二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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艦これ In The End of Deeper Sea
日時: 2016/04/06 00:42
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。

結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。

えぇ、ただのお遊びです。

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Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.11 )
日時: 2016/04/19 08:46
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: iqzIP66W)

 遥か西の水平は赤く燃え上がっていた。今すぐにでも駆け付けたい、そんな思いを噛み殺しながら矢矧は拳を握り締めた。軍役にある以上、命令無視は愚行であり、最大の禁忌である。時には戦友を信じるという事も必要なのだ。傍らの伊勢はそんな矢矧の様子を見ながら、腰に差した軍刀僅かに抜いたり、収めたりと音を立てていた。厭に静かな海に、その音だけが鳴り響く。潮騒は耳に入らない。それ程までに神経は研ぎ澄まされているようだ。

 神通から西口に展開するようにと指示があったのは、物の1時間半前。大島と思しき箇所から火の手が上がりだしたのは10分程前になるだろうか。今川直海に指示を仰ぐも「待機命令」が出た。恐らくは深海棲艦の組織戦闘の一環であろう。東口に別働隊を出し、大湊の面々を平舘海峡に張り付け、一方では昨晩の戦闘で疲弊した大島へ攻撃を仕掛け、函館の面々が救援に向かった途端に、西口を突破。平舘海峡入り口を西と東から挟撃しつつ、函館の港湾設備を破壊し函館分遣隊の帰港先を喪失させる。何者かの指示を受けているのならば、こうするのが定石であり大島に救援が来なかった場合でも、大島を陥落させ翌日の第三次攻撃を発動するのみだ。

「……今川司令も悩んでる。霧島達を信じるしかない」

 彼女達が打ち勝てば、全ての事は解決する。この組織的攻撃は函館分遣隊を引き付けるか、大島を陥落させなければ成立しない。函館分遣隊が大島に向かわない以上、大島を陥落させるしかないのだ。

 矢矧を励まそうとした日向には言い得がたい不安と、微かな希望が胸の中を去来していた。大島を指揮するのは武闘派として名高い霧島、その配下には戦意の高い青葉が居る。

「そないな事言ったってぇ、由良も長波も死にかけてんやろ? うちは無理やと思うけどなぁ」
「黒潮、口を慎め」
「なんや怖い顔して。うちは正直に言うてるだけやで」

 油を差すような黒潮を咎めると、黒潮は拗ねたように海面を蹴り上げた。彼女は良くも悪くも正直で、リアリストな一面がある。数的不利を覆すのは難しい。それは自分達が昔経験した事であり、現実である。今の霧島達もそのような状況に陥っているのではないかと思うと、何処となく苦々しく思えてきた。

「……艤装も壊れて、弾も油も無くなって。————終いや」

 黒潮も恐らく日向と同じ事を考えていたのだろう。思わず飛行甲板で黒潮の頭を殴り付けそうになったが、伊勢の真似をして軍刀に手を掛け、苛立ちを収めようと勤めていた。
 
「飛鷹。一機偵察機を飛ばせるか?」
「えぇ、一機くらいだったら」
「大島を見てきてくれないか」
「……えぇ。酷かったら何も言わないわ」
「そうしてくれ」

 もし勝っているのならばそれで良し。全滅しているようであれば仕方なし。そうとしか自分を納得させる事が出来ず、今自分達が大島に出来る事は此処に留まり、無事を祈るだけであった。





 大島沖は真っ赤に燃え上がり、夥しい数の残骸が浮かんでいる。そこに居たのは前時代的な巨大な戦艦と重巡洋艦、そして一隻の駆逐艦だった。彼女達に相対するは真っ黒く、艦橋から青白い光を漏らす奇妙な艦達。それらは彼女達から10kmばかり離れた場所に艦隊を成している。空母を中央に据え、陣形の東西に重巡洋艦。空母の目の前には軽巡、背後には対潜哨戒目的の駆逐艦が居り、最も前に艦は居らず潜水艦を配置しているように感じられる。

「……多勢に無勢ね」
「青葉はまだ戦えますよ。弾も燃料もありますから」
「ま、巻雲もいけます!」

 そう僚艦は意気軒昂をアピールするも、戦闘艦はたったの三隻のみに留まっている。日本海を南下するように退避させた秋津洲や明石は無事だろうか。そんな事を考えながら戦う術を考え続ける。潜水艦が居る以上、巻雲を失う訳にはいかず、空母が居る以上は対空に注視し続ける必要が求められ、対艦に全力を注ぐ事は出来ない。生存する事を考えるならば、大島を放棄し自身が殿を努めつつ、舞鶴まで後退するしかないだろう。だが、それでは津軽海峡の目の前まで深海棲艦の前進を許し、第三次攻撃が発動された段階で戦局は厳しい事となる。

