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【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】
日時: 2016/11/17 17:25
名前: ナル姫 (ID: bkADf4XB)

 緑雨りょくう
  ——新緑の季節に降る雨。《季 夏》

  引用:デジタル大辞泉


足をお運びいただきありがとうございます。
タイトルを見てお察しいただけましたかと思います通り、当小説は明星陽炎様のFate/stay night二次小説『人間未満の聖杯戦争』の転生物、現代社会人パロディとなります。
ですので、『人間未満の聖杯戦争』主人公である七紙時雨、ディルムッド・オディナが主人公、教会組が主要人物となります。その他、新たにオリキャラとかちょいちょい出てきたりします。
魔術も無ければ魔法もない、そんな普通の世界で恋して喧嘩して泣いて笑って、最後はやっぱり好きだよ——みたいな、
恋 愛 夢 小 説 だ と は 思 わ な い で く だ さ い 。

関係性としては八割九分家族してます。普通の恋愛夢小説を期待していた方々、ごめんなさい。(菩薩顔)



たまーに暴力表現だったりシリアスだったりありますが、だいたい平和してます。
年齢としてはサザエさん方式になっております。深くツッコんではいけない。

  ※尚、この小説は『人間未満の聖杯戦争』の ネ タ バ レ を含みます。
  ※ネタバレ箇所になるページには、目次に*マークをつけます。


さてまともな挨拶もままなりませんが、とりあえず最低限のネチケットとルールを守り読んでくだされば嬉しいです。

それでは彼らの日常喜劇、お楽しみくださいませ。

目次は>>2

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Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.26 )
日時: 2017/01/14 03:26
名前: ナル姫 (ID: WEVaA//0)

 クーが教会に帰って暫くすると、浴衣姿のディアルムドと時雨が帰宅した。夕飯は食べてきたのだろうし、作っていない。

「ただいまー」
「只今帰りました」
「おかえりさん。風呂湧いてるぜ」
「やった! 入る!」
「何故それを言わぬ狗!? 待て時雨我が先だ!!」
「知らないな! ぼくが先!!」

 やれやれとディアルムドは早々に風呂争奪戦から離脱し、二階に上がった。だが上がる前に、時雨に声をかける。

「時雨、自分で浴衣脱げるな?」
「それはいける! ってギルにい脱ぐなァァァァ!!」
「ふはははは脱いだもん勝ちよ!!」

 なんて卑怯な手を、と苦笑いを浮かべながらディアルムドは部屋に戻ろうとしたが、クーに、なぁ、と呼び止められる。

「はい?」
「ちょっと話があんだけど、後でいいか?」
「……? いい、ですけど……」

 ここでは言えない話なのだろう。ディアルムドは首を傾げながら二階へ上がった。
 部屋に入り、浴衣を抜いで私服に着替える。結局三日間、あの会場にいたことになる。明日からまた仕事だ。切り替えなければならない。新学期が始まるまで事件はまだ起こるだろうし、気は抜いていられないなと浴衣を片付けた。

   *

 ギルガメッシュが風呂から上がり時雨が入ったところで、ディアルムドはリビングに行った。後で、ということは時雨に聞かれたくないということなのだろうとは容易に想像できた。

「アイカってどんなやつなんだ?」
「………………はい? アイカって……え? 蔵元ですよね? どうもこうも、今まででわかっているのでは?」
「お前の記憶に聞いてんだよ」
「……」

 あぁ、なるほどと、数回頷いた。言いたいことがわかった。あいつも、『ディルムッドの知り合いなんじゃないか』と、そう睨んでいるのか。まぁたしかに、時雨があそこまで仲がいいのだ。前世に関係があったのかもしれない、それくらいの想定はできるのかもしれない。 

「あいつ、アングハラードって名前の女中だったんですよ。ブルー・ナ・ボーニャの」
「ブルー・ナ・ボーニャって、お前の親父さん……オェングスの?」
「はい。アングハラードの父親が父上に仕えていて、母親のいなかったアン……アングハラードがそのまま、幼い頃から王宮に仕えていたんです」
「へぇ……幼いっていくつくらいだよ」
「えっと……俺より5つくらい歳上だったから、十歳やそこらじゃないですかね。俺が五歳のときには俺の身の回りの世話してましたから」

