二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

敵中横断二九六千光年
日時: 2019/04/20 12:00
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

個人リメイクによるオリジナルとは別の『ヤマト・イスカンダル編』。
古代進が最初は貨物輸送機のパイロットとして登場します。武装のない輸送機でサーシャを追うガミラスと遭遇、危機を切り抜けカプセルをヤマトに届けるという展開です。

この作では〈人類滅亡まで一年〉の定義を『最後のひとりが死ぬとき』でなく『すべての女が子を産めなくなるとき』及び『すべての子供が白血病に侵されるとき』であり、そのリミットが共にあと一年であるとします。ヤマトが九ヶ月で帰還できるならまだ生きている人のほとんどを救えるのですが、しかし一日遅れるごとに十万の子が病に倒れ、百万の女が出産不能になる設定です。ゆえにヤマトはこの作では、子を救うための船としてイスカンダルを目指します。

なお、同じ作品を二次小説サイト〈ハーメルン〉と〈2.novelist.〉にも投稿しています。

Re: 干上がった海 ( No.4 )
日時: 2019/04/21 07:58
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

西暦2199年。地球は赤茶けた星になっていた。大気圏突入のブラックアウトを切り抜けると、眼下にかつては海だった赤い大地が広がっている。古代には一年ぶりの地球だった。去年にはまだなんとか泥の海が残っていた。ニュース映像で知ってはいたが、自分の眼でこうして見ると、あまりの光景に慄然とする思いだった。古代はアナライザーに言った。

「遊星が落ちたからって、なんで海が干上がるんだ?」

「オ答エシマス」とアナライザー。「簡単ナ説明ト詳シイ説明ノドチラヲオ望ミニナラレマスカ?」

「いい。知りたくて聞いたんじゃない」

「ソウデスカ」

正確には『干上がってる』というよりも、『北と南に集まって氷になって固まっている』と呼ぶのが正しいくらいのことは知っている。南北それぞれ45度。北は日本の北海道、南はオーストラリアのタスマニア島――の辺りより高緯度に水が寄せ集まって、そこで分厚く凍っているのだ。極地では氷の厚みは最大30キロメートルになっていると聞くけれど、エベレストが宇宙からとんがっては見えないように遠くからは目でわからない。空気は乾燥しきっていてごく薄い雲しか出来ず、雨や雪が降ることはない。氷は泥が凍ったもので白くもないから、今の地球は全体が赤い乾いた玉。

とまあ、それが〈簡単な説明〉だ。その氷さえ解かせられれば海は元に戻るという。そこまでは聞いてわかるにしても、その先は……〈詳しい説明〉とやらいうのは、とても普通の人間の手には負えない。なんで水が南北に寄せ集まったりするのやら、古代にはまるでチンプンカンプンだった。

生物が死に絶えたのも塩害と大地が冷えたせいという。しかし、とは言え放射能汚染だ。これをなんとかしないことには、海を戻しようもない。せめて遊星が止められたなら……。

そんなところが古代の聞いている話だった。遊星爆弾そのものは、冥王星が回る辺りの空間にいくらでもあるただの岩だ。〈爆弾〉でもなんでもない。人を滅ぼしたいのなら、大昔に恐竜を絶滅させたといわれるようなデカいのをひとつ落とせばいいわけだが、ガミラスもそこまでの力はないのだろう。直径二十か三十メートルくらいの岩を投げつけるのがせいぜいのようだ。

その代わり、やつらは的確にそれを使った。地球には、かつての原子力発電で生まれた廃棄物が大量にあった。21世紀、人口が百億を超えたあたりで石油の枯渇が始まると、脱原発などとは言っていられなくなり人はウランが尽きるまで核による発電を続けた。エネルギー問題がどうにか一応の解決を見たのは22世紀も半ば頃になってからだ。後には廃炉を必要とする一千基の原子炉が残り、膨大な放射性廃棄物が地中に埋めたままになった。そんなものは宇宙に上げて金星にでも投げ捨てられるようになってもきていたが、打ち上げの失敗で物質が空に撒き散らされるおそれがわずかでもある以上それをやるわけにいかなかった。

