二次創作小説(新・総合)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 敵中横断二九六千光年
- 日時: 2019/04/20 12:00
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
個人リメイクによるオリジナルとは別の『ヤマト・イスカンダル編』。
古代進が最初は貨物輸送機のパイロットとして登場します。武装のない輸送機でサーシャを追うガミラスと遭遇、危機を切り抜けカプセルをヤマトに届けるという展開です。
この作では〈人類滅亡まで一年〉の定義を『最後のひとりが死ぬとき』でなく『すべての女が子を産めなくなるとき』及び『すべての子供が白血病に侵されるとき』であり、そのリミットが共にあと一年であるとします。ヤマトが九ヶ月で帰還できるならまだ生きている人のほとんどを救えるのですが、しかし一日遅れるごとに十万の子が病に倒れ、百万の女が出産不能になる設定です。ゆえにヤマトはこの作では、子を救うための船としてイスカンダルを目指します。
なお、同じ作品を二次小説サイト〈ハーメルン〉と〈2.novelist.〉にも投稿しています。
- Re: プロローグ 海峡 ( No.1 )
- 日時: 2019/04/20 12:02
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
まだ名のない海峡を、三隻の船がさまよっていた。1520年、南米のことだ。そこは恐ろしい海だった。波がうねり狂っていた。風は突き刺すように冷たく、轟々と吹き付けて、小舟と呼ぶのがふさわしいその船団を翻弄していた。
当然ながら帆船である。どれも全長30メートル。コロンブスの航海から三十年も経っていない。航海技術は未発達で、船は外洋の遠征に耐えられるようなものではなかった。
そして、嵐の海を抜けて進むにも……にもかかわらず、その三隻はそこにいた。国を出てもう一年になっていた。その海峡の入江を見つけ、入り込み、何週間も過ぎていた。決して長い海峡と言えない。にもかかわらず、抜け出せない。最初は五隻いたのだった。しかし一隻は難破して、また一隻は逃げてしまった。
無理もないのだ。それは無謀な挑戦と言えた。正気であるなら誰も行かないであろう海にその者達は挑んでいた。これは神に逆らうに等しい。バベルの塔を建てるのと同じ罪を犯している。
彼らは世界が丸いことを証明しようとしているのだった。
許されるはずのないことだった。彼らはまさに神の怒りに触れているかのように見えた。荒れ狂う風が船を進ませまいと、唸りを上げて吹きすさぶ。波は巨大な獣のように船めがけて襲いかかる。船はグラグラと大きく揺れた。いつ帆柱を水に倒して転覆してもおかしくなかった。柄杓を持った無数の手が波の下にあるかのように、水しぶきがなだれ込んだ。
行かせはしない。この海峡を通しはしない。神がそう叫んでいるようだった。人間どもよ、この世界は平たいものと思っていろ。それがお前達の分なのだからと、風に嘲笑う声が混じっているかのようだった。身の程知らずめ、どうしても刃向かうのなら沈めるのみだ。
そこはそんな海峡だった。船体はメリメリ軋み、舷がよじれた。板の隙間がこじ開けられて水が噴き込んだ。帆柱はヘシ折れそうになってたわんだ。綱という綱はちぎれそうに引っ張られて弦のような音を鳴らした。帆はバタバタと暴れて剥がれ飛びそうだった。
甲板は暴れ馬の背中のようだ。流れ込む水がすべてを攫おうとする。その中に、舵輪を掴んで立っている男がいた。舵はまるで言うことを聞かない。氷のようなしぶきが身に叩きつける。しかし男は時化に向かい、舳先の向こうで荒れる波を見据えて舵輪をまわそうとしていた。彼は固く信じていた。海峡を抜けた先にはまだ知らない海があると。水はそこで落ちてはいない。東に通じているのだと。
西へ行けば、東に着くのだ。世界は丸い。証拠なら、おれはもう掴んでいるぞと彼は海に向かい叫んだ。あれだ、あれがそうなのだと空の一点を指差した。夜空に白く、一滴のミルクをこぼしたように、ボンヤリと見える小さな星雲。それこそが、世界が丸い証拠だった。この南の果ての海で、それは天高くそこにあった。夜の間、常に見上げるところにかかり、水平線に決して沈むことはない。
それは南極の星雲だった。北の空に北極星があるように、あれはこの南の空でほとんど止まったようにしてほんの小さくしか巡らない。答えてみろ、あれはなんだ。おれが南の半球にやって来たのでないなら、なぜあんなものが見える。世界が平たいのであれば、なぜこんなことが起きる。太陽も月も今ではおれの北を巡っているのはなぜだ。
