二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 艦これ In The End of Deeper Sea
- 日時: 2016/04/06 00:42
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
普段は似たような名前で、ファジーとシリアスダークで散文を書き散らしている者です。
結構、苛烈な内容を書き記すこととなるかと思います。
あくまで二時創作ですので、自分の思うそれとは異なるなどという陳述には取り合いませんので、悪しからず。
えぇ、ただのお遊びです。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.17 )
- 日時: 2016/05/07 19:34
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: NGqJzUpF)
夜の海原は赤く燃えている。炎上し、右舷側へと傾斜していく米国海軍、揚陸艦「ボノム・リシャール」の第一甲板に佇むのは、かつての親友の形をした海底の亡者であった。炎の照り返しなのか、それとも元々なのか。厭に紅く、禍々しい瞳に長門の視線は奪われてしまっていた。
彼女は一度、死んだ。死して化生と化した。既に戦地を駆けずり回った輩でなく、既に海底から訪れた化物だ。向けた試製51cm連装砲の照準が、微かにブレる。波に揺られているからではない。かつて戦艦レ級と化した艦娘を屠った時には、感じ得なかった悲しみ、虚無感のような物が胸の中を去来し、それが長門の照準をブレさせる。今撃てば確実に外す。ボノム・リシャールにトドメを刺す事となるだろう。だが、最早賽は投げられ、彼女を殺めるしかない。
一つ、深く息を飲み。二つ、嘗ての仲間を見据え。三つ、呼吸を止める。静かに砲身を彼女に向ける。その刹那、海面を押し潰し中空を飛ぶ。空気を千切るような、甲高い音が砲声と共に鳴り響く。巨大な砲弾。それは赤熱し、ボノム・リシャールの船体すれすれを掠め巨大な水柱を上げた。
「甘いなぁ」
深海棲艦にしては流暢で、どこか聞き覚えのある声が直接、頭の中に響く。やはりあの化物はかつての友であった。苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら、長門は海面を駆ける。ボノム・リシャールから落下した米兵が何やら英語でまくしたてているが、そんな事は気にしてられない。そもそも何を言っているか分からない。誰かを救う、そんな事よりもあの化物を殺めなければならない。
恐らくあの化物は射撃管制しながら、戦うだけの余裕をくれないだろう。肉薄しつつ己の身体を、艤装の全てを擲つように身を削る戦いを行うしかない。ボノム・リシャールを背に佇む化物の砲がゆっくりと長門を捉え、砲身をしきりと動かしながら照準を定めている。いつ撃ってくるか、もし当たればどうなるか。最悪な想像が脳裏を過り、その思考が恐怖に侵される。
「……武蔵」
何故一人で戦おうとした、何故皆と共に戦う道を選ばなかった。何故また姿を現した。何もかもが悲痛、何もかもが悲壮。そこに「それ」が存在するだけで、長門の精神は消耗してくゆく。だからこそ、長門はそれを討ち破らなければならない。誰にもこんな思いをさせず、武蔵の醜態を誰の目にも写してはならない。と、一発、また一発と肉薄しながら放つ砲弾には明らかな殺意を込める。
「お前のその姿を誰にも見せる訳にはいかんよな」
部下に慕われた武蔵だからこそ、部下に疎まれた長門がケリを付ける。これで良い。51cm連装砲の砲弾が武蔵だった者の艤装を貫き、彼女は悲痛な叫びを上げていた。最早、爆発音なのか砲声なのか、はたまた波音なのか区別がつかなくなっていた。