ガミラスの遊星はそこを狙った。二十メートルの大岩がプルトニウムの埋蔵地にクレーターを開け、十万年間地上を汚す見えない悪魔を解き放った。チェルノブイリをはるかに超えるその毒に草木は枯れて動物達は死に絶えた。

今、人類は地下に逃れてなんとか助けた犬や猫を飼いながら絶滅のときを待っている。

「滅亡まであと一年か――その数字って本当なのか?」

「アクマデモ悲観的ナ予想デスヨ」

「けどさあ、まだ十億人も生きてることは生きてるんだろ。『あと一年、あと二年』って五年前から言いながらなかなか絶滅しねえじゃん」

「滅亡シテホシイノデスカ?」

「そういうわけじゃないけどさ」

「マズ、〈滅亡ノ日〉トイウノハ、人類ノ最後ノヒトリガ死ヌ時トイウ意味デハアリマセン。女性ノスベテガ子供ヲ産メナイ体ニナルカ、産ンダトシテモスベテノ子供ガ放射能障害デ幼イウチニ死ヌコトニナル日、トイウ意味デス。最後ノ大人ガ死ヌノハ十年先ノコトデス」

「うん」

「ヤハリソロソロアト一年デハナイカト言ワレルヨウデス。存続ノ望ミガ絶タレルマデニ……」

「ふうん」と言った。まるで実感がわかない。

「古代サン、ナントカシタイト思ワナイノデスカ!」

「ここでおれとお前が話してどうにかなるってもんじゃないだろ」

「ソレハソウデスガ……」

「女が子を産まなけりゃ、か。確かにそういうもんなんだよな」

「今年ハツイニ出生率ガ0.01ニマデ落チタソウデス。奇形デ生マレルオソレモアリ、産ンデモ放射能ノ混ザッタ水ヲ飲マセルコトニナルトイウノデ、女性達ハミンナ妊娠ヲ拒ンデイルトカ」

「そうか」と言った。「そりゃそうだよな」

もう一年、子が生まれてさえいない……そういう意味なら、〈人類滅亡の日〉というのはもう来ちまってるんじゃないのか? 女が子供を産むに産めないのなら――古代は思った。考えは、すぐに荷台に置いた〈積荷〉に向かうことになる。収容したあの脱出カプセルだ。中の〈女〉は死んでいた。潜航艇から最後に脱出したものの、Gに背骨を折られたらしい。心臓が止まっていたのを蘇生を試みてはみたものの無駄だった。

あの女はなんなのだろう? 手に何やら楕円球のカプセル様のものを持っていた。楕円の脱出カプセルの中にまた小さな楕円カプセル。古代は見て、鳥のタマゴを連想した。カプセルは透明で中が覗いて見えたのだが、真ん中に丸いものが入っていたのだ。古代には、それがタマゴの黄身に思えた――色が黄色いというのではない。その中で何かがうごめいているようであったのだ。小さなヒナの心臓が脈を打っているような。

あるいは、人間の赤ん坊が――バカな、と思う。そんな考えにとらわれるのは、〈彼女〉がそのカプセルを両手で胸に抱えていたからだろう。これだけはどうしても守らねばならない。たとえ自分の命に代えても――その一心でいたかのように古代には見えた。

しかしタマゴなどではない。それは鉛のように重く、〈黄身〉の動きも心臓の鼓動というよりは何か高速で回転するモーターの唸りのようだった。あれはなんなんだ、と思う。ことによるとマイクロ・ブラックホールとか、そういうシロモノではないのか。

でなけりゃ、どうして、それを持ってそのまますぐ地球に向かえなどと言われるのか――そして地球に着いてみれば戦闘機に迎えられ、なんとモールス信号なんかで《ついて来い》と言われる始末。今も四機の〈コスモタイガー〉戦闘機が、二機ずつ分かれて古代の左右を〈がんもどき〉の遅い速度に合わせてユラユラ蛇行しながら飛んでいる。

いや、違うな。ああして糸を縫い合うようにしてるのは、何か警戒しているのだ。ガミラスが地球に直に来たなんて例は一度もないというのに。まあ、無人偵察機などはしょっちゅう飛ばしてくるらしいから、それを墜とす気なのかもしれんが、それにしても――。