「……此処で沈む覚悟は出来たかしら」
「青葉は沈みませんから」
「仕方ないです。そもそも巻雲は人間じゃないから、ぜっ、全然悔いなんて……」

 青葉は覚悟を決めているようだ。巻雲には覚悟が伴っていないような上に、言葉を淀ませている。だが最早、引き返す事は出来そうにない。彼女には気の毒だが、黄泉路を共に歩み、海底まで供をしてもらうしかなさそうだ。

「覚悟は出来たようね。————弾残して、沈むなんて考えられないのよ」

 錨鎖をウィンチから放ち、鎖と錨が海へと身を投じるか、投じないかの寸でで缶を最大戦速まで押し上げる。このまま走り続ければ缶が火を噴く事だろう。己を己で焼き尽くす事だろう。だがしかし、そんな事はもう関係はない。燃え尽き、弾が尽き、敵を一隻も残らず屠り己の身を擲ってでも、大島は守り抜く。そう心に決めたのだ。最大30ktの速力は、そう簡単に出やしない。しかし敵の陣形に到達する前には、その速力は出るはずだ。すれ違い様に前方の35.6cm連装砲、2基4門を斉射し、敵陣形を抜ける際に後方の2基4門を同様に撃ち込む。回頭時に右舷副砲8基8門を撃ち込む。僚艦を巻き込む可能性こそあれど、彼女達も霧島の事など顧みず、水雷、砲撃、出来うる限りの攻撃の術を尽くす事だろう。ソロモンの夜が脳裏に過ぎり、思わず笑みが毀れる。誰かがこんな風に使ってくれる事を待ち望んでいたが、まさか自分でこのような死に際を選ぶとは思いもしていなかった。

「司令、霧島は死に場所を見つける事が出来ました」

 誰にも聞こえるのない、独白を口走り眼前に迫りつつある、敵を見据えていた。敵艦隊へ向け探照灯を照射すれば砲火は、霧島へと集中する。だが、そんな事は知った事ではない。船体へ1発、また1発砲弾がめり込み、身を捩り思わず悲鳴を挙げそうになるが、それを押し殺し深海棲艦へとただ単純な殺意をぶつける。後方に続く青葉と巻雲から魚雷が発射されるのを確認するなり、2基4門の主砲を撃ち放つ。真っ黒い煤と砲煙、炎に紛れ放たれた鉄の砲弾は空母ヲ級の船体にめり込み、火柱を上げながらそれが大きく傾いていく。僅か遅れながら魚雷が重巡ネ級の竜骨を圧し折り、大きく右よりに傾きつつあったが砲撃を止める事がない。いずれ止む事だろう。

「各艦! 重巡ネ級へ集中砲火を行えッ! 誤射は気にするな!! 全てッ!……全て殺せッ!!」

 雄叫びのような霧島の指示に、霧島の右舷側を航行していた巻雲はネ級へ横腹を見せるように回頭し、12.7cm連装砲を撃ち込みながら、魚雷管をネ級へと向ける。ネ級の後ろには霧島が回頭し、逃げ場を塞いでいた。外せば全てが霧島へと当たるが、気にしては要られない。彼女は死を決めたのだ。海中を走る魚雷は3発。うち2発はネ級の艦首と横腹を貫く事だろう。しかし、残りの1発は霧島の左舷、艦尾を目掛けて航走している。次の瞬間、ネ級と霧島へ水柱が上がり、両者の船体が傾き始めた。ネ級は船体を二つに圧し折られ、霧島は右舷側へと傾斜し始めていた。傾斜しながらも霧島は軽巡ツ級を副砲で貫きながらも、反撃が原因で火災が起きていた。最後に残っているであろう、水上艦である駆逐ニ級に関しては20.3cmの砲弾を浴び、炎上していたが潜水カ級の姿が見えず、巻雲がソーナーを発信させた瞬間、再度霧島の船体に水柱が走り、右舷側への傾斜が酷くなっていく。

「霧島さん!」
「まだ……、問題ないわ」

 次の雷撃までは時間がない、健在を主張する霧島であるがその声は既に消え入りそうな代物だった。巻雲のソーナーはまだ潜水カ級の姿を発見出来ずにいる。その時だった。中空から何かが海中へと向けて飛来し、水柱を上げると共に海中で轟音が鳴り響いたのは。

「青葉見ちゃいました……」
 
 朦朧とする霧島には捉えられず、海中に気を向けていた巻雲にも捉えきれない。しかし、青葉は見ていたのだ。海中へ飛び込んでいった、「矢」の正体を。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.12 )
日時: 2016/04/19 19:09
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 浮かび上がって来たのは、カ級の残骸であった。引きちぎれたレギュレーターからは気泡がブクブクと海面に自己を主張し、穿たれた肉の破片からは青白く光る血液が流れ出で海面を汚していた。見開かれた瞳には既に生気がなく、内部骨格が顔を覗かせているあたり、既にカ級は活動停止していると見て取れる。