 今はかなりしっかりもののディアルムドである。幼い頃から、前世での生活の甲斐あってか、それなりに生活するだけの能力はあった。だが本人言うには、前世での幼い頃は服の着脱すらろくにしなかったとのことである。そういうことをしていたのが藍那——アングハラードなのだろう。

「アイカは……お前の黒子効き目あったのか?」
「今思うとよくわかりませんねぇ……ただ、神の血も妖精の血も、ドルイドの血すら入っていなかったとの話ですから、抵抗できるだけの魔術的な力はなかったはずです。でもまぁ、ほら、藍那ですから。ほぼ気合で無効化みたいなところはあったかと思いますよ」
「気合?」

 黒子の魅了は、かの美と恋を司る妖精王がつけたものであり、ステータスのスキルとしてはそこまで強力なものでなくとも、一般女性は普通全く抵抗ができないはずだ。それは、たとえ彼が生きたのが未だ神と関わりを持ったケルトの世界でも変わらない。

「ほら、藍那って……ああいう性格じゃないですか。あれ、前からああなんですよ。熱しやすいし、冷めやすい。それで面食い。俺の魅了にも当然引っかかったと思います。でも、それが魅了の魔術だとアングハラードは知っていました。なにせ、王宮に仕えていたのですからね」
「……」

 クスリと笑うディアルムドを、キョトンとクーは見つめる。何が言いたいのか、恐らく理解できていないのだろうと推測した。

「……そのまま……それこそ、ソラウ様やグラニアのように、俺の魅了に引っかかったまま、無抵抗でいる手もありました。実際、タラやブルー・ナ・ボーニャにもそんな女中はいました。でも彼女は、魅了の魔術で恋をするのが嫌だったんです。自分が、ちゃんと好きになった人に恋をしたいんです。こんな謂れのない恋をして貯まるかと、彼女は魅了に打ち克ちました。アンは……藍那は、妥協を知りません。それに、後々冷める相手には、本当に一ヶ月か二ヶ月で冷める奴ですよ。でも御子殿は、もう二年くらい想われてる」

 にこりと笑うディアルムドの言葉に、若干クーが顔を赤らめる。

「あいつは、これからも折れません」

 藍那はこの先折れるか、否か。その正解が欲しかったのでしょうと言いたげな笑顔で、ディアルムドは言い切った。そうかねぇ、とクーは納得行かないような声を出すが、ディアルムドはその表情に笑いを堪えるので精一杯だった。

 ——とっても嬉しそうな顔をしている癖に、御子殿には自覚がないのでしょうね。

「サンキューなディアル、参考になったぜ」
「お役に立てたのなら何よりです、光の御子」

 クーはディアルムドの言葉を聞きながら立ち上がり、台所へ行った。恐らく、冷蔵庫の中身を確認して買い物メモでも作るのだろう。予想通り、彼は冷蔵庫を開けて数秒見つめると、リビングに戻ってきて文具入れからペンとメモ帳を取り出した。
 その時、風呂から上がった時雨が顔を覗かせた。

「ディアル風呂いいよー」
「……わかったからパジャマを着ろ」

 はぁ、と溜息を付きながらも苦笑いを零し、ディアルは風呂場に向かった。クーの書き込んでいた買い物メモにはピーマンの文字。細かく刻んでチャーハンに入れてみる、とも書かれていた。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.27 )
日時: 2017/01/14 03:25
名前: ナル姫 (ID: WEVaA//0)

「俺は衛宮士郎。えっと……何言えばいいんだ?」
「まぁなんていうか、あれだよね」
「この作品の原点の原点、お馴染みFate/stay nightの主人公だ」

衛宮士郎 Shiro Emiya
 ディアルムドと時雨の同級生。高校を卒業してからは、機械などの修理会社に勤務している。
 衛宮切嗣の容姿で、家事などは主に士郎と後述のエミヤが行っている。前世と違い正義の味方を目指してはいないが、善悪の区別はちゃんとつけ、自分は善を目指すようにしている。相変わらずお人好しで、若干天然である。
 第五次聖杯戦争では、セイバーアルトリアのマスターとして参戦。今ではそのアルトリアと付き合っている。