〈タイガー〉か……弧を描いて空を舞う戦闘機を眺めて思った。おれだって、元は戦闘機乗り候補生だった。世が世なら――いや、考えるのは無駄か。元は候補生と言っても、あんなの、あの新鋭機に乗るトップガンとは雲泥だろう。

そうだ、望んだわけじゃない。軍に入ると〈適性有り〉のハンコを押されてパイロットコースに放り込まれた。ガミラスとの開戦から一年というときだった。地球政府は当時、戦闘機パイロットの大幅増員を行っていた。戦闘機乗りはすぐに死ぬ。強烈なGに耐えながら機を操れる人間は育てるのに何年もかかり、大量に養成せねばあっという間に足りなくなると考えられたからだ。つまるところは消耗品。戦闘機と言ったところで、実は対艦攻撃機。対艦ミサイルを腹に抱いて敵の船に突っ込んでいく、カミカゼ同然の鉄砲玉だ。古代と一緒にコースに組まれた者のうち、半分はすぐ脱落した。古代はほぼ最後の最後まで残ったものの、特攻部隊に配属寸前、幸か不幸か選抜に洩れた。結局のところ実戦用の機体を与えられたのは死にたがっているとしか思えないような連中ばかりだった。

それもやはり、準惑星の陰から出ないガミラス艦を叩くには宇宙戦闘機しかないという幕僚達の考えゆえだ。あのころ選ばれていった者は、ひとりも生きてないだろう。
そして自分は、今こうして、〈がんもどき〉を飛ばしている。あの〈タイガー〉のパイロットは、おれをどう見ているのかな。グッと近づいてきたかと思うと、クルリと回ってまた遠ざかる。尾翼に大きく《隼》と漢字一文字のマーキングがあった。

九八式戦〈コスモタイガー〉――あれは対艦攻撃機じゃない。純粋に対戦闘機の格闘性能を追求した艦艇護衛要撃機だ。チカチカとモールス信号を送ってきた。

アナライザーが言う。「方位270」

「あいよ」

一行は、かつて南西諸島海溝と呼ばれた海底の崖であったところの岩壁に沿って飛んでいた。日本の沖縄と台湾の間だ。みかんの皮をいったん剥いて重ね合わせたような地球の地殻。そのひとつのフィリピン海プレートというのが沖縄の下に潜り込もうとし、切り立つ崖を作っている。そこに突っ込むようにして、〈タイガー〉の一機がフッと見えなくなった。

「え?」

と思ったらまた出てきた。いや、出てきたはいいのだが。

「なんだ? 地面から飛び出したように見えたけど」

その〈タイガー〉はクルクルとビルの回転ドアのように機体をロールさせながら古代の後ろにまわり込んだ。翼端をこちらにぶつけんばかりにして追い越していく。モールス信号をチカチカチカ。

「ドウモ崖ニ裂ケ目ガアルヨウデスネ。《そこに入れ》ト言ッテイマス。《自分が今やったようにやってみせろ》ト」

「こんの野郎……」古代は言った。「おーおー、やってやろーじゃねーか」

「古代サン、無茶ハヨシタ方ガ……」

「うるせえ! ナメられて黙ってられるか!」

とにかく、基地の入口が、擬装されて崖にあるということだろう。知らない者が一発で入れるものとも思えないが、やれと言うならやるしかない。

「見てろよ」

と言った。大気圏内飛行用の翼のフラップをいっぱいに下げ、〈がんもどき〉の速度を落す。崖に亀裂があるのが見えた。

「あれだな」

「ワーッ!」

突っ込んだ。左右はゴツゴツした岩だ。古代はその谷間を抜ける。

「ワーッ、ワーッ、古代サーン!」

あった。基地の入口らしき矩形の穴が。その手前に野球場の照明塔のようなものがあり、縦横に灯るランプが並ぶのが見える。基地への侵入角度を示す標識だろう。
が、やはり、ちょっと一度では入れそうにない。古代は上を飛び越した。