これが証拠だ! 彼は叫んだ。おれは敗けない。必ずここを抜けてやるぞ。行く手に何が待ち受けようと、おれは必ず越えてみせる。この世界をダンゴに丸めて転がしてやるんだ。それを遂げない限りは死なん。
絶対にだ! 彼は叫んだ。名はフェルナン・デ・マガリャンイス。それはポルトガル語での読みだ。スペイン語ならマガリャーネス。英語式に呼ぶなら、マゼラン。
世界の地図を丸めて西と東をつないだ男である。このとき彼が突き破った海峡が、大西洋から太平洋に抜ける唯一の道だった。今では彼の名を付けて、〈マゼラン海峡〉と呼ばれている。はるかに技術の進んだその後の船にとっても、通過は極めて困難という世界有数の海の難所だ。
そしてまた、このときに指が差した星の雲にも、彼の名前が付くことになった。
〈大マゼラン〉――その南極の星雲は、今はそう呼ばれている。
- Re: 遭遇 ( No.2 )
- 日時: 2019/04/20 12:04
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
その相手に遭遇したとき、古代進は〈がんもどき〉の操縦席でウトウトと舟を漕いでいた。七四式軽輸送機、その通称をがんもどき。宇宙は暗く、眩しく光る太陽と長く伸びる天の河の他、窓に見えるものはない。今いる場所は火星と木星の間だが、どちらの星も遠く離れて点にしか見えず、指で探すのも難しい。アステロイドの石ころはオートパイロットがよけてくれ、後ろの荷台も今はカラというのであれば、トラック輸送パイロットの仕事など寝ること以外に何があるのか。
そこに突然、その宇宙艇は現れた。レーダーが接近警報を鳴らしたときには、〈がんもどき〉のすぐ横をかすめるように飛び抜けていた。波動エンジンのものらしい赤い炎が前へ遠のいていく。だが警報はまだ鳴っている。近づくものがまだあるってことだ。古代はレーダーに目を走らせた。後方から三つの機影。それぞれに不明機を表す《UNKNOWN》の文字。アンノウン? 味方でないなら、敵だ。
ガミラス。
「冗談だろ? こんな――」
何もない宙域に? 古代は呻いた。がんもどき乗りになって五年。軍属とは言え、戦闘になど一度も参加したことはない。ずっと宇宙を飛びながら、ガミラスになど一億キロにも近づいたことすらない。だいたいやつらは冥王星から遊星を投げてくるばかりで、自身はあまり〈近海〉に入って来ようともしないはずじゃなかったか? 準惑星の陰に隠れて待ち構え、地球の船が二ヶ月もかけて行ったところを襲うのだろうに。
しかし今、それがまっすぐこちらに突っ込んでくる! 何かするような余裕はなかった。一秒後にはこの〈がんもどき〉は燃える火の玉になっている。それが古代にはわかってしまった。どうか苦しまず死ねますように――もうそれしか考えられない。
が、三機のガミラス機は、猛スピードで〈がんもどき〉を追い抜いてそのまま先に行ってしまった。最初の艇を追うようにして去っていくが、エンジンには小さな炎が見えるだけ。
「なんだ?」
自分が生きていることが、信じられない思いだった。古代は言った。「あれ、ガミラスじゃないのか?」
「今ノ三機ハすてるすカト思ワレマス」
と相棒が言った。真っ赤に塗られた樽みたいなロボット、名はアナライザー。〈がんもどき〉ならどの機にもセットになっているやつだ。つまり、機体と同様に、25年も経ってるポンコツ。「最初ノ船ヲ追ッテイタノジャナイデショウカ」
「追っていたあ? なんでガミラスがガミラスを――」
正面の窓に、遠ざかっていく小さな光がまだ見える。そう言えば動きがちょっと変な気もする。四つの光る点のうちひとつが他と違うので見分けるのは簡単だ。確かにそれが逃げ惑うのを、後の三つが追うような感じ。
だが――と思う。逃げているのはワープ能力を備えた波動エンジン艇だ。後ろに吐き出す炎を見ればそれがわかる。地球の船ではありえない。
地球人のものじゃないなら、ガミラスということじゃないのか? 味方の船をなぜ味方が追いかけるのか――考えていると、そのステルスのうちひとつの光点がかき消えた。同時にレーダーの画面でも、その〈不明機〉の反応が消える。
「ぎゃっ!」叫んだ。「ひとつこっちへ来るぞ!」
まずステルスというものは、レーダーに真正面に対したときに最も〈見えにくく〉なる。だからさっきは近づかれるまでレーダーに映らなかったのだ。それが再び〈見えなく〉なったということは、こちらを見咎め標的と定めたものに他ならない。ガミラスの戦闘機が向かってくるのだ!
