二次創作小説(新・総合)

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敵中横断二九六千光年
日時: 2019/04/20 12:00
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

個人リメイクによるオリジナルとは別の『ヤマト・イスカンダル編』。
古代進が最初は貨物輸送機のパイロットとして登場します。武装のない輸送機でサーシャを追うガミラスと遭遇、危機を切り抜けカプセルをヤマトに届けるという展開です。

この作では〈人類滅亡まで一年〉の定義を『最後のひとりが死ぬとき』でなく『すべての女が子を産めなくなるとき』及び『すべての子供が白血病に侵されるとき』であり、そのリミットが共にあと一年であるとします。ヤマトが九ヶ月で帰還できるならまだ生きている人のほとんどを救えるのですが、しかし一日遅れるごとに十万の子が病に倒れ、百万の女が出産不能になる設定です。ゆえにヤマトはこの作では、子を救うための船としてイスカンダルを目指します。

なお、同じ作品を二次小説サイト〈ハーメルン〉と〈2.novelist.〉にも投稿しています。

Re: 離脱 ( No.29 )
日時: 2020/05/04 14:13
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

〈ヤマト〉の波動エンジンは、重い船体を軽々と宇宙空間に押し上げていった。特にGが掛かることもなく、ゆるやかに脱出速度にまで達する。22世紀末の現代では当たり前のことでもあるが、二百年前のロケット科学者が見れば目を見張る光景だろう。それにしてもその上昇はスムーズだった。この船が十年前にもしあれば、ガミラスが来るより前に原発の廃棄物を何も心配することなしに宇宙に捨てられていたかもしれない。それは言ってもせんのないことではあるが……それに干上がって凍った海と塩害はどうにもなるものではない。

「よし、わたしと機関長はいったん艦橋に上がる。アナライザー、お前はここに残れ」

機関室で真田がそう言っていた。するとアナライザーが、

「オット副長、コイツニさいんシテッテクダサイ」

言って金色の筒を掲げた。へのへのもへじのまわりに藪と機関員達が名前を書き入れている。

エンジン始動に成功させた真鍮薬筒だった。真田は苦笑してペンを取った。むろん徳川も名前を入れる。

エレベーターで艦橋へ。かつての戦艦〈大和〉は艦底から艦橋の頂上までが48メートルであったというが、それはほぼそのままに宇宙戦艦〈ヤマト〉に受け継がれていた。艦橋の最上部に艦長室。そのすぐ下が第一艦橋。ケージは第一艦橋で行き止まりになっている。なぜなら、上まで通そうとすると、艦長室の上にエレベーターの機械室をもうけなければならないからだ。そのため、機械は艦長室の後ろに置いて、艦長室と下の階はゴンドラで繋ぐ仕組みになっていた。

「来たか」

と沖田が言った。徳川はサッと自分の席に向かうが、真田はその場で立ち止まった。若い者らが彼を笑顔で振り返る。しかしもちろん、真田は先ほど自分のことを彼らがどう話していたかなどは知るよしもない。

「挨拶はいい。すぐ席に着け」

「え、あ、はい……」

そうなのだった。古代進から〈コア〉を受け取ったあの後、真田はすぐに寝てしまって、起きると機関室に直行したのだ。そうせねばならなかったしそうしろとも言われた。副長としてここに来るのはこれが初めて。本来なら艦橋に立つ人員ではない。

真田はそれをコロリと忘れていたのだった。無理もないことと自分でも思った。技師長としてはこの艦橋は馴染みの場所で、島や南部を始めとするクルー達とも見知って付き合ってきたのだから。そしてこの数時間、エンジン始動にかまけるあまり、技師長としてこの者達と付き合うのと副長として対するのでは話がまるで違うのに思い至るヒマがなかったのだ。

それに急に気づかされた。これはまったくの不意打ちだった。戸惑いながら席に座る。副長席の機器の操作は問題ない。ひょっとすると本来就くべきはずだった人間よりも知ってるくらいだ。それが自分が代理に指名された理由のひとつでもあろうが――。