さっき〈タイガー〉が出たとおぼしきところからまた空に飛び上がる。フラップを戻し、スロットルを開けた。

「古代サーン、アソコニマタ入ルンデスカア」

「だってしょうがねえだろう」

機をめぐらせて、もう一度崖に向かったときだった。『待て!』といきなり、無線に入ってきた声があった。

「え?」

そしてアナライザーが、「古代サン、上空ニ何カ!」

見えた。何かが降ってくるのを。それは――。

「ミサイル?」

アナライザーがカメラを向けた。望遠で捉える。どうやら、大型のミサイルらしい。まるでソフトクリームのように先がドリル状になっていた。

それが向かうのはさっき古代が入り損ねた基地がある辺りだった。そして、〈ドリルミサイル〉とでも呼ぶべきそれは、まっすぐ地に突き立った。

古代はア然。十数秒のち、巨大な炎がそこに膨れ上がるのが見えた。

Re: 無人戦闘機 ( No.5 )
日時: 2019/04/21 23:53
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

「キュキューッ!」

アナライザーがひっくり返ってバラバラになった。爆発の電磁波をモロに食らったのだろう。〈がんもどき〉の計器類も異常をきたした。機がグラつき、墜落していきそうになる。

きりもみに降下。地面に激突寸前でどうにか体勢を取り戻した。

「な、なんだよ、今の……」

計器が正常に戻っていくのを確かめながら古代は言った。輪切りになったアナライザーがお掃除ロボットのように互いに床を這い回って自分の分身を探しながら、「地中ノ要塞ヲ攻撃スルみさいるデハナイデショウカ……」

そこに無線。『逃げろ! 敵に狙われてるぞ!』

「え?」

『上だ!』

とまた無線が言った。同時にビームが上から垂直に落ちてきて、〈がんもどき〉の機体をかすめる。

「わっ」

古代は上を見た。黒い機体がいくつも降るように落ちてくる。

『〈アルファー・ワン〉より〈ブラヴォー〉! そいつらはドローンだ! 〈オスカー〉を護り抜け!』

また無線の声が叫ぶ。さっきからの同じ声だ。〈タイガー〉隊のうちの一機ではなさそうだった。

ガミラス機が〈がんもどき〉に群がってくる。サッと通り過ぎたと思うと急旋回してまた向かってくる。殺られる、と思った瞬間、その敵に、上から突っ込んできた銀色の機がブチ当たった。

ふたつもろともに墜ちていく。なんだ?と思った。今のが無線で叫んでいた声の主か? まるで自分から体当たりしたように見えたが――。

だがそれよりも、ガミラス機だ。やけに小さいように見えた。そして、速い。あんなふうに動いたら、中の人間はたまらないはず――。

いや、『ドローン』と言っていたな。無人機? 人が乗る機では不可能な動きで目標を襲う飛行機型ロボットか!

冗談じゃない。そんなもんに狙われたら! そして気づいた。こいつらは、このおれだけを狙っている! 護衛の〈タイガー〉には目もくれず、〈がんもどき〉だけ墜とすようプログラムされてきているのだ!

とてつもなく速い機体が古代を襲い飛び抜けては、ブーメラン旋回してまた戻ってくる。どうやら四機いたものが、一機なくなり残り三機。

古代はひたすら機体を旋回させるしかなかった。〈タイガー〉らが無人機どもを追い墜とそうとしてるのがわかるが、速い動きについていけずにいるらしい。

一体なんなんだ、こいつらは! どうしておれだけを狙う! 救いと言えば、こちらに対して敵が速過ぎることくらいか。一瞬に飛び越してしまうため、なかなか狙いをつけられずにいるようだ。だからなんとか一度離せば――。

