。木曾は鳥海の伝達の意味がよく分からなかったらしいが、第4潜水隊は潜航を開始、レニングラードを確認しようとしている。

(了解。敵艦隊の側面を取る。——支援を要請する)

 摩耶からの発光信号に短く、返答するなり各主砲、副砲の仰角を0°に設定しゼロ距離射撃を敢行する。水柱が上がり、多数の砲による砲撃で水上艦隊の視界と進路を阻害していた。陣形は乱れ、その乱れた陣形へ突っ込んでいくのは北上や大井の雷撃であった。深海棲艦からの攻撃は摩耶達へと向かわず、眼前の巨大なターゲットである鳥海へ集中していた。しかし、それが故に小口径砲は徹甲弾から榴弾へ、弾種転換をしなければならず、鳥海への砲撃はタ級とレ級によるものだけで済んでいた。

 1隻また1隻と二級が海の藻屑と消え、2隻のタ級の内1隻は被弾の結果、ダメージを負っているようだった。ファーストコンタクトが上手く行った訳ではなく、後手後手の対応でなんとか活路を見出せたようである。

 残る戦力はタ級1隻、レ級1隻、そして木曾へと向かったレニングラードのみだ。燃え上がる船体を海馬島へと乗り上がらせながら、鳥海は艦の姿を解く。失ったのは右腕、レニングラードの砲撃により左脇腹が裂け、破れた腹膜と僅かに内蔵が顔を覗かせていた。全身にも火傷が点在している。無茶しすぎたか、と苦笑いを浮かべながら鳥海は厭に青い空を睨む。戦場で高揚し、頭に上った血液が少しずつ抜けて、体温が下がっていくのがどことなく心地よく感じられていた。

(……摩耶達は——)

 首だけを起こして、海を見つめれば摩耶はレ級やタ級への白兵戦闘を敢行しているらしく、タ級は雷撃を貰い足を飛ばされたのか、海面に這い蹲っている。レ級に関しては尾で摩耶の脇腹へ、噛み付いているようだが首元を持たれて高角砲を突きつけられているようで、蜂の巣になるまで時間の問題であった。

 木曾達の姿は島の陰に隠れ、見えなかったが摩耶達が上手く合流してくれる事だろう。そう祈りながら鳥海は意識を手放すのだった。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.26 )
日時: 2016/07/03 10:25
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

猛り狂うだけの艦である時代は終わった。静かに何が眼下を走りつつあるかを、見定める必要があった。伊58と伊19が全周探信を繰り返し、その状況報告を伊401が海面から手だけ出して、ハンドサインでもって状況を報せてくる。

 鳥海の大破、着岸後の座礁。標的の確認不可、摩耶達が本隊を撃破寸前まで押し込んでいる等と、全ての情報が海中から伝わる。ECMにより通信網は破壊されてしまったが、水中からそういった情報を全て拾ってきているようだ。以前、査閲の際、第4潜水隊にズタボロにされた事があったが、査閲後、伊58が「話し声」すら拾える、海面じゃ静かにしておくべき、と言っていた事を木曾は思い出しつつ、手に取った爆雷を握り締めた。

 静かすぎる海に響くけたたましい砲声、足元に迫りつつあるであろう死の脅威。ゾクゾクと背筋に何かが走る。それは恐怖に磨り減らされた精神の悲鳴ではなく、闘争の愉悦から来る代物であった。海面から顔だけ出して、その様子を見ていた伊401へと視線を向けた。

「……どうした?」
「6度、バッフルクリアーの結果、敵艦影発見出来ず……です。上陸の進言あり! ですがー、どうします?」
 
 全周探信を繰り返したようだが、それでも敵影は確認出来ていないようだ。伊58と伊19の全周探信でも発見出来ずに居るという事は、退却したと考えるべきだろう。一瞬、瞳を閉じ不要は交戦は避けるべきだと、自身に言い聞かせ、木曾は瞳と口を同時に開いた。

「——了解」
 
 短く応答するなり、伊401は首を立てに振り、海面を何度かリズムを刻むように叩いた。それはモールス信号であり、進言受諾と短く伝えたようだ。第4潜水隊の2人が、作り出す航跡が木曾の目にも見て取れた。随分と海面近くを走っているのが、やたらと気になる。

「お前は潜らないのか?」
「連絡員です!」
「あぁ、そう……」
 
 潜っている上にECMで通信が阻害されている以上、連絡員を設けるのは必須。伊58の選択、指示はやはり抜かりなく、こういった小さい事にまで気が回る。伊58は下っ端から、旗艦までたどり着いた叩き上げの艦娘であるが故なのだろう。幹部教育を受けた者にはない所である。そんな所に木曾は感心していたのだった。