けたたましい悲痛な叫びは、武人らしくあれとした武蔵ならば挙げなかっただろう。むしろ彼女は吼えたはずだ。まだ足りない、と。最早、彼女にその面影はない。我武者羅に砲撃を撒き散らしながら、叫び逃げ続けている。
(……武蔵)
彼女の猛々しくも、温和で下から慕われる姿には一種の憧れを抱いたものだった。長門が第2護衛隊旗艦として着任した時には、既に第6護衛隊旗艦として任務に従事し、その背を追い続けてきたものだ。気づいた時には真逆な存在になってしまっていたが、それでも武蔵の存在というものは眩しくあったのだった。
背を向け逃げ続ける武蔵だった者を長門は追い続けながら、2基4門の51cm連装砲の照準をゆっくりと定める。その時だった。
「やっぱり甘いなぁ」
突然、回頭し主砲の砲口が此方を捉え、間髪入れずにそれが火を噴いた。視界が砲煙で消え、更には立ち上がった水柱で全周囲を覆われ、反撃の術を失ったその時、水柱と砲煙を超え視界に飛び込んできたのは武蔵の拳。それは吸い込まれるように長門の左目を捉え、激痛と共に眼球が潰える。揺さぶられる視界に焦り、海面を転がるように退避するなり、主砲とは異なる副砲と思しき輝度の低い、砲弾の雨が長門を穿つ。艤装を破壊された際、よく武蔵が取る手法の一つだった。一基でも主砲が残っていればそれを牽制として使用し、白兵戦に持ち込み、相手が距離を取ろうとした瞬間、副砲で攻撃を加える。潰れた左目をなぞりながら、やはり敵は武蔵だったと再認識せざるを得なかった。
昔、今川から聞き及んでいた武蔵という艦娘の命日という事もあったのだろう。妙に嫌な夢を見ていた。閉口し目を閉ざしたくなるような現実を、追体験したような夢。かつての武蔵と長門が互いを殺し合っていた。思わず神通は、夢の中で潰された左目を恐る恐る触れた。瞼はあり、眼窩は窪んでいない。左目の安否が確認できた事から小さく安堵の溜息をついた。
(……変な夢)
あの長門が今川ならば、あの武蔵は一体何者なのだろうか。それが気になって仕方なく、船渠に身を浸しながらぼんやりと、やや錆びが浮いた工作部の壁を見つめるのだった。隣で入渠していた妙高の姿はいつの間にか消え、西日の照り返しが微かに入り込んで来る。おおよその残り入渠時間を見るがあと1時間ばかり、入渠の必要があるようだ。船渠を見下ろせば、吹き飛ばしてしまった足が再生してきており、踝から先が再生しきるのを待つばかりであった。
ここ2日間は妙な事ばかりである。深海棲艦の組織的戦闘、謎の攻撃、先ほどの夢。これは何かが起きる。戦場を駆けずり回ってきた者特有の直感がそう告げる。誰も沈まなければ良いが、と内心祈りながら再び自分の足を見つめるのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.18 )
- 日時: 2016/04/29 10:36
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: iqzIP66W)
2. (K)nightmare
余市の海は荒れ狂い、青いはずの海原は黒く染まっている。太陽の照り返しすら許さず、潮騒は化物の唸り声の如く。その様子を見やりながら北上はどこか遠い目をしていた。魚雷を航走させにくそうだだとか、海に出たくないだとか普段のダウナーな雰囲気を感じさせるような事柄を考えている訳ではない。何かよくない事が起きそうだという直感。
1週間前には深海棲艦達が同時多発的に津軽海峡近辺へと攻撃を仕掛け、第3護衛隊群や大島防備隊に所属する多くの艦娘が被害を被ったと聞く。次はこの余市の番のように感じられ、海象がその北上の直感に対して、そうだと答えているようだった。部屋の角に身を預け、ヘッドフォンで何か聞いている大井や、北上同様に海を見据えている木曾も今朝から何やら落ち着かぬようだ。