しかし、戸惑っているヒマさえ今はないらしい。メインスクリーンに脚の足りないヒトデ空母が映っている。

沖田が言った。「真田君。あれが我々の当面の敵だ」

「あの、わたしはどうすれば……」

「まあとりあえず君は見ていろ」

「あ、はい……」

と応える。クルー達を見渡すが誰も気にしたふうもない。真田はやむなく自分の計器の状況データに眼を落とした。ガミラス艦との距離。速度。今〈ヤマト〉にかかるG。地球の重力とその影響。などなどと言った情報がバーやカーソル、スケールで示され、マルバツ三角にウイスキー(W字)マーク、四角に矢印といった指標がクルクル動き回っている。そしてそれぞれに文字や数字がわかる者にはわかるように付け足され、その持つ意味を表示するのだ。

クラクラとした。何かわからないのではない。わかる。なのに、わからないのだ。わからなければわかりませんと正直に沖田に言えもしたかもしれない。だが真田には、画面のデータがすべてラクに読み取れた。地球の重力がこう来てるから船はこう進むだろう。ガミラス艦と言えども宇宙をまっすぐは進めない。コンパスに鉛筆を付けたように必ず弧を描くのだ。それも三次曲線を。つまりこう来てこうなるから、こうなっちゃってこうだろう――わけない。別になんでもない。このくらいは初歩の初歩だ。というのはわかるのだが、そこから先がいけなかった。副長ならそれでその後どうすればいいと思うのかね、真田君?

それがわからない。おれはこれではプロの動きに太刀打ちできないアマチュアサッカー選手のようなものじゃないか! いや、違うなと真田は思った。自分は言わば、スパイク屋だ。サッカーを知り、ひとりひとりの選手に合わせてスパイクシューズをカスタムメイドするなんていうことはできても、試合になんかついていけない。いけるわけない。選手でもなんでもありはしないのだから。

沖田が言った。「わかるかね? 空母というのに、今あいつは艦載機を出してない」

「あ」と言った。真田は、自分がその点にまったく気づいてなかったのに気づいた。「どういうことです? 確か――」

「そう。先ほどまで月の戦闘機隊と派手にやり合っていた。だが今どちらもミサイルと燃料を使い果たして引っ込めている状態だ。地球側はもう少しでやつの後ろに巡洋艦隊が網を張る。もう攻撃機は要らん」

「は、はあ……」

「あれは今、大急ぎで艦載機再発艦作業をしているわけだ。それも今度は、対艦ミサイルを吊るしてな。あいにく〈ヤマト〉の主砲でも、まだあいつを射抜けない。しかも逃げに入ってるから、追いつくのは大変だ。だが〈ヤマト〉がやらなくても、地球艦隊の十字砲火を食うことになる」

「はい」

と言って画面を見た。なるほど将棋の手のように、沖田の言葉で今まで見えてなかったものが初めて手に取るようにわかる。

「だからあれはああやって艦載機を出す時間稼ぎをしているわけだ。巡洋艦隊に手柄をくれてやってもかまわないのだが……」

と言ってからニヤリと笑った。

「それではちょっとつまらんとは思わんか?」

「は?」

沖田は言った。「真田君。君にこの艦の副長として最初の意見を求める。艦載機を出される前にあれを殺る手が何かないか?」

「あれを?」

と言って四本脚のヒトデを見た。400メートル級空母――しかし、〈ヤマト〉が長さ26センチのサンマであるのに対し、相手が直径40センチのお化けヒトデであるというのを忘れてはいけない。総質量は〈ヤマト〉の十倍にもなるだろう。最終的に仕留めるにしても、味方の船に犠牲が出るのは間違いない。艦載機をふたたび出すのを許せばなおのことだ。〈ヤマト〉の主砲で真ん中を射抜けばオダブツにもできるかもだが、ヒトデは穴開きになるのはイヤだと逃げる。簡単には殺れそうにない。

となれば――。

「波動砲?」

「それだ」と言った。「波動砲であれを沈めてみようと思うがどうだ」

「え……いや……あれはテストが……」

「試射はどのみちせねばなるまい」

「しかしこんな地球の近くで……敵に砲の存在を教えてしまうようなものでは……」

「何か? 木星の月あたりをひとつふたつ吹き飛ばせばガミラスにわからないとでも思うのか?」

「それはもちろん有り得ませんが……」

「わしが今ここでやろうと言うのには意味がある」沖田は言った。「地球では日々暴動が起きている。この計画を無謀となじる者もいる。我々が地球を捨てて逃げる気だと言う者までな――そして何より多くの人は、そもそも何も期待しとらん。こんな船一隻で何ができるかと思ってるのだ。我らはこの旅立ちにあたり、地球に残る人々に希望を与えてゆかねばならん」