「……今の何?」

 朦朧とする中、霧島が感じたのは海中から押し上げられるような強大な圧力と、強烈な轟音。巻雲に至ってはソーナーが過剰に音を拾ったせいで、ぐらつく視界に苛まれ思わず艦娘の姿に戻っていた。

「いっ……、今のなんですかぁ?」

「アスロックだと思います。普通のアスロックって水中を航走して標的に当るんですけど……、思いっきりカ級目がけて直進してきたんですよ」

 対潜ミサイルの類は、実のところミサイルというよりはロケットモーターを後ろにくっつけた短魚雷であり、ある程度の距離を飛翔後、弾頭を分離させ水中を航走し、潜水艦の至近距離で爆発し、水圧で潜水艦の外殻を圧潰させる代物である。しかし、青葉が見たそれは直接水中に飛び込み、カ級を直撃し一撃で仕留めたようなのだ。

「きよなみからの支援攻撃……?」
「きよなみはVLS区画破壊されてるので、それはないかと」
「そもそも、どうやってカ級の居場所を見つけたか……、ですよね」

 ソーナーを使用した駆逐、軽巡の艦娘であっても一発で潜水型の深海棲艦の居場所を発見は出来ない。おおよその居場所を見つけ、1隻を複数の艦で追いまわし、追い詰め爆雷を投下するのが定石である。異常に高性能なソーナーを持ち、青葉が見たそれと似たような挙動を示す新型アスロックを装備しているのは、昨晩の戦闘でVLS区画を破壊された「きよなみ」しか居ないのだ。

「……おかしい、わね」

 いつの間にか艦娘の姿に戻った霧島は肩で息をしながら、深海棲艦の物とは異なる残骸に手を伸ばした。恐らくこれがカ級を一撃で吹き飛ばした代物の破片だろう。破片は白く塗装されており、やはり見慣れない代物であった。

「霧島さん、そんな物拾ってないで陸に揚がりましょうよ。青葉、肋骨逝っちゃったみたいです」

 そう脇腹を押さえながら、青葉は笑みを湛えていた。死を覚悟し、出所の分からない攻撃に助けられたが結果として全員が生き残り、怪我こそすれど戦力を失う事はなかった。といっても霧島の負傷が甚大であったため、至急陸に逃げ帰ろうと肋骨が逝ったなどと虚言を吐いたのである。それは恐らく霧島に見抜かれている事だろう。肋骨が折れたならば、その上から押さえるような馬鹿はしない。

「……今明石さんを呼び戻してるので、早く大島に戻りましょう。巻雲、補給したいです」
「帰りましょうか……」

 今ここで長らえたという事は、見つけたはずの死に場所は誤りであったようだ。昨晩の戦闘で右目をつぶされ、全身を穿たれたような傷と、右腕を筋の一本、骨の一寸でなんとか繋がっているような状況まで壊されたが、バイタルパートに損傷はなく、まだ辛うじて動ける。思わず、我ながらしぶといと自嘲するように鼻で笑ってしまった。

「霧島さん」
「はい?」
「あの……、眼鏡が」

 巻雲の指摘でようやく気付いたのか、霧島はゆっくりと自分の顔の前でいう事を利く左手をヒラヒラと躍らせた。眼鏡が轟沈したらしく、残った左目で見た自分の手はやたらとブレ、指の数を数えられない。

「近眼には……、つらいわね」

 後ろで青葉が笑っていたが、彼女は気遣うように自分よりも幾分、背丈の高い霧島の肩を担ぐと、その身を引っ張りながら海面を走り出したのだった。


 突き刺された軍刀に苦悶の表情を浮かべながら、身を捩る戦艦タ級。それに相対するのは伊勢であり、彼女は対照的にニヤニヤと張り付いたような厭らしい笑みを浮かべ、突き刺した軍刀の角度を上げ続けた。逃げようと身を引けば、刀はより深く、切創はより広くなる。青白い深海棲艦の血液に手が汚れるが、そのような事は気にも留める様子も見せなかった。

「伊勢、遊ぶな」
「遊んでないよー。私はいつでも真剣」

 伊勢の悪趣味を日向は窘めたが、彼女はそれを止めようとしない。既にタ級の艤装は削ぎ取られており、伊勢へと反撃する手立てはないようだ。

「そんな怖い顔しないで……よッ!!」

 刀を引き抜き、タ級を蹴り飛ばすとその身体は力を失ったように、海面に倒れ込む。青白く光る瞳は怒りを湛え、一心に伊勢を睨み付けていた。その怒りをぶつける術となる艤装は既に失われていた。

