二次創作小説(新・総合)
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- ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜
- 日時: 2024/02/13 00:57
- 名前: 紅茶 (ID: 3OoKbooX)
はじめまして紅茶です
本作品はゲームダンガンロンパのオリジナル小説です。
この小説の舞台は希望ヶ峰学園ならぬ勝ち組ヶ丘学園です。
本作に原作のキャラクターを登場させるつもりはありませんが、紅茶の都合の勝手で出てくる可能性がありますがお許しください。
ストーリーに関してはまだまだわかりにくり部分があります(特に学級裁判です)。修正したら良い場所などコメントしてくださると嬉しいです。
ストーリー中に登場する落ち武者というキャラクターは原作で言うモノクマです。本作にモノクマが出てくることはありません。
小説は不定期更新です、遅くなったりすることはあると思います。どうかご理解ください。
episode1 士導瑠香編
登場人物紹介 >>2
prologue 〜旅立ち〜 >>1 >>7
chapter1 アンラッキーリフレイン >>8-17
chapter2 超高校級のドM伝説に栄光あれ! >>18-30
chapter3 精神暗転 >>31-41
chapter4 落ち武者式ソナタ第36楽章〜敗北 >>42-50 >>53-56
chapter5 負け組に咲く悲しみの花 >>57-68
chapter6 絆の旋律と負の不協和音の調べ >>69-78
番外編
一話>>80 二話>>81 三話>>82 四話 >>83
episode0 士導静流編
prologue 「ようこそ勝ち組ヶ丘学園」>>85-87 >>91-92
登場人物紹介 >>88-90
chapter1 ほうき星のように闇に消えて >>93-96 >>98-105 >>107-108
chapter2 負け組より生まれた漆黒の怨念 >>109-116 >>117-125
chapter3 人類史上最もロマンなのは絶対的絶望ではなく絶対的爆発 >>126-134 >>135-139
chapter4 絶望の深淵 >>140-154
chapter5 死と恋のバラード >>155-172
chapter6 「アダムが耕しイヴが紡いだ時誰が負け組だったか」 >>173-185
- Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.156 )
- 日時: 2020/04/21 21:28
- 名前: 紅茶 ◆VvOwwpM9GA (ID: 6Q1uGoC5)
校長室と書かれた札が吊るされた部屋の前に着くと、勢いよく部屋のドアノブを回した。しかし、扉は開かない。逆方向にドアノブを回してみるもやはり開かない。どうやら鍵が閉まっているらしい。
本当はドアをぶち破ってでも中に入りたいが、監視カメラがある以上落ち武者に目撃されたら俺の命が危ないことになる。
俺は校長室に背中を向け、残り二つの部屋に行くことにした。
残りは確かプラネタリウムと植物庭園だったな。同じ階にプラネタリウムと植物庭園が共存しているなんてこの校舎は本当にどれだけ大きいんだ。考えられないことの連続であまり深く考えてこなかったが、これだけ大きい建物なんだから外から見ても目立つはずだ。そこに、助けの一人来ないなんてあまりに不自然だ。
そう考えているうちに植物庭園の前までそのまま中に入った。
ー植物庭園ー
広い。それが最初に思ったことだった。赤や黄など様々な色をした花に大きな緑の植物が俺を囲むように植えられていた。
少し歩いても景色が全く変わらない。花と草のアーチが俺をずっと出迎えてくれる。コロシアイの最中でなければ心が穏やかになれただろう。
さらに歩くとようやく終わりが見えてきたようだった。植物庭園の一番端にあったのは生物室と書かれた部屋だった。植物庭園の華やかさとは真逆の薄暗い雰囲気の部屋に俺は入ってみる。中も外見の通り薄暗くそれにとても寒い。怪しげな瓶や試験管がたくさん置かれており、そこから白い煙がたっている。海土がいればこの部屋について詳しく知ることができただろうな。俺にはわからない空間を冷やさないとできないことがあるのだろう。
俺が振り返って生物室から出ようとすると。
「落ち武者!?」
入り口の前に立っていたのは落ち武者だった。
「士導君が植物庭園に入った時からずっと後ろからついていっていたのにそれほど我って存在感が薄いですか?ああそうですか薄いですか。それはもう居酒屋で出てくるハイボールのように」