「は、はい」と言った。「しかし、それでも――」

「やってみよう、真田君」徳川が言った。「将棋のようにいい手だけ選んで打つというわけにいかんよ。わし達はそういう旅に乗り出すんだ」

「それは……」

と言いながら、真田は艦橋を見回した。若いクルーらが自分を見ている。ようすを窺ってるのだ、と思った。自分に副長が務まるかどうか。

あの南雲二佐ならばどうするだろう、と考えてみた。本来副長になるはずだった男の顔を思い浮かべる。だがそうするまでもなかった。『波動砲はギリギリまで秘匿ひとくせよとの軍司令部の厳命だ』とわめきたてるに決まってる。艦長、あなたはそれを無視するのですか――。

このおれに対しても、やれ試射をガミラスに知られずにする方法はないかとか、何がなんでも〈コア〉を調べて同じものを作れとか百万回も言った男だ。それも、こちらが寝てるのを起こして。まったくあの男ときたら……いや、いい。今は、自分がその代わりなのだ。

「沖縄基地のこともあります……」真田は言った。「〈ヤマト〉のために死ぬ人間をすでに多く出し過ぎました。このままではさらに多数の味方が死ぬことになる。もう秘匿と言えないのなら、ここで犠牲を止めるのがこの〈ヤマト〉のクルーにとっても救いになるかもしれませんが……」

「そうか」と沖田は言った。「いい意見だ」

そうとしか言わないのは、絶対に正しい答などないからだろう。軍司令部はどんな犠牲を出してでもあのデカブツを生け捕りたいに決まってるのだ。

若い者達が真田に笑顔を見せてから自分の仕事に向き直る。彼らの間ですでに話はついていたのだろう。自分は合格したのかとも思ったが、

「よし! それでは、これより波動砲最大出力での試射を行う。目標、前方の敵空母。総員発射に備えよ!」

沖田が叫ぶ。真田は今度こそ席から飛び上がりかけた。

「最大? ちょっと待ってください!」

「なんだ」

「な、何も最大でなくても! 最小に絞った出力でも、あの程度の船は軽く吹き飛ばすことができます。波動砲はそもそもが冥王星のガミラス基地を星ごと消し飛ばすために〈ヤマト〉に装備されたんですよ!」

「その通りだ。だからこそ、その力があるかを知るには最大でなければ意味がないではないか」

「いやしかし、しかし、それは――」

「『ガミラスは地球に造れる波動砲が造れぬらしい』と仮説にあるな? だからやつらは地球人が波動技術を持つのを恐れて殺しに来たのだと。ならばトコトン、怖がらせてやろうではないか。いま半分ばかりで撃って、〈波動砲とはこの程度か〉とやつらに思わせてしまってどうする」

「う……」と言った。「やつらには今から撃つのが最大か最小かわかるわけがない。だからここは最大で撃つと?」

「さすがにわかりが早いな。そうだ。つまりこれは、示威じい行動を兼ねるのだ。地球人が波動砲を持ったのをガミラスに知らしめる。それには今が最良の機会なのだ! よって最大出力で波動砲を発射する!」

Re: 波動砲 ( No.30 )
日時: 2020/01/16 20:50
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

〈波動砲〉――それは数十年前に地球で波動理論が発見されたとき、副産物として提唱された装置だった。本来は外宇宙を超光速で旅するための波動理論。しかしそれは、当然のように軍事研究の対象になった。応用すれば星をも壊せる兵器が造れる――〈そんなの造ってどうするのか〉という疑問を持つ人間は、あまり偉くなることはできない。

それにひとつ、有用な使用目的があったのだ。もしも地球に巨大な隕石が落ちるとき、それを事前に破壊する装置になりうるではないか。その昔に恐竜を絶滅させたと言われるような山より大きなシロモノは一億年に一度かもしれない。だが〈丘〉のサイズなら、いつやってきてもおかしくない。それで充分、日本に落ちれば日本は消えてなくなるのだから、あながち杞憂きゆうと呼ぶわけにいかない。隕石もそのくらいの大きさになると、核を使ってもどうにもならない――ふたつに割ってもふたつの大きな固まりが地球に落ちるだけなのだ。

だからそのとき、完全に粉砕できる装置があればうれいなしというものだろう。これは〈砲〉と呼んだところでさすがに他の使い道はないだろうと考えられた。むろんテロリストやローグ(ならずもの)国家の手に渡ることがないように気を配らねばならないが、連中にしてもこれは途方もなさ過ぎてやはり手に余るのじゃないか――そう思われたのである。