〈タイガー〉の一機がそれに気づいたようだ。グッと大きくインメルマンターン。無人機の後ろに着けてミサイルを放った。命中。敵は墜ちていく。

無人機の残りは二機! 古代は急降下をかけた。ここは大気圏内だ。バカ正直にビュンビュン向かってくる相手なら使える手がある。

「アナライザー!」叫んだ。「おれが『フラップ』と言ったらフラップを下げろ!」

「エッ、チョット待ッテクダサイ。ワタシ右手ガドコニアルノカ……」

「こらあっ!」

高度を落として水平飛行。無人機が誘いに乗った。

「フラップ!」

間に合った。アナライザーの操作によって機体がフワリと浮き上がる。後をついてきた無人機は失速して地面にブチ当たった。

「やった!」

が、そこに最後の一機が真正面から向かってくる。

もうダメだ、と思ったときにそいつはビームに撃ち抜かれた。爆発四散。

墜としたのは《隼》のマーキングをした〈タイガー〉のようだった。どうやら最後の一機となった敵を殺るのはそう難しくなかったとみえる。

古代は深く息をついた。

またチカチカとモールスが来る。そんな手段で通信する意味ももう今更なさそうに思うが。

アナライザーが言った。「『ついて来い』ト言ッテイマス」

Re: 屋久島 ( No.6 )
日時: 2019/04/23 00:20
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

元は島であったらしいものが点々と続く。沖縄から奄美、トカラ列島のかつては海であった場所。あらためて古代は四機の〈タイガー〉に囲まれ飛行を続けた。あれからずっと北へ向かっているのだが、

「もうそろそろ燃料がないぜ」古代は言った。「〈タイガー〉のやつらも知ってるはずなんだけど……」

「忘レラレテルカモシレマセンヨ」

「うん……けどあいつらもきっと事情は同じだろう」

むしろこの〈がんもどき〉より燃料の残りは少ないかもしれないな、と思った。大気圏内、それも低空は空気抵抗が大きいため、宇宙よりはるかに多くの燃料を食う。まして戦闘機は大食いだ。さっきの空戦でだいぶ使ったに違いない。もうそろそろ九州というとこまで来たが、あとどれだけ飛べるものか。

空中給油なんて真似も、〈タイガー〉ならともかくとして、この〈がんもどき〉にはできない。まあ、〈タイガー〉にせよ〈がんもどき〉にせよ、垂直離着できるのだから、どこにでも好きに降りはできるのだが……しかし垂直着陸というのが、また盛大に燃料を食う。一度降りたらお互い二度と飛び立てないに違いない。

その着陸ができるリミットも迫っていた。せいぜい九州の中ほどまでしか飛べないだろう。

どうする気かなと思っていると、〈タイガー〉の一機が編隊を離脱した。どうやらかつて離島であったものに向かっているらしい――しかし、かなり大きな〈島〉だ。それにやけに高い山がそびえている。

「屋久島デスネ。キット昔ノ飛行場ニ降リルンデショウ」

「ふうん。今は枯れ木の山か……」

つぶやいた。地上の生き物が死に絶えたのは、放射能より塩害と寒冷化のせいが大きいと聞いている。海が干上がったことにより、元は陸であった土地まで塩が広がり地面を覆い尽くしたのだ。あの山などは頂上まで塩にまみれてしまっているに違いない。標高二千メートルのかつての洋上アルプスも、今はもう苔も生えはしないのだ。

〈タイガー〉はその屋久島に降りていく。なるほど、あれだけ大きな島なら飛行場のひとつくらい……と思ったが、残り三機はそこで大きく向きを変え、西の方角へ進路を取った。古代にも《ついて来い》と告げてくる。

なんだ?と思った。まさか今から中国へ行こうというのじゃないだろう。そんな燃料があるわけがない。その先に地下都市の入口でもあるのだろうか。

何もない地の上を二百キロ近く飛ばされた。いよいよ燃料が底を尽く。

と、レーダーに金属反応。行く手にかなり大きなものがあるのが映った。

基地か? いや、こんなにわかりやすくあったら、ガミラスにすぐ狙われてしまうはずだ。さっきの基地もレーダーには映らなかった。じゃあ、こいつはなんだろう。行く手に目をこらしてみた。赤茶けた地面の上に何かある――。

「なんだ?」

と古代は言った。ギザギザとした古い城のようなもの。古代の――って、自分の名じゃなく――遺跡か? しかし、かつて陸であったように見えないが。それにこの金属反応――。