「なぁ、北上」
「なーに」
「……摩耶が気をつけろだと。電探の妖精からアンノウン発見の報せありだとさ」
「昨日のF-35スクランブルと関係あるのかねー」
「俺は気にしすぎだと思うけどな」
一瞬見ただけだというのに木曾は北上の視線に気付いて、言葉を交わす。昨晩は昨晩で航空自衛隊のF-35戦闘機が所属不明機が領空侵犯してきたとしスクランブルしており、北海道の北西に存在する海馬島の沖合で撃墜にまで至っている。撃墜した機体は残骸すら発見されておらず、アンノウンの正体についてと撃墜した事を非難する左巻きの売国政治屋の大声ばかりが、偏向的に報道されていた。
「いつの時代もかわんないねー」
「……俺達兵隊は、政治に振り回されて捨てられるだけさ」
そうやって木曾はいじけたように言い放つ。彼女は函館の「あきつ丸」同様に第二次日中戦争に参加していた。佐渡島奪還戦の際に、手榴弾の破片を浴び目を失ったらしい。国のために尽くしたというのに補償もなかった事から、憤りを感じているらしく。都度都度、反体制的な事を口走るのであった。
撃墜したものが他国籍の航空機であれば、事は大事になるだろうが現在、自国の航空機を撃墜されたと声を挙げる国はなく、防衛省からの推測では深海棲艦の航空機だったという見解であり、そもそも批判される覚えがないと強気な姿勢を貫いている。
「まぁ、90年前もそうだったからね」
「お上からの命令と言われて、ただ戦ってただ負けただけってな」
「あははは……」
やはり木曾は歪んでいる。それを哀れとも北上は思う事なく、仕方がない事だと思うしかなかった。真名で生きている頃も国から見捨てられ、90年前の艦であった頃も乗員達は木曾を放棄し、陸で戦ったという。彼女は見捨てられる事が多く、それが原因で歪んでしまったようであるのだ。
「木曾、見っともないですよ。昔の事をグチグチと……」
いつのまにか大井はヘッドフォンを外し、窓際で駄弁る二人の話に耳を傾けていたのだろう。そう木曾を戒めると、どこかニヤついた厭らしい笑みを浮かべていた。余談であるが、よく大井はこういった笑い方をする。これは無意識のうちに笑っているらしく。以前、大井にその写真を見せた所、自分で自分に対して引いていた。
「……そういうが、お前には許せない事の一つや二つはないのか?」
「私の過去は"NODATE"ですので」
大井は過去を多く語ろうとしない。そもそも分かっている事が少ない。艦娘になる前は何をしていたか。真名なんてのは余計分からない。唯一分かっているのは不意に出た方言から、九州の出身と推測できるくらいだ。以前、大井が余市に配属されたばかりの頃、いいだけ飲ませ]て前後不覚にしたところで聞き質すと、途端に酔いが醒めついでに空気も醒めてしまった。それ以降は大井の過去を詮索するのは止した方が良いと、余防の艦娘達にリコメンドして回っている。
「またそれか」
「大井っち、多少は教えてくれたっていいじゃないー」
"NODATE" よく大井が使う言葉がやはり出てきた。彼女は何故か、この言葉を好む。
そこで北上が茶化すように木曾に便乗すると、大井は小さく溜息をついて少し考えるような素振りを見せた。ポータブルオーディオプレイヤーからヘッドフォンを引き抜く。ディスプレイには「ADULT」と書かれた香水の瓶が書かれたCDジャケットが顔を覗かせていた。
「そうですね……。昔は大湊の神通や、龍驤の同僚でした。あとは沢山悪い事をした、とでも言っておきましょうか」
「は?」
木曾は短く声を上げたものの、大井の煙まくような含みを持たせた物言いからは詮索するなという思惟が感じられ、これ以上は何やかんやと問いただすと「戻れなくなる」ような気がし、北上は余り興味なさげに「ふーん」と返答するのみだった。