まあ、無理に考えれば、地球の上に巨大なスペース・コロニーのようなものを浮かべるとして、それを撃つという用途くらいか。しかしもっと小さな武器でも穴を開ければ中の人間はみな死ぬのだし、万一そのコロニーが地球に落下するような場合、それを事前に破壊する手段が必要になるはずだ――と言うより、もしも軌道を外れたときに落ちる前に壊せないなら、あまりに巨大な建造物を宇宙に浮かべてはいけない。

とにかく、巨大な物体が地球に落ちるのを防ぐ装置――こんな理屈で波動砲の研究は大多数の人々から正当なものと支持された。むろん反対意見もあったが、それらはどれも『それは禁断のメギドの火だ』とか『浮遊物体も大いなる宇宙の自然の一部。人が壊してはいけない』といった気の触れたもので、マトモな人間が相手にすることはなかった。

かくして巨費が注ぎ込まれることになった。十年前に予備的な実験が行われ、一応の成果を上げるに至った。そこへガミラスの出現だ。これによって波動砲の研究は、別の目的を持つことになった。

準惑星に潜むガミラス。それを根こそぎにできない限り、地球人類に明日はない。何よりも本拠地となる冥王星だ。〈プルート〉と名前のついたこの犬をもしも丸ごと宇宙の塵に変えることができたなら、かつての太平洋戦争におけるミッドウェイの故事のように、一気に地球が有利に立てる。その後はもはや別のグーフィーとかスヌーピーとか、チャーリー・ブラウンだとかいった丸頭の向こうに隠れさせはしない。このままでは人類が滅亡するというときに、星のひとつを壊してはいけないと言う人間がいるならば、それは完全な狂人だろう。

宇宙戦艦〈ヤマト〉を建造することは、波動砲搭載艦を建造することだった。波動砲は波動エンジンが生み出す力をかてとする。政府の官僚や軍の幕僚には、イスカンダルにるよりも冥王星を砕くことを〈ヤマト〉に期待する者がいた。その者達の胸にあるのは、一部の者だけが地球を捨てて逃げることにあるのだが……。

いずれにせよ、〈ヤマト〉が完成すると同時に波動砲もまた完成した。それは艦首に搭載され、砲口のみが正面に大穴を覗かせている。言わば〈ヤマト〉は船そのものが巨大な大砲なのでもあった。その試射が今、地球の上、まだ決して高くはない軌道で行われようとしている――。

Re: 粉砕 ( No.31 )
日時: 2020/01/30 20:26
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

『波動砲発射準備中、エンジンの推進力は失われ、艦内の電力供給も不能となる。よってバッテリーを予備電源に持つ機器以外は機能停止だ。総員、停電に備えよ。三、二、一……』

いきなり声がしたかと思うと、古代の部屋の照明がパッと消えて真っ暗になった。テレビも消える。空調のファンさえ止まったようだった。

そして、その暗闇の中で、体がフワフワ浮き上がる。人工重力もやはり失われたのだ。

「え? え? え?」

彼はさておき、

「波動エンジン内圧力上げろ。非常弁全閉鎖」

「非常弁全閉鎖!」

「波動砲への回路開け」

「回路開きます!」

「波動砲薬室内、圧力上がります!」

「全エネルギー波動砲へ。強制注入機作動」

「波動砲、安全装置解除」

「安全装置解除! セイフティロック・ゼロ。圧力、発射点へ上昇中」

「最終セイフティ解除。圧力限界へ!」

第一艦橋で声が飛び交っていた。ひとつの操作がされるごとに、船のどこかで丸太のようなシリンダーがスライドする。〈ヤマト〉の後ろで千メートルの大巨人が、エンジンノズルに大木ほどの鍵を差し込みガチャリと回したかのようだった。リボルバーの撃鉄が丸い弾倉を回すように樽のようなピストンが動く。炉で溶かした熱い銅を、巨大な鐘を造る鋳型いがたへ流すようにもそれは見えた。

実際、その砲口は、大仏にでも突かせるための寺の鐘を横にして、艦首にネジ込んだように見える。象が入るほどのその穴に、ホタルのような点光がどこからともなく集まってきた。砲口の奥に集約されたエネルギーが一種の磁力を持ち、かつては仮想の存在と呼ばれた光より決して遅くはなれないはずの粒子にビーズを作らせそこに引き寄せてるのだ。