「めーでー! めーでー!」アナライザーが叫んだ。「古代サン、脱出シマショウ!」
「黙ってろ! メーデーなんか誰が聞いているもんか!」
古代はコンソールに取り付いた。スロットルを全開にする。しかし老朽輸送機のエンジンは、なかなか吹きを上げようとしない。
「コノ機ニハ武装ガアリマセン!」
「黙ってろと言ってるんだ!」
古代は叫んだ。目は正面を見据えていた。敵は〈見えない〉戦闘機。だが来るのは下っ端だろう。隊長機からあのカモネギを仕留めてこいと命じられ、『チョロいマトです』と応えたのに違いない――そう思った。こちらに武器がないのを知ってやがるから、完全にナメてかかっているかもしれん。ふざけるなと考えた。もしそういうつもりなら、おれが目にモノ見せてやる――真正面から向き合うのならこれはまさにチキンゲーム。ならば先にひるんだ方が敗けになるものと決まってる。
ガミラス機が撃ってきた。曳光性のあるビームが、宇宙の闇を切り裂くのが見える。その銃声を古代は聞いた。空気のない宇宙ではビームの音など聞こえないと訳知り顔で言う者がいる。しかし、もちろん聞こえるものだ。だが慌てるな、落ち着け――自分に言い聞かせた。互いに動くもの同士、そうそう当たるものじゃない。その昔、地球で戦闘飛行機が生まれたときからの空戦の基本だ。銃による撃ち合いなんて、相手の眼の色までがわかるくらいまで近づかなけりゃ――。
見えた。ガミラスの戦闘機。突っ込んでくるその機体の、コクピットのパイロット。そいつと目が合ったと思った瞬間に、古代は機を閃かせた。鉄棒の逆上がり気味に機体を振って、ビームの必殺の火線を逃れる。
そのまま宙を一回転。ガミラス機は背後に飛び抜けていった。
「ワーッ!」アナライザーが浮いて回る。無茶な機動で人工重力が切れたようだ。
「つかまってろ!」
古代は叫んで、操縦桿をひねった。〈がんもどき〉が旋回して向きを変える。
「古代サン、ドウスルンデス!」
「この先に機雷原があるはずだな?」
「アリマス。ケド――」
「そこへ行くぞ!」
「エーッ!」
航路沿いには地球の船を護るため、宇宙機雷が敷設されてる。むろんまんべんなくでなく、数千万キロおきにまとめて置かれるわけだが、現代の宇宙船なら一時間毎に抜ける間隔だ。レーダーマップの片隅に最寄りのエリアが映っていた。このオンボロ〈がんもどき〉でもたどり着けない距離ではない。
いや、たどり着けるだろうか? 着いたところで、そこは――いいや、考えるな。生き延びるのに集中しろ。ガミラス機が旋回して追ってくる。もうステルスも何もあったものではない。レーダーには敵を表す《BANDIT》の文字が丸映りだ。ボロ輸送機のコンピュータも、攻撃を受けたからにはそれをバンデット――〈敵〉であると認識していた。
「めーでー! めーでー! 敵ニ遭遇。追撃ヲ受ケテイル!」
アナライザーがまた叫ぶ。その声は超光速通信によって瞬時に火星に届くはずだが、届いたところでなんになるのか。今、古代がいる位置から、火星は四千万キロ彼方――これは地球と月との間の百倍以上という距離だ。
救けなんか来るわけがない。古代は機をジグザグに飛ばした。相手は追いすがってくる。ビームの曳光。機の動きによって流れて、宇宙に扇模様を描く。一瞬のレーザー・ショーだ。
と、警報が鳴り響く。コンソールに赤いランプがいくつも灯った。
「古代サン、機雷デス!」とアナライザー。つまり機雷の警告なのだ。「コノママ進ムト――」
「わかってる!」
古代は速度を緩めずに、〈がんもどき〉を突っ込ませた。
「機雷、古代サン、機雷!」『嫌い』と言ってるように聞こえる。「当タッタラ木ッ端微塵デス!」
「わかってるって言ってんだろう!」