不意に遠慮なく、ドアがまるで蹴破られたかのような音を立てて開かれる。3人の重雷装艦達の反応は珍しく一致しており、どこか醒めたような視線でドアを開けた人物を見据えた。
「よーう! お前等ァ!! 葬式でもしてたのか?」
やたらとでかい声で、それも妙な物言いで茶化すのは摩耶。どことなく田舎暮らしの元ヤンのような雰囲気の彼女であったが、それでも余市防備隊の旗艦である。
戦中においては対艦、対空、雷撃までこなし、更には陸上装備の射撃管制、標的の同期なども勤める非常に優秀な艦娘である。昔は舞鶴に在籍して居り、その当時の司令からは「戦艦でない事を惜しむ」とまで言わせせしめたそうだ。
「あなたみたいに、頭に花咲いてる訳じゃないですから」
「言うじゃねーか、大井。……まぁ、いいぜ。本当なら文書でも出すべきなんだろうが、結論から言うぜ。明日0830から海馬島沖に行く。昨日撃墜された所属不明機の残骸探しだ」
「アタシら以外に誰か来るの? 」
「4潜隊の連中が来るな」
「わー、そいつらだけでよくない?」
「“お上”からの命令だ」
まるで木曾の苦言を聞いていたかのような発言に、一瞬木曾は顔を顰めていた。艦娘であったとしても、戦地に立つのであればそれは軍人。軍人は命令が絶対。命令が守れない者は、どれだけ優秀であっても塵芥と同じ。個を殺す事を求められるのだ。
「じゃ、頼んだぜ。今度は陸の奴等に留守報せてこなきゃいけねぇ。……北上やるか?」
「いいよー、妖精ウザいし」
「お前、ひでぇな」
軽口を互いに交わし合ってる内に摩耶は部屋から出て行ってしまった。まるで嵐のような人物である。余談であるが妖精の事は、ウザいなどと思っていない。面倒=ウザい。ダウナーで無気力な北上の口癖のようなものだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.19 )
- 日時: 2016/05/10 12:21
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: KBFVK1Mo)
ずぶ濡れになった身体のまま、基地施設内を歩くという非常識を見せる3人の艦娘。その内の1人は屋内で歩き煙草という暴挙に出ている。シャークトゥースの描かれた長魚雷をあしらった防水バッグから取り出されたのは、食品保存用の小袋。その中には白地に赤の円が描かれたパッケージの煙草と電熱ライターが入っていた。
「ゴーヤ……、ちょっと非常識なのね」
「海潜ってるとストレス溜まるんだよ! 」
「そんな事ないと思うけどなぁ」
ずぶ濡れのまま施設を歩く方が、非常識だと咎めたくなるような3人だったがそれでも彼女達は大湊に所属する優秀な艦娘であった。潜水し雷撃を行う事は勿論、機雷や不発弾の処分、海底探査に携わり、潜水員が足りない大湊ではとても重宝されているのだ。
「前が見えないって怖い事だよ。それに海面と海中じゃ潮の流れが違うし、浮上したら流されて艦隊から落伍したり、衝突って事も!」
「……それを予測して、浮上速度と航行速度調整しながら浮上するのが定石だと思うんだけどなぁ」
あどけない顔をしながら、真理を突く伊401に伊58の表情は一瞬歪む。それを見ている伊19に関しては肩を震わせながら小さく笑い、腹の中で伊58を脳筋だと嘲ていた。事実、伊58は浮上のタイミングを図るのが苦手で、第4潜水隊の中では一番最後に浮上し、衝突のリスクを避けようとしている。それ以外には非の打ち所がなく、正確な雷撃や、高すぎる戦術理解能力、指揮統率能力を持つ。それが故に鈍い伊401や、奔放な伊19をまとめ上げている。尤も普段は部下二人や他の旗艦達に弄られっぱなしであるが。
「お前ら! いっつも、あれだけ身体拭けって言ってんじゃねぇか!