キュルキュルとした金属が軋み鳴り出す音が、艦内に響き渡ってゆく。ありとあらゆるメーターがレッドゾーンを示していく。徳川が言った。「エネルギー充填、120パーセント」

沖田が言う。「波動砲用意。島、操縦を南部に渡せ」

「はい。渡します」

島が操縦桿を離した。むろん南部に許されるのはヨーやピッチの微調整だけだ。今の〈ヤマト〉は、中でおもりを振り回して上下左右に舳先を動かすことしかできない。

「受け取ります。ターゲットスコープ・オープン。電影クロスゲージ、明度二十」

南部の前に照準器が立ち上がった。ハーフミラーのガラス板に揺れるレティクルが浮かび上がる。

「目標速度、四十宇宙ノット」「タキオン粒子出力上昇」

太田や徳川が口々に唱える。沖田が言った。「発射十秒前。耐ショック、耐閃光防御」

全員が目に、日蝕用サングラスのような黒いアイプロテクターを掛けた。

「発射五秒前」南部が言った。「四、三、二、一……」

照準の輪はまだユラリユラリと動き、豆をつまめぬ箸のように標的の上をやり過ごしている。だが、それでよかったのだ。南部は最後の一秒に、突き刺すようにマトを捉えるすべを心得ていた。スッと動いた輪が敵艦に重なった。

「ゼロ、発射!」

轟音。船が見えない壁に衝突したような衝撃が襲った。艦橋の窓が白い光でいっぱいになる。

〈ヤマト〉の艦首から放たれた光は、長さ百万キロにも及ぶ巨大な白い滝となって宇宙空間を突き進んだ。地球と月の間の距離の三倍ということであるが、数字でその凄まじさを感じ取ることはできないだろう。しかし、まさに月などは呑み込みそうな光だった。それが消え去ったとき、質量にして〈ヤマト〉の十倍もあったはずのガミラス空母の姿はもうどこにもなかった。塵も残さず蒸発してしまったものに違いなかった。

しばらく、誰もが茫然としていた。そのあまりの破壊力に恐れおののいているようだった。やがて照明が点き出して、重力も艦橋内に戻ってくる。

「は……ははは」南部が笑って言った。「どうだ、ガミラスめ」

アイプロテクターを外して立ち上がる。

「やったぞ! これなら〈スタンレー〉ごとやつらを消し飛ばしてやれる。太陽系からあいつらを追い出してやれるんだ!」

「南部」

と沖田が言った。しかし彼には聞こえていないようだった。

「ハハハハハ! どうだ、ざまあ見ろ! 次はこっちが滅亡させてやる番だ! この船で必ず星を見つけ出して滅ぼしてやる!」

「南部、敵をあなどるな!」

沖田は怒鳴った。南部はビクリと身をすくませる。

全員が沖田を向いた。沖田は何か考えげに、目から外したアイプロテクターと制帽をもて遊んでいた。それから帽子を被り直して言った。

「確かにたいした威力のようだが、〈スタンレー〉で使えるかはなんとも言えん」

「いえ、ですが……」

「だから敵を侮るなと言っとるんだ。この力を見た以上、やつらは必ず何がなんでも〈ヤマト〉を止めにかかってくるぞ。冥王星に着かれたらおしまいなのはわかりきっとるんだからな」

「そんな……しかし、ならどうして……」

「同じことだからだよ」沖田は言った。「どうせ警戒されてるんだから、波動砲の威力を見せようと見せまいとなんの違いもなかったのだ。秘匿に意味がないのなら、いま撃った方がいい。もともと敵地にまで行けば百隻で襲ってくるのは変わらんのだし」

「そうだ」と真田が言った。「波動砲で撃てる距離まで、冥王星に敵は近づかせてくれない。たとえ星を吹き飛ばしても、その後、ワープに入る間もなく取り囲まれて殺られてしまう。そのように算定されているはずだ」

島も言う。「マゼランへの道を急がなきゃならないんだから、遅い艦隊をゾロゾロ連れてくわけにいかない。〈スタンレー〉をやるとしたら、〈ヤマト〉一隻で行くしかないんだ。百隻相手に勝てるわけないだろ?」