「お疲れ様」

 砲を向ける事もなく、伊勢はせせら笑うなり一刀の基に両足を削ぎ落とし、背を向けると急いで海面を滑り出し、その身をタ級の視界から隠した。咆哮を挙げながら、身を捩り天を仰ぐタ級が最期に見たのは、己へ目掛け不規則な軌道を描きながら降る2発の250kg爆弾であった。


 鈍重な衝撃と爆炎の混じった水柱を遠くから眺めながら、伊勢は感嘆の声を挙げる。爆撃を加えたのは飛鷹航空隊であり、伊勢がタ級で遊んでいた時から、高度を上げ垂直爆撃を仕掛ける体勢にあった。

 案の定、深海棲艦は津軽海峡西口から艦隊を為し潜航しながら、伊勢達を強襲したが組織戦闘において深海棲艦の戦術は未熟な代物であった。

「……全体的な戦運びは及第点だが、艦隊内での連携は未熟だったな」
「まだ伸び代があると考えれば、空恐ろしいものでありますな」
「連中、変に頭良くなられても困るんやけど」

 あきつ丸のいう事は尤もであった。未熟という事はまだまだ、戦術を研鑽してくる可能性がある。日本では一番最初に深海棲艦と交戦し、対深海棲艦についての造詣が深い大湊であったが、深海棲艦が単純な戦闘能力に加え、統率された戦闘を行うようになると考えるとなると、艦娘は更なる戦闘能力の向上、即ち個々の力を追及し続ける必要があり、その限度を更に伸ばすためには、時代という垣根を超える必要があると考えられた。

「……我々が時代遅れになる時も来るかも知れんな」

 時代が動くにつれて、小型艦は徐々に大型になり、そのうち砲を満載した戦艦となった。その戦艦を無用の長物にしたのは空母であり、その空母を食らったのは近代化された駆逐艦であった。いずれは今の艦娘を上回り、深海棲艦を遥かに凌駕する此処の力を身につけなければならない。SH60Kは積めない、VLSは知らんなど言う事は出来ない。その内、それが必要となり艤装の改修、近代化を行わなければならないだろう。深海棲艦の空母を想定とし改装を受けたイージス艦「DD(G)-114 すずなみ」のように。

「何訳わかんない事言ってんのさ、日向ー」

 おどけて見せる伊勢や後ろに控えた飛鷹や夕張も、薄々は感じている事だろう。何れは自分達が無用の長物となる時が来る事を。時代後れな戦艦、軽空母、軽巡などといった区分けに縛られた概念は捨てなければならないのだ。幸いにも自分達の戦術は完成している。深海棲艦の戦術が完成した時、そう遠くない未来に時代が変わる事だろう。そんな事を薄々感じながら、深海棲艦の残骸に腰を下ろし、1発だけの祝砲を打ち上げた。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.14 )
日時: 2016/04/20 23:12
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 負傷した霧島達は治療を受けていた。大島防備隊は全員が撤収しており、現在、大島の守備は舞鶴からやってきた山城が率いる航空巡洋艦と軽空母で構成された第8護衛隊が就いている。

 渠中の霧島達は静かに傷を癒していたが、その場には相変わらず片足がない神通や、顔面に火傷を負った妙高が今か、今かと船渠が空くのを待ち構えている。普通の艦娘ならば、ようやく休める事から安堵の表情を浮かべている事だろう。しかし、彼女達の表情は何故か冴えない。その理由は妙高型の三女にあった。二晩眠り続け、全快なのは良いが日も明るい内から、大した事ないド田舎の街へと繰り出したようなのだ。

「……足柄って一体なんなのでしょう」
「さぁ……?」

 負けた腹いせにカラオケにでも行ったのだろうか。はたまた温泉にでも行ったのか。ストレスの発散の仕方がどうにもOLのそれのように感じられるが、元々足柄はそういう艦娘であり、余り活発的ではない神通にも、人間に対する理解が薄い元深海棲艦である妙高にも理解が及ばなかった。

「まぁ、いいでしょう。……妙高さん。少し良いですか?」
「……あの件?」
「はい、青葉が見た新型アスロックの話です」

 大湊では「きよなみ」だけが装備している新型アスロック。VLS区画を破壊された「きよなみ」から発射出来るはずがない代物が、霧島達を救った。しかし近海には「ふじなみ型護衛艦」は存在しなかった。

「一体どこから来たんでしょうか……?」
「どこからって、25km圏内としか言えないですけども、きよなみは函館にいて、大島まで150km以上ありますからね。本当に出所不明です」

 お互い分からないの一点張り、唯一いえるのは25km圏内から発射されたという憶測のみ。頭を悩ませている妙高の顔付きが、恐ろしげになってきた事に気付き、神通はバツが悪そうな表情を浮かべる。