だがすぐわかった。船だ。かなりデカい船。宇宙船じゃなく、水に浮く、海をかき分ける鉄の桶だ。どうやらそれは、沈没船の残骸だった。甲板に砲がズラズラ並んでいる。そして、城のような艦橋。

超ド級戦艦と呼ばれたたぐいの軍艦だった。海に沈んでいたそれが、乾きヒビ割れた大地に赤錆びたむくろをさらしているのだ。

「〈大和〉デスネ。第二次大戦中ノ日本ノ戦艦デス」

「へえ。どこと戦争したの」

「マズ中国。次ニそ連トもんごるデス。〈そ連〉トイウノハチョット説明ガ必要デスガ、ソノ後ニ……」

「あーもういい」

聞いたおれがバカだったと思ったところにまたモールス信号。

《着陸スル》

〈タイガー〉が着陸脚を出していた。降りていくのはどうやら沈没船のところ。

「え? え? え?」

なんであんな場所に? アッケにとられていると、《隼》マーキングの〈タイガー〉が古代を後ろからせっついてきた。早く降りろというのだろう。

まず一機の〈タイガー〉が垂直降下で砂を巻き上げ沈没船から百メートルばかりに降りた。

どうやら続くしかない。古代は垂直降下に入った。

戦艦〈大和〉。その艦橋構造物。ヘシ折れて曲がったマスト。煙突が後ろに傾いでいるのはどうも元からであるようだが、それらを窓の外に見る。海の底で何かいろいろこびりついたらしきものが、ひからびてへばりついている。古代はそれらを間近に見上げるところに降りた。

《回収物とデータを持って降りろ》

とモールスで指示された。回収物とは例のカプセル、データとはあの潜航艇を撮った映像などなどだろうが、機体のフライトレコードを含むすべてのデータはアナライザーにコピーされて保存されてる。だからこの相棒を連れて行けばいい。古代は宇宙服を着て外に出た。また一機の〈タイガー〉が〈がんもどき〉のすぐ近くに着陸している。二機ともキャノピーは閉じたまま。

残り一機はまだ空にいた。もう燃料もないはずなのに、上空を見張るように旋回している。

モールス信号。《歩け。機体から離れろ》

言う通りにした。まるで身代金の受け渡しだな、と思う。10メートルほど歩いたところで止まれと言われた。

《両手を挙げろ》

「おい、いいかげんにしろよ!」怒鳴った。「おれが何をしたっていうんだ!」

〈タイガー〉のキャノピーが開いた。尾翼に《隼》のマーキングがあるやつだ。パイロットが姿を見せたと思ったら、拳銃を抜いて撃ってきた。BANG! 古代の足下の土が弾ける。

「わっ」

と古代とアナライザー。てんでたまらずに両手を挙げた。

《隼》機のパイロットが降りてくる。顔は黒いバイザーで見えない。古代の方にやってきた。手に拳銃を持ったままだ。

そして突きつけてきて言った。「この船を見たからにはお前を帰すわけにはいかない」

Re: 沈没船 ( No.7 )
日時: 2019/04/23 23:52
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

最後の〈タイガー〉が降りてくる。その轟音でしばらく話のしようもない。パイロットは古代に銃口を向けたままずっと動かずにいた。別の〈タイガー〉のキャノピーが開き、パイロットが姿を出した。しかしそいつは降りることなく高みから古代に拳銃を向けてくる。

「え、えーと……」古代は手を挙げたまま、「『船』って、この沈没船?」

応えない。

「そっちが連れてきたんだろうが! 見せておいてそれはないだろ!」

「沖縄基地が殺られたからだ!」機上から銃を向けてきている男が言った。「それもお前がつけられたからだ! それがわかってんのか!」

「やめろ」と《隼》機の男。「こいつが悪いんじゃない」

「ですが隊長はこいつのために!」

「やめろと言ったんだ!」

叫んだ。ヘルメットのバイザーを開けて。だから声は直接響いた。別に五分や十分で危険な量の放射線を浴びるというものでもない――そもそも、雑草やゴキブリまでも死に絶えたのは寒冷砂漠化と塩害のためで、放射能はその次だ――しかし、あまり普通にはできないことであるはずだった。男はそのまま古代に向かう。