「そんな……」と南部。「それじゃ、やつらをほっとくんですか? 遊星爆弾を止めないんですか? このまんまガミラスに太陽系を好きにさせとくって言うんですか?」

「そうは言わんさ。まあ見ていろ。わしは艦長室に上がる」

沖田は言った。それから窓に眼を向けた。まだ地球を離れてもいない。眼下には赤い大地が広がっている。ところどころに遊星の落下で出来たクレーター。

沖田は言った。「願わくば、この船出ふなでが絶望した人々にひとすじの希望をともすものであってほしいが……」

Re: 時計の針 ( No.32 )
日時: 2020/02/08 21:20
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

〈ヤマト〉の時計はグリニッジの時間に合わせられている。その針がちょうど零時になるところだった。カレンダーが示す日付は九月二十日。人類存続がかなわなくなるとされる日まであと暫定ざんてい365日――このとき、古代はアングリと口を開けてテレビを見ていた。〈ヤマト〉とやらが何やらバカでっかい砲を撃つのを捉えた映像が映っている。重力が戻ってベッドに落ちて、部屋のあかりにテレビも点いたと思ったら画面に出たのがそれだったのだ。

「な、なんで?」古代は言った。「なんで、昔の軍艦が空飛んで、先っぽから火を吹くわけ……?」

Re: 初期不具合 ( No.33 )
日時: 2020/05/04 14:02
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

水金地火木土天海……そして冥王星。すもももももももものうちなら、冥王星も惑星だ。しかしこれらの星々は、決して等間隔に並んでいるわけではない。

ここで宇宙のスケールを七百万分の一にしてみよう。するとほぼ、太陽系を地球の日本国土の上に重ねて見ることができる。太陽を七百万分の一にすると直径200メートルの玉。これを東京中心の皇居の上に置いてやるのだ。すると水星は直径70センチの玉となって半径8キロの円を描いて回ることになる。これは都心の十区ばかりをグルリと囲むといったところか。

で、次に金星だが、これは直径170センチの玉が水星の倍の16キロを皇居から離れて回る勘定になる。ちょうど東京二十四区がすっぽり入るほどの円だ。

そして人類の星、地球。直径2メートルのかつて青かった玉コロが半径20キロの円を回る。埼玉のさいたま市と神奈川の川崎を南北に囲むくらいの円だ。つまり首都圏というところか。

次が火星で、1メートルの球が30キロ離れて回る計算――都心勤めの人間にとって、通勤圏とされるほどの円だろう。

そしてここからが遠くなる。木星は太陽から110キロ離れる計算。茨城の水戸、栃木の宇都宮、群馬の前橋、山梨の甲府と、各県の中心都市の上空を直径20メートルの球がグルリと渡っていくと考えてさほど大きなズレはない。

土星はさらにさらに遠い。軌道は半径200キロだ。福島、新潟、長野、静岡のそれぞれ真ん中を貫いていくほどの円。

天王星はそのまた倍の400キロ。岩手・秋田と宮城・山形の県境から、日本海をグーッと回って京都や大阪の辺りに行く。で、それからまた海に出て太平洋を回る感じだ。

海王星は700キロ。ちょうど津軽海峡の上をゆくくらいの計算で、島根・広島と四国の真ん中を抜けてまた海の上に出る。

番ごとにほぼ倍々と遠のいていくわけである。おわかりだろう。つまり地球を千葉県 松戸まつど市とするならば、火星はその先のかしわ市で、木星は水戸、土星は福島の南相馬市、天王星が気仙沼ということなのだ。常磐線じょうばんせんで言えば、まあ。水星は日暮里にっぽりで金星は北千住きたせんじゅだということなのだ。常磐線で言えば、まあ……七百万分の一で見ればそうなる。海王星が津軽海峡なのだから、北海道はカイパーベルトということになる。常磐線で言えば、まあ。冥王星はそこにあった。

地球と火星の間などは早ければ一日、火星が遠くにあるときでも四日で渡ってしまう今の宇宙技術をしても、冥王星までは遠い。普通の船で二ヶ月ほどかかるのだ。距離が六十倍なのだから当然だ。イスカンダルへ行かねばならぬ〈ヤマト〉が遅い艦隊を連れて基地を叩きに行ける道理があるわけがなかった。

波動エンジンを持つ〈ヤマト〉でも冥王星はまともに進んで一ヶ月だが、しかしそんなもの相手にせずに外宇宙にサッサと出て行くことはできる。〈ヤマト〉にはその力が備わっている。〈ワープ〉と呼ばれる超光速航行法だ。イスカンダルへ急ぐのならば、太陽系でグズグズせずにすぐにもそれを使うべきかもしれないのだが――。


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