あるわあるわの機雷の大群。まさに魚にでもなって、大発生したクラゲの群れに飛び込むようなものだった。それも、猛スピードで。ウニのような丸いトゲの固まりで、当たっただけで機体がブチ壊れそうだが、むろん当たれば弾け飛ぶのだ。しかし入ってしまったら、もうその中を進むしかない。
「古代サン、速度緩メテ!」
「っせーんだよ!」
右に左に機体を振って古代は機雷をすり抜ける。アナライザーが頭も手足も胴体からスッポ抜かせてバラバラになって――このロボットはときどきこうなる――悲鳴を上げて操縦席を飛び回る。ガミラス機はビームを放って追いかけてきたが、とうとう機雷のひとつに当たって爆発した。
振り向けば宇宙にオレンジ色の火球が広がっている。
「やったぞ!」
「モ……モウめろめろデス……ワタシノ腰、腰ハドコ……」
「待ってろ、いま機雷原を――」
出ようとしたときだった。不意にビームが飛んできて、目の前の機雷を貫いた。爆発。機雷が弾け飛ぶ。
「え?」
驚くヒマもなかった。〈がんもどき〉のまわりの機雷が、次々に撃ち抜かれて吹っ飛び出した。周囲が炎に包まれる。
「これは――」
ビームが来た方を見た。二機のガミラス戦闘機。三機いたうちの残りふたつが、機雷原の外からこちらを狙っていたのだ。
「わわわ」
慌てて機をめぐらせる。しかし向きを変えた先の機雷がまた消し飛ばされた。
「こいつら――」
古代は呻いて、二機のガミラス機がいる方を見た。8の字を描いて互いにユッタリとまわりつつ、突っつくように〈がんもどき〉に撃ってくる。自分達は決して機雷原の中には潜り込まないようす。
「おれをこっから出さないつもりか?」
慄然とした。周囲は機雷。動いていればいずれどれかに接触し、動かなければビームに殺られるということになる。機雷原をもし抜け出ても、そのときは二機で襲われて八つ裂きか。
となれば、道はひとつしかない。古代は操縦桿を押した。〈がんもどき〉の機首が下を――宇宙に上も下もないが、古代から見た上下ならば存在する――のめり込んで向いた。
「古代サン! 機雷原ノ奥ニ入ッテイク気デスカ!」
「しょうがないだろ! 向こう側から抜け出すしかないだろうが!」
「デスガ――」
とアナライザー。古代にもわかっていた。ガミラスの一機がクルリと向きを変え、その場を離れ去るのがレーダーに映っている。あれは去っていくんじゃない。こちらの考えを読み取って、先回りして待ち受けようという気なのだ。
どうする、と思った。望みと言えば、やつらもそうそう時間をかけてはられないだろうということくらいか。戦闘機の宿命として、やつらの航続距離は短い。それは地球の戦闘機とたいして変わらないはずだった。三十分も全開飛行を続けたら、もう帰れはしないはず。燃料切らしてこんなところを漂っていたら、地球の船に見つけられて拿捕される――それはやつらもわかるはずだ。あの船追ってここまでやって来たのなら、エネルギーは底を尽いてる――。
そこで思った。あの船は一体どうなったんだ? あれを追ってた二機が二機ともこっちにまわってきたってことは――。
殺られたのか。そもそもどんな船だというんだ……しかし考えるゆとりはなかった。機雷をかいくぐって進む。もう少しで抜けられる――。
最後の機雷をすり抜けて、〈がんもどき〉は星空に出た。だがガミラス機が来るのが見える。反対からももう一機。
挟み撃ちだ。