 肩を落とし、脇腹を抑えた摩耶と、如何にも不機嫌そうな北上が静かな空気を醸しだしていた。合流に成功し、海馬島へと上陸を終えた時からそんな状態だった。幸いにも夕刻から、ECMは薄れ通信が出来たため、大島へと通信を行い、秋津洲に明石を輸送してもらっているが、未だ到着はしていない。接近出来れば秋津洲から通信が入り、照明弾を打ち上げる手筈になっている。

「……居づらいのね」
「吸う?」
「遠慮しとくのー」

 焚き火から直接火を取った煙草を咥えた伊58であったが、上陸してから随分と煙草を吸い続けていた。水密バッグには煙草が半カートンと寒さを凌ぐためのチェスターコートが顔を覗かせている。同様に伊401や伊19の分もあるのだが、コートなどの防寒具は入っているが煙草の類は入っていない。

「俺が吸う」
「ラッキーストライクでいいの? 普段アメスピでしょ?」
「……持ってきてねぇんだよ」
「ふーん、いいよ」

 伊58から手渡された煙草を受け取り、焚き火の火を掠め取るようにして煙草の先端に移すと、それを咥えた。一瞬だけ軽く訪れた苦味の後に、辛味が木曾に星を見せた。傍らの伊19と伊401はやや引き気味である、彼女達は嫌煙家なのだ。

「おい、摩耶。鳥海は大丈夫なのかよ?」
「あぁ。なんとかな。止血してっから問題ない」

 摩耶が羽織っていたMA-1を羽織らされ、鳥海は眠っている。MA-1にはやや血が染み出ている。皮膚、腹斜筋、腹膜が破れ、内臓が顔を覗かせ、更には右腕の肘から先を失っていたがやはり艦娘であるためか、それ程の負傷を負っても死ぬ事はなかった。

「……思い出さない? 隠岐島」
「あぁ、あったなぁ」

 ふと隠岐島というワードを出した北上に摩耶は呼応していた。10年程前に深海棲艦との争いの地となった場所である。当時舞鶴に在籍していた摩耶と北上等が空母加賀、航空戦艦山城、軽空母隼鷹、駆逐艦海風らと共に泊地棲鬼の出現に緊急対応、駆逐艦海風の大破に伴い隠岐島前島へと、上陸し、撤退も出来ないまま泥沼の戦いを繰り広げたのだ。

「海風も今じゃ舞鶴の3水隊旗艦だろ? よくやるよなぁ」
「ほんとねー」
 
 口を開き始めれば摩耶と北上は、何の蟠りもないようであるが、内心話しにくいというのが正直な所だろう。北上は摩耶の後手後手の対応に怒り、摩耶はその怒りを察しているのだから。

 そんな様子を木曾はぼんやりと見ていた。2人の付き合いは長い。それが故の気まずさがある。木曾だったらそうだ。

「あっつ!!」
「何やってるの……」
 
 北上と摩耶に視線を奪われ、終ぞフィルターまで吸ってしまった。第4潜水隊の面々がゲラゲラと笑っている。空気は幾分和らいだようで、少し離れたところで摩耶と北上もニヤニヤと笑みを浮かべていたのだった。

「……そういや、大井は何処行ったんだ?」
「さっきから見てないけど」

 何処となく陰のある大井の事だ、急に感傷に浸り1人になりたくなったのだろう。大して興味無さ気に「ふーん」と短く木曾は返した。それよりも微かに焼けた唇がヒリヒリと、なんとなく気になってしまうのだった。




 海は暗く、波が星すら反射させずその光を食らい尽くしてしまう。海岸沿いに焚き火が、せめても秋津洲達へのガイドとなれば良いのだが、などと思いながらぼんやりと砂浜を眺めていた。ヤドカリが漂着した魚の死骸に群がり、それを食らっている。これが海底であればシャコやカニ、エビといった代物がそれを骨になるまで貪り続ける。

(私に乗ってた軍人達も——)

 その様子を眺めていると、艦であった頃の記憶が蘇る。共に沈んだ140名余りの軍人達もこのような末路を辿ったのだろう。それを見ているとどうにも辛くなり、傍らの石を手に取るなりそのヤドカリの群れへと投げ付けた。食事を邪魔されたそれは何があったか分からないままに、散っていく。既に魚の死骸は内臓を覗かせ、その身は激しく崩れ、損傷していた。哀れと思うのも筋が違う、悼むのも筋が違う。だが、その死骸を砂ごと手に取り、海へと戻してやった。波間を漂い、砂は海に散る。

 せめて死に場所、朽ち果てる場所は海で。生まれた場所でそれを迎えるべきだ。自身がそれを為せなかったからこそ、大井は尚更そんな事を思うのだった。


Page:1 2 3 4 5 6 7



この掲示板は過去ログ化されています。