「まだ何も言ってないだろ。それに俺はまだ未成年だからよくわかんねーよ」
落ち武者は見るからに落ち込んで俺の方を見向きもしない…と思っていた。
「なんでこんな部屋が寒いのか気になりませんか?」
「気になりますか?って気になったところでお前は教えてくれないだろ」
「まぁそうですね。ですがせっかくですのでヒントくらいは教えて差し上げましょうか。部屋がとても寒いのはそうでないと保存がきかないものがあるからです。そこに保管庫がいくつかあるでしょう?訳があってあれを開くことは今はできないのですが、そこに隠されているのです。例えば、死体とか」
「死体!?誰のなんだよ!まさか死んだあいつらの死体がそこに入れられているのか?」
「例えばの話です。少なくともお前たちがコロシアイ学園生活中にお前たち自身で殺し合った人間の死体はありません。処刑された人も同様です」
「じゃあ死体は入ってないじゃないか。それともコロシアイが始まる前から死体保管してたとかもないのか」
「そうですね。そろそろ言っておきますが、このコロシアイ学園生活に参加している人以外は勝ち組ヶ丘学園に足を踏み入れていません。死体としても途中から学園内に運ばれたってこともありません。ヒントどころかかなり喋ってしまいました。我はここらへんで退散させてもらいましょうか」
落ち武者によるとあいつらの死体はもう処理されているってことか。じゃああの保管庫って一体何が入ってるんだよ。今は開けることができないらしいけど。落ち武者が隠すってことはそれ相応のものがそこに入れられているはずだ。しかし、校長室が開けられないのと同じでできないことを考えても仕方ない。時間も時間だしまだプラネタリウムには行けてないけどみんなとの約束もある。一度食堂に戻って俺の情報を共有しておかないとな。プラネタリウムに関してはまた明日行けばいい。それに誰かはプラネタリウムには行っているはずだ。自分の目で確かめる前に他の人から聞けばいい。コロシアイが起きてしまったせいでコロシアイ学園生活の日数がもとに戻ったんだ。そう慌てる必要はない。かと言ってゆっくり探すのも流石に悠長な話だけど。
さてみんなのところに行くか。
- Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.157 )
- 日時: 2020/04/23 22:52
- 名前: 紅茶 ◆VvOwwpM9GA (ID: 6Q1uGoC5)
ー食堂ー
「さて、みんな集まったみたいだしお互い集めた情報を共有しようか。じゃあまずは僕から早速だけどこれを見て欲しいんだ」
そこで華狗也が取り出したのは金色に光る宝箱だった。
「これがプラネタリウムの中央に置かれてあったんだよね。残念ながら鍵は開かないみたいだけどあからさますぎてこの中には確実に重要な手掛かりが隠されている。僕はそう感じるよ」
「プラネタリウムに宝箱?逆に落ち武者の罠ってことはないのか?」
「可能性がないとは言い切れないけど、開けないわけにはいかないよね?開けられない以上とりあえずは宝箱の件は忘れるしかないよ。それよりも他に共有できる情報を持ってる人はいない?」
全員が次々に情報を共有していく流れに乗って俺も捜査してわかったことや落ち武者と話したことを全員に共有した。ただ、資料室で見た18人目の高校生についてはまだみんなに伝えることができなかった。かえってみんなを困惑させてしまうかもしれないし、また首謀者探しのように18人目の高校生を全員で探し出すかもしれない。俺以外の誰かが18人目の記載に気づいていれば便乗して俺も言ってもいいが、俺たちの目的は首謀者を見つけ出すことじゃない。仮に首謀者の正体が分かったからと言って俺たちにはそれ以上どうしようもない。
「なるほどね。4階について大体わかったよ。だけど、全員が校長室に入れてはいないどころか校長室に入る手掛かりすらないとはね。てことは僕の予想通りこの宝箱の中には校長室に関するものが入ってるはずだよ」
「その宝箱を開けられないのなら手掛かりだってないのも一緒だ。落ち武者がその宝箱を開けるまではな。それまで私は資料室でいろんな本を手にして情報を集めてみる」
手掛かりがないのも一緒。俺たちはいつも落ち武者の気まぐれで手掛かりを知るまでは何もない場所を探し続ける。また落ち武者の気まぐれを待つだけだ。
結局特に収穫もないままその日が終わった。学級裁判を乗り越えたからって俺たちが得られることは何もない。また新たな謎に振り回されるだけ。それがまた現実になりそうだった。