「私の名はエミヤ……名はあの未熟者と同じだが、まぁエミヤと呼びたまえ」
「よっ、ガングロガチムキかーちゃん!」
「誰がかーちゃんかね」

エミヤ Emiya
 クーやギルガメッシュの同級生で、カフェの店長をやっている。このカフェには常連やここの馴染みたちが屯する他、稀にディアルムドが仕事で聞き込みにくることもある。
 士郎の縁戚だが、何があったのか士郎を嫌っている。凛と両思いを噂されているが、本人は否定している。真面目で現実主義、おまけに皮肉屋だがお人好しな一面も。
 第五次聖杯戦争では凛のサーヴァント、アーチャーとして現界。中学生のときに日本に渡ってきたクーと再会、戦争の記憶を思い出したらしい。


「そして、実はほぼノリで作られた人物!」
「我らが最強猫かぶり藍那さん!」
「猫はアンタもおなじでしょ! てゆうかノリって何よ! 酷いじゃない!」

*蔵元藍那 aika Kuramoto
 ディアルムドや時雨の同級生で、現在は女子大の二年生。
 第五次聖杯戦争時には、時雨のバイト先の先輩であった。
 熱しやすく冷めやすい恋多き乙女。面食いで勝ち気な性格で、高校生のときからクーに恋している。人前では基本猫を被っているがその実普通に殴り合いをするような気性であり、時雨が猫を被らない珍しい相手。
 ケルトの世界では、ディルムッドの養父オェングスの王宮に仕えていた女中で、ディルムッドの身の回りの世話をしていたが、戦争時含めて彼女に記憶があるのかは不明。


「はぁ? 何で自己紹介とかしなきゃいけないわけぇ?」
「ワカメとか言っとけばいいんじゃない?」
「それは流石に気の毒だろう……」

*間桐慎二 Shinji Mato
 ディアルムド、時雨と同級生で、現在は大学生二年生。
 第五次聖杯戦争時には義理の妹である桜の召喚したライダーを使役していた。
 プライドが高く口が悪い、おまけに平気で他人を利用するなど、前世の問題児っぷりは直ってはいないが、多少は丸くなっており、どちらかというと自然とツッコミに回らされる不憫枠。
 また、藍那とはよく口喧嘩する仲だが基本的には負ける。犬猿の仲というよりはケンカ友達という関係が当てはまるくらいには仲が良いが、互い全く恋愛感情とかない。
 前世の記憶の有無は不明。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.28 )
日時: 2017/01/15 21:21
名前: ナル姫 (ID: IIKIwyJA)

「被害者は昨日午後三時頃、寺の参拝に訪れたところ加害者の少年と遭遇、そのときにはすでに刃物を持っており、胸の右側を刺され、第一発見者である住職が通報し事件発覚。被害者と第一発見者によると、少年は中背中肉、半袖のパーカー姿、顔はよく覚えていないそうですが、大人でなかったことはたしかだそうです。凶器は全長27cmのワイルドハンター。現場に捨てられていて、付着した血が被害者のものと一致していました。周辺住民に警戒と情報提供を呼びかけています」
「怖えな」

 車を運転しながら、寺林は顔をしかめる。助手席のディアルムドは溜息を吐いた。夏休みも終わりに近づく下旬、まさかこんな事件が起ころうとは思っても見なかった。

「被害者の情報は?」
「あ、はい。えーっと……被害者は笹本芳雄(ささもと よしお)さん70歳。定期的に件の寺に参拝していましたが、犯人の少年を見るのは初めてです。家族構成は息子さん夫婦とお孫さん、それと独身の娘さんがいますが、現在は娘さんが一人暮らしで、笹本さんは息子さん夫婦、お孫さんと四人家族。奥さんは昨年の五月に亡くなっています」
「なるほどねぇ。なんつーか、気の毒に。孫と同じくらいの年の奴に刺されるとはなぁ」
「ちなみにお孫さんは七歳です」
「…………」

 哀れみを含んだ目をした寺林にそう付け加えると、彼は片手をハンドルから離してその手を額に当てた。妄想で恥ずかしい同情をしてしまった、と言うような顔だ。

「まぁ、いい……他に情報は?」
「いえ……特には。あのお寺が日蓮宗の寺ってだけですね」
「宗派の争いだったりしたら面倒だよなぁ」
「カトリックとプロテスタントみたいなもんですか」
「そうそう。仏教は多いぜ。日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、臨済宗、時宗、天台宗、真言宗、あと……」
「あーもういい、もういいです、覚えきれません」