」
不意に廊下の向こう側から姿を現した摩耶の怒声に、第4潜水隊の面々は肩を震わせた。煤と思しき汚れで、全身を真黒く染めた摩耶が大股で歩み寄ってくる。
「なんで黒いの」
「砲熕設備の整備手伝ってたんだよ。つーか、歩き煙草すんな。みっともない」
「摩耶の歩き方の方がみっともないよー」
「うるせぇ」
伊58が咥えている煙草をひったくると、それを自分の携帯灰皿に押し付け摩耶は溜息をついた。「あーっ」と批難の声が上がるも、伊58の口元に煤で汚れた手を押し付けて、その批難の声を封じる。驚き口を閉ざした伊58の口元から摩耶の手が離れた時、彼女の口元は黒く汚されており、微かに濡れているためか黒い水滴が伝い落ちる。
「思ったより黒いな、おい」
「ひどい」
またしても伊19が伊58の様子を見て笑っていたが、伊401は相反した反応を示し、どことなくそわそわと摩耶から離れようとしていた。
「宿舎の方はもう用意してあっけどよぉ、先に身体拭いてからな。ついてこい」
何やかんやと苦言を呈し、騒々しい摩耶であったがやはり面倒見はいい。促されるままに摩耶の後をついていきながら、伊58は黒く汚された口元を手で拭い、更に汚れが広がった事に、苦笑いを浮かべていたのであった。
第4潜水隊の面々が到着したと妖精達が騒ぎ立ている。艦娘達にも聞こえるか、聞こえないかの小声で話す彼らであったが、余市の面々は彼らの言葉を聞き漏らす事がない。彼らは陸上防備隊の剣であり、目であり、耳でもある。配備されている艦娘が少ない余市防備隊は彼らとの連携が、とても重要視されているのだ。
「……早くない?」
そう時計を見ながら北上は呟く。現在の時刻は1900をやや回ったところである。潜水艦というのは静粛性を最重視する上に、常時360度から水の抵抗を受けるため、鈍足なのだが厭に彼女達は早かった。
「まさか、浮上しながら航行してきたんじゃないだろうな」
「まさかー。私が深海棲艦なら、即沈めに行くよー」
潜水艦の浮上航行はそれ程に無防備な状況なのだ。また、つい先日の出所不明なアスロックの件もあり、水上艦はともかく潜水艦は神経質になるべきである。伊58の隷下、そのような無防備な事をするとは考えにくい。
「……海馬島、か」
海馬島、もう一つの北方領土であるあの島は現在もロシアの占領、実効支配下にある。もっとも深海棲艦が現れてからは協力体制を取っており、領海を越える事も已む無しという姿勢を取っている。それ故にロシア海軍もレニングラードや、ヴォロシーロフ、スラーヴヌイといった艦娘を派遣、撃墜された所属不明艦娘を捜索しに来るようだ。
「ロシアの連中、また酒くさいのかなー」
「……レニングラードが素面なの見た事ないぜ」
レニングラード。彼女はイタリアから交流を名目にやってきた事があったポーラ同様に延々と飲み続けるようで、北上達は素面を見た事がない。終いには前後不覚に陥る困った艦娘であるらしいのだが、それでもロシアでは歴戦の艦娘らしく、きな臭い事があれば即応してくる。
現に彼女達と北上等は領海ギリギリに出現した北方棲姫率いる艦隊を、積極的防衛を名目に迎撃ではなく、出撃し撃破している。国同士のグレーゾーンを互いに渡り歩いているのだ。
「まぁ、嫌いじゃないんだけどさ」
「響どうしてますかね」
「たまにロシア語ぼやいてるんじゃない? 金剛の似非英語みたいに」
「昔ああいう話し方をする俳優が居てだな……」
「木曾、Ageがバレるよ」
「うるせーや」
他愛もない会話だったが、これが出来るのが戦友であるというのが北上の持論であった。兵隊、特に最前線に居る者達は冗談や軽口を嗜む者が多い。こうでもしなければ戦場で正気を保っていられないからだ。砲声は自他関係なく精神を蝕み、雷跡は恐怖を齎す。それを紛れさせる事が出来るのは下らない笑いだけなのだ。
「ねー、大井っち。明日なんにもなければいいよねー」