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コロシアイ学園生活残り14日
ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ」
食堂で素早く朝食を済ませた俺は昨日時間が足りなくて行けなかったプラネタリウムに行くことにした。朝から重い足を動かし4階に向かうとプラネタリウムに腰をかけた。
劇場が暗くなり、星を模した小さな光が点々と現れた。そこで映し出される双子座や獅子座といった俺たちに馴染み深いものではなく、落ち武者座といった理解不能な星座だった。さらに、聞く価値もないアナウンスが延々と流れ続ける。
「今貴方様の頭上に見える7つの星が繋がった星座は皆様お馴染みの負け組座でございます。負け組座は基本的に雨の日の空であれば年中いつでもご覧いただくことができます。また、その左に見えるのは絶望座にございます。一年を通してというわけにはいきませんが、春から冬にかけて主に東の空でご覧になることが可能です」
実にくだらない星座鑑賞の眠気を耐え、俺は最後まで見続けた。しかし、全て見たからと言って特に何かあるわけでもない。貴重な時間がただ無駄に流れていっただけだった。
「プラネタリウムは楽しんでいただけましたか?」
「またお前か。今度は何だよ。ここも重要な何か隠されているから出てきたのか?」
「まずは感想を教えてください。楽しんでいただけましたか?」
こいつ無駄なことさせやがって。
「楽しめたわけないだろ。非現実的な話ばかりでストレスが溜まっていくばかりだ」
「最初から本命は星座じゃなかったりして」
落ち武者の言葉に俺はあたりを見渡すがこれといって可笑しな場所はない。上映中もアナウンスと星座以外で違和感があったこともない。
「じゃあ本命はなんだよ」
くっくっく、と落ち武者は笑いながら答える。
「強いて言うならこのプラネタリウム全体ですかね。気づいてなかったのかもしれませんが上映中士導君は宙吊りになっている瞬間もあったのですよ」
「は?」
「このプラネタリウムは動くのですよ。壁も今士導君が座っている椅子も、全てが動くのです。なので宙吊りと言っても完全な宙吊りではなく部屋自体が逆になっていたのです」
「そんなこと信じれるわけないだろ。お前が試しにやって俺に見せてくれ」
「それは残念ながらできません」
だったら最初から適当なことを言うな。そう思われても可笑しくない。しかし、落ち武者から返ってきた答えは俺の創造をはるかに超える意味不明さだった。
「我は高いところが苦手なのです。部屋が動いて宙吊りになっている瞬間もあるので高いところが苦手な我はプラネタリウムを見ることができません」
「この部屋の構造の話は本当だとしたらそんな心配はいらないぞ。俺は椅子に座っている間は特に違和感はなかったからな」
「関係ありません。制作したのが我な以上構造を知っています。なのでそもそも椅子に座ることすらできないのです。そんなにこの部屋のことを疑うのなら何か物でも置いて試してみたらどうですか?我の言っていることが本当なのだと分かるだけですが」
ここまでの学園生活で非現実的なことを受け入れることは嫌だけど慣れた。落ち武者がここまで言うってことは本当なんだろう。それよりも無駄に長いプラネタリウムと落ち武者の話で疲労感が押し寄せてきていた。部屋に帰って休むかそれとも誰かと資料室でも行くか。
俺はプラネタリウムを出て疲労感からくる重い足で一階への階段を下りた。
- Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.158 )
- 日時: 2020/04/25 23:31
- 名前: 紅茶 ◆VvOwwpM9GA (ID: 6Q1uGoC5)
朝起きて、食堂に行き、朝ご飯を食べる。誰もが毎日のようにしていることだろう。その後は、学生なら学校に行き大人なら職場に行く。それは皆が想像していた普通の日常だ。だけど、普通ってのは良くも悪くもない。つまり、ほんの些細なことでとても良く良くなることもあるし、逆にとても悪くなることもある。良い悪いのどちらでもないからどちらかの影響を受けやすいとも言える。仮に良い影響を受けたとして頂点に立ったとしても人はまた崩れ落ちる。人はそれ以上得るものがないと知ってしまったらそれ以上の成長をすることをやめる。成長が止まってしまえば後は落ちるだけ。落ちて落ちてまた落ちて上しか見てこなかった連中は下の世界を知らない。輝かしい成果をあげた人ほど上限がある世界と違い、下限のない世界を永遠に泳ぐことになる。そして人は下に落ちた人間を見ることの快楽をアダムとイヴが生まれた時から植え付けられている。だから人は負け組になる。負け組に惹かれる。負け組になり人が堕落していくその瞬間を見たいと思うようになる。それがたとえ人の道から外れていることだとしてしても負け組に堕ちてしまえばそれすらも正しいのかそうでないのかを判断できない。逆に言えば痛みも苦しみも悲しみのようなネガティブな感情を全て捨てることができる。人としての価値を引き換えにね。