 まだまだ続けるつもりと見られる寺林に、首を振り、座席の背もたれに頭を乗せる。隣を見れば、寺林は運転しながらニヤニヤと笑っており、反応を楽しんでいることが伺えたが、日本史が苦手なディアルムドにとっては脳の思考回路の死活問題だ。

「だがよ、ディアルムド」
「はい?」
「もし本当にこれが新興宗教が日蓮の邪魔をしてるとかだったら面倒なことになるぞ」
「? ……なんでですか?」
「宗教は警察でも深く介入できないかんな。衝動的な犯行とかだったからいいんだが」
「……最初から凶器を所持してたならそれはないかと」
「そこなんだよな」

 はぁ、と溜め息をつきながら、寺林はハンドルから片手を離し煙草を取り出した。加えると、ポケットからライターを取り出し、タバコに火をつける。ディアルムドはカチッとドアの窓を下げた。
 寺林とディアルムドは、現場周辺の住宅街で情報を集めるよう指示されていた。

「……とは言っても」

 ぐったりとした様子でディアルムドは全開した窓の縁に腕を乗せ、その上に額を乗せた。

「少年ってだけじゃ見た目的な手掛かりなんてほとんどないですよねぇ……行きにナイフを持っていたかもしれないだけですが、そこまで間抜けじゃないでしょうし……」
「凶器は捨ててあったんだよな。指紋は?」
「残っていません。綺麗に拭き取られていました」
「拭き取られてたぁ? 逃走前に拭き取ったってことか?」
「凶器に使用されたワイルドハンターって、サバイバルナイフなんですよ。なので……」
「本人じゃなくても、その家族の指紋がついていたから、事前に拭き取った、か……手袋なんかは?」
「被害者は見てません。ですが指紋はなかったので、ティッシュや薄いハンカチなどを巻いていた可能性が高いかと」
「……なるほどな。こりゃぁ相手は手強いぞ。手袋は嵩張るし、つけたままじゃ人の目にもつきやすいが、ハンカチだのティッシュだのはポケットに入れりゃ良いからな。犯人自身頭がいいか、または……」
「犯行を支持した、大人の共犯者がいたか」
「どっちかだな」

   *

 住宅街につき、一つずつ回ることになる。しかし、これだけ多くの住宅があるのなら、目撃情報の一つや2つ寄せられても良さそうなものだが、さすがは夏休みとあって、少年少女は多く外で遊んでいただろう。しかし事件の後とあって、人っ子一人いなかった。

「……あっつい……」

 真上に登る太陽が憎い。もうすぐ昼だが、正直そんな食欲はない。

「ジャケットくらい脱いでもいいんじゃねぇか? そんなキッチリした格好じゃ引かれるぜ?」
「シャツが汗で腕に染み付いたら傷跡見えるんで嫌です……」
「直に見えなきゃ誰も気にしねぇって」

 寺林は言いながら車の鍵を開けた。置いておけというサインだろう。少し渋ったが、このまま熱中症になっては元も子もなく、ディアルムドはジャケットを抜いて座席に置いた。
 一軒目、チャイムを押すと、少し時間を開けて鍵を開ける音がし、ついでドアが開かれたが、チェーンがあって開けた人——その家の奥さんだろうと思われる——の顔は半分ほどしか見えなかった。

「お昼のところ申し訳ございません、警察の者です」

 寺林に続きディアルムドが警察手帳を出した。手帳を見ると安心したらしい女性は、少々お待ちを、と一旦ドアを閉じてチェーンを開けた。

「お前、警戒されてんな」
「外人すら若ければ警戒するくらいの姿勢はいいと思いますよ」

 苦笑して返したとき、ドアが再び開いた。暑いでしょうからどうぞ、と家に上げられる。

「お茶を……」
「いえ、ここで結構です、すぐ済みます。ええ、確認するまでもありませんが、すぐそこの寺院で起こった殺人未遂事件はご存知ですか?」
「えぇ、勿論。笹本さん家のおじいさんが刺されたって……ご無事でしたか?」
「はい、命に別状はありません。ええ、昨日の午後三時前後、ワイルドハンターを持った少年を見かけませんでしたか?」
「ワイルドハンター?」