「あんたが古代か。その〈がんもどき〉でガミラス三機墜としたって?」

古代は気圧けおされるものを感じた。拳銃よりその男が体全体で放つ威圧感。がんもどき乗りとトップガンの決定的な格の違い。襟の記章は階級が自分と同じなのを示していた。だがそんなもの意味をなさない。虎にちなんだ黒と黄色のタイガー・スーツ。胸のワッペンに艦載機乗りの錨マーク。

ようやく言った。「さっきので四機だ」

肩をすくめた。「あと一機でエースかい。ネギしょったカモにしちゃたいしたもんだ。だが黙ってろ。殺すとは言わん。ついてきてもらう」

他の二機からもパイロットが降りてきて、古代のボディチェックをした。ケースに入れたカプセルを確認。古代とアナライザーを小突くように全員で歩き出す。

向かうのはやはり沈没戦艦だ。近くで見ると長い長い赤錆の壁。本体はほとんど地にうずまって、横にいくらか傾いてもいる。吹く風に妙な唸りを発しているのは、あちらこちらに開いた穴が笛の役目をするからだろう。

そしてプシューというような音。これはおそらく放射能防護扉が開く音だ。

「え?」

古代は目を見張った。赤錆の固まりと思えた舷の一部が開いて、扉をそこに見せたのだ。明らかに、気圧の差で外の放射能を含んだ空気が中に吹き込むのを防ぐ造りのものだった。すぐ奥に第二の扉がある。中には放射能防護服――それもどうやら、耐スペース・デブリ仕様の宇宙船外作業服のようなものを着たふたりの人間。どちらも手にサブマシンガンを持っていた。

《隼》機の男がアゴをしゃくるようにヘルメットの頭を振る。自分達は中に入る気はないらしい。

古代とアナライザーが入ると外の扉が閉められた。そして内側の扉が開く。

Re: 傾いた床 ( No.8 )
日時: 2019/04/25 00:17
名前: 島田イスケ (ID: y0qltvGJ)

「君が古代か。よくこいつを届けてくれた」

古代を迎えた男が言った。迷路のような通路を抜けて銃を構えた者らに送られ、着いたところは大きな厨房のような部屋だった。大きな釜にオーブンに、麺を打つような台――しかし、どうやら違うだろう。それらはみな科学の実験装置であり、立ち働く者達はコックではなく白衣の科学技師らしかった。目の前に立つその男も、白地に青の宇宙海軍服の上に白衣を羽織り込んでいる。

表情は暗く、目に疲労の色が濃い。例のカプセルを見て言った。「しかし、やはり一個だけなんだな。まあわかっていたことだが……」

そこで急に、古代の視線に気づいたように口をつぐんだ。「こいつを分析にまわせ」と、傍らにいた男に押しやる。

「とにかく、ご苦労だった。疲れただろうが、今はシャワーを使わせてやるわけにもいかん。この通り床が傾いてるのでね」

言葉の意味がよくわからない。いや、よくわかるのだが、なんで床が傾いてるんだ?

「ここについてだが、質問するな。床の傾きも含めてだ。君は何も知らん方がいい」

「はい」

と応えるしかなかった。実際、古代は疲れていた。いろいろなことがあり過ぎた。しかし目の前の男を見ると、あまりに疲れきってるようすでそのまま倒れて死んでしまうのではないかと心配になるほどだった。この沈没船は一体なんだ? 何があなたをそんなに疲れさせているのだ? 聞きたい気持ちはもちろんあったが、聞いて知ったらおれもこの人みたいになってしまうのかもと思うと怖い――軍の機密がどうとかいうのより先に。

それにしても、と思うのは、この相手が白衣の下に着ているものだ。軍服は軍服でも、宇宙艦艇乗り用の船内服を男は着ていた。船外服を上に素早く着ることができて中でモコつかないという機能優先のものであり、白地の胸にセーラーカラーを図案化した識別コード付きとあって見た目はほぼスポーツウェア。水兵服が男が街で着るものじゃないのは大昔からの伝統と言えるが、コードの色が青いのは技術系の士官か兵員ということだろう。白衣で肩の記章は見えない。いずれにしても地上勤務の人間が着るものではないはずだが……。