「……青葉の誤認って事はないんですよね?」
「あの目聡い青葉ですよ? そもそも霧島が拾ってきた残骸の写真、もう出回ってるじゃないですか」

 霧島が回収したアスロックのロケットモータと思しき物体の破片は、艦娘達の間のみならず海上自衛隊大湊地方総監部の中でも問題となっていた。攻撃の出所は何処から。第3護衛隊群は艤装を秘密裏に開発し、運用していたのではないか。はたまた大湊地方隊にて、第3護衛隊群に所属していない新型の艦娘を所有しているのではないか。などと各方面で様々な疑念が生まれ、渦巻き、今川司令や総監、工作部長などが対応に追われているようである。

「ま、まぁ。霧島も助かったんですし、結果オーライという事で一つ……」
「でも、気になりますからね。もしこれも深海棲艦の作戦の内の一つだと考えたら、アスロックのような攻撃手段を持った新型の深海棲艦がいる事になりますし、第三次攻撃が別の切口から発動される可能性が払拭出来なくなります」

 自陣営のカ級を撃破し、大島から霧島達が退くと同時に第8護衛隊を突破し、津軽海峡西口まで侵入してくるのでは、と妙高は杞憂とも言える不安を吐露していた。あり得ない話ではない。
 組織戦闘を敢行してくるのは大湊へ攻め入る深海棲艦のみ。引継ぎはしているものの、戦闘実績がない舞鶴からやってきた彼女達は手玉に取られる可能性がないとは言いきれない。現に神通がもし深海棲艦ならば、最小限の戦力で大島を叩いてから戦力が挿げ変わるその瞬間に、全戦力を投入する。流石に昨晩の損害では、深海棲艦達も戦力を再編成する事が出来ないだろうが、妙高のいう通り不安ではある。

「……そうですね。何が起きても不思議じゃないです」

 全てが深海棲艦の術中、そんなような気がして神通の頭の中にも、言い得がたい不安が去来し、マイナスな方向にばかり思考が巡ってしまう。こんな時、司令と共に数多の戦場を渡り歩いてきた、大淀ならばどう考えるか。彼女の考えを聞いてみたく神通は思う。

「……そういえば大淀はどこに?」
「ちんちくりん准尉と不知火連れて、出かけましたけど」

 龍驤に何かの恨みがあるのか、と言わんばかりの呼び方に神通は思わず苦笑していたが、大淀もたまにはガス抜きをしなければならないだろう。彼女には戦術に関して、頼りきりでストレスを掛けているだろう。心なしか最近煙草の量が増えたような気もする。

「にしても……、いつまで待つんでしょうね。私達」
「さぁ……?」

 元々口数が多いとは言えない二人は、同じタイミングで項垂れると潮騒が耳へと飛び込んできた。夕立と高波の声が聞きたいなどと神通は思いながら、ぼんやりと海を見据えた。工作部の目の前の岸壁に筑摩が居たが、恐らく彼女が向かう先は、自分の部屋だろう。彼女も神通や、妙高と共に余り活動的ではないのだった。



 閑散とし、老人だらけの街であったが、都会の喧騒が苦手な龍驤からしたらこの位が丁度よく、ただそこにいるだけで戦場の緊張を忘れる事が出来た。傍らの大淀や不知火がそうかは分からないが、彼女達もこの街にストレスを発散する術を持っているようである。

「大淀、どこ行くん? 」
「私は煙草と今晩のお酒に、中古CDを漁って帰ろうかと」
「お前さん、もう少しまともな趣味ないんか……。不知火は?」
「山ほどクレープ食べたいです」
「太るで? まぁ、快気祝いや。奢ったるわぁ」

 他愛もない会話を繰り広げながら、彼女達は街中を歩む。いつもの服装ではなく、一見すれば同胞以外に艦娘だという事が分からない。

「足柄も波の三人、連れて街に出てきてんやろ?」
「らしいですけど、不知火は足柄が苦手です」
「夜戦仕掛ける時、足柄の提案に一番最初に乗ったやないか。うちちゃんと覚えてるで、川内より反応早かったやん」
「気のせいです」

 確かに不知火は足柄のあの明るく、キビキビとしたノリを苦手にしていた。元々が物静かな不知火とは相容れないのは仕方ないのだろう。本気で嫌っている訳ではなく、ただ単に付き合い方が分からないだけなのだ。しかし、不知火に相反し大淀は足柄と仲が良く、時折二人そろって馬鹿をやっている姿を時折見ていた。いつぞやは函館から補給を受領しに帰ってきた夕張をとっ捕まえて、結果的に阻止されtが艤装を魔改造させようとしていた。

「大淀、足柄どこいるか聞いとらん?」
「横迎町のカラオケに行くって言ってましたけど。乱入するつもりですか?」
「ちーっとな、ちーっと」

 絶対、ちょっとで済まない。そんな気がしたが大淀は言及する事なく、黙って煙草に火を付けた。歩き煙草を咎める輩は居ない。その事だけに感謝し、寛大な龍驤に付き合おうと腹を据えたのだった。