 首を傾げた彼女に、後ろに控えてメモを取っていたディアルムドが、手帳から一枚の写真を取り出した。言うまでもなく凶器の写真だ。

「このナイフです。全長は30cmほどで、折りたたみ式ではありません」

 女性は凝視していたが、また首を捻った。軈て首を振られ、ありがとうございますと写真をしまった。

「その他に、怪しい少年を見たということは」
「ごめんなさい、子供はたくさんいたので……」
「……そうですか。わかりました。最後に、笹本さんが何か恨みを買っていたというお話などは?」
「いえ、何も……」

 予想通りだ。これ以上色々聞いても無駄だろう。

「ご協力ありがとうございます。なにか思い出すことがありましたら、どうかご連絡を」

 寺林が差し出した名刺を、おずおずと女性は受け取った。二人は一礼して家から出た。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.29 )
日時: 2017/01/27 12:41
名前: ナル姫 (ID: /7b9bPFg)

 その後数件回るも、二人は有力な情報を得られないでいた。一軒目と大体同じ内容の返答が返ってくるのみだ。

「この辺で新興宗教の話とか聞きませんかーとか、そういうこと聞けないんですか」
「そういうのは相手から言うまで聞くなよ。んなこと聞いたら警察がそう睨んでるってどっかから話漏れるぜ。面倒だとは思うが、やっぱ宗派同士の啀み合いの要素が強そうだな。被害者は恨みなしで家族仲もいい。しかも最初から殺すつもりだったとなれば、な……」
「……話が漏れるって、まさか」
「警察が簡単に信じるなよ、人を」

 寺林は声をひそめる。ディアルムドは固唾を飲み込んだ。

「まぁなんだ、とりあえず飯くおうぜ。近くで適当に探してよ」
「あ……はい」

 背を追いかけて少し駆け足になるが、唐突に足を止めて振り返る。この街はすでに、何かの宗教に覆われているかもしれない……寺林はそう言いたいのだ。納得できないとは言えない。寄せられない情報、同じような反応をする住民……偶然と言ってしまえばそれまでだが、この先も、全員同じ反応をされてしまえば、それは偶然といえるのだろうか。
 もし、本当にこの住宅街全体が共犯だったとして……それはどうすればわかるのだろうか。誰一人として口を割ることはないだろう。宗教は警察も介入できない精神の自由。だが事件が起こったからには放っておけない。

 ——30cmの折りたためないナイフだぞ……そんなものをどうやって、人にバレないように持ち運ぶんだ……。

笹本さんの家はこの住宅街から少し離れたところにあるため、犯人とは面識が無くとも不思議ではないが、その犯行動機は?もし、この住宅街に笹本さんの家があれば、笹本さんが宗教に染まらなかったために殺害しようとしたと考えてもいいが、離れているのなら殺害することもないのではないだろうか……。

「おーい、ディアルムドー?」
「あっ……すみません、今行きます!」

 ……ふと背後から視線を感じた気がしたが、振りほどくように走り出した。

   *

「は? 数日って何日?」
『何日って言われても数日は数日だ。まぁ伸びるかもしれないが……』
「えー……」

 リビングで明らかに不服そうな声を出すのは、昼食を摂り終わり、片付けをしようとしていた時雨だ。ソファーに座っているギルガメッシュが、ニヤニヤと笑いながら時雨の声を聞いている。

「……わかったー……」
『あぁ、明日もまたちゃんと連絡入れるから』
「言ったな? 入れろよ、絶対入れろよ」
『はいはい』

 そろそろ切るぞ、と言い切り、返事をする前に着られた。泊まると言っていたし、仕事が忙しいのだろう。それでも連絡は入れると言うのだから偉いものだと思う。

「何だ、旦那に裏切られたか?」
「数日泊まりだってさ。ちゃんと連絡は入れるって言ってたけど」
「ほう、そうか。道理で不服そうな顔をしているわけだ」

 むすぅと膨れている時雨に、くつくつとギルガメッシュが笑い声を漏らす。
 ディアルムドは下っ端の警察の割には、生活安全課所属のためかよく帰ってきてくれるため、帰ってこないと時雨が頬をふくらませる弊害が起こっている。だからこそ帰ってきてほしいのだが、ギルガメッシュのような在宅ワークでも時雨と綺礼のような自宅が職場でも、ましてやクーのようなフリーター状態でもないからこそ、こちらとしてもあまりわがままは言えない。