ちくしょう、と思った。いっそもう一度、機雷の中に潜り込むか。こいつらは中へ追ってこないだろう。いや、どうだろうか。こいつら、やはり、かなりあせってるんじゃないのか? あの船を追ってここへ来た。それなりに重要な指令を受けてきたのだろう。そこにおれが出くわした。こいつらには不測の事態。この蚊トンボを早く片付けないことには任務に支障をきたしてしまう。どころか、一機殺られてしまった。下手すれば地球の船に捕まって――なんて考えてるんじゃないのか? よりにもよってあんなオンボロ、すぐに消し飛ばしてやる――と、そんな考えでいるかもしれん。今度の二機はさっきのやつと違って無駄ダマを撃ってはこない。まっすぐこちらに進んでくる。
それならば――と思った。古代は機をターンさせた。
「古代サン! マタ機雷ヘ突ッ込ムノデスカ!」
「いや」と言った。「見てろ」
操縦桿から手を離して指をほぐした。チャンスは一瞬だろう、と思う。やつらに射撃の腕があるなら、撃つのは引き付けてからだろう。最期におれの顔を見やがれ。
今、と思った瞬間に、古代は機をひるがえさせた。ガミラス機が二機とも撃った。火線が交錯。そのまま、勢いあまったように、二機のステルスは正面からぶつかり合って四散した。
「ヤッタ! 古代サン、ヤリマシタ!」
アナライザーがまだバラバラの状態で手足を振って、あちこちのランプをピカピカさせた。
「うわー」と古代。我ながら、「嘘みたい……」
もう敵はいなかった。宇宙は凪いだ星の海。それ以外は何もない。
いや、「待て。さっきの船はどうした」
「ハ? 船ト言イマスト?」
「ほら、追われていたやつだよ!」
「オオ、ソウダ。忘レテマシタ」ロボットが忘れるな。「エエト、タブン、アノ辺カナ。望遠デ見テミマショウ」
カメラが向けられる。モニター画面に奇妙な宇宙艇が映った。
エンジンが止まり、煙を吹いてる。やはりガミラスの戦闘機に殺られてしまったのだろう。
「あーりゃ、まあ」古代は言った。「アナライザー、なんだかわかるか」
「ワタシガ持ツでーたノ中ニハアリマセンネ。がみらすノドノ船ニモ似テイマセン」
「て言うより、なんか軍用じゃない気がするけど」
戦闘用には見えなかった。飛行機で言えば何かビジネスジェットというか、帆を付けたらヨットというか。どうもそんな印象を受けた。〈がんもどき〉のように荷物を運ぶものとも違う。何人かで宇宙を優雅に旅するための船、という――。
「シカシ、次元潜航能力ヲ持ッテイルヨウデスネ。ソウ思ワレル特徴ガアリマス」
「次元潜航? 潜宙艇なの?」
ふーん、と思った。そう言えば、ちょっと水鳥みたいにも見えるか。カワセミなどの、水に潜って魚を捕らえる鳥のような感じに見える。ガミラスと言えばサメかウツボか深海魚か、潜宙艦でなくたって、オコゼかアンコウ、ばかでっかいヒトデかという形態ばかりのはずなのに。
とにかくこの船、やはり軍用じゃなさそうだが、「それでレーダーに映らなかったんだな」
「がみらすノ網ヲクグッテ外カラ太陽系ニ入ッテ来タ。シカシ結局見ツカッタ。トイウトコロカモシレマセン」
「ふうん」
と言ったとき、ピーピーピーと警報が鳴った。
「わっ、今度はなんだ」
またガミラスか、と思ったが、どうやら違う。
「火星カラ通信デス。れーざー送信デ、文章ノミ」
「はん? レーザー?」
レーザー通信は名前の通り、レーザー光線で信号を送る通信手段だ。ピンポイントで相手めがけて送れるので、敵などに傍受されにくいとされる。また、たとえされるにしても、敵が遠くにいるのなら傍受に時間がかかるとされる。古代が今いるのは火星から光の速さで二分ほどのところ。レーザーは光速で進むので、敵が二倍の距離にいるなら届くのに倍の四分かかるわけだ。そしてそんなに届かないよう光の強さを調節すれば、傍受のリスクをかなり減らせる――ということになっている。
超光速での交信はできない、かなりかったるい方法だ。だからおおむね内容も、メールのような文章のやり取りになるのが普通ではある。
「なんて言ってんだ?」
アナライザーがトレイを開けた。受信文が画面に出る。