「……私達のような兵士が戦わないのが、一番ですからね」
兵士が戦わないのが一番。大井の言葉は尤もである。戦争は人間の本性である、などと口走る社会不適合者が少数、存在しているが決してそんな事はない。誰も血を見ず、心に傷を負わず平和的にいけることが一番なのだ。少なくとも北上達は90年前からそう思っているのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.20 )
- 日時: 2016/05/18 00:42
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
何も起きなければ良いと相槌を打っていたが明日、何かがある。大井にはそんな気がしてならなかった。まだ真名を名乗っていた頃、護衛艦「まきなみ」の艦上で感じた形容しがたい悪い予感。それに似た何かを感じてしまっていた。
(悪い予感ほど、よく当たるのよね)
護衛艦「まきなみ」で感じた悪い予感は、日本初の深海棲艦との交戦という結果を齎した。今回の海馬島でも何かがあるのだろう。それこそ新種の深海棲艦と遭遇するかも知れない。艦種は? 対処要領は? 姫か、鬼か? 一つアンノウンが出現しただけで、今まで築き上げてきた代物が全て瓦解する可能性すらある。大井の思考は悪い方へ、悪い方へと回り、杞憂とすら言われかねない程の不安を抱いていた。
大井は自分に言い聞かせる。私は決して神通のように勇敢ではない。摩耶のように何でもこなせる訳でもない。霧島のように強い訳ではない。先制雷撃を得意としているだけだ、と。もし魚雷の効果がない相手だったら、もし魚雷を避けられたら自分に被害が及ぶだけではなく、艦隊を危機に晒すかも知れない。重圧に押し潰され、圧潰してしまいそうな自分の心に苛まれ、思わず顔が歪む。それを紛らわせようとポータブルオーディオプレイヤーのタッチパネルを指でなぞり、音量を上げた。金切声一歩手前のボーカルが、大井の鼓膜へと突き刺さる。
「大井っち、音漏れて——」
何処か間延びした北上の声は、大井の耳に届く事はない。それどころか北上は途中で言葉を詰まらせてしまった。大井の面立ちがそれ程までに、強張っていたからだ。
「……気にすんなよ」
横目でそんな様子の大井を見ていたであろう、木曾が静かに呟くように言った。
「あれはあれで良いんだよ。戦場じゃ臆病くらいが丁度良いってもんだ」
そうじゃなきゃこうなる。と既に失われ、眼帯に覆われた眼窩を指さし自嘲するような笑みを浮かべた。
かつて、長門であった今川が司令に就任する際、"驕りと慣れは心の贅肉である"と言葉を発していた。初心忘れるべからずというのは、戦場に立つ以上では最も必要な事で、慎重すぎるという事はない。相手は明らかな殺意を以て、敵対行動を取ってくるのだから猶更である。
「じゃ、我慢するかー」
音漏れを気にした所で、暫くこれは収まらないだろう。気を紛らわせるためには好きにさせておくのが定石だ。そもそも北上も大井と同じだった。左手に持った好物のチョコレート菓子が袋の中で自分の体温で溶けている。既に空となった袋が幾つも押し込められた小さなゴミ箱が北上の暴食を物語っていた。
姉妹艦の名を冠した二人の艦娘を、一つの目で見ながら木曾は思う。一体いつまで戦い続ければ良いのだろうか、と。戦いは身体を傷付け、恐怖は精神を蝕み、その二つが合わされば命を奪う。また戦いが終わってからも兵士を追い詰め、死神を遣わす。いつまでもこんな青く、猛り続ける地獄に身を置き続けて良いものか。
「俺も出来れば行きたくないがな、得体の知れないモンが沈んでる場所になんてさ」
「だよねぇ。何沈んでるんだろ?」
「それを明日見に行くんだろ。海空両用の深海棲艦なんて勘弁して欲しいぜ」
「空飛ぶ艦……」
「俺ら、魚雷を遠投しなきゃならないのか?」