「まぁ、良いではないか。冬木署はそれなりに管轄が広い。その治安維持となればそれなりに忙しくても仕方あるまいよ。ディアルもだが、外人の移住も多いしな」
「今回は冬木じゃないってよ。隣の市」
「ほう。隣、ということは……」
「セイバーさんが通ってる道場とか、近いかも」

   *

「へっくし!」

 む、という表情で、時雨とギルガメッシュの会話の人物——アルトリアは、昼食後に剣道の道場へ帰るところだった。彼女は高校卒業後、大学に通いながら道場に通っている。士郎の家に居候している彼女はその剣道の腕から、『セイバー』と呼ばれている。

「風邪でしょうか……? いえ、この私が夏を疎かに過ごし風邪を引くなど有り得ません! 私は健康です!」

 ぐっと拳を握って独り言を言うセイバーは、たしかに健康ではあった。しかし、ギンギンと照りつける太陽の真下というのは、蜃気楼というのもあって気を抜くと視界がゆらゆらと揺れていく。

「下旬だというのに……残暑なんてものじゃないですよ……」

 はあ、と溜め息を吐き出して道場までトボトボ歩いていながら、そういえばと顔を上げる。

 ——やはり事件の影響でしょうか……この辺にも子供を見かけんね。

 歩いている場所は事件現場からは離れていたが、同じ市内で起こったのだ。親の警戒も当然と言える。セイバーは、自然に足早に道場へ向かったのだが……その時だった。

「……?」

 三人の女性が話しているのを見かけた。こんな、事件が起こった近くだと言うのに立ち話かと思いつつも、三人の表情が真剣そうで耳を傾ける。

「本当にねぇ……娘さんでしたっけ?」
「そうそう、何か最近変な壺とか買ったらしくて……」
「どこにそんなお金あるのかしら」
「きっと借金よ借金!」
「そのうちお兄さんやお父さんに泣きついてきそうねぇ……」
「そんなときに刺されちゃうなんて、笹本さんったら本当にお気の毒……」
「運がないとかそんなんじゃ済まないわよねぇ、あれは……」

 なんの話かわからなかったため、セイバーはその場を離れた。そして再びその足を道場へ向け、炎天下の中を歩いていったのだった。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.30 )
日時: 2017/02/14 20:40
名前: ナル姫 (ID: uiJl2442)

 結局その日に捜査に進展はなかったが、報告は行わなければならず、ディアルムドは溜息を吐いてこの事件の担当となっている刑事へ報告へ向かった。

「進展は」
「ゼロです……」
「聞き込みはどうだったんだ」
「あの住宅街での反応はほとんど変わりませんでした。ワイルドハンターを持った子供は見ていない、笹本さんが恨みを買ったなんて話もない」
「宗教のことは何か聞けたか」
「何も。宗教のことは相手が口に出すまではこっちから聞くなと寺林さんが」
「正しい判断だ、さすが寺林」

 うんうんと満足そうに頷くのは、刑事課のエリートで、彼より一回りと少し年上である横尾貴之(よこお たかゆき)だった。彼はディアルムドが提出した資料を机に置いて背伸びをする。目の前のパソコンを見る限り、一日整理に追われていたのかもしれない。

「刑事課の報告は……」
「それならお前と行き違いに桃香がそっちの課長に言いに行ったぞ。あとで聞いとけ。……で、そろそろ夕方だがお前今日どうすんだ? 帰んのか?」

 聞いてきた貴之に、一瞬キョトンと目を丸くしたあと、苦々しい表情を浮かべる。

「当分帰すつもりもないのでしょう?」
「おっ、よくできました。恐妻家じゃなくて良かったなぁお前」

 にやりと笑うと貴之は声を潜めた。

「グラニアだったら逃しちゃいねぇぜ……」
「……存じております義兄上あにうえ……」

 ……貴之には記憶がある。彼は桃香——ディルムッドの妻グラニアの兄、ケアブリ王子である。フィオナを嫌っていたためにフィオナに対して宣戦布告し、オスカーと一騎打ちになり相打ち、フィオナを滅ぼした人物ではあるが、その頃はすでにディルムッドは死んでいた上に、フィオナが王子側とフィン側に分裂してしまった原因の一端に自分とグラニアの駆け落ちもあったため、そうギスギスした関係にはなっていない——というより、現世においてもグラニアに悩まされている仲間として、それなりに仲が良いのが現状である。