「悪いが、君をすぐここから出すわけにいかん。数日間は留め置かれることになろう。それにおそらく、かなり質問を受けるはずだ。だがとりあえず、少し休んで……」

あなたの方こそ少しお休みを取られてはどうか、とほとんど言いかけたとき、扉を開けて部屋に入ってきた者がいた。

「真田君。君に用があって来た」

割れ鐘のような声、という言葉がある。割れた鐘がどんな音を鳴らすのか古代は聞いたことがないが、その形容がふさわしい声があるとすればまさしく、今の声がそれだった。その男の姿を見て、古代はこれだけいろいろあった一日の中でもこれが一番ではないかというほど驚いた。軍の制帽にモール付きのピーコート。白い髭で顔を覆った老人が、杖を突いて立っていたのだ。引きずってはいるものの力強い足取りで古代達の方に来る。

「艦長。なぜこちらへ」

白衣の男が言った。そう言えば名乗らなかったがサナダという名前なのか。

老人が言う。「さっきの沖縄で、この船に乗るはずだった人員が大勢死んでしまったのだ。わたしの副官も死んだ。そこで君にこの船の副長になってもらいたい」

「は? いえ、しかし……」

真田と呼ばれた男は泡食った表情になった。話の内容だけでなく、たぶんそれを聞いてはいけない古代の前で何を言うのかという顔だ。

「わたしは技術士官ですよ。軍人と言っても――」

「君以外にいないのだ! それからお前だ。ちょっと顔を見せてみろ」

古代のアゴを掴んできた。グイと前を向けさせられる。

「輸送機でガミラス三機墜としたそうだな」

「四機です」

「フン。逃げまわってるうち、向こうの方で勝手に墜ちただけだろうが。まあいい。ちょうど、そういうやつが欲しかったんだ。お前に航空隊を任せる」

「せ……」と言った。「戦闘機に乗れと?」

「航空隊の隊長になれと言っとるんだ!」

「ハア?」

「〈ゼロ〉に乗る者が死んだのでな。代わりに貴様にやってもらう」

「え、いえ、あの」

真田も言った。「艦長。わたしにはあれを調べる仕事が……」

「もうそんな時間はないな。それより、君は少し寝ろ。この船を十二時間以内に発進させる――君にはそのとき起きていてもらわなければならんのだ」

「いえ、しかし。あれをいったん船に組み込んでしまっては……」

「同じものを作る望みは絶たれる、か? 君の心労の種が消えていいではないか。寝ろ!」

言い捨てて去っていく。古代はただアッケにとられて見送った。傍らで、例のカプセルを持たされたやたらにガタイのいい男がオロオロしている。古代はそれを眺めるうち、これまでロクにものを考える余裕のなかった頭の中で何かがつながり出すのをおぼえた。

「そのカプセル……」

「知ろうとするな」真田が言った。「まだ出て行けるかもしれん」

本当にすぐに寝なけりゃ死ぬかもしれないくらいに疲れたようすのくせに、まだ古代をできることなら外に出してやろうと考えているらしい。だがどうなんだろう。航空隊の隊長だって? 〈ゼロ〉に乗る者が死んだから? 〈ゼロ〉って……。

不意に記憶に甦った光景があった。あの銀色の戦闘機。あのとき、〈がんもどき〉を救けるために自分からガミラス無人機に突っ込んでいった、あれは戦闘機〈コスモゼロ〉? 〈オスカー〉――おれのことだろう――を護れと無線で叫び続けていた、あれに乗っていたのが航空隊の隊長?

タイガー乗りのやつらは言った。沖縄基地が殺られたからだ。それもお前がつけられたか
らだ。やめろ、こいつが悪いんじゃない。ですが隊長はこいつのために――。

「沖縄基地が殺られた……おれがつけられたから?」

古代は言った。脳裏にあの巨大な炎が甦る。自分を迎え入れるため、開いていたあの入口。あの奥にはどれだけの人が――。

「それじゃ……あの基地が吹っ飛んだのは……」

「気にするな」

真田が言った。

「君のせいではない」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。