「不知火はドリンクバーにでも……」
「お前さん、そんな奴やったか?」
「はい」
 
 そうか、としか言えない不知火の取っ付きにくさに、思わずクレープ奢るのを止めようかと脳裏を過ぎった龍驤であった。

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.15 )
日時: 2016/04/22 00:06
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 船渠の霧島は、漸く自分の思い通りに動くようになった右腕を挙げ、きちんと指が5本揃っているか、数えようとするも近眼のせいで全く見えずにいた。顔の前まで手を持ってきて、ようやく指の本数が分かる程の重度な近眼。以前、大淀も言っていたがコンタクトの方が良いのだろうか、と頭を悩ませる。

(眼鏡……)

 心なしか大湊の艦娘は目を患う者が多い。大淀は元々、伊達眼鏡だったが砲炎が原因で眼底組織が焼けてしまい強い光を嫌う。現在使っている眼鏡は普通の眼鏡に見えるが、遮光眼鏡との事らしい。特に夜間の戦闘では、何も見えなく事があるらしく本来であれば、照明弾などを使うのも嫌だと愚痴っていた。

 巻雲に至っては元々視力が弱かったが、これからもっと酷くなる事だろう。木曽についてはあの眼帯の下には、艦娘になる前から目がない。また一見、何も目が悪そうに見えない艦娘——利根、矢矧、川内——達も大淀と同様の原因で目を患っていた。

 霧島が思うに元長門である今川直海も同様に、砲炎が原因で目を患ったのであろう、全盛期時代には試製と言えども51cm連装砲を常用していた彼女だ、砲炎は他の艦娘と比べ物にならないほど見ている。それ故に艦娘を退任した後の、日常生活に支障を来している。かつての長門が白杖片手に歩く姿はなんとも忍びないものであると霧島は感じていた。

「なんか考え事でも?」
「えぇ、まぁ、そうね」

 傍らで船渠から首だけ出した青葉が問う。外見上は無傷の青葉だったが、自身の20.3cm連装砲の砲身を取り急ぎ、素手で交換していたためか両手に重度の熱傷を負っており、一部は骨のまわりにまで達していたため、入渠するはめになっていた。

「あなたは目とか大丈夫?」
「青葉は撃つ時、目を閉じます!」
「えぇ……」
「その反応は青葉を疑ってますね? きちんと当たりますよ!」

 よく当たるなと感心すると同時に、やや呆れたような声を霧島は挙げた。連装砲とはそもそも何発も撃ち込み、状況を見ながら射撃管制を行うのが目的で連装だというのに撃つ瞬間に目を閉じれば、弾着の確認が出来ない。修正を繰り返してから初めて目を閉じるというのなら分かるが、青葉の目を閉じる発言は霧島の理解に及ばない事柄だった。

「皆が戦う姿を青葉は記録しなくてはなりませんし、そのためには青葉の目は命の次に大事な物なんですよー」

 そうにへらっとした笑みを湛えた青葉だったが、彼女の記録は確かに次の戦闘に役立つ物が多く、その一言に思わず霧島は納得させられていた。恐らく、青葉の思いとしてはそれ以外の所にあるのだろうが。

 どうにも傍らの青葉の雰囲気に飲まれつつあったが、彼女の戦時の猛々しさとは異なる温和なオーラは心地よい代物だった。ここに巻雲や由良、長波が居ればいつもの穏やかな大島の空気になるのだが、彼女たちがここに居ないのが悔やまれた。

(……ま、いいか)

 大島の艦娘達はそうそう内地には来られない。たまには羽根を伸ばし、緊張、緊迫しきった神経を休ませるのも必要だろう。

「出渠したらどこか行く?」
「青葉は写真整理しなきゃいけませんから」

 彼女が佐世保からやってきた時、キャリーケースと人一人入りそうな程に大きなボストンバッグを担いでいた。そのボストンバッグの中には、かつての戦友達の写真や、戦闘記録が入っていた。その戦友達の写真には日付が書かれた物があり、その日付は轟沈した日付をであった。そういった日が近づくと決まって青葉は「写真整理」という言葉を持ち出す。また、その戦友の死を悼むのだろう。

「……もうじき青葉の元上官が沈んだ日になります。その日には多分、青葉大島に帰ってると思うんです。だから、今日あの人が好きだったものを写真に備えようと思ってまして」
「佐世保に居た頃の話かしら?」
「そうですね。佐世保です。あのー、霧島さん、大湊のお菓子屋知りません?」
「夕立に聞いてみたらどう?」
「あの子、基地で見た事ないんですけど」

 青葉の元上官、それが誰なのか霧島は知る由もなく、沈む艦娘は数え切れない程に居る。それを詮索するような事はしたくもなければ、青葉もされたくないだろう。長く海で戦っていれば、新たな戦友との出会い、戦友との別れ、枚挙しきれない程の色々な事があると、霧島は一人納得するように瞳を閉じたのだった。
 