「もう娶れよ……実質桃香娶れよお前は!! あいつ兄に対して当たりが強すぎんだよ!」
「形の上で幼馴染娶って事実の上で桃香さん娶るってなんかもう最凶じゃないですか。もちろん強いんじゃなく凶々しい意味で」

 苦笑もできずに返すした瞬間、カツカツとヒールの音が響いてきた。目を向ければ、話の中心にいた人物——桃香が廊下から現れた。

「あら! ここにいたの言峰くん」
「お疲れ様です、横尾さん」
「もぉー、桃香でいいって言ってるじゃない。横尾って二人いるんだから!」
「い、いえそういうわけには……」

 笑みを引きつらせながら足を一歩一歩後退させる。あーあ、というような瞳で貴之は二人を見ていたが、やがてディアルムドに助け舟を出した。

「桃香、向こうの反応は?」
「好調です。何せこちらがいい情報を掴んできたのですから」
「いい情報?」

 ディアルムドが食いつき気味に、期待に目を光らせて口を開く。桃香はクスリと笑った。

「それは生活安全課に戻ってからのお楽しみよ。そういえば昼に貴方の背後から熱烈な視線を送ってたんだけど気付いた?」
「貴女の視線か……!」
「やだぁしっかり気づいてくれていたのね! 桃香嬉しい……」
「冷や汗掻きましたよ……! っ、ほ、報告は終わりましたので失礼しますっ!」

 ばっと頭を下げるとディルムッドは若干駆け足でその場から去った。ばいばーいと桃香が背中に手を振る。

「これで捜査が進むといいんだが」
「そうね……どうなるかしら」

   *

 翌日の教会には、あまり姿を見ない人が早朝に来ていた。金色の髪とそれを結わえた青いリボンを揺らし、きょろ、と教会の中を見渡す。神父がいたが、用があったのはシスターの方であり、教会に来るのを待っていた。

「遅くなってごめんなさい、セイバーさん」
「いえ、急ぎでもありませんから。久しぶりですね、時雨」

 にこりと、修道服に見を包んだ時雨に笑って頭を下げる。セイバーもキリスト教徒ではあるが、一体何の用事だろうか。

「用事とは?」
「いえ、大したことではないのですが、少し聞きたいことが」

 セイバーは元々真面目な顔を更に真面目そうに視線を少し鋭くする。……大体の人間は少しだけ怖気づくのだが、時雨はこの程度では冷や汗一つ掻かない。

「隣町って今、変な宗教でも流行っているのですか?」
「……へ?」

 宗教関連は教会のほうが敏感だろうと思っての判断——または警官であるディアルムドから何らかの話があるかもしれないと思ってここに来たのだろうと見えるが、全く聞いたことがなかった。

「……いえ……聞いたことがありません」
「あ……そうですか……昨日、事件後だったせいか街の雰囲気が異常だったのですよね。不穏なのは勿論、変なものが渦巻いているというか……事件があったのがお寺だったということですし、変なものが絡んでいるような気がしまして」
「……なるほど。思い当たることがあるのなら、ディアルに直接電話するという手もありますよ」
「……大丈夫でしょうか。仕事中では……ん? というか、家にいないのですか? もう出勤したのですか?」

 キョトンとしたセイバーに、捜査のため泊まり込みをしているという旨を伝えると、あぁ、というような目をした。

「警察は大変ですね……わかりました、では昼頃にでも電話してみましょう。アドバイス感謝します、時雨」
「いえ。お力になれて何よりです」

 セイバーは深く頭を下げて去っていった。時雨から電話するという手もあったが、その手は取らなかった。……伝えるということは、詳しくその時の状況をセイバーから聞く必要がある。そんな面倒くさいことはするつもりもない。捜査方針がわからない今、そんなお節介を自分が焼けば、過保護なディアルムドがあれこれうるさいことは容易に想像できた。


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