《貴機のメーデー受信した。無事か? 状況を知らせよ》
「なんだこの野郎」古代は言った。「ガミラスに追われながらメールなんて打ってられると思ってんのか?」
「ソウ返信シマスカ?」
「いや」と言った。「どう応えたらいい?」
「ソウデスネ」
アナライザーが文を考え画面に出した。古代は頷いて言った。
「それでいいんじゃないの」
返信を送る。やはりレーザー。
「これ、返事が来るまでに、五分くらいかかるんだろうな」
「ドウシマショウ」
望遠カメラの画像を見た。古代は言った。
「この船んとこへ行ってみるか」
- Re: 次元潜航艇 ( No.3 )
- 日時: 2019/04/20 19:04
- 名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)
ちょうどその破壊された次元潜航艇(とおぼしきもの)の残骸が浮かぶ場所に着いたところでまた着信があった。
《その艇の乗組員の生死を調べよ》
「おい」と言った。「冗談だろ?」
「冗談デハナイト思イマス」
「ガ、ガ、ガ、ガミラス人って、どんな格好してんだよ」
「ワタシノでーたニハアリマセン」
当たり前だ。地球はこれまで、敵を知るため、ガミラスの兵をなんとか捕虜にしようと試みてきた。しかしひとりも生け捕りはおろか、死体のひとつも手に入れられずいるという。なんと言っても最大の理由は、準惑星の陰に隠れて太陽系内部にはなかなか来ないその戦術だ。さっきのステルス機にしても、機が殺られればパイロットは瞬時に焼かれる仕組みになっているらしい。ガミラスには、どうやら兵士の投降や脱出を許さぬ非情さがあるらしいのだ。コクピットの搭乗員はチラリと見えた。目が合った気もしたけれど、それは〈気がした〉というだけで、顔は黒いヘルメットで覆われていた。大きさは地球人と同じらしいと言われるが、どんな姿格好なのか誰も知る者はいないのである。
「で、でっかいザリガニだったらどうするんだ。でなきゃ、タコとか。イソギンチャクとか。おれ、ナマコだけはやだよう」
古代進は神奈川県の三浦半島で生まれ育った。海の近くで、ナマコがいた。で、うっかり、はだしでそれを踏んでしまったことがあるのだ。おぞましい。あれだけは、死ぬまで忘れられないだろう。
「ソンナコト言ッタッテ」
「アナライザー、お前、分析ロボットだろ。なか調べに行って来い」
「命令ナラ行キマスガ」
「そうだ、行け。ナマコだったら触るなよ。エンガチョだからな」
「ワタシモアマリなまこミタイナモノハ好キジャアリマセンガ」
「ロボットが何を言ってやがる。あれはなあ、切ったのを食べるぶんにはうまいんだ」
なんかメーターをクルクルさせた。
「なんだよ」
「イエ、古代サン……何カ信号ヲ出スモノガアリマス」
「ん?」
「ホラアレ」
指差すものを見た。宇宙に何か点滅する光がある。
アナライザーがカメラを向けた。望遠。画面にそれが映る。
ラグビーボールのような楕円の球体だった。中に人影のようなもの。
「脱出かぷせるジャナイデショウカ」
「脱出カプセル? ガミラスが脱出なんて聞いたことないぞ」
「イエ、ソモソモ、がみらすトハ限リマセンヨ。別ノ異星人カモシレマセン」
「うーん」と言った。ちょっと考えてから、「やっぱりナマコじゃないのか?」
「トニカク、アレヲ調ベテミマショウ。生キテイルカモシレマセン」
〈がんもどき〉で近づいていった。どうやらそれは、やはり脱出カプセルらしい。大きな透明の窓があり、人間ほどの大きさの、人間のようなものがいるのが見える。
しかし、
「これ――」古代は言った。「人間じゃないのか?」
カプセルの中にいたものは、まるっきり地球人の若い女としか見えなかった。