 盲を患い、微かにしか利かない瞳であっても、その破片は明らかにミサイルの代物だと見て取れた。かつて長門であった今川直海は白杖を片手に、その破片の前に立ち、言葉一つ発する事なく見つめている。

「南沢君。これは私見が間違っていなければ、アスロックに見えるのだが如何に?」
「ご名答と言った所ですかね。間違いなく07式アスロックの外殻でしょう」

 07式垂直発射式対潜ロケット。現場の人間は南沢と呼ばれた技官や護衛艦の乗員達は07式アスロックと呼ぶ。水中を航走せず、一直線に潜水艦へと向かうそれは第二次日中戦争の際に、多くの中国人民解放軍海軍所属の潜水艦を撃沈、漁礁にしている。米海軍からは必ず命中する事から北欧神話に登場する必中の槍「グングニル」というコールサインを付与された代物である。

「南沢君。きよなみは修理するのかね」
「今年度は“たかクラス”の定検が控えており、しんようが国債工事となっております。歳出予算に関しても大湊で修繕するだけの余裕はなく、今年度中の臨時修理立上は無理でしょうな」
「首を失って、彼女は痛いと泣いているぞ」

 翳りと含みを持たせた今川の物言いに、南沢と呼ばれた技官の男は得も知れない好奇心を抱いた。元艦娘はよく艦の声を聴くと言われており、ある元艦娘は沈没した浦風と信濃の居所を発見するに至っている。今川が冗談ではなく、本当に「きよなみ」の悲痛な声を聴いているとすれば、目の前でその超常を見ているのだ。

「本当に聞こえているなら、奇妙な話ですがね」

 などと意地の悪いことを言ってみると、今川は閉じた瞳を微かに開いて南沢を見据えながら、胸の前で腕を組み、意地の悪い笑みを浮かべて口角を吊上げる。彼女が艦娘だった頃は、笑みを湛える事なくこの立ち方をしていた。相対した武蔵も似たような事をしていたが、彼女は最早この世の者ではなく、その亡骸は沖縄の藻屑と化している。

「いつだったか。……噂が好きな“すおう”が言ってたぞ。お前と明石が、第六突堤で2200頃、逢引してたと。……なぁ、南沢。明るみに出てはまずいよなぁ」
「……今後もしっかり働かせて頂きます」

 危ない橋を渡り、地獄の釜の蓋は開くべきではない。そう肝に命じ、小さく頭を垂れた。逆らってはいけない。これ以上、追求してはいけない。そんな気がしてならなかった。

「頼むぞ。……ところで南沢君。函館分遣隊用に船渠を調達してくれんかね」
「え、いやぁそれは……」
「明るみ出ればまずいよなぁ」
「やらせて頂きます」

 函館分遣隊が使用するドックを買えという今川だったが、明石との関係が明るみに出るより幾分マシで、予算がない状況でもまだやりようはある仕事である。首の皮を繋げる事を考えるしかない、と南沢は深々と頷いたのであった。


Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.16 )
日時: 2016/04/30 07:13
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 何年前の話だったろうか。青葉がまだ佐世保に居た頃、深海棲艦達は日本の西海の護りへと喰らい付いており、佐世保が最前線であった。

 当時、佐世保には長門や武蔵といった主力艦と共に多くの水上艦娘が配属され第2護衛隊と第6護衛隊からなる第2護衛隊群を形成、深海棲艦との激戦を繰り広げていた。
 青葉は第6護衛隊に所属しており、旗艦武蔵の元で沖縄近辺の防衛、警戒任務に従事していたが、ある時それは起きたのだ。南方棲戦鬼と呼ばれる交戦実績の少ない深海棲艦の出現により、第6護衛隊は旗艦武蔵を喪失したのだった。彼女は身を挺し、所属艦娘の離脱に全力を尽くし、相打ちとなりながら海中へと没した。彼女が居なければ、今の青葉は恐らく居ない。冷たく、暗い海底で生ける者を羨むだけの存在となっていただろう。

(ありがとうございました)

 写真の中には、武人らしい佇まいをしながらも穏やかに笑みを湛えた武蔵がいた。生前の彼女が好んだのは甘味の類。特にカステラなどを好み、任務中持ち込んではよく、所属する艦娘に配りながら自分もそれを口にしていた。第2護衛隊の旗艦であった長門は、それを窘める事もあり彼女はそれを受け取る事はなかったが、彼女からしても武蔵は親友であり戦友。そして最期を見届けた存在であり、この日を覚えていたのだろう。つい先ほど元長門である今川から「カステラ」の差し入れがあった。
 夕立をなんとか捕まえ、閑散とした大湊の街へ繰り出し、買ってきた「カステラ」と被ってしまったが、もし武蔵が生きているならば笑って許してくれる事だろう。