「VLSを96セル搭載した北上さまにならなきゃ」
「……イージス艦だろ。それ」
対空番長を自称する摩耶や、秋月型の艦娘達が聞いたらなんというだろうか。摩耶は品なく「ついにお役御免か!」などと笑い、秋月型の艦娘は対抗意識を燃やす事だろう。また、実際にそんな艦娘が居たら、戦力は飛躍し精神的な負担は大幅に軽減される事が想像される。
決して摩耶の前では言えないが、余市には心の拠り所となるような、絶対的な艦娘がいない。大湊の神通、妙高、函館の伊勢型姉妹、大島の霧島。そして、佐世保にかつて所属していた長門と武蔵。そういう意味ではイージス艦「きたかみ」はとても魅力的な話だった。
「北上さんはイージスになる前に乙型護衛艦でしょう?」
「黒煙上げながらガタガタ海走るってか? 近くの住人からクレーム来るぜ」
「長魚雷使えるって魅力的だけど……、やっぱ魚雷かぁ、ちぇー」
いつの間にか二人の会話に聞き耳を立てていたのか、大井も会話に加わり北上を弄りだす。愛想笑いによく似た、苦笑いを浮かべる北上であったが、自身が弄り回される事に別段、居心地の悪さを感じておらず、それが常である。
「でも、私達が強かったら皆楽だよねー」
戦いも、心もと続けようと考えたが、北上は口を噤む。元来が兵士だったであろう木曾と大井の前で口走るのは無神経だと思ったからだ。艦娘となる前は戦いという物は身近な存在ではなかった、それが故に平時はやはり思考が緩む。どうしようもないと北上は自嘲していた。
「楽な戦いなんてあるかよ。人民解放軍の連中を日本海にぶち落とすのに、西部方面隊は苦労したんだぜ?」
「……楽な戦いでも、ちょっとした事で人は死にますからね」
「まったくだ。函館のあきつ丸なんて生前、沈められた運貨船のバウ・ランプに足挟まれて死んだんだからな」
案の定、地雷を踏んだと北上は頭を抱えるのだった。
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.21 )
- 日時: 2016/05/24 00:55
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
深海棲艦の艦載機、それは深海棲艦の兵装の一部ではなく、一種の深海棲艦であるという解釈を防衛省は示していた。艦娘達もそれに準拠した考え方をしており、現に舞鶴では日本海上空に補足したアンノウンを取り逃がした結果、突如として空母棲姫が率いる空母ヲ級ならび空母ヌ級が率いる空母打撃群が構成、近隣に存在した水上打撃を目的とする深海棲艦達が大規模な戦力を、構成し舞鶴が被害を被った事もあった。
護衛艦「たつた」の搭乗員待機室でブリーフィング資料に目を通していた鳥海は、顔を顰めながら今回の任務の必要性について、考えていた。撃墜したのであれば回収する必要性はない。更には近隣国から撃墜された旨を挙げられていない。であれば、深海棲艦の艦載機であるとするべきだろう。
ブリーフィング資料に添付された深海棲艦の艦載機は、異形の艦載機、どう考えてもそれが空を飛ぶとは考えにくい形状をしていた。対空砲を浴び、一部拉げたように破損していたそれは、青白い液体を止め処なく垂れ流している。
「摩耶。これ撃墜されたらもう"溶けてる"んじゃないの?」
溶けてる。そう鳥海は言う。深海棲艦も、深海棲艦の艦載機も撃沈、撃墜したばかりでは炎上したりしているが、艦娘に変貌しない限り、撃破され行動を停止すると、深海棲艦は海水に溶けるのだ。
「……あぁ? アタシ等は兵器、兵隊その類だろ。上からの命令にはYesか"はい"しかねぇんだよ。……分かんだろ?」
摩耶も鳥海と同じ見解らしい。表立って組織上の批判こそしないものの、腹の中では意味ないと思っているらしい。羽織った海洋迷彩服の胸ポケットから顔を覗かせるマールボロの封が切られているあたり、不服からストレスを感じているようだ。