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コロシアイ学園生活残り13日
ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ」
ピンポーン
俺が目覚めたのは珍しく落ち武者アナウンスではなく、インターホンの音だった。
「なんだ司翼か。脅かせんなよ」
「それは俺の台詞だ。いつまで経っても起きてこないから心配して起こしに来てやったのにさ」
司翼の言葉の意味が分からなかった俺はふと時計を見る。短針は数字の5に差し掛かろうとしていた。
「今何時だ?そろそろ5時みたいだけどまだ朝だよな」
「いつまで寝ぼけてんだ。もう夕方の5時だよ。AMじゃなくてPM」
そこでようやく俺は周りではなく自分が異常だということに気づいた。
「夕方の5時!?そんなことしたらあいつが黙ってないんじゃないのか」
「だろうな。だから何度もお前を起こしに来てやったのにちっとも起きないからさ。自己責任だぞ。だけどな奇妙なことに今日落ち武者を見たやつは一人もいないんだ。いつもなら校舎を徘徊しているはずだろ。それが今日に限って一人も見てないんだよ。それで俺たちはお前に何かあったんじゃないかと思い朝から様子を見に来ていたんだけど、寝てただけとはな」
誰も落ち武者を見てないとは珍しいな。いつもなら行くとこ行くとこに現れては邪魔だけして帰っていくってのにその落ち武者が姿を見せないなんて。前回の学級裁判からまた日が経ってるからコロシアイが起こらないことにイライラして動機を考えているだけだろうけど。ただ、夕方に起きるなんて規律を乱している俺に制裁を加えに来ると思っていたのに来ないところを見ると、むしろ落ち武者に何かあったのか?落ち武者は監視カメラで俺たちの行動をチェックしているはずだし、司翼が俺を起こしに来た段階で落ち武者も来るはずだ。
「とりあえず起きたんなら資料室に来いよ。全員揃ってるからさ」
ー資料室ー
「随分と呑気なことだな。こんな時間まで寝てるとは。こっちはそれどころじゃないというのに」
「話は司翼から聞いたよ。落ち武者の行方がわからないらしいな。それよりも司翼の話だと全員揃ってるって聞いてたけど、黒薔薇と華狗也の姿が見当たらないけど」
「あの二人なら心配するな。別件で席を外している」
俺は歩きながら捕鷹の話を飲み込み、俺に用意されたと思われる席に腰を下ろした。
「でも落ち武者がいなくなったからってなんで全員が集まってるんだよ」
「こうやって全員集まっている方が安全と思ってさ。捕鷹さんに言われた通り校長室を見てきたけど残念ながら開いてなかったよ。中から物音も聞こえなかったし校長室にも落ち武者はいないみたいだね」
「安全?」
「信じてないわけではないが、これまでもコロシアイが起こってしまっていた。じゃあコロシアイが起こる状況を作らなければいい。私たちがお互いに確認できるようにしておけばコロシアイが起こらないはずだ。支給されたスマートフォンも全て処分した。後は士導のスマートフォンだけだが、もし万が一落ち武者からのメッセージが来た時に確認できないと困るだろうから士導だけは持っておいてくれ」
次々と送られてくる情報をしきれず頭がパンクした俺を察したのか鍵村が傍に寄ってきてはこれに書けと言わんばかりにペンとメモを渡す。問題なのは言われたことを覚えれないわけではなく、言われたことを理解できないわけだからこのペンとメモははっきり言って今の俺には必要のないものだ。
「鍵村さん、静流君が求めてるのは筆記用具じゃなくて僕らが今何しているのかだと思うよ。僕から答えを言うと本当にただ集まってるだけなんだ。落ち武者がいなくなったのは気になるけどどうせ僕らの知らない場所で何か企んでいるだけだから、だったら僕らにできることって落ち武者の思惑通りいかないようにお互いを見張っておくことでしょ」
華狗也が校長室に黒薔薇と行ってたこともそうだ。少なくとも二人以上でいればお互いを監視し合う状況を作れるわけか。
その日俺たちは夜時間が来るまで一緒に過ごし、その後もお互いが部屋に入るのを確認して部屋に入った。
- Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.159 )
- 日時: 2020/04/27 21:36
- 名前: 紅茶 ◆VvOwwpM9GA (ID: 6Q1uGoC5)
コロシアイ学園生活残り12日
ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ」
昨日の決め事通り今日も基本的には二人以上で過ごすことにしていた。何か行動する時であれば必ずもう一人がその人につくことを徹底していたが、そもそも特に何かすることも思いつかなく、朝ご飯を取り終えた俺は図書室から持ってきた本を延々と読んでいた。せっかく人がいるのだから口を動かしたいのだが、ずっと同じ人間と同じ場所で過ごしていたからか話題が思いつかない。対して本は図書室にも資料室にも一生かけても読み切れないくらいの冊数がある。活字の世界に入り浸れば退屈な時間をやり過ごすことができる。退屈な時間といっても一生あるわけではなく後12日しかないわけだが。
一冊目の本が終わり迎えると、俺は気分転換に少し伸びをしてみる。それで気分など晴れるはずもなく静かな食堂に俺の声だけが響く。それに誰か一人でも反応してくれたらまた違ったのでだが全員が自分の世界にのめり込んでおり、誰一人として俺の伸びに気づかない。
元々俺は本を読むのが得意な方ではない。理由は様々であるが、一つに景色を想像することが苦手というのがある。テレビと違い映像を自分の脳で再現する必要があるのが、どうも俺は苦手らしい。内容を理解するのに字を見てから、それを頭で再現する。そこまでして場面を理解するステップが二回も必要なのが非効率的だと俺は考えている。その点テレビは映像と文字が同時に流れてくるから自分の脳で考える必要がなく場面の理解までの時間が早い。高速化した世界で必要なのは正確さではなく、素早さが必要としているのにも俺の考え方はマッチしている。
だから、自分でも分からない。コロシアイ学園生活が始まり、学級裁判を数回乗り換えてきた。学級裁判を乗り越えるためには推理しなければならず、それは俺が苦手としていることだからだ。自分や他のみんなの命がかかってるから苦手を克服できたのか、それとも別の理由があるのか。
逆に学級裁判で俺は今まで持つことができなかったスキルを身に付けることができたとも言える。決してきっかけに感謝しているわけではない。ただ、残っている俺たちが全員一緒にここから出るためには必要不可欠な能力だ。
「もう夜だしご飯食べたら部屋に戻ろっか?」
地近の一言で沈黙は破られた。ふと時計を見つめると夕方になっていた。
何もしてないから食欲も特にはない。テーブルの上に置いてある朝食の菓子パンの残りを口の中に放り込み水で流し込んだ。大体こういった軽い夕食で済ませた後は夜中になって空腹に泣かされる。俺はそう予想して食堂に誰がいつ補充しているのかわからない菓子パンを三つほど手に取った。
俺以外の全員も今日は本を読むか寝るかくらいしかしていないから菓子パンだけで済ませ図書室から持ってきた大量の本を手に持ち自室に帰っていった。
部屋に帰ってきたが、部屋にいても食堂ですることと特に変わりなく、また本を読むだけ。変わった点と言えばトイレに一人で行けるくらいだ。
12日。厳密に言えば後11日しか俺たちに時間は残されていない。もっといろいろと校舎内を見て回りたいがコロシアイを起こさないことの方が重要だ。そうすれば落ち武者だってしびれを切らして俺たちの前にまた姿を現すはずだ。何故か分からないが落ち武者は俺たちにコロシアイをさせたがっている。落ち武者自身で俺たちを殺せば面倒な学園生活など無視できるはずなのに。それをしないってことは落ち武者の目的は俺たち全員を殺すわけではなく、コロシアイをさせること?そこに何の相違点があるのか俺には理解できなかった。最初から落ち武者の言うことなんて一言も理解できなかったが。だけど、俺たち全員を殺すことが目的ではないのなら、もしこのまま俺たちがコロシアイを起こさず学園生活の日数が終わった時落ち武者はどうするのだろうか。それとも前回みたいにまた無茶な動機を用意してくるのだろうか。何をされても俺たちはコロシアイを起こさない。これを徹底するしかない。そうすればきっと道は開ける。落ち武者の目的がまだ不透明なままだが、コロシアイをさせることが重要なら俺たちはしなければいい。いや、選べる立場ではないか。
俺たちはしなければならない。このコロシアイ学園生活を終わらせるために。
- Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.160 )
- 日時: 2020/04/30 02:15
- 名前: 紅茶 ◆VvOwwpM9GA (ID: 6Q1uGoC5)
コロシアイ学園生活残り11日
ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ」
また食堂に行き図書室から持ってきた本を読む。おそらく何もなければ俺たちは残された時間をずっとこうやって過ごしていくだろう。決して使われることのない知識だけを頭に詰め込むだけ詰め込んで死んでいくのだろう。
そんな中ようやくやつが動いたのは昼が過ぎもうまもなく夜を迎えようとしている時だった。
「お前たち至急体育館にお集まりください」
久しぶりの落ち武者の声が食堂に響き渡る。嫌な予感がするけど俺たちは立ち上がり体育館に向かった。
ー体育館ー
扉を開けると体育館の中央に落ち武者は待ち構えていた。顔がいつもと一緒だが、態度からしてかなりご立腹のようだった。
「お前たちようやく集まりましたか」
「ずっと姿を見せなかったお前が急になんだよ」
「いつになったら次のコロシアイを起こすのですか?我はずっとそれを待っているのです。それなのにちっともそういった素振りすら見せないなんて」
「コロシアイをして欲しいわりにはその動機すら用意してないなんて。どうしたの?もうネタ切れかな?」
華狗也の挑発に落ち武者は顔色一つ変えずこう言い出した。
「いいえ。お前たちがコロシアイを起こさないから今日は新しい動機を持ってきたのですよ。その新しい動機とは、なんと内通者の正体です!」
落ち武者の話はいつも俺たちの想像をはるかに上回ってくる。だけど内通者の正体を暴くのは俺たちにさせる予定だったはずだ。そんなことしたらゲームにならないじゃないか。
「内通者の正体?君がそんなこと発表しちゃっていいの?」
「本当はお前たちに見つけて欲しかったんですけど、コロシアイが起きないのであれば仕方ないですね。ってことでもう自分を偽らなくていいですよ。士導君」
その場にいる全員の目線が俺に集まる。今なんて?誰が内通者だって?
「…は?はあぁぁ!?お前何適当なこと言ってんだよ。俺は内通者なんて適当な嘘をつくな!」
「お前たちが我が言ったことをどう解釈するかは自由です。我は伝えましたからね。それではお前たち再びコロシアイ学園生活を楽しんでください」
「ちょっと待てよ!」
俺の叫びもむなしく落ち武者は体育館から姿を消した。心地悪い目線が俺を取り囲む。
「士導、落ち武者の言うことを真に受けるのも良くないと思うが一応説明してもらえるか?」
「説明も何も俺は本当に内通者じゃないし、そんな心当たりもないんだって」
「落ち武者の言うことだ。真に受けていい話ではないが、仮に内通者だとしても2パターンあると考えられる。1つは、記憶がある内通者だ。首謀者の思惑を全て知って私たちをあざ笑うために送り込まれた糞野郎だ。もう1つは、記憶がない内通者だ。落ち武者によって記憶をなくされており、自分のことを内通者と自覚していない内通者。そこで思い出して欲しいんだが、士導は未だに自分の才能を思い出していない。私たちと比べて思い出している記憶の量が違う。思い出してない記憶の中に内通者という記憶もあるんじゃないのか」
「だとしたら今僕たちの目の前にいる静流君は内通者の静流君ではないってことだよね。仮に内通者だとしても記憶がないなら内通者でないのも一緒だよ」
「嘘かどうかはこの際分からない以上どうしようもない。問題なのは名指しで士導が内通者として挙げられ、士導自身に可能性が残っていることだろう。少しでも可能性がある以上士導を信じるというわけにはいかない。だから疑惑が晴れるまでは部屋にいてもらうことにしたいけど、どうだ?」
俺が内通者かもしれないのはもちろん信じ難い。だけど、俺自身も分からないのに疑惑を晴らすことなんてできない。
「ああわかった」
部屋に戻ってからもずっと腑に落ちないでいた。動機を言い出したかと思えば内通者は俺だと。そもそも内通者の正体をバラシてどうして動機になり得るんだ。余計に警戒するだけじゃないのか。
それでも内通者というワードを出すってことはもう何か起きてるんじゃないのか?俺たちの知らないところで何かが。
考えても仕方がない。誰かが俺の疑いを晴らしてくれるのを信じるしかない。そして、信じたその向こう側に希望があることを願うしかない。
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