「武蔵さん、大湊も凄いところですよ。昨日の晩は——」

 武蔵は答えてくれない。組織戦闘を行う深海棲艦の存在、霧島の奮闘、謎の攻撃。佐世保に匹敵する激戦地だと、つらつらと独白するように青葉は呟くのだった。

 もし、今武蔵が生き、大湊に居てくれたならば霧島や伊勢、日向といった主要な水上打撃リソースを大きく強化し、昨晩のような事もなく、何より彼女が得意とした水上艦を用いた群狼作戦により、屈強な守勢を築きあげる事ができたはず事だろう。連携と布陣に重きを置き、最小限の戦力を各地に構成した上で、一点の目標目掛けて積極的防衛を行う。そのためには各艦の役割を最大限に果たすという事が望まれ、否応成しに彼女の指揮下にあった艦娘達は錬度を高く維持しなければならなかった。まるで昨晩の深海棲艦達のように。

(……まさかね)

 ふと脳裏に過ぎる一抹の不安。深海棲艦が艦娘達の戦いを見て、学習していたとすると昨晩のような事もあり得るのかも知れない。武蔵と相打ちになった南方棲戦姫や、長門が最後に撃破した深海棲艦である戦艦水鬼、RIMPACの際に出現し、米海軍と海上自衛隊の艦に撃破された集積地棲姫のように人語を解する深海棲艦の存在がその証明となり得る。生物において、進化は永遠に終わる事がない事象であるが、完全に適応する事で進化は終わりを告げ、至高の存在となる。であれば、彼女達は艦娘に倣う事でおこがましくも海の覇者にでもなろうというのだろうか。

 余り働かず、決して良いとは言えない頭で考えた推論。思わず青葉はこれを誰かに話したくなってしまった。大湊の艦娘達で、このような推論を話せる艦娘は旗艦くらいであり、戦術理解に長ける夕立や大淀はON/OFFを完全に切り替えているため話に応じる事がない。どうにも悶々としてくる。青葉は武蔵の写真の前で頭を抱えながら、カステラに口を付けるのだった。




 かつての親友は今日沈んだ。彼女の、二度目の死を招き、見届けたのはこれから二週間ばかりたった頃だっただろうか。盲を患った目が厭に痛み、視界が霞む。

 頬杖を付きながら、今川はぼんやりと机に置いた写真を見据えた。そこにはかつての第2護衛隊群の面々が写っている。その中には大淀や青葉といった今も共に戦っている者達もいたが、多くは戦艦水鬼との戦いの中で、海中に没し残された者達の心という物に傷を付けて逝ってしまった。

「……まったく」

 彼女の一度目の命日を悼んでいるであろう青葉にカステラを渡してきたが、死人には語る口も、食らう口もない。若かりし頃はまるで残された者の自己満足、自慰のような立ち振る舞いだと、侮蔑し冷ややかに笑っていた事だろうが、年を取るとそんな事をする気もなくなってきてしまう。角が取れて、丸くなってしまったのだろう。

 誰に聞かれる訳でもなくついた悪態は、武蔵の耳に届いている事だろうか。勝手に身を賭し、勝手に死んで。ほとぼりが冷めぬ内にまた現れ、終いには自分の視力を奪った馬鹿で最悪な親友。もし、自分が武蔵だったならば徹底的な交戦を図り、凌ぐ戦いを展開しただろうが何故彼女は単艦で殿を申し出て、死に急ぐような真似をしたか、それが不思議でならなかった。そもそも彼女は、集団での戦いを好むところがあった。

(今思えば……、変だ)

 昔、武蔵から聞いた話であるが今川から見て、先代の長門がそのような運命を辿っていた。その長門は強さと戦いに執着していた。それがある時、単艦で上位の深海棲艦と交戦、撃沈されている。それから暫く経ったのち、彼女は深海棲艦として蘇り、武蔵がそれを無力化、拿捕に至っている。その際、長門であった深海棲艦は「深海に招かれた」と口走っていたらしい。事実、深海棲艦と化した長門は異常なまでに強く、その砲撃によって先代の金剛や、大鳳、護衛艦「はるさめ」、米国海軍の揚陸艦「グリーンベイ」を撃沈、更には近海を航行していた中国人民開放海軍所属のジャンカイ級フリゲートを複数撃沈し、多くの死傷者を出し、佐世保基地の戦闘能力低下を招き、相互の誤解から勃発にいたった第二次日中戦争の発端ともなった。

 もし武蔵が、深海に招かれたのであればその狂気は伝染し得る。力を必要以上に欲する事がなく、個の力よりも横の連携を重視した武蔵が、その狂気に招かれたとは考えにくいが、今川の脳裏にはそんなネガティブな考えが過ぎり、かつての親友の死に悼みきれずにいたのだった。


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