「吸うのは構わないけど、通路でお願いね」
「……置いてくるの忘れてたぜ」
苦笑いを浮かべながらマールボロと携帯灰皿を電纜棚の上に置くと、摩耶もブリーフィング資料へと目を通し始めた。そこにはかつて撃墜した深海棲艦の艦載機や、球状の飛行物体。更にはそれの母艦となるであろう深海棲艦達の写真が添付され、対処要領が事細かく記されている。
ロシア海軍に籍を置く艦娘、レニングラードやヴォロシーロフ、スラーヴヌイ達はこの事実に目を通しているだろうか。彼女達も歴戦の艦娘である。緊急事態での場当たり的な対応については、定評があるが作戦前の段取りが如何せん悪い所もある。既に彼女達は海馬島へと到達しているだろうが、そこでもし深海棲艦達の攻撃に遭えば、数的不利に陥るのは確実だろう。
「摩耶、そろそろ……」
「あぁ、分かってらぁ。行くか」
雷巡達は既に後部甲板に集まり、潜水艦達は艦の姿を取って「たつた」の直衛として哨戒しながら同行している。電探をLINK16に同期させ、摩耶はゆっくりと立ち上がる。現在、「たつた」は深海棲艦やアンノウンの情報をもっていない。また第4潜水隊から標的情報はなく、安全に航行しているようだ。
「やっぱ、最後に一服させてくれ」
「持ってったら良いじゃないの」
それもそうか、と置いたばかりのマールボロを海洋迷彩服の胸ポケットにしまい、一本を口に咥えると、ライターを持った鳥海の手がそこにあった。何時の間にライターを取ったのだろうか、と感心し眺めているとフリントを回転させ、ゆらゆらと揺らめく橙色の炎を見せ付けてきた。
「わりぃな」
「気にしないで」
煙草を咥えたまま、その先端に火を付ける。一息吸い、一息吐く。この動作を何度か繰り返すと、煙を身に纏いながら、摩耶は搭乗員待機室の水密扉を開いた。海は厭に静かで、白波一つ立っていない。太陽を覆い隠す雲すらない。あぁ、嫌な天気だ。そんな事を思いながら摩耶は外舷へと歩み出した。
カモメがやけに空高く飛んでいる。これは近々海が荒れ出す前兆である。しかし、空には雲一つない。海象的に何故カモメ達が、これほどまで空高く飛ぶのか、理屈が付かない。学術的にはつくのかも知れないが、そういった知識を持ち合わせない摩耶には理解が及ばなかった。
「……やーっと出てきたか。さっさと行こうぜ」
外舷で鉢合わせたのは木曾であり、何処となくニヤけている。何が面白いのだろうか、摩耶には分からなかった。しかし、彼女は出撃前によくこうやって笑みを湛えている事が多い。決してウォーモンガーの類ではないのだが、何故か笑っているのだ。本人も自覚がないらしい。
「おい、スマイリー。今日は眼帯して、どこにお出かけで?」
「海馬島までご一緒してくれやしませんかね、お嬢さん」
互いに軽口を叩きながら、木曾と摩耶は共に歩む。彼女達の視線の先には外舷から身を乗り出し、今にも海へと飛び込みそうな北上と、その様子を苦笑いを浮かべながら見つめている大井が居た。
「はりきってんじゃねーか」
「まーねぇー。たまにはさー、仕事しないと」
「そうですね、今川司令に51cm連装砲ぶち込まれてしまいます」
「冗談じゃねぇなぁ」
冗談でも51cm連装砲など食らいたくはない。直撃した深海棲艦を見た事があるが文字通り「粉微塵」になっていた。恐らく艦娘もそうなる事だろう。尤も彼女の小言は51cm3連装砲、もしくはSSM-1Bに匹敵する威力があるのだが。
「……馬鹿言ってないで行ったら?」
どこか冷めた鳥海の一言に、一同の興が冷めたのか、ゆっくりと暴露甲板へと歩みを進めた。これから何が起きるのか、想像は付かない。何事もなければ良い。何かあっても誰も欠けなければ良い。そんな事を思いながら、摩耶は咥えていた煙草とその身を海に投じたのだった。
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